静かな夜の過ごし方。



たまに、表裏のない態度を取る彼に無性に苛立つ事がある。
見ているだけで腹の内が嫌な熱に煮えたぎって、
無理矢理彼の身体を押し開き、
その奥に自分を刻みつけたくなる。
そんな自分の性癖に、
ダヴィッドは少々困っていた。

そう、まさに今。

「もっ・・・やっ・・・やだ・・・やめ・・・!」

既に、ラッシュは衣服など身に着けていない。
原型を留めない状態まで引き裂かれた布切れが、足元にあるだけだ。
すべて、ダヴィッドが無理矢理剥いだもの。
脱がせる、などという余裕は、なかった。
少年の同意も、抵抗も、関係がない。必要なのは自分の、彼に対する欲望だけで、
彼がどう思うかなどそれこそどうでもよかった。

今のラッシュは、
ダヴィッドの私室と寝室を隔てる衝立に、両腕に頭上に拘束された状態で、
砲身には身体を縛るモノと同じ目の荒い麻縄がきつく絡みついている。
男から与えられるのは、快楽という名の苦痛。
息が詰まるほどの激しいキスも、
歯を立ててキツく噛み付かれる愛撫も、
悪戯に砲身を弄ばれる腰の疼きも、
すべて苦痛にしかならなかった。無意識に身体が拒否反応を起こし、
唇は許しを請う言葉を紡ぐ。
涙はぼろぼろと関を切ったように止まらない。
嫌がらせ?それどころではない、ひどく乱暴な衝動。
ラッシュが嫌がれば嫌がるほどダヴィッドの心は歓喜したし、
悲鳴をあげればあげるほど、欲望は募った。
もっと、啼かせてみたい。
血が滲む程に、胸元の蕾にキツく爪を立ててみる。

「―――っう・・・ぁ、・・・!」

つぷり、と爪が喰い込み、裂かれた場所から鮮血が溢れた。
舌で舐め取り、そして吸い付くようにキスをした。
ラッシュの目尻から、また新たな雫が溢れ出る。
透明なそれは、頬を伝い、顎を伝い、ラッシュの肌すら汚していた。
薄っすらと目を開け、ラッシュは視線だけで許しを請う。
もう、解放してくれと。
立ったまま縛られるこの体勢も苦しくて、
そして何より下肢で暴走する熱が辛くて仕方がなくて。
けれど、ダヴィッドは

「・・・―――駄目だ」

ひどく硬質な声で、目を細めるものだから、
ラッシュは絶望したように唇を噛み、そして顔を逸らした。
そもそも、罪などないラッシュが許しを請う、というのもおかしな話だ。
それ以前に、ダヴィッドがラッシュを自分の意のままにしていいわけがない。
同意のない行為―――それは強姦めいていて、
・・・ひどく、興奮する。
ラッシュは自分が、なんの悪意もなく協力を申し出たと思っているかもしれないが、
生憎と現実は違うのだ。
だから、偽りの恋人を演じて優しく振る舞うよりも、
こうして、強引に彼の身体を開くほうが素直に欲望を自覚できる。
犯してみたい。
汚れもなにもない、純白の紙に黒いインクを落とすような狂気じみた快楽。
無垢な少年から、醜い『人間』の部分を引き摺り出してみたい。
結果、甘言に騙された哀れな少年は、
自分の腕から逃れることもできず、涙を零すばかり。

もっとだ、ラッシュ。
もっと、私の手で悦び、私の手で苦しみ、涙が枯れるまで苦痛に喘ぐといい。

「あ―――、あああっ!!!」

愛撫もなにもしていない箇所に、乱暴に凶器を突き刺す。
両足を抱え上げ、彼の身体を支えるのは、
手首にと身体に痛い程にまで食い込んだ麻縄のみ。
皮膚は擦れ、血が滲む。
穿たれた下肢は、切れた粘膜から赤黒い体液を溢れさせる。
太股に伝うぬるりとしたそれに、ダヴィッドは口元を歪ませた。
熱い。周囲に立ち上る錆びた鉄のニオイ。指先で掬い、砲身に塗り付ける。陶酔。
絶対に嫌われると思う。
下手をしたら、信頼を失い、自分の元から離れて行ってしまうかもしれない。
理性では、わかっている。
けれど、少年に苦痛を強いる行為は止まることを知らず、
彼が嫌がれば嫌がるほど、行為はエスカレートしていってしまいそうだ。
恐ろしい、この留まることを知らない昏い欲望。
自分にこんな闇があったのかと驚く程。
ラッシュの足を抱えたまま、首筋に歯を立ててきつく吸い上げる。既に青く痣になった箇所に、もう一度。
何度でも刻みつけたいと思う。この少年が、自分のモノだという証。
案の定、痛みを訴えてラッシュは更に悲鳴を上げた。
ぞくぞくする。
彼の内部で、自分自身が更に膨張したのがわかった。それもまた、ラッシュにとっては苦痛だろう。
裂かれた箇所を更に拡げさせられ、溢れる血は止まらない。

「・・・イイか、ラッシュ」

いいわけがない。
わかっているのに、敢えて耳元で囁く行為もまた、
自分自身すら興奮させる。
ラッシュはひとつの快楽の表情も見せず、ただただ苦痛に喘ぐように顔を歪ませていていた。
それでいい。
自分の行為に善がる彼を見たいわけじゃない。
自分の与える苦痛に喘ぎ、それでも逃げられず絶望を滲ませる浅葱色の瞳に、
釘付けになった。
衝動的に、口づける。
思い出したように、下肢の律動を開始した。
目尻からは涙、下肢からは体液、口元からは唾液。ひどく汚れた少年の姿は、実にそそられる。
もう、力の入らない身体はダヴィッドになすがままに揺れ、
虚ろな瞳はダヴィッドを映すことはなかった。

