尻尾攻防。



いくら自分が悪魔だとバレていても、尻尾だけは人前に晒すなんてことは出来なかった。
尖った耳や八重歯は仕方ないとしても、これだけは別だ。
だって、悪魔の急所の一つだってことは知識として知っていたけど、
今、身をもって知ったのだから。
セックスのとき、尻尾を弄ぶと燐の啼く声が止まらなくなったのも、今思えば当然のように思う。
―――尻尾を狙うのは、反則だ。

「へっへー」
「・・・・・・何」

いつものように互いの熱を確かめあった後、
シーツにくるまっただけのだらしない格好でベッドサイドに腰掛けミネラルウォーターを飲んでいたら、
べたべたと燐が雪男の腰にしがみついた。
燐がこういう声をあげる時は、決まって何か悪戯を思いついた時で、
雪男は嫌な予感がして眉根を寄せる。
年上ぶるくせに、まったく精神年齢がついてこない兄は、
時として子供よりタチが悪いから困るのだ。

「なんつーかさ、アレだよな」
「だからなんだよ」
「ほらさぁ・・・一緒、つーか?」

そろそろと怪しい手つきが、何かを狙っている。
それに目ざとく気づいた雪男は、呆れたようにため息をついて、
今にも掴もうとしていた燐の手から逃がすように、己の尻尾を揺らした。

「チッ」
「チッ、じゃないよ!そもそも、僕の尻尾は兄さんの他人に晒しまくってるそれとは違ってデリケートなんだから!
 兄さんになんか絶対触らせるもんか」
「お、俺だってなぁ!今まで、お前に遊ばれてひどい思いしてきたんだぞ!
 触らせてくれるくらいいいじゃんか。兄弟だろ!」
「はぁ?なんでそこでその発言が出てくるかなぁ」

まぁ、今まであまり燐の気持ちも理解しようとせず、可愛らしい尻尾を思う存分弄っていたのには
少しだけ反省の気持ちはあるが、もちろんそれを素直に謝る弟ではない。
というより、今の危機は己の尻尾だ。

「っ、別に引っ張るわけじゃないからいいだろ!」
「兄さんの言葉は信用できない!」
「ってめー、兄貴に向かってその口の聞きようは―・・・、って馬鹿、やめろっ」

燐の掌が己の尻尾の付け根にたどり着いた瞬間、
カッとなった雪男は、一瞬だけ青い焔を出して威嚇し、燐が怯んだすきに、再び彼の上に乗り上げていた。
そうして、当然のように、雪男の掌は燐の尻尾を捕らえて離さない。
びくりと身体を震わせ、燐は咎めるように弟を見上げた。

「・・・ず、ずりーぞ、雪男!」
「兄さんが悪いんだよ。そもそも、尻尾っていうのはそうやって無防備に晒すもんじゃないの。
 フェレス卿だって尻尾だしたことないだろ?」
「だって・・・窮屈じゃんか」
「だから、兄さんは危機感がないっていってんの」
「ギャッ!」

ぎゅ、と少々強めに引っ張り上げて、涙目の燐に勝ち誇ったような顔をしてみせる。
もちろん、自分の尻尾は燐が手を伸ばしても届かないような位置に退避ずみだ。
本当に、燐は無防備だと思う。
日常的に、悪魔の尻尾をズボンからはみ出させて、ましてや彼の言葉より明確に彼の意思を反映してひょこひょこと動くものだから。
本当に目の毒で困るのだ。
あれでは、誘っているようなものではないか。

「うう・・・サイテー」
「これに懲りたら、二度と他人に尻尾を晒さないことだね。ついでに、僕のを狙うのも駄目」
「なんだよ。ケチ」

唇を尖らせる燐が可愛くて、思わず再び唇を吸い上げた。
収まりかけた熱が再びぶり返すのに、燐は苦しげに眉を歪ませたが、それでも再び雪男の首にしがみついてくる兄。
本当に可愛らしい。自分の兄で、もちろん自分より尊敬できる点も力もあることは分かっているのだけれど、
それでもこうして愛してやりたい想いに駆られてしまう。
少しだけ悪戯心もあって、また燐を啼かせてやりたいと思った。
するりと燐の尻尾の先を撫でて、びくりと身体を震わせる彼をそのままに、
雪男は自分の尻尾の先の己の前に喚ぶ。そうして、ゆっくりと尻尾の先を燐のそれに重ねた。

