誤算〜Gallery〜



13日ルールの検証のため、
夜神総一郎を始めとする捜査本部メンバー全員がアメリカへと旅立った。
嘘ルールをでっちあげた張本人である月は
もちろん同行を申し出たが許されず、
竜崎と共に、広い本部での留守を任される。
何かが、おかしかった。
総一郎のみならず、メンバー全員がアメリカへ発ったことも、
Lの代理人であるはずのワタリが彼らに同行しないことも、
そして何より、自分と竜崎、たった2人きりでこの本部にいられることも。

「二人だけになりましたね」
「何を・・・たくらんでいる?」

相変わらずの淡々とした口調に、
月は竜崎を睨みつけた。
この男の考えていることは、不本意ながら想像もつかなかった。
ただわかることは、
竜崎は常に、自分を見ていた。自分と、海砂とを。キラと、第二のキラとして。

「・・・今、ワタリに弥を連れて来させています」
「・・・・・・な、に?」

彼の考えが読めず、
月は眉を寄せた。

「私は、今でも彼女を第二のキラだと疑っています。―――そして、あの13日ルールも。もしくは、何らかの理由で、弥海砂には効かなかったと考えています。
 今、私は再び、弥に顔を晒します」
「・・・なんだって・・・?」

わけが、わからない。

「彼女が本当に第二のキラならば、必ず私の名を弥の持つデスノートに書く。―――そこを抑えます」

至って冷静に言葉を紡ぐ竜崎に、
しかし月は動揺したように瞳を揺らした。

海砂が捕まるのは構わない。彼女は今後も一切口を割ることはないだろうし、
今度こそ苛酷な監禁で死んでしまっても一向に構わなかった。
だが、問題はレムだ。
今は、竜崎の思惑も知らずにミサが竜崎に会えば、名を書こうとするのは火を見るより明らかだ。
ミサは捕まる。レムならば、黙ってはいないだろう。
きっとその前に、Lを殺す。
だが、それでは駄目なのだ。
この、竜崎と2人切りの時に彼が死ねば、
真っ先に疑われるのは自分だ。
何より、竜崎を殺すには、まだ早計な気がした。
ただの勘だ。だが、今殺せば確実に、自分に火の粉が降りかかる―――そんな気がする。

「・・・駄目だ」
「どうしてですか」

見据えてくる瞳は、明らかに月を挑発していた。
自分が殺されるのなら、それが一番だろう、と。ミサの容疑として、
自分が直接手を下さずに済む―――そうだろう、と。
だが、月はその挑発に乗ることはなかった。
月は腕を伸ばし、ソファに座る男を背後から抱き締めた。

「ラ、月くん・・・?」
「竜崎。僕には、君が必要だよ。―――キラごときのために、命を投げ出すような捜査なんて、許さない」
「・・・なっ・・・」

予想だにしない言葉に、一瞬戸惑った隙をついて、
月は竜崎を押し倒した。柔らかなソファに、竜崎は乱暴に押し付けられる。
これに一番驚き、焦ったのは竜崎だった。
この部屋の状況は今、監視されている。
それも、キラ対策本部の全員に、だ。
そう、これはすべて、竜崎が練り上げた、夜神月と弥海砂の正体を白日の下に晒す罠だった。
全員をわざとアメリカにおいやったと思わせ、二人きりにする。
誰の目もないならば、本音を晒し、自分を殺そうとするだろうと思ったからだった。
だが実際には、今、月ではなく、自分こそが追い詰められていた。
衆人監視の中。
自分は今まさに、夜神月に犯されようとしているではないか。

「・・・やめて下さい、月くん。この部屋にも、いくつも監視カメラがつけられているんですよ」
「父さん達が帰ってくる前に、すべて処分すれば構わないだろう」
「っう・・・、月く・・・!」

今まさにリアルタイムで監視されているなど
つゆとも思わない月は、

「僕は、命を簡単に投げ出そうとする奴が大嫌いなんだ。絶対に、そんなことはさせない」
「・・・っ・・・!」

ビリ、と乱暴に衣服を破かれる音が、広い室内に響いた。
男の手で素肌を晒される己を、天井に設置された数々のカメラが捉えている。
激しい羞恥を覚えた。
月との関係は、捜査本部の誰にも知られていなかったから。
だが、だからといって、総一郎を始めとする皆に協力を得て、この環境を作ったというのに、
本当の事を月に告げてすべての作戦を台無しにするわけにはいかない。

