生誕祭の夜



ひとしきり盛り上がったパーティーも終わり、会場にいたメンバーたちは既にまばらになっていた。
あれほど沢山積んであった料理が、今ではほとんど残っていない。
小百合と時雨が腕によりをかけて作った山ほどあった料理達は、
普段の質素な食堂の食べ物ばかりを食べている軍人たちにはかなり感動的な味だったのかもしれないな、と思う。
ちらりと部屋の中央を見やれば、そこにいるのは柊深夜その人。
普段の軍服とはまた違った、白いタキシードもどきの服を着ている彼の周囲には、今でも数人の人だかりがある。
初めはチームの内輪だけで細々と祝うつもりだったのが、
準備に人出を借りていくうちに、いつの間にかこんな大がかりなものになってしまっていて、
しかし、皆が、なかなかこういう、騒いだり無礼講になる時などはないのだから、
ここは多少甘やかしてもいいだろう。
ちなみに、会場を手配してくれたのは他でもない、深夜の義兄、柊暮人である。
さすがに顔を出す勇気はなかったようだが、ぶっきらぼうでいて、陰ながら深夜のことを案じているのかと思うと、
傍目には何の興味もなさそうに見えるものの、なんだかんだで義弟として深夜を見ているのだな、と思う。
そろそろ、時間も時間である。
あまり遅くまで部下たちを居座らせていても、彼らの明日の任務に影響が出るだけだ。それに、万一支障が出てしまっては、注意を受けるのは上司である自分のせいにもなってしまう。
五士たちに片づけを済ませるように言うと、グレンは、ほろ酔い気分でテンションが高い、本日一番の主役―――柊深夜を回収すべく、彼の背後に近付いた。
普段なら在り得ないことだが、彼は楽しげに談笑したまま、まったく自分の気配に気づかない。
あれだけ苦労に苦労を重ねて開催したパーティーを、時間も忘れるほど楽しんでくれていることは結構だが、
少将ともあろう者が、部下の心身の配慮もなくただ娯楽に興じているというのはどうなのか。
グレンは手を伸ばせば触れられる位置まで深夜に近づくと、彼の首根っこをむんずと掴んだ。

「っ痛てて!!・・・って、お前かよ〜?!」
「何時だと思ってる。もういい加減お開きにするぞ」
「ええ、もうちょっと〜」

今だに彼は好物のマーマレードのたっぷり乗ったスコーンを頬張っており、
あの細い身体にどれだけの菓子が入るのだろう、と思う。
彼の前には、先ほどまで山のように積まれた菓子がのっていたのだが、それもいつの間にかほとんどなくなっている。

「ったく、十分楽しんだだろ。ほら、行くぞ、酔っ払い」
「いやぁ、僕全然酔っぱらってないよ〜?それよりグレンは、どうしたの?こんなに人気者の僕に、嫉妬しちゃった?」

深夜の顔がにやにやと自分を見上げていて、けれどグレンは面倒そうに顔を顰めるだけ。
なおもだらだらと座り続けている彼の腕を掴み強引に立たせると、グレンはそのまま深夜を会場から連れ出してしまった。
深夜はマーマレードクッキーを咥えながら、「じゃあね〜」と会場の皆に手を振っている。
会場の喧噪から逃れ、少し歩くと、官舎の廊下はほとんど人気が無くなっていた。
深夜はくすりと笑いグレンと肩を並べ、同じ歩幅で歩き始める。
その表情に、先ほどまでのくだらない馬鹿騒ぎをしていた子供のような色合いはない。
夜専用の、艶やかな眼差しと、濡れた唇。グレンは目を細める。
心なしか甘い香りが漂っているのは、彼が今の今まで食べていたジャムのせいだろうか。

「まったく〜、グレンったら、焦らなくてもちゃーんとお返ししてあげるのに〜」
「なんだそれは」

顰め面のままでそう言うと、まったく、素直じゃないんだから、と深夜はまたハイトーンの笑い声をあげる。
足取りは軽く、ひどく上機嫌だ。
隣同士で同じ方向に歩いていて尚、深夜の腕を掴んでいるままなのはどこかおかしくて、グレンは掴んでいた手を外した。だが深夜は一端外れたグレンの掌を、再びぎゅ、と掴んでくる。
素肌同士の触れ合う熱は、まだほんの一部だけだったがひどく優しく、そうして甘くて、
誰が見ているかわからないというのに、グレンは苦笑するだけで、それを振り払おうとはしなかった。
2人は真っ直ぐに前を見ながら、当然のようにグレンの部屋へと向かって歩いていく。

「でもほんと、グレンがここまでしてくれるとは、思ってなかったよ」
「お前がおねだりしたんだろ?」
「まーね。だって言わないと何もしてくれなさそうだったし」
「そりゃ知らねぇもん」

