心の底の闇に触れて。3



「・・・ぁ、ああっ・・・ぁ!」

広い部屋の中で、ひどく甘ったるい声音が響いていた。
必死に男の身を引きはがそうとするが、うまくいかない。ベッドの上で、
男の全体重に押さえ付けられ、逃げ場などない。
そんな屈辱的な状態で、情けなくも快楽の兆候を見せているのだ、ラッシュにもはや反論の余地はなかった。

「い、ゃだ・・・」
「まったく、困った身体だな。こんなに指をくわえ込んで、それでも足りなそうじゃないか」
「違っ・・・ぁ!」

口ではどんなに抵抗を見せていても、
身体は既にダヴィッドの支配下。
何度も続けられた行為に、身体が慣れないはずもなく、
それどころか、無意識に腰すら揺らしてみせた。
そんなラッシュの姿に、ダヴィッドはくすりと笑う。指を深々と埋め込んだまま、
焦らすように舌で彼自身に刺激を与える。
止まることのない前と後ろからの責めに、もはやラッシュは涙を溢れさせるしかなかった。





あの、資料室での一件以来、
ダヴィッドは毎夜ラッシュの部屋に通うようになった。
それも、必ず決まった時間に。だから、ラッシュが逃げようと思えば簡単に逃げられただろう。
その時間に、ラッシュ自身が部屋にいなければいい話なのだから。
だが、ラッシュはそれを実行しようとして、すぐに逃げられないことを悟った。
まず、部屋にラッシュがいないことを知ると、
ダヴィッドはドアの前で一晩中待ち続けた。それも、一睡もすることなく。
そうして、朝、ラッシュがこそりと戻ってくると当然のように声をかけてきて笑みを向けてくる。
彼に捕まれば、いわずもがなだ。部屋に押し込まれ、ベッドに押し倒されてジ・エンド。
昼まで起き上がれない状況に陥らされる。
かといって、まさか城に帰らない、など駄々をこねることもできなかった。
大体、自由行動を許可すると行っておきながら、
その実アスラム兵をストーカーに付けているのが頂けない。
用事があればすぐに呼び戻すし、城門が思いの外早く閉まってしまうらしく、門限になれば引きずってでも城内に押し込まれる。
これでは、軟禁も同じだ。
だが、だからといって、こんな関係を白日の下に晒し、
皆の前でダヴィッドのすべてを非難することなどできなかった。
結局、泣き寝入りなのだ。
彼に嫌われたくない。彼に与えられる強引な愛撫も、
今の自分は心のどこかで望んでいる。
一度や二度ではない、毎晩続けられるそれを、
ラッシュは今では戸惑いと共に受け入れ始めていた。
その証拠に。

「・・・ぁ、ああっ・・・く、」
「声を殺すな・・・」

唇を噛んでみても、口許から漏れる声音は抑えきれない。
さらに、ダヴィッドは、空いているほうの指で強引に歯列を割ってくるのだ、嫌でもくぐもった声が溢れて来てしまう。
それをラッシュはひどく恥ずかしいと思ったが、
どれほど涙目で訴えてみても、ダヴィッドがそれを許すことはなかった。
それどころか、強く舌を押し、内部まで侵入してくる。

「舐めろ」

冷たささえ感じる硬質な声音。
まるで、犯されているようだと思った。
いや、実際そうなのだろう。この、合意でない関係の被害者は、
自分のはずだ。
身勝手な愛撫で、強引にイかされる。
誰が見ても犯罪者は自分を懐柔する男のはずで、
自分に罪はないはずだった。

「ぁああっ・・・やめろ・・・」
「この期に及んで、まだそんな事を言っているのか?・・・罪、だな」
「んっつ・・・」

ぐ、と強く昂る雄を握り込まれて、
痛みに身をすくませた。
今日は、珍しくダヴィッドが苛立っている気がした。
理由など、わからない。
確かに、今日はブロクターの部屋で、他の兵たちとつまらない遊びに興じて
戻ってきたのは朝方になってしまったが、
自分がダヴィッドを避けているのは最近ではいつものことだし、
彼が通う時間に部屋に居ないことだってしばしば。
なぜ今日に限って怒っているのか、
ラッシュは困惑したように首を振った。

