Missing...



来るは、深淵の闇。
日付も変わったその時間、
青年が規則正しい寝息を立てる頃。

決まって『彼』は目覚めた。

それは、太陽が地平線に昇るまでの僅かな時間。
ゆっくりと身を起こし、その瞳を開く。
おさまりの悪い金髪に、宝石のように冴え冴えとした『青』の瞳。
『彼』は、己の両手を見、
数回、閉じたり開いたりを繰り返した。
まるで、感覚を確かめるように。
まるで、その身体が己のものであるかを確認するように。
やがて、『彼』はベッドから降り、
部屋の窓に近づいた。

ここは幸い、1人部屋だ。
だから、誰1人として、この男の不審な行動に気づかなかった。
先ほど、度重なる戦闘で疲れたように眠りについた男が、
数分もしないうちに、
目覚め、そうして、
普段の彼とは似ても似つかない笑みをつくる。
そう、それは。

明らかな、別人格。

「・・・いいよ、セフィロス」

ガタリ、と音を立てて、窓が開け放たれる。
仲間たちが聞けば、驚愕しただろう。
『彼』が口にしたのは、
青年らが追い、敵として憎み、その野望を阻止しなくてはならない相手なのだ。
そして何より、
セフィロスを誰より憎んでいたのは、
5年前の悪夢を経験した彼自身ではなかったのか。

ヒュ、と風を切る音がした。
そうして、青年の足元には、黒い色の羽根が1枚。
それは、みるみるうちに増幅し、1人の人間を形づくる。
セフィロス―――。
黒いコートに、銀に輝く長い髪。
紛れもない、かつての神羅の英雄、セフィロス。

「・・・クラウ、ド?」

立ち尽くしたまま、ただそれだけを呟く。
呆けたように自分を見つめる男に、『彼』―――クラウドは笑みを傾けた。

「来てくれたんだね、セフィロス。」
「・・・お前、何故・・・」

なんの躊躇いもなく触れてくる腕に同調できず、
セフィロスは疑問を投げつける。
何故なら、今のクラウドは、ただ操り人形。
その内に在るジェノバに逆らえず、感応する意志のままに動く、
いわばセフィロスの傀儡のようなもの。
それでも、他のセフィロス・コピーとは違い、
見せ掛けのような『自身』の意識は存在していたが、
人間にしては希薄で、自分から何かを強く求めることもない、機械のような感情。
そう、それが、
今の『クラウド・ストライフ』。
5年前の歪んだ感情を頼りに、
仲間と共にセフィロスを追い続ける、自称・元ソルジャー。
だが、今、自分を室内に招き入れ、
あまつさえ確かめるように身体に触れてくるクラウドは、
明らかに普段とは違う。
その瞳の強い光はなんなのか。

「・・・なんだ、わかってたから、来てくれたんじゃないんだ?」

くすくすと笑って、抱き締める。
その、からかうような口調は、かつてのクラウド―――5年前まで、
確実に己と共にあった少年を思い起こさせ、
胸が苦しくなった。
そう、愛していた。あの、すべての真実を知ったあの日、
一瞬でも少年の存在を忘れてしまったことを、
セフィロスは後悔してもし切れない。

「クラウド・・・本当に、『お前』なのか?」

曖昧な、非常に漠然とした問い方だった。
だが、クラウドには伝わったようだ。口元に笑みを刻み、ますます腕の力を強めてくる。

「ああ・・・セフィ。俺だよ。ソルジャーなんかじゃない、ただの、つまらない兵卒だった俺だ。」

その科白に、ますます、セフィロスは戸惑う。
元ソルジャーだと、皆を騙し続けるクラウド。だが、
それはジェノバが狂わせたクラウドのかつての記憶に基づいている。
クラウド自身、気づいていなかったはずだ。
自分が、本当は、ただの一兵卒だったなど。

「・・・そう。俺はね、まだ、自由になれないんだ」

アンタのせいだよ、と耳元で囁かれ、背筋がぞくりと震える。
そのまま、耳の裏側にあたる濡れた感触。
首筋に沿って、舌でなぞられる。
そうして、顎。
次に、唇。

「・・・んっ・・・く、・・・」

重なる、柔らかな肉。すぐに入り込んでくる、熱く濡れた舌。
逃れようもなかった。逃れるには、求め過ぎていた。
まだ、心は受け入れる準備ができていないまま、
身体が感じ始める。
かつて、何度も与えられた行為。
忘れかけていたはずの快感に、酔わされる。

