十字架



(・・・俺は、何をやっているんだ・・・・・・)

真っ赤な血の色が手を染める。紛れもない、罪の証。
自分の刀で刺し貫いた男は、してやったり、とでもいうように卑下た笑みを浮かべて崩れ落ちた。
男の最後の言葉が、ランの心を呪縛する。
こういう時、ナイトがいてくれればよかったのに。
呆然と立ち竦むランは、声もも上げられないままナイトを呼んでいた。

・・・ナイト、教えてくれ。
俺は、どうすれば―――――・・・・・・





「・・・人を殺した、だと?!」

ナイトの怒りに満ちた低い声が、ランの身体を震わせた。
こうなることは予想がついていた。受け入れてくれるはずもないことはとうの昔にわかっている。曲がったことが大嫌いなこの男にとって、人殺しなどもってのほかなのだろう。
ランは自嘲気味に笑みを浮かべた。しかしその表情はひどくはかない。

「・・・仕方なかったんだよ。殺さなきゃあの子は助けられなかった。任務は果たせなかった」
「そうやって罪を正当化して、自分すら騙すのか」

ハッと顔を上げれば嘲るような、それでいてどこか悲哀に満ちたようなナイトの顔。
紛れもない罪から逃げようとする弱い自分を見透かされ、ランは唇を噛んだ。

「・・・・・・どんな理由があろうと、お前は人を殺した。それが事実だ。俺は人殺しを、この家に置いておくつもりはない!無論、クラッシャーズにもだ!」
「ナイト・・・」
「・・・出て行け!!俺はお前に、二度とこの家に踏み入れることを許可しない!」

強い口調と共にドアを指差され。
出て行くしかなかった。
反論すら出来る空気でもなく、ランは仕方なく椅子を立った。
その背中に刺さる視線が痛いのは、自分のせいか、それともナイトのせいなのか。
ドアに手をかけながら、ランはぽつりと呟いた。

「・・・あんたは、甘いんだよ」

あの時男が言った言葉が頭をよぎる。
ランは振り向くと、今だ自分を睨みつけているナイトを見据えた。

「・・・あんたは、単に怖いだけだろう?人を殺すことが。殺して、罪を背負うことが怖いだけさ。そんな弱虫がクラッシャーズのナイト、とはね」

捨て台詞を残し、ランは部屋を出る。
廊下で執事と何かモメているらしかったが、ナイトは仲介に入る気もなかった。
ランの先ほどの言葉が、頭を支配していたから。

「弱虫・・・か。そうかもな」

ランの言った言葉を思い出して、ため息一つ。
羽織ったガウンを脱ぎ捨て、ナイトはクローゼットにかけてあったいつものコートを身に着けた。

「・・・・・・バカ野郎・・・・・・」

低く呟いて、ナイトもまた部屋を出る。
すると、慌てたように執事が飛んできた。

「優士様・・・・・・」
「出かけてくる」
「蘭様・・・を、お追いになられるのですか?」

出すぎた質問をしてくる執事を咎めもせずに、ナイトは小さく笑う。
ゆっくりと振り返ると、おろおろと取り乱すような彼に、ナイトは告げた。

「心配するな、ベルウッド。俺は、己が罪を確かめてくるだけだ。それから」

暗く翳を落とす表情。それはナイトを小さい頃から見てきた執事にすらわからない程度だったが。

「蘭はもう、ここには来ない」

言い捨てて、ナイトは家を出た。
外は土砂降りの雨。
今の自分の気持ちに似ている・・・とナイトは思った。






ランは、土砂降りの雨の中をぼんやりと歩いていた。
新宿の裏の無法地帯。ここでは、生も死も日常の世界。

(罪人・・・か。)

自嘲気味に笑って、ランは自分の右手を見下ろした。
今でもはっきりと思い出せる。あの時染まった真っ赤な血の色。
人を殺してしまった罪の重さに、ランはため息をついた。

(だって、仕方なかったんだ)

あの男の高らかな笑い声が、今でも耳に焼き付いている。

『どうせ俺を殺せねぇんだろ?クラッシャーズってのは弱虫の集まりだからなぁ』
からかうような声音。明らかに挑発だとわかっている。
そんな脅しに乗るつもりはなかったが、次の瞬間自分の身体が硬直した。
助けなければならないはずの少女。気を失う彼女の首に、ナイフが当てられていたのだ。
息を呑むランに、その男卑下た笑みを浮かべて言った。
『俺を殺さなきゃ、守れねぇぜ?この娘を救出することがあんたの任務だろ?だったら殺してみろよ・・・俺をよぉ』
首筋に立てられるナイフ。考えている暇などなかった。考える前に身体が動いた。
愛刀『紫苑』なら充分届く距離。簡単に血飛沫が舞った。
人を殺す手応えというものを初めて手のひらに感じて、ランは手を震わせる。
それに追い討ちをかけるように、死を目前にした男の声が重なった。
『へへ・・・これでお前さんも俺らと同じ人殺しだぜ・・・・・・クラッシャーズ、形無し・・・ってか?』

