BLACK OUT



琉河早樹―――竜崎に呼ばれ、月は彼の待つ部屋へと足を踏み入れた。
菓子が散乱しているのも相変わらずだ。広い室内に、高級なアンティーク、そして応接セット。
だがここは、ただのスィートルームではない。
竜崎のプライベートルームであると同時に、キラ捜査本部の最拠点。
そんな部屋の中央に、竜崎は"居"た。
テーブルの上に置かれたいくつものモニターとコンピュータ。目の前に座る、黒髪の青年。

「来たぞ、竜崎」

外はまだ肌寒く、月は勝手に上着をハンガーにかける。
反応がない竜崎に、また何かのデータに熱中しているのかと月が覗き込めば―――、

「・・・・・・」

竜崎は眠っていた。それも、相変わらずのあの格好で。

「・・・人を呼びつけておいて、勝手なヤツ・・・」

月はひどく落胆した。
大事な話がある、というから、大学帰り、急いで本部のホテルへ駆けつけたというのに。
竜崎の態度に呆れた月は、起こそうと彼の居るソファーへと近づき、
そして肩を叩こうとした。が―――

「・・・―――――」

月の目に映る、竜崎のPCモニタ。
そこには、竜崎でなくとも眠くなりそうな膨大な量のデータが表示されている。
そう、ここは捜査本部の中でも中枢を成す場所だ。3台のモニタと、そしてコンピュータ。
ならば、この竜崎のパソコンを調べることが出来れば、
彼ら―――Lを中心とした捜査の現状を知ることができるのではないか―――?
月はごくりと喉を鳴らした。
もちろん、こんなところで、彼のパソコンを弄ろうなど、浅はか過ぎる。
眠っているとはいえ、いつ目覚めるかもわからない彼の目の前で、彼の所有物に触れられるわけがない。
だが、そう理性ではわかっているのに、体は勝手に動いてしまう。
眠る彼の横の特等席に座ってみる。気配で目が覚めてもいいだろうに、
静かに寝息を立てて夢の世界にいる竜崎。
手を伸ばす。マウスにさわり、少しだけ動かしてみる。
自動開始していたスクリーンセーバーが消え、再び表示されるデータ。顔を近づけてそれを読もうとして、

「・・・っ・・・!」

いきなり腕に感じた圧迫感に、月は固まった。
見つかった―――。月の全身の血液が、一瞬にして凍りつくような感覚。
この状況をどう切り抜けようか、ぐるぐると思考を巡らせる月に、
しかし彼が恐れた最悪の状況が訪れることはなかった。

静かだった。
先ほどとなんら変わりない、まるで深夜のような静寂。
カーテンをすべて締め切り、ダウンライトしかつけていない状態では、そう錯覚してしまうのも当然だ。
月は今だ腕に感じる重さの正体を知ろうと、竜崎のほうを見た。

「・・・・・・」

乱暴に、退けることができなかった。
腕に在るのは、眠ったままの竜崎の頭。偶然傾いてしまった身体が、
月の肩と腕を支えに辛うじて体勢を保っている状態。
月は安堵の篭ったため息をついた。
彼を起こさぬよう、ゆっくりと彼の身を起こす。そのままでは不安定だろう、とソファーの背に身を預けさせて―――。

「・・・―――へぇ」

仰け反らせた拍子に、大きく開かれた首元から浮き出る鎖骨を目にした月は、
内心で口笛を吹いてしまった。
大学で見た時は、気付かなかった。ただただおかしな男だと、
そしてLと名乗られ警戒心が先に立っていたことも大きな要因のひとつ。
だが、今は違う。
裏があるにせよ、自分は彼の指揮する捜査本部にまで関わるようになった。
加えて、建前にせよ、自分は竜崎―――琉河早樹の友人。
更に、今は。
これほどまで無防備に、彼は己に自らを預けてくれているではないか。

「・・・竜崎。なかなかお前のこんな姿、見られないだろうな?」

反応のない男を覗き込み、
月は笑った。これはなかなか、面白いかもしれない。
それに、この男は前に、こう言ったではないか。「月くんは初めての友達です」と。
決して信じているわけではない。あの白々しさで、本心と思える方がおかしい。
だが、彼は口にしてしまった。嘘であれ、出任せであれ、
口にした以上、それは己自身を縛ることに繋がる。
ならば―――。

