君の影を追って   ※SQ11月号バレ有



※若干の距離感があります



情事の後。
気だるげな空気の部屋、しどけなくベッドに横たわりながら、
深夜はシャワーを浴びて衣服を着替え始めている彼の背中を見遣った。
きっちりと着込む軍服、今の時間は夜中の12時少し前だ。
いつもならば、このまま2ラウンド目へと突入し、夜を回るまで濃厚な行為を続けることも多いのだが、
今日は彼はどうやら帰るつもりらしかった。
明日は2人とも非番、だというのに、朝まで傍にいないなど、昔はなかったのに。

「・・・帰るの?」
「ちょっと用事があるんだよ」

こんな夜中に、どんな用事があるというのか。
少し咎めるように見やると、しかしグレンはどこか楽しげな顔。
深夜とグレンは、付き合っているわけではなかった。かといって、お互いのことが好きじゃないわけでもないから、
こうして時折欲情して、セックスをすることもある。
だがそれだけだった。
親友というなら、そうだろう。これでも5年も共に生きてきた。彼がいなければ今の自分はなかったし、
彼もまたそうだろう。傍から見れば、多少の口喧嘩はすれど、鴛鴦夫婦のように気が付けば一緒にいたし、深夜もまた、グレンの片腕であることは自負している。
それでも、自分たちは相思相愛などではなかった。
あくまで一方通行―――深夜がグレンに強い執着を示しているだけで、彼はただ応えているだけ。
けれど、深夜はそれでも良いと思っていた。
彼の中の一番は、あくまで別の人間で―――勿論、悔しくないかと問われれば、少し悔しいとは思う。というより、彼の想い人は、本当は自分のモノになるはずだったし、
男として、自分の女を他人に寝取られるというのは、恥かしいやら情けないやら完全に相手の男を叩き潰したくなってもおかしくないはずだ。
なのに、何故かこうして、そんな相手と強い信頼関係を築いているのだから、滑稽な話だ。
深夜は自嘲するように笑みを浮かべた。
考えれば考えるほど、この状況がおかしいと感じてしまう。

「…どこに行くの?」
「お前には関係ねぇよ」

すこし、ムッとする。
グレンの言葉は楽しげで、敢えて自分の反応を見て楽しんでいるようだった。快楽の余韻が残る気怠い空気の中、感情を押し隠すことは難しい。
自分を見下ろして、グレンは下卑たような表情を浮かべた。
その瞳は赤く、そして射抜くような強い眼光を放っている。
深夜は目を細めた。彼―――鬼を宿した、狡猾で手段を選ばない別人格の彼は、あまり自分の前では表に出てこないから、珍しいと思う。というより、
深夜は彼が苦手だった。その強引な性格も、圧倒的な力も、何一つ容赦がない。
およそ加減というものを知らない彼は、己の欲望のままにすべてを貪り食らっていく。

「…君、」
「なんだよ。あんだけ喘いでたくせに、まだ足りないのか?それとも、女みたいに朝まで一緒にいて〜!なんて気持ちの悪い事でも言うつもりか?」
「っ」

本当に、容赦がない。言葉も選ばない、元々のグレンだって、口はいい方ではなかったが、自制が利かないと本当にひどい。他人の傷を抉るのをひどく悦ぶような、そんな醜い性格だった。
そのくせ、彼のその、整った顔と他人を蕩けさせるような甘い声音で他人を誘惑してくるのだから、まさに天使と悪魔だ。
絶句している深夜の前に、燃えるような赤を湛えた瞳が迫ってきた。顎を取られる。
湧き上がる嫌悪感。だが、目を離すことができない。
彼の眼光は、まるで獲物を捕らえた蛇のように己の身体に絡み付いていて、深夜には解くことはできなかった。
普段グレンを追いかけているのは常に自分のはずなのに、彼が現れると恐怖しか感じなかった。
快楽の余韻が、恐怖のそれに代わる。

