雪男大先生の憂鬱。



昔は、忙しいことが苦にならなかった。
日常的な学校の勉強も、祓魔師としての勉強も、資格を取った翌日からは、
ことあるごとに学校を抜け出す羽目になった祓魔師の任務も、
それこそ休む間もない程忙しかったのに。
それでも、目標がある、というのは素晴らしいことだ。兄を守り、兄の力になりたいという強い気持ちは、
生きがいにすらなっていた。
けれど、今ではどうだろう?
一人静かに勉強できる環境はほとんどなくなり、
家に帰れば愛しい兄があいる。となれば、若さ故の欲望は、必然的にそっちの方向に向かってしまうわけで。

「お前・・・本当、大変そうだなぁ」

自分の勉強に早々に飽きたのか、問題の兄がこちらを向いて声をかけてきた。
雪男の眉間のシワがますます激しくなる。
全く、そう思うなら静かにしていてくれよ。コッチ見てんじゃねぇ。

「・・・別に、兄さんと違って、勉強嫌いじゃないし」
「けどよー。いくらお前だって、頭パンクしないか?そんなバカみたいに厚い本とにらめっこしてたってさーぁ」

俺はつまらねーよぉ、と呻く燐に、それは兄さんだからだと言いたい。
一応祓魔師と医者の両立だって子供の頃からの夢だ。だから当然、医工騎士の称号ももらっているし、
そもそも勉強嫌いじゃ祓魔師は務まらない。

「っていうか、兄さんは人の事構ってる余裕なんてあるわけ?」
「っう―――・・・そうだけどよ・・・お前見てると、なんか大変そうでよ・・・夜だって遅くまで勉強してるじゃんか」
「仕方がないよ」
「・・・でもよー・・・」

それからしばらく、ぶつぶつと何か考えている兄を放って、雪男は再び机へと向かった。
兄が何を考えているのかは知らないが、とりあえず手元の課題を終わらせなければ、可愛い兄を押し倒すこともできない。
最近、そんな事ばかり考えて勉強している気がする。
我ながら、一生懸命勉強する理由があまりに不純なことに、雪男はひそかに苦笑した。

「わかった!!じゃあ、お兄ちゃんがお前の勉強を手伝ってやるよ!」
「はああ?!」

意味がわからない、という顔をする雪男に、燐はというと、
彼特有の自身満々な表情で腰に手を宛てている。正直、そんなことより早く課題を終わらせてしまいたいのだが。

「じゃあ・・・実技実習な!俺が患者やるから、お前は医者な。おっけー?」
「何を馬鹿な・・・」

雪男は心底呆れた。喧嘩っ早い兄の治療を、今まで誰がしてきたと思っているのだろう。
今更、と言いかけて、しかし・・・いや、待てよ、と雪男は拳を顎に宛てがった。
燐はもちろん気づいていないようだが、これって思い切り墓穴を掘っているのではないか?
惜しむらくは、せっかくのお医者さんごっこに、コスプレができないことぐらいか。

「・・・わかった」
「よーし、始め!
 ―――ゆきおー!腹痛いんですけど!!」
「・・・患者役もまともに出来ないわけ?普通先生って呼ぶもんでしょ」
「んん、じゃあ、ゆきお先生ー。マジで腹いたい!!」
「あー、はいはい、じゃあそこの診察台にあがって、服脱いで」
「え」

雪男が指指したのは、近い方の雪男のベッドだ。
一瞬だけ頬を赤らめて、けれど素直に服を脱ぎ出す燐に、
これは役得だ、と雪男は思わずニヤけたが、無論顔には出さずじっと燐を見つめる。
恥ずかしながらも、どうにか上着を脱いだ彼は、とても可愛らしかった。

「・・・で、上だけ?」
「っう、上だけで十分だろ!?」

素っ頓狂な声を上げて逃げようとする燐に、「わかってないなぁ」と至極真面目にキラリとメガネを光らせた。
立ち上がろうとする彼の肩を強く押し、ベッドに押し倒す。

「っなにすんだよ!」
「だから兄さんは・・・。腹が痛いって一概に言っても、何が原因かわからないだろ。もしかしたら、足の付け根の筋のせいかもしれないし、下腹部の内蔵のせいかもしれない。医者はそういうところを総合的に見て判断するんだ。わかる!?」
「わ、わかった!わかったよ・・・。ズボンも脱げばいいんだろ!?脱げば!!」

