水溜りに反射するモノクロな僕の顔

01:序章




物事で重要なのは、「はじまり」と「終わり」。
そして、そこには、「父」なるものと「母」なるものが必要とされる。
人間で言うならば、生まれた瞬間から御祝いの言葉が飛び交い、
そこにはどんな事情があろうと、「父」と「母」がいる。
そして、誕生日という「はじまり」の日が訪れるたびに祝福され、
いずれ、自分も世代交代で「父」か「母」になり、
死という「終わり」の日が来た時も、またお別れの言葉が交わされる。

そんな自然の摂理を超越した存在の僕ら……

そんな僕らに、ふさわしい終わり方ってどんなのだろう?!








どうってことないありふれた家庭だと信じていた。
バイテク関連の研究所(ラボ)に勤める父に、専業主婦の母、そして双子の兄と俺。
でも、本当は物心ついた時から、何かおかしいとは思っていた。
だって、そうだろ?!

兄貴、そう、奴は今は「ラウ・ル・クルーゼ」って、偽名を使っているけど、
本当の名は「ジュリアン・グリーン」。
そして、俺も「ムウ・ラ・フラガ」と名乗っているけど、実は「ジョン・グリーン」。

ジュリアンとジョンの双子は、何をやっても兄貴の出来があまりにも良すぎる兄弟だった。
幼稚園の砂場で、男の子チーム対女の子チームで、砂山をどちらが大きく作れるかという競争をしていた時も、
兄貴は1人で、砂場の外の普通の土を掘り返し、集団で作った砂山よりも大きな普通の土の山を作っていた。
もちろん、運動場の普通の土の山の横には、代わりに大きくて深い穴ができていたりもしたし、
その穴を使った落とし穴に幼稚園の先生がはめられ、足をくじいてしまい、
兄貴は危うく幼稚園を強制退園させられそうにもなったことがあった。

普通のガキがそんなことするか?!

何となくだけど、何か俺達双子には違和感があった。
でも、それでも、俺は父さんを誇りに思っていたかったし、母さんを愛していたかった。
どんなに兄貴が飛び抜けて頭脳明晰、運動神経抜群で、両親からの寵愛を一身に受けていたからといって、
それに比べたら、俺が他の子どもより多少優れていても、目立ちもしないし、
父さんと母さんにとっても、陰の薄い子どもだったとしても、
それでも、俺にとってはかけがえのない、たった1人の父さんと母さんだから、
俺は俺なりにだけど、一生懸命、認められようと頑張ってきた。

けどね、薄々気づいてはいた俺達双子の違和感が、
それが、同じ遺伝子を持っていても、コーディネーターとして生まれるか、
ナチュラルとして生まれるかという、かなり大きな差だったんだと知ったのは・・・・・・、

それも俺達は人類史上初のコーディネーター、ジョージ・グレンと同じ遺伝子を持つクローンで、
兄貴は奴とそっくりの遺伝子のクローン(すなわち、コーディネーター)、
で、俺は奴の受精卵が遺伝子操作される前のナチュラルの時代のクローンという……

そう、俺の父さんと母さんは、実の親(遺伝子提供者)ではなく、
ジョージ・グレンのクローン製作実験スタッフとしての育ての親だったのだ。

俺が時折感じていた、父さんの冷めた視線と、母さんのあきらめた横顔は、
俺の不出来も多少は関係していたんだろうけど、そういうことだったんだ……
と、知ったのは、

俺が兄貴に抱かれた夜だった。





* * *




1:崩壊する家族
2:それぞれの居場所
3:彼と僕の境界線(前編)
3:彼と僕の境界線(後編)













Update:2004/03/21/FRI by CHIYOKO MURAKAMI

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