「今度は意識トバすまでヤってやるよ」
「やめろ…」

声音まで震えてしまう。気丈に振舞っていても、彼の前では全てが瓦解してしまう。
まるで、心臓を抉られ、彼の手中に囚われているようだ。逃げ出そうとしても、既に遅い。
無意識に後ずさろうとする身体を、腕を取られて強引に引き寄せられる。
重なる唇は、まるで味わうというより、食われている気さえする。頭が朦朧としてきて、自分が取り繕えなくなる。

「っは、あ、…っ」
「はは、可愛いぜ?いつもみたいに澄ましたカオより、ずっといい。俺の前では、いつもそうやって涎垂らして物欲しそうなカオしてろよ?そしたらもっともっといいユメ見せてやるよ」
「っあ…、いらないっ…」
「はは」

弱々しく首を振ってみても、彼は嬉々として笑うばかりだ。
間近に迫る、愛する男のその歪んだカオに、深夜は唇を噛み締めて耐えるように横を向いた。
グレンではない。これは、自分が傍にいたいと誓った彼ではない。それはわかっているはずなのに、抗うことが出来ないのは、
いくら鬼に支配されたとはいえ、その根本の感情も目的も本来の彼と何ら変わらないからだろう。
手段は違えど、行きつく先は一緒―――いつかの真昼がそう言っていたように、きっと彼もまた、いつか目的を果たし、最愛の女を迎えに行くのだ。
そう思うと、心臓が張り裂けそうだ。
グレンは優しいから、何も言わずに自分を傍に置いて愛してくれる。そうすると、一瞬、彼が抱えている真昼の影だって忘れそうになれるのに。
この鬼を内包した彼は違う。
彼は目の前に現実を突き付けてくるのだ。
グレンが、本当は自分などちっとも愛してなんてくれていないことを。ただ、自分が欲しいと求めるから、情に流されて付き合ってくれているのだということを知らされてしまい、胸が張り裂けそうだ。
真昼と張り合おうなんて思っていないけれど、
ただ、こんな時くらい忘れて快楽と一時の甘い時間に溺れていたかっただけなのに。
それなのに鬼は、そんな自分をあざ笑うのだ。

「っはは。くだらないことは考えんなよ。お前は大人しく足を開いて待ってろ」
「僕は君の玩具?」
「ああ、そうだ。しかも代わりなんかいくらでもいる。お前である必要なんてどこにもない。お前がいて運命が変わったなら、今の俺はここにいない。わかるか?お前は無力なんだよ。結局俺は、誰に頼ったところで俺自身の望みを叶える最終手段に成り得なかった」
「…」

歌う様に残酷な言葉を紡ぐグレンに、深夜は目を瞑って耐える。
彼が心を割った理由は、明らかに自分たちを守るためで、
だからこそ、彼の心の闇を責めることが出来ない。
本当に彼が暴走し、かつての真昼のように死と破壊をまき散らすのならば勿論命を懸けてでも止めるつもりだったが、
最近はその素振りはなかった。
時折こうして表に出ては、何やら暗躍しているだけだった。
こういう生き方も面白いと、いつか自分に零していた気がする。
素裸の身体を弄られ、グレンは再びベッドにいる自分と身体を重ねてきた。
絡み付く手足、触れ合う素肌はまだ熱い。
普段のグレンよりも少し高めの体温。それは甘い毒のように、自分を狂わせていく。
先程まで濃厚な行為を続けていたはずなのに、更なる欲望が煽られる。
グレンの雄と、自分のそれを重ねあわせるように擦られて、ひどく感じてしまう。
グレンの大きな掌が指を絡めるようにして擦り合わせれば、互いの先走りが溢れ、濡れた様相を示す。