「・・・な、んだよっ・・・!」
「そんな態度で俺を誘惑しておいて、被害者ヅラか?笑わせるな」
「っ・・・!」

心を読まれたようなタイミングでそう告げられ、ラッシュは唇を噛んだ。
乱暴に身体を返され、尻を男の眼前に突き出すような格好になる。
先ほどまで口内に押し込まれていた指先を、今度は下肢に銜え込まされ、
緩んだその場所が卑猥な水音を立てる。
内部で自在に動くそれが、ラッシュの弱い部分ばかりを執拗に責め立てるものだから、
少年は指先まで震わせて快楽に耐えた。
強くシーツに爪を立てる。

「・・・ぁ、あ、や、やだっ・・・」
「本気で嫌ならばいくらでも方法はあるだろうに。お前だって同罪だよ。
 ・・・何度、夜を過ごしてきたか、考えてみるといい」

ダヴィッドの言葉に、ラッシュは諦めたように瞳を閉じた。
毎夜、彼が己の部屋に来るのを、期待している自分が確かに存在している。
嫌だと思いながら、胸を高鳴らせている自分がいる。
例え自分が部屋にいなくとも、
帰れば必ず、彼が待ってくれている―――、
いつの間にか、それが当然のように感じていた。

「いい加減、素直になれ。こんなモノじゃ足りないと、お前だって感じているはずだ」
「っえ、何・・・」

突然、深々と付け根まで挿れられていた3本の指を抜かれて、
ラッシュは戸惑ったように瞳を揺らした。
緩んだ下肢が、ひどく疼いて仕方がない。もっと、・・・欲しかった。満たされたいと、
中途半端に快楽を与えられたそこが収縮を繰り返す。

「俺なら、お前の欲しいものを与えてやれる・・・」
「・・・ぁんっ・・・」

思いのほか優しい声音と共に、
顎を取られ、熱をもった唇を重ねられ、ラッシュは思わず男にしがみ付いていた。
濡れた舌同士が絡み合い、糸を引く。
比べたことはないが、おそらくダヴィッドはキスが上手いのだろう。
歯列をなぞるように動く舌や、
時折角度を変え、噛むようにして触れてくる情熱的なそれ。
力が抜ける。
抵抗の意思を失い、与えられる快楽に溺れそうになる。
その時、
不意に下肢にあたる感触に、ラッシュは唐突に顔を赤らめた。

(・・・ちょ、待、て・・・)

全裸の自分に対し、ダヴィッドは部屋に来たときのまま。
今まで、何も意識して来なかったけれど、
下肢に触れるそれは、紛れもなく、ダヴィッドの男としてのそれで。
ラッシュは一気に顔を赤らめた。
そうだ。
今まで、何度もダヴィッドに抱かれてきた。
それはただただ一方的で、
雄を捕えられ、乱暴ともいえる愛撫で絶頂まで達かされたり、
指先で肛内を嬲られ、最奥の一番感じる部分を無理矢理開発させられたりと、
ひどく身勝手なものだった。
けれど。

「ラッシュ」

耳元で囁かれ、一気に心臓の鼓動が早まった。
そうして、長い舌が耳殻を舐め上げる。ぞくりと、背筋が震える。
そうだ。
ダヴィッドは、これまで幾度となく自分をこうやって蹂躙してきたけれど。
一度として、己の快楽のための行為を強要したことはなかった。
もし、本気で自分の全てを支配するつもりなら、
無理矢理にでも身体を押し開き、乱暴に身体を奪うことだって出来たはずだ。
ダヴィッドの掌が、優しくラッシュのそれを包み込む。
何度も、名前を呼ばれた。
甘い声音。もう、耐え続けるのは疲れた。
そもそも、なぜ自分は、これほどまでに彼を拒んでいただろう?!