雪男の、珍しいことこの上ないほどの剣幕にひるんだ燐は、
しぶしぶとズボンに手をかけた。
けれど、やはり羞恥心が先行しているのか、なかなか動きが進まない。そんな燐に追い打ちをかけるように、
雪男はわざと冷たい声音で言い放った。

「手が止まってるんだけど?っていうか、そもそもやるって言い出したのは兄さんなんだからね」
「うー・・・」

燐は低い声で唸ると、今度こそ確実に顔を真っ赤にして、おそるおそるズボンを脱いだ。
それを、雪男はただただ見つめている。
子供の頃から一緒に過ごしてきたし、一緒に風呂だって平気で入ったこともあるというのに、
燐はこうして恥ずかしい素振りを見せる。
けれど、それは自分を、兄弟としてではなく、一人の男として意識している証拠だ。
雪男はパンツ一丁になった燐を、目を細めて見下ろし、今にも逃げ出そうとする彼の腕を縫い止めて身体を眺めた。

「・・・っ、」
「外傷は・・・・・・ないようですね?」
「あっ・・・たりめーだっ!!」

そもそも、ただ患者役をやっているのだから当然だ。だというのに、
雪男は丁寧に燐の身体を撫でていく。それこそ、情事の時の愛撫のように。
胸のあたりの飾りをかすめる指に、燐はひっ、と声を上げていた。

「どうしました?」
「どうしました、じゃねぇ・・・」

燐が声を上げたのを聞き逃さず、雪男は再び胸元をまさぐり始めたのだから正直辛い。
やわらかなそこは、何度も掠められると次第に固く勃ち上がり、今となっては言い逃れできない程感じ始めている。

「ああ、奥村さん、ここが辛いんですか?」
「っば、やめ・・・!」

掠めるだけしか触れていなかった敏感なそこを、雪男の手が詰んだ。
それだけで燐は、ぞくりと首筋が震える。
どんなに“患者”と“医者”を装っていても駄目なのだ。雪男の触れる感覚の一挙一動に反応を示す身体は、
もう、後戻りできない程。

「っお、まえ・・・真面目にやってないだろっ・・・!」
「僕は大真面目ですよ。―――ああ、もしかしたら、ココも悪いんじゃないですか?」
「ひぁ―――っっ!!」

雪男の悪戯な手のひらが、腹を伝って下腹部へと近づいた。
中心を隠している薄布をするりと寄け、雪男の指はナカへと侵入する。――かと思いきや、
思わせぶりに布地の上からソコをなぞり、内股の敏感な部分を何度も行き来する。
そんなことをされては、快楽に弱い燐が我慢できるはずもない。

「・・・っゆ、きお・・・っ」
「どうしました?」
「・・・っ・・・いじ、わる・・・っ」

もうすでに涙目で、懇願するように必死に手を伸ばして訴えてくる兄が愛おしい。
可愛い、と呟いて、雪男は兄の顔に唇を押し付けた。と、ぐい、とシャツの襟元を引かれ、燐の顔が真近に迫る。
燐自ら引き寄せた唇は、とても甘く、離れがたい程に柔らかだった。

「んむ・・・っ、ふ、うっ・・・」
「ふふ・・・。もう、いつもの兄さんに戻っちゃったね」
「う、うるせー、お前がっ・・・」
「うん。だって、兄さんが好きだから」

臆面もなくそう告げられて、逆に燐の方が恥ずかしい。
けれど、今度こそ遊びではない強い腕が、燐のしなやかな身体をを抱き締める。耳たぶを甘噛みし、可愛くてたまらない尖った耳を
舐めてやれば、そんなもどかしい愛撫はいらない、とばかりに腰を押し付けてくる燐の身体。
そこは、もう、はち切れんばかりに熱をもって、雪男に訴えかけてくる。

「あ、ああ・・・ゆきお、ゆきおっ・・・!」
「何?もう、欲しいの?」

燐の回答を待つ時間すら惜しくて、掌でそれを布地の上からぐりぐりと刺激を与えた。
すぐさま跳ね上がり、イきたいと訴える燐は、まるで理性のきかない子供のよう。

「そんなに欲しいなら、自分から誘ってみせてよ」
「っな・・・」

雪男の意地の悪い注文に、燐は涙目を更に潤ませた。
けれど、燐がいくら訴えても、雪男の手が動くことはない。
一糸乱れぬカットソーのシャツとズボン姿に見下ろされ、燐はいたたまれない程の羞恥に襲われたが、
快楽を求めて暴走を続ける本能には勝てなかった。
燐は、唇を噛み締めて、震える手のひらで唯一身に付けていたトランクスを脱ぎ去った。

