Episode T〜渇いた肌にくちづけを〜



「私はザフトに行く」




唐突な言葉が、一瞬にして室内の空気を凍らせた。
その口調は既に冷たく、いつもの人を皮肉った雰囲気さえ欠落している。
「な、に・・・考えて・・・・・・!」
あまりの衝撃に、言葉が出ない。
予想もしていなかったその台詞に、フラガは唇を噛んだ。
「・・・コーディネイターだからって、奴らのとこに行く必要があるのかよ?!俺達は・・・・・・っ」
地球に、中立国のオーブにいるというのに。
揺れる瞳でクルーゼを見やれば、無表情だったそれがいつもの人を揶揄ったような笑みに変わった。
「なんだ?予想のついてたことだろう?私がここにいる理由はどこにもない」
どこにもない。その言葉に、フラガの胸がきりりと痛む。
クルーゼの見えない所で、フラガは拳をきつく握り締めた。
なら、俺たちがこの3年間培ってきた思いは?クルーゼにとって、何の意味もなかったということか。
「・・・冗談はやめろ」
「冗談?私が冗談を言うと思うのか?」
言うはずがない。特に、あんな表情をしている時は。
どうして、・・・・・・どうして。
流れ出す感情は、上手く言葉にならない。言いかけたそれを、口の動きだけが辿った。
「何の、ためだよ」
それでも、辛うじて言葉を紡ぐ。
せめて、理由だけは聞きたかった。
違う、理由なんか聞きたくなかった。自分といることより大事なものをそこに見出したらしい彼を、認めたくなんかなかった。
彼を自分のところに引き止めたくて、それなのに引き止める言葉は出てこない。
「・・・それを聞いてどうする?お前に、何の関係がある」
浮かぶ、嘲弄の笑み。ナチュラルのお前に何の関係もないと言わんばかりのそれが、フラガの心をかき乱した。
肩を掴み、そばの壁に彼の背を叩きつける。
けれど、なおもクルーゼの口元には、笑みが刻まれたまま。
―――わからない、その意味が。どうして、笑っていられる?
激情のままに、目の前の男の服を剥ぐ。薄闇の中露わになった肌が、やけに白かった。
抵抗もしない男は、喉の奥で冷たく笑う。
「フン・・・馬鹿な奴だ」
「ああ、バカだよ。・・・・・・俺は」
口では言えない。その代わり体で、というのはいつものお決まりのパターンだった。
首筋に、唇を当てる。すっと馴染む感覚。触れ合えば、何かがわかると思った。
けれど、何もわからない。望むものは見つからない。さらりと渇いた肌の感触、熱をもたない体。
「・・・っ・・・」
涙が溢れそうになって、フラガはクルーゼのむき出しの胸元に顔を埋めた。
いつも、そうだ。
他人には平気で土足で踏み込んでくるくせに、自分の中には決して入れさせない。
踏み荒らされ、乱された俺はもはや自分の感情すら隠せないでいるというのに、
こいつはいつだって高みで俺を嘲笑う。
おかげで俺は、愚かなオンナの仲間入りだ。
いつだって、求めるのは俺。懇願するのは俺、見てくれと叫ぶのは俺―――――。
泣き腫らした目をごしごしと擦ると、フラガはそのまま胸元に唇を這わせた。
濡れた肌。塩辛い味。すべて自分の吐露した想い。
「なぁ・・・せめて、一度くらい抱かせろよ」
これで、最後にするから。
クルーゼはフッと笑うと、フラガの柔らかな金の髪に触れた。
暖かな手。何度抱かれ、愛されてきたかわからないくらい慣れた感触。
それに思いを馳せながら、フラガは目の前の男への愛撫を続けた。






Heaven or Hell ?




Update:2003/01/24/FRI by BLUE

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