KILLING MY LOVE vol.2



まだ大人になり切れていない弟を傷つけまいと、
直人は細心の注意を払って直也の身体に触れていった。
ゆっくりと直也の夜着のボタンに手をかける。胸元に張り付く心電コードを引き、1つ目のボタンを外してやると、
微かに直也の身体が震えた。
過去、弟の衣服を脱がせ、着替えさせたことなど何度だってある。
けれど今は、愛する者の素肌を始めて晒させたような、新鮮な感覚を覚えた。
見慣れた白い肌に、初めて目にしたかのような感動を覚える。
そして、それは直也も同じだった。
普段、意識することなどなかった直人の視線が、自分の肌を這うのが、何故か恥ずかしかった。
羞恥にふい、と横を向く直也の耳元に、直人は唇を寄せた。

「・・・直也」

確かめるように、その名を呼ぶ。吹き込まれる音がひどく甘く、優しくて、
直也は心地良さそうに瞳を閉じた。
兄になら、全てを任せられた。あの時、どうして自分は脅えたような態度を取ってしまったのか。
兄が自分を欲しいと思ってくれたように、自分もまた、兄を欲していたのに。
そう、いつだって。
欲しがる前に、与えられていた。だから、自分の本当の心に気付いていなかったのだ。
直也は泣きそうに、直人の胸元のシャツにしがみついた。

「・・・っ・・・ぁ、兄さ・・・っ」

耳の裏に吸い付くようなキスをされ、ひくりと直也の身体が竦む。
けれどそれは、恐いからではない、甘い予感への期待。
口付けた箇所からゆっくりと濡れた筋を作っていくと、ただでさえ敏感な直也は耐え切れない、というように首を振った。
幼いようなその仕草が、かえって直人の欲を煽る。熱を増した直人の心が、ダイレクトに伝わってきた直也は、
ますます頬を染める。まったく、厄介な悪循環だ。
鎖骨のあたりに歯を立てるようにしてキスを続けながら、直人は囁いた。

「・・・大丈夫か?」
「・・・・・・ん・・・」

大丈夫かなんて、直也にはわからない。
たったこれだけで高鳴る鼓動を止められないのだ、この先どうなってしまうか、全く想像がつかなかった。
けれど、それでも。
このままやめることなど出来ない気がした。折角、完全に1つになれる程重なり合った心を、
このまま離してしまいたくなかった。直也は答える代わりに、しがみつく腕に力を込めることで意思を示す。

「・・・直也」

初めての弟を気遣うように、直人はゆっくりと先を進めていった。
1つ1つ、確実にボタンを外していく。顔を出した胸元のピンク色のそれに、唇を落とすと、
直也の口元からひどく甘い声があがった。無意識に逃げようと、身を捩る体。
片手でシャツを脱がせてやりながら、壊れものに触れるように丁寧に舌で舐めたり弾いたりを繰り返してやれば、
直也は今にも泣きそうな顔で己の胸に顔を埋める兄を見つめた。

「・・・っ、兄、さ・・・っ・・・」

弱弱しい声音。目覚めたとはいえ、ここ数ヶ月、寝たり起きたりを繰り返し、
ただでさえ体の弱い直也は更に弱っているはずだ。
そんな弟に、こんな行為を強いるのは酷ではないのか―――。
たとえ、それが直也の望んだことだとしても、直人には不安に思えた。
そもそも、実際に肉体を繋げることに、一体どれほどの意味かあるのだろう。
直也は、自分のこの歪んだ感情を避けるどころか、受け入れてくれたのだ。
それで、十分のはずだ。
直人は唇を離すと、己の熱を吐き出すように、息をついて身を起こした。
けれど―――。

「・・・っ嫌だ、兄さん・・・」

がしり、と掴まれた腕は思いのほか強くて、直人はらしくもなくうろたえる。
直也はダメだ、というように首を振り、それから腕を伸ばして直人の首にしがみついた。離れたくない、とでもいうかのように。