当然だろ、とさも興味もなさそうに言うグレンは、本当に素直じゃないと思う。

「いやいや、そんなことないでしょ。何年付き合ってると思ってんの」
「・・・1年?」
「8年だから。高校の頃から僕毎年グレンに誕生日アピールしてるから。いい加減おぼえて欲しいんだけどなぁ」
「そりゃ悪かったな。物覚え悪くて」

はぁ、と溜息をつくが、グレンだって本当に忘れているわけではない。いい加減、毎年毎年ギャーギャー騒がれれば、嫌でも覚えてしまうハメになる。
勿論、かつてはサプライズで何か用意してやろうと思った年もあったが、
深夜は大抵、自分の誕生日が近づく度に、「今年は何をくれるの?」「またグレンから凄いプレゼント欲しいなぁ〜」等と
うんざりするほど五月蠅く強請るものだから、
今となっては強請られてからどうしようか考えるようなレベルで自堕落になってしまったのだった。
というよりまず、男のくせに記念日を気にする深夜の気持ち自体あまりよくわからない。
だが、この辺りは五士に言わせると、「深夜様は乙女心をよくわかっていらっしゃる」という事らしい。
まぁ、こうして腕に絡みついて見上げてくる様子は、
確かに女そのものと言っても過言ではないかもしれないが。

「で…グレン?今日は、どんなプレゼントを僕にくれるの?」
「っはぁ?あげただろ、ケーキ」
「だってあれ、小百合ちゃん達の手作りでしょ?グレンは僕に手渡しただけじゃん」
「買って手渡したってプレゼントだろうが」
「僕は!グレンが用意したプレゼントが欲しいの!」
「うるせぇ…」

もう、本当に会話自体が面倒くさい。きっと言い合いや、口喧嘩で勝負する戦いがあったら、自分は深夜に確実に負けているだろう。
もはや、聞いているのも面倒で、早く唇に触れて、黙らせてやりたいと思ってしまう位。
だがしかし、部屋に着くまでは、もう少し距離がある。

「でもさ、グレンは結局、僕を連れ込んで、いろいろしたいんだよね?」
「・・・・・・まぁ」

確かに、そのつもりではいる。
というより、翌日が休み、ましてや2人とも休暇、となれば、夜を2人で過ごすのが当たり前のようになっていて、
もはや疑問すら持たない程だったから、
改めて「したいんでしょ?」と問われれば、少々考えてしまうが。

「まぁ・・・そうなるか?そのつもりでいたしな」
「じゃあ〜、今日のグレンは僕に、どんなことをしたいのかな〜?」
「どんなこと、ねぇ」

隣で、ウキウキと自分を見つめている視線が本当にうっとおしいのだが、
さて、確かに、自分は彼に一体何をしたいのだろう?
いつも、いざベッドに入ると、何も考えずに欲望に身を委ねてしまえるが、こういう場所で、2人して傍から見ればいたって普通の表情と態度で、こういう、少々込み入った話をするのはなんだか新鮮だ。
グレンは横を向き、ぴっちりとした白いタキシードにピンクのリボンを身に着けている深夜を見やった。
誰かがこの銀髪の彼のことを貴公子と言っていたが、まさに今日の彼の出で立ちは、
欲目でなくとも本当によくある昔の童話に出てくる王子のようで、
実際、先ほどのパーティーでは、女子たちの黄色い声がところどころで上がっていた。
彼が振り向いて手を振る度に、彼女らは本当にそれだけで天にも昇ったような気持ちになってしまうらしい。
だが深夜は、外面を良くするのだけは本当に得意で、しかしその実、女性には全く興味がないのだから残酷な話である。
もちろん、彼が女性に興味がないのは、幼い頃から許嫁という存在に縛られてきたからであって、そこは仕方がないとも思うのだが、
だからと言って、男に鞍替えせずともよかったんじゃないかと今更ながら思う。ましてや彼は、
よりにもよってグレンがいい、などと抜かすものだから、当時の自分は多少なりとも困惑したものだ。
だが別に、付き合う相手が男だからだとかそういう性別のことを言っているわけではなく、
単純に自分は、こんな恋愛などしている場合でなかった。あの頃は、付き合うとか付き合わないとか、恋人だとか、そういう言葉に縛られているような状況ではなかったからだ。
だが、そういう状況だっただからこそ、こうして、理屈や理性などという段階をすっ飛ばして、彼と関係を持ってしまったのもまた事実。

