Crasy Soul 02 〜 秘められた想い 前
「・・・お願い、私と一緒に来て!あなたの・・・貴方の子供が・・・・・!!」
自分にすがりついて言う女を、クラウドはうざったそうに見やった。
凍り付いたような冷たい視線に、女は絶句する。
「・・・・・・くだらないな。せめて子供が欲しいとか泣きついてきたくせに、今度はそれを理由に俺を縛るのか?」
あざけるような笑みを浮かベて女を玄関の外に押しやると、クラウドは扉を閉めた。
ドンドンと叩く音も気にせず、オートロックの上にもう1つ錠をかける。
やれやれと髪をかき上げつつリビングに戻れば、先ほどから家に呼んでいたセフィロスがあきれたように自分を見ていた。
「・・・相変わらず、女には冷たいんだな」
さっきまでのようにテーブルを狭んで反対側に座り、飲みかけていたアルコールをロにする。
「・・・女は、嫌いなんだ」
「そのわりには、女とばかりつき合ってる気もするが」
空になった手元のグラスに残る氷を揺らすと、それがカラカラと澄んだ音を立てる。
その様子を見ながら、クラウドはロを開いた。
「本命はいるからね。他人とのSEXなんて性欲処理以外の何ものでもないだろ?そういう意味じゃ、女は扱いやすいし」
「フン・・・お前に関わった女達はつくづく哀れなものだ」
「関わるほうが悪い」
人の悪い笑みを浮かベるクラウドは、先ほど女を追い返した玄関を見やった。
「・・・女は、誘えばほいほいついてくるくせに後腐ればかりだし、何かあればすぐそれをネタに男を脅迫してくるし。俺、縛られるのって何より嫌なんだよね。その点・・・・・・」
振り向いて、目の前の存在の顔を覗き込む。
宝石のような碧く美しい瞳を、クラウドは熱心に見つめた。
「・・・あんたはいい。女みたいに泣いてすがったりしないし、子供なんか関係ないし、その上俺が誘ったってなびきやしない」
じっと見つめるクラウドの視線をさりげなくそらすと、セフィロスはまた自分のグラスにアルコールを注いだ。
「そういう話をしに来たんじゃない」
「そんなこと言うなよ。俺とあんたが合う話題なんて、これっぽっちもないだろ」
「そうか。ならこれで失礼する」
今にも立ち上がりそうなセフィロスをあわてて押しとどめると、クラウドは苦笑した。
「相変わらずつれない奴だな、あんたは。ま、とにかく、俺はあんたを愛してるからさ、乗り換えたくなったらいつでも歓迎するよ」
「・・・考えておく」
別にセフィロスが誰とも付き合っていないことを知っていて、クラウドはそう言う。
だから、自分もまた考えておく、などと曖昧な言い方をするのだ。
「それよりさ、明日・・・休みだろ?」
「まぁな」
何が言いたい、とセフィロスは怪訝そうな目を向けた。
「泊まっていかないか?」
泊まっていく、とは当然それだけの意味ではない。
それを容易に察したセフィロスは、内心どう思ったかわからないがいつもの無表情で答えた。
「・・・・・・またオレの中でお前の評価が下がるぞ」
「んー。わかってる。でもそのくらいまたどっかで上げるよ」
真剣な顔をして見上げてくるクラウドに、セフィロスは深いため息をついた。
テーブルの上のグラスを一気にあおり、ソファの背に体を預ける。
「・・・・・・好きにしろ」
「はっ!ありがとうございますっ!」
神羅軍お決まりの敬礼をして、クラウドはテーブルの上を片付けに台所へと行った。
そして、かすかにコップを洗う水の音。
そのくらい放っておけばいいと思うのだが、意外ときちんとした性格なのか、食事も自分でこなし、部屋の中も小綺麗に整理されている。
確かに、世話を焼いてくれる女の存在など必要ないのかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えている間に、クラウドはさっさと着替えてバスルームへと消えていた。
「そうだ。セフィロス、あんた俺がシャワー浴びてる間に逃亡するなよな」
そんな台詞を残して、バスルームからは湯気と水の音が聞こえてくる。
1人残されたセフィロスは、上着のポケットから煙草をくわえた。
・・・・・・・・・逃げるわけがない。
ライターで火を点し、煙を吐き出せば、舌に感じる苦みと共に酔い気味の頭がはっきりしてくるような気がした。
もともと煙草など吸わないセフィロスは、火をつけてもすぐにもみ消してしまう。
けれど、最近は、クラウドと同じ銘柄の煙草を持ち歩くようになった。
勿論、クラウドの気を引くためだ。
(相当の重症だな・・・・・・オレも・・・)
クラウドはああ言っていたが、彼が軽くあしらうのは女だけではない。
女だろうと男だろうと、手に入れれば捨てていく、その繰り返しだ。
一度気をひけば、どんなに苦労をしようとも手に入れる。
そして、やっと相手が本気になったところで、容赦なく捨てていくのだ。
実際、クラウドと付き合う人間で1ヶ月続く者はいないに等しかった。
そんなクラウドが、自分に向かって「愛してる」と言ってくれる。
あんただけが本命だ、とささやく。
嬉しくないわけがない。
誰もが自分を怖れて避ける中、彼の愛の言葉は自分にとって魔法のように惹かれるものだった。
でも、多分、
その誘いに乗ってしまえば、自分もクラウドに捨てられたたくさんの者達と同じように、
一月もしないうちに捨てられてしまうのだろう。
そうなってしまうのは、どうしても耐えられなかった。
「セフィロス、あんたも入りなよ」
首だけ出して、クラウドがソファでぼーっとしているセフィロスに呼びかける。
