掌の君。



あのヤマーン平原での戦で出会った少年は。
あまりに無知で、呆れるほどに馬鹿で、そして純粋だった。
純粋すぎた、と言うべきかもしれない。
警戒、という単語を知らないのかと問い詰めたくなるくらい。
なぜなら、この少年は。
まさに今、眠ったままのひどく無防備な状態を私の目の前に晒し、更には
無造作にあのタリスマンをベッドサイドに置いているからだ。





「あんたに会えて、よかった。だって、俺一人じゃ、絶対、イリーナを助けられなかったし」

それは、先ほどかれが口にした言葉。
ダヴィッドは微かに笑みを浮かべ、少年の頭を撫でたけれど、
その表情は、固くこわばっていたはずだ。
別に、嘘をつくことにいちいち罪悪感を感じているつもりはない。
国を治める立場にある以上、時には方便も必要だということは身に染みてわかっている。
お互い、建前と裏の顔を使い分けている。
それは当然の事実。
けれど、それは政治家同士の化かし合いの場での話だ。
今回は勝手が違った。
国を護る立場の者としての当然の行動ではあったが、
相手は少年で。
しかも、無知で、純粋で、更には疑うということを知らない、と来た。
今更ながら、少しだけ後ろめたさを覚える。
そもそも、こうして手放しで信用されると、正直調子がおかしくなってしまう。
ラッシュは本気で、
ダヴィッドが自分を愛してくれていると思っているのだろうか?

「ん・・・ダヴィ・・・ッド・・・?」

愛撫の途中、物思いに耽っていたため、
行為がおろそかになってしまったようだ。
それに気づいたラッシュが男に呼びかけると、
ダヴィッドは誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

「そんなに欲しいのか?」
「っ・・・だってさぁ・・・」

頬を染めながら下肢を見やる。
服はとうの昔にベッドの下に落ち、白いシーツの上で淫らに足を開き、
さらにはその間にダヴィッドがいるのだ、
恥ずかしいことこの上ない。
しかも、両腕は彼の腕に縫い留められ、抵抗もできない。
こんな状況で、焦らされるのはひどく辛い。
触れてもいないのに、ラッシュの屹立が濡れた様相をみせる。

「淫乱だな?」
「ひでぇ・・・。こんなにしたの、誰だよ・・・?」

既に言葉を紡ぐのも大変らしく。
震える指先がシーツを噛んだ。と、ダヴィッドの舌が悪戯をするように先端の割れ目を舐める。
ひっ、とラッシュは身体を震わせた。
一瞬の快感。痺れるような刺激が、脳髄を白く染め上げる。
何も考えられなくなるような、激しい刺激がもっと欲しくて、
ラッシュは涙目でダヴィッドを見上げるも、
あまり効果はなく。
くくっと笑われ、更にさりげない愛撫で人を焦らすものだから、
かなり悔しかった。

こんな、男の下でないて喘いでいるなど、
島にいた頃の自分には考えられないことだ。
人口の少ない島、更に言えば家族以外の他人と関わる機会がほとんどなかった今まで。
母と父が研究のために長く家を空けるようになり、
兄としての役割を求められるようになって、
それが自分の全てであり幸せだとも思っていた。
誰かを好きになったこともない。

「っく、そっ・・・」

あまりの焦らされように、ラッシュの口から悪態が漏れる。
妹がさらわれてからというもの、心のどこかが不安でならなかった。
兄としての責任感が彼を付き動かしていたが、
その心の底では。
自分の無力さと混乱、そして恐怖。孤独。
それを、一気に忘れさせてくれた。ダヴィッドとのあの出会いは、
まさに運命に近い。
そんな相手に求められて、どうして拒めるだろう?
ラッシュは初めて、赤の他人に肌を晒した。

「なぁ・・・ダヴィ・・・っ!」
「仕方ないな。」

ギリギリまでラッシュを追い詰め、その姿を愉しんでいたダヴィッドは、
さすがに限界だ、と訴える彼の雄を口に含んだ。
ぎゅ、と指先に力がこめられ、更にシーツの皺がひどくなる。
けれど、強い刺激を欲していたそれは、男の生暖かい口内の感触にひどく悦び、
身体を震わせた。
ラッシュの足が、膝を立ててダヴィッドを挟み込む。
上半身は身を捩っていても、ラッシュの身体は男を求めているのだ。

「あっ・・・ァ、ダヴィッド・・・オレ、もっ」
「ああ、わかっている。」

筋に沿って舌を這わせ、先端を強く吸い上げる。
ラッシュの腕を押さえつけていたダヴィッドの手が離れ、ラッシュの砲身に絡みつけば、
自由になった彼の指先はダヴィッドの髪に差し入れられる。

「も、やぁ、やめっ・・・」

力の入らない指で必死にダヴィッドを離そうとするが、
無論そんな抵抗は意味もなく。
ダヴィッドがラッシュを解放するつもりがない以上、彼の運命は決まったようなものだった。

