Prisoner T
自分が、どうしてこんなところにいるのかわからない。
真っ暗で、全身がズキズキ痛くて、その上手足まで拘束されているようだ。
身じろぎすると、チャリ、と耳障りな金属の擦れる音。
やっと重い目を開けると、フラガは自分が独房の中に入れられているのを知った。
普通に1Gが感じられるから、おそらくここはプラントなのだろう。
フラガは改めて、先日の戦いを思い出していた。
3機のジンと、10機のメビウス。
どう見ても、地球側が優勢だったはずだ。
確かに、ジンは苦戦を強いられ、いかなコーディネイターであろうと力を合わせたナチュラルの前には勝てないのだと地球軍の皆は思っていた。
それなのに、形勢はふとしたことで逆転した。
突如表れたモビルスーツが、目にも止まらぬ速さで地球軍のモビルアーマーを1機、2機と破壊していったのだ。
次々と減っていく自軍になす術もなく、今回の指揮を任されていたフラガは仕方なく撤退を命じる。
だが、しんがりを守るべく残ったジンと交戦していたフラガは、
ただ一瞬、背後の注意を怠った。
そのスキを突かれ、接近してきたのはあのMS。
サイドカメラが真っ白なその機体の姿を捉えた瞬間、メビウス<ゼロ>はその飛行能力を失う。
エンディミオンの鷹と謳われた彼の翼は、易々と破壊され、コクピットもまた多大な衝撃を受けた。
それから、覚えていない。
フラガは、いまだにズキズキと痛む頭を軽く振ると、大きくため息をついた。
「・・・俺は・・・捕虜かよ・・・・・・」
あのまま死なずにすんだのは幸運といえば幸運だが、自分が拘束され、どうなるかわからないこの状態では、やはり運がいいとは言えない。
背を壁に張り付けられたままのフラガは、ガシャンと音がした方に顔を向けた。
カツカツと足音を立てて入ってきたその男は顔の上半分を仮面で隠していたが、なぜかフラガに既視感を呼び起こさせる。
薄暗い部屋の中で、彼の身にまとった制服がいやに白く、フラガは目を細めた。
白―あの時、自分を討ち取ったMSのような。
「久しぶりだな」
見上げるフラガに、その男はそう言ってのけた。
記憶にないはずの男のその言葉に、フラガは眉根を寄せる。
「・・・誰だ?」
「覚えていないか。まぁ無理もない。だが、私はずっと見ていたよ、ムウ・ラ・フラガ」
エンディミオンの鷹の名で知らぬ者はいないとはいえ、自分の名をフルネームで言える人間は限られている。
得体の知れない微笑みを刻むその男を、フラガは睨みつけた。
「貴様・・・何者だ?」
捕われの身でありながらきつい視線を向けるフラガに目を細める。
「私の名は・・・ラウ・ル・クルーゼ」
その名前に、フラガは無言で目を見開いた。
かの男の名は、地球軍全部にと言っていいほど知れ渡っている。
彼の率いるクルーゼ隊。それに狙われて、未だかつて生還者はいないという。
そんな彼が、たかが一パイロットの自分の前にいることに、フラガは不審そうに彼を見上げた。
「へっ・・・かの有名な指揮官殿が、この俺に何の用だい?」
かすかに嘲りを含んだ声でそう言い、横を向く。
これから彼が自分にもたらすであろう何かに耐えるように、フラガは唇を噛んだ。
クルーゼが床に膝をつき、自分から逃れようとするフラガの顔を覗きこむ。
「・・・さしずめお前は、私のおかず・・・といったところだな」
「・・・おかず?」
意味がわからない、といったようにフラガは首を振る。
その顎をクルーゼは捕らえ、有無を言わさず唇を重ねた。
「―――――んっ!」
突然の衝撃に、フラガは手で男を退けようとする。
けれど、絡まる鎖がチャリ、と鳴っただけで、それは徒労に終わった。
せめてもの抵抗に首を振るが、男の細い指からは想像できない強い力で抵抗を押さえ込まれ、締め切ったはずの歯列も無理矢理こじ開けられる。
侵入してくる生温かな感触と与えられる屈辱に耐え切れず、フラガは思いっきり舌を噛んだ。
「っ・・・・・・」
痛みにとっさに顔を上げれば、嫌悪の限りを込めた青い瞳。
かすかに血の味がする口内を感じて、クルーゼは薄く笑った。
「・・・馬鹿な奴だな。いくら抵抗したって、意味がないと思わないか?」
襟元に手をかけ、一気にボタンを引き千切る。
露わになった胸元にひんやりとした空気が触れ、フラガは羞恥に目を瞑った。
肌に触れてくる指先を感じまいと、そらんじるようにあさっての方を向く。
その首筋に、クルーゼは唇を押し当てた。
「・・・っ・・・!」
「フラガ、お前は貴重な捕虜だ。だが・・・ただ捕虜にしておくだけでは・・・もったいないな」
