The Outlaw vol.3



「まずはその汚らわしい身体をどうにかしてもらおうか」
「っ・・・!」

ベッドから引きずり落とされるように腕を引かれ、
ラッシュは与えられる痛みに唇を噛み締めた。
身体は既に限界。今だ砂や泥に汚れた肌には細かな傷がいくつも刻まれていて、
乱暴に扱われる度に、皮膚が裂けるようだ。
けれど、もはや、ラッシュには抵抗する気力もなかった。
痣が付くほどに強く手首を掴む男の気持ちが、痛いほど伝わってくる。
彼が怒るのも、当然だろう。
一人では何も出来ないくせに飛び出した自分を、尚も心配し、わざわざ追い掛け、窮地を救ってくれたのだ。
本当なら、感謝しこそすれ、彼の腕に素直になるのが普通だろう。
だが、自分はそれを拒否してしまった。
くだらない、自分の意地のために。
何も出来ない情けない自分を認めたくない、ただその心の弱さの為に。
わかっている。
自分でも、愚かなことだとわかる。
けれど、

「痛・・・」
「つまり、お前は目的のためになら、身体くらい売っても構わない、と思っていたわけだ」
「違う・・・!」

必死に首を振るものの、
ラッシュは心のどこかでダヴィッドの言葉に反論できないとわかっていた。
こんなことになるとは想像もしていなかったが、
あの時確かに自分は、多少の危険を冒してでも構わない、と覚悟していたのだから。
自分の身などよりもよほど、大切だった。イリーナを一刻でも早く助けることが。
ディル高原で彼女の姿をみたとき、その想いは更に膨れ上がった。
助けなければ。自分が。そのために、例えこの身がどうなろうと構わない―――。
そう思っていたからこそ、
あの、男たちにいいようにされている自分を助けてくれたダヴィッドに、
感謝よりも先に何故止めたのか、という思いの方が強かった。

なんで、オレなんか助けるんだよ?
オレの気持ちをわかっているなら、自由にさせてくれよ。
アスラムにこれ以上迷惑をかけたくないから離れたってのに、
なんで今もオレになんか関わる?
オレなんか、どうなったって関係ないはずだろ?
どうせ、オレよりアンタが大切なのは、

「・・・!!!」
「穢らわしい・・・」

バスルームの壁に転がされ、打ち付けた背の苦痛に呻く暇もなく、
ザァッと強烈なシャワーの流水を浴びせられ、
ラッシュは身を庇うようにうずくまった。
身体を温める湯などではない、目が覚めるような冷水。ただでさえさきほどまで外気にさらされ凍え切っていた身体が悲鳴をあげる。
無意識に伸ばされた、救いを求める腕は、
今はただ恐怖しか齎さない男に捕われ、どうすることもできない。
それどころか、ダヴィッドはシャワーのコックを最大まで開くと、衣服が汚れるのも構わず少年の髪を掴み、頭からシャワーを浴びせるものだから、
ラッシュは這い蹲ったまま、まるで許しを請うかのように額を硬いタイルに押し付けた。

胸が張り裂けそうに苦しい。
自分の愚かさにも、弱さにも、ダヴィッドの優しさも、彼の怒りも、
すべての事象がラッシュを苛み、苦しませる。
あの時、意地を張らずにダヴィッドの元で大人しく待っていればよかったのだと、
理性ではわかっている。
けれど、もう今のダヴィッドが許すことはないだろう。
こんな愚か者、と軽蔑されているに違いない。
その証拠に、自分を見下ろすダヴィッドの瞳には、
普段の穏やかな色など微塵もなく、ただただ冷徹な光だけが自分を突き刺しているのだから。

「あ・・・ダヴィッド・・・っ!」
「私もとんだ大馬鹿者だな。つまりお前は、助けなどいらなかったというわけだ」

ガッ、と肩を掴まれ、今度は仰向けに身体を返された。
顔面に強烈な水流を浴びせられて、息も出来ないまま必死に顔を庇うが、
やめろ、と叫ぼうとした口に流水が流れ込み、ラッシュは嗚咽を止めることができなかった。

「かはっ・・・が、んはっ・・・・」
「その口で、何人の男のモノを銜えた?あいつらだけではないという事か」
「・・・・・・!」

違う、と何度も首を振るが、髪を無理矢理掴まれ、首を上げさせられ、
そうして細かな傷口にも構わずダヴィッドの掌が濡れた肌を伝うと、
恐怖とは違う、身体の芯から這い上る甘い疼きがラッシュを苛み始める。
それは、少年にとって目の前の男が“特別”である証。
けれど、今のダヴィッドには、知られたくなかった。
男に与えられる、あの、目も眩むような快楽を今の自分が受け入れてしまったら。
戻れなくなってしまう。
何よりも大切なはずの妹を救うという決意よりも、
優しくも残酷な男の腕に負け、快楽に溺れることを優先してしまう。
それは、今のラッシュには、何より堪え難い拷問だった。

