惰眠。



ダヴィッドの部屋は、そこが元は戦城とは思えない程
豪華な調度品に溢れていた。

「うわぁ、すげぇ・・・」

ラッシュは初めて訪れた領主の部屋に、感嘆の声を上げる。
自分に宛がわれた部屋も広いと思ったが、
ここはその比ではない。
重厚な雰囲気を漂わせるアンティーク家具、天蓋のついたキングサイズのベッド、その全てに
金があしらわれていてひどく煌びやかだ。
壁には、ラッシュは知る由もなかったが、同時随一と謳われた一流の絵師による絵画や美術品が並べられ、
こんな高級感溢れた部屋、自分ならばかえって緊張するかもしれないと思う。
とりあえず、ラッシュは客人らしくソファに座ろうとして、
しかし見るからに寝心地の良さそうなベッドの誘惑に負けた。

「ふかふかだ・・・」

座ってみると、ゆったりと自分の身体が沈んだ。
自分に宛がわれた部屋のベッドも、高級宿に劣らず寝心地はいいのだが、
やはり領主の使うものは格が違う。
シーツの肌触りも極上のもので、ラッシュは無意識に何度もそれを摩っていた。



今日は、ダヴィッドと街へ出る約束だった。
だから、予定の時間に彼の居る謁見の間へと寄ったのだが、
どうやら、まだ政務に忙しいようだ。
ダヴィッドは、すまなそうな顔でラッシュを見、
そうして言った。
もう少しだけ待ってていてくれ、と。
勿論、ラッシュは唇を尖らせたが、さすがに小さな子供ではない。大人しく引き下がろうとした彼の背中に、
投げかけられた言葉。
俺の部屋で待っていてくれて構わない、と、
そういう甘い事を言うダヴィッドに、
少しだけダヴィッドの部屋に興味を持ったラッシュは
こうして彼の部屋を堪能しているのだった。

「すっげぇ・・・気持ちいいー・・・」

あまりに滑りのいい起毛の感触が心地よすぎて、ヤミツキになってしまいそうだ。
ダヴィッドだけこんないい思いをしているのかと思うと、
少しだけ嫉妬してしまう。
相手がこの国で一番偉い男だなんてすっかり忘れて、
ずりぃとか言ってみる。
あまりの気持ちよさに眠気を催したラッシュは、
天下のアスラム侯の寝台にべたりと寝そべってしまった。

「ん・・・」

目を瞑れば、すぐに寝入ってしまいそうだ。
それくらい、心地よいシーツの肌触り。そうして、もう一つ。

(・・・ダヴィッドの、匂いだ・・・)

きゅっと丸まれば、彼の胸に頬を押し当て、彼の腕に抱かれているような幸福感さえ感じた。
ダヴィッドは優しい。
ひどく甘い言葉で自分を蕩けさせては、腕に収めて柔らかく笑う。
けれど、そういう時のダヴィッドは、大抵下心を微笑みの下に隠していて、
十中八九自分が甘い声音を上げさせられる羽目になるのだが、
それでも、ダヴィッドを嫌いになれないのは、
自分がよほど彼に絆されているのだと思う。
彼の傍にいると、安心する。
1人寝の夜は、あまり寝付けなかった。
彼の温もりと、そして微かな香水の匂い。それが、いまでは自分の快眠には必須事項で、
そうして、幸い今は、このベッドがその全てを満たしていた。

(ん・・・)

・・・やばい・・・
腰の奥が、疼いて仕方がなくて、ラッシュは無意識に下肢へと手を伸ばした。
ボトム越しからそっと中心部に触れると、
もうこれだけで固さを増し始めている自分自身に、
ラッシュは一人頬を染める。
こんな場所で、・・・そう、自分の部屋ですらないのだ!
けれど、先ほどの様子では、当分ダヴィッドが自分の元に来ることはないだろう。
少しだけならば、きっと、バレないはずだ。
そう・・・少しだけなら。

「・・・ぁ・・・」

ラッシュは、ボトムの前をくつろげて、掌を忍び込ませた。
直接触れることで、快感は何倍にも膨れ上がる。
指を絡めて、先端を撫でるように擦れば、いよいよ欲望は止まらなくなった。
シーツに顔を埋めて、瞳を閉じる。
いつもダヴィッドがしてくれているように、
強く先端を擦っては、溢れる体液を砲身に塗り付けた。

「んっ・・ぁ、ん・・・」

自然と漏れる声が止められない。
動きが大きくなるにつれて、寛げただけのボトムが邪魔になり、
ここがどこかも忘れ、脱ぎ捨てる。
一瞬のひやりとした感触と共に、解放された自身が天を向く。
自由になったそれは、更に欲望を露わにし、
ラッシュは膝を立てたまま幾度も己の雄を扱きあげる。
こんな淫らな姿は、ダヴィッドにすら見せられないだろう。
けれど、理性ではわかっていても、
男のことを思い出すだけで下肢が更なる情欲を欲してしまうのだ。
ぞくり、と背筋が震えた。
傍にいて欲しい。
腕に抱いて、甘い言葉を囁いて、キスをして欲しい。
そうして、もっと、深い場所に触れて―――。

