傍にいること。



吸血鬼殲滅部隊『月鬼ノ組』が、近々大規模な作戦に駆り出されることになると知ったのは
偶然にも、彼らが近々愛知に遠征に行くことになる、と話をしていたのを小耳に挟んだからだった。
そんな話聞いていない。柊家の情報網からも伝わってはきていないし、
もちろん『月鬼ノ組』の指揮官であるグレン自身からもだ。
となれば、相当の情報統制を敷いている作戦なのだろうとは思う。
だが、少将である自分にすら伝わっていない、その理由は、かなり意図的な意味があるのだろうとは
深夜は理解していた。
義兄のせいだ。
今更隠そうとしても無駄な話なのだが、義兄である柊暮人は
自分たちの関係を知っている。
ただの友人関係などという生易しい認識ではない。身体の関係であることは勿論、
厄介なのは、自分が―――
特に深夜自身が、あの分家のクズであるはずの一瀬グレンに
強く固執しているということを知られている点だ。

柊に対する反発心が強かった以前とは違い、今の深夜は基本的には柊の中に身を置くことに
抵抗はない。むしろ、世界が崩壊してしまったことで、かつての縦社会の力はそれほど強くなくなっている。
とはいえ、支配階級なのは変わりないから、そういう機会さえあれば
柊の敵に回る可能性もないわけではないのだが、
少なくとも自分から柊の敵に回ることは在り得ないと、自分では思っている。
そして、癪に障ることに、柊暮人もそれを正確に認識していた。
柊深夜1人であれば、盾突く確率は0%。
だが、一瀬グレンは違う。
彼が本気で動くのであれば、自分は確実に彼の側に付くだろう。少なくとも今はそう決意している。
だからこそ、自分に、今回の情報が伝わらなかったのだ。

「―――暮人兄さん」

深夜は、渋谷にある帝鬼軍官舎の暮人の執務室で彼が出てくるのを待っていた。
基本的に、暮人は自分が面会を求めても取り合わないことが多い(忙しいためそもそも時間が合わないという理由もあるが)ため、
今日は珍しく執務室にいることに安堵していた。
作戦決行予定の日まで、数日もない。
確認しておかねばならないことがあった。
廊下に待ち伏せていたらしい深夜を目にして、暮人は目を細める。
面倒だと思っていることは明らかだった。基本的に鉄面皮な彼は、グレンのように
あからさまに嘆息したり、肩を竦めたり、表情を外に表すことはあまりない。
特に、プロパガンダや反応を見る必要がない内輪の場面では尚更だ。
だが、養子とはいえ、義兄なのだ。深夜にだって、彼の考えていることは読めるつもりだ。

「『月鬼ノ組』を、愛知に遠征させるって本当?」
「ああ、そうだ」

深夜の予想通り、暮人は否定したり、事実を隠すことはしなかった。
逆に、遅かったな、とでも言うかのようにからかうような視線を向けてくる。相変わらず彼の前では、
自分がひどくちっぽけな、価値のない人間であることを強く感じる。
人間的に、ではない。
柊家にとって必要な人間か否か、という点に、である。

「近いうち、関西の吸血鬼たちが攻めてくるのはお前も知っているだろう?今回は先手を打つ」
「先手を打つ?吸血鬼の貴族相手に?馬鹿げてるよ」
「別にすべて倒せるとは思ってないさ。時間を稼いでくれるだけでいい。俺たちが準備をする間にな」

誰が見ても、明らかに成功率の低い作戦だった。
通常の人間から見て、7〜8倍は能力値が高い吸血鬼の、その中でもエリート貴族相手に、
いくら優秀なメンバーが集まっているからとはいえ
それでも『月鬼ノ組』100人だけで10人の貴族など倒せるわけがない。
それ以前に、敵側が団結すれば、一瞬で潰されるようなレベルで
深夜は顔を顰めた。誰の前でも余裕と笑みを崩さない彼が、今はひどく苛立ったような顔で、

