愛のカタチ Klluze ver.



オーブの街に出ても、もはや人は見当たらなかった。
当たり前だ。
オーブの首長が、国民一斉避難を命じたのだから。
この平和な街も、やがて戦場になる。
戦場になって、建物も全て壊され、廃墟と化す日が来る。
たとえ自分達が精一杯守ろうとしても、戦火は免れないのだ。
そう、そして、自分達の過ごした過去の思い出を残す家も、また―。
フラガは唇を噛み締めた。

戦闘が始まるであろう日までの3日間の猶予に、フラガは一度アークエンジェルを降りてオーブの家にやってきていた。
過去の自分を忘れるため、とでも言えばいいのだろうか。
今だ自分が出ていった時のままの姿でひっそりとたたずむ家を、フラガは見上げた。
「・・・なぁラウ・・・ついにお前の望んだことが現実になるんだな・・・・・・?」
肩を震わせて。
泣きそうになりながら、今いない存在に向けて皮肉げに笑う。
全てが、彼の思惑のままに。
中立国は戦火に覆われていくのだ。
フラガは焼け野原になったオーブの幻覚を見た気がした。
守りたくて、この地球を守りたくて、地球軍に入ったというのに、
この美しい自然を壊していくのは敵軍だけではなくて。
胸が痛んだ。
どうして、こうも人間達は愚かしいのだろう。
今ごろになって、以前男が言っていたのと同じ感想を持つ自分に、フラガは苦笑した。
久しく足を踏み入れていなかったこの家。
戦争が終わる前には絶対帰らない、と誓っていた場所だったけれど。
今帰らなければ、帰る場所すらなくなる。そう思い、フラガは意を決してドアを開けた。
沈んだ空気は、あの頃のままに。
まだ春とは言い難い冬の暗い空は部屋さえも暗く彩り、
フラガは電気をつけようと壁に手を伸ばした。
けれど―。
"感じ"た。
暗い部屋にたたずむその気配。
忘れたくても忘れられない男の、その感覚。
なのに、どうして今の今まで気付けなかったのだろう。
こんなに傍にいたのに。

「待っていた」

ソファに腰かけていた男は、ポーカーフェイスを装ったままフラガに声を掛けてきた。
けれど、フラガは声も出せない。
彼がここに来ることなど、もはやあり得ないと思っていたから。
窓際に座っていた男は今はいつもの仮面を外し、美しい素顔を晒していた。

「ここはもはや戦場になる。もう誰も止められない。・・・例えお前達が守ろうとしても」
「・・・・・・あぁ」

一言出すだけでも、胸が痛い。
言葉が喉の奥で引っかかっているかのように、言葉が紡げない。

「つらいな、ムウ。オーブが戦場になるということは、ここも・・・俺達が過ごした過去も、・・・・消えて行くんだろうな」

微かな違和感。自分を『俺』と呼ぶその男は、今日はどこかがおかしい。
憂いを帯びた空気は、懐かしい過去の彼の姿を映しだしていた。

「ラウ・・・・・・」

・・・憂い?この男が・・・?
フラガはまとまらない頭の中で、1つの疑問を抱いていた。
そもそも、あの男―ラウ・ル・クルーゼはオーブを戦場にすることを望んでいたはず。
『この愚かな戦争は、オーブが平和で在る限り終わらない』
そんなわけのわからないことを言って、
自ら地球軍とザフトをぶつけさせ、オーブまで窮地に立たさせた。
そうしておいて、何を憂う必要がある?!
俺達の関係も、過去も、全てをその手で奪ったお前が・・・・・・っ!

