The Outlaw vol.1



「・・・いいよ、もう。・・・イリーナは、俺一人で探すから。いままで、ありがとよ」

そうダヴィッドに告げて城を飛び出してから、既に数日が過ぎていた。
手掛かりは飛行レムナント、白いローブを纏った魔導士、アカデミーの存在、レムナントを狙っていること。
すべて、国家レベルの機密事項ばかりで、
だからこそ、ダヴィッドも性急な追求を渋ったのに、
だからといってラッシュ個人が街に出たところで、対した情報は集められるはずもない。
わかっている。けれど、ただ待っているわけにはいかなかった。
こうしている間にも、イリーナはひどい目に合っているかもしれない。
そう考えると、いてもたってもいられず。

「・・・アカデミーにいけば、何か手掛かりが掴めるかもしれない・・・」

そうラッシュは結論づけて、ギルドを訪ねていた。
ギルドとは、登録した傭兵たちの仕事を斡旋している場所である。
アカデミー・・・もとい聖都エリュシオンに行くためには、
険しい谷を越えねばならない。
一度はたった一人で通ることを試みたラッシュだったが、襲い掛かるモンスターどもにどうすることもできず、
結局仲間を得ることが先決だと思い至ったのだった。

ギルドは、クラージェ区の、奥まった暗い場所にあった。
どこか、殺伐とした空気。それもそうかもしれない。室内には屈強で強面なものたちばかり。
ぎろりと睨まれ、ラッシュは内心びくびくしていた。

「あ、あのさ」
「ああ。どういったご要件で?」
「傭兵を雇いたいんだ。強くて、頼りになるやつを・・・二人ほど」

ラッシュは自分の財布を確認しながらそう言った。
というのも、登録されている傭兵のリストには、
今のラッシュではどうにも手が届かない金額の猛者ばかりいたからだ。
いくら頼りになるものたちばかりでも、雇う金がなくてはどうにもできない。
かといって、事を急いでいる今の自分に、金を稼いでくるような余裕はなく、
ラッシュは唸った。

「・・・これ、もっと安くならない?」
「傭兵の方と個人的に交渉するしかないな。もっとも、トラブルになっても責任は負えねぇが・・・」
「なんだぁ?ひょろいのがきたなぁ」

ばたり、と扉が乱暴に開かれ、いかにもガラの悪そうな巨漢が二人、ギルドにはいってきた。

「・・・こ、これはガイアスさん!」

一気に室内に緊張が走ったのがラッシュにも伝わった。
ラッシュには勿論知りえないことだが、
この男はアスラムの傭兵団では知らぬものがいない、力を持った傭兵だった。
だが、その剛毅な実力は評価されていても、あまりに粗野で横柄な態度は同業者からもあまりよくは思われていない。
けれど、彼に逆らった者は影でひどい目に遭うらしく、表立って彼に嫌な顔を向ける者はいなかった。
それが、ますます男を付け上がらせていた。

「あ、あの・・・」
「なンだぁ?ココはテメェみたいなひ弱なガキが来る場所じゃねぇんだ。さっさと失せな!」
「いえ、こいつは依頼人でさぁ。傭兵を雇いたいそうで」

フン、と目を眇め、ラッシュを見下ろし鼻で笑うガイアスに、
受付の男は慌ててフォローをした。
こんな所でイザコザを起こされても困る。それでなくとも、
ギルドはただの傭兵斡旋だけではなく、裏の仕事も隠れて請け負っているため、
アスラムの警備兵には常に目を付けられている。
なにかあってからでは遅いのだ。

「雇いたい、だぁ?だいたい金もってんのか?てめぇ」
「そっ、それは・・・」

―――世界が違う。
ラッシュはそう直感した。自分のいままでいた世界が、
どれほど甘かったかを思い知る。
こんな、野蛮な人間たちが多く集まる場所―――それが、ギルド。
少なくともラッシュにはそう見えた。

ガイアスは、財布をチェックしていたままの恰好で固まるラッシュの上から覗き込み、
突然大声で笑い始めた。
人を馬鹿にする、聞いていられない程に卑しい笑いだった。
室内にいた誰もが、少年の不運を憐れんだ。
ガイアスは、ラッシュの手の中の財布を乱雑に奪い、さかさまに振った。
チャリン、と硬質な音がして、
床に散ったのはたったの400G。ラッシュは顔を真っ赤に染めた。