「なにそれ。結局捨て駒って事?
 自分が好き好んで扱いにくいグレンを飼ってるくせに、そんな、」

無駄死にをさせる気なのか、と言おうとする。
だが暮人は、深夜の言葉を遮り、少しだけ口元を愉しげに歪ませた。

「捨て駒で終わる男じゃないだろう?あいつは。
 これでも俺はあいつを信頼しているよ。きっと吉報を持ち帰ってくれるとね」
「信頼って、どの口が言うんだか」

深夜は皮肉げに笑った。
暮人の信頼は、暮人自身にしかないのだと知っている。
相手ではなく、彼が見たもの、聞いたもの、判断したもの、それが彼の全てなのだ。
彼にとって、相手の行動が信頼に値するものかどうかが問題で、
無条件で相手を信頼するような事はしない義兄だった。
そんな彼が、グレンのどこを信頼しているかといえば、

「彼は仲間の死を無駄にはしない。
 たとえ刺し違えてでも、吸血鬼たちの戦力を削いでくれるだろう。それで十分だ」

結局、そうやって無駄死にをさせるつもりなのだ、暮人は。
深夜は彼の本音を見透かそうと、彼の瞳をじっと見つめた。だが、その光は揺らがない。
当然だった。彼はその座を約束された柊家の次期当主候補であり、
幼い頃からそうなるよう教育を受けてきた。
帝王学とは、上に立つ者が身につけるべき必須の技術だ。それを叩き込まれてきた彼は、
こんな所で本音を見透かされる程愚かではないだろう。
それでも。
深夜は、暮人のその鉄面皮に、あの分家の彼が戻ってくるのを期待する心を探す。
暮人が、こんな所で彼を手放すはずがなかった。
まだ、利用価値は山ほどあるはずだった。飼い殺しにして、柊のために働かせる方法は、いくらでも。
深夜は小さく嘆息すると、お手上げ、とばかりに両手を上げて見せた。

「・・・僕はグレンの所に行くよ。
 どうせここに居たって居なくたって一緒だろうし。代わりなんかいくらでも居るでしょ」

踵を返す。もう、話は終わった、とばかりに背を向ける深夜に、
暮人はひっそりと声をかけた。

「・・・・・残念だ。お前も少しは役に立つ人材だったんだがな」

その口元は笑っている。
だが、次の瞬間には唇を引き締め、振り返った。後ろには、従者の三宮葵。
彼女に二言、三言、言葉を交わした後、暮人もまた自室に戻るべく足を早めた。














―――グレンの所に行く―――
すなわち自分もまた、愛知の遠征組と行動を共にする、ということになるが、
とはいえ、自分1人が駆けつけたところで、戦況が大きく変わるとは思えなかった。
ただ、結果はどうあれ、狙撃組の自分がすべきことはただ1つだ。
白兵組が上手く立ち回れるよう、掩護すること。自分の場合は、
グレンがその全力を遺憾無く発揮できるよう、舞台を整えてやることだけ。
だがそれでも、必ず犠牲者が出るだろう。それも、きっと大人数。
手塩にかけて育ててきた家族を失った時、
優しすぎる彼は、それでも冷静に戦い続けられるのだろうか?

物思いに耽りながら宿舎の自分の部屋へと向かっていた深夜は、
しかし、自分の部屋のドアの前で動きを止めた。
開いている。
確かに鍵はアナログな差し込み型の鍵だったが、それでもそう簡単にピッキングできる代物でもないし、
深夜はそれに更に複数の幻術をかけ、侵入者を阻んでいるのだ。
これを苦もなく突破できる人間で、思い当たるのは2人しかいない。
だがその1人には、先ほど別れたばかりだ。
扉を開けると、案の定リビングのソファで、勝手知ったる顔でくつろいでいる男の姿があった。
一瀬グレン。
まさに脳裏に浮かべていた男の存在がすぐ傍にいたことに、深夜はなぜか安堵する。
だが、彼がはしたなく足を上げているガラスのテーブルには、
既に空になっているアルコールの空瓶が何本も置いてあり、しかもそのほとんどが、
自分の部屋のワインセラーに並べていたものなのだ。
これでは、いかな深夜でも、文句を言わないわけにはいかなかった。