人殺し。
ナイトにも言われた。
どんな理由にせよ、自分は人を殺めたのだ。
血に染まった手は、二度と『白』には戻れない。
雨に濡れて洗われてゆく手の上に紛れもない『赤』を感じ、ランは拳を握り締めた。

(ナイト・・・・・・)

本当は、慰めて欲しかった。
そんな弱い自分がバカだとは思っていたけど、それでも。
ナイトなら、自分の痛みもわかってくれるのではと、淡い期待をしてしまっていたのだ。
今思えば、なんて情けない話だろう。
あのナイトが、自分の過ちを慰めてくれるはずもないというのに。

(・・・でも、本当に仕方なかったんだよ・・・ナイト・・・・・・)

壁にもたれ、ランは路地裏に座り込む。
身体を叩く冷たい雨に身を任せながら、ランは瞳を閉じて顔を上向けた。
誰にも気付かれないまま、時間だけが過ぎていく。
このまま、死んでもいいかな、とも思えた。
だって、自分は罪人なのだ。人を殺めて、自分は生きているなんて、間違ったことじゃないか。
自分らしからぬ自虐的な考えに、ランはくすりと笑った。
それほどまでに、ナイトに「出て行け」と言われたのが哀しかったのか、と思う。
自分の居場所がなくなってしまったことに、ランは改めて感じていた。
身体が冷え切っていくのがわかるようだ。唇が震え、吐息が微かに白い。
無意識のうちに両腕で身体を抱き締めた。
そうして、どれくらい経っただろう。

「・・・・・・ラン」

幾分怒ったような声が、頭の上から降って来た。
目を開ければ、先ほど決裂したはずのナイトの顔があって。
ランは驚きに目を見開いた。

「・・・ナイト・・・どうして・・・」

そこまで言って、舌打ちする。これでは、まるで待ち焦がれていたみたいではないか。
ランは唇を噛むと、顔をランから背けた。

「・・・今更、こんな俺に何の用だい?」

揶揄るように言ってみるが、ナイトは何の意も介さない。
ナイトは無言でランの腕を取ると、幾分強引に彼を立たせた。

「っだから何だよ!!」
「俺に付き合え」
「はぁ?冗談。なんであんたについて行かなくちゃならないんだ。ごめんだね」

背を向けて立ち去ろうとするが、掴まれたままの腕はびくともしない。
体格はそう変わらないくせにいつだってナイトの力には叶わなくて、ランはやれやれ、と肩を竦めた。

「・・・言っておくが、お前は辞任するか解任されない限り、まだクラッシャーズのルークだ。俺の命令には従ってもらう」
「・・・へいへい。なんなりと。」

腕を引かれ、たどり着いたのはナイトの所有する高級車。
あまりに場所にそぐわないそれに、ランは口笛を吹いた。

「白のキャデラック、とはね。こんなとこに置いててよく盗られないものだ」
「本庄家の印の入った物に、ここの奴らが手を出せると思うか?」
「ちっ・・・相変わらず嫌味なヤツ」

そんなランに構わずナイトは車に乗るよう促す。
やれやれ、とため息をついて、ランはあきらめたようにシートに座した。
濡れた身体に構いもしない。
せめてものナイトへの反抗心からの態度だったが、ナイトも同じように濡れた体で運転席に乗り込んできて、そもそもナイトが自分で運転する姿など初めて見たランは多少驚いていた。
しばらく、無言のドライブが続く。
車は夕闇の道を軽快に走り、都心郊外へと向かっていた。
めまぐるしく変わっていく景色にしばしランも目を奪われているのか、窓の外を見つめたまま動かない。
雨はまだ降り続いていたが、それも2人にはありがたかった。
沈黙を、痛感しないで済むから。
そんなことを考えて、ハンドルを握りながらナイトは自嘲気味に笑った。
こんなに、声を掛けることが怖いとは。
あんな場所で雨に打たれていたランが考えていたことなど、悩まなくてもわかる。
そもそも、あれほど無防備なままあの無法地帯に入ること自体、自殺行為なのだ。
今は自分が跡をつけていられたからよかったものの、一晩もすれば身に着けているものはおろか、下手をすれば身体どころか命まで奪われていたのだろう。
そういうところなのだ、あの場所は。
それを嫌というほど知っているはずのランが、それでもあそこに足を踏み入れた理由・・・それは、一つしかなかった。

「・・・・・・バカ野郎・・・」

聞こえないほど低く、ナイトは呟いた。

「・・・え?何?」

ランは聞き返したが、ちょうどその時車は止まった。

「着いたぜ」
「・・・どこ?ここ」
「ここからは少し歩いてもらう」
「・・・山ン中にでも俺を捨ててくつもり、とか?」

適当に言ってみたのだろうランの言葉にナイトは取り合わず、雨に全身を濡らしたまますたすたと日の落ちた道を歩いていく。
そんな彼が、ふと立ち止まり、ランの方を見やる。振り向いた表情は見えなかったが、その後の声は幾分穏やかだった。

