amore〜アモーレ



紅い唇が やわらかな髪が 俺を誘う 強がりな 横顔が
愛しい人なぜ 息がかかるほど 近くにいて イノセントに 微笑むの?

触れる指が 熱い胸の中を伝えて

もう 奪ってしまいたい 奪いたくて・・・
So I want you
ダメになりそうだよ いっそここで 抱いてしまおうか
切ないよ
Mia amore・・・


甘えてくるほど 愛されてるほど 残酷だね キスがまた ほろ苦い
理性という名の 茨の鎖が 俺を突き刺し 骨までも食い込むよ

きつく抱けば 一つになるはずさ 心も

ただ大事にしたいから 奪えないよ・・・
By I want you
絡みつくこの胸 いっそほどいて しまえたらいいさ
気づかない
Mia amore・・・


ただ奪ってしまえたら 奪えたなら・・・
So I want you
無邪気さのナイフで 今日も胸を 切り裂くのだろう
切ないよ
Mia amore・・・




(song by 関俊彦「amore〜アモーレ」)

















愛しい人は、すぐ傍にいた。


仕事の帰り、メンバー達との飲みの席。
俊彦はソファに凭れながら、仲間たちの歓談を黙ってみていた。
視線の先には、これでももう長い付き合いになる、子安武人。
彼は楽しそうに皆と笑いながら、対して強くもない酒を飲み交わしていた。
(・・・武人)
彼の一挙一動を見ながら、俊彦は軽くため息をつく。
今回の仕事は武人が主役のような立場で、ゲスト扱いでしかなかった自分は役で絡むこともない。
話のメインでもないというのに自分がこの場にいることを、
俊彦はどこか場違いのように感じていた。
その証拠に。
話の輪は武人を中心に出来上がっていて、自分は話に入る余地もないのだから。
それでも、ここに来てしまったのは彼―子安武人が自分を呼んでくれたから。
いつもの自分なら絶対に顔を出すはずのない席に来てしまったことに、
俊彦は後悔していた。
手の中のアルコールを口に運んで、それからまた視線は笑う武人のところへ。
どうしてこんなに気になるのか、俊彦は自分でもよくわからなかった。
別に、誘ってくれておいて気を使わない武人が気に入らないわけではない。
けれど―。
気づけば彼を追っている自分に、俊彦は軽く苦笑した。
―バカだな。
グラスの中に残っていた酒を全て飲み干して、俊彦は席を立つ。
これ以上ここにいても、仕方ないと思った。

「それじゃ、俺はこれで」
「え・・・?関さん、どうしたんスか?」

先ほどまで大声で笑い合っていた武人が、すぐに反応を返してくる。
俊彦は軽く笑った。

「なんでもないよ」

顔は笑っているのに、幾分感情の篭っていない声が喉から洩れたのに気づいて、微かに眉を寄せる。
けれど、そのまま俊彦は自分の分の金額だけ支払うと、
店の外へと出た。
今から家に帰っても、着くのは朝方になってしまうな・・・と思いつつ、
それでも帰ろうかと歩き出す。
もうとっくに終電は過ぎていて、けれどどこかに泊まる気はなかった。

「・・・関さん!」

後ろ背に、声を掛けられた。
それは聞き覚えのあるどころか聞くだけで誰かわかる男のもので、
俊彦は多少意外そうに後ろを振り向いた。
視線の先には、子安武人。
ぱたぱたと走ってきて、彼は自分の隣まで来て足を止めた。

「・・・関さん、今日はどうかしたんですか?」
「べつに、そんなことはないよ。お前こそ、早く戻らないと皆が寂しがるだろう」
「大丈夫ですよ、僕も一抜けしてきましたから」

え、と目を見開く俊彦に、武人は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
それから、俊彦の家の方に向かって、武人もまた共に歩き始めた。
しばらく続く沈黙は、何を表しているのか。
深夜の道路に響く足音をさえぎったのは、武人のほうだった。

「関さん・・・。本当、何かありました?」
「・・・どうして、そう思う?」

多少低まった俊彦の声に、武人は少し戸惑った。

「え・・・だって・・・。最近、よくぼーっとしてるじゃないですか。だから考え事でもしてるのかな、って・・・」

考え事。
的を得ている予想に、俊彦は苦笑した。
そう、確かに考えていた。それも、武人―今隣にいるこの男のことばかり。
自分でもわけがわからないまま、武人を見て、彼のことばかり考えていた。
けれど、そんなことはおかしい、と自覚すらしていなかったのだが。
「関さん・・・。何か悩みごととかあるなら、なんでも話してくださいね。これでも、少しは相談に乗れる人間になったつもりです」