「遅い」
「勝手に入ってるくせに、なんなのそれ?ってか、その酒・・・」
「柊様だろ。固いこと言うなよ」

呆れたように顔を顰めるが、グレンは意に反さない。
それどころか、手元の赤ワインを一気に飲み干すと、更に瓶を開けてはグラスに注いでいる。
周囲には既にアルコールの匂いが充満していて、
それほど量を呑むタイプではない深夜にとっては迷惑極まりない状況だったが、
その勢いは止まらない。自分が来なければ、更に倍の量も飲み干していたかもしれない。
いくら酒に強くても、その量はさすがに害になるレベルで、

「珍しいよね」

深夜はやんわりと彼の手元のグラスを押しとどめながら、彼の座るソファに乗り上げた。
普段はわざわざ自ら来ることなどほとんどないグレンが、ときたま自分の部屋に押しかける時は
相当溜まっているのだろうと結論付けて、
深夜は少し苦笑した。
余裕がないのも、当然だろう。
彼がこれから行くのは、帰って来られるか保証のない、それも首都のある関東から遠く離れた場所で、
しかし、彼はそれを自分に明かさず発つつもりなのだろうから。
それも、幾度となく命がけの戦いを続けてきた彼でも、今回の場合、勝算はごくわずかだ。
不安がないはずがない。けれど、それを表に出すような男ではないのも、
深夜はよくわかっている。
だから深夜は、
敢えて冗談めかした表情を作り、彼の膝を跨ぐようにして彼の首に両腕を絡ませた。
グレンは抵抗せずに、されるがままになっている。

「最近あんまり時間取れなかったから、寂しかった?」
「んー。まぁ少しな」

強がりな彼とは思えない、思いがけない素直な言葉と共に
躊躇いなく回される腕。間近に迫る紫の瞳には、いつもの鋭さはなくどこか虚ろで、
そうして、当然のように重なろうとする唇からはアルコールの匂いがする。

「・・・グレン、酔ってるでしょ」

顔を顰めながらも、けれど彼の腕から逃れるつもりはない。
きっと本当は、彼以上に、自分のほうが彼を欲しがっていると思う。
自分は彼についていくと決めた。
例え彼の向かう先に、どんな破滅が待っていようとも。けれど、
それは彼が望んだことではない、自分自身が決めたことだ。
だからここで、彼が伝えるつもりのない、次の任務の話を自分からすることは出来なかった。
したとしてもどうせ、来るな、と断られるだけだとわかっていたから。
彼が自分に話さないということは、そういうことだった。

「っ・・・は、んぅ・・・っ」

唇が重なる。すぐに絡まる舌。熱くねっとりとしたそれが、口内を蹂躙し、歯列をなぞるように這わされるだけで、
背筋がぞくりと震える。軍服を身に纏ったままだというのに、肌が粟立ち、代わりに下肢が熱を持つ。
こういう時ほど、今の自分の立場を歯痒いと思ったことはない。
彼の傘下にいないことへの距離感。『月鬼ノ組』に所属していたなら、無条件で彼の傍にいられたのに、
仮にも少将の地位に収まっている以上、率いねばならないのは別の部隊であって
間違っても、誰かの下で働く一兵卒ではいられないのだ。
少しだけ、義理の妹に当たる柊シノアが、羨ましいと思う。
自らの意思で昇進辞令を蹴り続け、あえてグレンの下についている彼女のような立場でいられたら
どんなに楽だったことか。だが残念ながら、
そんな身勝手な行動を取れば、柊家に利用されるためだけに養子にされた自分は
すぐに処分されてしまうだろう。
8年前、世界が崩壊したあの日、柊に絶対服従を誓ったからこそ、今自分はここにいられるのだ。
性急にベルトを緩められ、そうして彼の掌が引き出したシャツの中からするりと入り込み、素肌に触れてきた。
唇が軽く離れては、何度も何度も角度を変えて再び重ね合わされる。
その間にも、片方の指先では軍服の前を肌蹴させられて、シャツもまた、思わせぶりに下のほうからボタンが外される。
霞めるように、指先が胸元の小さな飾りに触れる。
そこは、彼の興奮に違わず、既にツンと立ち上がっていて、シャツ1枚越しに
朱く染まったそれが晒されていた。

