Triangle



試運転も出来ないまま乗り込んだスカイグラスパー。
度重なるアークエンジェルへの攻撃に耐え切れず、整備も不完全なまま出撃したそれに、
たった一つだけだがあまりに致命的な欠陥を見つけたのは、アークエンジェルから遠く離れた、敵軍―レセップスの本拠地の上空だった。
さぁっと血の気が引く感覚。
こんな戦場にいるのだから死を目の前にすることなど慣れていると思っていたのに、今改めてはっきりと死を意識したフラガは思わず体を震わせた。
迫る敵機。だがそれを撃ち落そうと無理をすれば、このグラスパーさえも壊れてしまう。
その一瞬の心の揺らぎが、彼を敗北させた。
後部から煙を吐いて傾く機体。それを双眼鏡で見ていたザフトの指揮官バルトフェルドは、口元に笑みを浮かべる。
不時着したその場所に、彼は部下を連れて赴いた。

「・・・やっぱり、な」

小さく呟いて、気を失うそのパイロットを抱え上げる。
それから、男は味方機の帰投を命じた。
戦闘の目的は達成した、とばかりににやりと笑う。





「よぉ。目が覚めたか?」

はっと体を起こすと、途端ズキズキと痛む節々にフラガは顔をしかめた。
自分を覗き込むこの男には、見覚えがある。
『砂漠の虎』―そう異名をもつ男は、驚くフラガににっ、と笑みを浮かべた。

「お前、あのムウ・ラ・フラガだろ?」

『あの』という言葉に、何か引っかかりを覚える。
改めて目の前の男を睨みつけると、アンドリュー・バルトフェルド―アンディは声を上げて笑った。

「その顔じゃ、そのようだな。ゼロが出ないから、はっきりはしなかったんだけど・・・と」

フラガの両手首を掴み、伸し上がる。気付けば唇を塞がれていて、あまりのことにフラガは目を見開いた。

「ん・・・うっ・・・!」

けれど、痛む体では抵抗もままならない。その上、圧倒的な力の差は、もはやどうしようもなかった。
じたばたと暴れる足を自分の身体で押さえ付けて見下ろす瞳は、獰猛な野獣の光を放っている。
自分が今どういう状況におかれているのかを知って、フラガは身を震わせた。
死の恐怖とは別の―、自分の守ってきたものやプライドを全て剥ぎ取られるような。

「・・・やめろっ!」

渾身の力で男の手を跳ね除けようとする。
逃げられるわけもないことぐらい明らかなのに、それでも往生際の悪い彼に、アンディはひどく楽しそうな笑みを浮かベた。
押さえ付けていた腕を片手だけで頭上に縫い止め、フラガの腰から外したべルトで両手首を拘束する。

「・・・く・・・!やめ、ろ・・・」
「固いこと言うなって。減るモンでもあるまいし」

無防備になった胸元に手を這わせる。フラガが息を詰めるのも気にせずシャツの裾を引っ張り出した。
たくし上げれば、淡く色づいたそれが露わになる。
予想していたよりも華奢な印象の肌に、アンディはひゅう、と口笛を吹いた。

「見た目より痩せてんだな、お前さん。・・・可愛いぜ」

男に可愛いと言われて、嬉しいはずがない。フラガはぎりぎりと唇を噛んだ。
鋭い眼光は、まっすぐに男を貫く。
その抵抗を露わにする青の瞳に向けて、男はにやり、と笑みを浮かべた。

「往生際の悪い奴。」

胸元に顔を埋める。フラガのそれが、生暖かな感触に包まれる。
片方を唇で吸われ、もう片方を指先で弄ばれて羞恥と共に快感が駆け抜けた。
思わず背を仰け反らせれば、すかさず腰に腕が回されてくる。