「・・・―――っ・・・」

唇を重ねてみると、予想通り蜂蜜の様な甘さが口内に広がった。
それと同時に、湧き起こる優越感。
今まで一度も世間に顔を出してこなかったL。
無論、Lであることを隠し、外界に出てきたことがないとは月も思わない。
だが、自分は彼を"L"だと知っている。
なおかつ、ここまで触れ合える位置に居るのだ。
暗い欲望が鎌首をもたげるのを、月は感じた。

「・・・っ・・・はっ・・・、何・・・!?」

さすがの竜崎も目を覚ましたらしい。
月の乗り上げる体勢に驚き、唇を塞がれているこの状況に驚き、
竜崎は一瞬にして覚醒した。
こんな事に慣れていないからか、それとも不意打ちが許せなかったのか、
強く腕で押し戻してくる。そんな抵抗も、今の月には欲を煽るものでしかない。
どれほど一般とかけ離れた、おかしな所のある天才でも、
こんな時は至って普通の女のような反応を見せる竜崎がどこか可笑しかった。
月は唇を離してやった。
強姦したいわけじゃない。あくまで同意に持っていくのが、
夜神月流の流儀。

「・・・目が、覚めた?」
「・・・・・・、・・・・・・」

竜崎のキツい視線に、けれど月は何食わぬ顔でそう告げた。
だが、竜崎はそんな月に恐怖を覚えたのか、ソファーの端に後辞さり、そして再び月を睨みつける。
手の甲で口元をぬぐえば、ひどく濡れた甘い唇。

「・・・呆れましたね」
「何が?」
「こんな趣味があったんですか」

明らかな侮蔑の瞳。だが、逆に月は笑みを浮かべる。
そうではなくとは面白くない。

「どうかな。とりあえず僕は、君に興味があった。君をよく知りたいと思っていたその矢先に、無防備に寝こけている君に出会った。欲情しても当然、のシチュエーションじゃないか?」

努めて真摯に、竜崎の瞳を見つめる。
だが、彼も負けてはいない。くだらない、と首を振る竜崎に、
月は彼の近くに身を寄せた。指を絡める。竜崎は脅えたような瞳を必死に隠そうとする。
月は喉の奥で笑った。

「竜崎。今の君の気持ちを、僕が推理してあげようか」
「・・・私の今の望みは、貴方が今すぐこの部屋から出て行ってくれることです」
「違うね」

トンッと、竜崎の胸の辺りを人差し指で叩く。
その表情はひどく自信ありげで、竜崎は不審げに月を見上げた。
背後に手をやり、いつでも人を呼べるように構えて。

「君は今、キラだと疑っている僕に迫られて脅えている。だがその一方で、この状況に悦んでいる自分を拭い去れない」
「なっ・・・何を、根拠に」

冷静に見せているが、明らかに動揺の走る揺らいだ瞳。
―――ビンゴだ。
月はますます笑みを深くする。
竜崎は本気で人を呼ぼうかと月に見えない位置で手を伸ばす。
ソファーの裏側にある緊急アラームのボタンに指先が触れる。力を込めようとした瞬間、

「―――っ」
「逃げるなよ、竜崎。己の本当の心から―――」

ぐっ、と掴まれる左手首。
あと一歩のところで己の逃げ道を塞がれ、いよいよ竜崎は本気で月を睨みつけた。
普段のどこか呆けたような瞳ではない、
見たこともない、強い意思を秘めた漆黒の色の瞳。

「これ以上、私を侮辱する気なら、容赦しませんよ」
「侮辱?心外だな。そういう君のほうこそ、僕の本気をただ交わしているだけじゃないか」

それがどんなに失礼なことか、わかるか?
そう、耳元で囁かれ、竜崎はあまりの怒りに我を忘れた。
組み敷かれている格好のまま、足を蹴り上げる。
月を渾身の力で突き飛ばそうとして、けれど思いのほか、月の抱き締めてくる腕の力が強くて。