「ひッ・・・」
「んっ・・・・・・ぞくぞく、する」

もちろん、どれほど尻尾が敏感なのかは、己の掌で検証済みの雪男は、
それでも燐のそれと重ねて扱くことで、普段よりも激しい刺激が全身を走るのを感じた。
思わず、理性を手放しそうになるほどのそれを、燐はどう感じているのだろう。
唇を離すと、ますます顔を歪ませる燐の顔が目の前にあった。
・・・可愛い。
己の身体を震わせるその感覚に耐えて、雪男は更なる刺激を手中に収めているそれらをゆっくりとなで上げた。
それだけで、燐の身体は一瞬にして臨戦態勢に変わる。

「っは・・・兄、さん・・・また、勃ってるけど」
「んう―――、お、前だって・・・」

燐が咎めるように指摘したのは、雪男の雄がまだ足りないとばかりに上向いていることだった。
先ほどまで、何度イったかわからない位交わりあったのに、
燐が怯えるほど、雪男のそれは質量を増していた。
申し訳ないとは思うが、だからといって昂った己を抑え切れるものでもない。
しかも、明日は日曜日。
別に、遅い朝を迎えたって、誰も咎めるものはいないだろう。
そう考えて、雪男はふっと笑い、再び己の掌のそれをゆるゆると扱く。

「っあ、あ、あ」
「ごめん、兄さん・・・ちょっと、これ、かなり気持ちよくて」
「っやだ・・・」

いやいやと首を振るわりには、腰が浮いている。ぴくぴくと反応を示す砲身も可愛すぎて、
雪男は身体を少しずらすと、唇でその先端の泣いている箇所にくちづけた。
ぢゅ、と音を立てて吸い上げれば、それこそ燐の腕は逃げ出そうとするかのように雪男の腕にしがみつく。

「さ、いあく・・・」
「嘘。最高、の間違いじゃないの?」

口の中いっぱいに燐を頬張りながら、雪男は更に刺激を与えようと舌を使ってしごき上げた。
ただただ快感を享受するだけになってしまった燐は、閉じることのできない口元から浅い息と、そうして甘い声音を漏らしている。
空いているほうの片手で、燐は雪男の頭を引きはがそうと己の指を絡めたが、
力なく髪を引く様子にすら煽られて、燐の雄への攻撃は更に激しさを増すばかりだった。

「・・・すご・・・兄さん、どうしよう、また一戦したくなっちゃったんだけど」
「―――っ・・・う・・・鬼畜・・・!」

涙目で非難の声を浴びせる燐を尻目に、雪男はつかんでいた互いの尻尾を再度軽く引っ張ると、
シーツを噛み締め震えている左手に握らせた。どきりと身体を竦ませた燐は、けれど雪男と己の掌の中に収まったその感触に、
惚けたように吐息を漏らす。

「あ・・・雪男・・・」
「―――気持ちいい?」
「あっ・・・あ、ぁあっ・・・」
「逃げちゃ、駄目。」

ふるふると尻尾を震わせて、激しい刺激から逃れようとしたが、もう遅い。
離さない、とばかりに握り締められた手の中での刺激と、雪男の口内に包まれた温かさにどうしようもなく翻弄される。

「ぃや・・・ぃ、イく・・・っ・・・」
「いいよ、兄さん・・・このままイって」
「っや、やだ、離せ・・・!」

いくら交わっても、これだけはどうしても慣れない。
弟の手で身体を拓かされて、今まで知りもしなかった、快楽に弱い自分を思い知らされただけでも恥ずかしいのに、
ましてや彼の口の中で己の欲を吐き出すなど、いくらなんでも屈辱的すぎる。
というより、兄貴であるくせに、弟の愛撫でいとも簡単に理性を手放してしまう自分が情けなかった。
一応、これでも、弟に頼られる立派な兄を目指してはいるのだ。

「別に、そんなに意地張らなくたっていいのに」
「っ・・・プ、プライドの問題だっっ」
「今更じゃない。何度、こうして一緒に寝たと思ってるの」
「っうう・・・」

兄さんの事なんて、全部知ってる、と口の端で笑う雪男は、繋がったままの右手とは反対の掌で、
今度はきゅ、と収縮を繰り返すそこに指を宛てがった。
先ほどまで、何度も繋がった箇所。わかってはいるのだが、こうしてまた指で解される度に、身がちぎれるような羞恥を覚えるのはどうしてだろう。

