パブロフの犬



「・・・っあ、グレ・・・も、時間・・・ぁ、」

室内の片隅で、聞くに堪えないような甘い声が響いていた。
一瀬グレンの、渋谷の執務室。
彼専用のその執務室には、彼の従者も、補佐官も、秘書すら誰も置いていなかった。
彼らが来るのは、よほど急務の時と、グレン自身が呼んだ時だけ。
それは、グレンが、執務室を空けることが多々あり、来てもなかなか会う事が出来ないからだ、と
表向きには言われているが、本当のところは全く違っていた。
そして今まさに、その理由が室内で展開されていた。

「っ・・・う、くっ・・・そ、も・・・や・・・っ」

既に悲鳴のような泣き言を発しているのは、柊深夜。
この、日本帝鬼軍の少将である。
少将ともあろう者が、何故この、一瀬グレンの執務室でこんな嬌声を上げているのか、
無論、彼らに親しい一部の者は彼らの関係を知っている。
だが、それを公にするわけにはいかない。柊の人間が、
階級も下の同性、しかも分家などという身分の違う人間にいいようにされている、などという噂は広まるわけにはいかなかった。

「や、め・・・もっ、イかせ・・・っ」
「やだね」

自分の上官を犯す男は、自分の腕の中で快楽に惑乱する様子を嬉々として見やる。
彼が捕えたままの男の雄は、替えの肩紐で根元をきつく結ばれたままで、これでは解放したくとも出来ない。
そんな状態で、下肢の奥を、最奥を熱のない、無機質な玩具で弄ばれている。
ぐりぐりとグレンの手で奥を抉るように動かされて、あまりの苦しさに意識すら飛びそうだ。
だが、そんなわけにはいかない。
あと10分を切ってしまったが、今日は上層部会議で、深夜も、自分を犯す男も、当然、参加しなければならなかった。
一度、本気でサボったことがあるのだが、あの時は羞恥以外の何物でもなかった。
最中の自分たちを呼びにきたのは、五士だった。
彼も、災難だっただろう。グレンと深夜のことは彼らが出会った頃から知っていて、もちろん薄々は気付いていた。
気付いていたが、女好きの彼が間違っても目撃したい場面ではなかっただろうに。
けれど、目の前で裸に剥かれ、いきり立った男根を獣のような格好で貫かれ、犯されて身も世もなく喘いでいる姿を見れば、
男ならば反応しないはずもないだろう。
その後しばらく、彼は自分の顔を見る度に欲情していた。
もちろん、顔を逸らして堪えていたが、男の情欲を何年も受け止めていれば、
嫌でもその雰囲気が伝わってきてしまう。そして、それを感じて自分もまた、下肢が疼くのだ。
まるで、条件反射のようだ。
何度も何度も、自ら求めるように仕向けられてきた身体は、己の欲望を抑えることができない。
思わず、自分を犯して欲しくて求める言葉が喉まで出掛かるほど。
完全に、作り変えられてしまった。
男の雄を銜え、屈辱に堕とされて悦ぶ、哀れな牝奴隷に。
と、グレンは不意に己を抱く腕を離し、そうして壁に押し付けていた拘束を解放した。
今にもイきそうな、こんな極限まで高まった状態で、手放されるなんて、深夜はどうしていいかわからなくなる。
縋るように男の顔を見やる。けれど彼は、先ほどまでの熱情をすっかり忘れたような冷静なカオをしていて、
深夜は絶望した。
このまま、身体を熱に浸したまま、会議に出なければならない恐怖に身体が震える。