「―――竜崎。・・・好きだ」
「・・・っ何、を・・・」
「愛している」

予想だにしない言葉。この男は、本気で言っているのだろうか?
探るように彼の瞳を見上げる。
だが、暗く濁ったようなその瞳は、何も映さない。見透かせない。ただそこで、
己を見透かすような光があるだけだ。

「・・・私はっ、あなたに興味などな・・・っ!」
「―――ずっと、見ていたのに?」

はっと、月を見る。
謎めいた言葉を吐く彼に、竜崎は眉を潜めた。
そう、この男は"キラ"かもしれない男だのだ。もし、あの監視カメラに気付いていたら?
この男は、暗にそのことを指しているのではないのか。

「わざわざ接触してまで、僕をキラと疑っていることを告げた。ということは、竜崎―――いや、L。お前は、その何ヶ月も前から、きっと僕を睨んでいたんだろう?疑いをかけた相手にいきなり接触するなんて、Lらしくないからな」
「そ、れは・・・」

取り繕う余裕すらなくなりかけている竜崎に、月は触れるほどに顔を近づけて、笑う。
図星だった。悔しいけれど、彼の推理はすべてにおいて完璧だった。
日本にきて、FBIが犠牲になって。
あれから数ヶ月。ずっと、この男―――夜神月を疑ってきた。
たった1%に過ぎない可能性。
だが、己の探偵としての本能が、告げていたのだ。
監視カメラをつけ、どれほど彼がキラである可能性が失われても、
それでも諦めきれなかった。
だから、ここまで来た。己自身の目で、夜神月という男を見極めるために。

―――興味がなかったといえば、嘘になる。

「・・・竜崎。素直になれよ。僕のことが知りたいんだろう?」
「っ・・・こんなことで、あなたの何がわかると・・・っ」

くすり、と笑われ、それからぐっと背を抱き締められた。
そのまま、乾いた唇に、触れるようにゆっくりとキス。逃れられないそれに、
竜崎は嫌だ、と月の胸元のシャツを握り締める。
だが、そんな抵抗は月には通じない。合意どころかほとんど彼の強引な態度で己が組み敷かれていることに、
竜崎は苦しげに眉を寄せた。
こんな関係、望むはずがなかった。第一、何の意味があるのだろう?
相手は、己が必ず死刑台に送るといった、"キラ"かもしれない男。
いや、その可能性のほうが高いくらいだ。
そんな彼と、どうして情を結ぶ必要があるのだろう?
流されればそれこそ、一巻の終わりだ。
竜崎はぎゅ、と瞳を閉じた。
せめて、流れされまいと心に誓った。たとえ身体が奪われても、
心だけは譲らないと。
抵抗をやめた竜崎に、月は再び口の端を持ち上げた。

―――堕ちたな。

身体さえ手に入れば、あとは時間の問題だ。
楽しませてもらうよ、竜崎。いや、L。
月は、竜崎が瞳を閉じているのをいいことに、乾いた唇を舌で湿らせ、
そうして今度こそしっかりと彼の身体を押さえつけた。
ソファーといっても、ここは高級ホテル。
広く、長いそれは、ベッドほどではないがセックスには困らない。
いとも簡単に彼のトレーナーを脱がせてしまうと、月は顕わになった肌に口づけ始めた。
予想通り、それはぬめったような白色で、そそるような滑らかさを持っていた。
―――上物だ。
月は勝手な確信の元、唇を歪ませる。
この男がどんな声を上げるのか、楽しみでならなかった。
竜崎の引き結んだ口元を、月は指先で無理矢理に開かせた。