「・・・直也」
「心のない関係なんて絶対嫌だ。でも、心だけの関係も嫌だよ・・・兄さん。僕は・・・」

―――兄さんの、すべてが欲しいんだ。

強く縋りついたまま、直也は訴える。言葉にならなくとも、触れ合う側から伝わってくる想い。
真っ直ぐに投げ掛けられる感情は、直人の迷いを消し去るには十分だった。直人は、もうつまらないことを考えるのをやめた。
互いが互いを求めている。理由など、それで十分ではないか。

「・・・火傷しても知らないぞ?」
「・・・ん。」

無理をして、精一杯強がってみせる弟に、直人は苦笑した。
素直に恐いと、不安だと言えばばいいのに。意地を張ってでも直人の心を受け止めようとする直也に、
今度こそ直人は弟への欲望を強く意識する。
後戻りできない感情に突き動かされるように、直人は直也の肌を貪り始めた。

「・・・んっ・・・、は、あっ・・・」

もう、迷いはない。直也の全身が、薔薇色に染まる。柔らかな脇腹に吸い付くと、甘やかな声を洩らす口元。
まだ子供だとばかり思っていた弟の、その中心部が熱を持ち、自己主張を始めていることに、
直人はくすりと笑った。
男の思考が伝わってきた直也は、ますます肌を朱くする。
思わせぶりに、衣服の下から盛り上がりを見せる直也の雄を撫で上げてやれば、
小さな身体をより縮こませて、脅えたように自分を見上げてくる直也の瞳。
窮屈そうなそれを解放してやろうと、ゆっくりと肌と布の間に手を滑らせていくと、
直也は唇を震わせ、咄嗟に腕を伸ばしてきた。

「・・・っあ、そこ・・・っ、は・・・!」
「・・・直也。」

名を呼んで、唇を塞いでやる。
羞恥心を紛らわせるように次第にキスを深めていけば、
挿し入れられる舌に始めは戸惑うばかりの直也も、
丁寧に歯列を舐め上げてくる直人のそれに、折れたように口内を明け渡した。
絡みついてくる舌が、気が遠くなる程、甘い。

「んんっ―――・・・ふ、っ・・・」
(直也・・・)

瞳を閉じ、口内を襲う快楽に浮かされたままの少年の下肢を、
直人はゆっくりと押し開いていった。衣服の内部で、既に濡れたようなぬめりを帯びている直也の雄。
直也は、己自身に指を絡ませてきた直人の手から逃げるように身を捩じらせたが、
男に圧し掛かられ、唇まで塞がれている状態では避けようもなかった。
直人はもう片方の手を弟の背後に回し、
普段何気なく手伝ってやっていたように下肢に纏わりつく衣服をすべて脱がせた。

「・・・っ・・・」

一瞬にして染まる、直也の頬。顔に熱が集まるのを抑えられない。
唇を離した直人の視線が下に向くのが恥ずかしくて、直也は直人の首に両腕でしがみ付いた。
ぐっと力を込め、肌と肌を引き寄せる。
肩口に顔を埋めると、耳元でくすり、と笑われる声音。
耐え切れない羞恥は、もはや限界寸前だ。
泣きそうに顔を歪める直也に、直人はゆっくりと手の中のそれを扱き始めた。

「―――直也。」
「んっ・・・、あ、・・・っ・・・!」

諭すように、静かに紡がれる己の名。
そうして、反応を確かめるようにひどく優しく愛撫を与えてくる直人に、
直也はもどかしさすら覚えた。―――もっと欲しい。もっと強く、熱を高めて欲しい、と。
けれど、それと矛盾する心も確かに存在する。
初めての行為になかなかついていけない身体と、精神。
与えられる快楽、という未知の世界に脅え、震える自分を直也は隠し切れなかった。
ぎゅ、とより強く腕に力を込められれば、
直人にも伝わってくる直也の心。
けれど、後戻りはできない。直人は弟の華奢な身体を抱き締めた。
安心させるように。互いの熱を共有するそれは、どんな時だって2人を支えてきたもの。