「・・・まぁ、とりあえずその服は邪魔だな」
「似合うでしょ?貰ったんだ〜」
「誰に?」
「秘密」

ふふ、と笑って、唇に人差し指を押し付ける。
深夜のその仕草には、いちいち茶目っ気がある。まったく、これが24の大の男のすることだろうか。
だがとにかく、この白いタキシードは、少なくとも自分が彼に贈っていたものではなかった。
彼がいつ、何時これをもらったのかなどグレンにはわからないが、
それでもなぜか、腹の辺りがもやっとするのは何故だろう?
勿体無いから実際にはしないが、もし彼をベッドに押し付けて、
このスーツをびりびりに引き裂いて素肌を晒してやったら、彼はどんなカオをするだろう、と想像する。
彼にとって大事な人間から貰ったものなのだろうか?
もしそうなら、彼はひどくそれを嫌がるだろうか?悔しげな瞳で自分を見やるだろうか?
それとも、泣きそうな顔で絶望したような表情を見せるだろうか?
それは、非常に興味をそそられた。
ベッドでの彼の表情は、いちいちグレンには新鮮で、
同じセックスという行為をしていても、二つとして同じ表情はないと思っている。
彼が自分に見せる表情の全てが見たい。
いつも飄々としていて、ポーカーフェイスを崩さない彼の、その本当の心と感情に触れるのが
心地いいと知ったのは、やはりこうして身体を重ねてからだろう。
身体はいい。下らない誤魔化しや言い訳など全くできないから、相手がどれくらい信用できる相手かがすぐにわかってしまう。
実際、最初の最初から、嘘で塗り固められたような、作り物の笑顔で意図的な接触を図ってきた深夜を、
本当の意味で信頼できると感じたのは、
初めて2人で吸血鬼に襲われたときに手を伸ばしてきた彼のあの必死な表情と、自分が暴走したあの時、一緒に拘束されたまま、ただひたすら自分が戻ることを祈っていた彼のあの泣きそうな、苦しげな表情があったからこそだ。
取り繕うこともできず、己の身体すらコントロールが効かない状況でなおかつ自分を求めるのであれば、
それはおそらく、本当に“真実”なのだろう、と思う。
深夜は、本当に自分のことが好きなのだろう。
だからこそ、こうして自分の記念日だって祝ってほしいと訴えるし、傍にいて欲しいと騒ぐのだ。
そんな素直な彼は、自分にとってもひどく大切で、愛おしい存在だった。もちろん、そう自分が思うのには、それなりの時間が必要だったが。

「・・・グレン、今、いろいろ想像して、舐めるように見てたでしょ。グレンのえっち」
「お前こそ、結局俺から欲しいものなんてそういう事じゃないにか?
 物資の不足してる今の世の中で、まさか物が欲しいなんてお前は言わないだろう?となれば、結局、これしかないだろ」
「んっ、」

ぐい、と肩を掴み、こちらを向かせ、そうして唇を重ねる。
広い廊下、まだ完全に視線がない場所、というわけではない。だがそろそろ、グレンも深夜も既にかなり昂ぶっていて、今すぐにでも素肌を晒して肌を重ね合いたいと思っていた。だから、その欲望が今すぐに満たせない分、激しいキスが絡まり合う。
ぐらりと重心が傾き、深夜は背後の壁に背を押し付けるような体勢になってしまった。唇が少し離れるが、視線を絡ませれば、
お互いの瞳はひどく熱を持って潤み、色合いを濃くしている。すぐに再び唇が重ねられ、深夜は耳の傍で身体を支えているグレンの腕を意識しながら、口づけに夢中になっていく。
間近にある白く長い深夜の睫毛を見つめながら、グレンもまた、深夜の薄い唇を丁寧に舌でなぞっていった。
濡れた感触、薄いくせにこうしてキスを続けていると、次第に熱を持って紅を塗ったように朱く染まっていく。それがひどく扇情的だと思う。そうして、その頃には深夜の歯列もほとんど自然に開かれていて、もはや1つの抵抗もない。待ち望んでいたように鎮座していた深夜の舌を、軽く突つく。そうすると、
舌同士が触れ合う、ねっとりとした濡れた感覚がひどく深夜の身体を敏感にするのか、彼は自分の腕のなかでいっしゅん、ぶるりと震える。
けれど、それは抵抗ではなく、快楽の予感に興奮している証で。
グレンは少し吐息で笑ってしまう。少しだけ抵抗するように首を揺らす深夜の頭を、
もう片方の掌で支え、そうして更に奥深くを舌で辿って行く。
頬の粘膜や、上顎のざらざらした部分。歯列の歯茎の部分は、特に深夜が弱い部分だ。そこを殊更丁寧になぞってやれば、深夜は無意識に身体を竦めて、グレンの肩に腕を突っ張って逃れようとしてしまう。それが本当に可愛らしくて、
いよいよグレンは欲望が止まりそうになかった。
そもそも、深夜相手に、理性を保って聖人君子を装うつもりはない。
取り繕うことも、既に意味がない。
長く続けていたキスのせいで、体液が口内に溢れ出している。ぐい、と顎を持ち上げ、グレンは深夜の口内に容赦なく己の唾液を流し込んでいった。