「んんっ・・・っく・・・―――っ、・・・」
「声、出していいんだよ?」

声音だけはいたって優しく、月は竜崎に囁く。
強引な態度とは裏腹なそれに、竜崎はますます月を睨みつけた。もちろん、月は笑って交わす。
快楽を受け入れ始めた身体はひどく素直で、
白磁のような肌は軽く吸い付くだけで紅色の痕を残していく。
それは、竜崎にとってひどく羞恥を煽るものだったが、
いくつもの所有印を丁寧に刻まれて、次第にその部分が熱をもったように疼くのが、
竜崎にもわかった。初めてだった。こんな感覚は。
それも、相手は同性なのだ。
同性に犯されて、しかもそれに感じているなど、断じてあってはならないことだと言うのに。
己の身体が男の手によって高められていくのを感じながら、
竜崎は現実逃避をするかのように首を振って顔を背けた。
月の、竜崎の口元に添えられた指先が彼の口内を蹂躙する。
舌を強く押され、吐き気すら覚えた竜崎は、
涙目になりながらも気丈に理性を保とうとしているようだった。
月は楽しげに笑った。
覗き込めば、脅えたように揺らぐ瞳。まるでこれから何をされるのかと不安がる、
幼い子供のよう。実際はきっと、自分より年上だろうに、
耐えるように唇を噛まれれば錯覚してしまう。
何も知らない子供を、汚すような。
そんな背徳じみた快楽。もちろん、相手はL。手強い敵だ。
けれど―――

「ね、竜崎。気持ちいい?」
「・・・・・・知りませんよ・・・」

腹の辺りで上向いて、月は問うた。もちろん、素直な返事など期待していない。
けれど、うんざりとしたその口調に、月は嗜虐心をそそられた。
気丈で、負けず嫌い。
そんな男を、己の手で組み敷ける快楽。考えただけでも欲が疼く。
ただでさえ、彼には出会ったその瞬間から屈辱を受けてきたのだ。これ以上、楽しいことはなかった。
下肢を思わせぶりに服の上からなぞり上げてやれば、
ひくりと震える身体。
さぁ、これからが本番だ。
ジーンズの前を音を立てて下ろしてやると、
さすがの竜崎も焦ったのか、月の動きを遮るようにして伸ばされる腕。
本当に、幼い態度。
だがまさか、これが初めてだとでも言うわけでもあるまい。
嫌だ、と逃げ出そうとする腰をがっちりと押さえつけ、月は竜崎の下肢に纏わり付く衣服を容赦なく脱がせていった。

「・・・こんなことをして・・・、どうなるかわかってるんでしょうね・・・」
「君さえ合意の上なら、どうってことないだろ?」
「っ、私は、同意など・・・っ!!」

竜崎の否定の言葉は、しかし突然下肢に走った痛みによって遮られる。
月の手のひらが、いきなり直接に竜崎のそれを握り締めていた。
だが、力を込めているわけでもない。
痛いと感じたのは、竜崎自身が己の雄を誰にも触られたことがなかったからに他ならない。
いよいよ本当に初物の疑いが濃厚になってきた彼に、
当然月は口元を歪めた。初めての相手を前に、悦ばない男はいないだろう。
性的な触れ合いに慣れていない竜崎の身体は、
快楽を感じるより恐怖が先に立ってしまう。強気な瞳の中に、明らかな脅えが見え隠れしている。

「―――怖がらなくていいよ。痛い思いはさせないから」

月はそう竜崎の耳元で囁くと、下肢を捕らえていない方の手で竜崎の頭をポンポンと撫でてやった。
竜崎は嫌そうに首を振ったが、その一方で抵抗のために胸元を掴んでいた手が縋るように力を込めてくる。
満足げにそれを確認した月は、ゆっくりと手の中の彼自身を刺激し始めた。
あくまで、ゆっくりと、優しく。もどかしい程の柔らかさで、丁寧に与えられる愛撫。

「・・・っ、あ・・・っ、んっ・・・!」

思わず洩れては、鼻にかかったような吐息の繰り返し。確実に感じ始めている竜崎に、
月はそのまま朱が刻まれた胸元に唇を落とす。
2箇所に同時に与えられる刺激は、慣れない彼に未知の感覚を与えるのか、
甘い吐息が激しくなる。いつの間にか濡れ始めている竜崎の雄。
先端から蜜をすくっては砲身に塗りたくるように手のひらを動かしてやると、
無意識に彼の腰が浮いた。
ぴちゃぴちゃと、わざと立てられる水音。
身体も脳も犯されて、ともすれば手放してしまいそうな理性。