「あ、ぁあ、ダヴィ・・・!」

濡れそぼった指先を、ラッシュは下肢の奥に含ませた。
普段、男の雄を受け入れている場所ではあるが、今はまだ固く口を閉ざしていて、
ラッシュは息を吐いて、内部へと侵入する。
ゆっくりと指を押しこめば、
内壁は熱を纏って侵入者を銜え込み、更に離すまいとしているようだ。
指先を曲げると、壁の粘膜がひどく震え、ぞくりと背筋が震えた。

「は、はぁ、あっ・・・」

口元から快楽の音が漏れる。
一番心地良い箇所を見つけたラッシュは、
何度もそこの粘膜を擦り上げる。
その度に、昂ったままの砲身からは蜜が溢れてきて、
もう片方の掌でそれを掬うように握りしめた。
前と後ろ、両方の刺激に、ラッシュは熱い吐息を何度も吐きだす。
瞼の裏には、ダヴィッドの美しい顔立ち。
それが、焦らすように指先で内部を擦っては、
自分を極限まで追いつめて笑うのだ。
はやく、と無意識に下肢に埋めたままの指の動きを速めた。
既に、内部に蠢くそれは3本になっている。
それでも物足りずに、
ラッシュはいやいやと首を降った。

「あっ・・・もっと、・・・っ」

指の根本まで埋め込まれた指先では届かない、最奥が疼いてたまらない。
あの、太くて長いそれに、何度も貫かれたい。
あの、苦痛から一気に快楽に駆け上る瞬間を感じたくて。
―――足りない。
こんなものでは足りない。
前を犯す濡れそぼった掌も、内部を犯す指先も、
これだけでは足りなくてどうしようもなくて。

「あ、あっ、もう、もっと、奥・・・、!?」

いきなり、どん、と音がして、世界が回った。
横向きになっていたはずの身体が、乱暴にうつ伏せにさせられ、
枕に額を押しつけられる。キツイ体勢に、無意識に体が悲鳴をあげた。

「っや、やめっ・・・!」

いきなりの出来事に動転したラッシュは逃れようと身を捩ったが、
その前に下肢に押し当てられた質感に息を詰める。
先ほどの指先とはまったく違う、
ひどく欲望をそそる熱。
腰を高く上げさせられたまま、視界もすべて奪われた格好で、
けれど高鳴る胸の鼓動は収まるどころか、
更に激しく脈打っていて。
ラッシュの指先が、ぎゅ、とシーツを噛んだ。
男の掌が、強く腰を掴み、そうして次の瞬間、更に力が篭る。

「んっ・・・あ、ああっ―――!!」

一瞬にして、深々と満たされた内部に、ラッシュは歓喜の声音を上げた。
指先ではどうしても届かなかった場所が、
望む通りに貫かれ、深い快楽がラッシュの隅々まで支配する。
もう、逃れようなどとは頭には浮かばなかった。
ただ、律動を開始するそれについていこうと、腰が揺れる。
卑猥な水音と共に、
何度も雄が抜き差しされては、
ぞくぞくと背筋が震えた。
真っ白だったシーツは細かな皺をいくつも刻み、
ラッシュの先走りにいくつものシミを作る。
溢れるそれを、今度は他人の大きな掌に包まれて、
もう、ラッシュのそれは限界。
一瞬、身体が大きく震えて、次の瞬間、

「あああっ・・・!!!」

体内の血液が沸騰するように、体が熱くなった。
そうして、視界が真っ白に塗りつぶされる。彼の雄からは勢いよく吐き出される精。
男の掌では収まりきらず、溢れるそれはシーツをべったりと汚した。
内部に男を収めたままの下肢は、その刺激に
強く男を締め付ける。
けれど、さすがにラッシュの解放にはついていけなかったのだろう、
男は苦笑してラッシュの耳元で囁いた。

「・・・早いな・・・」
「んっ、だってえっ・・・!」
「すこし、我慢していろ」
「あんっ」

一度達して敏感になった内部を、更に強く擦られて、
ラッシュは眩暈がするほどだった。
けれど、痛みなど既に感じないその部分は、
男の雄の大きさにひどく感じ、次の解放に向けて熱を集め始めている。
再び、ラッシュの前が力を取り戻していた。