「けっ、シケた中身じゃねーか!そんなもんじゃ、このアスラムじゃ誰一人雇えねぇぜ!ココのギルドを甘く見すぎだ、小僧!」
「っ・・・・・・」

―――サイアクだ。

室内の人間すべてから、軽蔑の視線を感じる。
いてもたっても居られず、ラッシュは思わず部屋から飛び出した。
財布を取り戻す気にも、床にちらばった硬貨を拾い上げる勇気もなかった。
ただ、恥ずかしくて恥ずかしくて、どうしようもなかった。

「・・・けっ。遊びがいのないガキだったぜ」

少年が逃げだした方を見ながら、ガイアスは床に転がる財布を蹴り飛ばしていた。
本当は、なけなしの金を拾おうとして彼が屈んだ瞬間、
嬉々として蹴り飛ばすつもりだった。
最近、法外な雇い金のせいか依頼が来ずに不満の溜まっていたガイアスは、
ストレス発散のいい機会だと内心唇を釣りあげていたのだ。

「でもよ、ガイアスさん。アイツ、どっかで見た気がすんだよな・・・」
「そういや、オレも見たことあるぜ。どこだっけな、確か城の前とかで・・・」

口々に言い合う傭兵たちに、ガイアスもまた眉根を寄せる。
ちらとしか見なかったが、確かに少年の顔立ちは、アスラムの人間とは思えないクセのない顔をしていた。
おそらく、この国の生まれではないのだろう。
そういえば、最近、アスラム城に見慣れない顔が出入りしているという噂があった気がする。

「・・・噂は聞いたことがある。アスラム侯と親しげに話しながら城に入っていたのを目撃した人間がいるらしいな」
「そう、それだ!容姿は黒髪、ひょろっとした頼りなさそうな少年だったって話だから・・・」
「十中八九ソイツだな。間違いない」

ギルドにいた傭兵たちは、口々に噂について語り合った。
そもそも、普段、守りの固いアスラム城は、一般人の誰も彼もが足を運べる場所ではないのだ。
そして更に、主であるアスラム侯は、
爵位も何も持たないような無名の者を自ら城に招き入れることなどなかった。
そんなアスラム城に、客人と称し少年が招かれ、
更に城で部屋を与えられているなど、
信じがたいことだった。

「・・・しっかし、だったら腑に落ちないことがあるぜ。
 もし侯の気に入りだったら、なんでわざわざこんなトコに傭兵を雇いにくる?」
「確かに・・・普通、城に入れるくらいの客人なら、ダヴィッド様のことだ、兵を貸すなりするだろうに。
 なんでそんな奴がこんなところに来るんだ?」

皆が沈黙する。
本当にアスラム侯のお気に入りであれば、まさか彼がこんな獣の巣に放りこむはずもない。
そもそも、侯に庇護を受けられる立場ならば、ギルドなど必要ないだろう。
そんな少年が、ギルドを訪ねてきた。
しかも、情けないほどの少額しか持たない状態で。

「フン、侯のお気に入りね・・・そんじゃ、ほっとくわけにはいかないよなぁ?
 ・・・野郎共、奴はそう遠くへは行ってないハズだ。探して例の場所まで連れて来い」
「例の場所・・・?へへ、わかりやした」

ガイアスの取り巻きが、ニヤニヤと卑下た笑みを浮かべる。
それを眺める傍観者たちは、またもや少年の不幸に憐れみを抱いていた。
ガイアスを敵に回せばどうなるか、裏の世界では知らぬ者はない。
身ぐるみを剥がされ、プライドも何もかもをズタズタにされ、袋叩きにされ、
下手をすれば死すらあり得る。
そして彼の手にかかれば、死体すらもあがらないまま闇に葬られてしまうことだってあるのだ。
けれど傭兵たちの誰も、ガイアスを止めるものはいなかった。
それほど、闇世界での彼の名は、知られすぎていたのである。










「ハァ、ハァ・・・、っ・・・ちくしょ・・・イリーナ・・・!」

命からがら逃げ出してきたラッシュは、
クラージェ区の入口付近の影で漸く背に壁を付け、座り込んだ。
悔しげに唇を噛むが、今の彼にはどうにできない。
相手は、何年も経験を積んだ屈強な男たちだ。
力押しで、どうみても勝てる相手ではなかったし、
そもそも、あんな情けない所持金で傭兵を雇おうなどと考えた自分が甘かったのだ。
ラッシュは、はぁ、と再度溜息をついた。

だが、それでは自分はどうしたらいいのだろう?
自分の我儘からダヴィッドの元を離れた手前、
まさか傭兵を雇うための金を彼に借りるわけにもいかない。
だが、エリュシオンまでの道のりは、到底、自分1人で行けるはずもない、
長い長い道のりだ。
ラッシュは途方に暮れていた。

どうすればいい?