「っ・・・ア、やめ、」
「気持ちいいだろ?抵抗するな。すべて俺に委ねろ。お前は俺のモノだろう?」

吹き込まれる言葉はまさに誘惑。何もかも忘れて、盲目的に彼について行きさえすればきっと傷つくこともないのかもしれない。
だがそれは人の道ではない。本当のグレンだって、それを求めてはいないだろう。欲望に溺れるだけならば、その先は破滅でしかない。だから深夜は耐える。漏れそうになる弱音を、唇を噛み締めて。
グレンは、己の反応を確かめるようにじっと顔を見つめている。
自分が、身体だけでなく、本当の意味で堕ちるのをただ待っているようだった。
彼の表情が、ひどく楽しげに歪む。どうせ時間の問題だ、そうしていても辛いだけだぞ、とそう言って、首筋を噛むように歯型を付けた。
本物の鬼ではない、人と鬼との融合体。だから血を吸うことはなかったが、
爪先や歯で肌に傷をつけるのが好みらしかった。ピリッとした痛みと共に、朱線が走る。滲む血を舐め、そうして愛おしげに目を細める。

「・・・はは。好きだぜ、深夜」
「そういう、嘘は」
「嘘なんかついてないぜ?俺は。お前のことは好きだ。ただ、お前だけが好きなわけでもないがな」
「・・・・・・」
「はは。拗ねるなよ。こうして気持ちよくしてやってるだろう?お前が俺だけのモノである限り、愛してやるよ。だから」

何も考えるな。快楽に身を委ねろ、すべて曝け出せ、そう耳元で吹きこまれながら、体内を侵食していく彼の指先。
己の中に受け入れるのは、欲望に塗れた悪魔のそれだ。先程まで何度もグレンの証を注がれて、じっとりと濡れたそこは、拒むことなんてできない。力を込めて抵抗しようとしたが、まったく腰に力が入らなかった。ころりと身体をひっくり返され、高く腰を上げさせられる。無意識に収縮するそこから、溢れ出るグレンの精液。尻を伝って内股まで流れるそれをじっと見つめられ、身を千切られるような羞恥を覚える。
同じ人間に抱かれているはずなのに、他人に見られるような、そんな背徳的な感覚。
肌触りの良い枕に顔を押し付けていないと、もはや耐えられそうになかった。

「・・・も、」
「っは、もうドロドロ」
「や、め」
「もっと気持ちよくさせてやるよ」
「いらないっ・・・」
「はは」

深夜の懇願する言葉など、グレンはもう聞いていない。
好き勝手に快楽を与え、相手の過ぎた快楽に惑乱し堕ちる姿を嬉々として見つめるだけだ。
2、3度軽く己のそれを扱けば、すぐにはち切れんばかりに勃起する。ひくひくと痙攣を繰り返す濡れた襞に宛がい、焦らすように入口で抜き差しを繰り返せば、奥が疼いて仕方がない、と言った風に深夜の腰が揺れる。
もはや快楽を拒むことができない身体は、
壊れた彼を嫌悪し拒もうとしてしまう心を見事に裏切っていて、
深夜は喉の奥で悲鳴を上げた。
心まで、侵食されていく。ゆっくりと、しかし確実に内部に侵入する男のそれから、
全身へ、身体の奥から足の爪の先まで痺れていく。
磨滅する思考、波のように押し寄せる罪悪感、けれど深夜は溺れてそれから逃れることはできなかった。
これほど心は痛むのに、身体は麻薬を打たれたように気持ちが良すぎて堪らない。
涙が止まらないのは、悲しいからか、それともあまりの快感故の生理的なものなのか。
けれど、そんなことを考えていられるほど、今の深夜に余裕などなかった。

「っは・・・すっげ、熱いな」
「っう、は、ああっ・・・もぅ、やめっ・・・そこ、アァっ、」
「ん?ここか?」

高く腰を上げさせたまま、最奥を強く突き上げる。少し角度をつけて、直腸の上の辺りを探る。
深夜は文字通り悲鳴を上げていた。男の鉄串が、奥の、そのまた奥を抉るように何度も刺激を与えていく。
あまりの苦しさに、深夜は下肢を慰めようと片手を伸ばしたが、それをグレンに捉えられた。

