Light & Darkness 04



「食べないのか?」

土産に買ってきたチョコレート菓子を前に手が止まっている竜崎に、
月は不思議そうに首を傾げた。
昨日まで、あれほど食べたがっていたものだというのに。

「・・・食べたく、ありません」
「こんなに美味しいのに」

月は、また1つチョコレートを口に運ぶ。
口溶けの良いガナッシュだ。頭の奥までクラクラするような甘さが口一杯に広がる。
元々、甘党だったわけではない。
だが、この、異常な程に甘党な男と付き合っているうちに、
いつの間にか自分も甘党になってしまっていたようだ。
だから、
外の世界の、あの煩わしい喧騒から離れて、
竜崎と2人、甘いものに舌鼓を打つのはそれなりに楽しかったのだが、

「意地なんか張らなくていいのに」
「意地なんか張ってません」

そういう割には、
ぷい、とそっぽを向く黒髪の青年。それは、ひどく幼い子供のような態度で。
月は一旦席を立つと、ソファに座る竜崎の隣に腰をかけた。
ふわり、と空気が動き、石鹸の香りが鼻をくすぐる。
バスローブの胸元から覗く、男の均整のとれた胸元に、
竜崎は顔を背けた。素肌の上に巻きつけた綿毛布にますます隠れるようにすると、

「ほら」
「・・・っん・・・、!」

無理矢理、口の中に押し込まれる固形物。
勿論、竜崎は歯でブロックしようとしたが、そんなもので抵抗などできるはずもない。
押し込まれるそれから溶け出してくる、甘い蜜。
嫌いな、わけがなかった。
高密度の糖分が全身に広がる感覚。
一瞬、頭が麻痺したようにぼやけて、それから雲が切れるように冴えてくる、
そんな快感を何度味わったか知れない。
けれど今となっては、
そもそも身体が必要としていないからか、
過度の糖分はただ不快感を伴うものでしかない気がした。
考えられないことだ。
自分が、そんな感覚を味わうことになるなんて。

「美味しいだろう?」
「・・・も、充分、です・・・」

眩暈すら感じる。もちろん、それが全て菓子のせいだとは竜崎は思わない。
目の前の男に無理矢理、といった風に食べさせられ、
それに激しい抵抗感を感じてしまう、
理由の第一はこれに他ならない。
一番の好物すら、抵抗を覚えてしまう今の状態に、
竜崎はますます欝な気分になった。
せめて、好きなものを好きなままで食べていられたなら、
この環境も悪くないと思えるかもしれないのに。

「・・・充分、って、まだ全然食べていないじゃないか」
「・・・・・・」

そもそも、つい先ほどまで
あれほど激しい行為を強いられていたのだ、
まだ気力がついていかない、というのが正しいだろう。
自分を好き勝手に喰い散らかした男と顔を合わせて、
誰が楽しく菓子を頬張れると思うのか。
だというのに、身勝手なこの男は、それすら自分に強いようとする。
残酷な、男。
優しげな笑顔を張り付かせていながら、
その中身はまさしく悪魔だ。

「・・・いつになっても、こっちの口は素直じゃないな」
「っ・・・」

身勝手なのは男のほうなのに、さもこちらが悪い、といった風に舌打ちをされるのが
たまらない。
それを聞く度、結局自分に求められているのは所詮、
素直さなどでは決してなく、彼の意のままに動く従順さであることを実感する。
どれほど、こちらが嫌がろうと構わないのだ。
・・・いや―――。

機嫌を損ねたような顔で己に乗り上げてくる月を、
竜崎は暗い瞳で見上げた。
嫌がるのも構わない?いや、違う。
この男は、敢えて自分の嫌がるようなことを強いているのだ。
普段ならば絶対にしないようなことを強制し、彼の犬であることを思い知らせたいのだろう。
だが、そんな彼の歪んだ感情をわかっていても、
竜崎にはどうにもできない。
背けようとした顔を、顎に指をかけて覗き込まれる。
乱暴に重ねられた唇は、その思惑とは裏腹にひどく甘く蠱惑的で、
流されたくないと思いながらも頭がぼやけてゆくようだ。
漸く収まってきていたはずの身体の熱が、また再び男の手によってぶり返してくる感覚に、
竜崎は瞳を閉じた。
何をやったって無駄なことくらい、よく分かっている。
これからもきっと、長く辛い行為が続くのだ。
どうすれば、楽になれる?どうすれば―――

