心の底の闇に触れて。2



何の変哲もない、いつもの朝食だというのに、
堪えられなかった。
何も知らない皆の前で、何もなかったようになど振る舞えない。
自分に服従を強いたダヴィッドもそこにいて、
更に澄ました顔で声までかけてくるものだから尚更。
自分を、抑えられなかった。

部屋に駆け込んだラッシュは、
昨晩のことを思い出し、必死に吐き気をおさえた。
涙すら、溢れてくる。大切な親友だった男の、その狂暴な行為に。
すべてを忘れたくて、ラッシュはシャワー室に駆け込んだ。
何度も洗い流し、清めたはずの身体に、
再度冷水を浴びせる。
だが、耳の奥で囁くあの男の声音は、
いつだって離れてなどくれない。

―――これからは、俺を想ってひとりでするといい

「っ・・・!」

唇を噛み締め、両手で耳を塞ぐ。
けれど、一度吹き込まれた台詞は、忘れたくとも忘れられそうにない。
他でもない、ダヴィッドの声音だったから尚更。
いつまでも聴いていたいほど心地よい音色だったからこそ。
そうして、思い出す度に、昨晩ダヴィッドに与えられた快楽という名の苦痛が蘇る。
望まぬ行為を強要されたあの悪夢のような夜、
だというのに己の身体は与えられる身勝手な愛撫に応えてしまっていた。
どんなに抵抗し、頭は拒否反応を示していても、
下肢はその意思に反して濡れた様相を見せる。
男が嬉々として愛撫を続けるのを、唇を噛んで耐えることしか出来なかった。
逃げる事すら。
本当に嫌なら、いくらでも逃げ出す術などあるはずなのに。
そうして、今もまた。

「・・・っち、くしょ・・・!」

シャワーを浴びたまま、興奮の兆候を示す雄を握りしめる。
情けない。
そう、一番許せないのは、
己。
男の手で欲を引き摺りだされ、あまつさえ悦ぶかのように先走りを零し、
これでは、男が勘違いしても仕方がない。

「こんな、事・・・。俺は、望んで、ない・・・。望んでないんだ・・・!」

嗚咽を上げて、ラッシュは1人、そう叫ぶ。
だが、口に出したところで、何も変わりはしなかった。
掌の中で、欲望を露わにする彼自身。
止まらない。
止められないのだ、耳の奥で囁かれる声音のように。
ぞくりと背筋が震える。
そう、それは、昨晩と同じ興奮。
壁に寄りかかったまま、震える手で下肢を軽く扱くだけで、
鋭い刺激が全身を戦慄かせる。

「・・・ぁ、は、ぁあっ・・・」

仕方ないではないか。
どんなに取り繕ってみても、若い青年期の男で。
一度快感を覚えてしまった身体は、
もう後には引けないのだ。
脳裏に浮かぶダヴィッドの姿を首を振ることで打ち消して、
ラッシュは背徳的な快楽に溺れていた。










それから、数日が経過した。
あの日、再びラッシュが皆の前に姿を現したとき、
既にダヴィッドはいなかった。
用事があってセラパレスに出発したと聞き、少し胸を撫で下ろしたラッシュは、
次第にいつもの調子を取り戻していった。
イリーナや四将軍たちは、ラッシュに何も問い質すことはしなかった。
それが、ラッシュにはひどく有り難かったのだ。
だから、次の日、ダヴィッドが戻って来た時には、
少しだけ、笑顔を取り戻していた。
ダヴィッドもまた、かつてのように親しい友人として接してくれたから。
ラッシュは安心した。
あの時の記憶は、今だ生々しく残ってはいる。
だが、普段通り屈託ない笑みを向けてくれるダヴィッドを見ていると、
あの夜は、何かの間違いだとすら思うようになった。
あれは、きっと、彼の気の迷いだったのだ。
その証拠に。
彼の仕事に付き合わされて、部屋で偶発的に二人きりになったときも、
夜、寝静まった時間に二人で談笑していたときも、
彼はもう横暴な腕は伸ばしてこなかった。
だから、3日が経ち、7日が経ち、10日を過ぎる頃には、
ラッシュはすっかりあの夜の事を忘れ、
親友として振舞う事が出来ていた。