「別に、堪えなくていいぞ?」
「っ・・・でもっ・・・」

ただ触れてもらいたかっただけなのに、まさか直接口でされるとは思わなかったから、
戸惑いが募る。
彼の中に欲を吐き出すなど、恥ずかしくて仕方がなかった。
けれど。

「うっ・・・ぁ、ああっ・・・!」

ダヴィッドに促されると、ラッシュの意思に反して
身体はあっさりと彼の誘いに負けてしまっていた。
どくどくと吐き出されるそれを、ダヴィッドは眉ひとつ動かさず飲み干していく。
顔を上げた男が、左手で口元を拭い、喉仏が動く瞬間を目撃したラッシュは、
一気に頭に血が上った。
男の顔をそれ以上見ていられず、横を向く。
熱を吐き出したはずの下肢が、すぐに張りを取り戻す。

「不味いだろ・・・」
「そんなことはないさ。」

お前のだからな。
囁かれる男の声音は、いつだって甘い。
だから、あの時も、抵抗などできなかった。
欲しいのだと囁かれ、その力強い金の瞳に見据えられれば、
誰だって引き込まれるに決まっている。
かくして、ラッシュはダヴィッドに全てを晒し、そして今では彼なしではいられない体になってしまった。
もっと奥に欲しくて、無意識にラッシュの腕がダヴィッドの背に回された。

「ダヴィッド・・・」
「ん・・・」

ラッシュの無言の訴えが手に取るようにわかり、
ダヴィッドはくすりと笑った。
唇を重ねる。何度目のキスなのか、もはやラッシュのそれは赤く腫れ上がっていて、
これでは明日誰に何を言われるか。
まぁでも、彼との関係は公然の秘密でしかない。
今や、彼の妹にすら知られてしまっている事実なのだから、怖いものは何もなかった。
ただ。

(私の心が、本当は自分にないとわかったら)

ラッシュは、どう思うだろう?
この、純粋に自分を受け入れ、心のみならず身体まで開いた少年は。
きっと、ひどく傷ついた顔で、自分をみやるのだろう。
そうして、震える唇で、問い詰めるに違いない。

―――オレのことなんて、ホントはどうでもよかったのか・・・?

「っあ・・・、そこ、やっ・・・」
「欲しいのだろう?・・・ほら、力を抜くんだ」

開かれた足を更に拓かされ、ラッシュは唇を噛んだ。
慣れた行為。指先が、なんの躊躇もなく秘孔の口を割り裂いていく。
普段は、すべてを拒むかのようにきつく口を閉ざしているくせに、ダヴィッドの前で見せる痴態といったらどうだろう。
指先が触れるだけで、ひくひくと痙攣を繰り返し、
早く呑み込みたいと言わんばかり。
それをダヴィッドに指摘される度、ラッシュは身が千切れる程の羞恥を覚えるのだが、
与えられる快楽は理性では拒めないほどに激しかった。
唇が、震える。
言葉よりも先に、吐息と鼻にかかった声音が漏れる。
それは、もはや自分の意思では制御できず、
まるでダヴィッドの指の動きが奏でているようにすら見えた。

「っ・・・ぁ、ああっ・・・」
「どうした・・・今日は堪え性がないな。」
「ん・・・だって、」

横を向く。
つい先日まで、エリュシオンでの共和会議のために、
ラッシュはダヴィッドに付き合って長旅を続けていたのだ。
アスラム城の自分用に宛がわれた部屋に戻ったのは本当に久しぶりで、
嫌でも心が緩んでしまう。
誰も、何も文句を言われない場所。
そんな場所で、しかも愛する男と2人切りなのだから、
植えた身体が暴走し始めるのも当然で。

「・・・あんただって、同じだろ・・・」
「ああ、そうだな。俺は、お前が欲しくて仕方がない。」

口の端を持ち上げて、首筋に歯を立てられる。
喉笛を噛むように刺激されると、くすぐったさと共に起こるぞくり、とした感触に
身体が震えた。
お前は欲しい、と真摯に囁かれて、心が動かされない者がいるだろうか。
どうしてこの男は、そんな恥ずかしい言葉を、
真顔で言えるのだろう。
男の顔が、まともに見られない。

「・・・・・・わかったから・・・、早く、来いよ・・・」

下肢の奥で蠢いている指先に、快楽の根源を刺激され、
ラッシュは息を詰めた。
と思った矢先、あっけなく引き抜かれる指。内部の肉襞が追いすがるも間に合わず、
喪失感がラッシュを襲う。
だが、次の瞬間、

「ちょっ・・・」

ぐるりと身体を返され、ラッシュは戸惑った。
顔がまともに枕に沈んでしまい、慌てて横を向く。
だが、ダヴィッドはそんなラッシュに構わず、彼の腰を高く上げさせる。
ラッシュは全身を真っ赤に染めた。
獣のような格好で、男の眼前に下肢に隠された部分を晒す。
恥ずかしさにその部分に無意識に力がこめられれば、ダヴィッドはくすりと笑い、
舌で襞の1枚1枚に唾液を絡ませるように舐めてやった。