「駄目だ。お前後ろだけでイけるだろ?」
「・・・っは、あ、それはっ・・・」

嫌々と首を振る。だが勿論、彼が聞き入れてくれるはずもない。強引に腕を掴んで、引き寄せるようにして下肢を犯す。
身体が、ガクガクと震えた。乱暴に扱われ、それでも快感を覚えて喘いでしまうなどあまりに屈辱的で、深夜は更に涙を零す。
彼の中に、自分が惹かれたあの優しいグレンの面影など何一つない。
それなのに、身体だけは反応を示してしまう己が、深夜には許せなかった。

「っ・・・くそっ・・・僕は、ア、ああっ・・・グレ、」
「ははっ、ナカがすごい締まってきてるぞ?イきそうなんだろ?」
「っく・・・止めろ・・・っ」
「誰がやめるかよ。お前だってシて欲しいくせに、いい加減素直になれよ?」
「っああ―――!!」

何度も何度も腰を打ち付けられ、身体がバラバラになりそうだ。
身体が激しく痙攣し、止められなかった。
深夜は縋るように片腕で枕にしがみ付き、必死に耐えるしかない。
流されてしまう。醜い欲望に塗れた快楽に、もはや抗う術などなかった。
強い刺激が限界まで達したところで、一気に視界がスパークした。
それと同時に、腰の奥が激しく収縮し、じわりと熱くなるのが、自分でもわかる。

「っくぅ―――出ちゃ、あああ―――!!」

瞬間、強い快感が下肢を襲った。と同時に、深夜の性器からはどろりと半透明の液体が漏れてくる。
全身を刺し貫くような一瞬の激しい快感ではなく、射精とはまた違う、腰の奥に重い快楽が蟠っているような感覚。
貫かれる度に止まらない嬌声。文字通り腰が砕けてしまい、
グレンが支えていなければ、深夜はベッドに沈んでいただろう。
背後で、グレンは声を上げて嗤う。その声音が痛む心を更に掻き乱していく。

「はは。まさにメス犬だな」
「―――ぐ、」

もう、捨て置いてくれればいい。屈辱に全身を浸す深夜は、けれど己のくたりとした自身に男の指が絡められ、今度こそ絶望した。
未だに己を苛む腰の奥の快感と、イったばかりの性器に刺激を与えられる、まるで拷問のような苦痛。
グレンは己の掌に包み込んだ亀頭を、何度も何度も激しく捏ね繰り回した。息が出来ない程に苦しく、今だに内部を犯したままのグレンを激しく締め付けてしまう。
そうして、彼の質量を意識する羽目になってしまうのだ。

「っい、やだっ、痛・・・!も、おねがっ・・・」
「やだね。このまま死んでしまいたいと思うくらいの快楽を味合わせてやるよ」
「っ、う、あああ・・・っ!!!」

射精感、というよりは尿意に近い感覚が込み上げてくる。
無意識に膝が閉じようとするのを、グレンの足が強引に開かせる。
我慢などできなかった。今だにグレンの雄は前立腺どころか精嚢と、その奥の膀胱壁まで突き上げてくるものだから、もうどうしようもない。
深夜の身体は、すべてグレンに支配されていた。
強引な刺激に強制的に勃起させられた深夜のそれから、吐き出したい衝動が込み上げてくる。
彼が言った通り、意識が飛びそうになった。絶対にこれだけは嫌だと、
耐えに耐えていたはずの防波堤が、決壊するその瞬間。

「やだ、もっ、漏れ・・・っう、あ、あっ―――!!」

次の瞬間、深夜の雄への刺激を続けていたグレンの掌の指の間から、無色透明の液体が勢いよく飛び出した。
精液とは違う、さらりとした液体だ。
散々してきた激しい行為のせいでぐちゃぐちゃになっているシーツが、更にびしょ濡れになる程の量。
深夜は放心したまま、視界に入るそれをぼんやりと見つめていた。
グレンは漸く満足したのか、再び深夜のナカを軽く擦り、己の精を吐き出させた。
何度も注がれたそこに、更なる熱い滾りが溢れてくる。