「おーい、ダヴィッド!どこだー?」

ラッシュは廊下をぱたぱたと歩きながら、
大声でダヴィッドを探していた。
偶然出会ったトルガルによると、ダヴィッドに伝えたいことがあり、
彼を探しているという。
大抵、何も予定がない時は部屋や中庭で過ごしているはずのダヴィッドだが、
その日はどこを探しても見当たらず、
こうしてラッシュもダヴィッド探しを手伝っているのだった。
部屋にもいない、中庭にもいない、謁見の間にいるわけでもない。
となると、正直、この広い城の中で彼を探すなど至難の業だ。
何らかの目的で、個人の部屋にいるとなれば更に不可能である。
けれど、ラッシュはひとつ、心当たりがあった。
ダヴィッドの部屋を通り過ぎ、曲がり角を曲がった突き当たりに、
小部屋があった。
資料室。
通常、何か調べ物があるなら城の書庫を使う。
かなりの広さをもつそこは、パグズの趣味のせいもあってか世界各地の貴重文献まで数多く取り揃えられており、
ある意味、庶民向けの中央図書館より充実しているかもしれない。
それに対し、資料室とは文字通り書類の山が積み重ねられている狭い部屋だった。
文献にまとめられるほどでもない内容だが、
けれどそれは代々のアスラム領主たちが政治を執り行ってきた証のようなもので、
だからこそ、ダヴィッドはよく来るのだろうと思った。
だが、それをダヴィッドに聞くと、単に見つかりにくい場所だから、だという。
確かに、狭い部屋な上に、その空間のほとんどが棚と乱雑に保管された書類ばかりで、
人が過ごすには窮屈な印象だ。
無論、このまま永遠に放置というわけではなく、
定期的に整理、または文献として纏めることになるわけだが、
とりあえず、重要書類もあるため、だれもかれもが入れる場所ではなかった。
だが、ダヴィッドはこの国の領主である。
言い過ぎかもしれないが、歩く法律ですらなりうる男。
少なくとも、この国で彼の思いどおりにならないことはない。

「ダヴィッド?俺だよ。いるなら返事しろって」

とりあえず周囲を確認してから、ドアを叩く。
だが、返事はない。
やはりいないのか、と考えかけて、
ふと、扉を押してみた。
ギギ、と音がして、案の定、扉が開く。
通常、鍵が開いているような場所ではない。
ダヴィッドはそこにいる。
そう、確信した。
だが、呼び掛けても返事はなく、止まったような空気が少し揺れるだけ。
ラッシュは、静かに足を踏み入れた。
窓際、微かに光の差し込むほうへ。
そうして、棚の山を越えた先に。

ーーーダヴィッド。

男が、眠っていた。
窓際の壁に寄り掛かり、床に座り込んだまま。
手にはこぼれ落ちかける書類。
微かに聞こえる吐息。
それはこの暗い部屋のなか、唯一の美しい光景で。
ラッシュは無意識に頬を染めた。

初めて出会った時も思ったが、
嘘偽りなく、本当にダヴィッドという男は容姿端麗だ。
さらりとした艶のある金髪、整った顔立ち、顎のラインの美しさといったら。
だが、かといって女性のような線の細さではなく、
男らしい凛々しさが漂っている。
褐色の肌すら、その精悍さを際立たせているようだ。

そんな男が、自分に愛を囁いてきた。
好きだと、愛していると、何度も吹き込まれた言葉。
これが、自分などではなくて、女性だったらどれほど嬉しい言葉だろう。
一国の領主で、それに見合う才能と実力を持ち合わせ、
更に容姿も素晴らしい、とくれば、
断る女性などいまい。
だが―。

(でも、オレは・・・)

ズキリと胸の奥が痛んだ気がした。
ラッシュの中で、性別という無視しがたい概念が痞えている。
こんなに大切だと思い、傍にいたいと思った相手。
けれど、彼の「好き」と、自分の「好き」は、違うのだ。
受け入れられるはずもない。
ましてや、あの悪夢の日のように強引に奪われるなど―――、
耐えられなかった。

このまま、何もなかったように、
自分の目の前で笑みを向け、声を掛けて欲しい。
離れたくなどない、傍にいて、彼と共に生きたかった。

(・・・ダヴィッド)

ラッシュは、ゆっくりと彼の目の前にしゃがみこんだ。
長いまつげに隠された瞳。
顔にかかる金髪。
軽く開かれた薄い唇。
彼の、その全てを見つめて、ラッシュは呟く。

―――キレイ・・・・・・

だが。

「っん・・・!」

いきなり、後頭部に衝撃が走った。
男の腕が、少年の頭を固定し、更に乱暴に引き寄せる。
不意打ちだったラッシュは、身体を安定させることなどできず、
狸寝入りを続ける男に倒れ込むような体勢になってしまった。
驚きと恐怖に心臓がどくどくと鳴った。
男の腕の中に捕らえられ、顔が真っ赤に染まる。