「・・・ついてこないと、本当に迷子だぞ?」
「・・・ふぅ・・・。わかったよ」

降参、といった風に手を上げて、ため息一つ。
ランは半歩遅れてナイトの後を追った。
しばらくすると、山道のようだった足元は、いつしか整備されていた。
とはいっても、かなり昔からの道なのだろう、道はところどころひび割れ、そこから野草がびっしりと生えている。
数分もすればなにやら石の群れが見えてきて、ランは息を呑んだ。

「・・・・・・墓地、か・・・?」

東京では滅多に見られない広い墓地。一つ一つの墓がとにかく広く作られているそれに、かなり名の通った家系だけが置かれているのだ、とわかる。
ランは瞬間的に、ナイトが自分の家の墓参りに来たのだ、とわかった。

「・・・こんな雨の日に、しかもわざわざ俺まで連れてきてどうするわけ?」

小さくぼやいたつもりだったが、ナイトに聞こえたのか軽く睨まれる。
再び閉口してナイトについていくと、ひときわ大きい墓地の前で、ナイトの足が止まった。
確かに本庄家の名が刻まれている。
雨に洗われて汚れが落ちているそれを、ナイトは見上げた。

「・・・どうせなら、花の一つでも持ってくればいいんじゃないの?」
「花のようなどうせ枯れるもの、ここに置いても仕方ない」
「なんだよ、それ」

ナイトがあまりに常識はずれなことを言うことに、ランは驚きを隠せなかった。
堅苦しい旧家に生まれたこの男のことだ、そういう儀礼的なことは絶対に外せないものだろうと思っていたのに。
不思議そうに見やるランに構わず、ナイトはただ高い位置にある本庄の名が刻まれた墓石を見上げ続けた。
手を合わせるでもなく、礼をするでもなく、ただ見上げるだけ。
その表情が幾分思い詰めていることに気付いたランは、始めてみるナイトの姿にしばし声を失った。

「・・・・・・父様。お久しぶりです。そちらはお変わりないでしょうが・・・・・・」

口元に笑みが閃く。ランの見たことのない昏い笑み。

「こちらも何も変わりませんよ。相変わらず、貴方の血がこびり付いて離れない」

耳を疑うような、ナイトの言葉。
ランは一瞬、意味がわからなかった。

「・・・・・・ナイト・・・お前・・・?」

疑問は、声にはならなかった。信じられない思いが、ランの喉を詰まらせた。
そんな彼に、ナイトは薄く笑みを浮かべる。
雨に打たれて、それは凄絶でさえあった。

「そうだ、ラン。これが、俺の真実だ」

右手をランに掲げる。血に塗れたという、ナイトの右手。
ランは息を呑んだ。

「俺は父親を殺した。理由はどうであれ、法的に正当であれ、それが紛れもない事実だ。
 俺も罪人だ。そんな俺に、まだ未熟なお前が弱虫だと言える立場じゃない。
 わかるか?ラン。こういうことだ、人を殺す、とはな」

ナイトの声が、自分の心に深々と突き刺さる。
改めて、自分のしてしまったことが重くのしかかってきた。

「・・・お前は以前、なんで俺がクラッシャーズにいるのか知りたがっていたな」
「・・・・・・ああ」

確かにそうだった。
けれど、今それを聞くのは、何故か恐ろしくて。
ナイトの・・・・いや、優士の曝け出す過去は、どこか闇の深淵が口を開けている様ですらあった。
それでも、今更耳を塞ぐわけにもいかず。

「俺が何故この殺生を禁じるクラッシャーズにいるか教えてやろう。
 お前は人を殺さずに任務を果たす俺たちが甘いと言っていたが、本当にそう思っているならお前はこの数ヶ月で何も学ばなかったということだよ。
 人を殺して解決するなど、簡単なことだ」

言葉を切って、優士は再度墓石を見上げる。過去を・・・己が罪を思い出しているのだろうか。
殺すしかなかったという・・・その過去を。
そして、ランもまた、殺すしかなかったあの時の状況を思い出していた。
そうだ。悪しき者の未来を奪うことが、一番ラクだ。

「だが、俺たちはそれをしない。
 生かさず、殺さずを実行するにはどれほどの強さが必要か・・・・・・わからないとは言わせないぜ、ラン」

強い優士の視線。瞳だけで人を刺し殺せるほどの鋭利なそれに、ランは身を震わせた。

「これは試練なんだよ。殺ればすむ状況でも、感情に任せた行動はしない・・・という、な。
 俺は一度負けた。大義名分のために、この手を血で濡らした。けど・・・ここにいれば、殺さずにすむ方法を見つけられる」
「ナイト・・・・・・」
「クラッシャーズはそういう組織だ。何時だって殺して終わらせる以外の方法を考えられるようになる。
 だから俺は、ここにいる」

