命を賭しても。後編



「で、少しは進展があったわけ?」

暴走した『鬼』から漸く自身を取り戻したばかりのグレンを見上げながら、
深夜は簡単に肉欲に流されそうになる自分を抑えるのに必死だった。
もう、既に上半身は肌蹴られた状態で、地下のひんやりとした空気に顔をしかめる。
仰向けになったままの自分の上に乗り上げる男は、
顔を胸元に埋めたまま、歯を立てるようにして胸元の敏感な部分をしつこい程責め立てている。
既に朱く腫れ上がったそこにねっとりと舌を絡めながら、膝で下肢の中心を弄られて、
深夜はぶるりと身体を震わせた。
無意識に、膝が立ってしまう。病み上がりで、まだ体力も戻っていないのに、
男を求める欲望だけが膨れ上がる。これも、鬼を暴走させ、その能力を研究するための
この部屋に仕込まれた呪術のせいなのだろうか。

「さぁ、どうだろうなぁ。
 とりあえず、完全に意識を奪われて制御できなくなるってことはなくなった」
「・・・さっきは思いっきり『鬼』だったけど」

グレンの説明は、そのせいで死にかけた深夜としては非常に納得のいかない内容で、
深夜は唇を尖らせる。
そもそも、制御出来るようになったというのなら、早めに自分の呼びかけに応えてくれても
よかったじゃないか、と文句を言うと、

「あいつは研究には非協力的だからなぁ。飽きたんだろ」
「で、外出て僕を殺そうとした?」
「餌がのこのこ入ってきたら、そりゃあ喰い付くんじゃないか?」
「あー、わかったよ。勝手に入った僕が悪かった。―――それでいいんだろ?!」

グレンの、まるで心配した自分が馬鹿だ、とでも言いたげな科白に
非常に腹が立った。まともに身体を動かせる状況だったら、このまま蹴飛ばして
目もくれず去ってしまいたい位だったが、残念ながら身体は正直だ。
はは、とグレンは顔をあげて笑った。
鬼のようだった赤い瞳は、今ではいつもの紫がかった優しい色をしていて、

「・・・むかつく」
「でも、待てなかったんだろ?」

ココが、と下肢を布ごしに掌で捕えられ、声が出そうになるのを必死で耐える。
グレンはにやにやと自分を見下ろしたまま、当然の権利のようにベルトを緩めてくるのだが、
その勝ち誇ったような顔が気に入らない。
誰も、10日間オアズケを食らったのが辛くて逢いに来たわけでもないのに、
こうして安直な快楽で誤魔化されてしまうのが悔しかった。

こんな、本当に役に立つかもわからない実験のせいで、もし彼が二度と戻ってこなかったら。
そう考えると、今だって胸が締め付けられるように痛む。
勿論、馬鹿な想像だとわかっている。そんなこと、万に一つもあり得ないことも。
けれど、こんな壊れた世界で、何が起こっても不思議ではなかった。
柊に対する、自分の中の、ちっぽけな反抗心や野心を全て捨てて、プライドも金繰り捨てて、
自分は8年前、グレンに付いていこうと決めた。
そしてそれは今でも変わっていない。
柊の養子、それも今となっては何の存在価値もない養子として陰口を叩かれ。
そして更には反抗的な一瀬のクズと親しいのだから、自分が嫌われ者扱いされるのは当然の流れだった。
それでも、今だに柊の名にしがみついているのは、
柊家であることの絶対的権力や特権を維持し、高い階級にいることで、
いざという時にグレンや仲間たちを守るためだ。
自分の全てを賭けてもいいと思える存在だと、そう思ったから。
だからこそ、彼と肩を並べてここまで来たのに、
こんな所で彼を失うわけにはいかなかった。
だから、ここに来た。
たとえ自分の命を危険に晒してでも、彼を取り戻したいと、そう思ったからここに来たのだ。

「・・・言っとくけど、僕はこんな事、」
「したくないって?」

男は面白そうに自分を覗き込んでくる。
視線を絡ませたまま、下肢は簡単に彼の掌に囚われてしまっていて、
自分の意志とは無関係に、目の前の男の愛撫に反応してしまう身体に苛立ちすら覚える。
もっと強い快楽が欲しくて堪らない己を戒め、深夜は両手で男の襟首を掴み、そうして引き寄せた。
唇が触れ合う程間近にある彼の怪訝そうな顔を見つめ、