「やめっ・・ぅん・・・!」

反抗しようとした唇に、男の唇が重なった。
戒めのキスだ。ラッシュは文字通り固まった。
そして、忘れかけていた記憶がフラッシュバックする。
あの、10日前の恐怖の夜ーーー。
無理矢理足を開かされ、強引に快楽を与えられた、あの屈辱の時間を。

「・・・っ!」

必死に。男の胸を叩いた。
寝ぼけているのか、それともわざとこんなことをしているのかわからないが、
ラッシュは沸き起こる嫌悪感を抑えられずにいた。
そして、背筋をはい上がるぞくりとした感覚。
まただ。
興奮を隠しきれない自分の身体が憎い。

「・・・っは、やめ・・・!」
「・・・・・・・・・・・・ラッシュ?」

唇が微かに離れた隙に、ラッシュは漸く男の腕から逃れた。
不満そうに唇を尖らせた男がゆっくりと目を開けると、
途端、目の前の少年に驚くダヴィッド。
どうやら、本当に寝ぼけていたらしい。
ラッシュに抗議の視線を向けられて、
ダヴィッドは身を起こし、今度こそラッシュを解放した。

「・・・寝ぼけてるからって、あんまりだろ」

必死に怒りを抑え、けれどここはとばかりに
男を責め立てるラッシュに、とうの本人は未だ夢の中なのか、
曖昧にうなづくのみ。
更に、再度自分へと腕を延ばしてくるものだから、
困った。

「ちょ、おい・・・」
「・・・嫌なわけはないだろう?この間は、ひどくよがってたようだが」
「違ッ・・・!」

眠気が抜けないせいか、ぼんやりと自分を見つめる瞳に、
ラッシュは羞恥に熱を持つ顔を必死に抑える。
あんなのは、そもそも何かの間違いだ。
男の手で暴かれ、それを快楽だと思い反応を示すなど、
有り得ないと思った。
だから、絶対にダヴィッドの言葉にうなづくわけにはいかなかった。

「・・・もう、やめてくれよ・・・。俺は、あんたに、こんなことされたくない」
「されたくない、ね・・・。では、誰にされるのがご希望だ?」
「は・・・!?誰、って・・・」
「私にされるのが嫌だということだろう?」
「そういう意味じゃな・・・!」

言葉を最後まで紡ぐ前に、ぐい、と胸元のシャツを掴まれ、引き寄せられる。
寝起きとは思えない、強引で乱暴な力だった。
ラッシュは再度、ダヴィッドの上に乗り上げるような形で、
彼と真近で見詰め合う。
心の中で、先ほど散々褒め讃えた顔立ちは、
みるみるうちに恐怖を讃えた悪魔の形相に変わった。
美しくも残酷で、凶暴な笑みに。

「・・・また、お前の乱れたカオが見たいな」
「なっ・・・やめ・・・ぁっ・・・!!」

容赦のない掌が、再び少年の下肢を弄る。身の半分をダヴィッドに預けていたラッシュは、
逃れることなどできなかった。
一気に顔が真っ赤に染まる。それに対し、男の笑みはますます深まった。
ラッシュ自身ですら認めたくない事実。
ダヴィッドにキスをされたというだけで、自分の身体は悦びに震えるのだ。
何かが、間違っている。
心は、これほど彼を拒絶しているはずなのに、
一体自分はなんなんだ!

「っく・・・!!」
「・・・いい加減、素直になれ。お前は、俺のことが好きなのだろう?」
「・・・違う・・・!」

ジッパーを下ろされ、男の指先に直接自身を捕らえられながら、
耳元に吹き込まれる声音。
嫌でも、興奮する。掌は、反応を待つように握り締められたままだから、尚更。
違う、と弱々しく首を振った。
溢れるのは、透明な雫。悔しいのか、悲しいのか、辛いのか、
理由もわからないまま頬を伝うそれを、
ダヴィッドの熱い舌が掬った。
男の手の中で、ラッシュ自身が硬さを増していく。

