快楽の在処



・・・隣で、なにやらごそごそとウゼェ音がする。
起きてぶん殴って黙らせてやりたいが、どうも身体が思うようにうごかない。
ああそういえば、今は寝起きだったなと思い出して、
自分のベッドの感触を確かめる。ああ、確かにここは俺の部屋だ。
だが、それでは、隣の妙な気配はなんなのか。



けれど振り向くのも億劫。
体に残るけだるさが、もう少し休息を要求したのだろう、静雄は目を閉じて再び夢の世界へ身を委ねようとする。
だが、残念ながら、そううまくはいかなかった。

「フーンフンフン♪」
「・・・(怒)」

隣から聞こえてくる鼻歌。
こちらがどういう状況かも気にせず、呑気に自分の世界に浸っているらしい【誰か】に、
静雄は早々にブチ切れた。
額に浮き上がった血管は、寝惚けた脳に大量の血液を送り込み、一気に彼を覚醒させる。
頭で何かを考える前に、腕が動いた。隣でうつ伏せになりながら、携帯を弄っている青年に、
無邪気に足をバタつかせてにやにやしている黒髪の彼に、

「あああああ!うるせぇぇええ!」
「あ、シズちゃん、起き・・・っイタタタタタ!!!!!」

静雄の隣で携帯を弄っていた男―――折原臨也は、突然受けた頭への衝撃に、
己の頭蓋骨がミシリと悲鳴をあげるのを聞いた気がした。

「イタイ、イタイよシズちゃん!」
「って。。。お前、臨也!???????」

顔面を枕に押さえつけているから、ほとんど相手の表情は見られない。
だが、静雄は今、互いに何1つ身に着けていない状態の相手の姿を、その小さな頭と声だけで正確に理解した。そして、理解したと同時に、怒りとはまた別の、困惑した感情が沸き起こる。

「な・・・!?臨也!!テメェまさか俺の寝込みを・・・!?」

静雄はあまりに非常識な状況に肩を震わせた。
それもそのはず。今、なんの警戒もせず己のベッドに寝転んでいたのは、他でもない、自分がこの世で一番嫌いな男。
顔さえ見れば全力で殴りかからずにはいられない程とにかくムカついてムカついて仕方のない男なのだ!
誰が好き好んでこんな奴をベッドに連れ込むというのか!
有り得ない。そう、とにかく有り得ない。
それならば、こんな有り得ない状況に自分を貶めたのは、この男が原因である事以外考えられなかった。

「イザヤぁぁあああ!テメェ、俺にナニしやがった!」
「ちょ・・・その前に!!手!!離さないとマジで死ぬよ!こんな大嫌いな俺のせいでシズちゃんムショ入りだよ!?」
「・・・ち・・・」

もし、静雄があとほんの少しだけでも臨也の頭を掴む力を強めていたなら、
臨也の頭はまるでトマトのようにかち割れていただろう。
だが、静雄は無理矢理己の身体を従わせ、どうにかこのまま臨也の頭を握り潰したい衝動を抑えた。
この、自分どころか人間にとって有害なノミ蟲を殺せるなら、
ムショ行きもいいかとほんの一瞬思ったが―――。
一般人の数十倍もの力を持つ彼は、一般人の数十倍、常識的な男だった。
ただ、平和で日常的な生活を送りたい。
喧嘩沙汰になるようなことは嫌いで、ただただ静かに暮らしたい、それだけが望み。
自分を心配してくれる人間や家族を悲しませるような事は、
絶対にしたくない男だった。
ただ―――、勿論、『彼自身が望まない』だけの話ではあるのだが。

未だ解放されてはいないが、それでもとりあえずは、呼吸出来るほどまで拘束の腕を緩められた臨也は、
眉をひそめながら、己を押さえつけている男に視線を投げかけた。

「ナニした、って・・・そういう言い方は酷いなぁ。・・・そもそも、『ココ』に誘ったのはシズちゃんだけど?」
「はぁ・・・?何がどうなって・・・」

言いながら、静雄は改めて、自分の頭がガンガンと痛いことに気づく。
そうだ、昨晩は・・・・・・。
昨晩は、夜が更ける事まで、来神の同窓仲間たちと飲んでいた。
誰が企画したのかは覚えていないが―――
静雄は新羅に呼ばれて、なんとなく暇だったから顔を出してみたのだ。
そうして、そこに『何故か』臨也もいた。
静雄と臨也が犬猿の仲だということは、池袋の人間ならば誰もが知っている。
新羅が静雄を誘ったと知った時、
無用なトラブルを避けようと、臨也を敢えて誘う者はだれもいなかったはずなのだが・・・。
さすが情報屋というべきか、
それとも、仲間外れにされるのは心外だったのか。
何食わぬ顔でやってきた折原臨也は、
当時から変わらぬ、人を小馬鹿にした表情で、
「やぁ、シズちゃん」と言って彼を挑発してのけた。

・・・そうだ、思い出した・・・。
静雄は、ギリギリと奥歯を噛み締めて、目の前の憎らしい男を睨みつけた。
あの時、臨也の姿を見つけた静雄は、いつも通りキレて暴力を振りかざすはずだった。
だが、その瞬間に、彼らの周囲には、それなりに彼らの扱いに慣れている者たち。
新羅を筆頭に、どうにかその場は静雄を嗜め、
表面上は和気藹々とした同窓会に興じていた。そのはずだった。
だが。

「臨也、テメェ・・・まさか」
「やだなぁシズちゃん。本当に覚えてないの?
 っていうか、俺を部屋に連れ込んだのはそっちなのに、何被害者ヅラしてんのさ」
「はぁ?!俺が、なんでお前なんか・・・―――っッ!」