「ぁ・・・」
「・・・これ、出すなよ?」
「っう・・・く・・・!」

真顔のグレンが、深夜の下肢を犯したままの男性器の張り型を、更に強く押し込んで、すっかり中に収めてしまった。
前立腺を強く抉られ、太いそれが更に己の内部を侵していく。吐き気すらしそうだ。
内臓を押し上げられるそんな感覚に、深夜は青ざめる。
だが、グレンの言葉は絶対だった。
逆らうわけにはいかない。自分は、彼の下僕だった。もう、何年も前から。
高校時代の頃から、深夜はグレンに囚われたまま。
もう、力もろくに入らないまま壁に崩れ落ちそうになる身体を、しかし深夜は、必死に動かして
床下に投げ捨てられたままの軍服を着替え始めた。










彼に囚われたのは、忘れもしない、1年も続かなかった高校時代の、その5月の頃だ。
8歳の時から柊真昼の恋の隠れ蓑として生きてきた。許嫁であるはずの彼女の、本当に想いを寄せる相手がどんな人間か、
気にならない男はいないだろう。
手に入らない故の嫉妬心が、純粋な興味に変わるまで、そう時間はかからなかったように思う。
いつか出会うその時を夢想し、その瞬間のために修練を積んできたといっても過言ではない。
だが、実際は。
―――正直、全くの期待外れだった。
この数年間、知らない男の背を追ってきたことにすら後悔した。それくらい、
彼は卑屈で、無力で、文字通りクズそのものだった。それでも、彼をすぐに見限ることができなかったのは、
柊の中でも、深夜は自分の居場所を見つけられなかったからだ。
彼に、自分の人生を賭けていた。自分の、未来を。
だが、もちろん、彼にしてみればいい迷惑以外の何物でもなかっただろう。
自分が期待外れだったからといって、彼が責められる必要はない。すべて、自分の身勝手に過ぎないのだから。
そう、ムリヤリ思い込もうとしていた。
だが、その矢先―――
それは、起こった。
<<百夜教>>が、あの柊の学校を襲ってきたあの日、自分は見てしまったのだ。
彼の圧倒的な強さを。野心のためにすべての屈辱に耐え、道化を演じてきた彼の本当の顔を。
あの時の衝撃と言ったら、今ですら深夜は語る術を持たない。
思い出すだけで、ぞくりと身体が疼く。
彼への執着を忘れ、なんとか新たな生きる目的を探そうとしていた、まさにその時だったから、
まさに一気に心臓を鷲掴みにされた様。
あの、強い光を湛える紫の瞳に射抜かれ、下僕になるか、と問われてそれを咄嗟に断ることができなかったのは
完全に自分の落ち度だ。
かくして深夜は、柊の名を持ちながら、『帝ノ月』に名を連ね、一瀬の下僕となったのだ。
下僕。
それは、なんて屈辱的な響きなのだろう。
従者ですらない。己の命を賭けても、主のために生きる意志をもった、一番身近な側近ですらない。
ただの下僕だ。その存在に感情など価値はない。
求められれば身体を差し出し、命すら厭わず差し出す、そんな存在。
そうして実際、グレンは幾度となく、彼に屈辱を強いてきた。
夜中の無茶な時間に自分を呼びつけ、他人の目線がある外で身体を繋げることを強要したり、
鎖に拘束されたまま、何日も放置されることなどザラだ。
だがその度に、深夜は己の身体が彼に捕われていくのを、自覚せざるを得なかった。
彼からは逃れられない。
どんなに乱暴な扱いをされてもだ。
なぜなら、彼だけが。
彼だけが、自分の生きる理由だから。
許嫁だった真昼は死に、完全に柊に居場所を失い、そして世界は崩壊した。
こんな壊れた世の中で、それでも深夜が生きる理由なんて、グレンの下僕であること以外に、他になかったのだ。