「っは・・・、グレン、ちょっとがっつきすぎじゃないの?」
「お前が遅いのが悪い」

自分から不法侵入してきたくせに、しかも遅れた責任を取れ、などと恐ろしく身勝手な事を言うものだから、
深夜は呆れてものも言えない。グレンは本能の赴くままに自分の身体を弄んでいる。
骨ばった背筋を何度もくすぐるように撫でられ、肌蹴られたシャツの胸元に顔を埋められ、
舌でねっとりと朱く熟れた果実のような小ぶりのそれを嬲られれば、
早くも甘い声が口の端から漏れてくる。
既に、視界が定まらないまま、天井のシャンデリアを見上げていた。
すると、熱い舌が肌の上に濡れた道を描き、そうして浮き上がった鎖骨を舐め上げる。
唇で強く吸い上げられ、一瞬の痛みと共に、陶磁のような肌に刻まれたのは、誰が見ても明らかな所有印。

「ちょ・・・と、痕はやめてよね・・・」
「首筋じゃないんだ、バレないだろ」

小さな歯型と、充血したような痕。深夜が抗議するのも構わず、気が赴くままにいくつもの痕を残していく。
確かにきちんと軍服を着こんでいれば隠れて見えない箇所ではあるが、
戦場に出ればどんな結末が待っているかわかったものではない。だから極力こういうキセイジジツはやめてほしいのだが、
そんな文句を聞いてくれるグレンではなかった。やめてくれ、と首を振り訴えるも、
それでも深夜は、強引に自分を求めてくる彼にひどく欲情してしまった。
下肢はぴっちりとした軍服の前を苦しげに押し上げていて、既に下着にシミを作っている。
布越しに先端をゆるゆると撫でられると、いよいよ欲望が抑えきれなくなる。
正直な身体が、欲しいと訴える。
早く触れて欲しい。脳天を貫くような鋭い快楽と、
身体の中が満たされるような、内部を犯される重く深い快感を感じたくて、
震える手で、己の前を緩める。ジッパーを下ろし、解放された己自身に指を絡めようとして、

「自分で勝手に愉しむつもりかよ?」
「っ、」

腕を、抑えられた。芯を持ち始めている彼の欲望は、
今にも触れて欲しそうに頭を擡げているのに、それを遮られ、深夜は悔しげに顔を歪める。
熱い吐息を漏らしながら耐えていると、グレンは捕らえた深夜の右腕を今度はグレン自身の下肢に導いていく。
求められていることは、深夜にはわかっている。震える己の下肢を耐えながら、
男の前を緩め、こちらも上向いている彼の雄を手の中に包み込む。
快楽を引き出すよう、己自身でするときのように擦ろうとして、

「口でやれ」
「・・・・・・横暴」

さすがの深夜も、ひくりと青筋が浮かんだ。
口の端が歪む。本当に昔っから身勝手で、偉そうで、上から目線で、
何よりグレンの態度が、絶対に自分が反抗しない、と当然のように思っているところが
非常に悔しいと思う。
腹いせに、手の中のそれをぎゅ、と力を込めてやれば、
小さなうめき声と、触れられないまま先走りを零していた己自身の先端に、きつく爪を立てられた。
それまでの快楽を一瞬忘れるほどの、突き刺すような痛み。爪を立てたまま、ぐりぐりと鈴口を抉るように刺激されれば、
気持ち良さよりも激痛のほうが先行し、深夜は思わずぎゅ、と目を瞑る。
情けないことに、こういう場合、いつだって折れるのは深夜だった。
早く快楽を欲しがる身体は、痛みを享受することを良しとしないのだ。
ソファから降り、グレンの足の間に跪いて下肢に顔を埋めた。初めてではない。付き合って何年になるだろう?
こうやって半ば無理矢理奉仕させられることなんて日常茶飯事。
舌先で筋に沿ってなぞるようにしながら、たっぷりと唾液を溜めて亀頭を唇に含む。
左手で支え、深く呑み込んでは、苦しさに涙目になりながらも、何度も舌先で肉茎を擦ってやる。
と同時に右手は、先ほどからオアズケばかりさせられている己をグレンの見えないところで擦り始めていた。一気に、全身が総毛立つ様だ。
男の手が、己の頭に添えられる。優しく撫でられるのかと思ったのは一瞬で、
ぐい、と髪ごと頭を掴まれ、そうして彼のいいように揺さぶられる。
抗議しようとするが、涙目で彼を恨みがましく見つめてみても、彼はにやにやと笑うばかりで、
逆に口内の雄に熱が篭る結果に繋がる。もう、反抗する余地などどこにもなかった。

