約束
「久しぶりだな、フラガ」
「・・・クルーゼ・・・?」
地球圏に入ってから、久しく音沙汰のなかった通信機。
それからひどく懐かしい気のする男の声が聞こえ、フラガは目を見開いた。
あのままヴェサリウスを振り切って地球に降りてから、何日が経ったのか。
その間中ずっと定時メールを送り続けていたフラガは、やっと相手が応答してくれたことに安堵していた。
けれど、露骨にそれを見せるのはなんだか悔しくて。
「・・・んだよ今更・・・遅えっつーの」
咎めるような口調でそう返す。通信機の先の男は、その言葉にフフッと笑った。
無線ごしだというのに、傍で囁かれているのと全く変わらない低く澄んだ声が、フラガの耳に吹き込まれる。
それだけで、体の奥が熱くなった気がした。
「すまんな。こちらもバタバタと忙しくて、お前と2人切りになれる時間がなかなか取れなかった・・・。だが」
くすりと笑う気配。わけもなく胸がドキリとする。
「今夜はお前と一緒にいられるぞ」
「・・・っ」
甘い言葉に、フラガの頬がさっと染まる。目の前で言われているわけでもないのに、フラガは羞恥を感じて体を竦ませた。
そんな反応が手に取るように感じられ、クルーゼは口元を綻ばせた。
「・・・一緒ったって・・・どうせ傍にもいてくれないくせに」
腹いせに、軽くクルーゼを責めてみる。傍にいられないことくらい、承知の上なのに。
そんな子供のようなフラガをなだめるように、クルーゼは言った。
「私の心はいつでもお前の傍にいるぞ?フラガ。それとも・・・・・・」
言葉を切って、反応を窺う。それから、一段と声を落として、フラガに囁いた。
「心だけでは、不満か?」
「・・・!」
どこかニヤついた口調。フラガの状態などお見通しだとばかりに、クルーゼは誘いをかけた。
それを聞いて、フラガの中に辛うじて押しとどめていた欲が頭をもたげてくる。
体の中からせりがってくる熱が押さえきれないことを自覚して、フラガは絶句してしまった。
「フン・・・いつまで経っても子供のままだな」
「・・・・・・っバカ・・・」
通信機に悪態をついて、それでも熱は収まらない。
フラガは遠くにいるはずの想い人にすがりつくように、彼の男の名を呼んだ。
「・・・クルーゼ・・・!」
「不器用な男だな、お前は。・・・そんなになる前に、自分で慰めてやったらどうだ」
「っオレに一人でヤれって言うのかよ!!」
頬を真っ赤に染めて声を荒げるフラガ。誰も見ていないというのに恥ずかしがるそんな反応が、ひどく可愛らしい。
クルーゼはふふっと笑うと、フラガの耳元で囁いた。
「・・・そうだな。それとも・・・私に抱かれたいか・・・?」
「え・・・」
一層、フラガの中の熱が熱くなる。
そりゃあ、クルーゼを待ち焦がれていたのは事実だ。
だが、現実的に無理だとわかっていたから、その想いはねじ伏せていたのに。
「でも・・・どうやってだよ・・・」
「簡単なことだ。私の言うとおりにすればいい」
通話口に、唇を落とす。濡れた音が直接耳に入り、まるで耳を嬲られているような錯覚がフラガを襲った。
それだけで、体の力が抜けてしまうのはどうしてだろう。
「お前の言うとおりに・・・?」
「そう。お前がお前を抱くんじゃない。私の言葉に抱かれるんだ・・・」
甘く誘う声が、彼の理性を揺るがせる。
フラガは絨毯に座り込むと、厚く毛の立ったそれに足を投げ出した。
「・・・フラガ?」
「・・・・・・ああ、聞こえてるさ」
瞳を閉じる。ただクルーゼの声だけに、意識を集中させた。
頭の中まで染み渡るような低音。その声だけでイってしまいそうだ。
フラガの下肢はもはや完全に勃ち上がり、窮屈そうにズボンの前を押し上げていた。
「ふっ・・・可愛い奴だ。・・・まずは、服を脱げ」
「・・・っ」
恥ずかしそうに頬を染めたのち、ヤケくそになったのかバサバサと脱ぎ始める。
乱暴な衣擦れの音が聞こえて、クルーゼは顔を顰めた。
「・・・色気のない脱ぎ方だな。もっとゆっくりできんのか」
「はぁ?!!」
服を脱ぎかけのまま固まってしまう。そんな彼に、クルーゼは喉の奥で笑った。
記憶の中のフラガを頭に描いて、軽く目を細める。
「・・・シャツの中に手を入れて、手のひらで上へ辿っていけ・・・・・・」
「・・・!・・・」
脱ぎかけだった裾から手を差し入れ、ゆっくりと肌を辿っていく。滑らかな肌が外気に晒され、一瞬体がぶるりと震えた。