「・・・以上、報告を終わります」
「次、柊深夜少将」
「っは、」

名前を呼ばれ、深夜は慌てて物思いの淵から浮上した。
頭が朦朧とする。先ほどまで高められた熱と、未だに下肢を刺激する玩具に、
理性を保っていられない。
それでも、ここは幹部会議で、13の主要部署を任されている幹部たちが勢ぞろいしている場所で、
もちろん、一番の上座には、自分の義父、柊天利がいる。
まさか、彼にこんな己の状態を悟られるわけにはいかない。こんな場所では、快感も苦痛にすり替わる。圧迫感にまともに息が出来ず、
青褪めた顔で、それでもなんとか気づかれないように立ち上がった。
そんな少しの刺激でも、前立腺が反応する。未だに下肢は興奮を収められないままで、
軍服の上着が下肢を隠すようなデザインで本当に助かったと、心の隅で安堵する。
それでも、誤魔化し切れるのは時間の問題だった。
極力忘れようと、唇を噛み締める。
顔を上げることはできなかった。
何故なら、丁度向かいの席では、いつもの澄ました顔で座っている一瀬グレンがいたからだ。

「・・・少将、聞いているのか?次の報告を始めろ」
「は・・・失礼、致しました」

逆らう事などできない。自分の居場所はここにはないのだ。
無用と見なされればすぐにでも切り捨てられる。己の欲深な身体になど構ってはいられなかった。
なんとか、手元の書類を読もうとして、

「・・・くっ、ははっ・・・」

笑い声が響いて来て、深夜は一気に顔に血を上らせた。
皆が一斉に、声のした方向を見やる。だが深夜は向かない。向けられない。
その声は、己を飼っている男の声だったから。分家のクズで、この中でも一番低い身分のくせに、
一番態度のでかいその男は、こんな緊張した会議の中でも、一向にその生意気な態度を崩さない。
柊に反旗を翻そうとする人間など皆無な今の世で、その歯に衣を着せぬ態度はいっそ清々しいほどではあるが、
その態度故に、一瀬グレンはその英雄的な活躍には全く見合わない、中佐という地位に甘んじていた。
そんな彼を、深夜はどうしようもなく欲していて、
今だって、彼の声を聞いただけで、身体が疼いてしまうのを止められない。
視線がグレンに集まっているのを良い事に、深夜は少しだけ、はぁはぁと熱っぽい息をつく。
もう、堪えられなかった。
今すぐにでも、こんな場所を抜け出して、下肢を慰めたかった。
グレンの許可などなくても、この紐を解いて、己の欲望に任せて張り型で奥を貫き、堰き止められた精を解き放ちたいと思う。
何度も何度も、身体の快楽に正直になるよう強いられてきた。
耐える術など身に着けたこともない。ただ男に犯されて、その熱に善がり狂うように作り変えられてしまった身体。
そう、本当に欲しいものは、こんな、熱のない玩具などではなくて、男の、熱塊のようなそれで、
深夜は辛そうに目を細めた。言い加減、平常をよそおうのも辛い。

「何がおかしい、一瀬グレン」
「いやぁ、別に?なんでもありませんよ?天利様。―――ただ、柊深夜様がねぇ、あまりにも」
「―――っ!!」

今度こそ一斉に自分が注目を浴びてしまい、深夜は取り繕えなくなる。
唇を噛み締め、堪えるように目を閉じる。それでも、容赦なく男の声が響いてくる。

「―――あまりにも、苦しそうでね。見てられないんですよねぇ」

原因が自分だとわかっているくせに、彼の発言はひどく意地が悪い。
グレンは、自分たちの関係がバレてしまっても一向に構わないのだ。ここで深夜の状態が
幹部全員の目の前に晒されても、冷笑を浴びるのは深夜だけだ。部下に良いように翻弄されている
姿を嗤われるのは自分だった。それだけは耐えられなかった。
例え、彼の目の前で、どれほどの屈辱を強いられたとしても。
どんな惨めな姿を晒したとしても、それだけは。
深夜は頭を下げた。
自分の義父、日本帝鬼軍の長、柊天利に対して。

「・・・大変御見苦しい所を、申し訳ありません」
「風邪でも引いたか」
「は・・・数日前から、体調を崩しておりまして・・・」

再び、背後で笑い声が響く。深夜は頭を下げたまま、机の下で拳をぎゅ、と握り締め、耐える。
早く、この時間が過ぎ去って欲しいと願った。
このまま、存在価値のない自分のことなど興味を持たず、会議を進めてくれれば、と。