「・・・っん、ふ・・・―――う、・・・っ」

下肢が疼く。
自分の掌で前を擦りながらも、今、己の口内で力を増しているそれが、
己の内部を貫いた時のことを思い出して、鼻に掛かった吐息が漏れてしまう。
早く入れて欲しい。
欲しくてたまらなくて、膝が震えてしまう。深夜の、もう既に泣き濡れた瞳の端からは、一筋、二筋涙の痕が残っている。
淫らに歪んだ表情のままぼんやりとグレンを見上げれば、
男は、愉しげに己の雄から唇を離させ、深夜の細腰を支え、ソファの上に引き戻した。
背を抱えながら、双丘に隠された目当ての場所を指先で拡げる。
大分慣れたとはいえ、さすがに準備もなく奥を貫かれたら切れる可能性が高い。だから、
グレンが自身の指先を3本、己の口内に容赦なく突っ込んで来たとき、
眉を顰めながらも、深夜は丁寧に舌で舐め始めた。
指の腹、関節から指の付け根まで、相手の官能を煽るように何度も唾液を絡ませる。
グレンは満足げに目を細めた。ねっとりと濡れた指先を窄まった箇所に宛がい、じわりと中へ入り込む。
入り口の襞は、かすかな抵抗の後、侵入者を悦ぶようにきつく締め付け始めた。
熱い肉を押し返すように指を使い、内部を広げていく。時折、内部の奥の、深夜の快楽の根源に指が当たり、
そのたびに耐えられなくなる。早く、
早く貫いてほしい。太いそれで満たして欲しいと思ってしまう。
男に慣らされた身体だという自覚はあった。
それを甘んじて享受したのは、自分だということも。

「はや・・・く、欲し・・・っ」
「インランだな?」
「っ誰のせいだよ・・・」

俺だろ、といつもの自信家でエラそうな声音が耳元で聞こえてくるのと同時に、
ぐっと容赦なく狭い箇所を押し広げてくる、熱塊のような楔。力を抜けば楽なのはわかっているのに、
どうにもこの瞬間ばかりは苦手で、深夜は唇を噛み締めて耐える。
ナカが、灼けそうに熱かった。じわりじわりと奥を犯してくるものだから、嫌でもそれをぎゅ、と締め付けてしまう。
間近にあるグレンの表情は、自分ほどではなかったが、先ほどよりは熱を帯びていて、
深い色の紫が更に濃い色に染まっていた。己の乱れた表情を、間近でじっくりと見つめられていることに気付いて、
深夜は思わず顔を背けてしまう。けれど、
舌を頬に這わせ、口の端から唇まで軽く舐められるだけで下肢から指先まで痺れるような快感が走り、
自分の身体の全てが、グレンの支配下にあることを嫌でも感じる羽目になっていた。
重力に負け、身体の奥までびっちりと男の雄を受け入れてしまえば、
苦しさと共に、不思議な充足感がこみ上げてくる。
深夜は、少しだけ笑った。
ようやく、欲しい物が与えられた気がして。
少しづつ腰を動かせば、控えめな自分の動きとは打って変わって、グレンの腰をつかったグラインドが
内部の粘膜を擦り、頭が真っ白になるような陶酔感が一気に強まっていく。
合わせる様に腰を揺らせば、粘着質な水音が後から後から溢れてきて、鼓膜すら犯していく。

「ぁあ、あっ・・・グレン、もっと、強く・・・!」
「・・・深夜」

理性が磨滅して、ただ、欲望だけが暴走する。
グレンの、深夜の腰を掴む力が一層強まり、奥を貫く動きが激しさを増す。
楔が最奥に当たる度に、漏れる声音を抑えきれずに、このときばかりは深夜は、
普段は絶対に出せないような甘い声を洩らし続けてしまう。