「ん…ふ、うっ…う、っんん…」

きゅ、と眉根を寄せて抗議する深夜を、しかしグレンは許さない。
口の端から漏れだしてくるそれも気にせず、体液を流し込んでは深夜の中で味わうように舌で転がしていると、
流石に耐えきれなくなったのか、深夜の喉がこくりと鳴った。
指先で喉元に触れると、微かに喉仏が動いて、己の唾液が深夜の中に流れ込んでいっているのを意識する。
激しく興奮した。他人の穢れた欲望を、必死に受け入れようと喘ぐ深夜に、支配欲が煽られる。
愛おしいと思った。
まさにそれは、深夜が己の欲望を受け止め、赦してくれる瞬間だ。
ひどく苦しげな表情を見つめながら、それでも最後は名残を惜しむように、ちゅ、と音を立てて、啄むように唇の端に何度もキス。深夜の目元は赤く、そうして今にも腰が砕けそうだ。
とろんとした瞳、もう、深夜は既に快楽の虜。
漸く視線を絡ませると、彼は更に頬を赤く染めて、つい、と顔を背けた。
明らかに、照れたような態度。
これから始まる、強く激しい、己の心の中をかき乱されるような、苦おしく甘い痛みを伴う快楽。
それを想像すれば、嫌でも身体は熱を持ってしまう。
ましてや、経験のない身体ではない。
グレンに抱かれることに完全に慣れてしまった身体は、これから始まる行為を拒む術を知らなかった。

「んっ・・・グレン、激しすぎ・・・」
「お前が誘ったんだろ?」
「人聞きが悪いよ。僕はただ」
「プレゼント。欲しかったんだろ?」
「これが?」
「・・・足りないか?」

わかっていて、グレンはそういう。
にやりと笑う不敵な顔立ちを、直視することができない。
深夜は濡れそぼった己の唇を手の甲で拭いながら、なんとか自力で再びグレンの部屋へと歩いていった。
幸い、もう数歩歩けば、グレンの部屋だ。
グレンが部屋に押し込むように深夜の背を押し、そうして自分もまた、身体を滑り込ませて厳重に鍵をかける。
侵入者が怖いのではない。
誰にも邪魔をされたくない行為を、これからするからだ。

「・・・グレン。来て」
「仰せのままに。王子様?」

さらりとした手触りの良い髪に指先を絡めて、引き寄せるようにして再びキスをする。
どちらからともなくベッドに雪崩れ込み、グレンは深夜の上に軽く乗り上げるようにしてキスを絡めた。
先ほどよりは激しくなく、確かめるような口づけ、けれどその分、意識を下肢の方に持っていく。
深夜の両足の間に膝を割り込ませ、それとなく下肢を開かせれば、当然のように自己主張を始めている彼の雄の証。
それでも今では、少し刺激を与えるだけで、先走りのカウパーが溢れ出してくる。
もじもじと身体を捩ってしまうのは、折角の白いタキシードを汚したくないからか。

「んっ・・・やだ、汚しちゃう・・・」
「せっかくだ、どろどろにしてやろうか」
「っば、か・・・いいから、早く脱がせろ・・・っ!!」
「そのくらい、自分で脱げよ、王子様。」

そう言いつつも、グレンの掌は前を緩めた深夜の下肢に入り込む。
するりと掌を滑り込ませ、そのまま一気にボトムスを脱がせてしまう。
床に投げ捨てようと思ったが、生地が生地だったため、思い直して横の机の椅子に軽く投げかけた。このくらいなら、一晩置いてもなんとか大丈夫だろう。ついでに、上着の背広も一緒に取り去ってしまう。あとはリボンと、シャツと、下は少し情けない恰好だが、パンツと、そして白い靴下。
男前な革靴は、ひとつキスをして取り去ってしまった。素肌に白い靴下は妙にえろいと思う。
歯だけでゆっくりと足首から素肌を晒していく。脱がしかけのままで、現れた踝の下に吸いつくようにキス。それから更に舌で濡れた道を作っていき、すっかりと靴下を脱がしてしまった。