「けっ・・・くだらねぇ事で話の腰を折るんじゃねぇよ。
 ビョーキ?なんだそれ。お前みたいなクズが柊を名乗ってんじゃねぇ」
「・・・申し訳ありません」

自分に対して暴言を吐くのは、義兄の1人、柊征志郎だ。
それに、しかし深夜は何も言わない。彼が養子の自分を快く思っていないのは
昔からだ。更に言えば、義父が一番可愛がっているのはこの次兄なのだ。
逆うべくもなかった。

「父上、こんな奴、今後の帝鬼軍の未来を決める崇高な会議には必要ありませんよ。
 ・・・お前もだ、一瀬」

きつい視線を投げかけられ、グレンは肩を竦める。
深夜はともかく、分家の一瀬は会議でもまともに発言権を与えられなかった。
根堀り葉堀り報告について追及された後は、まったくの用済み、ということも少なくない。
だから、途中退出することは珍しくない。
無言でガタリと席を立つ。
末席だった彼は、そのまま背を向け会議室を出ていった。
誰も引き留める者はいなかった。いつものことだ。
だがそれでも、深夜のこの拷問のような時間は終わらない。冷たい視線が自分に向けられているのを
必死で耐えていると、

「柊深夜少将。お前も帰って休め」
「は・・・ありがとう、ございます」

なんとか、お許しを貰えた。
再び義父に頭を下げ、そうして深夜は会議室を後にした。
身体が震える。もう、本当に限界で、足元すらおぼつかない。下肢が疼いてどうしようもない。
どうにか会議室を出た深夜は、壁に手をつくようにしてハァハァと息をついた。
早く、早く自室に戻りたくて、重い体を引きずってエレベータホールに向かう。
その時、
ぐい、と腕を掴まれ、避難階段の影に強引に連れ込まれた。
目の前に現れたのは、深夜が求めて止まないその人で、思わず震える手で男の胸に縋り付く。

「っあ・・・グレ・・・んっ・・・」

壁に押し付けられ、顎を掴まれたままねっとりと舌を絡められた。
ひとつの遠慮もなく、口内を蹂躙される。息をついている暇もない。乱暴に口内を弄ばれた後は、
体液を流し込まれる。夢中でそれを嚥下する。
必死に押さえつけていた欲望が膨れ上がる瞬間。下肢はますます苦痛を覚え、
紐が食い込んだ箇所が切れそうな程。内部に存在している玩具を強く意識する羽目になるが、
それでも彼に与えられたものだと思うと興奮する。
不意に耳元で笑われて、深夜はようやく、今、どこで求められているのかを思い出して更に熱を篭らせた。

「会議中、欲情してただろ」
「っ・・・グレンが、煽るからだろ・・・っあ、く・・・」

熱をせき止められたままの己自身を、男の手で捕えられる。
布越しに刺激されても、未だに解放できないまま苦しいだけだ。既にはち切れんばかりに腫れ上がっているのに、
深夜は辛そうに首を振る。もう、早く欲しいと、甘えるように身体を押し付ける。

「煽る?俺はただ、あんまりお前が苦しそうだったから、助け船を出してやっただけだ。
 あんな真っ赤な顔で、誰かに追及されたらどうするつもりだったんだよ?」
「っ、そ、それは・・・っ」
「ま、それはそれで、面白かったかもしれないけどなぁ」

ニヤニヤと口の端を歪ませる。前を緩められて、容赦なく悪戯な手が入り込んでくる。
背後に回されたそれで、グレンが深夜の秘孔を探る。外から見えない程まで内部に押し込んでいたはずのそれは、
今は半分ほど抜けかかっていて、目一杯広げられた彼の後ろの襞を、グレンは指先でなぞってやった。