「あ・・・っ・・・、や、だっ・・・やめ・・・」
「私も、お前の外面に騙されていたわけだな。利用するために私に近づき、そうして都合良く捨てた」
「違う!」

ダヴィッドのあまりの言い様に、少年は拒絶するように叫んだが、
その口元すら男の手に塞がれて反論ができない。
有無を言わさずボディソープを塗りたくられ、胸元や下腹部、両腕や下肢、指先に至るまで散々擦られた後、
容赦のない手の儀らはラッシュの中心部へ。
乱暴で事務的なダヴィッドの手にすら感じ始めているのか、
既に頭を擡げて触られるのを待っているかのような彼自身に、
ダヴィッドは蔑んだようにそれを見下ろした。

「乱暴にされた方が感じるのか?とんだ淫乱だな」
「ンッ・・・!」

ぐっ、と握り込まれて、ラッシュは激痛に顔を歪ませる。
けれど、ダヴィッドの動きは止まらない。
先端から根本までを何度も扱き、筋に沿って指を滑らせ、敏感な亀頭も強く擦るものだから、
快楽などひとつもない。ひりひりとした染みるような痛みや強い締め付けに、
涙すら出てきそうだ。実際ラッシュは、潤んだ瞳で痛みに耐えるだけで精一杯だった。
だが、ダヴィッドにしてみれば、
沢山の男に触らせたモノだと思うと、許せなくなる。
無理矢理犯されたから、などではなく、自分から望んだものだとラッシュが言うものだから、尚更。
勿論、ラッシュの身体が自分だけのものだと、そういうつもりはない。
だが、心もない相手に、ただ手段として己の身体を開き、ぞんざいに扱う、など、
断じて許せるものではなかった。

「もっ・・・、やめ・・・!」

ザァ、と再び冷水を全身にかけられ、ラッシュは息を詰めた。
今度は身体をうつ伏せに返されて、再びソープ塗れの手が背筋を伝い、そうして両手が尻を割り開く。
引きちぎられるような乱暴さで隠された部分を男の目の前に晒されて、
あまりの羞恥にラッシュは身を竦め、冷たいタイルに頬を押し付けた。
これからダヴィッドがどうするつもりなのかを想像して、全身が粟立った。
何人もの男たちに犯され、傷ついた箇所に、さらにダヴィッドのそれを受け入れねばならない―――。
それは、傷口を更に拡げられる苦痛への恐怖を煽ったが、
それ以上に、見知らぬ男たちの欲望とは違う、ダヴィッドのそれを自分が受け入れるのだと思うと、
知らないうちに胸が高鳴り、息が荒くなる。
それを、ラッシュは馬鹿げたことだと思ったが、
しっかりと反応する身体は主の理性を裏切っていた。
ダヴィッドの指先が、ずぷりと内部に侵入してきた。

「っい―――!!」
「綺麗に洗ってやるよ。どうせ、ナカにまで受け入れたんだろう?」

ダヴィッドが内部で指を動かすと、ぐちゅぐちゅと淫らな水音が内部で音を立て、
あまりの羞恥にラッシュは身がちぎれそうだった。
すぐに緩むラッシュのその部分は、簡単にダヴィッドの指を2本、3本と受け入れ、
ダヴィッドは唇を歪ませて指を曲げ、掻き出すように何度も擦る。
どろりとした体液が、ラッシュの下肢を汚す。
ダヴィッドの指が内部の奥を擦る度に溢れるそれは、
どれほど男たちがこの少年を性欲処理の玩具として扱ってきたかがうかがえ、
ダヴィッドは内心でひどく痛々しいそれに憐れみを覚えていたが、
無論、ラッシュはそれを望んでいないだろう。
自分がかけた労わりの言葉を、ことごとく拒否した意地っ張りな少年。
それでは、このまま強引に彼の身体を奪い、
他の男を選んだことを後悔させてやるのも一興ではないか。

「ンッ・・・!」
「ココをこんなにヒクつかせて・・・、こんな状態でまだ男が欲しいのか?」
「違・・・」

弱弱しく首を振るが、無論抵抗できる状況ではない。
再び強い水流に全身を打たれ、ラッシュはほとんど放心状態だった。
いっそ、このまま、この穢れた液体と一緒に、
自分を束縛するすべての事象を忘れてしまえたら。
男の好意に意地を張って飛び出してしまった愚かな自分も、心だけが焦って何一つ進めなかった自分も、
甘言に乗せられ身体をいいように扱われてしまった情けない自分も、
それでも尚、こんな自分を気に掛けてくれた男に素直になれない自分も、
すべてなくなって、何の煩いもなく真っ直ぐに生きていけたなら。