「・・・っ・・・月くんっ!弥が、来るんですよ・・・!?」
「お前と弥は会わせないよ。彼女を第二のキラと疑うなら、尚更だ。・・・お前を、危険な目には、合わせない」
「っあ・・・!」

顕わになった白磁の肌に口付けられ、竜崎の全身が総毛立った。
首元の、Tシャツから覗くか覗かないかの位置に歯を立てては、音を立てて強く吸う。
嫌な水音と共に、鮮やかに残る濃紅の痕。やめて下さい、と既に掠れた声で竜崎は訴えるが、
一度欲望を感じてしまった月が、そう簡単に彼を手放すはずがなかった。
月は膝を動かし、思わせぶりに竜崎の雄を刺激した。
慣れた身体は、すぐに反応を示してくる。

「・・・っん・・・!」
「竜崎・・・」

耳元で囁かれる己の名が、辛い。
引き込まれてしまう。何にも邪魔されない、2人だけの夜ではないというのに、
ましてやこんな状況下で、馬鹿げている。
セックスなどしている場合ではない。本来ならば、今は、
捕らえるか、殺されるかの瀬戸際のはずなのに。
だが―――。

「んん――ーっ・・・!」

深く口付けられ、竜崎は眉根を寄せた。
引き剥がそうと、手で胸を突っ張るように。だが、抱きすくめられた腕の力は変わらない。
それどころか、重ねられた唇はますます深くなる。
絡む舌が、更に激しさを増した。
何度も何度も角度を変えては、竜崎の口内を蹂躙する月のそれに、
竜崎は息苦しさを覚えた。竜崎は思わず、彼の肩に縋り、ジャケットを引っ張った。

「・・・っは、はっ・・・ぁ・・・」
「やっと、素直になったな」
「っ・・・」

ゆっくりと糸を引いて、月の唇が離される。
楽しげに見下ろす男を睨み付けたが、しかし、頬を赤らめ、涙目になったこの状態では、
竜崎のその姿は月を煽るものにしかならない。
月は、今度は大胆に、手のひらで衣服の上から竜崎の雄をなぞり上げた。

「愛してるよ、竜崎。君も、そう思ってくれるだろう?」
「っ・・・」

ぞくり、と。
身体の奥が、疼く。
低くて、心地の良い甘い声音。至って真摯なそれが、
自分の中の深い部分を揺さぶってくる。
相手は、キラ。その確証を得るためだけに、自分は己の命を餌にしたのだ。
だというのに、殺されそうになるどころか、命を投げ出すような自分の行為を怒り、
そうして愛しているのだと囁く彼。
彼は自分を、本当はどうしたいのだろう。
こんな、自分を殺す絶好の機会を、みすみす逃すような男ではないはずなのに。

「・・・月、く・・・ぁ、っ・・・」

月の手が、竜崎の履いているジーンズの前に手をかけた。
もっと濃密な行為に移ろうとしているのがわかり、竜崎は恥ずかしげにそれを抑えようとするが、
月の唇に肌をなぞられて、耐え切れずに身を竦める。
四方八方から、沢山の視線を感じた。
彼らに、見られている。
だが、自分が不本意に犯されていると思われて助けに来られるのも嫌だ。
かといって、月とこんな汚らわしい関係を持っていたのだと思われるのも癪だ。
できることならば、もう、これ以上先に進んで欲しくなかったのだが、
けれど、月にはそんな言葉は通じないだろう。
最後の逃げ道は、彼に本当のことを告げること。
果たして、どちらが良いのだろう。
羞恥を感じてでも、このまま彼の様子を探ることと、どちらが。

「っ月くん、やめ・・・!」
「竜崎・・・、愛してる・・・」
「・・・っ・・・!」

ジッパーを下ろされる音が、いやに生々しく耳に響いた。
既に裸体を晒している上半身のみならず、全身を素肌にまで剥かれる。それも、月だけの前ではない。
すべて、知っていた。監視カメラの位置を指定したのは、他ならぬ自分。
まさに竜崎は今、
それに向かって生まれたままの姿を晒そうとしている。
耐え難い差恥だった。
ずっと、隠しておきたかった、月との関係。それは、「L」である自分にとって、恥ずべき事実。
自分ですら本当は、認めたくないのだ。
それか、こんな形で他人に知られてしまうなど、
苦痛でしかなかった。それこそ、今すぐ消えてなくなってしまいたいくらいに。

