Black Rule 01



Rule 01

When the person to whom the name was written in DEATH NOTE receives the kiss from the owner of DEATH NOTE within 24 hours of postmortem, he can become a death god, and cling to the note's owner.

『デスノートに名前を書かれた者は、死後24時間以内にデスノートの所有者に接吻を受けると、死神となりその者に憑くことができる』






























・・・僕がデスノートで殺させた男は、
その瞳を閉じたまま、眠ったようにベッドに横たわっていた。
今にも目を覚ましそうなその姿は、過去、何度も眺めてきたもの。そう、愛していた。この世の誰よりも。

「―――L」

通り名を呼んでも反応のない彼を、抱き締める。―――ごめんね、一番大切だった君。
今だほのかに色を帯びた唇に、最期の口づけ。
ゆっくりおやすみ。
二度と触れることのない頬を撫でてやる。
そうして僕等は、
静かに部屋を出て行く彼を見送った。

―――はずだったのだが。








「おや、月くん。今日はデスノートでなくお勉強ですか」
「・・・・・・(怒)」

ミシ、と音を立てて自分の頭の上に乗ってくるエルに、月の血管がブチ切れた。

「だからっ、人の頭に乗るな!」

邪魔だ、とばかりに腕を振り、上に居るソレを捕まえようとする。
エルはひらりとかわし、今度はベッドサイドのテーブルに降り立った。相変わらずの、膝を抱えた格好で。

「・・・ったく、菓子をやれば静かにしてる、と言ったのは誰だ・・・」
「もう無くなりました。」

見れば、あれほど山のように皿に積んでやったはずのそれが、
30分足らずでまっさらになっている。
あまりのスピードに、月はうんざりと額に手を当てた。

「・・・もっと大事に食え・・・」
「暇なんですもん」

ばさばさっと音を立てて、羽根を広げる。そうしてエルは、
開けっ放しの窓から外に出た。くるりと一回転して、屋上のそのまた天辺まで昇る。
死神になって良かった事といえば、地球の空を翼で飛べることで、
エルは眼下のビル街を見、気持ち良さそうに背を伸ばす。
もちろん、人間に憑いていなければならない掟があるため、そう自由に眺めることができないが、
それでもエルは満足げに息をついた。

エル―――そう、彼は正真正銘、あの名探偵『L』である。
デスノートによって死んだはずの彼がなぜここにいるのか、それを考えるだけで、月は頭が痛くなる。
窓から頭の上を見上げると、またぬるい風が顔にあたり、エルが目の前に舞い降りた。

「月くん、今日は天気がいいですよ。外に出ませんか」
「・・・ダメだ」

近く、進級に関わるテストが迫っていた。1年のほとんどを、
まともな理由もなく休学していた月は、
それでも皆に引けを取らない、いや、それ以上に優秀な成績を収める必要があった。
どれほど己に自信があったとしても、
やはり机に向かう勉強は怠るべきではないだろう。
今日1日くらい、ゆっくり家にいたかったのだが、

「じゃあせめて、屋上に」
「1人で行け」
「・・・・・・月くん・・・・・・」

釣れない月に、エルが腰のポケットから取り出したモノ。
それは、いわずもがなのデスノート。死神となった時に、死神大王から貰い受けたものである。
月はまたか、とうんざりしたようにため息をついた。

「・・・殺しますよ?」
「・・・・・・そんな脅しは・・・」
「や、がみ、ラ・・・」
「っわかった!わかったから、今すぐそれを消せ」
「わかればいいんです」

ふっ、と満足げに息を吹きかけて、書きかけの名前を消す。
まったく、危なすぎる綱渡りだ。
目に見えてはしゃぐエルを連れて、月は仕方なく、といったように外に出た。

「まったく・・・いい気なもんだよな」

外に出た途端、月の頭を踏み台にして空へと舞い上がったエルに、
空を飛べない月はただそれを見上げる。
リュークが憑いていた時は、辛うじて彼の背に乗って空を飛ぶ・・・なんてことも出来るには出来たが、
元が人間のエルは生来の死神に比べて絶対的に華奢な気がする。
きっと自分を乗せては飛べないだろうし、まぁ何より誰かに目撃されたら大変だ。
だから結局、月は彼を見上げ、彼の舞いを眺めるだけだった。
見上げた先から、手を振られ、苦笑した。振り返してやると、嬉しそうにくるりと宙返り。
これでは、ペットを散歩に連れて行ってやるようなものだな、と月は笑い、
行き慣れた道をゆったりと歩んだ。
道の先には、行き着けの喫茶店。
観葉植物の影になり人目につかない場所に、いつものように陣取って、
エルは早速メニューを眺め始めた。
当然、座り方は生前と同じ、あの、膝を抱えたようなおかしな格好。
今となっては慣れ切ったものだが、当時は人目も気になってよく注意したものだ。

「思うんだけどさ。―――もう、その座り方しなくてもいいんじゃないか?」
「だめです。これをしないと推理力40%減、です」
「だから、もう関係ないだろ、それ」

運ばれてきたコーヒーはもちろん1人分で、しかしエルは当然のようにそれを自分の方に引き寄せ、
やはり角砂糖を鷲掴み。
月にとってそれは、ひどく可愛げのある姿ではあったが、
傍から見ればあまりに奇怪な現象だろう。
なにせ、"彼"―――死神・エルの姿は、自分以外の誰にも見えないのだから。
だが、一応人目を気にしながらも、月は彼のしたいようにさせていた。
やがて、色とりどりのケーキがテーブル一杯に並べられた。
キラキラと瞳を輝かせるエルは、さながら小動物のようだ、と月は見るたびに思う。