「っ・・・あ、やだ・・・っ」
「いけない子だな。ちゃんと入れておけ、って言っただろ?」
「っひ・・・」

ぐっ、と再び内部に押し込まれるそれに、深夜は眉根を寄せる。
こんな固く熱のない玩具などではなく、早く男の熱を感じたいのに、まだ与えてくれないのかと思うと、
深夜は暗澹たる気持ちになる。
このままでは、また先程までと同じように、彼は自分の身体を翻弄するばかりで
苦しいだけだろう。早く求めて欲しいと思った。自分を。自分の身体を欲っしてほしい一心で、
深夜はグレンの前に跪いた。
グレンの腰を抱えて、そうして下肢の中心に口づける。前を解放するのに、手を使わないよう教育されている。
歯を使ってジッパーを下ろし、そうして唇で食むようにして彼の雄を晒していく。男の雄もまた、既に欲望を露わにしていて、ひどく興奮した。早く欲しいと、そう強く思ってしまう。
舌で裏筋を何度も舐め上げ、上目遣いに男を見上げる。と、彼の掌が己の頭に添えられ、深夜の動きは更に大胆になっていく。
促されるようにたっぷりと唾液を乗せた舌でカリ首から亀頭までを何度も舐め、そうして唇で包み込むように。更に目を閉じて、喉の奥まで呑み込んでしまえば、先程よりも更に質量を増したそれが口内を圧迫してくる。
苦しいのは本当だったが、それでも男の雄を受け入れている事実に興奮した。
少なくとも今は、自分のものだ。
自分の行為によって欲情し、そして最後には己の身体を満たしてくれるであろうそれが、
愛おしくて堪らない。
根元まで含んで、自身の頭を動かし、砲身を舌で何度も舐め上げると、
グレンもまた、自ら両手を深夜の頭に添え、奥を抉るように腰を突き上げてくる。
意識が飛びそうな程の、圧迫感。息が出来ないし、吐き気すらこみ上げる。涙目でそれに耐えていると、
一瞬、男の身体が緊張したように力が篭る。
口内のそれがぴくぴくと反応し、男の精が放たれる瞬間を意識した。
勢いで口内から外れぬよう、自ら男の腰にしがみ付く。1滴でも零したら、きつい仕置きが待っている。喉の奥に叩きつけられるように吐き出されるそれを、夢中で呑み込む。どろりとしたそれが喉に絡む感触が気持ち悪くて、それでいて、

「はは・・・、美味いか?」
「・・・っは、・・・かはっ、・・・っ、けほっ・・・」

咳き込みながら、それでも彼の言葉に必死で頷いた。
実際に、美味いと感じる。昔は死ぬ程不味いと思っていたそれも、回数を重ねれば癖になるものだ。
男のモノを身体の中に受け入れることが堪らなく嬉しいと感じるのだ。
力を失った彼の雄を、最後まで綺麗にするように舐め取っていく。何度も愛おしげにキスをしていると、
漸くグレンの腕が跪いたままの自分の身体を引き上げた。
ボトムを脱がせ、片足を持ち上げて開かせる。
中心部で息づく深夜のそこから、男性器の張り型を飛び出させている。
その姿は堪らなく卑猥で、グレンは深夜の前を拘束したままの肩紐を軽く引き、自分のほうを向かせた。
再び唇を重ね、そうして耳元へずらした唇で、誘うように囁く。

「・・・出して見せろ」
「っ・・・!や、むり・・・っ」

無理、と言ったところで、勿論グレンが聞く耳を持たないのはいつものことだ。
深夜は泣き腫らした目を更に潤ませながら、片足立ちというこの不安定なままで、ぐっと腰に力を込めた。
己の内部の肉襞が、ナカにある異物の形に柔軟に蠢いているのがわかる。
少しずづ、少しずつ内部を擦りながら抜けていく感触が、ぞくぞくとした快感に変わり、
深夜は自分の身体を支えていられず、男の首にしがみ付いた。
グレンもまた、彼を身体を両腕で支えたまま、深夜の快楽に翻弄されたままの表情を見下ろしていた。