「あ、やだ、汚いって・・・くすぐったいし・・・」
「我慢しろ」

深夜の弱いところは、足裏の中でも土踏まずの部分。掌で押し込むようにマッサージしながら、
唾液のぬめりを足裏全体に広げていく。
深夜がくすぐったさに身を捩っているのを見つめながら、そのまま足を抱えて、膝が胸に突くほど身体を折り曲げる。ひざ裏を舌でべとべとになるまで舐めては、吸いつくようにキス。
普段、こんなところに痕をつけるようなタイプではないだけに、恥ずかしさも相まってひどく興奮する。
8年間、これでも結構いろいろなセックスをしてきたと思うが、
それでもグレンとのセックスで新たな発見があると、どうしても身体が疼いてしまう。
グレンは何度も何度も、足の先から内股までの足のラインを掌で辿っていた。滑らかな肌の感触を味わうように。抵抗できない深夜は喘ぐだけだ。
彼より若干細い、あまり筋肉のつかない足。
しかも、肌の色素も薄く、こちらのほうが幾分病弱そうだ。決してそんなことはないはずなのだが、幼い頃は、この女のような容姿に、少しだけコンプレックスがあったものだ。
けれどこうしてグレンが愛してくれるのなら、きっと意味のあるカラダなのだろう。
両足の柔肌に存分に口づけて、そうして内股の弱い皮膚の部分にも、充血する程強い所有印を与えていく。

「っ…あ、あ、アト、ついちゃう・・・」
「よく似合ってるぜ」

白磁のような、滑らかで白い肌に、赤い痕がひどく映えた。白一面に落ちた櫻の花びらの様。深夜の足の間では、もう既に彼の雄が天を向き、窮屈そうにボクサーの中で喘いでいる。
ボクサーパンツの前はカウパーが染み出ていて、あまりの可愛らしさにグレンは思わず指先で触れてしまった。
深夜は唇を噛み締めているが、敢えて、滲み出た部分に更にキスを加え、上から玉袋もやんわりと掌に包み込んでいく。

「どうだ、深夜」
「っ、く、るしいよ・・・パンツ、脱ぎたい・・・」

普段、セオリー通り、上半身からの愛撫が多いだけに、今日の嗜好は彼にとっては戸惑うことも多かったかもしれない。だが、彼の下着の中では、激しく興奮した己を隠しきれず、自己主張している。
布越しから、指先で愛撫するだけで、
あとからあとからにじみ出てくる快楽の証。軽く指先で弾くと、深夜の口元から、ひゃんっ、と甘い声音が上がる。
そんな彼見下ろして少し笑うと、もう既に顔を真っ赤に染めた深夜が、ひどく非難するような表情を向けてくる。
本当に可愛らしいと思った。
いつもの飄々としている顔より、ずっと綺麗だと思う。
素直で、自分を取り繕えない、深夜の本当の顔。
ましてや、それは自分だけに向けられたものなのだ。
ぞくりと、下肢が疼く。
いい加減、自分もまた、吐き出したい欲望が自制心を超えそうだ。

「・・・キス、してやろうか」
「っん・・・いい、けど・・・直接、してよ・・・」

もどかしい刺激がどうしても辛いのか、両足を揺らすようにしながら、なんとか掌で脱ごうとしているようだが、
もちろん、グレンはそんな掌をシーツに縫い止めてしまう。
ぎゅ、と掌を握り締めたまま、じんわりと滲んで色濃くなっている深夜の雄の先端部分に、布越しからキスを与えた。
亀頭を呑み込むようにして、ぐりぐりと歯や唇で刺激を与えてやれば、
深夜の声音が一段と激しくなる。
身の捩り方が激しくなった。これでは、未だに着ている上半身のシャツは、もう既にぐしゃぐしゃかもしれない。
グレンは苦笑した。
更に両ひざを胸元に付くほどまで折り曲げ、そうしてゆっくりとそこを開かせた。
見られている羞恥と、誰にもみせない場所を晒されているという羞恥。
ましてそこは、布に覆われていて、深夜は惑乱するしかない。

「あ、あ、グレ、も、やだ…っ」
「何が嫌なんだ?」

いやに優しく響くグレンの声音が、ひどくイライラする。
けれど、その自分のイライラに付き合っている余裕もなどもう既になくて。

「布・・・やだ・・・ちゃんと、・・・」

触って、とは言えずに口ごもる深夜が愛おしいと思う。
目元を濡らして、抑えたくて唇を噛み締めては、すぐに解けて甘い声音を上げてしまう深夜に、グレンは少し笑って言った。

「ちゃんと?・・・どうして欲しいんだ?」
「・・・っも・・・ちゃんと、触ってよ・・・グレンっ・・・」
「じゃあ、これがお前の欲しかったプレゼントか?」
「・・・っ、はぁ・・・?」

