たかが愛、されど愛。vol.4



「・・・口内炎?」

聞いてみればあまりに下らない理由に、
クルーゼは眉を顰めた。
言うまでもなくクルーゼはコーディネイターである。
元々体力的にナチュラルとは全く異なる彼が、当然口内炎などになったことはなく、
いまいちフラガの苦しみがわかっていない。

「大体、口の中が多少炎症を起こしているからって、そこまで痛いものか?」
「馬鹿野郎!!痛いに決まってんだろ?!!・・・あああ、しゃべったらまた痛ぇ・・・・・・」

またもや口を押さえて蹲るフラガに、
クルーゼは呆れたようにため息をついた。
だが、フラガはそれどころではない。
いままさに、フラガの口内炎はピークなのだ。
まさに痛みMAX。フラガの頬の内側には、白く膿がかったそれが直径1センチにも広がっていた。
それを、先ほどクルーゼの舌に強くなぞられたのだ。
ああ、想像するだけでも痛い。
フラガは今だなみだ目のまま呻き声を上げた。
基地の執務室でほとんどしゃべらなかった理由は、まさにこれのせいである。

・・・それにしても、
どう考えてみても、クルーゼには笑い話でしかなかった。
自分との逢瀬をふいにしようとした理由が、たった1センチの口内炎のせいだなんて。
必死に笑いをこらえていると、フラガに睨まれてしまう。

たかが口内炎、されど口内炎。

フラガは恨めしそうにクルーゼをみやった。
コーディネイターであるこの男には、絶対経験できない痛みだろうと思う。
この、ただ切ったとかすったとか、そういうものとはまったく別の、
だが今にも死にそうな気分になるこの痛み。
いやもちろん、銃で撃たれたとかそんなものとは比べてはいけないのだが・・・。

「おい、ムウ。ではその薬とかはないのか?」
「は?・・・ま、まぁあるにはあるけど・・・・・・」

はっきり言って口内炎の薬など効かないに等しい。
なぜなら口内の唾液でほとんどそれが流されてしまうからだ。
なんでだよ、と言いながらもごそごそと引き出しを漁る。
だが、次の瞬間はっとフラガは青ざめた。
けれど、もはやその時には遅く。
にやついたクルーゼの手には、口内炎の塗り薬。

「お、おい・・・何考えてっ・・・」
「そんなにひどい炎症なら、私が薬を塗ってやろうと思ってな。もちろん塗り薬だろう?」
「もちろん塗り薬だけど・・・ってオイ!!やめ・・・―――っ!!」

容赦ないクルーゼの腕から逃れられないまま。
薬を乗せたクルーゼの舌が、フラガの口内に侵入する。
そして、軽々とその傷口を見つけ、舌でなぞる。
あまりの痛みに、フラガはもはや泣くしかなかった。
先ほどよりも数十倍痛い。普通染みないハズの薬まで染みる気がした。
だというのに、クルーゼは嬉々としてフラガの口内を蹂躙している。
ああ、悪魔だ。サドだ。もう嫌だ。
泣き腫らした目で、フラガはクルーゼにしがみつく。

だから嫌だったのだ。
口内炎ごとき、と言われ行為を強要されたら非常に困る。
というか口内炎だってことすら言いたくなかったのに、この有様。
クルーゼから漸く口を離され、
フラガは再度口を押さえて床下にうずくまった。

ああもう、死にたい。

しかも、薬をつけて今だけ痛い思いをしたからといって、
これはそう簡単になおるものでもないのだ。
絶対あと1週間はかかる。それを考えて、フラガはまたもや再起不能に陥る。
誰か助けてくれぇ・・・(泣)
そう内心嘆いたとき、ふわりと身体が浮いた気がした。
クルーゼが自分の身体を持ち上げたのだ。
面食らったまま寝室に連れて行かれ、ベッドに下ろされる。
ちょっと待て。この状況は・・・っ・・・

「さて、薬も塗ったし、先ほどの続きと行こうか」
「なっ・・・やめろぉーーー!!!!」

飄々とした顔で行為の再開を宣言するクルーゼと、
口の痛みすら忘れ叫ぶフラガ。


そして結末はというと。






もちろん次の日の朝、フラガが布団から起き上がることはなかった。
散々いたぶられた腰の痛みと口内の痛みが彼を襲っていたのだ。
クルーゼに無理矢理薬を塗られた口内炎はというと、
相変わらず1センチ超のサイズでフラガのそこに居座っていた。
そしてこの休暇中、
良くなる兆候は全くなかったという。





口内炎、恐るべし。






end.







みなさーん、口内炎には海苔を貼りましょうね。保護できますよー。(地獄の苦しみ)




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Update:2004/08/29/SUN by BLUE

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