「も・・・ぁあ、やめ・・・ろっ・・・!」
「欲しいくせに」
「別にっ、欲しくなんか・・・あああっ・・・!!」

必死に紡ごうとしていた声音が、高らかな嬌声へと変わる。
あまりに反抗的な燐に内心で舌打ちをした雪男が、己の指を容赦なく深々と押し込んだのだ。
先ほどまで十分に解されていたそこは、簡単に2本、3本と呑み込んでいくものだから、
雪男は上機嫌だ。ぺろりと先端を弄びながら、バラバラに動かして内部を蹂躙した。どろりと紅く染まった内部から白濁が溢れてくる様子に、
雪男は思わず舌なめずりをしてしまう。欲情を煽られ、今すぐにでも燐の中で果てたいと思っているのは雪男のほうだった。

「そう。そんなに素直じゃないなら、イかなくていいよ」
「あ、やだ・・・」

ぬぽっと音がして、一気に抜き去られた指先に、燐は思わず声をあげていた。
なんだかんだ言っていても、結局雪男のモノで満たされているだけで気持ちがいいのだ。それを自ら否定してしまい、
怯えたように燐は雪男を見上げた。
雪男は、一見、いつもと変わらない笑顔を、兄に向かってむけていた。
けれど、その目は笑っていなかった。
燐には、わかる。ずっと、ほとんど一緒に過ごしてきたのだから。

「ゆ、きお・・・?」
「兄さん、後ろ向いて、うつぶせになって」
「っ・・・」

雪男のいわんとしていることを瞬間的に理解してしまった燐は、
なかなか身体を動かすことができなかった。けれど、今だ掴まれたままの尻尾をぐいと引っ張られて、
全身が痺れたように震えてしまう。シーツの波間に顔をうずめたまま踞る燐の腰を、
雪男は自分のところまで引き寄せた。
正面から己の中心をすべて見下ろされるのも恥ずかしいが、
この格好も恥ずかしいことこの上なかった。
獣のように這いつくばって、物欲しそうにひくひくと口を開いたり閉じたりしているそこを
雪男の眼前にさらされるのだ。雪男の指先が、更にそこを割開くものだから、
燐はもう顔が挙げられない。

「ひっ・・・」
「ああ、兄さんの身体はとっても素直だ」
「や・・・あ、あ・・・っ」

雪男が拓かせたそこは、充血し腫れ上がっている。先ほどまでの行為で散々嬲られたそこは、
それでも更なる刺激を求めて何度も痙攣を繰り返していた。
昂った己を宛てがうだけで、自然に呑み込んでいく兄の内部は、いつだって感じていたい程に気持ちいい。
息も絶え絶えの様子の燐の背中にぴたりと身長を密着させて、雪男は耳元で囁いた。

「ねぇ、気持ちいいでしょ?だって、すごくナカ、熱いもの」
「っ―――・・・ンなコト、言うな・・・っ!」
「なんで?兄さんが僕を感じてる証拠でしょ?」

僕の可愛い兄さん、と愉しげに吹き込まれて、ぞくりと身体が震えた。
もう、すぐにでもイってしまいそうな程の衝撃。
きつくシーツを噛み締めて、その津波のような衝動に必死に耐えていたが、次の瞬間、
雪男の右手が、重なり合っていた互いの尻尾の先端をずり、とこすり合わせた。
指の先から足の先まで、電流で貫かれるような感覚。燐の最後の理性が、音を立てて崩れ落ちた。
仕方がなかった。
どんなに意地を張ってみても、結局、主導権を握っているのは雪男の方なのだ。

「あ、あ、ああ・・・っ!」
「ふふ・・・しょうがない兄さんだなぁ。また、汚しちゃって・・・」
「っ・・・お、お前がっ・・・!」

カリ、と尖った耳を柔らかく噛みながら楽しげに囁く声音に反抗しつつも、
燐はもはや抵抗する力はない。
ぐたりとベッドに沈む燐を抱きしめ、雪男はまだ終わりじゃないよ、と死刑宣告のような台詞を吐いたのだった。





―――だって、全部兄さんのせいだから。






end.





Update:2011/10/05/WED by BLUE

PAGE TOP