もう2度と、己が罪を犯さぬように。
罪を犯さなくてすむような、強い人間になる為に。
優士の力を秘めたその言葉に、ランは右手をきつく握り締めた。
あの時、考える前に身体が動いた。それは、常に『殺人』以外の方法で解決へと導くクラッシャーズにとって忌むべき行為。
クラッシャーズにいながら人を殺すことがどれだけ重い罪か、ただの人間が感情に任せて人を殺すよりはるかに重い行為であることを、ランは改めて感じていた。

胸が痛い。

人を殺してその罪を背負うより、殺さないぎりぎりのところで耐える方がはるかに辛いことなのだ。
それも、殺すに値するほどの悪を目の前にして。

「・・・っナイト・・・俺は・・・!」
「言っておくが、罪を犯したお前に、戻る場所はない」

残酷な言葉。けれど、それを紡ぐ優士の声は震えていた。
クラッシャーズにいながら人を殺した者が、クラッシャーズにいられるわけもない。
そしてもう一つ。そのただ一つの為に、優士の声は悲しみを孕ませた。
自分が決めた規則。それは誰にも冒されないのだ。たとえ自分であろうと、自分にとって大切な者であろうとも。
「俺は、もう本庄家を血で濡らさないと決めた。だから、今後俺がもし人を殺したなら、絶対にあの家には戻らないだろう。
だから、俺はお前を・・・・・・家に、入れられない」
「もう、いい。わかったから・・・・・・」

優士の声が語尾にいくにつれ悲痛な色を帯びていくことに耐え切れず、ランは言葉を遮った。
優士の痛みも、全て伝わってきたからこそ・・・辛かった。
自分などよりずっと重い罪を、親殺しという重すぎる罪を背負って生きてきた彼。
だからこそ、自分に甘いことなど言えなかったのだ。
己が罪の贖罪を、クラッシャーズに求めていたこの男は。

「・・・あんたは、こうやっていつも墓参りに来てるんだな」
「そうだ。誰も俺を責める奴などいないからな。ここに来ないと、確かめられない」
「ナイト・・・・・・」

軽く笑う優士に、本当に強い男だと痛感する。
自分よりはるかに器の大きな彼に、ランは尊敬の念すら抱いていた。

「・・・そろそろ帰るぞ、ラン。もう日が暮れる」
「帰るって・・・・・・どこに?」

戻る場所などないと言い切った彼の意外な言葉に、ランは聞き返した。
確かにこの場に置いていかれても困るのだが、だからといって自分はどこへ行けばいいのだろうか!?
ナイトの元、という帰る場所を失った自分は。

「いいからついて来い。当面の宿くらいは用意してやる」

口調は投げやりだが、ナイトの心遣いが嬉しくて、そして切なくて。
自分はこれから歩むのだ。ナイトとは別の道を。別々の、贖罪の道。
それを思うと、胸が痛くて仕方なかった。

「ほら」

立ち尽くすランに、ナイトの手が差し伸ばされた。
同じように血に濡れたという右手。それに縋れるのなら、これほど幸せなことなどないのに―。
ランは恐る恐る、自分の右手を差し出した。

「・・・っ!」

掴んだ手を強く引かれ、バランスを崩したランはナイトの胸に倒れこんだ。
羞恥に頬が染まる。ナイトの胸が温かくて、それ以上に力強くて。
コートの中にすっぽりと包み込まれ、驚いたようにランは顔を上げた。

「・・・ナイト・・・?」
「俺もお前も雨に濡れ過ぎた。早く帰るぞ」
「・・・ん・・・」

引き擦られるように車まで連れて来られ、足早にその場所を後にする。
ランは、ただ一度だけ振り向いて、それから目を閉じた。
ここは、優士の罪が眠る場所。
またいつか、一人で来てみたいと思った。
今度は、きちんと捧げる花を持って。




















「・・・・・・ここは?」

ランが連れてこられた場所は、一見普通のマンションだった。
けれど、中は以外と広く、調度品も整ったものばかりが置かれている。
生活感がない様でいて、それでも意外と使い込まれている雰囲気が漂うそこに、ランは辺りを見回した。

「お前が俺の所にいたときは全然使っていなかったけどな。ミッション中は、ここにいるのが普通だった」
「・・・ここ、ナイトの・・・?」
「ああ。だが、今日からはお前の、だけどな」

唐突に投げ渡されたものに、目を見張る。それは紛れもなく、マンションのキーだった。

「・・・どうして、これ・・・」
「こっちの都合で追い出すんだからな。これくらいは提供してやる」
「・・・余計なお世話だ・・・と言いたいけどね。ありがたく使わせてもらうよ」
「そうしておけ」