「・・・っお、前、が、・・・!」

声が、出ない。泣きそうなくらい、心が痛かった。
フラッシュバックするのは、自分達の失った過去だけではない、もっとたくさんのもの。
戦争で大切なものを奪われた者たちの、悲しい記憶。

「・・・お前が・・・全てを奪っておいて・・・!どうして、そんなことが言える?!」

悲鳴のような声音。
言ってしまってから、フラガはハッと目を見開いた。
言ってしまった言葉の重さに、フラガは思わず口元を押さえるが、それはもはや後の祭りでしかない。
無意識に洩れたクルーゼへの非難の言葉は、本当ならばクルーゼには向けてはいけないものだと、自分自身わかっていたのに。
クルーゼは何も酔狂で大切なものを傷つけ、犠牲にしてきたわけではないのに。
彼が奪ったものは多くとも、より多くのものを守っていたことを、わかってやらなければならない立場なのに―。

「・・・ムウ」

すぐ近くで声が聞こえ、フラガはびくりと身体を震わせた。
顔を上げれば、クルーゼの顔が目の前にあって。
また泣きそうになるフラガの頭を捕らえ、クルーゼはゆっくりと唇を重ねた。
ぎゅっ、とつぶったフラガの目の端から、透明な滴が溢れてくる。
顔の横に添えた手でそれを掬ってやりながら、深く口内を貪れば、
はじめ抵抗していた舌も力を失い、今はクルーゼのなすがままになっていた。

「・・・っラウ・・・っ!」

角度を変えて重ねられるキスの合間に、フラガは男の名を紡いだ。
咎めるようでいて、懇願しているような、そんな声音。
実際、クルーゼに何を求めているのか、フラガ自身にすらわからなかった。
けれど、ただただ、名前を呼ばないわけにはいかなくて。
クルーゼはそんなフラガの頭を撫でてやると、それから背をきつく抱きしめた。

「・・・ムウ」

そして、はっと目を見開くフラガの耳元へ、一言。

「お前を確かめたい」
「っな・・・」

その言葉の意味を解して、フラガは息を呑んだ。
有無を言わさぬ強引な態度は、確かにいつもと変わりが無かったけれど。
手近な壁に背を押しつけられた瞬間―、フラガは思わず抵抗の声を上げていた。

「やめ・・・っ!」

首筋を濡らす感触は、確かに歓喜の予感を自分の中にもたらしていくのに。
フラガはそれすら素直に受けいれられず、耐えるように眉を寄せていた。
こんな時に、お互いの欲のままの行為に身を委ねるなど出来ないはずだったから。

「や・・・!」
「・・・ムウ」

幾分強い声音。フラガの抵抗の手すら止めるほど。
固まった彼の身体を抱きしめ、クルーゼは低い声で囁いた。 彼の深部に、届くように。

「・・・最後くらい・・・素直でいろ」
「・・・っ・・・!」

『最後』

それは、こうやって抱き合えるのが最後なのか、それともこの場で愛し合えるのが最後、というイミなのか、
フラガには判別がつかなかったけれど。
それでも、彼を絡め取る言葉ではあった。
卑怯な、クルーゼらしからぬ発言。

「っラウ・・・・・・」

パサリ、と足元に上着が落とされる。もはや地球軍でもないのに、手持ち無沙汰のように着ていた地球軍の制服。
何か、笑可しい気がした。
地球軍でもないのに地球軍の格好。
これでは、目の前で行為を続ける男と同じではないか。
髪を掻き上げられ耳の後ろをきつく吸われれば、もはやフラガは立っていることさえ出来なくなっていた。

「っアト・・・つけるなって・・・」
「ここなら、バレないさ」

自分のつけた所有印を指先でなぞって、それから舌を這わせて。
それだけで身体をすくませる彼に目を細めて、ずり下がりそうになるフラガの身体を腕で支えて。
クルーゼはもう一度口付けた。
今度は、フラガの奥深くまでを乱暴に貪っていく。
微かな抵抗などものともしない激しさで、フラガを翻弄していくキス。
舌をきつく吸われ、それから緩く甘噛みされれば、もはやフラガに抵抗する術などない。
力の抜け切った身体をクルーゼに預ければ、くすりと笑う気配と共に、暖かな腕が自分を抱きしめた。