「ク・・・ラ、ウド・・・っ」
「あんたの意志と、俺の中のジェノバとの共鳴が強すぎて・・・、このザマだ。俺のカラダは、アイツに乗っ取られちまったんだよ。弱くて、バカなアイツにね」
「っあ・・・!」

忌々しげに、吐き捨てる。
乱暴に唇を貪られ、苦しさにセフィロスは眉根を寄せた。
壁に押付けられれば、抵抗できなくなる。
クラウドの激情に、翻弄されてしまう。

「おかげで、こうしてアイツが眠ってる時ぐらいしか、出て来れなくなっちまった。あんたの存在を感じても、動くことができないなんて、馬鹿げてるよな」
「んっ・・・ぁ、やめ・・・!」

服越しから、その部分をぐっと掴まれて、
セフィロスは悲鳴に近い声を上げた。
個室とはいえ、隣はクラウドの仲間達が眠っているはずだ。
自分とは気づかれずとも、羞恥に頭に血が上る。
だが、クラウドはそんなことなどお構いなしのようだ。
悲鳴を上げるセフィロスに更に欲を刺激されたのか、
肌蹴させた白磁の肌にいくつものキスを与えていた。朱に散る、それは花びらの様。

「まぁ、身体くらい、いつかは取り戻してやるさ。けど、それには時間が必要だ。俺の身体に巣食うジェノバの意志。すなわち、あんたの望みが叶うまでは・・・」
「っあ・・・、・・・え・・・?」

不意に、クラウドがひざまづいた。
突然のクラウドの行動に戸惑うセフィロスは、
しかし、見上げる青年の瞳の色に魅了された。
目が、離せない。
それは、奥の奥まで覗き込める程に透明なブルー。
かつて、愛した男のそれ。

「・・・セフィロス。あんたの望みは・・・何?」
「・・・私の、望み・・・?」

躊躇うセフィロスをよそに、クラウドは自ら支配者の靴を舐めた。
貴重な宝でも扱うように、頭の上にそれを掲げ、
ゆっくりと紐を解いていく。
セフィロスは壁に凭れながら、クラウドの不可解な行為と投げつけられた疑問に瞳を揺らした。
望み。
真実を知ったあの時から、
母―――ジェノバの意志に従おうと決めた。
ジェノバは、宇宙より星に降り、やがて星を支配する存在。
だが、愚かにもそれに抗い、あまつさえその力を利用しようとしていた者達がいる。
くだらない人間共。全てを消して、母に相応しい星を作りたかった。
母と、自分と、そして各地に散らばったコピー達の世界を。

「・・・お前なら、わかっているだろう」
「違う。俺が言っているのは、アンタが、この『俺』に望むこと、だ」
「お前、に・・・?」

コピーとしての自分ではなく。
ジェノバに支配されたクラウドではなく。
かつて共にあった、本当の『クラウド・ストライフ』に―――。
自分は、何を望むのか。
顔を上げたクラウドは、困惑するセフィロスを惑わすように笑みを浮かべ、
今度はかれの中心部に唇を近づけた。
服越しからも、わかる。
それは、着実に、快感を求めて熱を持っているのだ。

「っや、め・・・ろ・・・!」
「セフィロス・・・」

自己主張を始めているその部分に、歯を立てて。
噛むようにして刺激を与えてやれば、逃れようとクラウドの頭に腕が下りてきた。
だが、身を捩ろうにも、クラウドの腕は彼の両足をかしりと抑えたままで、
壁とクラウドに挟まれ、セフィロスに逃げ場はない。
朦朧とした頭の中で、先ほどのクラウドの言葉がリフレインする。
私の、『クラウド』に対する、望み・・・?
碧の瞳が、水面に浮かぶ波紋のように揺らいだ。

「じゃあ・・・さ。なんで、ここに来たの?セフィロス」

ボトムのベルトを緩ませながら、布越しのもどかしい愛撫を与え続けるクラウドに、
セフィロスは翻弄される。

何故、ここへ来たのか―――。

確かに、呼ばれたと思ったのだ。
世界各地に散らばるセフィロス・コピー。だが、意志のないそれらに対し、
曲がりなりにも1人の人格を保って動いている、異質な存在。
初め、どんな失敗作だろうと思った。
気になって、初めて「彼」を目にしたその時、
セフィロスは愕然とし、そして強い後悔に身を浸した。
クラウド―――。
愛していた。大切だった存在を、あの時置き去りにしたばかりに、
宝条の手にかかり、多量のジェノバを植えつけられ、
そうして、一命は取り留めたものの、既にその意識を取り戻したときには、
かつての『青』い瞳はなく。
高濃度の魔晄に色づけられた、『蒼』の瞳は、
歪んだ過去の記憶と共に、まがいものの人格を作り上げていた。
彼が、『クラウド』でなくなった瞬間。
だというのに、