「・・・俺も、お前を愛している。」
「っぁ・・・!」

言葉と同時に、添えられていただけの掌が律動を開始した。
根元から先端に沿って、緩々と。次第に、激しく、乱暴に擦られる。
散々焦らされた彼の雄は、悦んで彼の刺激を受け入れた。
すぐに、先端がひくひくと口を開く。
溢れる先走りに、ダヴィッドの掌が濡れる。
親指で敏感な割れ目を辿り、砲身に塗りつけるように動かせば、
すぐに淫らな水音が聞こえてきた。

「ぁ、あっ・・・!やめ、っ・・・!」
「嘘をつくな」

耳元で囁いて、一層激しさを増す男の手。
ラッシュは肩口に爪を立て、必死に逃れようとした。
だが、既に、ダヴィッドの足を跨ぐように乗り上げていて、
ボトムを摺り下げられ外気に晒された尻はもはや抱き締める男のモノと化している。
こんな状況で、どうやって逃げろというのだろう?
ましてや、今はトルガルたちが火急の用事でダヴィッドを探している。
普段は目を瞑っているこの場所でも、
彼らが入ってこないとも限らないではないか!

「っく・・・、やめろ・・・、俺はっ・・・んっ!」
「煩いな・・・」

相変わらず抵抗の言葉しか発さない唇に、
ダヴィッドは煩わしそうに眉を潜め、そのまま己の唇で塞いでしまった。
当然、ラッシュは嫌がるように顔を顰めたが、
それ以上の抵抗はしようがなく、男の与える快楽を甘んじて受け止めるのみ。
だが、下肢を弄び続けたまま、何気なくダヴィッドが舌を絡ませてきた時、
ラッシュは反射的に舌を噛んでしまっていた。

「―――っ!!!!」

咄嗟に身を引いたが、ダヴィッドの舌からは血が滲み出ていた。
口内に広がる鉄の味。口元を押さえていたダヴィッドは、
しかし痛みを感じるよりもさらなる興奮を抑えきれずにいた。

「・・・上等だ」
「っぐ・・・!」

だん、と音がして、文字通りラッシュの世界がひっくり返った。
そして更に、強く背筋を打ち付けられ痛みが走る。
窓を見上げるような形になり、一瞬眩しさに目を細めたラッシュだったが、
すぐに男が影になるように覆いかぶさってきた。
そうして―――。

「ぁ・・・ヤ、だっ・・・!」
「お仕置きだ」

両足を抱え上げられ、更に胸元につきそうなほどまでに持ち上げられる。
キツい体勢に、ラッシュの身体が軋んだ音を立てた。
ましてや、床は硬い石。
こんな状況はもはや、苦しさ以外の何ものでもない。
更に、下肢を舐めるように見つめられて、
これほど恥ずかしい事はなかった。
冷たい床に、爪を立てる。
屈辱に、再び涙が溢れてくる。

「や、やめ、やめろっ・・・っい゛!!!」

ずぶり、とダヴィッドの指先が内部に捻じ込まれ、ラッシュは何が起こったかわからなかった。
下肢に走る、激痛。
瞑っていた瞳の、片方だけを持ち上げて、
ラッシュは初めて、自分の内部に男の指が侵入していることを目撃した。
それも、自分が今まで排泄器官だと思っていた場所に!
湧き起こる羞恥と共に、再び襲う恐怖感。
これから、何が起こるか、知りたくもなかった。

「痛ぃ・・・ダヴィッド・・・!」
「キツイな・・・。まぁ、初めてだからこんなものか」

これが、もし初めてなどではなかったら、俺は怒り狂っただろうな。
ダヴィッドは少しだけほっとした顔で、1人ごちた。
ラッシュのすべてを、自分のものにしたい。
それは、彼の過去も未来も全て手中に収めたいという、あまりに身勝手な欲望で、
自分ですら恐ろしくなる。
この、抑えの利かない、彼が欲しいという気持ち。

再び、ずっ、と引き抜かれて、ラッシュは息を詰めた。
もはや、真っ赤に泣き腫らした瞳から溢れる涙は枯れ、ただ放心したように床に頬をつけたまま。
ダヴィッドは下肢に纏わりつく衣服をすべて脱がせてしまうと、
再びキスを絡めた。
今度は、歯を立てられないように顎を押さえて。
ラッシュは首を振るものの、先ほどよりも抵抗する力を失い、
なすがままになっている。