「そういえば、お前、さっきD-67事件についてのデータ見てたよな?何かわかったことでもあったか?」
「・・・・・・・・・・・特にないですね。」

長々と待たせたわりに、よい返答がでてこなかったことに、
月は少々ムッとした。

「・・・おいおい。どうせその座り方してるなら、推理してくれたっていいだろ」
「・・・そうですねぇ・・・」

カタリ、とカップを皿に置き、片方の手でフォークを握る。
ショートケーキの最後のひと口を食べてしまって、エルは両手を膝の上に置いた。彼がいつも推理する時の体勢だ。

「・・・でも、私、もう探偵『L』じゃありませんしねぇ」
「何を今更。」

月は笑った。まったく、今更何を言っているのだろう、この男は。
L―――竜崎亡き後、実質的に"L"としてキラ捜査の中心にある月だが、
もちろんその正体はキラだ。
だが、Lを演じている以上、建前でも月は"キラ"を追わねばならない。
己の身を追い詰めながら、キラとしての己を安全圏に置く。それは並大抵の能力ではできないだろう。
どうあっても追い詰めが甘くなるのは必至だ。
そこで、キラを追い詰める役を買って出たのが、この"死神・エル"だった。
だから、今でもLとキラは互いを睨み合っているし、だからこそ他の捜査員や国民を騙すことができるのだ。
やはり、"彼"がいないと張り合いもなく、面白くない。
月は、エルのせいでずいぶん甘くなったコーヒーを飲み干し、次の1杯を頼んだ。

「・・・まぁでも、いずれにせよ大した事件じゃありませんよ。キラよりマシです」
「はは。それはさりげなく皮肉かい」

再び角砂糖を放り込み始めたエルに、苦笑して。
まぁいいか、とその話は切り上げて、月は唯一自分の分のコーヒーゼリーを崩し始めた。
だが、その時―――
月の腰の携帯電話が作動した。
途端、エルの表情が険しく歪んだ。当然だろう。生前は、自分が話をしている時に他人の携帯が鳴ることを、断じて許せない男だった。ましてや、相手が月であるならば、尚更だ。
けれど、今は現実には月はあくまで"1人"で行動している。
携帯を切って一切の連絡を絶つわけにはいかない―――さすがにエルも、そのくらいのことはわかっていた。
月は画面を確認して、少し眉を顰めて通話ボタンを押した。

「はい、夜神です。・・・ああ、ミサ」

ますますエルの眉間の皺が増えた。
これがもし捜査本部からの緊急連絡ならまだよかったというのに。
だが、相手は女、しかもあの第二のキラ―――弥海砂。
本気ではない、と月は言い張っているが、それでもエルが2人の親密な姿を見たくない、というのも致し方ないだろう。

「え?もう終わった?早いな。・・・え、うちに?!」

月はちらりとエルを見た。
エルは無言で、ジーンズのポケットに無造作に丸めてあったデスノートを取り出した。
ペラペラとノートを捲る。それは、十分な意思表示。
月は電話に聞こえないよう、小さく息をついた。

「・・・ああ、ごめん、ミサ。今日は家に帰れなくてさ。・・・ああ、うん。また連絡するよ。それじゃ」

電話越しにギャーギャー喚いているだろうミサに、
けれど月はすぐに携帯を切ってしまうと、はぁ、と安堵したようにため息をついた。
この死神なら、自分はともかくミサなどすぐに殺してしまいそうだ。

元々、月は自分がLの名を継いだ後、ミサとは同棲し、監視下に置くつもりだった。
だが、それを止めたのは他ならぬこの死神、エルである。
まったく、迷惑な話だ。
だが、だからといって、みすみすミサを殺させるわけにはいかない。
愛しているわけではないが、彼女の己への忠誠心と、あの目の力は価値があるのだから。
けれど―――。

最後の一口を食べてしまったエルに、月は笑いかけた。

「戻ったら、何をしようか」
「・・・戻りませんよ、今日は」
「え?」

ムスッとした言いように、月は驚いたように目を見開いた。

「何故」
「・・・弥が来るかもしれないでしょう」
「・・・・・・まぁ、」

そうではあるけど。
口をへの字に曲げているエルは、どうやら自分たちの仲を邪魔されたくないらしい。
本当に、困った嫉妬心だ。

「・・・けど、だったらどこへ行くんだ?ホテルに泊まるような金は持ってきてないぞ」
「金ならあります。」

といってエルがもう片方のポケットに手をやると、・・・たちまち大金がそこから溢れだした。
まさか、死神が金を持っているとは思わなかった月は、
文字通り目を丸くした。超高級ホテルの、しかもスウィートまで泊まれる額。

「・・・下界に来た時、ついでに自分の部屋の有り金持ってきました。言ってくれれば口座も開けますよ」
「はは・・・。らしくない死神だな」

月は苦笑した。
本当に、我侭なヤツ。
それでも、こうして彼と共に、本当の意味で心から愛し合える時が来たことを、
月の中にもそれを喜ぶ自分がいた。
あのときは、まさかこんな日が来るなんて夢にも思わなかった。
初めから殺すつもりだったのだ、本気で愛し合うことになるなど思ってもみなかった。
けれど、現実にはこうして、片時も離れることなくベッドまで共にする関係。
どうしてこうなってしまったのか、
今となっては月にもエルにもわからない。
ただ―――、敵であるという事実以上に、互いの持つその魂に惹かれてしまったという真実。
それだけは、何物にも変えようがなかった。

「じゃ、行こうか」
「はい」

席を立つ。手を差し伸べると、エルは素直に手を取った。
まったく、可愛いね。
バサバサッと翼を広げた、愛しい死神、エルを、月は笑みを浮かべて見守った。





...to be continued.





Update:2006/08/06/SUN by BLUE

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