声が、聞こえたのだ。
聞き間違いかと思うほどの、小さく儚い声音だけれど。
確かに。
自分の求める存在の、その声が―――。

「・・・・・・ク、ラウド・・・」
「あんたのカラダは、あんたよりよっぽど素直だぜ。俺が欲しいって、泣いて求めてる。」
「っあ・・・!!」

ついに、ボトムの前が肌蹴られた。
クラウドの歯が、ジッパーをゆっくりと下ろしていく。
露わになった下着の前は、クラウドの言う通り、セフィロス自身が零した涙によって
既に濡れた様相を見せていて、
クラウドは笑みを浮かべた。
羞恥にいたたまれず、セフィロスが横を向く。

「や、めっ・・・」
「ねぇ、セフィロス。俺も、同じだよ?」
「っえ・・・」

身を起こしたクラウドが、セフィロスの揺れる瞳を覗き込んだ。
薔薇色に染まる頬に、キス。
そのまま、セフィロスの身体を壁に押し付けるようにして、
肌を重ね合わせた。
布越しのその部分に確かに感じる、クラウドの雄。
それは、己の熱以上に既に張り詰めていて、
別の意味でセフィロスは頭に血を上らせた。

「寂しかった。あんたに会いたくて、四方を壁に囲まれた部屋で何度もあんたを呼んだんだ。そしたら、あんたが」
「っぁ、・・・んっ・・・」
「・・・あんたが、来てくれた。これで、どうしてあんたに触れずにいられると思う?」

ついに、セフィロスの下肢の布が全て取り除かれた。
足下にひっかかったままのボトムは本来の役目を果たさない。
露わになった彼自身が、冷やりとした空気に触れる。
だが、それもつかの間。
クラウドの両手が絡みつき、快楽を引き出そうと淫らな音を立て始めた。
耳を犯すような淫靡なそれと、直接的な刺激に、
セフィロスは立っている事すら苦痛に感じる。
膝が、がくがくと震えた。
今立っていられるのは、青年が支えているおかげだ。

「だから、セフィロス。あんたも見せてよ。あんたの真実を。俺を感じて乱れる、あんたの全てを」
「・・・っぁあ、クラウ、ドっ・・・!!」

再び屈みこんだクラウドは、殊更にゆっくりと、セフィロスの雄を口内に含んだ。
勃ち上がりかけているそれは、先端を蜜に濡らしている。
舐め取るように、舌を這わせて。
舌先で鈴口をくすぐり、飴玉のように亀頭を含む。
ますます涙を零し始めるそれは、クラウドの中で質量を増していった。

「・・・セフィ・・・」
「・・・っく、・・・もぅ、無理・・・」
「達っていいよ」
「っや、ダメ、だ・・・っ・・・」

青年の口の中で達することを否と叫ぶ男は、
いやいやと首を振り、必死に下肢を襲う衝動に耐えている。
片手は壁に爪を立て、もう片方はクラウドの金の髪に。
だが、そんな状態のまま耐えられるはずもないことは、セフィロス当人が一番わかっていた。
強く吸い上げられ、熱を吐き出したい衝動に拍車がかかった。
クラウドは、一向に離してくれる気配がない。
嫌だ、ダメだ、と抵抗ばかりが頭の中を渦巻く男に対し、
本来己が支配しているはずの身体は、かれの心を見事に裏切っていた。

「―――ぁ、だめだっ、離せ―――っく・・・!!」

止むことのない液体の弾ける音と、
直接的に与えられる逃れようのない快楽に、
セフィロスはあっけなく果ててしまっていた。
だが、それもそのはず。
ライフストリームに呑まれ、長い時間をかけて己が肉体を取り戻したものの、
愛したはずの少年は既にその人格を奪われ。
クラウドであってクラウドでないその存在に、
どれほど絶望したかわからない。
それが、今。
夢でなく、現実として、共にあるのだ。
今にも溢れそうなこの想いを、どうして抑えられるだろう。
そう、どう足掻いても、無駄なのだ。