そう、元より、逃げ出すことなど不可能なのだ。
どんなに心で叫んでみても、
身体は男を悦び、男を求めて興奮の色を隠せないでいるのだから。
理性など、なんの役にも立たない。
身体の底の深い部分が、求めている。快楽を、何も考えられなくなるほどに深い快感を。

「・・・ラッシュ」

囁いて、指先で頬の涙を拭った。
そうして、少年の下肢に顔を埋める。
先ほど無理矢理貫き、赤く腫れあがった少年の蕾に。

「っ・・・や、だ・・・・」
「痛いのなら、慣らさないとな?」

音を立ててその部分に吸い付くようにキスをひとつ。
そして更に、唾液を乗せた舌で襞の間を辿り、固いそこを時間をかけて解していった。
嫌がっていた声音が、次第に甘い嬌声に変わる。
ラッシュの掌が、引き剥がそうとダヴィッドの金髪に絡まる。
少年の雄から溢れる体液が、下肢の奥へと伝っていく。

「・・・淫らだな」

くっくっと喉で笑って、ダヴィッドは身体を起こした。
最早、ラッシュは力尽きたようにしどけなく横たわるのみ。
片足を抱えて、ダヴィッドは今度こそ右の指先を内部に侵入させた。

「・・・・・・ん!!」
「随分柔軟になったな・・・。俺の指を咥え込むだけでナカが震えるようだ」
「ぁ、ぃや・・・」
「嫌?いい、の間違いだろう?」

こんなにしているくせに、と囁かれ、
内部の指が乱暴に動かされた。
その瞬間、ラッシュは全身を硬直させた。
痺れるような刺激が、足の先から指の先まで貫いた気がした。
何か言おうとしたが、唇が震えるだけだった。
確実に、ダヴィッドの触れている箇所が熱い。
いままで感じたことのない快楽だった。
前を弄るよりも深く、重みがあり、そして持続するような。

「ぁ・・・なん、だ・・・?」
「素質があるな。初めて弄っただけでこれほどとは思わなかったよ」
「っく・・・もっ、やめ・・・!」
「素直に欲しいといえば、早くイかせてやるのに」

からかうような口調と、嬉々として内部を漁る指先。
まさか、と思っていたからラッシュは気づいていなかったが、
既に内部には3本の指が突っ込まれていた。
それに、好き勝手にぐるぐると内部の壁を擦られるのだ、
気持ちよくないはずがない。
ラッシュは襲い来る快楽を、必死に耐えた。
唇を噛み締める。
それでも、口の端から洩れる快楽の証は耐えることなく室内に響き渡る。

「ぁ、ああっ、も、ぁんっ・・・」
「ほら、早く言わないと、このまま苦しいだけだぞ?」

前立腺をしつこく擦りながら、悪戯半分に唇で雄の先端に吸い付けば、
もはやラッシュの理性など崩れたも同然。
もう、どんな場所にいて、誰とこうしているのかも、もう把握することなどできず、
ただ、下肢を襲う快楽の捌け口が求めたくて、
必死にラッシュは手を伸ばした。
触れたのは、ダヴィッドの頭だった。夢中で、掻き抱く。
震える身体を必死に耐えるように、縋りつくように腕を回されれば、
ダヴィッドもまた、満足げに口の端を持ち上げる。

「ラッシュ。イきたいか?」
「っあ・・・イきたいっ・・・もう、苦しっ・・・!」

身も世もなく与えられる快楽に溺れる少年に、
ダヴィッドは漸く彼の欲望を解放してやった。
内部の指3本で一気に最奥を貫くように捻じ込んでやるだけで、
あっけなく快楽を迸らせる。
衣服すら汚すのも構わず、ダヴィッドはラッシュを真近で見つめていた。









こんなことをするために、少年に愛を語ったわけではない。
だが、自分の求めに対し、逃げてばかりの彼を、
少しばかり苛めたくなっただけだ。
男とか女だとか、性別など関係ない。自分はたまたま男で、
たまたま男であるラッシュという存在が好きになっただけなのだ。
だというのに、未だ性という枠組みに捕われているラッシュが気に食わなかった。

―――お前が、本当のお前と向き合って、
   そして結果として私の想いを拒むならば、それもいいだろう。私は受け入れよう

だが、まだ、ラッシュは気づいていない。
心の奥底の真実を。本当の己を。

―――愛している、ラッシュ

放心したように腕の中に収まる少年を、ダヴィッドは強く抱き締めた。





...to be continued.




Update:2009/04 by BLUE

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