「いやだ・・・ラウ・・・立ってられな・・・っ」

フラガの懇願に肯いて、クルーゼは膝をつく。
そして、ゆっくりとフラガの身体を横たえ、覆い被さる。
それはまるで儀式のようで。
例えれば初夜のような、そんな感慨に襲われた。
実際は、全く反対のことなのかもしれないのに。

―最後の、夜―

「っあ・・・!」

脱がされた胸元の飾りに、クルーゼはいきなり歯を立ててきた。
血が出るほどきつく噛んで、それから傷跡を癒すように舐め上げる。
すぐに立ちあがったそれは敏感に刺激を下肢に伝え、フラガは全身を戦慄かせた。
クルーゼは何も言わない。
ただ、喘ぐフラガを底の知れない美しい蒼の瞳で見下ろすだけだ。
まるで焼き付けるかのように全身くまなく辿る視線にいたたまれなくなったのか、
フラガは身をよじらせた。

「や・・・見るな・・・!」
「見たいんだ、お前を」

もう会えないから、なんて。
聞いた気がするのは、俺の気のせいだろうか?
ただ強引さだけじゃなくて、限りない優しさを宿した愛撫。
クルーゼが自分を、他の誰でもない自分だけを愛してくれていると肌で感じる行為。
嬉しいはずなのに、どうしてこんなに胸が痛む?

「・・・ラウ・・・」
「ん?」

上げたクルーゼの顔は、けれど別に悲しみを宿していたわけではなかったし、
むしろいつもの高圧的な、征服者の笑みをしていた。
だから、勝手に自分が不安がっていただけなのかもしれない。
バカなことを考える夜だ、と思う。
クルーゼが自分を愛してくれていて、自分もまたクルーゼを愛しているなら。
何も、戦争に紛れていく運命すら怖くないと思える年月を、自分たちは越えてきたはずだ。
何を、怖れる必要がある?

「ああ、ラウ・・・見てくれ・・・」

俺を、見て、なんて。
あまりに矛盾した願いだと、心の奥では笑っているのに。
案の定クルーゼはフラガの瞳を覗き込むと、くすりと笑ってまた甘いキスをくれた。

ああ、やっぱり、
お前といるのが一番気持ちがいいって、全身が告げてる。
なのに、どうして彼のためだけに生きられなかったのだろう、と思う。
そして、ここまで来てしまって、もはや彼のために生きることなど許されない自分に、フラガは自嘲の笑みを浮かべた。
そう、俺は。
過去の自分と、彼を忘れるために、断ち切るためにここに来たんだから。
本当の心を封じ込めて、茨の道を歩むであろうAAと共に戦うために。

「ラウっ・・・俺は・・・!」

そんな自分が、彼に抱かれてなどいられないのだ、と思い出す。
クルーゼの腕から逃れようとするが、彼の腕は暖かすぎて、フラガには振り解けなかった。
唇を離したクルーゼの瞳は、吸いこまれそうで、見惚れるしかない。
フラガの痛みに揺れる瞳を見据えて、クルーゼは苦笑した。

「お前こそ・・・」

投げ出されていた手を掴んで、指先を絡ませる。
しっかりと繋がったような感覚が本当に嬉しくて・・・本当に、痛かった。

「俺を、見ろ・・・・・・」

今くらいは、とか。
心を見透かされたようなクルーゼの言葉に、フラガは顔を赤らめた。
だって、クルーゼといるときは。
仲間のことなんか考えてちゃ、悪いよな。
折角会いに来てくれる彼。
幸せを貪っているのは、紛れもなく自分だ。
わがままを聞いてくれるのも彼で。彼のわがままなど、フラガは聞いたことがなかった。
もちろん、わがままを言う前に実行、だからそんなことがなかったたけかもしれないが。