今のままでは、無一文。
食べることもできなければ、宿を取ることもできない。
どう考えても、近場で狩りをしてこなければ生きていくことすらできなかった。
回り道ではあるが、仕方ない、ディル高原でも行くか、と
踵を返したラッシュの背に、

「おい、待てよ」

投げ掛けられたガラの悪い声音に、ラッシュはギクリと体を強張らせた。
おそるおそる振り向けば、見覚えのある二人組。そうだ、先程ギルドで、あの巨漢の後ろについていた取り巻きの男たち。
ラッシュは一歩、後ずさった。警戒するように身構える。

「なんの用だよ・・・!」
「お前、エリュシオンに行きたいんだってな。
 ガイアスさんが、さっきは馬鹿にして悪かった、と言っていてな。詫びといってはなんだが、護衛で付いて行ってやりたいそうだ」
「っな・・・」

―――まさか。
有り得ない。ラッシュは信じられずに首を振った。
アスラムのギルドを陰で牛耳るほどの強大な影響力をもった人物。
それが、金もない、後ろ盾も無くした自分を、馬鹿にこそすれ、
まさか協力を申し出るなど有り得なかった。

「・・・どうせ、法外な金を取るんだろ?」
「言っただろう?お詫びだと。金はいらねぇよ。第一、お前、どっから大金作るんだ?
 急ぎなんだろう?そんな暇なんてない程。・・・な、いい話じゃねぇか。」

男共の甘言に、ラッシュは唇を噛む。
そうだ。確かに、男たちの言っていることは事実だ。
少しでも早く、イリーナの傍に行ってやりたい。回り道など、している暇などなかった。
方法があるならば、頼れるものは頼るべきだろう。
けれど・・・
ラッシュは俯いた。
沈黙する少年に、男たちは更に彼を籠絡するべく、甘い言葉を並べ立てた。

「それに、ガイアスさんは、ああ見えてエリュシオンの貴族の親戚なんだ。
 あんたが望むなら、口添えをしてやってもいい、ということだそうだ。
 ・・・どうだ?勿論、無理強いをするつもりはないが・・・」

エリュシオンの貴族。
そう振られて、ラッシュは無意識にゴクリと息を呑む。
アカデミーの長は、ダヴィッドから公爵だと聞いている。―――ウィルフレッド・エルマイエン。
ダヴィッドと共にいるなら交渉も可能だったかもしれないが、
まさか自分一人で彼に謁見を申し込むことなどできない。
けれど、もしあの男が、実はエリュシオンの貴族と懇意ならば、
もしかしたら何か突破口が開けるかもしれない―――。
ラッシュは覚悟を決めた。
そうだ、常にダヴィッドの目が光っているこのアスラムでこんな横暴な態度がとれるのだ、
よほど大きな後ろ盾を持っているのかもしれない。
そんな男が、今、自分の味方になろうとしているのだ。
どうしてこの機会を逃すことができようか。

「・・・わかった・・・。」

ラッシュは漸く首を縦に振った。
まだ、一抹の不安は拭い去らなかったが、それでも、それ以上に
イリーナへの想いが判断を鈍らせる。

「ただ、金は、後で絶対に払う。今は・・・力を貸して欲しい」
「ああ、承知したぜ。―――じゃ、ガイアスさんのトコに案内するぜ。こっちだ」

男たちは踵を返すと、少年の見えない所でニヤリと口の端を歪めた。
自分たちの後を、素直についてくる彼の足音を聞きながら、あまりに単純な奴だと鼻で笑う。
自分たちの言葉のどこにも、真実などなかった。
ガイアスも自分たちも、この少年がどんな事情でギルドを訪ねたかなど興味がない。
あるのは、彼が元々アスラム侯のお気に入りのはずで、
だというのに一人城を出て、仲間を求めてギルドにやってきたという事実。
侯の機嫌を損ね、城を追いだされたか、
はたまた侯のやり方に異を唱え、城を飛び出してきたかわからないが、
とにかく、この少年がいなくなれば、
侯も少しは心を乱すに違いない。
いい腹いせになる、と2人はほくそ笑んでいた。
勿論、本当にアスラム侯を敵に回すつもりは、彼らにはない。
ギルドを含め、普段から自分たちを危険分子として目を光らせている侯や四将軍たちを、
出し抜いてやりたいだけだ。
そうして、今まで幾度となく法の目をかいくぐって逃げ延びてきた彼らは、
今回も見つからずにすむと信じて疑わなかった。
侯の気に入りらしい少年を甚振り、犯し、ずたずたにしてやる快感を思うだけで、
にやける顔を抑えられない。