「・・・ダヴィ・・・」

しかし。
ラッシュが意を決してダヴィッドを抱きしめようとしたその時、
するりと男の身が自分から離れていった。
ギシ、とベッドから降りる音。
ラッシュは状況がわからず、呆然とダヴィッドを見やったが、
彼は何も言わないまま、乱れた衣服を整えている。

「っえ・・・」
『ダヴィッド様。・・・もうすぐ、お時間です』

控え目に叩かれたドアの音と共に、トルガルの声が部屋に響いた。
ラッシュはとっさに手を口元に当て、息を詰めた。
勿論、ここは自分の部屋だ。自分がいないはずはないのだから、そんなことをしても意味がないのだが。

「わかった。」
「っ・・・」

ラッシュはダヴィッドを呼ぼうとして、唇を噛んだ。
彼が苛立っていた理由が、漸くわかった。
どうしても外せない予定があったというのに、ダヴィッドは昨晩も自分の元へ来てくれたのだ。
だというのに、そういう日に限って、自分は部屋に戻らなかった。

(ダヴィッド・・・)

室内の空気が、一気に冷える。
そのまま、ダヴィッドは一度も振り返らず、部屋を後にした。
















その日は、新たな交易路の開拓のため、
バルテロッサの使者が城を訪問する予定があった。
ラッシュには与り知らぬところだったが、ダヴィッドはそのまま使者と共に視察に出たため、
ほとんど城にはいなかった。
普段のラッシュならば、彼がいないことを知ると、
城に居残り組の兵たちと手合わせをしたり、マテリアルを探しに行ったりと
自由を謳歌していただろう。
けれど。
今日は一日中、ラッシュは1人、部屋から一歩も出ることはなかった。
正確には、ベッドからほとんど出なかった。
勿論、昨晩は徹夜でブロクターの部屋で騒いでいたのだから、
睡眠は必要だった。
けれど。
ダヴィッドに浮かされたままの身体は、
自分で抜いたところで大した充足感は得られずに、
結局、誰とも顔を合わせる気がないまま、体調不良と言い訳をして悶々と過ごしていたのだ。
そうして、漸く、起き上がれるようになった夕食の時間。

「・・・・・・ダヴィッドは?」

彼と顔を合わせることを覚悟して来たラッシュだったが、
いささか拍子抜けしていた。
よほど遠い場所への遠征でない限り、
ダヴィッドが城の夕食時に現れないことはない。
けれど、今テーブルについているのは、イリーナと、同じく居残り組のブロクターだけ。
首をかしげるラッシュに、ブロクターは口を開いた。

「若は、部屋に篭ってるぜ。今日中に仕上げる仕事が山ほどあるそうだ」
「仕事?」
「最近、あまりダヴィッド様も体調が優れなかったみたい。・・・お兄ちゃんは別にいいけど、ダヴィッド様は休めないからお辛いわよね」
「どういう意味だよ、イリーナ!」

妹の物言いに、ラッシュは唇を尖らせた。
体調が優れなかった?当たり前だ、毎夜毎夜自分の部屋に通い詰めで、
更に一睡もせず自分を待ち続けているのだから。
そんな状態で、本当ならばまともに政務がこなせるはずもない。

「だって、私達は居候させてもらってるだけだもの。
 ・・・お兄ちゃんも、ダヴィッド様に感謝しなきゃ駄目よ」
「感謝ね・・・。」

ラッシュは呆れたように肩を落とすと共に、
少しだけ口元を綻ばせた。

本当は、彼が、好きであんなことをしているのだ、同情の余地はないのだけれど。
毎日毎日、自分がいてもいなくとも、彼はずっと来てくれた。
そうして、愛していると囁いてくれた。
そう考えただけで、胸元が温かくなる自分がいる。
彼を愛しているかと問われれば、
まだ素直にはうなづくことはできないけれど。
嬉しかった。
そこまで、自分を想ってくれているということが、嬉しかった。