―最後の夜、かもしれないだろう?―

「・・・っ」

心の声が、自分にそう告げていた。
最後だなんて、思いたくないのに。
この胸騒ぎは一向に収まらない。
どうしてだよ、ラウ・・・

「他のことは考えるな」

・・・そうだよな。
今はあんたのことだけ考えていれば、それでいいのに。
後のことは後で考えればいい。
それで、何度も救われてきたのだから。
今も、お前だけ、感じてる。
許してくれ、わがままなオレを。
瞳を閉じると、クルーゼはまぶたの上のキスをくれた。
それから、本格的な愛撫へ。
クルーゼが、あの白い制服を脱いで、素肌を晒していた。
肌と肌が触れ合うだけで、どうしてこうも鼓動が跳ねあがるのだろう?!
ラウ・・・ラウ・・・!!

「っ・・・!」

気付けば、先ほどまで止まっていた涙が、また目の端から溢れだしていた。
歓喜と、捨てきれない漠然とした不安が複雑に絡み合って。
それを振り払おうと下肢に顔を埋めるクルーゼの髪をきつく握りしめれば、
少しだけ、気が休まる気がした。
上り詰める感覚は、もはや指先まで伝わってきていて。
震えるそれに一段と力が込められれば、クルーゼの行為もまた煽られていく。

「も、いい、ラウ・・・早く・・・欲しっ・・・・・・」
「ムウ・・・・・・」

涙を流して懇願するフラガの手を取り、そのままキスを落として。
性急な愛撫で体を慣らしてやる。
けれど、そんな時間すら惜しいかのように手を伸ばして求めるフラガが、何故か悲しかった。
悲しい?違うはずだ。
彼を悲しませているのは、自分に他ならないのに。
それを見て、『悲しい』なんて。
随分虫のいい話だと思う。
けれど、それでも。
いつだって愛してやりたいと願うのは、ただの傲慢だろうか?
ずっと、彼を傷つけてばかりだったけれど。
これでも、愛していたんだ、ムウ・・・

「あ・・・ラウ・・・っ!」

体を折り曲げた辛い体勢のまま、フラガはクルーゼの背を求めた。
何かにすがり付いていないと、心元なくて。
お互いが望んで繋がったそこからは、2人にしかわからぬ熱い感触が湧き上がってくる。
大切なのは"今"というこの瞬間だと、
誰かが言っていた気がする。
事実、今の2人は"今"以上のことを考える余裕すらなかった。
でも、・・・それが一番幸せなのかもしれない。
クルーゼに揺すられる波のような感覚に身を任せながら、フラガはぼんやりと考えていた。

「ラウ・・・」
「・・・もう、イきたいか?」

・・・イきたい。けど。
これで、・・・終わり・・・なんてことはないよな?
首に両腕を回して、甘えるような仕草。
口でなんて紡げないフラガの、昔からの求める様。
それにくすりと笑って、クルーゼはフラガの肩に顔を埋めた。

「あぁ、愛してやる。・・・一生分だ」

そう。
体なんか壊れたっていいから・・・さ。
気付けば抵抗していたことすら忘れたように乱れるフラガが愛しくてたまらない。
クルーゼはフラガを抱きしめると、つかの間だが永遠の夢を見られる快楽に2人溺れていったのだった。





既に、外は日が昇っていた。
昨夜は、どのくらいやっていたのか、もはや見当もつかない。
あれからまた床で2回イって。
それから、今いるベッドに移動して・・・。
あの時クルーゼの言った通り、一生分ヤった、そのくらいだった。
まぁ、いつの間にか2人してなし崩し的に眠ってしまったのだろうが・・・。
まだ、身体には余韻が残っている。
フラガはきゅっとシーツを握りしめると、それからゆっくりと身を起こした。

「・・・っつ」

慣れてはいるのだが、どうしてもこの鈍痛がなくなることはないな、と腰を押さえて苦笑する。
まぁ、仕方ないといえば仕方ない。
隣のクルーゼを起こさないようにベッドを出て、シャワーを浴びる。
戻ってきた頃には、クルーゼもフラガの起きあがった気配で目を覚ましていたのか、自分を見上げていた。