「っや・・・見るなっ・・・」
「見ないで、どうやって兄さんを抱くの?」
「―――う、は、ああ・・・!」

ぴん、と指で燐の雄を弾いてやれば、痺れるような痛みが燐の全身を駆け抜ける。
と同時に、ぱたぱたと先走りが雪男のベッドを汚した。もう、限界なのだ。焦らされるのも、我慢しているのも。

「それで・・・どうすればいいの?」

雪男は、くすくすと堪えきれずに声を上げて笑ってしまった。
恥ずかしさのあまり、シーツの波間に蹲ってしまったようだが、それではなにをして欲しいのかわからない。
いや、もちろんわかってはいるのだが、たまには燐から求めて欲しいと思う。

「っわ、わかるだろっ・・・!」
「わからないね。欲しいなら、自分から言ってもらわないと」
「うあっ・・・」

するりと、背を剥き出しにしている燐の尻尾を、付け根の部分から撫で上げた。
しなやかなそれは、ひどく敏感で、耐え難い刺激を与えることはわかっている。素直じゃない燐を、
否応なしに黙らせる、一番効果的な方法だということも。

「っや、やだ、そこっ・・・!」
「じゃ、ちゃんと自分で準備してよ?みててあげるから」
「は、あ、ああ―――・・・っ・・・」

ひどく淡々と言葉を紡いでいるが、燐から見えない場所にいる分、雪男の視線は、好色な色を隠しもせずにその部分を見つめている。
腰周りのしなやかなラインと、引き締まった尻。その間で息づく秘所。
今すぐにでも内部の熱さを感じたいが、そこは理性でどうにか耐える。
燐が自ら、弟を受け入れるために頑張る姿がみたいのだ。
嫌だ、と震えるばかりだった燐は、しかし内部の疼くような欲に負け、そろそろと己の手を下肢の中心に伸ばす。
おそらく、中途半端に立ち上がっている己自身が、イきたくてたまらないのだろう。
雪男を受け入れる場所でなく、自らの快感を優先しようとする燐に、
雪男は彼の手をパシンと引っぱたいた。

「痛っ―――!」
「そっちじゃないでしょ」

こっち、と雪男は燐の腕を引っつかみ、彼の指を尻の割れ目の中心部に宛てがった。
もちろん燐は抵抗しようと力を込めたが、存外に強い力で引き戻され、無理矢理その部分に突き入れようとするものだから、
燐はもはや涙目だ。

「っ・・・イかせてくれたって、いいだろっ・・・」
「兄さんがちゃんと準備したらね」

それまで、イっちゃ駄目だから、と、燐の雄の根元をきつく掴まれて、燐は悲鳴を上げた。
ただでさえ敏感になっているそこに、更なる刺激を与えられれば、
もはや燐は逆らえない。

「・・・っ・・・鬼・・・!」

燐は目を閉じると、ついに、つぷりと己の内部に指を挿入した。
初めてではない、祓魔師の任務で、雪男が夜の12時を回っても帰ってこなかった夜、
寂しさのあまり一人で慰めたこともある。
けれど、雪男の目の前でなんて初めてだ。
痛いほどに雪男の視線を感じながら、燐は己の狭いそこを解していった。
自分の指だというのに、それすら貪欲に求めて熱く収縮を繰り返すものだから、恥ずかしさで身がちぎれそうな程だ。
それでも、雪男に抱かれて、早く雪男を感じたい気持ちのほうが勝っていた。
自ら、2本、3本と指を増やしていく燐に、雪男はごくりと喉を鳴らした。

「・・・兄さんのナカ、充血して、真っ赤になってる」
「っ、言うな・・・!」

次の瞬間、燐の指が内部に入っている状態のまま、更なる圧迫感が燐を襲った。
雪男の指までもが、狭いそこを押し広げ、そうして、ついに望んでいたものが宛てがわれる。
燐は息を止めた、全身の細胞すべてで、雪男の熱を感じたくて。

「に、ぃ、さ・・・っ」
「あ、ああ―――・・・雪、男っ・・・!」

殊更にゆっくりと、雪男は腰を進めていった。指で拡げたそこは、それでも処女のようにキツい。
けれど、熱くてたまらない内部は、雪男の存在を歓迎するように、きつく絡みついて離れないのだ。雪男は浅く息を吐いて呼吸を整えると、
一気に奥へ、ずぷずぷと侵入を果たしていった。燐には酷な話かもしれないが、
燐の指は内部に収まったままだから、更に普段よりキツいだろう。
燐はもはや、息すら出来ないほどに中の刺激に溺れている。