「っ・・・」
「―――大丈夫だ。」
「・・・・・・、うん・・・」

ひとつであったものを裂かれるような感覚に、
直人は名残惜しげに身を離した。
視線を落とす。己の手の中で大きさを増した直也のそれは、
熱を持ち、はっきりと欲望を顕わにしているものの、
それでもまだ幼さ故の青臭さが残る色合いに、直人は思わず笑みを零した。
そういえば、昔一緒に風呂に入って洗ってやったこともあったな、と
直人は思い出す。
弟が風呂に1人で入るようになった時は、
なかなかに切なかった。

「―――あの時は、寂しかった」
「・・・兄さん・・・」

さすがに小学校にあがればどこの子供でも親と一緒に風呂など入っていないだろう。
直也の場合は両親すら敬遠しがちだったため、世話というとほとんど直人がしていたが、
それでなくとも成長の遅かった直也は、
小学校の中学年あたりまでずっと兄と共に風呂に入っていたのだ。
さすがにその頃には、反発もあって当然だろうに。
恥ずかしげに、けれど呆れたように自分を見上げる視線に再度笑って、
直人は身体をずらし、本格的に下腹への愛撫を始めていった。

「やっ・・・、そこ・・・」

臍の辺りを舐められながら、淫らな動きを見せる直人の手のひらが際どい部分を撫でていく。
付け根から内股へ手が滑されると、無意識に足が中心部を隠すように動いた。
膝が曲げられたことで隙間の生まれたそこに、膝を滑らせる。
自分の足で直人を挟むような体勢にさせられてしまった直也は、
直人を見、そして恥ずかしげに顔を背けた。
これ以上見ていたら、どうにかなってしまいそうで。
けれど、直也の戸惑いをよそに、直人の動きは次第に大胆になっていく。
割り開かせた足を更に開かせるように、膝裏を撫で、押し上げた。
己の目の前に移る、弟のすべて。

「―――綺麗だ」
「っ・・・」

白く華奢な肌は滑らかで、しみのひとつもない。
直人は顔をあげると、舌で太股を舐め上げた。ぞくりとはい上がる濡れた感触に、直也は
悲鳴に近い声音を上げる。小さく震えて縮こまる、少年の身体。
それでも、もはや離す気などない直人の唇が、
ゆっくりと自分の中心部へとあがってくることに、
直也は震える唇で必死に言葉を紡いだ。

「兄さっ・・・、や、だ・・・っ」
「どうしてだ?」

直也が抵抗してしまう理由くらい、直人にだってわかっている。
だがあえて直人は、弟にそう聞き返した。絶句する直也に、男は笑い、そのまま行為を続ける。
目の前に晒させた下肢の奥には、脅えたように震え、窄まる秘孔。
ゆっくりと指を這わせてみると、今まで感じたこともない羞恥と恐怖に
直也は身を固まらせた。
真っ赤に血を上らせた顔を、両腕で隠してしまった彼に、
けれど必死に自分の想いに応えようとする健気さを感じた直人は
ひどく胸の奥が熱くなるのを感じた。
そうして、己の下肢の、その奥までも。

「・・・直也」
「っ・・・」

腕をゆっくり外させてやると、生理的な涙で目の周りを腫らした少年が
おそるおそる見上げてきた。安心させるように頭を撫でてやり、
そうして頬にキス。
捕らえた手を、ゆっくりと下肢に持っていき、
直也自身を握らせる。
直也は、恥ずかしさと戸惑いに瞳を揺らした。

「自分でやったことは、あるんだろ?」
「・・・っ、ばっ・・・!」

直人のあまりに無遠慮なもの言いに、直也は顔をそむけてしまった。
そして、ふつふつと胸に湧く兄への怒り。
ただでさえ初めての行為で戸惑ってばかりだというのに、なんということを口にするのだろうか、この兄は。
ますます赤くなる顔を止められずにいる直也は、
しかし手の中に感じる熱にもまた驚きを禁じ得なかった。