「・・・もう、行かないと」

さりげなく、告げる。
もう帰らないとか、会えないとか、そんな話しはしたくなかったから、さらりと。
AAのメンツは、自分が帰ってこないことに大騒ぎ・・・というより驚いているだろう。
別にAAを降りたわけではないのだから、早く顔を見せないと。

「ムウ」

不意にクルーゼが名前を呼び、それからフラガの腕を掴んだ。
振り払えない力。それでなくとも、フラガには振り払えるわけがなかったのだが。
彼の決意めいた強い心が、それから伝わってくる気がした。

「・・・戻るんだな」
「ああ」

少しの沈黙。クルーゼが何を考えているのかなど、自分にはわからない。
けれど、わかりたくもなかった。
わかってしまったら、またどうせ心を惑わされるのだから。
でも、それでも、沈黙は痛くて。

「・・・お前が、この状況になっても足付きに乗ることはわかっていた。
けれど私は、お前が今までヘリオポリスから付き合ってきたから、という理由で、義務感に駆られて乗るくらいなら、お前を迎えに行こうと思った。
だが・・・・・・・」
「ラウ・・・」

痛すぎて、声が出ない。
また、振りだしに戻ってしまった。
胸が痛くて、声が出なくて。
クルーゼの心地よい声音だけを耳に焼き付けて。
噛み締めるのだ。彼の優しさを、愛を。
彼は苦笑すると、やれやれ、と溜め息をついた。

「一目見て、わかったよ。お前・・・たった一人のために、足付きに戻るんだろう?」
「なっ・・・ラウ・・・ちが・・・っ!」

羞恥に頬が染まる。
いや、それ以前に、そんなことを知られるわかにはいかなかった。それなのに―。

「隠さなくたっていい。いつかこういう日が来ることは・・・わかっていた」

男であるフラガを、いつまでも自分という籠の中に閉じ込めておくことなど、無理だということを。
いつまでも彼が子供でなどいないことを。
クルーゼはわかっていた。わかっていて、それでも彼を愛した。

「ラウ・・・俺は・・・!」
「自分の気持ちに嘘やごまかしを付けるなよ?」
「・・・っ・・・・・・」

ずっと痛んでいた心が、またズキズキと痛みだした。
今ごろになって、その痛みの原因がわかってしまった。
フラガは唇を噛み締めた。
彼女を、気にかけていた。この気持ちだけはどうしようもない。AAの皆を無駄死にさせたくない思いは真実だったが、何より彼女を死なせたくなかった。
ただ、こんな想いとクルーゼへの想いは、比べ様もないと思っていたのに。
実際クルーゼに指摘されてみれば、自分は彼女を忘れてクルーゼを愛することなどできなかった。
だから、ここまで胸が痛むのかもしれない。

「・・・っ・・・」
「守りたいんだろう?彼女を。それでいい」

身を起こして彼の身体を抱き寄せ、フラガの頭を撫でる。
不特定多数の皆を守りたい、という想いよりはよっぽど。
強くなれるから。

「・・・すまない・・・、ラウ・・・、俺は・・・!」
「いい女か?」
「え・・・」
「お前に相応しい・・・いい女か?」

クルーゼの顔には、少しの嫉妬もなかった。ただ、自分を案じる表情だけを向けてくれていた。
自分が下手に他人を愛して、傷つくのを見たくない・・・と言ってくれたのは、一体いつのことだったろう。
そんな想いだけを自分に向けてくれているクルーゼが、悲しくて、ありがたくて。
泣きたくなった。
でも、泣くわけにはいかなくて。
精一杯笑うと、その反動で涙がこぼれた。
どうしてクルーゼは、ここまで自分を愛してくれるのだろうか?!