「クラウド・・・」
「なに?セフィロス」

セフィロスの身体を支えて、唇にキス。
青年の口内は、まだ男の放った精に濡れていて、
舌先に感じる味にセフィロスは顔を顰める。
でも、それでも。
おずおずと腕を回すと、クラウドの背がそこに有った。
かつて、永遠に共に在りたいとすら願った存在の腕の中で、
セフィロスは目を閉じる。
己の使命を忘れて敵であるはずの男とこんな行為をしていることに、恐怖を覚えた。
けれど、それ以上に、セフィロスの胸が、期待に打ち震えた。

「・・・もう、少し・・・傍に、いさせてくれ・・・」
「セフィロス・・・」

再び唇を塞ぐクラウドのそれが、
セフィロスの理性を摩滅させていった。










薄暗い部屋の中、
ベッドに広がる銀糸が、ひどく美しいと思った。

既に、横たわる男の身を隠すものはなにもない。
5年前と同じ、傷一つ見当たらない、滑らかな白磁の肌。
その上に、数え切れない程落された紅。
クラウドが与えた、所有印だった。
次に逢うまで消えないようにと、同じ場所に幾度もそれを刻んで、
青年は少しだけ寂しそうに微笑む。
胸が、高鳴った。
一度、イかされてしまった身体は、もはや箍などない。
抵抗など、するだけ無駄だ。
だからセフィロスは、逃げる代わりに、羞恥心から耐えようとクラウドの首にしがみつく。
指先が、すぐに熱をぶり返し始めた雄に触れる。
耳元でくすりと笑われ、セフィロスはますます頬を染めた。

「そんなに張り付いてちゃ、何もできないよ」
「・・・ん・・・っ、でも・・・」

身体をずらし、胸上の飾りに歯を立てる。
キツめに噛み付いてやれば、痛みに身を竦めるセフィロスは、
しかしひどく淫蕩な表情を浮かべた。
それが、ひどく嬉しくて、いつまでも見ていたくて。
クラウドはセフィロスの顔を覗き込みながら、
片方の手を男の下肢の奥に這わせた。
張りのある筋肉に隠れた、その秘められた部分に指を触れる。

「・・・ぁ、そこ、は・・・!」
「可愛い、セフィロス・・・」

緊張に身を竦ませるかれの身体を、キスを与えることで緩ませて、
そのまま、狭い内部に侵入していく。
足を閉じたくとも、既にその間にはクラウドが存在していて、
セフィロスは羞恥に顔を背けた。
けれど、まるでイキモノのように内部をかき回すそれは、
容赦なくセフィロスの弱い部分をなぞっていく。
次の高まりがすぐ目の前に迫っている事に、
セフィロスはクラウドの背に強くしがみついた。

「っクラ、ウド・・・ぁ、もう・・・っ」
「もう?ちょっとハヤすぎだろ?」

からかうような吐息が耳をくすぐる。
舌で耳殻を嬲られ、ますます中心部が熱を持つのがわかった。
肛内では、ぐちゃぐちゃと耳を塞ぎたくなるような淫らな音。
不意に、クラウドの指が折り曲げられ、セフィロスは仰け反った。
その瞬間、ずっ、と音を立てて入り込む2本目の指。
セフィロスは唇を噛んだ。
収縮を繰り返す内部を更にかき回し、拡げて行くそれは、
限界に震えるかれにますます追い討ちをかけた。

「っ・・・ダ、メだっ・・・も、ムリ・・・!」
「しょうがないな」

次は一緒に、と考えていたクラウドは苦笑し、
セフィロスの望みを叶えてやることにした。もどかしげに雄に絡めていた指で、
根元から先端までを一気に擦り上げる。
何度か繰り返せば、既に達する寸前だったセフィロスの柳眉が
淫らに顰められた。
こちらも、強くセフィロスの身体を抱き締める。
甘く忙しない吐息が耳元で聞こえた。

「っぁ、あっ―――、・・・!」
「セフィ・・・」

頬を染め、快楽に煙る瞳がひどく蠱惑的で、
思わずクラウドは唇を重ねていた。
びくびくと痙攣する身体が、クラウドの腕の中で果てる。
2度目の精を吐き出した男は、
もはや息も絶え絶え、と言った様子で瞳を閉じ、
浅い息をついている。
けれど、クラウドは、
気だるい快楽に身を任せているセフィロスをそのままにして置くつもりはなかった。
自分もまた、セフィロス欲しさに欲望が渦巻いていた。
それこそ、彼が壊れてしまうまで、離すことなど出来ない程に。