「・・・あ、あるわけっ、ない・・・よ・・・」
「うそつけ。」

うろたえた様子を隠し切れない直也に、からかうように口の端を持ち上げると、
自分を睨み上げながらも、しっかりと反応を示している直也の雄。
他人の前でなどとてもじゃないけど出来るわけがない、とでも言いたげな直也を助けるように、
直人は弟の手の上から彼自身を扱いてやった。
洩れる声音が、明らかな快楽を表している。

「自分で、気持ちよくしてやるんだぞ?」
「・・・そ、んな・・・」

敏感な亀頭の部分を撫でるようにして手を離した直人は、
再び下肢の奥への愛撫を続けるため更に直也の両足を押し開かせた。
取り残されたように、両手を己自身に絡ませたままで、
直也は恥ずかしげに目を瞑った。己の下肢を、直視できるはずがなかった。
けれど、一度手にしてしまった快楽は、にわかには離しがたくて、
直也の手は恐る恐る自身を擦りあげていく。
その途端、背筋を這い上がる甘い感覚が全身にまで広がっていくような感覚を覚え、
次第に動きも大胆になっていた。
直人の目の前で自慰行為を行うなど、少し前までは考えられなかった行動。
直人もまた、直也の淫らな姿に熱を高まらせる。
直也の先走りと己の唾液で、奥の入り口を濡らしてやっていた直人は、
少し考えて、直也の下肢に顔を埋めた。
舌にたっぷりと唾液を乗せ、敏感な部分に触れていく。

「っや・・・!やめっ・・・!」
「―――痛いのは、嫌だろ?」

まさかそんな部分にいきなりキスをしてくるとは考えもしなかった直也は、
逃げようとしてすぐに直人の言葉に呪縛される。
優しさという名の、苦痛。
けれど、いくら自分のためとはいえ、この恥ずかしさには耐えられない。
助けを求めるように視線を落とした直也は、
けれど直人が舌を絡ませてくればくる程に、己の雄が硬く、熱を帯び、そうして先端から
とめどなく蜜を洩らしていることに気付き、
更に頬を赤く染めた。
それは、逃れようのない、快楽。

「兄さっ・・・、そこ、だめ、っ・・・」
「おまえのココは、嫌がってないようだけどな・・・?」
「あっ・・・!」

ズプ、と音すら立てて挿し入れられるモノに、
直也は文字通り息を止めた。
下肢の中に、感じたことのない何かがわだかまっている。
それは、考えなくともわかる、兄の指。
受け入れると決心して彼を許した直也だったが、いざその時になると、
未知の世界に足を踏み入れたかのような、不安定な感覚に足元を掬われそうになる。
恐かった。無意識に、片手を口元に当てて指を噛んでいた。

「・・・痛くないか?」
「う・・・、うん・・・・・・」

初めて感じる違和感に戸惑いながらも、
なんとか頷く。直人は全身で彼の強い不安を感じていた。
当たり前だろう。なんといっても彼は、まだ17の少年。ましてや、見た目も精神的にもまだまだ子供なのだ。
自分のほうがむしろ、何も知らない子供を誑かす、悪い大人にすら感じる。
けれど。
これは、同意の上の行為。
互いが互いを欲して、そして互いにそれを了承した。
だから今、こうして素肌で触れ合っているのだ。

「直也・・・」
「ぁ・・・、兄さ、んっ・・・」

強く噛み締めて歯型のついてしまった指先を離させ、
直人はほっそりとしたそれを舐めてやった。
傷口を癒すように丁寧に舌を絡められ、直也が恥ずかしそうに目を伏せる。
そのまま、下肢に埋めた指先をゆっくりと動かしてやると、
驚いたようにびくりと身体を震わせ、
その後はしがみつく様にシーツを掴む。
恐がってはいても、それでも足を動かしてまで抵抗しようとはしない弟が愛しくて、
直人はその背を抱き締める。直人の指が、深く、侵してゆく。
狭い場所は、それでも歓迎するかのようにひどく収縮し、彼を内部へと誘うような動きを見せていて、
そんな自分の身体の反応に驚いてばかりの直也は、
瞳を閉じて深い場所に感じる感触を噛み締めた。
痛みがないわけではない。ただ、這い上がるような甘い感覚が、
それ以上に自分の心に訴えかけてくる。