「ふざけるなよ。僕がどんな気持ちで―――・・・」

だが、不意に語尾が震えてしまい、深夜は慌てて目を逸らした。
目頭が熱い。まさか自分が泣きそうな程に彼を失うことを恐れていたなんて
自分でも意外過ぎて。つくづく馬鹿な話だと自嘲する。
これ以上自分の本音を追及すれば、今以上に情けない姿を晒す羽目になる。そんなのはごめんだった。
これでも、彼に対抗心がないわけではなかったから。
だが、その一瞬の動揺を、こんな間近にいる彼が気づかぬはずもない。
半ば強引に顎を取られ、涙を滲ませた瞳を見つめられる。
それは、普段はあまり見たことのない、ひどく真摯な色合いをしていて、
更に溢れそうな涙を必死に耐えた。

「・・・悪かった。」
「・・・・・・・・・ばか」

震える声音を必死に抑えて、深夜はただ、それだけ言った。
目を細めて頬を撫でてくる男の顔を直視できず、顔を背ける。
ふと、下肢を圧迫していた男の重みが軽くなり、ベッドがギシリと音を立てた。
シーツに縫い止められていた手首も緩み、手足に自由が戻る。
身体をずらし、ベッドの端に腰かけた男を、惚けたように見上げると、

「・・・まだ、本調子じゃないだろ。医務室に連れてってやるよ」

そんなことを言い、グレンは肩を竦めて立ち上がった。
貫かれた背はまだ痛みがあったが、大量に血を失った彼のダメージほどではない。
床に放置されたままの刀を拾い、そうしてグレンは鉄格子のドアを開けた。
この部屋に仕込まれた鬼を中に閉じ込めるための呪術は、元々彼自身が練り上げたものだ。解呪は難しくない。
全てを解放してしまった後、再度、ベッドで今だにぐったりと身を預ける男に近寄る。
あまり負担をかけぬよう腕を引き、男の身体を抱えようとしたが、
深夜は首を振った。
まだ、身体が熱かった。
中途半端に高められた身体は、簡単には収まりそうにない。
けれど、先ほど彼を拒否ったのは他ならぬ自分だったし、今さらそれを訴えるには遅すぎて。
唇を噛み締め、慌てて彼から背を向けた。
まだ上半身の衣服は肌蹴られていて、下半身も中途半端に緩められ、ベルトも外されているのだ。
恥ずかしいことこの上ない。
だが、グレンは心配げに覗き込んでくる。
あまり表情や口には出さないが、
自分のせいで傷つけてしまったと自覚しているのは明らかだった。

「辛いのか?」
「別に・・・いいよ、医務室とか。少し休めば治る。ていうか、まだ動きたくない」
「こんな辛気臭いとこで休んでてもしょうがないだろーが」

こんな陰気で、錆びたような血の匂いが染みついた地下の修練場は、
間違っても身体を休める場所ではない。
意地を張っているのか、頑なに男の言葉に首を振る深夜に、グレンは呆れたように見やり、
そのまま強引に身体を抱え上げようとして、

「っあ、・・・!」

思わず、鼻にかかったようなヘンな声が自分の口から漏れてしまい、深夜は慌てて口元を抑えた。
身体を抱え上げられ、そのまま正面から抱くように身体を起こそうとした際に、
図らずも、彼の身体で深夜の中心、まだ熱の収まらない敏感な箇所を刺激してしまったのだ。
深夜は羞恥に顔を真っ赤に染め、そうして次に、グレンの顔を見て青ざめてしまった。
彼は実に不穏な目つきで、自分を見つめていたからである。

「・・・ふーん」
「っ・・・な、んだよ・・・仕方ないだろっ!?」

今度こそ、言い逃れできない状況で、深夜はひどく狼狽えた。
彼の紫電の瞳が、ひどく獰猛な色合いを強めている。引きつった笑みを浮かべ、
無駄だとわかっているはずなのに、思わず後ずさろうとして、
けれど簡単に足首を掴まれ、引き寄せられる。抵抗する間もなく、今度こそ下肢を覆うボトムを脱がされて、
更には下着まで奪われる。その時間実に3秒。
あっという間に、靴下以外のすべての下肢の衣服を取り上げられて、
深夜は今度こそ寒さにぶるりと震えた。
だが、もう逃げられない。
両足を抱え込むようにして捕えているのは、まさに目の前の男―――グレンだったから。

「やっぱ、して欲しいんじゃねーか」
「違―――っ・・・!」

必死に否定してみるものの、その言葉に全く信憑性がないことは
深夜も分かっていた。だから、これはただの羞恥心を誤魔化す言葉に過ぎない。
下肢を晒して、男を欲しがって中途半端に芯を持ち始めているそれを目の前に晒されて、
今度は別の意味で泣きそうに顔を歪めた。
がっちりと両足を捕えたまま、グレンは身体を屈める。
直視できずに思わず目を閉じると、けれど次の瞬間、冷たい空気に触れていたはずのそれが
生暖かく濡れた感触に包まれていた。