「セフィロス・・・俺を見て・・・」

両膝を胸につく程まで抱え上げて、
クラウドはセフィロスを覗き込んだ。
キツい体制に男は顔を顰めたが、あえて何も言わず、
己を見下ろす青年を見つめる。
強い光を放つ『青』の瞳には、狂気に近い欲望と、熱と、そして真摯さ。
本当に、クラウド―――なんだな。
セフィロスは、胸の内が、ひどく安堵しているのを感じた。
全て失ったとばかり思っていた大切なもの。
それが、こうして、元通りとはいかなくても確かに存在しているのだ。
そんな彼が、自分を求めてくれている―――。
奇跡、と言ってもいいだろう。
たとえ敵同士だろうと、
これだけは譲れない。傍にいたいという想い、共にいて幸福だと感じるこの心だけは―――。

「クラウド・・・」

名を呼ばれ、導かれるようにクラウドはセフィロスの内部に侵入を果たした。

「熱いな・・・あんたの中は・・・」
「―――っ・・・く、ら、うど・・・・っ・・・」

強い締め付けに、クラウドの眉が潜められた。
だが、それはセフィロスの内襞が絡んだ故に湧き起こる、快楽に耐える為。
ゆっくりと確かめるように内部を侵食していく青年は、
まるで獣のように舌で唇を濡らした。

欲しいものが、今、腕の中に在る。
セフィロス、という存在。身体だけではない、そのすべてが此処にある事実に、
クラウドは口の端を持ち上げた。
なぜなら、これは。
『本当』の、セフィロスの肉体ではないのだから。
5年前、あの忌まわしい事件の過程で、
セフィロスの肉体は滅んでしまった。
あの、セフィロスの身体に剣を突き立てた感触はあまりにもリアルすぎて、
思い出せば今ですら狂いそうになる。
セフィロス。
あれほどに焦がれ、求めて、愛し続けた存在を、
たった一瞬の激情に任せて刺し貫いてしまった自分が許せず、
クラウドは幾度も強い後悔に身を浸す。
だが。
セフィロスは生きていてくれた。
たとえ当時の肉体が滅ぼうと、ジェノバの意志によって生まれ変わった存在であろうと、
それは、『セフィロス』なのだ。かつての記憶もそのままに、
新たな身体を構築したセフィロス。
そうして、今。
目の前に在るのは、思念体。セフィロス自身の意志により生み出された、
もうひとりの『彼』なのだ。
自分に逢う為だけに生み出された存在―――。
純粋な彼の『心』が、此処に在るのだ。
離せるわけがなかった。
離せるはずも、なかった。

・・・セフィロス。

何度もセフィロスの身体を穿ちながら、
『クラウド』は奥歯を噛み締めた。

夜が明ければ、また己の身体を支配するのはあの忌まわしいジェノバ細胞。
セフィロス・コピーとしてのクラウドが目を覚まし、
そうして、歪んだ記憶と共にセフィロスを追うのだろう。
彼の『望み』を叶える為に。
だが。

「なぁ、セフィロス。俺だって、あんたの望むことならなんでもしてやりたいと思ってるよ。」
「・・・クラ、ウド・・・?」

快楽の波の挟間に紡がれる言葉に、
セフィロスは不思議そうに瞳を揺らした。
大して、理解はできていないのだろう。
それでもよかった。
ただ、言葉にしたかっただけなのかもしれない。

「でも、あれはアンタ自身の意志じゃない。―――そうだろ?」

世界を滅ぼす為に、メテオを呼ぶことは。

ジェノバ―――星の災厄。それの細胞を根深く受け継ぐセフィロスは、
己以上に、ジェノバの意志に冒されている。
世界の終わりなんて、きっとセフィロスは望まない。
望んでいるのは、ジェノバだけなのだ。

「あっ・・・っは、っく・・・!」

もはや、セフィロスは応じることはなかった。
多分、もう、聞こえていないだろう。
けれど、クラウドは構わず続けた。

「だから、俺は抗う。あんたに。あんたを巣食う、ジェノバに。」

敵対したいわけじゃない。
ただ、あんたを救いたいだけなんだ、と、吐息に乗せて呟く。
憎んでいるわけじゃない。憎んでいるはずもない。
あれほど焦がれた存在。
簡単に憎めるはずがなかったのだと、今更のように思い返す。