「あ・・・っ、ん、・・・んっ・・・」

零れ落ちる、甘い声音と吐息。
震える唇が紡ぐそれは、直人をも未知の世界へと導いていく。
本当に愛する者を愛する行為など、初めてなのだ。
直人もまた、少なからず緊張を覚えてしまう。

「奥まで・・・入ったぞ」
「っん・・・」

しっかりと根元まで銜え込んだ直也のその部分は、
直人の言葉にますます入り口を窄めてしまった。
熱い肉襞を押し拡げるように、直人は指を動かしていく。第二関節を曲げてやると、
思わず、といった風に声が洩れてしまい、直也は羞恥に顔を染めた。
けれど、指の動きは止まらない。
かえって、欲を煽られてしまったらしい直人は、
深く押し込んだその先に触れる場所を強く押し上げるようにして刺激を始めた。
電流のように走る快楽。
そこは、男が感じる快感が生じる一番の場所。

「あ・・・、あ、んっ・・・」
「感じるか?」

コリコリと当たるそこを特に集中して刺激してやれば、
勃ちあがったそれの先端がびくびくと涙を零すように濡れていく。
次々と溢れるその蜜を、直人は片方の指で掬うと、
今だ異物を押し込んでいる場所に塗り込め始めた。何度も抽挿を繰り返してやれば、
しっとりと濡れていく内襞。
先ほどよりも幾分かは柔軟になったそこに、
今度は2本目の指を挿入する。圧迫感の増した下肢に、
直也は一瞬息を止めた。
けれど、それは先ほどと同様、深く体内から響いてくる甘い刺激に変わってしまう。
不思議な感覚だった。
今まで感じたこともないそれは、けれどいつまでも感じていたい程に、
優しくて、甘い。
直也は、ふっと、かつて自分を犯そうとした者の意識に触れてしまった時のことを思い出した。

(・・・あれほど、)

あれほど、精神的にも肉体的にも苦痛なものはなかった。
ただただぶつけられる欲望は、
引き裂かれるような苦痛と、どん底に落とされたような暗い絶望しか生み出さない。
息苦しくて、吐き気がして、すぐにでも死んでしまいそうだった。
全身が拒否反応を起こしていることがわかった。
自分に対する、肉体的な欲望。
そう、枠でくくってしまえば、今直人が自分に対して抱く思いと、
あの暴漢たちの心はほとんど変わらない。
けれど、
それでは、一体何が違うのか。
下肢にわだかまる熱の正体を、直也は必死に追いかけた。

「直也」

気付けば、既に3本の指が軽々と出し入れできる程に、自分の後孔は拡がっていた。
直人の指が動かされる度に、自分の内部でぐちゃぐちゃと音がする。
それは、更なる羞恥を生み出すものではあったが、
だが今の直也には、それ以上に自身の熱をより一層高めるものになっていた。
熱い。
腰の奥が。胸が。頬が。頭が。指先が。そして、全身が。

「兄、さ・・・んっ・・・」
「ああ。」

どうすればいいのかわからないまま、ただそう叫ぶ。
己の身体の芯を灼くような熱を、どうにかしたい。このままでは、
熱くて熱くて耐えられそうになかった。
そう、きっと、この熱から自分を解放できるのは、
兄をおいて他にいないのだ。
救いを求めるように直人を見やると、
直人はゆっくりと身を起こし、直也の潤んだ瞳と視線を合わせた。