「グレ・・・んっ・・・も、や・・・っ」
「―――早く欲しいんだろ?」
「んっ・・・欲し・・・グレン・・・おねが・・・っ」
「なら、ちゃんと見せろ」

自分の目の前で、屈辱的な格好を晒せ、ということだ。
深夜は諦めたように、更に腹に力を込める。内部の玩具はもう抜け切る寸前まで来ていて、
しかし、括れの部分―――男性器でいえばカリの部分が入口に引っかかり、
なかなか押し出せないようだった。健気に自分の言う通りにしようと力を込める深夜の耳朶を甘噛みしながら、
苦しげに震える深夜の前をそろりとなぞる。すると、彼の身体がびくりと震え、
そうしてカツン、と足元で音がする。玩具が外れ、床に当たった音だ。
一瞬の喪失感と、そして宛がわれる熱塊。深夜は漸く待ち望んだ瞬間を、喉を鳴らして受け入れる。
長い間玩具で慣らされたそこは、簡単に男の侵入を許していく。そうして、離したくない、とばかりに絡み付く中の熱さに、グレンは少しだけ口の端を持ち上げた。
互いの間で息づく男の雄の拘束を緩めてやり、そうして根元から擦り上げ、先端を掌で包み込む。
脳天を貫く様な亀頭への鋭い快感と、内部を深く侵される、全身が震える程の愉悦感。
ここが非常階段に続く通路の影だとか、
会議室がすぐそこで、いつ会議が終了し、誰がやってくるかもわからない不安などは
既に頭になかった。
自分は彼の下僕で、彼に求められれば、いつ何時でも身体を拓かなければならない立場なのだ、
そんなことを考える意思など、自分には必要なかった。
与えられる苦痛と快楽が自分の全てで、今まさに、彼に与えられるすべてに身体が支配されていて。
硬質な玩具などではなく、生身の、熱の篭った男のそれに犯され、深夜はついに脱落した。
男の手の中に、己の欲望を吐き出す。無意識に締まりをよくする内部の感触に、グレンもまた眉を寄せ、
己の情欲を解放するべく腰を揺らしていく。

「深夜・・・出すぞっ・・・」
「っあ・・・、来て・・・グレっ、あああ・・・!」

男の軍服の背に爪を立てて縋り付く。
どくどくと中に流し込まれる男の体液を、力を込めて零さないように受け入れる。
意識が飛びそうなほどの、快楽。
朦朧としたまま、それでも深夜は、目の前の愛しい男にしがみつき、離れまいと身を寄せたのだった。






気付いた時は、深夜自身の宿舎のベッドだった。
グレンがどうやって自分を抱えてきたかはわからない。
意識が途切れたとは思っていなかったが、いつの間にか失神してしまったのだろうか。
ゆっくり身を起こすと、身体がミシミシと悲鳴をあげた。
頭痛がする。頭を押さえ、そうして下肢に蟠る男の感触を想う。
満たされない、感覚。
傍にいない日は、いつも不安だった。
身体を繋げていても、自分は彼の恋人ではないから。
彼に何を約束されたわけでもない。気まぐれに欲望をぶつけられ、そうしてそれを受け止めるだけの
奴隷でしかなくて、
それがどうしようもなく辛かった。
失いたくなかった。いつか飽きられ、捨てられる可能性だって十分にあるのだ。
彼に求められない時間が長くなればなるほど、
己の存在価値の儚さを実感した。
下手をすれば、自分なんか誰も必要としていないのでは、という感覚が頭を過ぎる。
だが、

「―――起きたのか」
「グレ・・・」

言葉に詰まった。
自分が目を覚ました時に彼が傍にいたことなんて、あまりなかったから。
普段はもう既に帰ってしまっていたり、
傍にいる時は、無理矢理起こされて放置されたりと、
結構乱暴な扱いをされてばかりいたから、
一瞬、錯覚しそうになる。
―――否、夢を見てしまいそうになる。
そんな自分の考えに、深夜はひっそりと笑った。