「さ・・・着いたぜ」
「な、んだよ、ここ・・・・・・」

招かれた場所は、裏路地の影にある階段を降りた、暗がりだった。
扉といえる扉もない、ただの行き止まりだ。
光もほとんど入らない地下であるため、視界が役に立たない。手探りで漸く、目の前が扉だとわかるくらいで。
心持ち身を引いたラッシュを尻目に、男は目の前の扉を開けた。
視界はますます闇に染まる。
パックリと口を開けた闇は、今にも自分を襲ってきそうな程。

「言っただろ?ガイアスさんが待ってるって。・・・ォラ、さっさと入りやがれ!!」
「っ・・・!!!」

ガッと、背を乱暴に蹴られて、ラッシュは不意打ちに足元をよろめかせた。
足を踏み外し、内部へと転げ落ちる。―――岩でできた階段に全身をしたたかに打ちつけ、
ラッシュは息を詰めた。
冷たい床に頬をつけたまま、苦痛に呻く少年を、
覗くいくつもの影がある。
不意に、室内のライトが灯された。
気味が悪いくらいに薄暗く、まるで地下牢のようだ。

「っぐ・・・」
「よぉ・・・無知で馬鹿な坊や。オレの根城にようこそ」

目の前には、ガイアスをはじめとする、
全身の痛みに身を起こすこともできないまま、
必死に眼だけで睨みつける。男は、ひどく嫌らしい目を向けて嗤った。
それだけで、ラッシュの身体が恐怖に竦み上がった。
騙された―――。胸の内に蟠っていた不安が、明確な現実となってラッシュの眼前に迫っている。
不意に、背後から先ほどの取り巻きの男たちに無理矢理身体を起こさせられて、
ラッシュは呻いた。
抵抗しようにも、羽交い締めにされ、すべての抵抗を抑え込まれてしまい、
唇を噛む。
そんな少年を、ガイアスはニヤニヤと見下ろした。
顎を掴まれ、品定めをするように上を向かされる。ラッシュは更に顔を歪める。

「へっ・・・よくよく見たら、可愛い顔してんじゃねーか。侯にも、そうやって取り入ったのか?」
「は・・・!?何を・・・っ」

突然、思いもしない単語が耳に飛び込んできて、ラッシュは目を見開いた。
領民たちに侯、と呼ばれる存在など、ただ1人しかいない。
つい先日、自分が飛び出してきた城の主―――アスラム侯ダヴィッド・ナッサウ。
自分が・・・なんだって!?

「な、にを言って・・・!」
「知ってんだぜ?テメェがアスラム侯の気に入りのガキだろ?
 何が目的か知らねぇが・・・ケツを振って取り入ろうなんざ、甘ちゃんな若様には効いても、オレには効かねぇぜ?」
「っ・・・違・・・」

蔑むような男の口調に、必死に首を振った。
事実、ダヴィッドとの関係は、そんなものではない。
妹を追いかけてきたあの場所で、偶然出会い、偶然手助けを申し出てくれた存在。
本当は、それだけで感謝しこそすれ、
自分の目的のために彼に取り入ろうなどと、考えたこともない。
初めて身体を開いたのは、彼に媚びるためなどではなく、求められたから。
理知的な瞳、完璧な造形、そして領主として当たり前に器の大きさを見せつけられて、
惹かれない者はいないだろう。
けれど、今は、彼のやり方に異議を唱え、
居てもたっても居られずに、思わず飛び出してきてしまった状況。
利用する?そんな事、できるわけがなかった。

「違う!ダヴィッドとは、そんな関係じゃない・・・!」
「へぇ・・・侯を呼び捨てに出来て、挙句にこんなんまで貰っておいて、―――違うだって?」
「それは・・・!」

男の手が自分のタリスマンに伸ばされるのに、ラッシュは必死に身を捩った。
先ほど、無理矢理起こされた時に、
胸元に隠していたそれが飛び出していたのだろう。
抵抗は意味がなく、無骨な男の手が乱暴に引くだけで奪われてしまった。
ラッシュは目を見開いた。
あのタリスマンだけが、自分がこの現状を逃れる、唯一の手段だったはずだというのに―――。
男の手の中で鈍く光るそれにどんなに意識を込めようと、
己の手を離れたそれは、うんともすんとも言わなかった。

