悲愴



「レイ・ペンバーさん。・・・振り向いたら、殺します」
「・・・っな、」

突然背後からかけられた声音に、レイは硬直した。
山手線、新宿駅の構内。思わず立ち止まった自分に、けれど混雑したこの場所では誰も気にしていない。
殺します―――。その硬質な声は、ナイフや銃を突きつけられているわけではないにも関わらず、
背筋を凍らせる程。這い登る恐怖感に、レイはごくりと唾を呑み込んだ。

「キラです。今から貴方に、やってもらいたいことがあります」
「やって、もらいたい、ことだと・・?」

滲み出る脂汗。何だ、何をさせようというのか、キラは―――。
だが、自分の命、そして更には愛する者までを人質に取られたレイに、
断る術はなかった。渡された茶封筒に入っていたトランシーバーを身につけると、
キラはようやくレイの傍から離れる。

『これから、最後尾の車両に乗って頂きます。指示に逆らおうとはしないでください。その場合は、まず貴方の愛する者を1人、殺します』
「わかった・・・。何をすればいいんだ」

震えが、止まらなかった。
頭の中では、ぐるぐると逃げ道を探していた。
自分の命と、そして彼女の命。自分はまだいい。だが、このままでは―――。

「まずは、電車に乗ってください。続きはそれからにしましょう・・・」
「くっ・・・」

騒然としていたホームが、更に騒がしくなる。
16:56発、内回りの電車。キラの視線を感じながらも、レイは仕方なく電車に乗る。
ひどい、混雑ぶりだった。足を踏み入れる場もない程に。

『乗りましたね』
「あ、ああ。し、しかし、こんな混みようで、一体何をしろと・・・っ!」

突然、己の腕を掴んできた男に、レイは驚き、そして睨み付けた。
相手は、自分の身体の一回りも二回りもあるような屈強な男。そこで初めて、レイは気づいた。
自分の周りを囲う、すべての男達が、自分を見て卑しそうに笑っていることを。

「っな、何を・・・!」

背後の男が、肩を掴んだ。思わず逃れようとしたレイの腕を、
両側にいた男たちが押さえ込む。
叫び声を上げようとして、口を塞がれる。
次の瞬間、レイは感じたこともない恐怖を覚えた。

「んん―――っ・・・!!」
『貴方が逃げ出すのではないかと思ったので、必要な措置を取らせて頂きました。大丈夫ですよ。一般人にはまだ誰にも気づかれていませんから』

耳元で聞こえてくるキラの声に、しかしレイはそれどころではない。
着ていた衣服のボタン1つ1つを、男の手に外させられる。
目の前では、卑しく歪んだ顔の男が、己のバックルを外し、下肢を晒そうとしているではないか。
こんな屈辱的な出来事は初めてで、更に公共の場であるという事実に、
レイは信じられない思いで己の身に起こっている状況を見つめていた。
隙間ひとつない、混み合った車内。周囲の男たちに囲われ、今まさにレイプされようとしている現実を。

『一般人に晒されたくなかったら、大人しく私の指示にしたがってください。―――少しでも指示以外の行動を取れば、貴方の周りにいる凶暴な性犯罪者達に貴方を襲わせた上で、殺します』
「・・・っ・・・、な、何をさせるつもりだ・・・」

晒された胸や腹、そうして下肢までを見下ろして、レイは諦めたように瞳を閉じる。
持っていた茶封筒の中から、何やら穴の開いている厚紙を目の前に突きつけられ、レイは戸惑った。
右手だけを解放され、ペンを握らされる。

「日本に入ったFBI、全員の名前を、顔を思い出しながら穴に書いて下さい」
「なっ・・・」

顔と名前。それは、キラの殺しに必要な2つの要素。
ペンを握らされたレイの右手が、震えた。自分を殺しの共犯にさせようとしているのは明白だ。

「・・・っ・・・」
「どうしました?早く書いて下さい」
「・・・む、無理だ・・・」

仲間を、売り渡せるはずがない。
それ以前に、日本に入ったFBI、全員の名前と顔など覚えているわけもなかった。
だが、

「そうですか・・・それは残念です」
「っあ・・・!!!」

言い訳など、キラには通用しない。
それが、どんなに真っ当なものであっても、伝わることはなかった。
武骨な男の手のひらが、乱暴に自分の雄を握り込んできた。
苦痛に、思わずレイの声が上がる。
だが、キラに操られた男たちの手は、止まらない。
汗ばむ肌を、何本もの男の手が這い回る。
胸板を、まるで女の胸を揉むように強く捕まれて、レイは苦しげに眉根を寄せた。
抵抗しようにも、声は出せない。手足は男共に自由を奪われたまま。
剥き出しになった尻を強く揉みしだかれ、
レイは耐えられない、と首を振った。

「っやめろ・・・!キラ・・・!!」
『貴方は、私に逆らえないといったはず。私の意に従えない以上、貴方を自由にはできません』
「っ・・・ぁ、ん・・・!!」

ガクリ、と膝を床に折らされ、髪を掴まれる。
髪を引き千切るような勢いで頭を上げさせられたレイは、
目の前に信じられないものを見た。
いくつもの、男根―――。自分を囲む男共が、獲物を食らうために、我先にと迫ってくる。
思わず顔を背けた。だが、それくらいでこの責めから逃れられるはずもない。