「・・・っやめ、お願いです、月く・・・っ!」

必死に紡かれる、声音。いつになく激しい抵抗に、
けれど月が、竜崎の一番恐れている事に気づくはずもなく、
一瞬怪訝そうな顔をするものの、少しだけ押さえつける腕の力を緩めてやるだけ。
普段のように、竜崎を甘やかそうと伸ばされる手のひら。
泣きそうな程にまで脅え、身を縮こませる竜崎を、
月の大きな手が彼の頭を宥めるように撫でる。
普段なら、不本意ながらも受け入れてしまう優しさも、
けれど今回ばかりは苦痛にしかならなかった。
この状況から抜け出す方法を、竜崎の頭はぐるぐると考えていた。
だが、おそらくは絶対に抜け出せないであろう事を、竜崎の心の底では気づいている。
彼―――夜神月を強く振り払うことのできない自分をこそ、
竜崎は嫌悪した。

「・・・月く・・・!せめてっ、部屋に・・・!」
「待てないよ、竜崎。それに、ミサが来るというのなら尚更だ。―――大丈夫だ、僕を信じろ。終わったらちゃんと、消してやるから・・・」
「・・・っそういうことじゃ、な・・・!」

バサリ、と乱暴に床に落とされる衣服。具体的なことを何も言わない竜崎の言葉が、
今の月に届くはずもない。再び胸元に顔を埋めた月に、
竜崎は唇を噛んだ。瞳をぎゅっと閉じ、目を背ける。いくつもの視線を、極力意識したくなかった。
出来ることならせめて、忘れたかった。だから竜崎は、
己を抱く男の背に腕を回し、しがみつく。
肩口に顔を埋めると、
耳元で男はくすりと笑った。竜崎の頬が染まったが、先の羞恥ほどではない。
竜崎の、甘えるような仕草に気を良くした月は、
頬に唇を落とすと、そのまま滑らかな肌を辿り、唇を重ねた。
何の躊躇いもなく舌を辛め、深く口内を味わう月に、竜崎もまた、意識が遠のくような感覚を覚えてしまう。

「竜崎・・・」
「っ・・・」

目の前の、不敵に笑う男を意識して、
竜崎は背に回した腕に少しだけ力を篭めた。

命を投げ出すような行為を彼は怒ったが、
本当はもう、今更なのだ。もう既に、竜崎は自らの手で己の名をデスノートに記述している。
高田清美の不審死、死神の出現、13日ルールによる夜神月と弥海砂の潔白の証明。
まるですべてが計画されたもののように、
己の推理は音を立てて崩れた。
すべてふりだしに戻ってしまったのだ。竜崎にとって、これほどの痛手はない。
だが、それと同時に―――。
恐怖を感じた。漸く自由になったというのに、
まるで自分を監視するかのように、ますます傍から離れなくなった夜神月に。
弥海砂がノートを掘り出していたことで、その不安は確信に変わった。
自分は、必ず殺される。
月は、変わらず自分を愛してくれていたけれど。
自分の中の正義のためならば犠牲も厭わない、
夜神月はそういう男だ。
だから、竜崎は。
自分の名を、書いた。殺される前に、死の予定を定める―――それしか逃れる方法は思いつかなかった。
あと、20日―――。刻々と迫る期日を前に、
竜崎は急に弱気になった。もちろん、そんな姿を微塵も見せる気はなかったけれど。
遅かれ早かれ、必ず別れの日は、来る。
すべては、自分が望んだ事。自分を命を犠牲にしてでも、
キラという大量殺人犯を白日の下に晒すために。
―――だからこそ。
今の竜崎は、月から与えられる愛情に、弱かった。
本気なのか演技なのか、わからなかった。だが、キラならば、自分を殺したいはずだ。
けれど、それがもし、ただの疑心暗鬼だったら―――?
ましてや本当に、夜神月がキラでなかったとしたら―――?
自分はただの犬死にだ。
それに―――、

「っあ、ああっ・・・ぃ・・・!」
「愛してるよ、竜崎。―――僕の前から勝手にいなくなるなんて、許さない」
「っ・・・」

なんて。
なんて甘く、優しい言葉を吐くのだろう。
どんなに長くとも、あと20日しか触れられない身体。彼の腕の中で、何度幸せだと思ったことだろう。
キラの、くせに。
心の奥底では、一番に自分の死を望んでいるくせに。
―――苦しい。

