冬の花火



「わあ…きれいだね…。」
「…。」
暗い夜空の下に、華やかな色の花火が舞っている。
今日は新年。さっき十二時を過ぎると同時に夜空に花火が上がった。
「冬に花火っていうのもいいよね。そう思わない、ハジ?」
「…私にはよく分かりませんが、そうなんでしょう。」
「んもう、どうなのよ。はっきりしないわね。」
任務前、待機中の時間ではあったが、久しぶりに見た花火に小夜は嬉しそうに見入っていた。そばにいたデヴィッドとルイスも同様に空を見上げている。
「確かに、冬の花火ってのも乙なもんだな。なあ、デヴィッド?」
「…そうだな。」
楽しそうに見上げるルイスとは対照的に、デヴィッドは難しい顔で空を見上げている。
「しかし、明るすぎるな。任務に支障が出なければよいが…。」
「大丈夫だって。すぐに終わるさ。…そういえば、沖縄にいたときも新年に花火を見たことあったっけなぁ。」
「…。」

「私がおとうさんのところに来て初めての年越しのときにね、花火が上がるからって連れて行ってくれたの。カイとリクと四人で。すっごい綺麗だったのよ。みんなでおおはしゃぎして、帰ったらもう疲れてぐっすり。楽しかったなぁ…。」
最後には少し哀しげな笑みを浮かべて、小夜は無表情のハジに話しかけている。その様子を見ながら、デヴィッドもその時のことを思い出していた。
『…ずいぶんと家族ごっこが板についてきたな、ジョージ。』
小夜たちが寝静まった後、店を訪れたときのこと。
『俺はそうは思ってないぞ、デヴィッド。カイもリクも、もちろん小夜も、みんな俺の家族だ。ごっこじゃあないさ。』
『…。』
あの時、ジョージは自慢げな笑顔で言っていた。「小夜は俺の娘だ」と。そのときはその気持ちは理解できなかったのだが。今際の際の彼の顔は、確かに父親の顔であったのだろうと、今は思えるような気がした。
「おっと、名残惜しいが、そろそろ時間だ。いかなくちゃな。」
ルイスの声に我に返り、時計を見る。任務の開始時刻が近づいていた。花火のほうも、そろそろ終わりそうだった。
「分かりました。それじゃ、行こうか、ハジ。」
「はい。」
まだ光る夜空を名残惜しそうに見つめながら、小夜は立ち上がった。ふいに、傍らに立つハジを見上げる。そしてその向こうに立つデヴィッドとルイスに向かって、ぺこりとお辞儀をしたので、二人は不思議そうに首をかしげた。
「どうした、小夜?」
「えっと、いろいろとご迷惑をかけるかもしれませんが、今年も…これから、よろしくお願いします、デヴィッドさん、ルイスさん、それから…ハジ。」
「ああ…頼む。」
「こっちこそよろしく頼むよ、小夜。」
そしてハジは小夜の前にひざまずき、つぶやいた。
「…あなたの、望みのままに。」
「…ありがとう。」
いつの間にか花火は終わり、辺りは再び静寂に包まれていた。
「よし、行くぞ、小夜。」
「はい!」
これからは、今までとまったく違う日々の始まり。戦いの、日々の。
だけどきっとやっていけると何となく思う。みんないてくれる。きっとおとうさんも。
『笑顔を、忘れるな。』
 最期のおとうさんの笑顔を、忘れずに生きよう。何が、あっても。

――END





Update:2006/01/01/SUN by snow

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