「・・・痛いなら、そう言え。嫌なら、嫌と言え。俺は、無理強いはしない」
「うん・・・。・・・ありがとう」

だが、そう言いながらも、
直也はどれほどの苦痛でも恐怖でも、耐えるつもりだった。
兄の優しい言葉すら、もどかしい。
今は、恐怖よりも痛みよりも、兄を受け入れられずに終わるほうがよほど辛い。
そして、彼の熱を感じることのほうが、よほど悦びなのだ。
直人の腕が背に回され、強く抱きかかえられると、
直也もまた震える腕を伸ばして直人の背を抱き締めた。
軽く腰を浮かされて、その次の瞬間、己の下肢に宛がわれるのは直人の熱。
直也は息を呑んだ。それは、先ほどまで漠然としか考えていなかった、
けれど己自身の心が一番欲しいと望んだもの。
緊張に、無意識に腕の力が篭った。
乾いたそれを濡らすように、重ねられる唇。舌が絡められれば、甘い誘惑に気が遠くなる。

「っア・・・」
「いくぞ・・・・・・」

唇を触れ合わせたまま、ぐっと力の込められる腕。
そうして、しっかりと開かされた下肢の奥に、先ほどとはまるで違う質量感。
想像していたよりはるかに大きく、そして熱のある感触に、
早くも直也は自分が甘かったことを悟った。
熱さも、苦痛も、半端ではない。これを受け入れ、なおかつ自分は彼を悦ばせることができるのだろうか?
口付けを受けながらも、直也は思わず痛いなどと口走ってしまわないように、
唇を噛み締めた。
侵入は、気を使いながらも、それでも強引といえる程の勢いだった。
直也は、少しでも直人が苦労しないようにと力を抜こうとした。

「力を、抜いてくれ・・・」
「・・・は、・・・んっ・・・!」

じっくりと時間をかけて慣らしはしたものの、
男の雄を受け入れるには、直也のそこは狭すぎる。初めてならば、それも当然だろう。
それでも、少しでもラクになりたくて息を吐く。無意識に入ってしまう力は、
どう頑張ってみても思うようには抜けなかった。
震えてしまう身体を、直人にしがみつくようにして抑えるので精一杯。
あれほど時間をかけて慣らしたはずなのに、
下肢が裂けるように、痛い。

「・・・っ・・・、い・・・!」
「直也・・・」

快楽より苦痛に顔を歪ませているらしい直也に、
直人は戸惑ったようにその背を抱き締めた。彼が欲しい心も本当だが、
傷つけたくない、という気持ちも本当なのだ。
けれど、その時、
己の背に回されていた直也の指先に力が篭るのに、直人は気付いた。
―――離れたくない―――。
そうだ、自分だってそう思っている。
もう二度と、この腕を離したくはない―――。

「あ・・・、はっ・・・兄、さん・・・っ」
「・・・ゆっくり、大きく息を吸って、吐くんだ」

こくこくと頷いて、努めてそう息をつく直也が、愛おしい。
少しでも痛みを紛らわせてやれればと、彼の雄に指を絡ませる。
萎えかけていたそれが力を取り戻す程まで丁寧に愛撫を施してやれば、
漸く直也の表情に甘い色が混じった。
そうして、先ほどまできつく食い込むだけだった内部が、呼吸に合わせて収縮を繰り返してくる。
奥まで挿入できないまでも、ゆっくりと内部を擦るように腰を揺らすと、
直也ははっ、と息をついて仰け反った。
白い肌、首筋に朱い痕。衝動的に、再びそこに口付ける。

「んあっ・・・も、やっ・・・そこ・・・」

誰にでもわかるような皮下出血の痕をつけられるのが恥ずかしくて、
直也は首を振った。けれど、そこから湧き起こるのは己をさらに高める熱ばかり。
下肢に押し込められた直人の雄も、灼けてしまいそうに、熱い。
直人が丁寧に内部を濡らしてくれたことと雄に刺激を与えているおかげで、
直也の中は次第に熱と快楽に支配されていった。
比例するように、直也の内部も柔軟性を増す。幾分かラクになった抽挿に、
直人は内心胸を撫で下ろしつつ、より深くを抉るように腰を動かしていった。
あの、先ほど探した快楽のスポットに先端が当たるだけで、直也の口元から零れる声音は、
直人の理性を失わせるには十分すぎた。