「兄さ、ん・・・感じる?中、すごく熱い・・・」
「あ、あ、やだ、やっ・・・」

ふるふると首を振って、しかし唇から溢れる声音は言葉にならない。
上気した頬に唇を押し当てて、雪男は更に燐の尻たぶを掴みあげると、ぐちゅぐちゅと音を立てて内部を蹂躙する。
いつものように、燐の一番感じる部分を目掛けてゴリゴリと擦ってやれば、
燐はもはや掠れた声音で嬌声をあげ続けた。
ようやく雪男が彼の前を解放すると、途端、どろりと溢れる燐の精。

「あ、あ、あああっ・・・」
「まったく、堪え性ないんだから」
「・・・っお、前が・・・」

ぐたりと身体の力が抜ける燐の腰を支え、雪男は肩を竦めて己の快楽に集中した。
散々焦らされた末にイかされた身体は、ひどく敏感になり、燐は苦しげに行為の中断を訴えていたが、
もちろん、雪男だって途中下車では終われない。
それどころか、更なる快楽を与えようと、乱暴に燐の雄を擦りあげれば、すぐさま再び勃ちあがるそれ。
ぐちゅぐちゅと、精に濡れた手のひらから漏れる音が、脳すら犯していく。

「ゆき・・・ゆきおっ・・・くるしっ・・・」
「でも、やめて欲しくないでしょ?」

ココに、熱いものが欲しいんじゃないの、と更に激しく腰を打ち付ければ、
やだ、と首を振りながらも、ぎゅ、とシーツを噛み締めてナカの激しい刺激に健気に耐える燐。
雪男も、そろそろ限界だ。
燐と一緒にいこうと、腰のリズムに合わせるように掌を動かせば、
互いの絶頂はもうすぐそこで。

「兄さん・・・イくよ、っ」
「あ、あ、雪男、来て・・・あああっ・・・!」

どくどくと、腰の奥に熱が叩きつけられるのを、燐は恍惚とした表情で受け入れていた。
なんという充足感だろう。雪男とこうしている時が、一番幸せだと、この時の燐は確かにそう思う。
ゆきお、と力無げに名を呼んで、ねだるように顔を向ければ、
雪男はくすりと笑って甘いキスをくれる。
そのまま、心地よくなって、全身を襲う快楽の余韻と共に目を閉じれば、
すぐに燐は夢の中。
雪男の熱に抱かれていることが、この上ない至福の時だった。
















・・・気が付けば、窓からは日が差していた。
―――朝だ。そういえば、今日は何曜日だっけ。確か、今日は金曜日で、今週の週末は特進クラスの課題発表の日で・・・

「っっやばい!!!!」

雪男は焦ったようにサイドボードの時計を見やった。
7時半。・・・思いっきり、そろそろ身支度をして学校に行く準備をしなければ、という時間だ。
慌てて放っておいたメガネをカチャカチャとかけ直して、隣の燐など放ってベッドから飛び起きれば、
机にはやりかけの課題が広けられたまま。

「・・・・・・これだから兄さんは・・・・・・」

うんざりと額に手を当ててみても、あとの祭り。
素っ裸のまま、そんな格好をしてみても全然様にならないのだが、
雪男は呆然としたように机を見下ろしている。
そこへ、能天気な恋人の声が聞こえてきた。

「あー、ゆきおー・・・今日もいい朝だなぁ・・・むにゃ」
「どこが!?最っっ悪の朝だよ!!!」

雪男は頭を抱えて蹲ってしまった。
どんなに忙しくとも、年相応の勉学は怠るつもりはないし、ましてや今日の発表のために
忙しい中、どれほど時間を割いて準備してきたことか!
だというのに、提出しなければならないレポートはほとんど白紙、これをどうして提出できようか。
絶対に出来ない。
かといって、中学の時のように仮病を使って学校を休むわけにもいかない。
これでも一応、優等生で通っているのだ!
できることなら、誰か時間を戻して欲しい。そうだ、フェレス卿あたりなんか、
その悪魔の力で時間くらいちょいちょいと戻せないものか・・・。

「・・・これも全部、兄さんのせいだ」

恨めしそうに燐を見やると、
出来の悪い兄は、再び夢の中へ舞い戻ったのか、すぅすぅと眠りについている。
額に青筋を浮かべ、ひくひくと震える雪男は、
ずかずかと燐の元に戻り、大音量で兄をたたき起こすべく、大量の空気を吸い込んだのだった。






end.





Update:2011/10/10/MON by BLUE

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