「やめろ・・・返せ・・・!!!」
「・・・見事な細工だ。アスラムの職人の手じゃねぇ・・・ナーガプール辺りの輸入品か?
 こんな高貴なモン、てめぇみたいなガキが普通に持ってるわけがねぇ。へへ・・・楽しみだぜ、侯のモンに手を出すのはよ・・・」
「っく・・・!」

ぐっ、と下肢を握りしめられ、痛みにラッシュは身体を強張らせた。
逃れようと身を捩るが、「大人しくしろ!」と叫ばれぐい、と両手を掴まれる。
突然の激痛に、息すら詰まった。両手首を後ろ手できつく縛られ、そのまま膝を落とし、肩を押し付けられる。
腰だけ高く上げさせられた状態で、男はラッシュのボトムに手をかけた。

―――嫌だっ・・・!!!

嫌悪感に、全身が総毛立つ。
だが、勿論抵抗など不可能だった。両腕は縛りつけられ、額は冷たい床に押し付けられ、
あまつさえ汚らわしい欲望を露わにした男たちの狂った腕が何本も伸びてくるのだ、
吐き気すらこみ上げる。
男たちは、容赦なく少年の下肢に纏わりつく布を取り去った。

「――――――やめ、離せっ・・・!!!!!」

ラッシュは、ぎゅ、と眼をつぶった。
見たくもない。考えたくもない。こんな状況が、まさか自分の身に降りかかるなど。
だが、男たちは、薄暗い光に映える少年の白い肌に舌舐めずりをし、
何度も滑らかな尻を撫で上げた。

「へっへっへ・・・なかなかウマそうじゃねぇか。ココで、何回あの若様のモンを銜えた?答えろよ」
「んっ―――やだっ・・・痛っ―――!!!」

ぐっ、と容赦なく太い指が付き立てられる。
恐怖心と抵抗の意思を素直に表し、そこはひどくキツく男の指を締め付けた。
ぎちぎちと、指に食い込むラッシュの内部は、このままでは男の欲望すら食いちぎってしまいそうだった。

「いた・・・痛ぃ・・・!」
「けっ・・・往生際の悪いガキだぜ」
「おい、傷つけて気絶させんなよ。お楽しみはこれからだからな」

ラッシュの頭を押さえつけていた1人が、口の端を歪ませて横やりをいれた。
その言葉に、ラッシュは息を呑む。
ぐい、と髪を引かれ、顔を上げさせられた。
目の前にあるのは、狂気を含んだ、濁った男の瞳。

「俺達だって控えてンだからな。締まり悪くなっちゃ困るだろーが」
「わかってるよ。・・・たく、仕方ねぇな」
「ん―――!!!!」

ぬるりとした液体が下肢に塗りたくられた。
その冷たい感触と撫で回される掌がおぞましく、ラッシュの身体が逃げを打つ。
だが、無論、男たちの手がそれを許すはずもない。
それどころか、鼻先に男のそれが押し付けられる。―――嫌だ。
首を振って、逃げようとするが、
生臭い獣のそれが濡れた様相を見せ、必死に唇を引き結ぶラッシュのそれをなぞった。


「んっ・・・」
「へへ、こっちの口は俺ンだぜ・・・!ォラ、口開けよ!!」
「あぐっ・・・!!!」

顎を強く掴まれ、それでも抵抗を続けるラッシュに、
ガサツな男の指が少年の鼻を摘んだ。――――――苦しい。
ただでさえ苦しさに浅い息を吐いていたラッシュの口元は、すぐに空気を欲してその唇を緩ませてしまう。
すかさず、男の凶器が彼の唇を犯し始めた。

「んむっ・・・は、っぐ・・・」

呑み込めるはずもない程に巨大な男根を、無理矢理喉の奥まで突き立てられて、
ラッシュの瞳からは無意識に涙が溢れていた。
息も出来ず、嗚咽が込みあげる。
だが、吐き出すこともできず、そのまま男はラッシュの頭を掴むと、ピストン運動を始めた。
唇と口内の粘膜が擦れ、痛みに顔を顰める。
歯を立てようにも、顎に力が入らない。それでも、吐き出そうと舌で男を押しだそうとする動きが、
皮肉にも男の欲望を煽った。質量が増す。更に、口内を圧迫する。

「いいぜ・・・熱くてサイコーじゃねーか」
「ずりぃな。ンじゃ、俺も、いただくとするか。・・・さ、楽しませてくれよ?」
「っぐ・・・」

男の言葉に、全身の肌が粟立った。
下肢に宛がわれるのは、醜い男の欲望。ただ肉欲を満たすためだけに心にもない人物を犯す、
人間の域を逸脱した狂った行為。
ラッシュは、屈辱と後悔に、強く石床に爪を立てた。

―――誰か・・・助け・・・!