「っ・・・あ、何を・・・っ!」

薄目をあけて、愕然とする。グレンの頭が、自分の下肢に埋められていて、
ましてや、己自身が彼の口内に包まれていることに、信じられない思いでそれを見つめてしまう。
グレンが自分からこんな事をしたことなど、今までにあっただろうか。
自分から彼を誘おうとしてしたことや、強要されたことならいくらでもあったが、
彼が自分の・・・を咥え、奉仕してくれることなんてなかったから、
釘付けになる。伏目がちな瞼や、長い睫、濡れた舌が裏筋を這い、そうして敏感な亀頭を唇で包んだかと思うと、
下肢の根本に長い指が絡み付き、口内の奥へと導かれる。
深夜は一気に自身を昂ぶらせた。
耐えられるものではなかった。簡単にイきそうになり、焦ったように深夜の腕が彷徨う。
彼の指先がグレンの頭に触れ、思わずぎゅ、と握り締められた。
震えるそれは、無意識に男を引きはがそうと力が篭るのだが、もちろんグレンがそれを許すはずもなく、
それどころか、彼の舌遣いが激しさを増すばかり。
時折上目遣いに自分を見上げてくる男の視線が絡み合い、ぞくりと背筋が震える。
ぴちゃぴちゃと、卑猥な水音が、陰湿な、コンクリートの壁に響き渡る。
そうして、更には、口の端から漏れる甘ったるい声音。
自分が出しているとは信じたくなくて、必死に唇を噛み締めて耐えるのだが、
端々から漏れ出す吐息に声が混じってしまい、そのたびに深夜は身が千切れるほどの羞恥を覚えるのだった。

「グレ・・・もっ、やめ・・・っっ」
「っは・・・イきたいなら、イけばいいだろ?」

グレンは愉しげに、深夜のそれを咥えたままからかうように告げる。
舌に感じる苦味が、彼の感じている様を表している。口内を圧迫するそれはそろそろ限界らしく、
グレンは目を閉じてラストスパートをかけていく。
深夜は仰け反り、白い喉を晒して喘いだ。
一層、グレンの髪を掴む指先に力が篭り、グレンを足の間に置いたまま、
両足が震え、緊張したようにぎゅ、と彼にしがみつく。
やめろ、と言う割には、身体は素直に自分を求めていて、それが非常に心地よかった。

「っ・・・あ、も・・・イく・・・っ」
「いいぜ、飲んでやるよ」
「あ、や、やめ・・・っ―――!」

解放を促すように強く吸われ、一瞬、頭が真っ白に染まる。
何も考えられなくなり、指先が痺れる程の強い快楽に支配され、深夜は下肢を痙攣させた。
びくびくと、無意識に反応してしまう身体と、それに合わせて吐き出される情欲。
グレンは、眉を顰めながらも彼の総てを呑み干した。
男の喉が動き、自分の劣情が嚥下されていくのを深夜は信じられない思いで見つめる。
精を吐き出してなお、完全に熱の収まらないそれを、
グレンは舌でくすぐるように余韻を残しながら漸く解放させた。
己の口の端についた精液の残滓を手の甲で拭い、そうして放心している深夜の顔を覗き込む。
既に深夜は、ぼんやりと正面を見つめるだけで、まともに目の前の男を認識できていない。
乱れた白い髪と、そうしてはぁはぁと息をついたまま、開けっ放しの唇。
グレンは再び彼を唇を塞ぎ、乾いた口内を舌先で蹂躙していった。
深夜の力の抜けた両腕が、グレンの背に回される。
再び立てられた膝が、再度グレンを求めるように押し付けられ、
グレンは苦笑した。
本来ならば、一度でも解放すれば、それなりに欲が収まるはずの行為なのに、
貪欲に快楽を求める姿は、まさに欲望に溺れ、堕落した人間そのもので、
引き摺られる。
欲望に忠実で、抑えることを知らず、その本能のままに生きる―――
それは、人間を捨てず、理性ある人間として生きるためには、
ある程度自分を律していかなければいけないものではあるのだけれど。
幸い、今はたった二人きりの空間だ。
男同士だというのに、何をくだらない事をやっているんだ、という自問自答をしていた時代はとうに過ぎ、
それなりに利害の一致した関係だと割り切ってる。
好きだとか嫌いだとか、そういう範疇ではなく、
今ではただ、当然のように傍にいて、当然のように背を預けられる存在で、

「深夜」
「っあ・・・」

もうそろそろ、こちらも限界。
ほとんど乱れていない軍服の下、彼自身は既に存在を主張しており、
ガチャガチャと、乱れた息のまま少し焦ったようにベルトを緩め、そうして前を解放する。
それは、誰が見ても明らかに反り返っていて、恐ろしい程。
今更ながら深夜はそれを見て、青ざめたようにひきつった笑いを浮かべてしまった。