「ああっ・・・また、だっ・・・!」
「では、今度は一緒にいくか?」
「ん・・・あ、そこっ・・・強く擦るな・・・って!!」

しかし、ラッシュの抗議など、
男が聞くはずもなく、
乱暴に貫かれる下肢に合わせて、前もまた乱暴に擦り上げられる。
ラッシュは、シーツに爪を立てて与えられる快感に耐えた。

「ラッシュ・・・」
「あ、んっ・・・はや、くっ・・・」

耳元で吹き込まれる、あの甘い声音が自分の名を紡ぐことに、
もはやラッシュは理性もなにもなかった。
ただ、彼に与えられる熱が、早く欲しくて。
そう、頭がおかしくなって、何も考えられなくなる、
あの脱力感と共にある快楽の波に呑まれたくて。

「全く・・・本当に淫乱だな、お前は・・・」

そんな淫らなラッシュの姿に観念したのか、
男は再度腰を抱え直し、更に強く自身へと引き寄せていく。
内部の熱さに我を失ってしまいそうなのは自分のほう。
これから、約束通り街へ出ようと思っていたのに、
こんな状況では本当にここから外に出られるのやら。
ひとり苦笑する男―――ダヴィッド・ナッサウは、
それでも腕の中に収めた少年の身体を思う存分堪能しようと、
唇を彼の耳の裏に落としたのだった。










「・・・ったく、部屋に入る時はノックぐらいしろよ!」

漸くまともに言葉を紡げるようになったラッシュは、開口一番、
そう言って目の前の男に唇を尖らせた。
シーツはぐちゃぐちゃ、下肢の衣服は床に投げ出されたまま。
無論、真っ赤に染まった顔も見られたくないので、
とりあえずラッシュは布団を被っている。

「勿論、何度もしたさ。変な声がしたから、何事かと思ったが・・・」

まさか、お前がひとりで俺の寝台でヤっているとはね。
そうくすくすと笑われて、
ラッシュは更に布団に隠れてしまった。
いったい、いつから自分の乱れた姿を見ていたのだろう!?
それを考えると、ひどく居た堪れなくなっていた。
穴があったら入りたいくらいだ。

「・・・そんなに、俺の寝台は気持ちいいか?」
「そりゃ、オレの部屋のヤツよりかは・・・。広いしさ」

ラッシュは再び寝心地のいいスプリングを意識して、ベッドに顔を埋めた。
今では、シーツが大変なことになっているが、
この枕の柔らかさといい、シーツの肌ざわりといい、
腕を広げても端から端まで届かない広さといい、
全てが数段上のものだろう。
こんなベッドで眠れたら、さぞかし目覚めがいいに違いない。

「フッ。ではラッシュ。今夜から、このベッドで眠るといい」
「えっ・・・」

心を読まれたようなダヴィッドの発言に、
ラッシュは困惑した。
自分が、この領主の部屋で眠るなど、果たして家臣たちが許してくれるのだろうか!?
いや、ダヴィッドさえ承諾しているのならば、
彼らは何も言わないだろうが・・・
では、ダヴィッドが自分のあのベッドで眠るというのだろうか?

「ダヴィッドはどうするんだよ」
「もちろん、一緒のベッドで、だよ。当たり前だろう?」
「っ!?」

澄ました顔で告げるダヴィッドに、
ラッシュは少し引いた顔色を再び真っ赤に染めていた。
一緒、ということは・・・
当然、アレもコレも「一緒」の中に入っているわけで・・・・・・。
考えれば考えるほどに、ひどく顔に熱がのぼるのを感じた。
嫌なわけではない。
嫌なわけではないが・・・・・・、毎夜?!
驚いた顔をするラッシュに、
ダヴィッドは少しだけ淋しげな笑みを浮かべ、彼の頭を撫でた。

「・・・・・・一人は、寂しかったんだよ。こんな広いベッドに、一人はね」
「あ・・・その、えーと」

確かに、ダヴィッドの言うこともよくわかる。
こんな広すぎる部屋で、広すぎるベッドに一人。
考えてみれば、先代のアスラム候が亡くなり、爵位を継いでから、
彼は一人でこの部屋の主人だったのだろうから。
いきなり宛がわれても、
本当に自分の部屋として落ち着ける場所ではなかったのかもしれない、と思う。

「ダヴィッド・・・」

彼の生い立ちに少しだけ思いを馳せるラッシュに、
しかしダヴィッドはウキウキと告げた。

「確かに、言われてみれば、毎夜お前の部屋に通ってお前のベッドに寝るより、よほどこちらのほうがいいしな。
 ・・・よし、では決まった。今夜から、毎夜お前が私の部屋に来るように」
「え・・・ちょ、マジ・・・!?」
「来なかったらお仕置きだぞ、ラッシュ」

ちょっと待て!
ダヴィッドの中で勝手に進む話に、
ラッシュは慌てて彼に抗議をするべく唇を尖らせたのだった。





end.



Update:2009/04 by BLUE

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