見えない光



〜cluze side〜


戦いが始まってから、
クルーゼは眠らなくなった。





プラントにある自室も、軍から与えられた艦内の部屋も、
自らに休息を与えるものではなかった。
コーディネイターである自分には、別に苦になることではないけれど、
たまに、使わなくなったべッドに座り、もの思いにふける自分がそこに居た。
眠らないのではない、眠れないのだ。
指揮官として考えねばならないことは沢山あったし、地球軍の襲撃を考えるとうかうか寝てもいられなかったけれど、
何より、この寝台は彼の眠りを誘う環境ではなかった。
(フラガ・・・・・・)
言葉にはしない。1人でいる時に、その名は呼ばないと決めている。
呼ベば、押さえていた感情が溢れ出しそうになるから。
目を瞑れば思い出せるように、
今となっては夢のような過去の日々はいつも心の中に。
彼と戦う時、何とも言えない高揚感を味わうのは、そのせいなのかもしれない。
けれど、
戦争など、闘技場のように囲まれた場所で行うものではないから、
地球軍の部隊の一大尉でしかない彼と出会うことなど、
偶然でしかあり得ない。
もしかしたら、
自分の知らない所で、死の息を吐いているのかもしれない。
そう思うと、自分の中の何かが壊れるような気がした。
何も出来ない自分。
愛する者へ手さえ伸ばしてやれない自分は、せめて祈るしかない。
彼が死なないように。
自分の知らない所で、知らぬまま死を迎えぬように。
そして、
またいつか、
彼と剣を交えることが出来るように。
願わくば、
過去の夢と同じように、互いを感じられる場所で命を落としますように―。
自分が彼の手によって殺されても、
彼を自分の手で殺しても、・・・構わない。
その一瞬、
もう一度互いの心は触れ合うことができるだろうから。
けれど、
その想いはこのマスクに隠したままで。


私はお前を殺してみせよう。
他人に穢されるお前など許さない。
お前は私の腕で壊れていけぱいい。

お前はどんなに離れていても私のものなのだから、
いつかこの手で殺して
私の元へ戻って来たお前の墓に
お前の好きだった花をそえてやろう。
いつか見た幸せなあの日の思い出を胸に抱いて、
私の傍で眠ればいい。
そうして初めて
私は安らぎに満ちた眠りにつけるに違いない・・・・・・







〜fraga side〜


手を伸ばせば、
いつも届く位置にいると思ってた。




ナチュラルとコーディネーターが、まださほど隔たりがなかった頃。
自分の傍には、クルーゼがいた。
自分は、反発しながらも、彼の与える熱に溺れて―。
幸せだった気がする。今じゃ、口に出すのもバカバカしいほどだけれど。
所詮、幸せなどはただの虚像であって、現に今は会えば剣を交えている。
共に居た頃とはあまりにかけ離れた冷徹な仮面に、何度息を飲んだことか。
・・・あんた、俺を忘れちまったのか?
会う度に、聞きたくなる。



仮面の裏の瞳の色を、
俺だけが知っている。
だからこそ、
仮面ごしに自分を射る鋭い視線が、余計に怖いのかもしれない。
いつか、もう一度2人切りになって、
あいつの素顔を見てやりたいけど、
多分、無理だろうなぁ。
奴の照準は外れない。
近づけば近づくほど、奴の銃口が自分の胸に狙いすまされる。
・・・なぁ、何考えてるんだ?
昔から あまり自分の感情を表に出す奴じゃなかったけど、
こんなに離れちまったら、全くわからないぜ。
ただ
お前の瞳は 俺に注がれ、
銃身は 俺の胸に。
死にたくないわけじゃないから、逃げる気はしないけど、
とりあえず、
俺が死んだら、
墓前にあの花を生けてくれるか?
シャルル・ド・ゴール―――濃いラべンダーのバラを。
本当は、花なんかガラじゃないけどさ。
忘れたく、ないだろ?お前の事・・・・・・









先は、見えない。
手を伸ばしても、目を凝らしても、先にあるのは闇ばかりだ。
それでも、
もっと近くへ、もっと傍へ、
互いが感じられる場所に少しでも近づけるように、
刹那の時を生きていく。
そうすれば、
いつかは光が見えるかもしれないから。




そう、いつか――――・・・・・・。





Update:2002/10/22/TUE by BLUE

小説リスト

PAGE TOP