下肢に宛がわれた、興奮した男のそれに、ラッシュは息を詰めた。
きゅ、とタイルに爪を立てる。
あれほど嫌悪感を覚えた強姦めいた行為だというのに、
相手がダヴィッドだと思うと胸が期待に高鳴る。
何故だろう。
きっと、ダヴィッドだって、純粋に自分を愛してくれているわけじゃないというのに。
ダヴィッドの上から投げかける視線には、
怒りと、侮蔑と、嫌悪と、欲望、といった負の感情しか見当たらないのに、
どうして、これほどまでに、男に貫かれる事を望んでいるのだろう?!

「消毒、してやるよ。お前が二度と、私以外に身体を開こうなどと考えないように」
「んっ・・・ああ―――・・・!!」

ぐっ、と質量のある熱塊が内部を押し開き、
既に傷の付いている狭いそこが悲鳴を上げた。
無論、ラッシュは苦痛に顔を歪ませたが、それでも必死に、男を受け入れようと浅く息を吐いていく。
あの時の、わけがわからないまま男の欲棒に貫かれた時とはまったく違う、
快楽を伴った圧迫感。
ダヴィッドの腕が腰を掴み、強引に最奥まで男のそれが内部に満たされるのを、
ラッシュは唇を震わせたまま、上の空で受け入れていた。

「ぁ・・・!あ、ああっ・・・」
「どうだ?私のほうがよほど気持ちいいだろう?」

変態と大差ない、欲望に塗れたその台詞すら、快楽にすり替わる。
ラッシュはもはやわけもわからず、ダヴィッドの言葉にコクコクと頷いた。
もう、既に何も考えられなかった。
体内で、熱をもった男のそれがより一層圧迫感を増す。
それだけで、ラッシュは快感を覚え、無意識に腰が揺れる。
そんな乱れた少年の姿に、ダヴィッドは満足げに目を細め、己の欲望のままに少年を貪っていく。
背後から背を抱きしめ、胸元の飾りに爪を立てて刺激を与えてやる度に、
内部の筋肉が引き締まり、ダヴィッドは上気した頬で首を逸らした。
手放したくない、これほど魅力的な身体。
他の男になど、渡したくない。ましてや、彼のことなど何の興味もなく、
ただ玩具として扱うようなくだらない人間の手になど。
それくらいなら、いっそ、鎖すらつけてしまいたいと思った。
城の奥に閉じ込めて、手足の自由を奪い、
自分が来たときにだけ、淫らな姿を見せる、そんな壊れた少年でも構わない。
自分の腕から逃げ出さずにいてくれるのなら、それでも。

「ラッシュ・・・お前は今から、この私の・・・このダヴィッド・ナッサウのモノだ・・・」
「あっ・・・や、だ・・・」

首筋にきつく吸い付き、青紫色になる程に痣を刻む。
それは所有の証。
うっとりと舌でそれをなぞり、恍惚とした表情を浮かべながら、
ガツガツと少年の下肢を貪った。
もう、自分でも、ラッシュに対して覚える欲望の感情が、
先ほどの男たちと変わらないこともわかっていた。
けれど、それでも構わない。
どうせ、どんな崇高な理由をつけたところで、ラッシュがそれを受け入れるはずがないのだから。
ならばいっそ、彼を助けたのが自分の独占欲のためだと開き直ったほうがいい。
誰にも触らせたくない。
この少年のすべてを、自分のモノにしておきたい。

「ダヴィッド・・・!」
「私の腕の中だけで啼く小鳥になれ・・・ラッシュ」
「あ、ああっ・・・」

ぐっ、と抱きしめられ、顎を上げさせられ、そのまま唇を重ねられる。
一気に駆け上る快感がラッシュの指先までを支配し、ラッシュはもはや身体を支えていられなかった。
ダヴィッドの腕が腰を抱える以外には、ぐったりと床に身を預けるラッシュは、
そのままボルテージを高めるダヴィッドの抜き挿しに全意識を傾ける。
擦られる快楽も、奥の敏感な部分を貫かれるのも、あまりにも気持ちよくて、どうしていいかわからなかった。

「あ、あ、あっ、も、イきそっ・・・ああっ!」

漏れ出るラッシュの口許からの訴えに、
ダヴィッドはそのまま解放を促すように彼の下肢に指を絡める。
途端、己を解放し、力が抜けるラッシュは、
ぼんやりと、男の腕に囚われる意味を理解していた。
結局、快楽に溺れ、プライドも意地も全てを投げ出してしまった。
もう、どうしようもない。
どうせ、自分はこういう人間なのだ。
男の腕の中で、快楽に声をあげるしか出来ない―――どうしようもない自分。