爪先が胸元の飾りにぶつかり、思わずといった風に洩れる声音。
「っや・・・!」
「もう感じているのか?今日はヤケに敏感だな」
「しっ、仕方な・・・!」
「ちゃんと摘まんで、弄れよ。お前の体だろう?フラガ」
意地の悪い言葉に、一層フラガの頬が染まる。けれど、理性より感情が刺激を欲していた。
恐る恐る、クルーゼが以前やってくれていたように自分のそれを摘まんでみる。
途端、彼の体が仰け反った。
「っは・・・!」
それに合わせて、弄んでいた突起がすぐに固くしこってくる。
いつになく反応の早い自分の体に、フラガもまた驚いていた。
淡い前戯に下肢が反応し下着の前部に染みを作っていることを自覚して、羞恥に顔を覆ってしまう。
声が多少くぐもったことに、クルーゼはにやりと笑った。
「・・・お前の下が泣いてるな」
図星を突かれ、あまりの恥ずかしさにいたたまれなくなる。
フラガは未だ衣服に包まれたそれを隠すようにして手のひらで包み込んだ。
「可哀想に、お前にほっとかれて涙を流してるとはな。・・・慰めてやらないのか?」
「・・・っ・・・」
体の中で、熱さが渦巻いている。けれど、自分でヌくにはどうしても抵抗があった。
唇を噛んで必死に耐えている様子のフラガに、クルーゼはやれやれと肩を竦めた。
「素直になれん奴だな。・・・まぁいい。そのまま、服越しでいいから弄んでみろ」
「・・・や・・・!」
「私の言うとおりにするんじゃなかったのか?」
「んなこと言ったって・・・!」
精一杯の抵抗を示すフラガは、しかしクルーゼの言葉に逃げ道を見出し、おずおずと手の中のそれを弄び始めた。
直接的な刺激でないだけに、もどかしさにフラガの腰が無意識に揺れる。
断続的な甘い声が通信機から聞こえ、クルーゼは笑みを浮かべた。
「・・・っあ・・・っ」
「どうだ?ヨくなってきたか?」
「くっ・・・やぁ・・・」
もはや、フラガに返答する余裕はない。
ただ体を支配する熱に翻弄され、何がなんだかわからなくなっていた。
クルーゼの言葉が、今では何の抵抗もなく彼の脳裏に響いてくる。
「フ・・・気持ち悪いだろう?早く脱いでしまうといい」
限りなく優しい声音。催眠術にかかったように、フラガの震える手が全ての衣服を取り去っていく。
白い絨毯に全裸を投げ出したフラガは、クルーゼの言われるまま剥き出しの下肢に手を這わせた。
蜜を零すそれに手が触れて、思わず声を上げてしまう。
「・・・あ・・・」
「ちゃんと可愛がってやれよ・・・まだ全然感じ足りてないだろうが」
「・・・っ・・・」
足りてないなんてどこでわかるんだ?!というフラガの内心の突っ込みも、奔流に流され訴えられるはずもなく。
クルーゼの言葉に抱かれるフラガは、次々に濡れていくそれをあきらめたように弄び始めた。
過去にクルーゼがしてくれたように、根元に指を絡ませ、砲身をゆっくりと擦り上げていく。
そのたびに、甘い吐息が漏れた。
しかし、その声にはまだ理性が残っている。
「・・・それじゃイけないだろう?まだ狂い方が足りないな・・・・・・」
「こ、こんなに・・・!」
ヤってるのに、まだ足りないというのか。
確かに、まだイけてはいなかったが、これ以上一人で乱れられるはずもないと思っていた。
だが、クルーゼはそれ以上を強要してくるのだ。
「指・・・濡らせよ」
「・・・・・・?!」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「痛い思いしたくないんだろう?だったら、自分で濡らさないとな・・・」
軽く笑う声音に、改めてフラガの全身がバラ色に染まる。
羞恥が彼を襲ったが、それ以上に解放を求める気持ちは強かった。
ゆっくりと指先を口内に挿れていく。3本がすっぽり入ったところで、一杯になった口元から濡れた音が漏れた。
通信機から洩れ聞こえる音が、ひどく淫靡だ。
クルーゼは口元を歪ませると、フラガの洩らす声と音に聞き入っていた。
だんだんとフラガの声が甘くなり、艶やかさを増してくる。
「もう、大丈夫だろう?」
「な、にが・・・」
自分の指を自分で濡らす行為に陶酔してしまっているのか、朦朧とした声が聞こえてくる。
乱れかけているフラガを感じて、クルーゼはにやりと笑った。
通話口に一層唇を近づけて、囁いてやる。