思わず言いそうになった肯定の言葉を呑み込んで、
「・・・なんでオレがお前と入らなきゃいけないんだ?!」
偽りの怒気をはらんだ声で言う。
そう、全ては、嘘。
クラウドの誘いにだってすぐに乗りそうになる。
泣いてすがりたくなるほどクラウドが欲しい。
でもそれを見せれば、多分終りだから。
「わかったわかった。もう俺あがるからさ、あんたも入れよ」
「・・・ああ」
今ほど、幸せな時はないだろう。
今はクラウドが自分を見てくれている。
けれど臆病な自分は、クラウドがいつか自分に愛想を尽かしてしまうのではと不安になる。
それでも、クラウドに自分の気持ちを伝えれば、釣った魚にエサがいらないように、自分も愛されなくなるのだろう。
だから、せめて。
クラウドと共に居ることへの歓喜を隠して、いつもつれないようなフリをする。
それが、クラウドとの繋がりを保つためなのだと、セフィロスは納得しない心を強引にねじ伏せていた。
「・・・ほら、着替え。ったく、背の高いあんたに合う服なんて俺あんま持ってないんだからさ、今度泊まる時は自分で持ってこいよな」
差し出された夜着を受け取り、さっさとバスルームへ向かう。
「・・・・・・お前が無理矢理泊めさせているくせに、文句言うな」
「・・・そのわりには嬉しそうですが」
「何か言ったか?」
「いや、何も」
ごまかしてひらひらと手を振ると、セフィロスは無表情でクラウドを一瞥して中へと消えていった。
(全く・・・本当につれないんだから)
少し寂しそうに笑って、クラウドは先ほどまでセフィロスの座っていたソファに腰を下ろす。
濡れた髪をタオルで乾かしていると、ふとテーブルの真ん中に置いてある灰皿が目に入った。
あまり煙草を好まないセフィロスの前では、自分は吸わないように心掛けている。
それなのに、煙草の吸い殻が灰皿に残っているのを見て、クラウドは驚いていた。
「・・・あんたでも、煙草吸うことあるんだ」
バスルームの中が見えないように加工されたガラス越しに、セフィロスに声をかける。
始めはザァザァと声をもかき消すようなシャワーの音が聞こえていたが、クラウドに気付いたのかコックをひねる音がして、水流が緩められた。
「・・・なんだ」
「いや、あんたでも煙草吸うんだなぁと思って。確か嫌だとか言ってなかった?」
ボディソープをつけているのだろう、ゴシゴシとスポンジで体を擦る音と共に石鹸の香りがバスルームから洩れ出している。
「・・・オレだって、吸いたくなる時もある。いちいち言うな」
「ふうん。じゃあ今は煙草吸いたい気分なんだ?」
再び激しい水流の音がする。
沈黙しているセフィロスの後ろ姿をガラス越しに見やって、クラウドはからかうように笑った。
許可も得ずに中に入り、セフィロスが振り向く前に背後から抱き蹄める。
「・・・っ!!」
予期しない事態に、セフィロスの体が一瞬強張る。
背中に触れる暖かな感触が自分の中を侵食していく感覚に、セフィロスは唇を噛んだ。
「・・・なんのつもりだ」
それには答えず、腕に抱く存在の滑らかな肌を手のひらで辿る。
「あんた、随分、荒んでるだろ」
「・・・・・・別に」
プイと横を向いてクラウドから逃れようとする体を押し留める。
きちんと締め切っていなかったシャワーを止めると、後は湯気と2人の吐息だけがその場に残った。
「普段煙草吸わない奴が吸い始める時って、絶対そういう時だもんね。かくいう俺もそうだったし」
「だから・・・・・・どういうつもりだ!」
セフィロスが声を荒げた途端、クラウドは強引に肩を掴み、セフィロスを自分の方に向かせた。
そのまま後ろに押しやれば、バスルームの壁にセフィロスの背があたる。
「んー。荒んでるあんたを慰めてやろうかな、って」
「お前に慰められるほど、オレは人生捨ててない」
「うわ。ひどくない?それ」
そっぽを向いたセフィロスの顎を指先でつかみ、無理矢理自分の方に向かせる。
鮮やかな碧の瞳をのぞき込むと、少し脅えたような色がその瞳に映っていた。
「・・・素直になれよ。溜まってるんだろ?」
「溜まってなぞいない」
「あっそ。じゃあ誰かとヤってんだ」
見下すようなロ調と表情。
一瞬冷たくなった空気に、セフィロスは身震いした。
クラウドを怒らせてしまったのではと思う内心を悟られまいと必死に押し隠す。
硬直したセフィロスの頭を憮でると、クラウドは一瞬前とはあまりにかけ離れた柔らかな笑みを浮かべた。
少し哀しみをにじませたような、甘い瞳。
「・・・・・・そんなにムキになるなよ。・・・俺を、道具だとでも思えばいい。それで俺が悦んでるんだからさ、あんたも俺を存分に利用すればいいんだ」
歌うようにそう言い、声も出せずに凝視するセフィロスの頬のラインを指先でたどり、唇に触れる。
「・・・・・・キス、してもいい?」
「・・・嫌だと言っても、するんだろう」
「まぁ、ね」
目線を合わせて、クラウドを睨みつける。
「・・・オレは、お前のその強引な所が大嫌いだ」
「・・・ごめん」
小さな謝罪の言葉と共に重ねられる暖かな感触。
何度も角度を変えるたびに深さを増していくロ付けに、セフィロスは脱力したように成すがままになっていた。
霞んだ頭の中で、考えることといえば一つだけ。
このまま、目の前の存在に自分の全てを預けられたなら、どんなに幸せだろう。
湯気の充満したバスルームでの行為に苦しげに喘ぎながら、それでもセフィロスはクラウドから与えられる愛撫に身を任せていた。