チャリ、と目の前に掲げてみる。ナイトの・・・自分の部屋のキー。

「風呂、入ってこい」
「・・・でも・・・ナイトは?」
「俺もさすがにこの格好では帰れん。着替えて、それから戻ることにする。お前は気にせず入ってくればいい」
「・・・・・・そう、か」

ナイトの言葉に促され、ランは浴室に足を踏み入れた。
リビングに一人残されたナイトは、濡れた服のまま皮張りのソファに座り込む。
滅多に吸わない煙草を吹かして、自分の右手を見下ろした。
ランを導いてきたこの手が実は血塗られているのだ、ということを噛み締めて、ナイトは複雑な表情を浮かべる。

(これで・・・よかったのか・・・・・・)

今でも、迷う時がある。
一度罪を犯した自分が、クラッシャーズのナイトとして存在していることに。
クラッシャーズを率いる立場の自分が、実は罪深い存在であることに。
今ならはっきりとわかる。
自分が、なかなかランをルークとして認められなかった理由。
似ていたからだ。自分と―そう、過去の自分と。
いつか、いつか自分と同じ過ちを犯してしまうのではないかと、不安でたまらなかったからだ。
そうして、その予感はこうして的中してしまった。
ナイトはため息をついた。
そう、自分と同じ罪の十字架を、ランに背負わせたくなかったのに。

(・・・・・・蘭・・・・・・)

「・・・・・・ナイト・・・まだ着替えていなかったのか?」

いつの間にか、ランは風呂から上がってきていた。
真っ白なバスローブを羽織い、微かな芳香が漂ってくる。
バスローブから覗く白磁のような肌に、ナイトは微かに目を細めた。

「・・・・・・蘭」
「何?」

いつもの響きとどこか違うナイトの声に、ランは少なからず驚いていた。
身体の奥に響くような低音。それが、体中に染み込むようだ。

「俺はお前に、もはや戻る場所はないと言った。罪を犯したお前が、帰る場所などない、と。
 事実、クラッシャーズにも、俺の家にも、お前の帰る場所などない。だが・・・・・・」

ナイトが立ち上がる。そうして、ランの傍へと近づいた。ランは動けずに、ただ立ち尽くしている。

「俺は、・・・俺だけは、お前の帰る場所でありたいと、思っている。・・・蘭・・・」
「ナイト・・・・・・」

一つ一つ区切られて伝えられた言葉に、ランは息を呑む。
帰る場所。失ったとばかり思っていたナイトの存在が、今は限りなく近い。
ランは安心したようにゆっくりと息を吐く。それから、顔を上げてナイトを見上げた。

「・・・よかった。あんたに認められないのが・・・一番、怖かったから」
「ラン・・・」
「俺、辞めるよ。ルーク。どうせ、前のルークだって回復してぴんぴんしてるんだろう?
 クラッシャーズ辞めて、俺は俺なりの贖罪の方法を探す。あんたとは違った道を、歩む」

言い切った方が、自分も納得させられる。
ランは笑いながらナイトに告げた。その心はひどく泣いていたが、自分すら騙していた。
ナイトは顔を伏せた。

「そうか」
「あんたこそ、どうしてこんなに俺に構う?強くて、厳しいくせに、・・・やっぱり甘いよ、あんた」
「・・・そうだな。お前があんまり強情すぎて・・・俺も遠慮してたのかもしれない」
「・・・ナイト・・・っ?」

有無を言わさず腕に抱き込まれ、ランは息を詰めた。
背を強く抱き締められ、服の冷たさの奥の、ナイトの熱が伝わってきた。
そのままの格好で囁かれる言葉が、ランを震わせる。

「欲しい」
「・・・なっ・・・・・・」

息を呑む。聞いたことのないナイトの響き。それは紛れもなく、情熱に彩られた優士の言葉だった。
ただ罪深い過去だけを背負った、一個の人間の台詞。
それは、ひどくランの心を揺らした。
藤宮蘭・・・一個人に深く届く・・・・・・響き。

「優士・・・っ・・・」

名を紡ごうとした口元が、強引な優士の唇に阻まれる。
蘭は目を見開いたが、驚きの前に意識さえ流されるような激しい口付けに溺れていた。
歯列を割って侵入してくる舌が、逃げようとする蘭のそれを捕らえ。
深く絡められれば、それだけで頭が真っ白になった。

「っ・・・ふ・・・」

唇を合わせたまま、優士の左手が蘭の右手を取る。罪を犯して、血に濡れたその右手。
蘭はびくりと身体を震わせたが、優士の手は逃れることを許さなかった。
罪深い手。その罪さえ包み込むように、ゆっくりと指先を絡め、手のひらを重ねる。
片手だけなのがもどかしくて、蘭は自分から左手を蘭の右手に重ねた。

