By Blood U



半年も使われていなかったベッドに掛ける真っ白なシーツは、どこか卑猥な感じがした。
投げ出される腕に、もはや俺の意志はなく。
ただ為されるままに、体を開く。
見下ろす視線はひどく懐しそうに俺の素肌を辿り、
その瞳の色にいたたまれなくなった俺は、おずおずとラウの首に腕を回した。
細い首。力を込めれば簡単に折れそうだ。
久々だからか、骨が浮き出るほどのその細さに、俺は思わず息を飲んだ。
ぎゅっとしがみつくと、くす、と笑う気配と共にラウの手が腰に回される。
「お前・・・・・・痩せた?」
そんな気がした。
でもよく考えたら、ナチュラルだってのにコーディネイターのような力を無理に発揮しようとするなら、
かなり身体を酷使しなければならないハズだ。
痩せた・・・いいうよりやつれたと言えばいいのだろうそれに、俺は眉を顰めた。
ひんやりとした指先が、胸元に触れる。
「それを言うなら、お前もだろう」
・・・まぁ、確かに。
ここ最近、まともに食事を食ベた気がしない。
全く、お前がいなくて、どうして食物が喉を通るかってんだ。
「・・・なんか、食べてく・・・?」
ただ、久しぶりにラウの手料理が食いたくてそう言ったんだけど。
「お前を食うからいい」
・・・・・・ったくこいつは。
俺の心配もよそに、勝手気ままに行動してやがる。
双子の片割れのくせに、これっぽっちも俺に行動を予測させやしない。
変な奴。
本当に、不思議な奴。
さっきまで冷たかった気がする胸元の指先は、今では熱を放ち、俺の体に染みていった。


本当は、SEXなんかさして意味のあることじゃない。
26にもなって、サカリなんかとっくに過ぎた頃だろうに、それでも俺の体はこいつを求める。
求めてる、気がする。
今の俺に出来ることは、ただ単に目の前の男を感じることであって、
今の俺にあるのは恐怖にも似た淡い期待感だけ。
なんとなく悔しいけど、元は一つだったはずの俺達が唯一安堵の息をつける場所といえば、最後はここに辿り着くんだと思う。
離れてなんか、いられない。
共にいるのが、真実-ほんとう-だというのに。




「なぁ・・・なんで、戻ってきたんだ?」
自分の胸元に埋められる頭。昔と変わらないホワイトムスクの香りがする髪に指を絡めて、俺は聞いた。
「・・・戻ってきたわけじゃないさ」
その言葉に、はっとする。
けれど、その瞬間胸上のそれをきつく噛まれて、俺は思わず声を上げていた。
やけに敏感な気がする体は、この男を喜ばせるだけなんだろう。
「・・・そう、だよな」
未だにラウが纏っている服は、ザフト軍の士官服だ。
どうやって地位を固めたんだか、胸元の階級章がその高さを物語っていた。
彼にとって、ザフトは居心地がよかったろうか?
ナチュラルだというのに、その能力を買われて、ザフトの一員になることは。
でも。
俺は心とは裏腹にくすりと笑った。
「でも・・・アンタ、白がよく似合ってる」
ラウ・ル・クルーゼその人にだけ許された色。
そんな気がした。
地球軍の、白ではあるがどこか薄汚れたような色を纏っていた時よりよっぽどキレイで。
整った顔立ちが一番映えるその色に目を細めて、俺は言った。
「綺麗だ、あんた・・・・・・」
思わず手を伸ばせば、ラウはそれを掴んで自分の頬に触れさせる。
「お前も十分、キレイだろうに・・・・・・」
何も身に纏わないまま投げ出された体を、片方の指先で辿っていく。
触れるだけの淡い感触だというのに、自分でも驚くほど体が反応していた。
「ラウ・・・・・・」
くすぐるような、もどかしい感覚。
無意識のうちに揺れる腰が性急な愛撫を求めるかのようで、俺は顔を赤らめた。
自分ばかり開かされていることがなんとなく不公平で、ぴっちりと締められたラウの首元に手を伸ばす。
ムキになって軍服を脱がそうとする手を捉えられ、ラウはくすりと笑った。
「性急なヤツだな」
羞恥に頬が熱くなる。
けれど、それを否定できるほど反抗的にはなれない。
必死にラウを見上げれば、彼は片手で首の留め金を外し、素肌を露わにしていく。
均整の取れた真っ白な肌が目の前に表れ、俺は何故か高鳴る鼓動を止められなかった。
全ての衣服がベッドの下に放られ、白いシーツの上には俺とラウ・・・それだけ。
ゆっくりと覆い被さってくる体の暖かさが、触れる素肌により熱を与えていくようだった。
「ムウ・・・」
重ねられた手のひらが、一段と強く握られる。
顔を上げれば、形のよい唇が降ってきた。
それを甘んじて受け止め、密着する肌の感触をおう。
角度を変えるたびに一瞬絡め取られる視線が、なぜか下肢の奥深くを疼かせた。
恥ずかしいけれど、羞恥がより快感を呼ぶ、そんな行為。
このままずっとこんな感覚に包まれていられたら幸せだろうな、と俺は頭の片隅で思った。
・・・離れたくないから。


離れたくないという俺の気持ちをわかっていながら、それでも背を向けたラウ。
彼が自分の元に来てくれたことは、嬉しい反面、また新たな不安が心をよぎる。
『戻ってきたわけではない』
それは、またザフトに帰ってしまうことを暗に告げている。
いっそのこと、あのまますっかり音沙汰もなくなってしまったほうが、気楽だったに違いない。

人間というものは、目の前の幸福だけを追ってしまいがちだ。
けれど、ひたすらそれを追ったとしても、ふと気付けば後ろには絶望しかない。
将来の心の平安のために厳しい今を生きられるのならそれが一番いいのだろうけど、
それができないのが人間なのだろう。
・・・今の俺のように。


人は『何か』を求める。
いつか移ろいゆくことも承知で、ただ『今』の心の平安のために。
たとえ一瞬の快楽に溺れようと、現状は変わらない。
交わって、たったその時だけ現実を忘れて、何の意味もないことを知って、
そして、後悔する。いなくなった後で、より孤独を感じるだけのことだから。
けれど、その欲望に逆らえない自分が俺の中に存在しているということ。
この男はとっくにわかってるんだろう。
薄い唇で薄く笑みを浮かべる男を睨んでやると、どこ吹く風とばかりに俺の脚を抱え上げた。
・・・全く、もう抵抗する気なんてないよ。
俺はとっくにお前のものなんだから。
後悔もなにもない。お前がいなければ俺もいないと同じだ。
お前がいて、始めて俺は『俺』になれる。
ムウ・ラ・フラガという人間の抜け殻に魂を与えられるのはお前だけ。
「・・・っ願いだ・・・・・」
ひたすら焦らすような愛撫に耐え切れなくなって、思わず懇願の声を上げる。
そんな俺に一つキスをくれて、ラウは羞恥に震える下肢に顔を埋めた。





過去、
2つに分かれた魂は、その想いのままに1つになった。
1つになって、やっと安らぎを見つけたのに、また現実がそれを引き裂く。
でも・・・さ。
繋がれた手に力を込める。
それに気付いて強く握り返される温かさが、本当に心地よかった。
そう、今は。
俺はお前で、お前は俺だよ、ラウ。







end.





Update:2004/03/10/MON by BLUE

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