「んう―――っ・・・!」

物凄い力で顎を押さえられ、次の瞬間男のそれが入り込む。
容赦なく突き立てられるそれは、レイの喉の奥までを犯しにかかる。
喉に流し込まれる男の先走りに、
レイは吐き気すら覚えた。苦しくて、辛い。
だが、それだけでは終わらない。迫り来る男根が、
淫らな様相を呈しながらレイの顔に押し付けられる。
レイの男らしく凛々しかった顔立ちは、
男たちに穢され、みるみるうちに醜く歪んでしまった。
生臭いニオイが、鼻につく。

「う・・・ぐっ・・・!」

頭上で、男が小さく呻いた。それと同時に、口内に放たれるドロリとした液体。
吐き出そうとしたそれを、しかし男は許さなかった。
頬を、乱暴に掴まれれば、もはやそれを嚥下するほかない。

「・・・っは、ぁ・・・はぁっ・・・」

口の端から、飲み下し切れなかった精液が、溢れ出していた。
ひどい、屈辱だった。もはや、まともな思考もできないくらいに。

『・・・どうですか、レイ・ペンバー。書く気になりましたか』
「・・・っ・・・、だから、私は、知らない・・・!」
『そうですか。では・・・』
「っ、やめ・・・!!」

再び無理矢理立たせられ、襲い来る手のひら。その中の1人が、己の尻を嬲り始めた。
双丘を、割り裂こうというほどに強く掴まれる。
そうして、その奥の窄みに、指が触れた。太いソレが、乱暴に突き立てられる。
想像もできなかった現実に、レイは、声にならない悲鳴を上げた。

「―――っぁ・・・!!痛っ・・・!」
『では、レイ・ペンバーさん。貴方の直接の上司・・・日本に入ったFBI全員の名と顔を知る者の名前を、一番上に書いて下さい』
「っあ・・・!!」

ぐい、と腕を引っ張られ、再び紙を目の前に突きつけられる。
苦痛と屈辱に苛まされながらも、
逃れたい一心からレイは震える手で名前を書いた。
すぐに、パソコンが起動される。

「・・・っく、あ・・・、んっ・・・!」
『よくできました。―――それでは、最後のお願いです。―――メールに添付されたファイルをよく確認しながら、その全ての名前を穴の中に書き込んでください』
「・・・っ・・・」

少し、男の手が緩んだことで、レイはようやく息を整える。
だが、既に理性はない。パソコンに表示された仲間達の名を、偽装されたデスノートに書いていく。
こんなことで、仲間達が殺されないことを切に願った。だが、もう運命は決まったようなもの。

「・・・っ・・・」
「ありがとうございます。レイ・ペンバー。お礼に、いいモノをあげましょう」
「っな・・・あ、ああっ・・・!!」

今まで耳元で、トランシーバー越しに聞こえていたはずの声音が、
すぐ後ろで響いた。
と同時に、下肢に受ける、激しい衝撃。
引き裂かれるようだった。まともに慣らしもしていない、しかも初めての身体。
簡単に血が溢れ出す。
あまりの激痛に、思わず背後を見ようとしたレイは、
しかし、ぐっ、と頭を掴まれ、下に向けさせられた。尻を突き出し、前屈みになった、そんな淫らな格好。

「・・・っぐ・・・ぁ、・・・っん・・・!!」

だが、苦痛はそれだけでは収まらない。
まともに息もできず、苦しげに喘ぐ口元に、再び突き立てられる男の欲望。
そうして、こちらも無理矢理に扱かれる、レイ自身。
身体を支えていることもままならずに、膝がガクガクと揺れる。
背後の男がそれに気づいて、
ふっと笑った。床に、跪かされる。腰を抱える手の動きが、一層乱暴さを増した。
ぐちゅぐちゅと、鳴り響く淫らな音。なぜ、気づかない?!
この、公共の場での淫行に、だが、誰もが気づかないかのようにそっぽを向いている。
怒涛のような責めに、レイはもはや耐えられなかった。
湧き起こるのは、死を前にした故の衝動。ぞくりと這い上がったモノが、溢れる。

「っ―――ああっ・・・!!」

視界が、真っ白に染まった。
男なら、誰もが知る解放の感覚だ。
同時に下肢の奥にどろりとした熱を覚えるが、
それでも、襲い来る強烈な快楽の中に、レイは逃げ込もうとした。
だが―――・・・

「・・・うっ・・・!!」

心臓が。
どくり、と脈を打った気がした。
全身に広がった快楽が、一瞬にして苦痛に変わる。
男に犯されながら、レイはのたうった。
息が出来なかった。
手足の痙攣が、止まらない。
死―――。
レイの頭に、その言葉が浮かんだのは、ほんの一瞬だった。

「さようなら、レイ・ペンバー」

霞む視界の中、ようやく認めた男の顔。
被っていたフードから顔を見せたその男は、つい先日出会った、あの、青年。

・・・夜神、月・・・

呟いた台詞は、しかし声音にはならなかった。
縋るように伸ばした手が、がくりと床に落ちる。
訪れたのは、永遠の闇。
口の端だけ歪ませて、
キラはその場を立ち去ったのだった。





end.




Update:2006/11/03/FRI by BLUE

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