「さっきの続きだ、竜崎。―――床に手をつけ」
「・・・は、い・・・」

反抗できる余地すらない。竜崎はソファを降り、恐る恐るフローリングの床に手をついた。
両手両膝で四つん這いになった、獣のような格好。
この状態のまま、手を使わずに食べることを強制されたことだってある。
スープ皿を零した仕置きに、床に這い蹲ったまま、綺麗になるまで舐めさせられたことさえあるのだ。
きっともう、自分はこれからだって人間として扱ってなどもらえないだろう。
更にエスカレートしていくであろう行為を思い、
竜崎は呆然と床を見つめていた。
隣には、男が見下ろす気配。けれど、もはやなにも感じない。

「いい子だ」

ぐしゃり、と頭を撫でられたと思った途端、
そのまま強く押されて文字通り竜崎は床に這い蹲った格好にさせられた。
腰だけを高くあげさせたはしたない自分が、
壁に備え付けの鏡に映っていた。どうしようもない絶望感に、冷たく固い床に頬を押し付けたまま
竜崎は涙を零す。
だが、乾いたそれは、たった一筋彼の頬を汚すだけで、
当然月の手を止める術にはならず。
男の両手が己の尻を割るように開かせてくる感覚に、
竜崎はただただ耐えるように瞳を閉じた。
どろり、と身体の奥から体液が溢れ出る感触。先ほど放たれた、
月の精だ。吐き気すら覚えた。何の前触れもなく指を差し入れられれば、
快楽に隠された痛みが目を覚ます。
ぐちゃぐちゃとかき回される音も、竜崎にとっては苦痛以外のなにものでもなかった。

「んんっ―――・・・!!」
「こっちの口は、素直じゃないか?」

自分の後孔が引き裂かれるような、例えるならそんな感覚。
いきなり想像もつかないモノを内部に押し込まれ、竜崎は戸惑ったように視線を揺らした。
角のある固形物―――けれど、中に無理矢理押入れられれば、
それはすぐに溶け出すようにぬめりを帯びた。
体液と共に混ざる、鼻につくような甘ったるい匂い。
―――チョコ、だ。
先ほど2人で食べていたガナッシュ。常温ですら溶けるそれは、
当然竜崎の体内を侵食していく。
頭がぐらついた。口にしていた時よりひどく酔わされる自分に気づく。
これは、―――恐怖、だ。

「んっ・・・ぁ、あっ、やめ・・・!」
「大人しくしてろ」

無意識に、腰が引けた。だが当然、男に捕われている身体は
逃げ出せるはずもない。
月は楽しげに、1つ、2つと竜崎の内部にチョコレートを押し込んでゆく。
指で届くくらいの奥まで押し込めては、
また1つ。次第に狭まる彼の中は、まるでそれを食べているかのよう。
激しく収縮を繰り返すその口にまた1つ押し込めてやると、
さすがに内部が一杯になってきたのか、
入り口からそれほど奥までは入りきらなかった。
溶け出す茶褐色の液体が、
竜崎の後孔がきゅっと縮まったことで口の端から溢れるように流れ出した。

「お、っと。―――零すなよ?」
「んぅ―――・・・」

指で押さえて、再び内部へと塗り込める。
圧迫感に眉を寄せる竜崎は、苦しさに耐えるように床に投げ出していたケットを歯で噛み締めた。
ぎゅ、と爪先で握り締める。健気なその姿が、
ますます月の悦を誘った。この男への嗜虐心が、更に高まっていく。
指についたチョコレートを舐め取って、
月は唇を歪ませた。こんな異常な行為を強いられていながら、
竜崎の前は昂ぶっているのだ。どんなに苦痛の表情を見せていても、真実はここにある。
指を絡ませ、敢えて優しく愛撫を施してやれば、
再び締まりをきつくした内部から、今度こそ筋を作る甘い香りの液体。
月は、舌で丁寧に舐め取ってやった。
腰の奥が、疼くよう。
早く彼の内部を感じたくて、どうしようもない衝動が血流に乗って全身を回る。