まさか、ここで。
ここで先ほどの話題を出されるとは思ってもみなかった深夜である。
セックスで散々焦らされたあげく、
昂ぶった雄を直接刺激してくれることがプレゼントとか、本当に意味が解らない。
第一、いつだってやってもらってるのだから、こんなもの、プレゼントとしてはまったく意味がないものだ。
だが・・・
少なくとも、グレンは本気らしい。
ちらちらと指先でその尿道口の部分を抉られる度に、
理性が削られてしまう。
欲しくて欲しくて堪らない刺激。
直接触らせてくれないグレンは、本当に意地悪だと思った。

「っ・・・グレンの、馬鹿・・・」
「はは。お前が可愛すぎるんだよ。・・・じゃ、愛しい王子様のために、精一杯頑張ってやるよ」
「っあ、あ、」

少しだけボクサーパンツを擦り下ろして、竿だけを露出させる。敢えて玉袋は布の中に残し、このまま指でやわやわと揉みしだきながら、もう完璧に勃起している深夜の雄と口内に含み始めた。
初めは亀頭の辺りを舌ではなく、口内の粘膜で刺激を与える。それからいったん唇を離し、天を向くそれの血管に沿って、ざらりと舌で刺激を与えていく。
ただでさえ限界だった深夜の雄は、すぐに脱落しそうになり、
深夜はいやいやと首を振ってしまった。
慌てて、グレンの頭を押さえる。
ぎゅ、と髪を握られて、そういう刺激も、とてもかわいらしい反応だ。

「・・・グレ、もう、イっちゃいそ・・・」
「ああ。いいぜ?飲んでやるよ」
「っそ、そういう事・・・っ、いうな・・・!!」

恥ずかしい。どうしようもない位に、身が千切れそうな程の羞恥を覚えた。
己の下肢を見やれば、あの男らしいグレンが、自分の砲身にしゃぶりついて、あまつさえ口内で受け止めてくれるというのだ。
そんな光景を想像して、一気に腰が疼いてしまう。

「っぐれん、もう、やばいっ・・・!!」

やばい、と、そう思ったつぎの瞬間、
もはや、深夜には我慢する余裕などなかった。
グレンはより一層、深夜の砲身を喉の奥に呑み込んでいたから、
深夜の精液は、グレンの口腔内にべっとりと絡みついていた。
眉を寄せたグレンの口元から、少しだけ苦しげな呻き声が上がったが、けれどそれだけ。
はぁはぁと激しく息をつく深夜は、グレンが己の情欲をしっかりと受け止めていることを、信じられない思いで見つめていた。
口の端に溢れる白濁もほとんどなかった。そのかわり、大きく喉が動く。
完全に嚥下した証だ。

「っ・・・グレ、本当に・・・飲んでくれたの?」
「・・・あ?まぁ飲めないことはないが・・・やっぱ不味いな」
「当たり前だろ!?」
「あんだけ甘いもん食ってりゃ、精液も甘くなるかなって」
「なるわけないだろ!馬鹿なの?」
「はは」


欲望を吐き出したせいで、すこし余裕が出てきた深夜にグレンは笑ってしまった。
本当に、素直で可愛らしい。
こういう深夜だからこそ、甘やかしてやりたいと思えるのだ。
快楽に従順で、貪欲な彼。グレンは更にもう一段階下着を擦り下げて、
今度こそ彼の一番敏感な箇所を探っていく。
そこは既に、激しい快楽の予感のせいか、内部からじんわりと腸液がにじみ出ているようだった。
グレンの指1本くらいなら、今は余裕で侵入を許してしまう。

「っあ・・・、優しくして・・・」
「なんだよ、激しい方が好みだろ?」

つぷりと侵入させた指で、ぐりぐりと奥を刺激すると、奥の上側の辺りに、ぷっくりと大きくなっている前立腺を見つける。
何度もぐりぐりと指先を押し付ける感覚に、深夜が身体を捩ろうとするが、
当然、それは許さない。
2本目を挿入する。少しだけキツそうに表情を歪める深夜に、けれど押し込んだ指先でナカを拡げるように。あれだけ慣らされているくせに、きちんと侵入者に反応する肉襞を、指先で拡げるようにして撫でていく。強い刺激に、勝手に収縮してしまうその平滑筋の激しい締まりと、
そうして深夜が無意識に力を込めてしまう括約筋の2つの不規則な感覚が、グレンは結構好きだった。
こうして、深夜の切なそうに顔を歪める表情を見つめながら、時間を忘れて弄り倒していても楽しいくらいだったが、

「っ、グレ、もう、我慢できなっ・・・」
「欲しいのか?」
「んっ・・・欲しい・・・っ、グレンのっ、」

震える掌が伸ばされて、グレンの雄が欲しいと、そう訴える。
グレンは軍服のベルトとジッパーを下ろし、下肢を寛げると、もうこちらもはち切れんばかりに血流が流れ込んでいる熱塊を取り出した。
深夜は悲鳴こそあげなかったが、恐る恐る、といった風に両掌にそれを包み込ませている。
何度見ても、何回しても、この瞬間だけは慣れるものではなかった。
なにせ、グレンのそれは、硬度は高いわ、サイズも日本人の平均をこえているわで、深夜にとっては凶器そのもので。
何度見ても、自分のナカにこれが入り込めるとは、到底思えない。
けれど、