「もう、イかせ・・・っ・・・」
「限界なのか?」

声もなく、必死に頷く男の背を掻き抱いて、腰を抱え直し、そうして
彼の一番感じる部分を狙って楔で擦り上げれば、
最初に脱落したのは、深夜だった。
びゅる、と音がするほど飛び散った精液がグレンの胸元のシャツを汚し、
そうして内部は規則的な痙攣を繰り返す。
それに導かれるようにして、グレンもまた内部に己の精を解放すると、一呼吸の後、
彼は深夜を抱きかかえたまま囁いた。

「・・・まだ、足りない」
「・・・・・・ん。知ってる」

僕も、と力なく笑ってみせれば、
今だ内部に収まったままの男の雄が、少しだけ熱を取り戻し始める。
まだ、夜は長い。
今は何も考えず、目の前の男だけを感じていたい。
深夜は、互いの熱を再び煽るように、唇を重ね、そうして舌を絡ませたのだった。















「・・・で、本当どうしたの、今日は」

いつもよりも激しく、繋がったままの時間も長かったためか、
深夜はぐったりとベッドに沈み込んでいた。
意識が途切れたわけではないが、当分は動く気力もない。幸い、明日の朝は2人して急ぎではなかったから、
まぁ夜更かしをするのは問題はないのだが、

「・・・別に」
「今更そりゃないでしょ」

と、突っ込みを入れてみる。
だが、グレンがどう切り返してくるか、深夜には想像できなかった。
わざわざ自分の部屋に来た、というだけで、普段ならば、何か特別な理由があると思って当然で、
だからこそ今回、彼が真実を隠すつもりならば、本当は来るべきではなかった。
それでも、どんな理由にせよ、彼から自分を求めてくれたのは深夜にとっても非常に嬉しかったのだが。
本当はもっと触れて、繋がっていたいとすら思う。
だが、今はお互い、言えない言葉をひた隠しにしていたから、簡単に素直にはなれなかった。
それが、ひどく歯痒かった。

「・・・また、少し遠征に行ってくる」

どきりとした。
もしグレンから真実を告げられたら、自分はどう反応すればいいのか、少しだけ悩む。
軽い口調で勝利を祈るべきなのか、引き留めるべきなのか。
自分を同行させてよ、と告げるべきなのか、それともこっそり行くべきなのか。

「遠いの?」
「・・・・・・いや、近場だ。せいぜい1週間くらいだろ」

―――嘘だ。
深夜はグレンの見えないところでひっそりと笑った。
やはり、言わないつもりなのだ。
自分が、名古屋に遠征に行くことも、それがおそらくは長丁場であることも、
更にいえば、戻って来れる確率も、今までとは違い格段に低い事も―――

「ま、グレンなら大丈夫でしょ。さっさと倒して新宿の時みたいにカッコよく帰ってきなよ、英雄様」

だから、敢えて深夜は軽い口調で、彼の言葉を疑わないふりをした。
けれど、本当は真実を知っていたから、それを思うとひどく不安だった。それが表情に出ないようにと、
目の前の男の胸に顔を埋めた。
セックスの後だけは、グレンは意外なくらい優しかったから、
少しくらい甘えても罰は当たらないだろう。抱き留める腕と身体の熱がひどく心地よくて、
けれどこれが当分味わえなくなることが少しだけ、辛かった。
本当は、当分、どころではなくなるのかもしれないが―――
今はもう、何も考えたくなかった。
ただ、自分が駆けつけて、必ず戦況を打破し、切り開いてみせる、と強く決意した。

「・・・深夜」
「なに?」
「・・・・・・いや、なんでもない」

歯切れの悪い彼の口調の理由を、深夜は知っていたから、
もう、敢えて聞かないことにする。
ただ時間が許す限りこうして、彼の温もりに包まれていようと、
より一層、彼にしがみ付く腕を強めたのだった。





end.










・・・渋谷の作戦がどんなものか、深夜が知っているか知っていないかで
ちょっと話が変わるかも。妄想ですみません。
そして、書いてる途中、アニメPVの発表日がありました。
グレン様の目の色が、小説と漫画のカラーページだとはっきりしなかったんで
紫だとわかって非常に満足です。紫電と紅蓮は鬼の色だね♪




Update:2014/12/21/SUN by BLUE

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