「熱い・・・、熱いよっ・・・、兄さっ・・・!」
「ああ、直也・・・俺もだ・・・」

思考が、どこか浮いている。
直也の表情が苦痛をにじませなくなったのをよいことに、激しく内部を侵していけば、
直人の熱も昂ぶりを増した。息が詰まるような圧迫感に、
けれど直也ももう、快楽しか感じられない。
はやく、この熱から解放して欲しかった。
縋るように、背に回していた腕で直人のシャツを握り締めた。
すると、同じように抱き締めてくる力強い腕。
すべてを預けてしまいたかった。直也は瞳を閉じた。

「兄、さん・・・、もうっ・・・、僕・・・」
「ああ・・・一緒に達こう、直也」

吹き込まれる言葉が、本当に優しくて、
直也は酔わされたようにぼんやりと目を開け、そうして目の前の存在を見上げた。
もう、きっと、ほとんど映ってはいまい。けれど、
涙を溜め、潤んだ瞳に直人は目を奪われる。
直人もまた、既に限界だった。内部の熱い収縮に、気を抜けば流されそうになる。
このまま中に出すことを一瞬躊躇った直人は、
けれどぎゅ、と力を込められた腕に、考えるのをやめた。
そう、今更理性なんていらない。
余計なことは考えない。ただ、互いの熱だけを感じていたい―――。

「・・・いいんだな」
「あっ・・・、あ、ああ・・・っ・・・」

何度も押し流されそうな波に耐えてきた直也も、
流石にもう、限界だった。
堤防から水が溢れるように、一気に膨れ上がる熱が直也のすべてに襲い掛かる。
一瞬、頭の中が真っ白になった気がした。
そうして、目の奥で弾ける光。直視などできずはずもなく、ぎゅ、と瞳を閉じる。
訪れた快楽は、かつてないほどに大きく、激しかった。

「っあ、あああ―――っ・・・!!」
「直―――、也っ・・・」

どくり、と脈打つ鼓動が、互いに触れ合った素肌の胸から伝わってきた。
内部に更に熱を注がれる感覚は初めてだったが、
それでも嫌な感じはしなかった。直人の心を受け入れ、直人自身を受け入れた。
そのことは、直也にとって悦びだった。
そして、直人も、また。
弟という存在に手を出してしまった罪悪感と、
それ以上に大きな歓喜。無理矢理強いたのではない、合意の上だからこそ、得られる悦び。
共に感じ、絶頂を求めた相手は、
今は余韻に浸り、浅い息を吐いたまま動けずにいる。
無理をさせてしまった彼を案じるように軽く唇を重ねてやると、
それに応じるように舌を絡ませてくる少年。
またぶり返しそうになる熱を辛うじて抑えながら、直人はキスを続けた。
ゆっくりと味わって、そうして名残惜しそうに離してやれば、
互いの唇の間に伝う淡い銀糸。
内部に収めたままの腰を引く際にも小さく洩れる声音に、
直人は再び両腕で直也の身体を抱き締めた。

「・・・兄さん」
「直也。・・・・・・ありがとう・・・」

万感の思いを込めて紡がれる言葉。
直也は黙って受け止めた。そうして、僕も同じだよ、と囁く。
そう、本当に。
欲しかったのは、自分のほう。
誰かに襲われそうになる度に、それに拒否反応を示す度に、
無意識のうちに求めていたのかもしれない。
無節操に放たれる、人間達の即物的で醜い欲望ではなく、もっと高次元のもの。
真っ直ぐに自分だけを見てくれる存在への、淡い期待。
それを初めて自覚した今、もう、この腕を離すことなんて、できるはずがない。

「・・・もう少し、傍にいて」
「心配するな。もう、一生、俺はお前を離さない」
「うん・・・」

もう一度、直也の身体を抱え直してやれば、
薄暗い部屋の中、優しいだけの静寂が漸く訪れる。
朝にはきっと失われてしまうであろう安らぎも、今はまだ二人だけのもの。
兄の胸に抱かれながら、直也は、
今までで一番満ち足りた眠りを享受したのだった。





end.





Update:2006/07/30/SUN by BLUE

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