「はあ、はぁっ・・・」
「これで終われるはずもない。わかっているだろうな、ラッシュ」

耳元に囁かれる、深い意味合いをもったその言葉は、
恐怖を覚えると同時に、ラッシュの官能をひどく刺激していく。
内部の男が未だに圧迫している奥を意識して、
ラッシュは諦めたように瞳を閉じたのだった。










・・・ダヴィッドは、意識を失ったままベッドに横たわる黒髪の少年を見つめていた。
ハイエナのような欲望に満ちた男たちに、合意でない関係を求められ、
玩具のような扱いを受け、血と泥と精に汚れた少年に、
更にダヴィッドは苦痛を強いた。
苦痛と、激情からくる暴力的な快楽と、そして服従を。
労わるどころか、結果的に更なる負担をしいてしまったことに溜息をついて、
青ざめ、ひどい疲労に憔悴し切ったラッシュの頬を撫でてやった。

「・・・俺も、大概馬鹿者だな」

普段から妙なところでプライドのあるらしいこの少年が、
頼んでもいないのに窮地を救ってくれた、など素直に感謝するはずもないことは当然で。
だというのに、ラッシュのつまらない意地に挑発され、
更に、彼の汚された身体を見るたびに己の独占欲を煽られて、
こんなことになってしまった。
一応、悪いとは思っているのだが、それでも、こんなラッシュを見つめられて、
嬉しいと思う自分がいる。
我ながら重症だ。

カチャリと音がして、扉から現れたのはこの安宿の店主だった。
代えの濡れタオルと、水と、痛み止めを用意させたのだ。

「おや、なかなか安心しきったように眠ってるじゃないか」
「そうかな」

ラッシュの表情を覗き込んだ店主の発言に、
そんなはずはない、とダヴィッドは心の中で苦笑した。
安心?まさか。
窮地から救ってくれたはずの男からも強姦めいた欲望を叩きつけられ、
意識を失うほどまで強引な快楽を与えられ続けた。
もう体力は限界で、
最後の最後はもう血の気も失せ、まるで死人のようだったとダヴィッドは思う。
それでも、ダヴィッドは、自分を抑えられなかった。
まるで子供だ。
好きなオモチャが壊れるまで、延々と同じ遊びを続ける子供。
ふう、とため息をついて、ダヴィッドは店主に向き直った。

「目が覚めたら、軽い朝食を与えてやってくれ。それと・・・」
「わかってるさね。城に行かせりゃいいんだろう?」

老店主の瞳には、昔と変わらない、深い優しさが見てとれて、
ダヴィッドは苦笑した。
自分が子供の頃と、本当に変わらない。
すべてお見通し、と言わんばかりのそれは、けれど嫌味でもなんでもなく、
この人の前にくると、自分はあの頃のように幼くなってしまいそうだ。
まだ領主になる前、事あるごとに父と反発し、
そうして城を抜け出していた、我侭だったあの頃の自分のように。

「・・・ああ。よろしく頼む。・・・それと、吉報が待っている、とね」
「はいよ。もしトルガルの旦那が来たら、上手く言っておくからさ」
「恩に着る」

幼いころと同じようにニッと笑って、ダヴィッドは部屋を出た。
全く、本当に世話を焼かせる存在だと、眠ったままのラッシュを思い返して、
ダヴィッドは再びローブを羽織り、
帰途へとついたのだった。





end.






























ラスレムの世界にシャワーがあるかというと、絶対にないと思うんですけど。
そもそも中世の貴族世界じゃ、シャワーとか風呂自体そんなに入らないし、むしろ入ると風邪ひく、みたいな迷信があって、
体臭を香水で誤魔化すような文化だったそうな。トイレもあんまりなかったらしい(笑)
しかも、ヨーロッパは日本の風呂みたいに洗い場とかあんまりなくて、
バスタブを絨毯の上に乗せてるぐらいのレベルの風呂らしいじゃん?
・・・・・・だから、ぜってぇこの設定はおかしいと思う。
でも敢えて書きたかったんですすいません・・・
アスラムって気候も熱そうだし、アジア系というか黄色人種のような気がするんで、
まぁ日本文化に合わせていいか、とか思って書いちゃいました。
えへへ。すいません。
ラッシュを綺麗にするために乱暴にシャワーを浴びせる鬼畜ダヴィ様がかたかっただけなんです。




Update:2009/04 by BLUE

PAGE TOP