「グレン・・・早く、」
「ああ、」

上がる息の中、必死に欲しいと訴える。
グレンが、というよりは、自ら掌の中の雄を下肢に宛がい、その熱く重い感触に身悶えた。ぐっとひざ裏に力がこめられ、尻が持ちあがる。
グレンは膝立ちになり、自分の身体がきついくらいに折り曲げられた。
深夜の目の前には、赤黒く脈動を繰り返す男の証。息を呑む。
だがそれは、深夜自身が望んだ、グレンそのものだった。
自分の中に、グレン自身を受け入れることができるという、一種の陶酔感だ。完全に一つになれたという、錯覚。
一個の人間である以上、絶対に無理な話でも、この瞬間だけは、きっと共にあるのだと思える。

「っ深夜・・・お前の中、いつも以上に熱いな・・・」
「んんっ・・・グレンのも、すごいよ・・・?」

ゆっくりと、内部の感覚を味わうように侵入してくる雄の感覚を、こちらも一心に感じようと瞳を閉じる。
グレンの雄の脈動と、自分の心臓の音が完全にシンクロしていて、
もはや別の人間のものには思えない。
自分のものだった。
グレンは、自分のもの。
そうしてきっと、自分もまた、グレンのモノだと、
そう思うだけで、一気に快感が高まっていく。
掌で支えていたグレンの雄が、半分以上まで呑み込まれてしまい、
あとは彼の背を抱き締め、縋るように首に腕を回した。

「グレ・・・グレン、グレンっっ・・・!」
「深夜・・・」

もはや、言葉を紡ぐことなどできない。
求めるように名前を呼んで、そうして必死にしがみ付くだけだ。
汗ばんだ肌が吸い付いて、べたべたする程。
ぎゅ、と瞳を閉じている深夜の瞼に1つ口づけてから、軽く腰を引く。
グレンもまた、限界が近いらしかった。足を拡げる指先の力を更に込めて、そうして最奥を求める度合を強めていく。
最初から大胆な動き、最奥を貫いたかと思えば、ずるりと音がするほど腰を引き、そうして一気に貫いていく。
深夜の肉襞が、悲鳴を上げていた。充血し、腫れ上がり、グレンの一番太いカリの部分が通るときには、一瞬完全に襞が消えてしまう程。
それでも、痛みより勝る快楽に、溺れていく。
グレンとのセックスの時に、他のことを考える余裕などまったくなかった。
うっすらと瞳を開けると、間近にあるグレンの顔が、
ひどく男らしく歪んでいて、ああ、彼もイきたいのだ、とわかる。
そして、こんな自分に欲望を露わにしている彼が、本当に愛しいと思うのだ。
嬉しくて、思わず笑みが零れてしまう。
鼻からも口元からも、漏れだすのは吐息と甘い声音。
グレンに最奥を貫かれる度に、止まらない嬌声。
恥ずかしいと思った時期は、とうに過ぎてしまった。
グレンにはすべて聞かれているのだから。
今は、何も考えず、彼の与えてくれる感覚に溺れてしまいたいと思う。

「グレン・・・も、イきたい」
「ああ、深夜。俺もだ」
「んっ・・・中に、頂戴?」

快楽に飲まれた表情のまま、グレンが欲しいと訴える。
涎を頬に零したままで、焦点だってどこを見ているかわからない。
だが、これは確実に、強く激しい快楽のせい。
グレンはラストスパートをかけるべく、深夜の腰を掴み、何度も引き寄せるようにして中を抉った。
反り返った己の雄で、深夜の一番感じる箇所を、何度も擦り上げれば、
彼は簡単に脱落する。ぎゅ、と深夜の雄も握り締めて、
タイミングを合わせれば、一緒に行くことも全然余裕だった。
そして、今もまた。
もう、いい加減、吐き出したくて仕方がなくて。