・・・キ、ラ・・・。

彼を挑発しようと紡いだ言葉は、しかし声になることはなかった。
割られた膝の間に、月は己の身体を滑り込ませていた。
素肌の内腿を、するりと撫で上げられる。一瞬にして緊張したそこを襲う、強い刺激。
月の顔が、己の中心部に埋まっていた。
竜崎の雄に指を絡め、捕らえたそれに舌を這わせる。
竜崎は息を呑んだ。
まさか、いきなり直接的な部分に触れてくるとは思わなかったからである。

「っあ・・・!や、月く・・・!」

自由になった両腕で引き剥がそうと試みるが、
髪に指を差し入れ、力を込めてみても一向に役に立たない。
それどころか、愛撫は強まる一方。広い部屋にまで響くほどの大きな音を立てて、
強く吸われては、舌で絡められる。
男の□内は温かく、竜埼の理性すら惑わされる。
執拗な、愛撫だった。与えられる快感に耐えようと、竜埼の爪先がソファの布に食い込んでは、震える。
逃げようとして、思わず身を揖る竜埼は、
けれど上身以外はすべて月の手に阻まれて、
ぴくりとも動けなかった。腰の奥が、ぞくりと疼いた。

「っや・・・夜神くん・・・!だ、そこ・・・」
「気持ちいい?竜埼・・・」

身を丸くするようにして、立てられる膝。
月の丁寧な口淫によって高められた竜崎の雄は、
まっすぐに天を向き、ぬらぬらと先走りに光っている。
ひくひくと開閉を繰り返す入り口を舌でなぞってやれば、
紅色に染まった肌が粟立った。
耐え切れない、と竜崎の首が無意識に横に振られた。
けれどもちろん、月が愛撫を止めるはずがない。
限界も近く、一段と質量を増した口内のそれを、一層強く擦ってやった。
根元をきつく締め付けるようにしながら、頭を上下に動かし強く扱いてやる。
長く耐えられるはずもなかった。
月と髪に差し入れられた指先が、ぎゅ、と握り締められた。

「ん・・・ぁ、ああ・・・っ!!!」

ひときわ高く響いた、甘い声音。
もちろん、竜崎は羞恥に咄嗟に手で唇を抑えた。
だが、もう遅い。
唇を噛み締めていても、身体の震えが止まりそうになかった。
男の口内に己の精を吐き出すのはこの上ない恥ずかしいことではあったが、
もはや、今更。男は、未だに自分の雄を捕らえたまま、
解放された白濁を呑み込んでいるようだ。
すぐに、熱がぶり返す気がした。
顔をあげた男の、濡れた唇が淫ら過ぎて、直視できない。

「・・・―――美味しい。」
「・・・・・・」

見せ付けるように唇を拭った月は、
あまりの羞恥に顔を背けている男を覗き込んだ。
唇を重ねる。
肩を揺らして苦しげに喘ぐ男の息すら奪うように。
舌を絡めれば、嫌そうに眉を顰めるものの、
さすがの竜崎も抵抗する気力は湧かなかったようだ。ますます深く重ねられれば、
嫌でも耳を襲う卑猥な音。
含み切れない体液が、竜崎の頬を伝う。
濃厚な行為は、更なる熱を互いの身体の奥に宿らせる。
男の背にしがみ付き、やっと辛うじて理性を取り戻した竜崎は、
けれど己の中に宿る熱を、
このままにはしておけないことを不本意ながら感じていた。
男の手で、無理矢理イかされた己自身。
それは、屈辱的な行為であるにも関わらず、確かに後戻りできない程に自分を昂ぶらせていたのだ。
相変わらず自分の肌に突き刺さる、容赦のない人間の視線。
これほど男の手で乱れさせられている自分に、
彼らはどう思うだろうか。

ああ―――。

今回もまた、失敗だ。

「っぁ・・・、ライ、ト、くん・・・っ」

遠慮もなしに、ズプリと突き立てられる男の指先。
長いそれが、正確に自分の弱い部分を擦り上げていた。
耐えられるわけがない。
何度何回、こんな行為を続けてきたかわからない。
性的なことなど、知識としてはあったものの興味を向けることなどなかった自分が、
いつの間にか溺れていた。すべて、この夜神月という男の存在故。
初めて、出会った。自分を、本気にさせる相手に。
こちらの疑いの眼差しにも動じず、
それどころか、愛情まで注いでくれた彼。
本気でなくとも、構わなかった。
自分だって、彼を騙し続けてきたのだ。そうして、ここまで来た。
演技のつもりで、いつの間にか演技ではなくなっていた自分に気づきたくなくて、
ずっとふりばかりしていた。もう、取り繕うことなんて出来ない。
特に、あと残り20日を切った、今の自分には。