だから。

「・・・・・・ラッシュ」

驚いたようにガタリと立ち上がるダヴィッドに、
ラッシュは少しだけ笑みを傾けてみせた。
深夜、皆も寝静まった頃。
もうすぐ、ダヴィッドが自分の部屋へと通う少し前の時間、
ラッシュは、ダヴィッドの部屋を訪ねた。
仕事がどれほど溜まっているかは、ブロクターからも、他の将軍や侍女たちからも聞いていた。
ラッシュ自身、彼がどれほど大変か、本当はよくわかっているつもりだ。
けれど、
今夜だけは。
自分から彼の傍に行きたかった。
それに、今でも、まだ。
疼いている。朝方、目覚めさせられた下肢の欲が、今でも。

「どうした・・・」
「あんたの、せいだよ」

俯くラッシュの顔を、ダヴィッドの指先が上げさせる。
ラッシュは、夜着にガウンを羽織った身軽な衣服のまま、頬を染めてみせた。
こんな状況で、誘惑されない男はいない。
机の上の書類は積み上がったまま。
けれど、ダヴィッドはとりあえず忘れることにした。
明日、トルガルには怒られるかもしれないが。
この少年を前に、秤にかけられるものなどないのだから。

「んっ・・・」

唇を重ねても、腕の中の存在は、今までのように逃げることはしなかった。
求めるように、胸元のシャツを掴む指先。
ダヴィッドの身体が一気に熱くなる瞬間だ。
何度も、欲しいと思った。
いつだって、頭から離れることはなかった。この無償の笑顔に、どれほど焦がれたか。
けれど、こんな、歪んだ感情を、
誰が認めてくれるというのだろう!?
忘れようと、目をつぶっていた頃もあった。

「お前から来てくれたのは、二度目だな」
「ん・・・」
「一度目は、初めてお前が俺に本心を教えてくれた。・・・嬉しかったんだよ。本当は」
「ぁ、っ・・・」

男の掌が、確かめるように、布地の上から下肢を辿る。
羞恥心が背筋をぞくりと這いあがった。けれど、
彼の成すがままになろうと努力した。なぜなら、こんな身体を作ったのは、目の前のこの男。
罪なのは、ダヴィッド・ナッサウ。
見つめられるだけで、下肢が熱を持つ。

「“好き”だと言ってくれた。例え友人としてであれ、お前に嫌われるよりよほどいい」
「ぁ、ちょっ・・・」

ぐい、と腕を掴まれて、強く抱きしめられる。
そのまま、足が宙に浮き、
驚く間もなくベッドに押し倒された。
見下ろす男の顔は、確かに多少疲れの出た顔色をしていたけれど、
いつもの、清々しいほどに自信に満ちた表情で。
―――見惚れる。

「あんた、仕事・・・」
「お前と秤にかけられるものなどない。・・・お前だって、そのつもりで来たんだろう?」
「ぁ・・・!」

一気に前を肌蹴られ、ラッシュの顔が真っ赤に染まった。
有無を言わさず、ダヴィッドが頭を胸元に埋める。
キスが降らされ、白い肌に薔薇の花弁が散った。ダヴィッドは目を細めて、
指先でそれを辿る。

「朝の続きだ。お前の欲しいものを、与えてやるよ」
「・・・っダヴィ・・・!」

ボトムのウェストから侵入する淫らな掌を、
ラッシュは身を竦ませて受け入れた。
簡単に、少年は全ての衣服を脱がされる。男の目の前に晒されたのは、
もう既に昂ったそれで、
ダヴィッドはくすりと笑った。
指先を絡ませるように、砲身を掌に包み込む。
ラッシュ自身が求めてきた行為は、普段以上に快楽を煽った。
自分の手でするよりも、数倍も快感に感じた。
相変わらず羞恥は収まらなかったが、
相手はダヴィッド。
今更、見られて恥ずかしいものなど何もなかった。
ダヴィッドが指の腹で触れるだけで、下肢の奥に隠された場所が収縮を繰り返す。