いつになく真面目に響く武人の声。
けれど、もし自分の考えていることが、お前自身のことだと言ったら、
彼はどんな顔をするだろう。
俊彦は武人の肩にぽん、と手を置くと、軽く笑いかけた。

「・・・ありがとう。その時はそうさせてもらうよ」

本当のことを言えるはずもなく、俊彦はそう言った。
けれど、こういうとき限ってひどく人に敏感な武人は、少しだけ表情が曇る。
俊彦が真実のことを言っていないのを、彼はわかっているようだった。

「関さん・・・。」

笑顔で自分の心配をかわす俊彦に、それ以上何も言えない。
俊彦もまた、これ以上の感情が自分の中から漏れ出すことに耐えられないまま、道を急いだ。
武人の前では、自分は自分の感情を止められない。
役者としても、人間としても、それは俊彦にとって忌むべきことだった。
ふと、武人は足を止めた。

「・・・武人?」

気にかけなければいいのに、何故か気にかけてしまう。
それが、自分の墓穴を掘るとわかっていながら。
武人は軽くうつむいていたが、やがてきっと顔を上げた。
深夜の電灯に照らされて、武人の顔がはっきりと浮かび上がる。
俊彦はそれに微かに目を細めた。

「・・・・・・俊彦さんはずるい」

ずるい。確かに武人はそう言った。
俊彦は自嘲の笑みを浮かべる。

「・・・なぜだい?」
「自分には、なんでも相談しろと言って置きながら・・・自分のことは誰にも話してくれない。
 僕は、少しでも俊彦さんの力になりたいのに・・・」

唇を噛んで、またうつむいて。
泣いてるのか、と思ってしまうほど。
武人のまっすぐな想いは嬉しかったが、それでも俊彦は簡単に心を打ち明けることなどできなかった。
当然だ。自分の悩みは目の前にいるお前のことだ、などと、
そうそう言えるものか。
けれど、それでは武人の想いを傷つけることになってしまう。
俊彦は、こちらもまた苦しそうに眉を寄せた。
自分の愚かなこの想い。打ち明けること自体、バカなことだと思うのに。
俊彦は武人の両肩を掴むと、しっかりと彼の目を見据えた。

「・・・・・・武人」
「・・・え・・・」

いつになく低く澄んだ声音。身体を思わず震わせるような低音に、武人は息を呑む。
けれど、しっかりと捕らえられた視線は外すことを許さず、ただ金縛りにあったように俊彦を見つめる。
心なしか、武人の頬が染まった。

「せ、関さ・・・」
「もし」

武人の声を遮って、闇の中に俊彦の声が浸透していく。
静かに開かれる唇が、かすかな恐怖と胸の高鳴りを呼んだ。

「もし・・・俺が、お前を・・・」

好き、だと言ったら・・・・・・―――――?

最後の言葉は、声にならなかった。
それと同時に、俊彦の目が見開かれる。
自分の言おうとした言葉が信じられなくて、しばし動くことすらできなかった。
しかし、それは武人も同じ。
聞こえなかったはずの言葉。けれど武人の耳には届いていた。
『好きだ』と。
聞き間違えか、それとも。
信じられない、といった風に俊彦の顔を見やれば、次の瞬間武人は俊彦の腕に抱き締められていた。

「な・・・」

伝わってくる鼓動。けれど、それ以上に高鳴るのは自分の胸の内。
俊彦に抱き締められているという事実に頭が真っ白になる。
その時、耳元で微かな声が聞こえた。

「・・・ごめん」

俊彦の腕の力が緩む。

「・・・すまない。俺、どうかしてた・・・」

するり、と解放され、背を向けられる。
そんな俊彦の態度に、俊彦が今の自分の行いをひどく後悔していることが見て取れた。
いつだって、外では理性を崩さないこの男。
それなのに、今は―――――。

「ごめんな、武人。忘れてくれ」

自分のバカさ加減に、軽く自嘲の笑みを浮かべて。
俊彦は、武人に背を向けると、今度こそ立ちすくむ武人を放って歩き出した。
おそらく傷つけてしまったであろう武人を、自覚したくはなかった。
離れていく距離。今はまだ、それが2人の距離。
武人は自分の拳を握り締めると、意を決して俊彦の背に言った。

「僕は・・・!」

そして、うつむいて。足を止めてくれた俊彦に、小さな声を投げ掛ける。
たった一言を告げるのに、声が震えた。

「・・・関さんのこと、嫌い、じゃないですから」

それから、俊彦の歩いていた方向とは反対側へ走り去る。
ずっと見えなくなってしまってから、俊彦は静かに呟いたのだった。




「・・・・・・ありがとう」




END




Update:2002/10/12/SUN by BLUE

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