「竜崎・・・、すっごい、熱いよ・・・」
「っん・・・ぁ、あっ・・・!」

夜神月は相変わらず、真っ直ぐに自分を見つめ、
そうして愛してくれていた。
愛している、フリをしていた。
だがそれでも、竜崎は十分に幸せだと感じていたのだ。
だから。
彼の本心を覗くことが、怖かった。
自分が息を引き取る、最期の最後に見せるであろう、勝ち誇ったような笑みを見るのが、
怖かった。
この時ばかりは、竜崎は夜神月がキラでない事を祈った。
ああ、本当に。
自分の心がここまで理解しがたいものだったなんて。

「ねぇ・・・。もう、挿れていい?」
「んっ・・・まだ・・・っ、」

大して解れてもいないのに、男の雄を下肢の入り口に押し当てられ、
恐怖心から竜崎の秘孔はきゅっ、と窄まる。
けれど、疼きは止まらない。
先走りに濡れた楔の先端が、孔の周囲を淫らに濡らしていった。
早く、飲み込みたい。
早く、この灼けそうな程の熱に、支配されたい。
我ながら、情けないと竜崎は思った。
同性にいいように扱われ、性の対象として思われ、犯される。そんな屈辱が、
この上ない程に深い快楽に変わるのだ。
夜神月の、手によって。

「ぁ、っは・・・」
「御免・・・、でも、もう・・・っ」
「っん―――!」

ずるり、と狭い場所を押し開くように侵入してくる、雄。
柔軟さの足りないそこを、半ば無理矢理開かされて、
当然のように下肢が悲鳴を上げた。竜崎は思わず目の前の男の胸元を叩いたが、
もちろん、何の意味もない。
宥めるように、キスが降って来た。
こんなもので苦痛が収まるわけはないのだが、
それでも、甘いキスに夢中になれば、少しは気が紛れる。
意識を男に向けるように、首に巻きつけた腕に力を篭めて、
目を閉じる。ようやく力が抜けた竜崎の身体を、
月は唇を少しだけ歪めて抱き締めた。

そうだ、この男さえ殺せば―――。
たとえ今、アメリカヘ発ったという本部の皆に白分かキラであると知られても、
もう、恐れるものはない。彼らを殺そうと思えば、すぐにできる。
もちろん、そんなヘマをするつもりはない。
上手くLを殺し、彼の仇と称して引き続き本部に居座りキラを追う―――。
そういう形に持っていけるのが、一番いい。
そうなのだ。
今なら、殺せる。
誰もいない今、わざわざデスノートで手間をかけるなんて馬鹿げている。
いっそ、この手で殺してしまえば―――。
無意識のうちに、男の背を抱いていた月の手が、
竜崎の喉元にかけられた。
ほっそりとした首を撫で上げ、そうして唇が這う。
竜崎が仰け反ったすきに、喉笛に歯を立てる。
今ならば、簡単に殺せた。
この指に少し力を篭めるだけで、簡単に―――・・・。

「っ・・・」

だというのに、
どうして、震えるのだろう。
どうして、力が入らないのだろう、己の手は。
月は、そんな自分を誤魔化すように、
竜崎の項に手を這わせ、キスを落とした。

「竜崎、・・・」
「・・・・・・月くん、・・・」

奥深くまで貫かれた身体が、熱かった。
引き裂かれるような痛みは、灼けるような熱へと変わり、
地獄の業火のようなそれは、やがてダイレクトに快楽へと変わる。
だが―――。

(やはり・・・貴方は殺したいんですね・・・)

自分を。
キラとして、己の最大の敵である、"L"を。
隠そうとしていても、首回りを彷徨う腕が、その証拠。
そう、計算高い普段の彼ならば、決して見逃すはずのない絶好の機会なのだから。
竜崎は男の肩口に顔を埋め、そうして月の身体の温もりを追った。

「・・・いいんですよ、月くん」

耳元で。
彼にしか聞こえない声音で、竜崎は囁いた。
月は、動かなかった。けれど、一瞬だけ動揺するように身体を震わせたのを、
竜崎は感じた。それだけで、十分だった。