静雄の意識が記憶を辿ることに集中した一瞬の隙をついて、
臨也はうつ伏せに押さえつけられていた身体を反転させ、腕を伸ばした。
伸ばした先には、男の頭。
驚いて何が起こったかわからないでいる静雄の身体を引き寄せて、
唇を近付ける。薄い唇同士が、重なり合う。
口の端を歪めた臨也が、ピチャピチャと音を立てて男の口内を蹂躙していく度に、
静雄の眉間の皺が何重にも刻まれていった。と思った矢先、乱暴に掴まれる臨也の顎。

「っ痛―――ぅ、」

残念ながら、いかな臨也でも、静雄の暴力に対抗などできない。
だから、こうして逃げる≠アとのできない状況に陥ってしまうと、
臨也にはもうどうすることも出来なかった。
このような状況下になって初めて、臨也は自問自答する。
【人間】すべてを愛しているはずの自分が、唯一苦手とし、大嫌いだと公言する平和島静雄。
普段は、彼を潰すために、いつだって全力を尽くしている。
自分の力≠ナ彼を殺せるなら一番いい。
だが、残念ながら得意のナイフでは、彼の身体を貫けない。
となれば、後は組織力で彼を潰すだけだ。その為に、どんな努力も惜しまなかった。
けれど、
自分は幾度となくそんな男の顔を拝みに行っては、
この男のみるみる歪む顔を楽しんでいるのだ。
この矛盾した、歪んだ感情。
波江ならば、ただ単に『頭がおかしい』と評するだろう。
ああ、わかっているさ。
元々、中身がおかしいことくらい。

「ざけんなよ・・・ノミ蟲ィ・・・」
「シズちゃ・・・、ほら、見てみなよ・・・俺の、ナカをさ?」

臨也は、昨晩男に散々差し出した己の奥を惜しげもなく差し出した。
恍惚とした表情で、細い指先を宛がい、軽く押し広げるだけで溢れてくるものは、どろりとした白濁。
これでは、もはや反論のしようがない。
静雄は、己のしでかした事実に青ざめると同時に、再び欲望を覚えた下肢を意識する。
自分の殺したいほど嫌いな男に己のモノを突っ込んでいたという事実は、
不意に支配欲という、人間の歪んだ欲望を刺激した。

殺したい。だが・・・
その前に、屈辱に歪んだ顔を見てみたい。

そう、だから、昨晩は酔った勢いのまま、臨也を連れ込んだのだ。
あちらも酔いが回って、調子のいい事をべらべらとしゃべっていたから、
それに乗じて誘いをかけた。
そうして―――・・・
彼が嫌がる程に、激しいプレイをこれでもかというほど叩き込んだ。

「そういやぁー・・・いろいろ、傷できてんな」
「そうそう。被害者はこの俺。見てみなよ、この手首とか尻の青痣とか傷とか!このままゴーカンされたとか言ってケーサツ駆けこんだら、シズちゃん終わりだよね」
「うるせぇ」

テメェなんか、警察に言ったところで、逆に逮捕されるだろうが、と
至極最もなことを言い放ち、静雄は再び灯った、己の中の性欲に、にやりと唇を歪ませた。
―――そうだ、こいつは、『イイ』んだ。
そう、だから今でもこんな関係を続けているのだとわかっている。
―――他の、女たちとは違う。
少し力を込めればすぐに手折れてしまう、花などではない。
静雄にとって、唯一全力を出し切れる男。
いつもいつも力をセーブすることに意識をしている静雄にとって、それは
ひどく魅力的だった。
本気の殺し合いが出来る相手。本気の喧嘩が出来る相手。本気の・・・が出来る相手。
―――どうせ、こいつが壊れたって悲しむ奴はいねぇしな。
この時ばかりは、家族想いの静雄らしからぬ意見を脳内で呟いて、
再び臨也の頭を押さえつけ、うつ伏せに押さえつける。
ぐぇ、とカエルのような声をあげる臨也を無視して、今度こそ意思を持って臨也の身体に侵入する。

「っくぅ―――・・・シズ、ちゃ・・・デカいって・・・」
「ああ?!だったらそのまま死ねよ、ノミ蟲」

自分もまた、臨也の狭い箇所の収縮にすぐに追いつめられている静雄は、
唇を噛み締めて、息をつく。そうして、最奥を目指すべく容赦なく体重を込めていく。
苦痛に歪む臨也の表情は、男を受け入れるにつれ、
ひどく快楽の伴ったそれへと変わっていく。
普段の、余裕ぶった表情が歪む瞬間が、静雄の一番の楽しみだった。

「ぅあっ・・・シズちゃ・・・!」
「このド淫乱が・・・オラ、もっとケツ振れよ!」
「ヒド・・・シズちゃんサイテー・・・」

臨也の、必死に紡いだらしい言葉を引き金に、更なる暴力じみた行為の波が臨也を襲う。
だが、それを心地よいと思う位には、臨也も静雄との行為を重ねてきている。

(・・・ああ、俺ってホント変態ー・・・)

妙に冷静なことを考えながら、
臨也は、男のもたらず大津波に身を委ねていた。










end.





臨也ってドMですよね。
一見ドSだけど。苛められたくて嫌がらせしてるんだもんwww
人間への歪んだ愛情も、苛め抜くのが楽しいんじゃなくて、
無邪気に人間の反応を楽しんでるだけっていうか。

ていうか、臨也の常に「シズちゃん」呼ばわりが萌えます。
そんなに静雄との仲良しっぷりを表現したいのね!ツンデレですね!!!





Update:2010/04/19/WED by BLUE

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