「・・・っは、やく・・・!」
「淫乱だな?」

からかうようにして声を投げかけ、同時につぷりと内部へ侵入する。
ラッシュの中は、とうに濡れていた。
力の抜けたままのそこは、大した抵抗もなく男の指を受け入れ、それすら足りないとばかりに締めつけてくる。
こればかりは、ラッシュ自身でどうにもできなかった。
慣れ切った身体は、更に強い快感を求めている。
ダヴィッドの掌が前を擦り上げると、確かに脳髄を貫くような刺激が
全身を走ったが、
まだ、足りない。
それに、自分もまた。
―――オレも、あんたの全てが、欲しい・・・

「ダヴィッド・・・」
「・・・綺麗だ、ラッシュ」

唇をなぞられて、そのまま深い口づけが交わされた。
それだけで、下肢が疼く。
簡単に3本もの指を受け入れた内部が、卑猥な水音を鳴らす。
吸い上げられた舌を甘噛みされただけで、
下肢がぐっと熱くなった。
男の手で上り詰めさせられる感覚は、恐怖にも似た強い快楽を呼び醒ます。

「ぁ、ああっ・・・!」

待っていた快感が与えられたことで、
ラッシュ自身はあっけなく精を溢れさせた。
指先に付いたそれを、
ダヴィッドはラッシュの目の前でそれを舐め取る。
それを目にした少年は、すぐに自身の雄が熱を取り戻し始めるのを感じた。
熱が、収まらない。
今までとは違う、何かを感じていた。
ダヴィッドに、一方的に快楽を与えられてきた今までとは違う、
「欲しい」と願う気持ちが。

「・・・ダヴィッド・・・オレ・・・ヘンだ・・・」
「ん・・・」

今でもまだ、ダヴィッドの指先はラッシュの奥深くに埋め込まれていて、
ラッシュはもっと強く感じたくて瞳を閉じた。
無意識に腰が揺れる。
ダヴィッドが、悪戯をするように内壁をひっかくようにするだけで、
頭が真っ白に染まる。それは、ひどく欲しいもので。

「ダヴィ・・・っほ、しい・・・」
「何が欲しいんだ?それじゃ聞こえないよ」

キッとラッシュはダヴィッドを睨んだ。
わかっているくせに、言わせようとする意地の悪い性格が本当に気に入らなかった。
けれど、このままでは何も始まらないし、終わらない。
何度、同じような夜を過ごしてきたか。
もう、いい加減、自分の心にケリを付けねばならないと思った。
こんな、中途半端な関係でいたくはない。
彼の、想いに応えたい。

「・・・、・・・欲しいんだ・・・あんたが・・・」
「俺が好きか?」
「んっ・・・好き、だっ・・・から、お願っ・・・・・・!」

ずるり、と指先が引き抜かれた。
ラッシュは息を詰めた。喪失感と、同時に湧きおこる期待感。

「ありがとう。」

言葉と共に、下肢に宛がわれたモノがあった。
熱い塊。濡れた感触、重い感覚、そう、それこそが自分の望んだ―――

「あ、ぁあっ、ダヴィ・・・!」
「俺も、お前が大好きだよ」

ぐっと強く侵入してくるそれに、ラッシュは必死に受け入れようと努力した。
自分の身体を支配しようと潜り込んでくるダヴィッドの猛りに、
ラッシュは浅い息を吐く。
どんなに緩んだ箇所とはいえ、はじめての行為に、
緊張しないはずはない。
ダヴィッドは何度もキスを与え、彼の緊張を解すように抱きしめた。
片手は、結合部に添えるように。

「・・・ぁ、っく・・・」
「力を抜いて・・・」

内臓を押し上げるような圧迫感に、眩暈がする。
改めて、自分がどれほど背徳的な行為に興じているか、実感した。
同性の間で、何をやっているのだと思う。
けれど―――。