「いっ―――、も、や・・・!!」

涙も枯れているくせに、泣きじゃくる竜崎など、関係ない。
あるのは、ただ彼を犯したいという欲望。狂わせ、壊してしまいたいと本気で思う。
これはもはや愛などではない。ただただ歪んだ独占欲。
体液を洩らさぬよう、月は丁寧に先端を押し付けた。
先のことを想像するだけで、イッてしまいそうになる。熱くて甘い、竜崎の内部の感触は、
きっと自分を極上の快楽へと導いてくれるだろう。

「・・・っう・・・、痛・・・っ!」
「五月蝿いよ」

引き裂かれるような苦痛に、竜崎は思わず声を上げていた。
当たり前だ。内部はただでさえ数え切れないほど奥まで押し込まれたガナッシュで一杯なのだ。
男の雄が入り込む余地などあるわけがない。
だが、男は容赦なかった。
確実に、内部へと侵入してくる強烈な圧迫感。このままでは、
内臓が壊れてしまいそうだ。あまりの苦痛に、快楽などを感じる余裕すらない。
全身が、指先までもが、ずきずきと痛む。逃げ出したかった。
自分がおかしくなってしまうことが怖かった。
頭が、割れるほどに痛んだ。脳天まで突き破られそうな、そんな感覚。

「もっ・・・、無理っ・・・月く・・・!!」
「本当に?」

中途半端に雄を埋め込んだ月が、そのままの格好で竜崎の身体を仰向けにする。
当然、内部はまた新たな苦痛を生み出した。
粘膜が裂け、血すら流れ出していた。だが、体液と茶褐色の甘い液体に混ざり合い、更なるぬめりを
内部にもたらす。
異物を外へと押し出そうとする、内襞の動きが男の雄を喜ばせた。
更に、月は腰を押し付ける。両手を竜崎の背後に回し、引き寄せるようにして内部を犯してやった。
触れ合った肌が、べっとりと濡れていた。
ただの汗ではない。これは、脂汗だ。

「あああ―――っ!!!!」

身の毛もよだつような、絶叫。
一体、竜崎はどれほどの苦痛を感じているのだろう。
表情が、今までにないほど歪んでいた。快楽などではない、純粋な苦痛。
だが、

「・・・いいよ、竜崎」
「あっ・・・は、うぐ・・・っ!」

耳元で囁く、優しい声音。
偽りの優しさ―――それは、苦痛に冒された竜崎の、最後の逃げ場。
縋るように、月の肩にしがみ付く。強く抱き締められ、少しだけ下肢の苦痛が和らいだ気がした。
既に奥まで入り切ってしまった月の雄は、
今度こそゆっくりと内部を味わい始めていた。竜崎の奥で、
ぐちゃぐちゃと水音がする。それがなんとも言えず、快感だった。

「竜崎・・・君も、イイだろう?」
「ん・・・ぁ、あんっ・・・」

苦しげに喘ぐわりに、
その中心は苦痛に萎えるどころか昂ぶりを増している。
どんなに頭では嫌がっていても、身体は正直だ。
月は構わず、竜崎の奥を抉るように激しく貪ってゆく。
度を過ぎた痛みに、枯れていたはずの涙が竜崎の頬を汚していった。
浮き出た頬骨を伝い、床を濡らすそれに、
月はますます笑みを深くする。
心地良かった。繋げた下肢から襲い来る強烈な快楽も、
気高く誰にも気を許さなかった男を、自分だけのモノにまで貶めたという事実も、
すべて。
竜崎の一挙一動が、すべて己の悦楽に繋がった。
両膝が胸につく程まで折り曲げてやれば、
その部分から滲み出てくる含み切れない体液。指で掬い上げ、
雄を押し込んだそこに更に指を滑り込ませる。
度重なる挿入で弛緩していた竜崎の入り口が、侵入を拒むように再び締まりをきつくすると、
月はついに声を上げて笑ってしまった。
羞恥を誘う、そんな声音。
だが、もう、竜崎の耳には届かない。
与えられる苦痛から、必死に快楽を求めようとするだけで精一杯。
身も世もなく乱れた姿を晒す青年は、助けを求めるように両腕を伸ばしていた。
けれど、弱々しいそれは、宙を切るばかり。
霞んだ視界に映るのは、憎くて余りあるはずの男の歪んだ顔。
悔しいが、縋れるのは、彼しかいなかった。
ああ、本当に。
自分は壊れていく一方だ。