「ん・・・んんっ・・・、あ、・・・っ」
「耐えなくていいよ。感じるままに、声を上げればいいんだ」

吹き込まれる甘い囁きは、常に一番楽な方向を示してきた。流されてしまえばきっと、これほど辛くはないのだろう。
だが、そうすることは竜崎のプライドが許さなかった。
たとえどれほど苦痛でも。
それに屈せず耐えるほうが、精神的に楽になれたから。
あくまで意地の張り合いを続けるつもりの竜崎に、月は笑った。
それもまた一興だと。
月は手の中のそれを扱く勢いを早めた。

「っ・・・、あ、んっ・・・、っは、・・・」

痛がるどころか、同じようにペースを早める竜崎の吐息。
既に男に溺れていることを自覚できないまま、それでも男のいいように乱されている彼は、
月の目にはひどく滑稽に見えた。
涙を零し続ける彼自身に許しを与えるように、
月の親指がひくひくと開閉を続ける楔の先端を擦った。
初めての瞬間は、あっけなく訪れた。

「・・・っは・・・あっ・・・はぁっ・・・」
「よかったみたいだね」

指先に絡んだ男の精に、月は笑みを浮かべた。
竜崎の顔を覗き込み、見せ付けるようにそれを舐め上げる。竜崎は顔を背ける。
全ての指を丁寧に舌で舐め終わると、月は竜崎の耳元に唇を近づけた。

「なんだか、甘い味がするね。お菓子ばかり食べてるから?」
「・・・っな訳・・・!」
「舐めてみる?」

竜崎の腹に飛び散った白濁を指先で掬い、彼の口内へと指を押し込む。
当然、竜崎は嫌がったが、引き結んだそれを強引に抉じ開けられ、舌に感じた苦味に青年は顔を顰めた。

「・・・っ・・・不味、い・・・」
「そう?僕は美味しいけどね」

口の端に零れるそれを、舌で舐め取る。そのまま、吐息を奪うようにキス。
達した余韻と、ねっとりと絡められる舌の執拗さに、竜崎は頭の奥が真っ白になるような浮遊感を覚えたが、
そんな自分を、彼は嫌だと思った。
こんな、合意の上でもない関係。男に犯されるなど、屈辱でしかないことのはずだ。
だというのに、あまつさえ快楽を覚えているなんて馬鹿げている。
己の身体の不甲斐なさに、反吐が出る。
竜崎は月を睨みつけた。己を穢した、憎むべき男に向かって。

「・・・っ・・・もう、気が済んだでしょう・・・離してください」
「気が済む?何を言っているんだ?このままじゃ終われないのは君のほうだろう?」
「っな・・・!」

ぐっと脚を掴まれ、胸まで折り曲げられる。
排泄器官でしかないはずのそこを目の前に晒され、竜崎は身が千切れる程の羞恥を覚えた。

「・・・朱くなってる。恥ずかしい?」
「やめ・・・、っ何を・・・!」

指先でなぞるようにされ、無意識のうちにきゅ、と入り□を窄める竜崎の秘孔。
誰にも侵入を許さないかのように硬く閉ざされたそこに、
月は少し考えて小指を差し入れてみた。たった第一関節だけだというのに、キツく銜え込んでくる。

「っや・・・」
「初めてでも、その年なら知識くらいあるだう?―――ココに、僕のが入るんだ」
「・・・っやめ、無理―――、っ・・・」
「そんなことないさ」

月は一度差し入れた小指を抜くと、さて、どうしようかと顎に手を当てた。
確かに、多少無理をさせるのならこのままでも出来ないことはない。
だが、相手は初物。ひとつの苦痛も感じさせることなく行為を行うのは不可能といえた。
けれど、それでは困るのだ。
あくまで今日は、彼の中に己の感覚を刻ませ、彼の心に付け入る隙間を作ることが先決なのだから。
恐怖心を募らせるだけでは意味がない。
月は竜崎を組み敷いたまま周囲を見渡した。
テーブルにはコンピュータ、その周りに所狭しと並べられている菓子やテザート、コーヒーセットなど。
その中に、彼の内部への侵入を助けてくれそうなモノを見つけ、
月は□の端を持ち上けた。
原型を留めていないそれを指先に絡め、竜崎のそこに触れる。ひくりと震える彼の身体。