「ほら・・・挿れてみろ・・・お前のそこにな・・・・・・」
「・・・っ・・・!」
嫌だ、と首を振る。そんな気配に、クルーゼはなおもフラガを追い詰めた。
「・・・なら、達けないままだぞ?それでもいいのか・・・?」
「・・・・・・っ・・・」
クルーゼの言葉に、唇を噛み締める。
このまま、イけないままで終わりたくはなかった。けれど、今の状態ではカラダが足りないとざわめいている。
ついに、フラガは自分の濡らした指先を後ろに持っていった。
双丘の間にあるそこは、もはや待ちきれないのかひくついている。
おそるおそる襞に触れてみると、濡れそぼった指をきゅっと銜え込んできた。
「あ・・・・・・」
自分の意思ではない、反射的なそれが、自分ものではないような気がして。
フラガはどこか未知の世界に入り込むような感覚で、自分の指先を挿し入れた。
途端、熱い内壁が指にきつく絡み付いてくる。
異物感に、フラガは眉を寄せた。
「イイだろう?フラガ」
「・・・っ・・・よ、よくなんか・・・!」
ない。ただ痛くて、濡れた指の感触が気持ち悪くて。
そう訴えるが、クルーゼは聞き流すだけでくすりと笑った。
「そうか?なら、試しに指を曲げてみろ」
「・・・っ!」
奥に到達したところで指を曲げれば、内部で液体の弾ける濡れた音が漏れた。
そして、足にびくっと痺れが襲ってくる。それが全身にわたる快楽の根源だと気付いたフラガは、思わず声を上げていた。
「・・・や・・・クルーゼ・・・!」
「見つけたか?見つけたな・・・・・・」
「あっ・・・は・・・」
明らかに、先ほどの声とは違う甘さから、フラガが感じていることがはっきりとわかる。
全く、相変わらず後ろは人一倍感じる奴だな、とクルーゼは笑った。
彼の熱い中を、指先で掻き回してやりたい衝動に駆られる。
そうすれば、今彼が感じているであろうそれの何十倍もの快楽を与えてやれるのに。
「もっと中をかき回せ。イきたいんだろう?」
誘われるままに足を広げ、指先はより奥へと呑み込まれていく。
1本では寂しくなり指を増やすと、内部で蠢く指がまるで別の生き物のように思えた。
指が前立腺の裏側を掠めるたびに、もはや抑えきれない声が洩れてしまう。
「くあ・・・っ・・・!」
「いいぞ、フラガ・・・前も忘れるなよ?」
クルーゼに指摘され、すっかり忘れかけていた前にもう片方の手で触れてみる。
完全に張り詰め、もう解放を待つだけのそれは、簡単にフラガの手の中で蜜を零した。
「や・・・もう・・・クルーゼ・・・!!」
通信機の先の男にすがりつく。
イかせてくれ、と訴える彼がなんとも健気で仕方ない。
「限界か?いいぞ、達っても」
クルーゼに許され、一気に緊張が解ける。
思わず爪先がフラガの敏感な部分に触れ、気付けば視界が弾け飛んでいた。
「っあああ―っ!!!」
ドサリとフラガの体が支えを失い床に倒れ込む。
そんな彼を、クルーゼは静かに見守っていた。
しばらくすれば、小さくすすり泣きが聞こえてくる。
「・・・・・・フラガ?」
「・・・・・・・・・っバカ」
何度もいわれた気がする言葉に、クルーゼは口元を緩ませる。
自分のバカさ加減は言われずともわかっていたが、それでもフラガのこんなやりとりが好きだった。
せめてフラガの声だけでも聞けるなら、それでいいと思えるほどに。
「・・・バカクルーゼ。全っ然ヨくねぇよ・・・・・・こんな中途半端にしやがって・・・・・・」
泣き声とも取れる震える声音。
かえって欲を煽ってしまったのだろう。それは自分のせいだ。けれど。
「すまないな、フラガ。そのかわり、今度会いに行ってやる・・・」
「・・・え・・・」
フラガは耳を疑った。今プラントにいるであろう彼が、どうして来られるのか。
「あと7日したら、私も地球に降りる。だから・・・その時は」
唇を落とす。それは、フラガのためだけの甘いキス。
フラガは耳元でそれを受け止めた。
「・・・・・・きっとだぞ」
「ああ、約束する」
約束。こんな激動の時代だというのに、彼の約束は一度だって違えたことはない。
フラガはその言葉を、胸に刻み込んだ。
彼の、・・・・・・クルーゼの甘く優しげな声と共に。
フラガはだるい体を絨毯の上に投げ出したまま、全身を襲う眠気のままに瞳を閉じたのだった。
「おやすみ、フラガ」
「ああ・・・おやすみ・・・クルーゼ・・・・・・」