「グレン」
「あ?」

自分を見下ろす男の顔は、ひどく冷たい。
深夜はその視線になにも言えなくなる。
何か馬鹿な言葉を口走れば、捨てられてしまいそうだったから。
彼にとっては、自分は都合のいい捌け口だっただけで、自分が恋愛感情なぞを求めれば、
嗤って捨てられるだろう。面倒な付き合いは嫌いな男だった。
ましてや、恋愛など。
彼にとっては、己の野心を貫くための邪魔物でしかなくて、
だからこそ、深夜は彼の下僕でなければならなかった。
そこまでしてでも、彼が欲しかったから。

「僕は、君の下僕だろう?」

縋るように、男を見上げる。
男の表情は変わらない。ただ、すっと目を細められただけだ。
胸に広がる恐怖。
彼を怒らせることが、自分にどれほどの苦痛をもたらすのか、身に染みて知っている。
それこそ、条件反射のように。
主の機嫌を損ねれば、すぐに斬って捨てられるのは今も変わらなかった。
それでも、深夜は震える唇で必死に言葉を紡いだ。

「・・・ぁあ、そうだな」
「なら、僕を裏切らないで。・・・どこにも、行かないでよ」

いつだって、身体を繋いで。
ただ、欲望を吐き出すための玩具扱いだっていい。でも、
捨てられるのだけは耐えられないから。
邪険に扱われ、冗談ではなく、本気の視線で嫌いだと訴えられたら、
自分は本当に壊れてしまうだろう。
こんな世の中で、自分の生きる価値もすべて失ってまで、
それでもなお自分が生きて行こうと思えるかはわからなかった。

「俺がお前を裏切る?なんの話だ。
 俺は俺のしたいようにする。お前なんか関係ない。当たり前の話だろう」
「・・・っ」

そうだ。
下僕である自分に、彼を求める権利などない。
彼に捨てられれば、それまで。
わかっていた。
くだらない話を、出過ぎた発言をしでかしてしまったことに、
今更ながら愕然とする。
けれど意外にもグレンは、いつものからかうような表情で自分に迫ってくる。
頭を抱えるようにして髪に指を絡ませ、ぐい、と引き上げられる。
顔を上げさせられ、そうして、耳元で、まるで洗脳でもするかのように、

「俺が立っている場所が、お前のいる場所だろう?―――逆にお前は、俺を裏切らないだろうな?」
「っあ・・・」

甘い声が、囁いてくる。
立っている場所が、自分のいる場所・・・
ああ、そうだった。
深夜は今更ながら、己がかれについていく、と決めた時のことを思い出す。
どんな屈辱を味わおうと、どんな扱いを受けようと、
自分は彼についてくと決めたのだから。
下僕して扱われても、どんなに無様でも、彼にしがみついていくだろう。
今までも、そうしてこれからもだ。

「・・・裏切らない。裏切れないよ、グレン」

欲しいのは、グレンただ1人なのだから。
すぐ傍にある唇を自ら夢中で貪りながら、深夜は再び快楽に身を委ねた。





end.










深夜って暮人兄さんにはめっちゃ親しげに兄さん〜とか軽口叩くけど
征志郎には「征志郎様、・・・」とか敬語だよね。
パパりんからも信頼厚いらしいのは征志郎だし、あれか?実は正妻の息子なんか?
まぁ結果的に実力主義なんだろうけどさ、柊家。

って、重要なこと書いてませんね。
深夜様すみませんでした。
下僕だったらちょっといいなぁ、ってだけの話です。
グレン様、って呼ばせたいんですがなかなか難しいですね。昔ならいけるかも・・・?
まぁ16歳の頃の調教話はいずれ(ほんとかよ)





Update:2015/05/08/FRI by BLUE

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