「殺して下さい。貴方になら、私は殺されても構いません」

挑発するように投げ掛ける、言葉。
だが、竜崎にとって、それは全くの嘘でもない。
どうせ、あと20日しか生きられない命。
命と引き換えに、キラの存在を暴くと誓ったのだ。今ここで彼に殺されるのならば、
構わない。皆、見ているのだ。
夜神月はキラ。どんな形であれ、自分の推理は証明される。
それに―――。
例えば、生き残って、夜神月が傍にいなくなったとして、それから?
それから残りの命、どう生きればいいのか、
自分にはわからない。

「竜崎・・・。馬鹿なことを言うのは、もうやめてくれ」
「・・・・・・っ・・・」

だが、そんな竜崎の淡い望みは、当然月には届かず、
少しの失望を胸に、竜崎は瞳を閉じる。
やはり、今回の作戦は失敗だ。
なかなか月の本心を暴けないことに、竜崎は気づかれないように溜息をついた。

「・・・夜神、月・・・」
「もう、何も考えるな。僕だけを見て、そして感じてくれ」
「っん・・・!」

深く抉られたそこを、更に深く。
既に苦痛を忘れていたそこは、喜んで男の雄を受け入れた。
脳すら融かすような卑猥な水音と、乾いた肌の弾ける音。そして互いの、乱れた吐息。
もう、言葉に意味はなかった。
どうせ、このまま続けていたって、互いの真実は見出せないのだ。
二人とも、もう嘘は聞き飽きていたし、つき飽きてもいた。今、唯一信じられることといえば、
触れ合う部分から伝わる熱、ただそれだけ。

「竜崎、・・・」
「っ・・・は、あ・・・っ・・・!」

両の膝裏を押し上げられ、竜崎はこれ以上ない程の痴態を月の目の前に晒していた。
男の背に隠れて、監視カメラに映らないのがせめてもの救いだった。
隠れるように、竜崎は月の肩にしがみ付く。
それに応じるように、ますます強められる男の腕。

「・・・っ・・・、竜崎、いいか・・・?」
「・・・月、く―――・・・!」

深くまで貫いては、ギリギリまで腰を引いて。
交互に襲い来る充足感と虚無感に、
頭がおかしくなりそうだ。常に制御できていたはずの感情が、
己の意志とは無関係に他人の手で引き摺りだされる瞬間―――。

「っあ・・・も―――、うっ・・・!」
「中に・・・、出してもいい?」
「っ・・・―――」

耳元に唇を落とされて、そのまま激しく重ねられる口づけ。
乱暴としかいいようのない月の責めは、けれど竜崎の欲望を弾けさせるには十分だった。
熱い奔流に、押し上げられる感覚。
最高潮へと達する瞬間、竜崎は指先1ミリすら動かすことができなかった。
痺れるような刺激と共に、
腰の奥にどろりと熱を持った体液が広がるのを感じた。

「っ・・・ぁ、はぁ・・・っ・・・」
「竜崎・・・」

どうすることも出来ないまま、
竜崎は男の腕の中で瞳を閉じた。
もう、何を言う気も起きない。月に対しては去ることながら、
この一部始終を見ていたであろう、捜査本部の面子にも。
その時、アラームが鳴った。
ビルの入り口を映していたモニタに、ワタリに連れられたミサが見えた。
本当は、死神の目を持つミサに、己を晒すつもりだった。
だが、今となっては―――。

「・・・・・・、」
「ここにいろよ。僕がうまく言っておくから」

対策室を出て行く月の背を、竜崎は何も言わずに見送った。
漸く一人きりになった部屋に、鳴り響くのは通信機。
誰からなんて、考えなくともわかる。
脱力した身体を持て余す竜崎は、
始め、ただそれを呆然と見ていただけだったが、
やがて諦めたようにだるい腕を伸ばした。

「・・・・・・はい」
「・・・・・・・・・・・・次の指示を待っている。・・・L」
「・・・・・・」

何も言われないことが、逆に苦痛だった。
だが、かといって、責められるのも辛い。L、と呼ばれたから、尚更。

そう、自分は、L、なのだ。
つかの間の快楽などに、溺れている場合ではない。
キラという凶悪犯罪者を白日の下に晒す、それが使命。
だが、だからこそ―――・・・、

辛い。

「夜神、月・・・」

受話器を元に戻した竜崎は、
再びソファの上で身体を丸め、膝を抱えたのだった。





end.





Update:2006/11/13/MON by BLUE

PAGE TOP