そう、ただ。

止めたいだけなのだ。自分の意志もなく、ジェノバに振り回されるセフィロスを。

いや、違う。

戻ってきて、欲しかった。
自分の元に。人間として共に生きた、あの5年前と同じように。
ジェノバなど関係なく、ただの人間として―――。

―――セフィロス。俺は・・・





『・・・?な、んだ・・・?』





「・・・!!」

ドクン、と心臓が脈打った。

「・・・クラウド・・・?」

一瞬、強張った表情で動きを止めたクラウドに、
セフィロスは怪訝そうな目を向けた。
だが、クラウドはなんでもない、と首を振り、そのまま行為を続ける。
下肢を繋げた箇所から漏れる卑猥な水音は、
すぐにセフィロスを快楽に呑み込んだ。
―――しかし。





『・・・っ、だ、れだ・・・?セフィロス・・・!?』





頭の中で聞こえる、声音。
紛れもなく、あの、忌々しい呪縛に捕われた下らない自分のそれで、
クラウドはセフィロスに見えない場所で拳を握り締める。
今、支配権を取り戻されるわけにはいかなかった。

『なに、やってる・・・!』
「五月蝿い・・・」

低く呟いて、更にセフィロスを責め立てる。
突然のクラウドの変調に、しかしセフィロスは問いただすこともできずに、
ただ与えられる凶暴な快楽に溺れた。
痛みは、快楽に摩り替えられ、強い衝撃に意識すら危うい。
噛み付くように唇を吸われれば、
もはや、セフィロスに意志はないも等しかった。

「クラウドっ・・・、・・・っ」
「セフィロス・・・あんたが欲しい。力づくでもいい、あんたが・・・」

不意に涙が零れそうになり、クラウドは慌てて唇を噛んだ。
全く、馬鹿げたことだと思う。
欲しいのなら、力づくで奪えばいいことだ。
実際、かつてのクラウドならば、そうしただろう。
なのに、忌々しい自分が邪魔をする。
肉体の大半の支配権を持つセフィロス・コピーとしての自分。
ジェノバに取り込まれ、意志を失った弱い自分。
愚か過ぎて、反吐が出る。
なぜ、そんな存在に自分が抑え込められねばならないのか。

「愛している・・・セフィロス。過去も、今も、そしてこれからも、ずっと・・・」
「っく、クラウド・・・!っも、イく・・・!!」

耳元で囁いて、そうして、強く腰を打ち付ければ。
セフィロスの最奥が戦慄き、そうして、
内部のクラウドを強く締め付けながら、セフィロスの雄が弾ける。
白い精が重ねあった胸の間に飛び散ったと思ったその瞬間、

文字通り、視界が白く染まった。

現れた時と同じように、セフィロスの身体すべてが羽根と化す。
セフィロスの意志で構築された身体は、主人が意識を飛ばしたことで、
存在する術を失ったのだ。
クラウドは放心したように握り締めた拳を開いた。
最後の、白い羽根。
見つめていても、すぐに掻き消える。

後には、なにも残らなかった。

クラウドの放った精に汚れるシーツ以外は、何も。

「・・・セフィロス」

窓を見やれば、既に地平線は明るさを見せていて。
自分もまた、再びあの狭い壁だけの世界に戻らなければならないのだと、
クラウドは悟る。
唇を噛み締め、耐えるしかなかった。
今の自分には、どうにもできないのだから。





『・・・?・・・夢、か・・・?』





「・・・少し、黙ってろよ」

忌々しげに、舌打ちをする。
頭の中で困惑するように呟く『自分』は、
馬鹿で、愚かで、弱くて、くだらない存在だと思う。
こんなヤツに肉体を支配されるなんて、なんたる屈辱だろう。
あまつさえ、ジェノバに操られ、偽りのセフィロスの意志に協力してしまうのだから。

馬鹿げている。あまりに、馬鹿げている。





『・・・・・・あんた、誰なんだ・・・?』





頭の内の再三の問いかけも無視して、
クラウドは目覚めた時と同じように己の掌を見つめる。

どうしようもない。
今更、どうしようもないのだ。

ソルジャーになれなかったのも、
魔晄中毒に冒され壊れてしまったのも、
宝条に植えつけられたジェノバの侵食に耐えられなかったのも、

すべて、己の心の弱さのせい。

「・・・・・・俺は、馬鹿だ・・・・・・」

血が出る程拳を強く握り締めて、
クラウドは再びセフィロスに合間見える時を願うのだった。





***END***

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