キャンパス。



死を恐れたことはない。
そもそも、そうでなくては凶悪犯を相手に単独での捜査は出来なかったし、
自分を信じ命を懸けて捜査に当たってくれたFBIやその他の捜査協力者たちに顔向けできない。
だが―――。
本当は、怖かったのかもしれない。
誰にも正体を明かさず、Lとして。全て、コンピュータ越しで指示を与えて。
単独行動をしても、自ら犯罪者と接触することなどなかった過去。
名を隠し、姿を隠し、
死を恐れないといいながら一番安全な場所で何人もの尊い命を犠牲にしてきたのは、
他ならぬ自分だ。
それを考えると、竜崎はいつも憂鬱な気分になる。

「・・・何を、考えてる?」

ふと我に返ると、目の前には己の顔を覗き込む男の姿。
途端、どくり、と繋がった箇所が熱を伝えてきた。そう、今自分は、この男に抱かれている。
なんでもないです、とだけ口にして、瞳を閉じる。乱暴に奥を貫かれ、
竜崎は顔を顰めた。快感よりも、今は苦しさが辛い。抗議するように男を睨みつけると、

「お前が上の空なのが悪い」
「・・・っ・・・」

逆に投げ掛けられる鋭い瞳。まるで刺し殺されるように冷たい―――。
竜崎は諦めたように目を伏せ、そうして機嫌を取るように腕を伸ばした。
首に回し、しがみ付く。全身を襲う衝撃に、
身体がバラバラになりそうな感覚を竜崎は覚える。

何か、おかしかった。
あの、ヨツバグループに加担していたキラ―火口を捕らえ、
そして初めて死神の存在、というものを知った、あの日から。

ふと、目に入る己の右手。ついこの間まで拘束具をつけていたそれだが、今は、ない。
それは、己が疑っていた夜神月がキラではない、ということが完全に立証されたためである。
未だ竜崎は納得していなかったが―――。
それでも、今の竜崎にはそれを否定する術を持たなかった。
どうしようもなかった。
目の前の事実からは逃れられないのだ。
悪あがきで、その事実を嘘だと疑うことも出来た。だが、立証さえされてしまえば、もはや終わりだ。
夜神月は、キラではないのだと。
嫌では認めなければならない日が来るのかもしれない。
竜崎には、それが不安でならなかった。
竜崎は、月を見上げた。

「・・・どうして、今も私を抱くんですか?」

快楽に浮かされた意識の中、それでも理性を振り絞って紡いだ言葉。
月は、動じることはなかった。ただ、繋げていた箇所から己を一旦引き抜くと、
身を屈ませ竜崎の下肢に顔を埋め、直接彼自身を口内に招き入れた。
半端に高められた熱のせいで、身体がひどく戦慄いてしまう。
思考が、吹き飛んでしまいそうな程に。

「・・・あなたは、もう自由だ。・・・私から、解放されたんです。自宅にも戻れるし、弥とも気兼ねなく情を深められるはず。何故・・・」

今になっても、自分に行為を求めるのか、と。
だが、竜崎が必死に紡いだその言葉は、しかし月には鼻で笑われるばかりで。
まともな返答も得られないまま、強い刺激に身が竦む。
根元に絡む指先、先端から筋を辿って舐め上げられる舌、生暖かい口内。
己を酔わせる全てのものから逃れられずにいる竜崎は、
更に強まる月の愛撫に耐えることが出来ず、そのまま彼の口内へと吐き出してしまっていた。
溢れる情を呑み込み、なおも力を失ったそれを擦り続ける月に、
竜崎の目元が朱く染まる。
見上げてくる視線がひどく情欲に濡れていて、
竜崎は咄嗟に顔を逸らした。

「・・・っ・・・、はぁ、あっ・・・、ライ・・・」
「つまらない事を考えてるんだな、竜崎」

そうして再び、責め苦のように訪れる快感。月の両手が、竜崎の膝裏を押して
胸に付く程にまで折り曲げられる。
しなやかな身体は難なくその体勢を受け入れたが、
月に向かってM字に脚を開く格好に、竜崎が羞恥を感じないはずがない。
竜崎は唇を噛むと、既に汗や精で濡れている白いシーツを指で掴み、キツく握り締めた。
見られている―――・・・それを自覚するのは、
繋がる苦痛より何より耐え難い。

「可愛いよ、竜崎」

だが、そんな竜崎をこそ、月は美しいと哂った。普段の淡々とした表情よりもよほど魅力的だと。
それは、男である竜崎にとって嬉しいはずもない言葉ではあったが、
何故か彼に言われると胸が高鳴る自分を竜崎は愚かだと思った。

「・・・っ―――、あっ・・・」

啄ばむように落とされていたキスが、奥へと下りる。
先ほどまで貫かれていたそこは、既に柔軟な様子で収縮を見せていて、
指で触れてやればすぐにでも呑み込もうとしているようだ。
月は笑った。竜崎はただ耐えるしかなかった。
天井の、明々としたライトが、忌々しかった。闇の中ならば、少しでも羞恥から逃れられたのに、と。
指を差し込まれ、探るように内部を擦られた後、
期待した通りそこに触れてくる唇。キスの後、侵入してくる濡れた感触。
生き物のようなそれに、思わず竜崎の腰が引けるが、
それを月は許さずに、両腕でがしりと両脚を掴み、更なる奥へと己の舌を忍び込ませ、
竜崎の口元から悲鳴のように洩れる声音を楽しんでいるのだった。