胸元を這う手のひらが、くすぐるように腹へと下りてくる。
寒さと指先の微妙な感触に体を竦ませるフラガは、クルーゼの手が下肢に到達すると息を飲んだ。
服の上から弄られ、その手から逃れようと身を捩る。
「いや・・・っだ・・・!やめ・・・!」
ガチャガチャと鎖を鳴らし、抵抗を試みる。
けれど、それが無駄だということは、フラガにもわかっていた。
男の自分が、知って間もない、しかも敵である男に慰み物にされようとしている。
そんな現実を見たくなくて、フラガは瞳をきつく閉じた。
「そうだ・・・おとなしくしていろ。そうすれば悪いようにはしないぞ・・・・・・」
笑みを含んだ声が、耳元で囁く。
逃れるすべもないフラガは、きつく唇を噛み締め、せめて声だけは上げないよう耐えていた。
強張る身体が、余計にクルーゼの嗜虐心を誘う。
フラガの足首に絡みつく鎖を外すと、クルーゼは彼の身に着けていたボトムも下着も全て剥ぎ取った。
自由になった途端暴れ出す脚を押さえ込み、無理矢理足を開かせる。
フラガの足の間に体を割り込ませたクルーゼは、先ほどの愛憮によって既に勃ちかけているそれを見て笑った。
「・・・体は素直だな、フラガ」
砲身に指を絡ませる。
「・・・っ!」
クルーゼの意地の悪い台詞に、フラガは体を真っ赤に染めた。
けれど、それでも開かされた体は自分を陵辱する男の目の前に晒されている。
筋に沿って指を這わせると、フラガのそれは充血し、より固さを増していった。
戦いに紛れて久しく欲のなかったそこは、今はその姿を露わにしている。
抱え上げた足のつま先から太股までを舌で舐め上げるクルーゼは、そのまま中心で息づく雄の先端を舌で触れた。
「ひ・・・!」
亀頭の割れ目に沿って舌の先でなぞれば、にじみ出てくるのは苦いような甘いようなフラガの味。
驚愕と恐怖に声を上げたフラガは、そのまま自分のそれをくわえられ、口内のなま温かさに体を震わせた。
「や、やめろっっ!!」
そこだけは自由になる口を必死に動かして、やめるよう訴える。
けれど、クルーゼはより大きく足を開かせると、根元に手を添えて刺激を与え、より深くくわえ込んだ。
もはや欲望を抑え切れない張りつめたそれが、クルーゼの喉の奥にあたる。
唇と舌で絶妙な愛憮をほどこす彼は、フラガの様子を確かめるように時折上目遣いに彼を見上げた。
「ああっ・・・やめ・・・!」
なおも抵抗を続ける彼の声が、よりその行為を煽り立てている。
極限まで張りつめたそれを口内と手で激しくしごいてやると、壁に拘束されたままのフラガの手がきつく握り締められた。
「や・・・ああああっ!!」
声を上げ、フラガは達した。
放たれた自分の精が、クルーゼの口内に全て飲み込まれていくのを見て、おぞましさを覚える。
にやりと笑って顔を上げたクルーゼは、濡れた口の端を手の甲でぬぐった。
「気持ち良かったか?」
嘲弄の笑みが、口元に刻まれる。
敵の手に落ち、自由を奪われ、身が引き裂かれるほどの屈辱を与えられながらも達した自分が、フラガには許せなかった。
そして・・・、自分に屈辱を与えた目の前の男にも。
「殺してやる・・・・・・」
怒りを込めた低い声が、フラガの口元から洩れる。
その唇を舌で舐めるクルーゼは、顎を掴んで彼の怒りに燃える青の瞳を見据えた。
「・・・殺せんさ。お前に私は」
「・・・っ」
枷のはめられた手首をなぞり、指を絡め、壁に押しつける。
男の体全体で抵抗を押さえ込まれたフラガは、その苦しさに耐え切れずに瞳を閉じた。
「お前はいつだって私の手の中にいることを忘れるな。今も、昔も、そしてこれからも」
言葉と共に与えられる、濡れたキス。
抗うことも出来ないまま受けたそれは、きつく肌を吸い上げ、首筋に朱い痕を残していった。
脱力感が、自分の中にあった。
手首にはめられた枷は、どんなに外そうとも手首に食い込むだけで、
もはや真っ赤になった痕はその傷を増すばかり。
ぼんやりと正面を見つめたまま、フラガは自分がいつまで生きていられるかを考えていた。
あの男がもたらしたものは、慰め程度の手足の自由と、屈辱と、背徳的な行為。
今さら食事を与えられようと、食ベる気など起こるはずもない。
それ以前に、慰み物にされるよりは、さっさと死んでしまいたかった。
「っ・・・ちくしょうっ!!」
内心に湧いた怒りのままに、フラガは床を蹴った。
しかし、ただ痛むだけの足に、唇を噛み締める。
音一つしない独房の中で、フラガは一人、ひどい屈辱に耐え続けていたのだった。
...to be continued...