「いいよ、ラッシュ」
「あ・・・え・・・?」

耳元で囁かれる声音に導かれるようにして瞼を持ち上げれば、
間近にあの美しい彼の顔立ちがあった。
下肢には、深々と男のそれを押し込んだまま。けれど、痛みよりも、満たされたような感覚が
ラッシュの胸の内を支配する。
漸く、求めていたものが与えられたような気がして、
少しだけラッシュは笑みを浮かべた。
本当に、こんな事を、自分が望んでいたのかと思うと、
不思議な感覚だ。
まだ、素直には受け入れられない感覚。
けれど、ラッシュは、
嫌悪感よりも先に、溢れる幸福感を抑えきれずにいた。

「オレ・・・変、だ・・・」
「ん・・・」

未知の感覚に、不安を覚える彼の額に唇を落として。
そのまま、ゆっくりと腰を揺らす。
初めは、感覚を確かめるように。ラッシュがあまり辛そうでないと知ると、
次第に強く、深く内部を抉ろうとする彼自身に、
ラッシュは付いていくのが精一杯。
ただ、更に熱を増していく内部の男のそれが、ひどく興奮した。
2人の腹の間で、ラッシュのそれが悦の証を漏らす。

「・・・あ、ああっ・・・ダヴィっ・・」
「嬉しいよ、ラッシュ。もっと、俺を感じてくれ・・・」
「あ、だめだっ・・・!」

雄に絡む指先に、悲鳴すら上げる。
初めはあれほど拒絶していたはずの行為。だというのに、
今は、全身の細胞が悦びの声をあげ、汗を滲ませている。涙すら、溢れた。
痛みでもなく、悲しみでもない、
感じたことのない幸福感が、胸に込み上げ、そうして弾ける。
初めて与えられた感覚は、
ひどく甘く、そして激しくラッシュを襲った。
男の肩口に爪を立て、そうしてうっすらと開けた瞳に映ったものは。
ダヴィッドの、
これ以上ないほどに上気し男らしく歪んだ顔と、
そして漸く得られた存在に満足げに唇を持ち上げる、
いつもの彼の表情だった。










「っ痛・・・」
「・・・大丈夫か?」

漸く意識が戻り、ラッシュが瞳を開けると、
傍にはダヴィッドの顔があった。
よかった、と思い掛けて、ん?とラッシュは顔を歪ませた。
今の今まで、毎朝目覚めて男がいないことに安心していたというのに、
何故、今日に限ってそんな感想を抱くのか!
心配そうにのぞき込むダヴィッドに、
ラッシュはぷいと背を向けた。
怒っているのではない。照れくさいのだ。
あんな、乱れた姿を見せてしまった。それも、自分から求めてしまった!
その証拠に、繋がれていた下肢が蟠ったように痛い。
はぁ、とため息をついた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。

「ラッシュ?怒っているのか?」
「・・・別に」

唇を尖らせて、努めて冷静にそう告げた。
動揺を、悟られたくはなかった。
自分が欲しいと思い、よかれと思って彼を受け入れてしまった。
今更ながら、どうして自分はあれほど絆されてしまったのだろうと思う。

「・・・嬉しかったよ。お前が、漸く俺の存在を受け入れてくれたことがね。」
「そりゃ、あんたはね・・・」
「お前も、よかったろう?」
「!!」

図星を突かれて、ラッシュの顔が一瞬にして沸騰した。
まさか、よかったなんて言えるはずもない。
あれほど抵抗していたくせに、彼を受け入れてヨガっていたなど、
認めたくもなかった。
出来ることなら、なかったことにしたいくらいだ。

「っの馬鹿!」
「はは。ありがとう、ラッシュ」

照れ臭さから、顔を真っ赤にして怒鳴る恋人に、
ダヴィッドは口づけた。
きっと、これからもラッシュは、素直になりきれずに抵抗し続けるだろう。
それでも、時折こうして、
彼そ素顔が見られれば、それでいい。
ダヴィッドはそう思った。
それに、時間はまだまだある。
そう、おそらくは、一生に近い時間。
布団に包まり、頭だけ見え隠れする少年を抱きしめて。
ダヴィッドは満足げに笑ってみせた。





end.



Update:2009/04 by BLUE

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