「・・・っ」
「んー。イイねぇ、感度の良いヤツは。ったく、あいつにゃもったいねぇカラダだぜ」
「な、に・・・?」

その言葉に、フラガの体が強張った。
あいつ―というのがクルーゼを指しているのだ、と直感する。
自分たちの関係がばれている・・・そのことが恐ろしかった。

「・・・ん?そんな顔すんなって。お前さんがあのクルーゼのお手付きだってことくらい知ってんだ。ま、俺だけだけだから心配するなよ。」

謎めいた顔で笑い、一端上げた顔をまた埋める。執拗な愛撫に苛まされるフラガは、腰に回された手がボトムと肌の隙間に入り込んでくるのを感じて身を竦ませた。

「・・・ま、クルーゼにゃ手を出すな、って言われたけどさ・・・、」

言葉を切って、フラガを覗き込む。
組み敷いた存在の目の前で右手の中指をピンと立て、アンディは挑戦的な視線を向けた。

「コックならいいだろ?」
「―――――っ!」

恐怖と怒りに体が震える。
けれど、今のフラガには何の抵抗も出来なかった。
体はギシギシと痛みを訴え、体を動かすことさえ本当は億劫だというのに。

「くっ・・・、こんなことをして何になる・・・!」
「何って、お・た・の・し・み、に決まってるだろう」

人を人とも思っていないように弄ぶ。後ろに回された手で下着ごとボトムを脱がされ、フラガは息を飲んだ。
クルーゼ以外の誰にも晒していなかった体を無理に他人に暴かれ、恥ずかしさとともに怒りが込み上げてくる。
しかし、全身で拒絶を訴える体も声も全てを手に持つ男のほうが、優位に立っているのは当然で。
フラガは強く唇を噛み締め、現実を見たくないかのように横を向いた。
頬を染めながら、与えられる屈辱に耐えようとするその姿が、より彼を抱く男の情欲を煽る。
下肢の間で震える彼自身に手を添えると、ビクッと全身を波立たせてフラガが反応した。

「や・・・め、っ・・・!」

拒絶の言葉が漏れる前に、アンディがフラガの唇を塞ぎにかかる。
最後の抵抗の場さえ奪われ、フラガは眉を寄せた。
その合間に、アンディの手は彼自身を弄び始める。
根元から先端までを強く擦り上げてやれば、それに促されより硬さを増していった。

「んう・・・っ!」
「・・・やっぱオトコだな。もうこんなになってる」

先端からにじみ出てくるぬめりを掬って砲身になすりつける。
滑りを増したそれを激しく擦り上げてやれば、フラガの目尻から涙が零れた。
限界まで張り詰めたそれは、もはや理性では抑えられないほどに解放を訴えてくる。
クルーゼ以外の男に体を開かされ、しかも今にも達しそうになっている自分がやり切れなかった。
クルーゼは知っているのだろうか?
自分が、この男に犯されていることを?

「んう・・・っ・・・ク・・・!」
「・・・お前さんも健気なヤツだなー。あんなヤツに操立てて楽しいか?」

こんなになってるのにさ、と耳元で囁かれる。
偽りの甘い誘惑の言葉に、フラガは聞きたくないとばかりに首を激しく振った。
汗に濡れた髪や肌が周囲に水滴を飛び散らせている。
精一杯拒絶を表しながらも、体の内部では情欲が荒れていることを感じたアンディは、
開いているほうの手をフラガの片足の膝裏に差し込み、そのまま片足を上げさせて自分の肩にかけた。
自分の欲望の的を、目の前に晒させる。
秘められた場所を露わにされ、フラガはあまりの羞恥に目を覆った。

「ん〜予想以上に上物だねぇ。楽しませてもらおうか」
「.・・・やめろっ!!」

拒絶の声は、絶望的とも言える色に満ちている。
もはや懇願と化したそれを舌で絡め取り、アンディはにやりと笑った。
今まで彼自身を弄んでいた指先が、濡れたままフラガの秘孔に入り込んでくる。
異常な異物感とその指の太さに、フラガは恐怖を覚えた。
下肢がより開かされ、指先は奥を目指して体内で蠢いている。
心は嫌悪感で一杯だというのに、指の根元まで差し込まれ、内部で指を曲げられた時、フラガは思わず声を上げていた。

