By Blood T



同じ仕官学校に入って、同じ軍に入隊して。
始めから、敵対していたわけじゃなかった。
互いに双子の片割れとわかっていながら、最初にあの一線に踏み込んだのはどちらだったのか。
一歩間違えば互いの身を破滅に導くデスライン。
それでも、俺達は胸の内に湧くこの激情のままに、体を繋げるしかなかった。









あの最後の夜を、
俺は、
忘れないだろう。










なぁ、ラウ。
お前が出て行った部屋は、今でもその時のままなんだぜ。
皆はお前が死んだと思ってるけど、
俺は、信じてないからさ。
だって、お前の片割れであるこの俺が、お前の死を感じないわけがない。
多分お前は、あの追い詰められた戦況の中でもピンピンしてて、あの夜ベッドの中で俺に言ったように、ザフトに身を預けてるんだろう。

・・・俺は、あの時お前の心を変えることが出来なかった。
お前が、いなくなる―――――そのことだけに動揺して。
そんな俺に、お前は苦笑して、心配するな、と声を掛けてくれたよな。
その言葉、今でも・・・・・・、信じてる。
だから、今もこの部屋はお前の物。
もとから備え付けてあった簡素な備品に唯一お前が趣味で入れたチェステーブル。
その椅子に座り、駒を動かすのは、今は俺だけだ。
相手のキングを追い詰めるために動かすそれは、まるで自分のよう。
いつもならすぐに反撃されて、攻めること自体上手くいかないけど、
今なら。

「・・・・・・チェック、メイト」

簡単に、追い詰められるのに。






なんというか、・・・バカだよな。
こうやって、肘をついて、チェス盤を見ながら、
ずっとお前のことばかり考えてる。
どうやったらお前を手に入れられるか、何をすればお前を俺の元に戻って来させられるのか、とかさ。
敵対する?冗談じゃないぜ。
例え成り行きで対峙しようとも、心まで敵だと思えるはずがない。
俺なら、多分それがお前だって分かるはずだから。
なぁ、ラウ。
どうしてお前なんだ?
お前がザフトに行く理由がどこにある。
ナチュラルであることを隠し、命を削るほどの無理をして、何の意味があるんだ。
わかってんのか?
お前は俺の命まで・・・・・・
「削ってんだぜ・・・・・・」
痛感する。
痛いほどに、苦しいほどに、・・・会いたい。
傍にいた時にはわからなかった想いが、俺の胸の内に込み上げてくる。
不安だったのはこの俺だ。
お前が死ぬとか、そういうことじゃなくて。
俺が、・・・死ぬんじゃないかって・・・さ。
「ラウ・・・・・・」
テーブルに突っ伏して、ため息一つ。
何やってんだよ俺は。
半年も経って、未練がましく今だにこの部屋でこうやって時を過ごして。
あいつの幻影、追い続けてるなんて。

ふっと、暖かな手の感触が髪にかかった。



そうだ。
いつもあいつにチェスで負けて、ふてくされたようにこうして突っ伏していると、決まってあいつは頭を憮でてくれてた。
気付いて顔を上げると、顎を取られ、決まってキスが降ってきて。
・・・幸せだったな、あの頃は。
そう思ったら、自然と涙が溢れてきた。
・・・いいだろ、泣くぐらい。
子供じゃあるまいし、とあざ笑う自分を半ば無視して、俺は泣いた。
小さく顔を上げると、暖かな指先が自分の顎にかかる。
そう、そして―――――。
重なる唇。熱くて甘い、あいつの感触。
求めていたのは、やはりこれだ。
胸の奥が熱くなる。
うっすらと目を開ければ、夢のようなあいつの顔。
なんだか嬉しくなって口元を緩めると、案の定悪戯な舌が口内に入り込んできた。
「ん・・・ふっ・・・・・・」
・・・全く、俺ももう末期だよな。
幻想の中に浸り切っちまって、いもしない存在に、溺れてる。
でも、それでもいいから夢を見たくて、
軽く離された唇で言葉を紡いだ。
「・・・お帰り、ラウ・・・・・・」
きっと、現実では言えない言葉。
帰ってきて欲しいと願うのは、自分の弱さを晒け出すようで怖いけど、さ。
事実、そう願ってるから。
また唇が重なる。今度は軽く触れるだけ。
背に腕が回され、俺は息を呑んだ。
幻想を、現実にさせてくれるような力強さのそれに、驚いて目を見開く。
幻想の中のラウは、それが幻想でないと示すかのように柔らかく微笑んだ。
耳元で聞こえる、甘やかな低い声。
「・・・ただいま、ムウ」
「・・・ラ、ウ・・・・・・・・・?」
信じられない、信じられるわけがなかった。
だって、こんな、夢物語みたいな話、有り得ない。
帰ってこない、と断言したはずのあいつが、どうしてこんなところにいるんだ。
信じられない思いと、信じたい気持ちとの葛藤に、俺の心は揺れた。
目の前の男を見上げれば、半年前と少しも変わらない優しげな表情が自分を見下ろしていて。
「・・・相変わらず泣き虫だな、お前は」
指先で目尻を拭かれ、顔が熱くなる。
「お、お前が泣かせたくせに・・・っ!」
優しくされればされるほど、涙が止まらない。
恥ずかしくてしようがなくなって、俺はラウの胸に顔を埋めた。
真っ白な制服が俺の涙で濡れるのにも構わずに抱き締めてくれる手が嬉しい。
ラウの温もりを感じながら、そのまま俺は目を閉じた。
「チェスでも、やるか・・・・・・?」
定位置に並んでいないチェスメンを動かして、ラウが言う。
にやにやとした口調からして、こいつはさっきまでの俺の一人言を聞いてたんだろう。
・・・ったく、気が抜けないったらありゃしない。
俺は、そのままでラウの背に腕を回した。
「いいよ、チェスなんか。それより・・・・・・」
言葉を濁したりして。
でも、・・・わかってんだろ?
半年もほっとかれてた俺の考えることなんか、一つしかない。
あいつはフッと笑うと、定位置に戻しかけの駒を動かした。
「これでよかろう?」
狙われているのは、俺のキング。
それが、逃げられそうでいて結局は上手く詰められているのを知った時、俺は頬を染めた。
全く、こういう演出がいつもいつも上手いよな、こいつは。
あきらめたようにラウに身を預けて、俺は久々の快楽の予感に瞳を閉じた。










...to be continued...










Update:2004/01/18/SAT by BLUE

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