「深夜・・・中に、だすぞっ・・・!」
「うんっ・・・欲しい・・・!めちゃくちゃにして、ぁ、!!」

擦り上げられるたびに促される収縮が、グレンを絶頂の瞬間に導いていく。
唇を噛み締めたままの、苦しげな呻き声と共に、
身体の奥にたたきつけられるような熱い飛沫。その感覚がどうしようもなく酩酊感を与えるもので、
深夜は自分の砲身が解放しているのすら気づかなかった。
ただ、声が漏れるままに喘いでしまう。
脳天を貫くような衝撃の快楽と、内部から蕩けだしてしまいそうな程の、
甘い快感。
グレンの押し込んだままのそこから、彼の精液が漏れだしてくることに、
深夜は疲れ切った表情のまま笑った。
この、下肢を穢すべとべとの感触こそが、彼の精を受け止めた証だったから。
それに、こうして欲望を吐き出したグレンが、身体の力を抜いたまま自分に体重を預けてくるのが、
ひどく心地いいと思った。
彼の背を抱き締めれば、けだるげな彼もまた、片腕で深夜の頭を抱え、そうして惰性でキスをしてくれる。
それが、本当に幸せだった。
こうして2人切りの夜を過ごせるなんて、本当に。
幸せだと思った。
未だに身体の力は抜けたままで、けれど明日は1日休暇。
このままなし崩しに寝てしまっても、誰も何も言わない、平和な朝が来るだろう。
首だけ揺らして、グレンを見やった。
彼もまた、瞳を閉じたまま、余韻に浸っているようだった。
そんな彼の表情に、また嬉しくて堪らなくなる。

「・・・ああ、なんかすっごい・・・最高にヨかった」

彼の手のひらをぎゅ、と握り締めて、指先を絡めてみる。
いつもはあまりしてくれない指を絡ませる繋ぎ方を、今のグレンはちゃんと許してくれていた。

「誕生日だからな」
「特別サービス?」
「まぁな」
「って、なんかグレンのほうが得した気がするけどさ。結構君主導だったし」
「あ?そんなことないだろ。お前は終始欲しがってたじゃないか。またお返ししてもらわないとだな」
「ええ〜〜〜!?もう勘弁してよ〜〜〜」

言葉の内容とは裏腹に、笑みが零れるのを止められない。
再び、グレンの身体にぎゅ、としがみ付く。

「・・・ねぇグレン、明日は何する?」
「考えてねぇよ。お前のしたいことに付き合ってやる」
「やった!」

常々、行きたい行きたいと騒いでいた場所を思い出して、深夜は満面の笑みを浮かべた。
まぁ、たまにはいいだろう。グレンは肩を竦めて、腕の中の彼を抱き締めた。
今はこんな彼の、幸せそうな表情を見ていられるだけで、
自分も幸せだと思ったから。
仲間の皆には悪いが、明日も1日、自分が深夜を独り占めするのも悪くないだろう。

「グレン・・大好きだよ?」
「ああ。俺もだ」

あれほど激しい行為をしてきたくせに、深夜の微笑みはひどく清楚な気がして、美しいと思う。
腕の中で、再び誘う様に己の肌蹴た胸元に口づけてくる彼に、グレンは苦笑した。
時計を見遣れば、今はまだ夜中の2時。
どうせ、まだまだ朝までは時間があるのだ。となれば、このまま2ラウンド目に突入するのも悪くはないだろう。
そんな自分の欲深な考えに、思わず声を上げて笑ってしまった。
顔を上げた深夜に、意味深に口づけて、そうして、くしゃくしゃになったシャツを取り去り、ベッドの下にぱさりと落とす。
素肌に纏っているのはもはやピンクのリボンだけ。生まれたままの姿の彼に、再び興奮が隠せない。

「ふふ、グレンは本当に変態だね?」
「その変態に見られて、ココをこんなにするお前も、十分変態だがなぁ?」

既に3度目の芯を持ち始めている深夜のそれにそっと触れて、やわやわと刺激すれば、
深夜は躊躇いなく甘い悲鳴を上げて、そうして自分の胸にしがみついてくる。
今度は自分にまたがるようにして、汗に濡れた銀糸を揺らす深夜は、ひどく綺麗だと思った。
再び腕の中の彼の頬に口づけて。そうして、耳元でそっと囁いてみる。

「誕生日おめでとう、深夜。」
「ん。ありがと。君に言われるのが一番うれしい。」

うっとりと微笑む彼に堪らなくなり、何度目か既に分からない激しいキスが絡み合う。
ぞくりと疼く身体の熱、ああ、やはり、まだまだ離すわけにはいかない。
きっと、明日の朝は昼になっているだろう。もういっそ、1日中ずっとベッドで過ごすのも悪くないと
本気でそう思ってしまう自分に、グレンはもはや呆れるしかなかった。

「まだまだ、お前に渡したいモノはたくさん残ってる。・・・ちゃんと受け止めてくれよ?深夜」

恥ずかしげに身を捩る深夜は、それでもうっとりと笑ってくれるから、
いよいよ欲望は止まらない。
先程つけたばかりの首筋のキスマークを再び唇でなぞりながら、
グレンは再び己の素直な感情に身を委ねたのだった。





end.






Update:2015/11/22/SUN by BLUE

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