「・・・蘭・・・・・・」

同じように右手を重ねる。今度は優士の罪の番だ。
互いの罪を感じ合うようにしっかりと指先を絡ませあい、握り合う。
そのまま引き寄せるように口付けを交わして、2人は一つの影になった。

今は、未来も過去もない。
ただ、消えない罪を背負った2人が、互いの熱い想いを伝え合うだけ。
口の端から銀の糸が流れ落ちるほどになって、やっと2人は離れた。
けれど、視線と手のひらは絡ませたままで。

「・・・・・・覚悟は・・・いいな?」

もう一度確認するように、優士は囁いてくる。
蘭は瞳を閉じて答えの代わりにした。
もう、言葉はいらないのだ。感じたくて、互いを感じ合いたくて仕方なくて。
そんな感情を前にした2人は、縺れ合うようにして奥の寝台へと倒れ込んだ。
もう、すでに息が乱れている。
優士は性急に纏っていた服を脱ぎ捨てると、ランの着ていたバスローブまで性急に肌蹴させた。

「っいや・・・っ・・・」

あまりに強引な愛撫。初めて身体を暴かれたというのに、乱暴すぎる優士に翻弄される。
思わず拒絶の声が漏れ、優士は軽く笑った。
白い首筋に噛み付くように口付けて、そのまま優士は動きを止める。

「・・・ゆ、うし?」
「・・・ごめん。俺、止まらない・・・・・・」

少しでも不安を和らげてやろうと蘭の右手を左手でしっかりと握り締める。
それから、右手を胸元に這わせ、それを追うように唇が真珠のような肌を辿った。

「っあ・・・!」

自然と声が漏れる。薄く開いた瞳に映るのは、アイボリーの天井だけ。
胸に顔を埋める男の髪を空いている左手で握り締めると、男がくすりと笑った気がした。

「優士・・・っ!」

切実な声。泣いているのか、とも思う。
彼の心を苦しめているであろう右手を、優士はより強く握り締めた。
そうして、辿り着いた胸上の突起を、歯を立ててきつく噛んでやる。

「・・・っ・・・」

初めてだというのに大きく跳ね上がる蘭の身体に、優士は自分の欲が煽り立てられるのを感じた。

「そうだ・・・俺を感じろ、蘭」

唇で胸元を舐め上げながら、手のひらは下腹部を辿る。
撫でるような指先が、もどかしさとくすぐったさを蘭に与えていく。
敏感な肌は余すところなく快感を脳に伝え、蘭は感じたことすらなかった他人に為される感覚に翻弄されていた。

「・・・ぁ・・・感じる・・・優士・・・お前・・・・・・」

朦朧とした意識のまま、思ったことをそのままに伝える唇が愛しくてたまらない。
優士は軽く口付けを落とすと、それから身体全体を下にずらした。
目の前には、もはや隠すことすら忘れた彼自身が存在していて、優士は目を細める。
既に勃ち上がりかけているそれの先端を手のひらで包み込むと、全身をびくりと震わせて快感を表した。

「可愛いぜ、お前のココ・・・。本当の、お前自身・・・・・・」
「やっ・・・!」

羞恥心を煽る言葉を紡がれ、蘭の全身が真っ赤に染まる。
身を引こうとしたが腰を掴む優士の手に阻まれ、そのまま蘭のそれは優士の口内に導かれていた。

「や・・・あつっ・・・・・・」

生暖かい優士の口腔。舌が先端に絡まり、それから筋に沿って舐め上げられる。
それだけで、脈動する蘭自身は大きさを増し、優士の口内を圧迫した。
けれど、構わず優士は愛撫を施していく。甘噛みするように歯を立て、舌で緩やかな愛撫を与え。
舌に感じる蘭の味が、優士を満足させていた。
それは、しっかりと蘭が感じていることを示していたから。

「蘭・・・・・・」

空いている手で、下の袋までを包み込む。柔らかく揉みしだいてやれば、蘭は身体を大きく戦慄かせた。

「・・・っ優士・・・!」

上り詰めることの恐怖からか、蘭の左手がきつく自分の髪を握り締めている。
右手もまた強い力が込められていることに、優士は柔らかく微笑んだ。

「達っていいんだぜ?心配するな・・・俺がいる」

甘く響く低音。なんて妖かしの甘さを放つのだろう、と蘭は思う。
それだけで昂ぶる己は、もはや止められるはずもなかった。

「・・・っあああ・・・!」

押し出されるような声と共に、ついに優士の手の中で蘭の欲が解放された。
上り詰めた瞬間の顔が見たくて覗き込んでいた優士が、これ以上ないほど嬉しそうな顔をする。
甘くて、こちらも恍惚としたような顔だった。

「・・・蘭・・・・・・」
「・・・っ・・・!」

覗き込まれていたことに羞恥を感じ、蘭は顔を背ける。
そんな態度も可愛くて、優士は蘭に口付けた。
今度は、甘くゆったりと舌を絡ませ、確かめ合うようなキスに2人は溺れていく。
優士は唇を重ねたまま、蘭の精で濡れた手を下肢の奥へと這わせた。