「・・・っ冷た・・・、何、を」
「多分、君がダイスキ、なモノだよ」

濡れた指先で、唇をなぞってやる。舌先に感じる冷たさとその甘さに、竜崎は気付いたらしい。
だか、その闇にも下肢に雫が零れる程にそれを塗りたくられていて、
竜崎は顔を顰めた。
ベタつくそれは、彼が先ほどまで食べかけていたバニラ味のアイスクリーム。
ぬめりを帯びたそれに助けられ、竜崎の内側に入り込んできた月の人差し指は、
その付け根まで押し込ませてしまうと、今度は内部を拡げるように周囲の壁を擦り始めた。

「・・・い・・・っあ・・・!っく・・・」

嫌な音を立てて、男のいいようにされる下肢に、
竜崎はソファの布地に爪を立てる。
ぎゅっと目を瞑って、しかし抵抗することなく耐えるだけの彼に気を良くした月は、
下の口に食べさせるのと同じように、片方の手で溶けたそれを舐めさせてやる。
アイスクリームの甘さに、少しだけ表情を緩める彼を見つめながら、
更に奥まで塗り込めるようにして2本目の指を挿し入れれば、
あれほど抵抗を見せていたそこが収縮を繰り返し、月の指を呑み込もうとさえしてみせる。
月は笑った。どれほど嫌がっていても、身体は本当に正直だ。
理性より感情を、プライドより快楽を。
それは、竜崎にとってはおそらく屈辱的なもの。だが、彼にとって屈辱的であればあるほど、月の心は満たされるのだ。

「―――っく・・・、んっ・・・・」
「すごい・・・。素質あるよ、竜崎。ココ触っただけで、どんどん溢れてくる」
「っ・・・」

羞恥を煽る言葉と共に、内部で曲げられる指。
内壁を押してくるそれが不意にとあるポイントを擦った時、
竜崎はぞくり、と背筋を這い上がる感覚に身を竦ませた。
前立腺。月の長い指が、正確にそれをなぞり上げる。強い快楽と共に、自身から溢れ出す先走りの体液。
先ほど絶頂を味わったばかりのそれは、
しかし、直接触れてもいないのに次の波の訪れを待つように勃ち上がり、
どくりと脈を打っていた。月の手が、包み込むように絡みついてくる。

「っあ・・・」
「次は、一緒に達こうか」

優しく笑みを返されて、竜崎は逆に月をにらみ返してやった。
けれど、当然月は動じない。彼の頭を撫でてやり、彼の胸の上に圧し掛かる。
竜崎は息を詰めた。ぐちゃぐちゃにされた下肢の奥に、触れてくる重い熱感―――。

「・・・い・・・、やめ、夜、神く・・・っう―――!」

抵抗の言葉は、しかし月に塞がれた唇に消えていった。
初めて己の奥に男を受け入れた青年は、下肢が裂けるかのような錯覚を覚える。
内部を濡らすぬめりに流されないよう、ゆっくりと確かめながら自身を竜崎の中に挿入させた月は、
侵入してくる異物に抵抗を見せながらも、熱く収縮し、絡みついてくる内壁に
熱い吐息を零した。

「・・・すっごい、具合がいいよ、竜崎」
「っん・・・あ、あ・・・っ、ん・・・っ!」

引き裂かれるような痛みの後、内部に収まった熱塊に、
竜崎は髪を振り乱した。
汗に濡れたそれが、額に張り付く。月の手がそれを払ってやる。
目の端から零れる雫を舌で掬い取ると、月はやがて腰を動かし始めた。
初めは内部を探るように、次第に奥を抉るように。
小刻みな動きですら濡れた音を立てるそこはひどく淫らで、
月は舌で乾いた唇を湿らせる。竜崎の腰を抱え直し、己自身に引き寄せるように身体を揺らす。
竜崎はというと、初めて犯された苦痛よりも快楽が意識を支配しているのか、
抵抗よりも熱を吐き出すように洩れる吐息。
身体が慣れてきたことを感覚で理解した月は、今度は己の腰を引き、大胆に内部を擦り始めた。