「・・・はぁ、ぁ、あ、あっ・・・」

唇を離せば、閉じることを忘れたそれから垂れ流される喘ぎ声。
まるで、壊れた人形のようだ。
華やかな言葉と、艶やかな踊りを踊ることを強いられた人形が、
言葉を忘れ、踊りを忘れ、ただ遊ばれるままに軋んだ音を立て、壊れていく。
自分の、腕の中で。
ダヴィッドはひどく嫌らしい笑みを浮かべた。
興奮する。
重力で自分の下肢にのしかかる身体を、乱暴に揺さぶれば、
自分の絶頂はすぐそこだ。
何度も内部を擦り上げれば、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が室内に響いた。
ダヴィッドの先走りとラッシュの血液が混ざり合い、ひどく内部は濡れている。

「あ、ああっ、んっ、ん・・・!!!」
「っく・・・」

前触れもなく、ダヴィッドは呻き声をあげてラッシュの内部に己の欲望を吐露していた。
既に体液で一杯の内部は、ダヴィッドの精など受け止めきれず、
押し込まれた内部の隙間から白濁を溢れさせる。
血と混じり合い、穢れ切ったそれを、ダヴィッドは掌で掬い、
その掌でラッシュの頬に触れた。
べっとりと顔に塗りたくり、恍惚を覚える。
酷いニオイだった。
脳髄の奥まで麻痺させるような、麻薬のような空気だった。















「・・・で、今日はどうしたんだよ」
「ああ・・・」

口に出すのも憚られるような行為を終えたダヴィッドに、
ラッシュは脱力したまま声をかけた。
あれほど全身を汚した状態で、まさか朝を迎えるわけにはいかない。
憑き物が落ちたようなダヴィッドと2人で風呂に浸かりながら、ラッシュは唇を尖らせた。

依然として、ダヴィッドに与えられた苦痛に全身は軋みをあげている。
手首も、身体を縛られた箇所も、擦れて血すら滲んでいる。風呂に入るのだって染みるのが一苦労だった。
こんなものが快楽かと問われれば、到底素直にうなづけるものではない。
けれど、ラッシュはダヴィッドのそんな行為を許し、受け入れた。
何故?それは、自分にもよくわからない。

「別に、大したことじゃない。使者たちの物言いに、イラっと来ただけだ」
「嘘つけ」

そんなもので、いちいち腹を立てるダヴィッドではない。
ラッシュには、よくわかっている。
ダヴィッドがこれほど苛立っていたのは、よほどプライドを傷つけることを言われたか、
思い通りに事が運ばず焦っているのか、とにかく気の滅入る事が幾つも重なったに違いない。
ダヴィッドは、自分の仕事のことに関しては、何も言わないから、
具体的なことは、なにもわからないけれど。
彼の心の状態だけは、ラッシュはひどく敏感に感じ取れた。

「・・・あのさ、ダヴィッド」
「なんだ」

まだ苛立ちが収まらない様子のダヴィッドに、心持ち不安になりながらも、
ラッシュは意を決して言葉を紡いだ。

「八当たりすんのもさ、まぁ、いいけど」
「・・・いいのか」
「っ・・・でも、たまには、オレに言ってくれよ」

ダヴィッドの顔を、まっすぐに見つめて。
ラッシュの瞳の真摯さに、ダヴィッドは目を見開いた。

「オレはあんたみたいに頭良くないしさ、解決方法とかアドバイスできるわけじゃないけど、でも」

湯の中で、ダヴィッドの手を両手で捕えて。
握り締める。意志をもって、強く、握り締める。

「聞くことくらい、できるからさ。」

ラッシュの言葉に、ダヴィッドは表情を緩めた。
可愛い少年だと思う。まっすぐで、曲がったことをよしとしない。
そして、想いの丈のすべてでぶつかって来てくれる。
本当に、素直な少年。

「・・・ラッシュ・・・。ありがとう」

ダヴィッドは優しく笑みを浮かべて、ラッシュの頭を撫でた。
けれど。

・・・ラッシュ。

ダヴィッドは優しげな笑みの奥で、昏く笑った。
違うんだ。八当たりなんかじゃない。
まったく、困った性癖だと思う。
何かに苛立つ度に、ストレスが溜まれば溜まる程に、
お前を啼かせたくてたまらなくなる。
合意でない行為を強いて、苦痛を強いて、散々虐め抜いてみたい。
お前がその全てを受け入れる度に、もっと乱暴にしてやりたいと欲望が止まらなくなるんだ。
ああ、ラッシュ。
泣き喚いて、許しを請うその姿が、たまらなく大好きだ。

「・・・ダヴィッド?」
「・・・・・・いや、なんでもない」

苦笑する。
我ながら困った性癖だ。
本当にラッシュを壊してしまう日が来るかもしれない、と思う。
けれど、それもまた、最高の快楽なのだろう。
ぞくぞくする。
最後の最後に事切れるその瞬間までを想像して、
ダヴィッドは唇を舌で湿らせる。
まだ、その愉しみは後にとっておこう、と一人ごちて、
再びラッシュを抱きしめた。






end.



Update:2009/04 by BLUE

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