「足・・・開けよ・・・・・・」

びくりと震える。吹き込まれる低音が、蘭の胸を高鳴らせる。
緊張がピークに達しているのを感じながら、蘭は優士の手に助けられて秘孔を晒した。

「っ・・・」

濡れた手が、きつく締まったそこに触れる。恥ずかしくて、どうしようもなく羞恥を煽る行為。
自分すら触れたことのない場所を、他人の指が暴いていくなんて。
それでも、蘭は優士を受け入れようと力を抜くように努力した。
瞳を閉じれば、触れてくる優士の肌と、手のひらと、そして体内に入り込んでくる長い指先の感覚だけが蘭を支配する。
濡れた指先が幾分楽に侵入してくるのを感じて、蘭は必死に異物感に耐えていた。

「・・・痛いか?」
「・・・っ平気、だ・・・」

小さく息を吐いて、力を抜こうとしている健気さが、いつもの蘭とのギャップを感じさせる。
自分を感じて息をつく彼に、優士は笑みを浮かべた。
指先を根元まで侵入させて、内壁をぐるりと辿る。

「っあ・・・!」

ひときわ高い声を上げる場所を見つけて、優士は確かめるようにそこを愛撫し出した。
指1本だけじゃ足りないと感じたのか、一端入口まで指を引き抜き、もう1本当てて一気に貫く。
それだけで声を漏らす蘭は、もはや自分のものではない身体の全てを優士に預けていた。

「っ・・・」
「感じるか?感じるな・・・・・・」

2本の指を内部で曲げる。
ゆっくりとかき回せば、きゅっと締め付けてくる内部が熱く疼いていた。
指じゃ足りないとでもいうように、もの欲しそうに揺れる体。

「っゆう・・・し・・・・・・」

空いている蘭の手が宙に伸ばされた。
それを受け止め、優士は彼の顔を覗き込む。
薄く開けた蘭の瞳は、ひどく潤んでいて、今にも涙が零れそうだった。

「・・・蘭」

優士は名を呼ぶと、重ねた手のひらをしっかりと握り締めた。
それから、昂ぶる己を宛がうため、蘭の足を肩にかける。
初めてで正面からの体位は辛いかもしれない。けれど、しっかりと握られた手のひらを離す気は優士にはなかった。
蘭もまた、きつく手を握り返してくる。

「優士・・・・・・」
「辛いだろうが、我慢してくれ」
「・・・ん・・・・・・」

瞳を閉じる。
優士は蘭の頬に口付けを落とすと、張り詰めた自身を蘭のそこに宛がった。
次の瞬間、熱くて重い感覚が、蘭の全神経を支配する。

「っ・・・ぁあ――――!」

声を漏らさずにはいられなかった。押し出されるような重量感をもつそれが、身体の内部を灼いていく。
けれど、その熱が優士の想いの丈であることを知っている蘭は、息をついてそれを受け入れた。
充分に濡らされた内部は、優士のそれから漏れる体液と相まって侵入を助けてくれる。
それでもまだ痛みは抜け切れず、蘭は脂汗を流した。
無意識のうちに、助けを求めるように手のひらに力が込められる。

「・・・っゆう・・・っし・・・!」
「息を止めるなよ。ゆっくりでいい、吐くようにするんだ・・・」

耳元で聞こえる優士の声が、朦朧としか聞こえない。
下肢の前に手を添えられると、快楽の電流が走り、一瞬身体がびくりと震えた。
その隙に、優士は最奥まで入り込んでくる。最奥の、先ほど蘭の内部で一番感じる場所を目指して。
根元までしっかりと収まった優士は、やがて安堵の息をついた。

「・・・大丈夫か?」
「・・・ん・・・多分・・・」

涙目になって見上げてくる蘭の頭を撫でてやり、それから頬に手を添えて唇を重ねる。
下肢を貫かれたままの口付けに恍惚となったのか、蘭は夢中で優士の舌を貪った。
蘭の内部で、優士のそれが一段と大きさを増す。

「っ・・・」
「・・・動くぞ」
「っは・・・あ・・・っ・・・」

ぞくり、とした。

すっぽり包み込まれた感覚から一気に引き抜かれ、擦られた内部が快感を呼ぶ。
それと同時にしっかりと収まっていたはずのものが無くなってしまったことに、一種の空虚感が蘭を支配していた。

「・・・優士・・・!」

体裁もなにもなく、蘭は優士を求める。
欲しかった。
自分と同じ、罪の十字架を背負う男。
それでいて、その罪を背負いながら強靭なまでに信念を貫くその男が。
憧れに近い優士への想いは、もはや蘭の中で焦がれるほどの愛情に変わっていた。
彼は『お前の帰る場所でありたい』と言ってくれたのだ。これ以上の愛の言葉はないはずだった。