「・・・っ、あ、ああ、っ・・・」
「竜崎・・・、イイか?」

上半身を倒し、耳元でそう囁かれれば、竜崎はもはや頷くしかない。
下肢から湧き起こる快感、規則的に与えられる衝撃、すべてが彼の強靭なはずの理性を崩してゆく。
竜崎の、思いのほか馴れやすい肉体に驚かされながらも、
月は楽しげに口元を歪めた。彼の手を取り、身を起こさせる。

「っあ・・・!」
「嬉しいよ、竜崎・・・君がこんなに感じてくれるなんてね。・・・光栄だよ」

ぐるり、と身体を捻らせ、彼の背後に身を滑らせた己の上に座らせる。
重力によって更に結合を深めるその部分が怖くて、
竜崎は逃れようと腕に力を込めた。
けれど、逆にキツくなる下肢の締め付けが、更に月を悦ばせるだけに終わってしまう。
逃げることなど不可能だった。
月の手が、竜崎の前に絡みついた。

「一緒に達こう?竜崎」
「・・・夜神、く・・・んっ・・・」

柔らかく甘噛みされる耳朶。指先まで痺れるような刺激がそこから電流のように走った。
胸元に回された腕が、下肢の辺りを撫で上げるだけで快感を感じてしまうその身体は、
今では全身が性感帯と化してしまっているようだ。
初めてだった。
ただ、他人に触れられるだけで、声が洩れそうになるなど―――。

「っあ・・・ああっ・・・」
「いいよ・・・僕も、そろそろ限界だ」

手の中で震える雄を昂ぶらせるように、激しく擦り上げて。
それに合わせるように腰を揺らし、奥を貫く。内臓が押し上げられる感覚に、
竜崎の目の前が真っ白に染まる。

「・・・っあ・・・あ、あああ・・・っ!!」
「竜崎、・・・っ」

吹き込まれる声音に導かれ、竜崎は解放の瞬間へと上り詰めた。
快感が身体の隅々にまで行き渡るのを感じながら、急速に失われていく意識。
白一色に染まった視界がぽつぽつと黒に塗り替えられていくのを、
竜崎は甘んじて受け止める。
内部が、熱かった。どくどくと拡がってゆくそれに、
己の中の月もまた果てたのだと、ぼんやりとした意識の中で理解する。
抵抗する気力もないまま瞳を閉じれば、
あとは闇が広がるばかりだった。

身動きひとつ、できなかった。




















―――嫌な、夢を見た。

ベッドのシーツに包まり、身を丸めた格好で竜崎は目を覚ました。
いつも通りの朝。日が高く上って、厚いカーテンから差し込む光が眩しげに顔を打って。
だが―――普段とは明らかに違う朝。

「・・・っく・・・」

起き上がろうとして、顔を顰める。
下肢にわだかまる鈍痛、それこそがいつもと違う証。
不意にぐらり、と眩暈を感じて、竜崎は額に手を当てた。
何も、考えたくなかった。

「・・・・・・・ワタリ」
「はい」

ベッドサイドに手を伸ばし、インターフォンを鳴らした。

「車の用意を」

ただそれだけ告げて、通話を切る。
日は既に高かったが、大学では午後の授業はまだ先だろう。
勿論、身体はあの悪夢のせいでガタガタだ。無理に出る必要もないとも思った。
だが。
そこにはきっと、あの男がいるはずだ。

「・・・夜神・・・月・・・」

その名を口にするだけでこみ上げてくる悔しさに、
竜崎は唇を噛み締めた。きつく、血が出る程。
だが、もう、逃げない。
元々、後戻りなどできなかった。命まで懸けてしていた捜査のはずだ。
己の身体くらい、どうだというのだろう。
プライドなど、くれてやる。
そうして、必ずあの男の本性を暴き、キラであることを突き止めてみせる―――。

昏い感情に身を浸した竜崎は、
重いからだを引きずるようにベッドを下りたのだった。




end.





Update:2006/06/27/TUE by BLUE

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