「ああ。・・・優しくて、気追いすぎで・・・見ちゃいられないほど、な」
「そうか。まるでお前だな。安心したよ」

べッドを降りる。
今は懐かしいこの部屋も、今日出ていけば失われていくのだろう。
クルーゼは居間にほったらかしの彼の服を拾い上げると、彼が着替える様を見つめる。
やっと来た時の姿に戻ったフラガの襟元を正してやり、クルーゼは彼を見据えた。

「これからの戦いはかなり厳しいぞ。お前が例えオーブの0SでMS乗りになったとしてもな。・・・気を付けろ」
「んなコト・・・わかってる」

小さく笑うフラガにこちらも笑いかけて。
背を向ける彼をクルーゼは見つめ続けた。
また会えるか、なんて話さなかったけれど。
死んでさえいなければ、必ず会えるという確信だけは持てたから。
それだけで充分だった。






「・・・・・・なんだか、娘を嫁に出すような気分だな」

一人、肩を震わせて苦笑う。
けれど、結局自分は。
彼が幸せなら、それでいいのだ。
それ以上、何を望めるだろう?この、全てが移ろいゆく世界の中で。
そして何より、
彼ともはや時代の違う自分が、これ以上何を望めただろう?! 









携帯が鳴っている。
さしたる感情もなくそれを取ったクルーゼは、聞こえてくる声に肯いた。

「終わった?」
「・・・ああ」
「じゃ、こちらも計画を実行させてもらうよ。そっちはあんたに頼むぜ」
「アズラエル」
「あ?」

沈黙する受話器の奥の男に、アズラエルはいぶかしげに眉を寄せる。
それからふぅ、とため息をついて、やれやれと笑った。

「ああ、わかったよ。死に行く者の頼みくらい・・・聞いてやっても悪くない」

あくまで、口調はそのままで。
それを聞いたクルーゼは安堵したように笑った。
信用できない男であるのは重々承知していたけれど。
今は、彼しか頼れないから。
クルーゼは完全に沈黙した携帯を取り落とすと、傍の壁に身を預けた。


胸が、痛い。

クルーゼはズキズキと痛む胸元をそっと押さえた。
わかっている。これはただの発作だ。
いつもの、欠陥品が無理をした代償。
けれど、この痛みはフラガを置いて死んでいくであろう自分への悲しみ故だと、クルーゼは思いたがった。
例え、彼がいつまでも自分を見ていなくとも。
自分は彼を見つめていたかったのに。
それが出来ない自分が辛くて、
クルーゼはたった一筋だけ涙を流したのだった。










+ + +


はい。
痛いです。めちゃくちゃ痛いっスね・・・(汗)
こんなところで初発作ネタ。
ごめんなさい。クルーゼが好きなんです。だから、
コレ読んで、読者さんが
「なんだよクルーゼ!切ないよーー(泣)フラガ!!どーして傍にいてやらないんだあああっ!!」
と感想を抱いてくだされば、かなりオレの目的は果たせたかな、と。(はっ?!)
いやね、やっぱ隊長はフラガが自分といてずっと幸せにはなれない・・・とわかってるんですよ。
だからこそ、フラガがラミアスを見るようになっても、愛していられるんだと思う・・・あああ!切ない!!(泣)
もう、アズラエルのあの悪どさ加減がより隊長を切なくしてる気がするんですがどうでしょう!
表現し切れなかったけど、アズラエルは隊長死んだら、彼の願いなど忘れたようにAA潰しにかかるんじゃないの?!
フラガを・・・フラガ達を自分の手で守り切れない悔しさ。そんなものを少しでも感じて頂きたい・・・・・・。

うー。
シリアスネタ以外で突っ込むとしたら、アレだね。
『娘を嫁に出す気分』(爆笑)
いやいや、本当は『息子を婿に出す気分』だよ、隊長!!(爆)フラガはオトコ!!
はい。できればfllaga ver.もよろしくお願いしますね。→fllaga ver.

そして、両編とも読んでくださった方へ。
興味があったら読んでやってください。→『愛のカタチ-Read me after-


Update:2003/07/01/TUE by BLUE

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