「っあ・・・はっ・・・っ・・・」

優士のそれが再び蘭の内部を刺し貫く。
緩やかな動きと鋭さを秘めた律動が鮮烈な快楽を呼び、蘭は快感に耐えるように眉根を寄せた。
気を抜けば、簡単に意識を押し流されてしまうほどの強烈な感覚。
蘭は目をこじ開けると、自分の上でこちらも感極まった表情を浮かべる優士を見上げた。
汗がぱたりと落ちてきて、優士もまた限界が近いことを告げていた。
ぎゅっと、手のひらが握り締められる。

「優士・・・・・・」
「・・・限界、だな・・・」

瞬間、優士の口元に妖しい笑みが刻まれる。
ひときわ強く最奥を貫かれ、ついに蘭の意識が弾け飛んだ。

「っあああ―っ!!」
「・・・っ・・・」

真っ白に染まるその意識。
白は、愛する男を象徴する色だ。蘭は瞳を閉じた。
たとえ自分がこれから罪の意識を引き摺って歩いていこうとも。
彼がいれば、大丈夫だろう。
そう、思えた。
優士は、自分の帰る場所をくれたのだから。

「蘭・・・」

柔らかな声音が、薄れ行く蘭の意識を包み込む。
優士のそれに包まれて、蘭は深い眠りへと落ちていった。









気付いた時は、もう朝だった。
カーテンの隙間から、明るい日差しが射し込む。雨は、とっくに止んでいたのだろう。蘭はその眩しさに目を細めた。
ゆっくりと身を起こすと、やはり見慣れない優士のマンション。
改めて見渡せば、昨夜よりどこかすっきりしていた。優士が整えたのだろうか。

「・・・起きたのか」

声に振り向くと、隣に寝ていた優士が見上げていた。
昨晩のことを思い出し、多少の羞恥に頬が染まる。

「・・・風邪、引いてないか?ああそれと・・・身体も」
「・・・大丈夫みたい。身体は・・・わからないけど」

肩を竦める。まぁ、多少ガタが来ても仕方ないだろう。羽目を外したのは自分のせいでもある。
優士はそうか、と呟いて、こちらも身を起こした。初めて、しっかりと見た気がする。優士の、均整の取れた男らしい体つき。

「・・・どうした?」
「・・・いや」

小さく笑う。それと同時に、軽い胸の痛みを感じた。今日は旅立ちの朝。自分たちが、違う道を歩むその瞬間。
そんな蘭の心を察したのか、優士は蘭の肩を掴んで抱き寄せる。もう、蘭は抵抗しない。する必要もなかった。

「優士」
「ん?」
「やっぱり、ここはあんたが使う場所だよ。この部屋の主人は、あんたが相応しい」
「・・・蘭」
「俺は、ただの居候。だから、わざわざ優士のもの、持って行かなくていい。あんたも、帰ってきてくれ」

蘭の言葉に驚いた優士だったが、まぁいいか、と肩を竦める。
本庄家には入れられない。けれど、自分自身の中になら・・・置いておける。
蘭の帰る場所を。
優士はベッドを降りると、カーテンを開けた。
まっさらな空。蘭の新たな道の門出には、これが一番相応しい。

「蘭」

優士に名を呼ばれることが、一番気持ちいい。蘭は瞳を閉じた。
その上に、優士の唇が降りてくる。
甘い感触に、2人は昨晩の余韻に浸っていた。
でも、これが最後ではないのだ。

「・・・たまには帰ってこいよ」
「あんたも、ね」

顔を見合わせて、くすりと笑う。
罪深い2人が、それでも本当に笑える場所はここしかないだろう。
そんな場所があることが、2人には救いだった。

「優士、早く帰らないと鈴木さんたちが心配するぞ?」
「今頃戻ったら何て突っ込まれるか!怖くて戻れないよ、むしろ」
「あ、そりゃそうだねぇ。太陽ちゃんなんか、お兄様の朝帰り、許さないんじゃない?」
「ああ見えて、結構鋭いからな、アイツ」

他愛のない話も、もう何だって出来る。
これからも、ずっと。
自分がクラッシャーズでなくなっても、きっと、繋がっていられる。
優士がくれた、この『居場所』のおかげで。

「・・・おいおい。また寝るのか?」
「いいだろ。俺の勝手」
「早く辞任届出してくれないと厄介なことになるんだよ!人殺したってバレる前に、早く辞めちまえ!」
「・・・あーあ。面倒臭ぇなぁ。。。」

枕に顔を埋めて、ため息一つ。
それでも、こうやってやりとりを交わしていられることが何より嬉しかった。
だから、


願わくば。


これからも、こうやって優士といられますように。
どんなに長い時が過ぎても、自分の帰る場所がありますように。
蘭は自分が背負う十字架に、祈りを捧げた。






end.




Update:2002/05/19/MON by BLUE

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