「・・・っぐああああ―――っ!!!!!」

全く望んでいない異物が胎内に入り込む激痛に、
ラッシュは口元から悲鳴を迸らせた。
狭い内部だというのに、ラッシュの内部はたっぷりと塗りたくられた潤滑油のせいで簡単に男を受け入れてしまう。
だからこそ、意に沿わぬ行為を強いられる少年は、さらなる苦痛に耐えねばならなかった。

―――嫌だ・・・誰か・・・、ダヴィッド・・・!

無意識に、男の名を心の中で叫んだ。
けれど、ここは地下。どれほど泣いて叫ぼうが、誰にも聞こえない。
ましてや、あんな隠し扉など誰も気づかないに違いない。
この、ガイアスという、狂った傭兵の仲間たち以外は。
そう思うと、ラッシュの胸の内に拭い去れない絶望感が広がった。

「イイぜ、お前・・・もっと締めつけてくれよ」
「んっ・・・!!」

手で尻を叩かれて、思わず力を込めてしまう。
その度に、苦痛の度合は更にひどくなり、そして男は内部から受ける刺激に欲望を煽られる。
相手の状態も考えない、道具として利用される少年のナカは赤く充血し、
それでもなお、男の引き裂かれるように乱暴な衝撃に耐えていた。

「コッチも、サイコーだぜ・・・ほら、しっかり呑んでくれよ?」
「んっ・・・・・・・や・・・!!!!」

背後に男の雄を押しこまれたまま、口内を犯されているラッシュは、
そのままぐい、と頭を更に引き寄せられた。
そうして次の瞬間、喉の奥で弾ける男の欲望。どくどくと大量の精がラッシュの体内に溢れ出る。
あまりの屈辱と苦痛、苦味と吐き気。全てが苦しくて仕方がないのに、
それでもこの状況から逃れる術はない。
男は、ラッシュが全てを嚥下するまで、彼を解放しなかった。
少年は、必死に喉の奥に放たれたそれを呑み干した。
そうするしか、解放される術はなかったから。

「んっ・・・は、はぁ、っぐ・・・」
「どうだ?美味かったろ?」

小馬鹿にする男に、ラッシュは殺意すら覚えて男を睨みつけた。
けれど、今の少年の怒りは、男にまともに伝わらない。
次の番は誰だ、と男が周囲を見渡すと、今度は別の男が口内を犯し始める。
ラッシュの顔は、男たちの精と涙と唾液でぐちゃぐちゃだった。
それが、更に男たちの欲望を煽った。

「んむっ・・・は、かはっ・・・」
「俺も・・・、そろそろだな・・・。いくぜ、小僧!!」
「っぐ・・・!!!!!」

散々苦痛を呼び醒まされて、もはや体力も限界のラッシュは、
ぼんやりと内部が汚らわしい体液に濡れるのを知った。
気持ちが悪い。けれど、どうしようもない。
身体が苦痛に強張る度に、内部の筋肉が緊張し、侵入者を締め付けた。
喜ばせたくもないというのに、どうして自分の身体はこうなのか・・・・・・

「へへ・・・次は俺の番・・・と!」
「・・・・・・がっ・・・!」

ラッシュは、ただただ終わりの見えない行為の終焉を願った。
そうして、ぼんやりとくぐもった瞳に、幻影を映す。
ダヴィッド・ナッサウ―――自分が初めて心を許した、あの、大切だった存在。

「っ・・・は、ははっ・・・」

ラッシュは渇いた笑い声を上げていた。
自分から彼の元を離れたくせに、なんて虫のいい願いだろう?
そう、悪いのはすべて―――自分。
甘い言葉に騙されたのも、彼の優しさを振り払ったのも、すべて・・・自分。
昏い絶望に身を浸しながら、
ラッシュはひたすらに苦悶し続けた。





...to be continued ?



Update:2009/04 by BLUE

PAGE TOP