「んあっ・・・!」
「へぇ。ここで感じるんだな。」
「や・・・!」

アンディが面白がってそこを集中的に刺激してやる。
前立腺のちょうど裏側を指先で弄ばれ、フラガの前がまた硬さを増していた。
濡れる砲身を、もう一方の手で包み込む。

「は・・・っあ・・・!」

視界が霞む。前後を責められ、もはや耐えるのも限界だ。
それでもなお逃れようと身を捩るフラガの手首が、ベルトで擦られ真っ赤な痕を残していた。

「・・・っ・・・!」
「ったく、素直になれよな。こんなに溜めてちゃ、カラダに毒だぜ?」

からかうような口調と共に、促すような絶妙な指の動きが彼を襲う。
ついに箍の外れた彼の欲は、唯一の男以外の存在にまで解放を許していた。

「っああ・・・!」

のけぞった体が、深くシーツに沈み込む。放心したような彼を、アンディは覗き込んだ。
微かに開いた唇や、眉の扇情的な様子に、口の端を持ち上げる。
瞳を宙に彷徨わせ、全身の力さえ抜けたフラガの体をうつ伏せにさせた男は、その腰を抱え上げて、濡れそぼった彼のそこに自身を宛がった。

「ふ・・・。ちっと我慢しろよ?」

熱く灼けた鋼のように硬いそれが自分の体を引き裂いていくような痛みと恐怖に、フラガは体を震わせる。
逃げ場さえ失ったからだは、もはやそれを大人しく享受する以外に道はなかった。
それでも、心だけは流されまいと、フラガの指先がきつくシーツを噛む。
その瞬間、男は容赦なく侵入してきた。

「くあ――――・・・・!」

あまりの痛みに、声さえも出ない。
感じたこともない大きさのそれに圧迫され、内臓が悲鳴を上げていた。
逃げたくて、逃れたくて、それでもガシリと掴まれた腰は言うことをきかない。

「や・・・めっ・・・・・・・!」
「その前に、力に抜けって。全く、初めてでもないくせによ・・・」

痛みに萎える彼自身を、アンディは弄ぶ。
拒絶しか訴えていなかった彼の体は、その包み込む手の暖かさに少し安堵したように強張りを和らげた。
それを見計らって、再度奥まで貫く。
とても見目には受け入れられそうになかったそれは、さきほどフラガが放った体液と砲身の先端のぬめりに助けられ、今は彼の内部へと収まっていた。

「・・・あ、はっ・・・く・・・!」
「・・・ん、イイ体。手放しとくにはもったいないね」

笑いを含んだ声を浴びせられ、フラガの頬が真っ赤に染まる。
男の割にはキメの細かな白い肌に口付け、彼の熱を煽った。
首筋を舐め上げてやれば、細い喉を晒して体を仰け反らせる。
抵抗など忘れてしまったかのようなその姿に満足げに目を細めて、より激しく腰を進めた。

「あ・・・っは・・・、っ・・・」

出し入れされる度に聞こえる粘液の弾ける音が、部屋に響いている。
獣のような格好で男を受け入れていることに、フラガはたまらない羞恥と屈辱を感じた。
それでも、慣らされた体は意思に反して熱を放ち、一端外れた箍はもはや元に戻るはずもなく。
前に回された彼の手が、張り詰めたそれに緩やかな刺激を与える感覚に、フラガはもはや呑まれそうになっていた。
(・・・クルーゼ・・・)
・・・お前のせいだ。
お前が、俺をこんな体にしたから。
クルーゼの顔を頭の片隅で思い浮かべ、フラガは彼を責めていた。
せめて彼のせいにでもしなければ、自分が壊れそうだった。