「っあ・・・ああ、」
「っは。全く、ひどい開発されっぷりだよなぁ深夜。こんなに潮まで吹いて」
「・・・っ、」
「こんなになるまで俺に犯されて・・・それで悦んでるんだろ?いい加減認めろよ。お前は俺のただの慰みモノだ」

いちいち彼の言葉が胸を灼くから、もう、疲れていた。
早くいつもの彼に戻ってきて欲しかったが、
鬼の彼が出てきた時は、半日は彼が戻ってこないのはわかっていたから。
赤い瞳の彼をもう一度睨み付けて、深夜は掠れた声音で言葉を紡ぐ。

「・・・うるさい」
「あ?」
「うるさいよ、鬼グレン。これでも僕は、グレンを信じてる。グレンは君とは違う。少なくとも、僕をもう少し愛してくれてる。それだけで十分だ。だからもう・・・ほっといてくれ」
「はは。健気だな」
「・・・」

もう、本当に、1ミリも身体を動かせなかった。
グレンが手放すと、シーツにぐったりと沈み込む。己が吐き出したせいで濡れたシーツが気持ち悪いが、動く体力など残っていない。
グレンは深夜の頭を撫でるように手を置くと、その銀の髪を指で弄んだ。
それは普段の彼もよくする行為で、手触りが好きだと言ってくれたことがある。
やはり、どんなに非道く扱われても、彼は彼だった。
だからこそそれが、何より辛かった。

「まぁ、どうせ明日は非番なんだろ。大人しく寝てろよ」
「・・・君は、」
「あ?まぁ、久々の娑婆だからなぁ。実験体を拝みに行ってもいいし・・・ああ、アイツにも会わなきゃな」
「・・・」

彼に別の男の気配を感じて、深夜は密かに唇を噛み締めた。
グレンは自分を愛してくれていたが、この男は今は他の人間に執着していたから、きっと、そいつに会いに行くのだろう。
引き留められないのが悔しかった。蟠る嫉妬心、けれど深夜には何もできない。
力では負け、封じたくとも既に半人半鬼の彼は、
片方の人格ばかり表に出ていては精神の均衡が保てないらしかった。
本当は、殺さなければならなかった。
取り返しのつかない殺戮の運命を繰り返される前に、少しでも早く。
けれど、いまだに自分は、甘い夢を抱いている。

「はやく、戻ってきて」
「あ?」

深夜は俯いたまま、か細い声でそう言った。
明日は、2人して非番だったから、久しぶりに街を歩くつもりだったのに。
彼が出てきたせいで、その予定もほとんど白紙になったようなものだ。
鬼の彼が出てくるのはグレン自身もあまり読めないらしかったから仕方がないが、どうしても、戻ってきたら文句を言ってやらねば気が済まない。
こうならないために、きちんと時間を決めて入れ替われと言っているのに。深夜は溜息をついて、ふんわりとした枕に顔を埋めた。

「君じゃない。・・・グレンに、言ってる」
「っは、はは」

鬼の彼は、深夜の言葉に、再び声を上げて笑った。
けれどもう、付き合う気力もない。
本気で、このまま寝てしまおうと思った。
無論、このまま寝てしまったら明日の朝はしばらく起きれないだろうが。

「安心しろ。『時』が来るのはまだまだ先だからな。もうしばらくは、お前の大好きなアイツと一緒にいさせてやるよ」

頭を撫でられ、唇を噛み締める。
悔しかった。このままでは、鬼の彼の思いのままの運命だ。
鬼の彼と、その恋人真昼と。すべて彼らの掌の上。
抗う決意はしたものの、どうすればいいのかなんて、いまだにわからない。
それでも、深夜は言った。

「『時』なんか、永遠に来ないよ。僕が、来させない」
「はは」

それを是と受け取ったのか、否と受け取ったのか。
楽しげに笑う彼は、再び深夜の頬に口づける。
その優しげなキスに唇を噛み締めて、深夜は愛する男に想いを馳せたのだった。





end.






Update:2015/10/07/WED by BLUE

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