いつもよりひどく執拗なそれは、先ほどの仕置きのつもりなのだろうか?
一見優しいようでいて、ひどく残酷な、甘い地獄。
夜を徹して行われた行為のせいでもはや体力はなく、
それでも解放されることなく次の荒波を立てるように犯される身体。
それは、恐怖に近かった。
己の死への恐れと紙一重の恐怖感が、己を支配し、そして乱れさせる。
ゆっくりと顔を上げた月の腕が己の肩を掴む。
竜崎は思わず脅えた。奇妙な緊張感が、既に慣れ過ぎたはずの2人の間を通り抜ける。

「・・・怖いのか?」
「っ・・・そんな、ことっ・・・」

ない、と言い掛けて、塞がれる唇。
くすり、と笑われる気配が、ますます竜崎の羞恥心を強くした。
何か―――どこか、おかしい。
この男は、これほど甘く、ねっとりとしたセックスをする男だったか?
手首を強く掴まれ、身動きひとつできない状態で己を拘束し、それを見下ろして口の端だけで笑う、
そんな支配的な顔をする男だったか?
だが、既に喰らい尽くされた理性は思考する術を持たず、
ぞくりと這い上がる恐怖感と、それ以上に襲い来る快楽の波に竜崎は溺れていく。
唇を離すと、含み切れない唾液が糸を引く。
銀色に光るそれに月は笑い、
そうして己が組み敷く男の身体をぐるりとひっくり返すと、
そのまま再び昂ぶる雄を彼の秘孔に宛がった。抵抗をよそに、ずぷりと銜え込まされる灼熱の塊。
当然、竜崎は下肢を襲う苦痛に耐えるようにシーツを掴み、身を縮こませた。
月は、構わず奥まで突き入れた。
枕に顔を埋めた竜崎から、噛み殺したような悲鳴。
それでも、負けず嫌いのこの青年は弱音を吐くことも許しを請うこともなく、
ただただ苦痛が過ぎ去り、快楽が訪れるのを待ち続けている。
月は嗤った。
竜崎に顔を見られていないのを言いことに、口の端を持ち上げ、ひどく残酷に。
誰にも見せない表情とは、このことだ。

キラとしての記憶を一切失い、彼と共にキラを追った。
8月、9月、10月。たった3ヶ月間のことだったが、それで十分だった。
自分は竜崎を心から愛したし、竜崎も満更でもなかったろう。
彼自ら鎖を掛け、離れることを制限し。
すべての生活において、共にあった竜崎。それは、彼の本意ではなかったのかもしれないが、
確かに自分たちの関係を深めさせた。離れがたいと、思えるほどに。

―――楽しかったよ、竜崎。

「・・・っあ、んっ・・・!、・・っく・・・」
「もっと声、出して」

背後から、顎を掴んで。
唇を噛んで耐えている竜崎の口を無理矢理人差し指で割ってやれば、
洩れる声音。下肢にまで響くようなそれに、
月の雄が熱を増す。
首筋を辿り、痕をつける。竜崎が嫌がるのはいつものことだ。ばたつく身体を背後から抱き締める。
内出血が薔薇色に染まる肌をさらに染め上げた。
綺麗だと思った。本当に。

残念だよ、竜崎。
もし君がLじゃなければ、僕は君を殺さなくてすんだだろう。
これから君が僕の側に立ってくれるというのなら、喜んで僕は君の存在を受け入れただろう。
でも、やっぱり僕は、君がLでよかったと思ってる。
わかってる?
僕がキラで、君がLで。そうでなければ、きっと出会わなかったよね、僕ら。
君がLとして、ずっと僕を追い続けてくれたおかげだ。
おかげで僕は、
至上最高の相手に恋をして、至福の時を共に感じられる。疑われても構わないんだ。
君が僕を意識して、僕の目の前にいる限りはね。
でも―――、やっぱり、君はLだから。
ごめんね。
僕が神になるために、君を犠牲にさせてもらうよ。
そう、今夜は最後の晩餐。
忘れないよ、竜崎。
君は一番美しくて、そして可愛かった。
僕を刺すように見つめる瞳も、猫のような仕草も、全部。すべて。
大好きだったよ。
今までありがとう。そして、・・・さようなら。

「っく・・・あ、ああっ・・・や・・・!!!!」
「竜崎・・・」

深く奥を侵し、そして震える彼自身にも慰めるように触れてやる。
先走りでべたべたのそれを筋に沿って扱いてやり、親指で先端を割るように。
仰け反った竜崎は、涙を溜めた瞳を薄っすらと開けて、
すぐ近くにいる月を見上げた。
濁った瞳には、もうほとんど何も映っていないだろうに、それでも、
竜崎は見やる。
すぐ近くの濡れた唇に、キス。
互いの熱は、もはや限界。熱くなる身体を、溶け合うほどに抱き締め合って。
次の瞬間、脳が灼けるような衝撃と共に、
全身を駆け巡る快感。
飛び散る精液と、痺れるような激しい刺激。
ひときわ大きな声をあげた竜崎は、その後ぐったりと倒れ込み、浅い息を吐き続けた。
そして、月は。
倒れ込んだ青年を今だ腕に抱き、
そうして、ベッドの背もたれに身をあずけ、そして窓を見やる。
美しい、夜景だった。
最後の晩餐に相応しい、静かな夜だった。










「・・・死ぬのは、怖い?」
「怖かったら、貴方に触れてませんよ・・・」
「はは。それもそうだね」

絡み合う視線。
探るような竜崎の視線に、月は笑った。
ごめんね。でも、もう遅い。

「お休み、竜崎」

汗に濡れた額に、おやすみのキス。

おやすみ、竜崎。
永遠にね。





end.




[月×Lさんに8のお題] by 真月(まき) 様
Update:2006/06/22/THU by BLUE

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