「・・・っ・・・!」

溢れる涙。それがシーツにぱたぱたっと落ちて染みをつくっていく。
フラガの限界を感じたアンディは、彼の最奥をひときわ強く貫いた。

「・・・っあああ!!」
「・・・っ」

瞬間、彼の内部がきつく締め付けられる。
それに促され、アンディもまたフラガの最奥に彼自身の欲を散らしたのだった。
















・・・気を失ってベッドに倒れ込むフラガをそのままに、アンディは机上の通信回線を開いた。
久しく使っていなかった気がするそれは、プラントにいるであろう同僚と自分を繋ぐモノ。
ヴェサリウスが帰投命令を受けているのは知っていたから、こちらでつかまるだろうと踏んでいた。
案の定、ものの数分で当の本人は現れた。

「お前か。ご無沙汰だな」
「そういうなって。これでも待ってたんだぜ?愛するお前がプラントに戻ってくるのをさ」

片目をつぶって、笑みを浮かべてみせる。こんな遊びが本当に好きな男だった。
クルーゼは仮面の奥であきれたように笑う。

「・・・抜かせ」
「あーあ、つれない奴。」
「何か用があったんじゃないのか?」

肩を竦めておどける男を、まっすぐに見つめる。
そのクルーゼの表情に、改めてにやり、と笑ったアンディは、机の上に冷えたコーヒーを手にした。
残りを一気に喉に流し込んで、クルーゼを見やる。

「やっぱお前とは熱いコーヒーが飲みたいね。一杯やんねぇ?」
「あいにくと、私は忙しいのでな」
「冷たい奴だな。そんなんじゃ、このコーヒーみてぇにほっとかれるぜ?」
「早く本題に入れ」

幾分不機嫌になった声音にやれやれ、とため息をついて、アンディは横に顔を向けた。
彼の視線の先には憔悴しきった地球軍の士官がいたが、当然ながらクルーゼの方からは見えない。

「こないだ、例の足付きがこっちの圏内に来たんだぜ。」
「知ってるさ。お前の部隊の割には苦戦したそうじゃないか」

軽く見下すような口調にも気にせず、アンディはにやにやと笑う。

「ああ。だが、そのかわりイイもんが手に入ったぜ」

その含みのある表情に、クルーゼは仮面の下で微かに眉根を寄せる。
彼の尋常でない勘が、それがムウ・ラ・フラガであることを悟らせた。
だからこそ、この男はわざわざ自分に言ってくるのだ。
内心の動揺を押し隠すために、クルーゼは口の端を持ち上げた。

「・・・全く、お前は相変わらずだな」
「そーでもねぇぜ。だが、今回はドクベツ。お前の、だからな」

人の悪い笑みを浮かべて、横のベッドを再度見やる。今度こそはっきりと彼の存在を意識して、クルーゼは机の下の拳を握り締めた。

「・・・手を出すなよ、といいたいところだが・・・、お前のことだ。もう遅いな」
「んー。なかなか美味だったぜ」
「当たり前だ」
「ま、とにかく当分は俺が預かっとくぜ。こいつもお前がいなくて寂しいーって啼いてるしな」
「丁重に扱え。それでもナチュラルなんだぞ」
「へいへい、っと。そう切ない顔すんなって。声くらいたまにゃ聞かせてやるからさ」

そして、一方的に通信は切れた。
沈黙が、彼の部屋に訪れる。
けれど、クルーゼは椅子に座ったまま、長い間動かなかった。

















・・・・・・まぁ、いい。
どこの誰ともわからぬ士官の手に渡るよりは、とりあえず信用のおける人間の手に渡るほうが安心だろう。
自分が捕まえられなかった―否、落とせなかった足付きに乗る彼が、そう簡単には捕まらないとは思っていたが―――。
クルーゼは一つため息を吐くと、やりかけだった報告書を作成するため、机の上の端末に意識を向けたのだった。










Update:2003/01/28/TUE by BLUE

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