「・・・も、やめっ・・・、おねが・・・っ」
「もう、限界なのか?」

行為の横暴さとは裏腹に、至って優しい口調。
竜崎は必死に頷いた。はやく、この状況から逃れたい一心で、
壊れた人形のようにただ首を振る。
自分もまた吐き出したい衝動に駆られていた月は、
彼の望みどおりフィニッシュに向けてラストスパートをかけてやることにした。
膝を抱えるような体勢の身体を、更に折り曲げさせていく。無理な体勢に竜崎は顔を顰めたが、
何より辛かったのは目の前に晒された己の真っ赤に腫れ上がった後孔だった。
せわしない呼吸に合わせて、ひくひくと痙攣するその部分に、
深々と押し込まれた男の楔。赤黒く怒張したそれが何度も自分の内部を犯していくのを、
竜崎は放心したように見つめる。

「・・・っあ、あ、・・・く、・・・」

規則的に与えられる衝撃がいつの間にか快楽にすり替わっていた。
半開きの口元から洩れる声音が、室内に木霊する。
自分の声とは思えない程の甘さを含むそれに、竜崎は更に熱を高められ、
肌の色合いを深める。
直接的な刺激などほとんど与えられていない雄が、
先端から溢れさせた先走りで竜崎自身の腹を濡らしていた。
ひどく、淫らな格好。乱れた黒髪が、汗に濡れて肌に張り付く様も、全てが欲を煽るものとなる。
腰を高くあげさせた、その体勢のまま、
更に奥まで自身を押し込んだ月は、
竜崎の耳元で囁いた。

「っあ、ん・・・っ!!」
「イッていい?」

言葉と同時に、強く貫かれる最奥。
頭が真っ白に染まった。身体が融けるように熱い。どくどくと注ぎ込まれる精の感触に、
竜崎の腰の奥もまた衝撃と共に弾ける。
眼前で達かされ、生臭い体液が自分自身の顔面に飛び散った。

「・・・っう―――・・・・」

ほとんど苦痛しか与えられていないくせに、快楽の証であるそれが自身から放たれたことに、
竜崎は呆然と瞳を揺らす。
漆黒の髪まで、穢らわしい白濁に汚れていた。
ゴミのようだと思った。このまま、ゴミ溜めに捨てられていたとしても、
誰も人間だとは気づかないのではないかと思う程に。

「っあ・・・、」
「いい格好だな、竜崎」

男根を竜崎の中に押し込んだまま、月は笑う。
くっくっと声をあげる彼の、その身体の動きだけでも、
敏感になった身体は刺激を受けてしまう。
接合部から香り立つ、甘く狂おしい匂いに、
竜崎は酔わされたように瞳を閉じた。
弛緩しきった竜崎の秘孔から溢れ続ける体液を指先で掬っては、
浅い呼吸を繰り返す彼の唇に塗りつける。舌先に感じる、苦いような甘いような、そんな味。

「・・・・・・っ―――」
「美味しかった?」

嫌な水音を立てて、男の雄が抜けていくと、
その途端、体内から零れたぬめったそれが脚を伝い、床を汚していく。
月の指が再び内部を犯し始めると、爪先に当たる、原型をとどめていないチョコレート。
つい先ほどまで、あれほど皿に積まれていたガナッシュは、
今は竜崎の身体を侵すモノと化していて、
月はもったいない、とばかりに溢れるそれを唇で吸い上げる。
頭がおかしくなりそうだった。
全身から立ち上る、吐き気すら覚えるほどの甘ったるい香りに、
―――狂わされていく。

「また、買ってきてやるよ。気に入ったみたいだからね」
「・・・っ」

もう、何を言われているのかすらわからない。
朦朧とした意識の中、竜崎は現実から目を逸らすかのように瞳を閉じた。





...to be continued ?






Update:2006/10/09/MON by BLUE

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