「ちょ・・・マジかよ」
「欲しかったんだろ。ここが疼いて仕方がないって顔に書いてるぜ」
「っば・・・!書いてるわけないだろ!!」

濡れた指先で、ずい、と容赦なく内部を掻き回される。
だが、今の深夜の身体は、既に教育されていたから、痛みどころか、快楽を欲して侵入者を締め付けてしまう。
確かめるように前立腺の裏側を擦られて、今度こそ、身体を支えていられない。
嬉々として男を見下ろす視線が、とにかく恥ずかしかった。
彼の表情は、ひどく欲望に満ちていて、普段の彼のそれとは全く違う色に染まっていたから、尚更。

「っは・・・、ねぇ、」
「あ?」

ぐり、と内部を3本の指で抉られて、息を詰める。

「お前さ、本当にグレンなの?」

深夜の問いに、グレンの瞳が一瞬きらりと光った気がした。
だが、特に表情は変わらない。グレンは面白そうな笑みを張りつかせたまま、
男の両足を抱え上げ、そうして上から抉るように己自身で内部を貫いた。
ぐぷりと、大して潤滑油も使っていないというのに、ひどく濡れた音。
胸に張り付く程まで下肢を持ち上げて、そうして押し付けるようにして中深くまで侵入していく。
視界に映る、あまりに非現実な、けれど非常に欲望を煽る姿に、
自分自身すら欲情してしまった。
もう既に先程解放されたばかりの雄が張りつめ、腹に付くほど。
肌を汚すほどに先走りを零しているのだから、どうしようもない。
男に煽られ、これほど情けない乱れた姿を見下ろされ、
それでも深夜は、最後の意地で、グレンを見上げて笑みを浮かべてみせる。

「ナカ・・・すごく、いいでしょ」
「自分で言うな」

苦笑する。更に腰を抱え上げ、上から押し付けるようにして貫かれれば、
止まらない嬌声。もう、既に喉がやられ、声が掠れて痛む程なのに、漏れてしまう声音はどうしようもなかった。
更なる快楽を引き出そうと、自ら下肢に力を込め、
グレンの雄を締め付ける。快楽に耐えるように眉を寄せ、腰を引かれると、
全身がぞくりと震え、擦られる感触と、喪失感に酔わされる。
満たされる充足感と、そのせめぎ合いに溺れ、
深夜はまたもや先に脱落してしまった。
胸元の素肌から喉、口元、顔にまで飛び散った精を指で掬いながら、
グレンもまた、内部の強い締め付けに促されるように、深い部分に、己の精を吐き出してしまう。
奥に叩きつけられる熱い感触が、ひどく心地よくて、
もうしばらくの間、動きたくなかった。
目の前で己を抱きしめる男の背に両腕を絡ませ、そうして目を閉じた。

「あーなんだ。・・・とりあえず、腹減ったなぁ」
「・・・僕の血あんだけ吸ったくせに、腹減ったとか有り得ないんだけど」

嫌味を言ってみるが、既に人間に戻ったグレンにとっては、
この数日、飲まず食わずでいたのだからかなり辛いのかもしれない。
だがそれは、こんな長期間に渡る自己対話をしたことのない深夜には想像もつかないもので。

「・・・僕も、時雨ちゃんの手料理食べたいな」
「さー、どうかねぇ。
 時雨がお前の分も作ってくれるかどうかはお前次第だろうさ」

肩を竦める。
深夜もまた、8年前、グレンと自分が関係を持ち始めたばかりの頃、
彼に想いを寄せる従者の1人である時雨が、自分に対して刺すような視線でにらんでいた頃を思い出して、

「いやー、まぁ、今回はグレンを引き戻したっていう恩を売るから」
「ま、勝手に頑張ってくれ」

グレンは、彼を抱えたまま身を起こした。
熱がぶり返しそうな感触に、深夜は唇を噛み締めて耐える。だがしかし、
グレンの腕に引かれるままに身を起こしてしまえば、
今度は自分が彼の上にまたがるようにして、深々と下肢を繋げていることに気づいてしまう。
この期に及んで、こいつはまだ欲望を持て余しているのか、と
信じられない思いで見つめると、

「ま、折角だからもう1発くらいヤらせろよ」
「・・・変態」

溜息をついて、腰を揺らす。
どれほど反発していても、結局彼を失えない自分に、
深夜はひそかに自嘲し、再び熱い吐息を漏らしたのだった。





end.





お疲れ様でした!!
グレン→深夜様、のフェラが書きたかっただけです(自爆)
あまりに俺様攻だと、なかなか、攻めが受けに奉仕してあげることってないんでw
貴重なシチュエーションでした。ひゃっほー★






Update:2015/03/28/SAT by BLUE

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