「っや・・・やだっ・・・」
「嘘つきだな?」

きゅ、と枕の端を噛んで耐えるラッシュに、ゆっくりと背中を重ねる。
舌で背筋を辿り、シーツの掴む少年の手に己の手を重ねる。
そうして、下肢には、熱く重い感触。

「っあ・・・!」
「欲しいか?」

濡れた先端で焦らすように刺激され、ラッシュはもはや涙目。
散々焦らされて、自分がどれほどダヴィッドを欲しているか、
彼自身わかっているはずなのに、なおも自分の口から言わせようとするダヴィッドが、
悔しいを通り越して憎らしくもなる。
頭の中では、口汚い悪態がぐるぐると回っていたのだが、
とりあえず唇を割いて出たのは、

「早く・・・欲しっ・・・ダヴィ・・・!」

息も絶え絶えの様子で、欲しくてたまらないと訴えるラッシュ・サイクス。
しょうがないな、と台詞とは裏腹にひどく楽しそうにそう告げるダヴィッドは、
片手でラッシュの腰を更に高く上げさせ、少々乱暴に奥を貫いた。

「っあああ・・・!」
「熱いな・・・」

蕩け切った内部は、
簡単に男を受け入れ、そうして離すまいと締めつけてくる。
興奮に唇を舐め、ダヴィッドは更に奥を目指して腰を押しつけた。
ラッシュはというと、重い感覚に意識が朦朧としながらも、
更なる快楽を引き出そうと無意識に腰を揺らしている。
少年の先端からあふれ出た先走りが、シーツにシミを作る。

「っあ、もっと・・・奥っ・・・」
「わかっている」
「んっ・・・」

瞳を閉じて、ただ与えられる感覚を追う。
指先までしびれるような快楽が、血流を回り、体内で渦を巻いているよう。
下肢から受ける衝撃も相まって、溢れる生理的な涙もまた、
枕元にシミを作っていく。
もう、絶頂は目の前だ。

「イきたいか?」
「あっ・・・ん・・・イきたっ・・・っああ!!!」

言葉を終える前に、ダヴィッドの指先にラッシュの雄が絡め取られ、
イく寸前だったそれが一気に弾けた。
男の手の中に、溢れる程の体液。繋がる箇所の強い締め付けに、ダヴィッドは唇を噛んだ。
吐き出したい衝動を寸でのところで抑えて、
息も絶え絶えの様子のラッシュを抱きしめる。
今晩は、こんなもので手放すつもりはなかった。
例え、彼が壊れてしまったとしても。
意識を失うまで追いつめて、そうして。

夜は、まだ始まったばかりだった。





幾度目かの行為の後、
ただでさえ疲れの出ていたラッシュは、深い眠りに落ちていた。
腕の中で、幸せそうに、笑みすら浮かべて眠るかれは、
果たしてどんな夢を見ているだろう?
ダヴィッドはそんなラッシュの髪を撫でようとして、
ふと目に留まったモノに魅入った。
サイドテーブルに無造作に置かれたそれは、あの、不思議な力を持ったタリスマン。

「・・・無防備すぎるんだよ、お前は」

こんな、手を伸ばせばすぐに届く位置に。
時を操る強大な力を秘めたレムナントが封印されている。
アスラム独立のために欲した力。
契約者でなくとも使用できるらしいそれは、自分にとって喉から手が出るほどに魅力的なもので。

―――欲しい。

ダヴィッドはそっとタリスマンに腕を伸ばした。
ラッシュには悪いが、たとえここで自分が奪ったとしても、
きっとラッシュは気づかないだろう。
無くした自分の情けなさに腹を立て、嘆き、そうしてかつての妹を捜す彼のようにあてもなく右往左往するかもしれないが。
きっと、自分が手にすることができるはずだ。
鈍い翡翠に光るそれに、触れようとして、

「ダヴィ・・・」
「っ。」
「ダヴィッド・・・愛して、る・・・」

あと1ミリ。
すんでのところで、ラッシュの声音に手を止めたダヴィッドは、苦笑した。
気付かれたかと思ったが、幸い大丈夫だったようだ。
だが、それよりも、ラッシュの台詞に破顔する。
こんな、悪意を胸に秘めた男相手に。
愛を語るなど。馬鹿げた話しだ。

だが。

「わかったよ・・・お前が私のために戦ってくれている限り、お前の大切なものは奪わないでいてやるよ。」

再び手を伸ばして、髪を撫でる。
今度は無造作にタリスマンを手に取り、ラッシュの首にかけてやる。
先程と同じように少年を抱いたまま、
ダヴィッドもまた瞳を閉じたのだった。





end.





Update:2009/04 by BLUE

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