Christmas Lovers 前
「うわっ!ラウ!見てみろよ!!水が光ってる!!」
騒がしいフラガの声と引かれた腕に、クルーゼは振り向いた。
見れば、宝石のような色とりどりの光の装飾が施されたオブジェが下の水面や噴水に映り、キラキラと輝いている。
夜に映える光の芸術に、クルーゼは笑った。
「・・・綺麗だな」
「ホント、マジ綺麗だよなー。さっすがオーブのクリスマス!!」
中立国、オーブ。
そこは、戦時中の今でもナチュラルとコーディネイターが共存する唯一の場所である。
武力対立の続く他国やプラントでは勿論祝われないクリスマスは、
しかしその代わりとでもいうように、オーブでは盛大に祝われていた。
今日は、クリスマス・イブ。
折角だからオーブに行きたいとせがむフラガに負け、クルーゼは多少無理に休暇を取り、ここに来ていた。
地球に下りたのは、何年ぶりだろう。
コーディネイターとはいえ地球生まれのクルーゼは、しかし地球とプラントとの対立が大きくなるにつれ地球に下りることはなくなっていた。
やはり、人工的に『造』られた自分は、地球には似合わないと思い始めたのもこの頃だ。
けれど、今地球の本物の1Gが気持ちいいと思うのは、多分フラガがいるからなのだろう。
クルーゼは寒そうに外気に晒されているフラガの手を取り、強く握り締めた。
自分の感情を隠すことに慣れた自分にとって、フラガの素直な反応は本当に新鮮だと思う。
すぐに触れてくる手に気付いて自分の腕にしがみついてくる彼に、これもナチュラル故かとクルーゼは苦笑した。
"自然"の名を抱いた人間達は、本当に人間らしくて。
羨ましいと思う。
いつのまにか、クルーゼにとってフラガは一つの輝きとなっていた。
そう、こんな人工物の輝きよりも、もっと輝いている・・・・・・存在。
「・・・すっかり遅くなっちまったな。帰ったら何時になるかな・・・・・・」
時計を見やる手を、クルーゼの手が包み込む。
えっと見上げるフラガの耳元で、クルーゼは囁いた。
「帰らなければいい」
「え・・・」
その言葉の意味に気付いて、フラガは軽く頬を染める。
しかし、妙なところでこだわる彼は、オーブにさりげなく在る隠れ家といえる場所に帰りたがった。
「12月24日の夜は、サンタが来るんだぜ?家にいなきゃダメだろ?」
「全く・・・細かい奴だな」
有無を言わさず、フラガを引っ張っていき、クルーゼが連れてきたのはホテルの玄関。
カップルでごったがえしているそのホテルに、クルーゼはすたすたと入っていく。
「・・・マジかよ・・・」
「・・・来ないのか?」
「・・・はいはい、行きますってば!」
置いていかれそうになったフラガは、仕方なくクルーゼの後を追いかけたのだった。
高級ホテルの最上階は、広い窓が美しい夜景を映していた。
それを薄目で見ながら、フラガはクルーゼの愛撫を受ける。
入った途端、手近な壁に押し付けられ、フラガは眉を寄せた。
「ラウ・・・っ!離せよっ・・・!」
「何故だ?」
クルーゼの手がフラガの下肢にかかる。
首筋を這う濡れた感触と、衣服と肌の合間を縫って入り込む淫らな手に、フラガは声を上げた。
「な、何故って・・・シャワーも浴びてないのに・・・っ!」
「待てないな」
まだ十分に熱を持たないフラガの雄を、手のひらに包み込む。
首筋からあごを伝って唇を重ね、舌を絡めれば、一瞬フラガの体が震え、手の中のそれは固さを増していった。
「ほら・・・な。お前も待てないんだろう?ムウ」
「ふ・・・っあ・・・!か、勝手なことを・・・・・っ・・・」
フラガは羞恥に顔を真っ赤に染めたが、結局なす術もなくクルーゼの舌を受け入れる。
舌を甘噛みされながら下肢を弄ばれ、フラガは眉を寄せた。
人工的なそれではない地球の1Gが、立ったままの彼を襲う。
激しいキスと手の動きに腰が砕けそうになったフラガは、体を支えきれなくなり膝をがくがくと揺らした。
「・・・っ、せめてベッドに・・・っ!」
もう立っていられないとばかりに、フラガが首を振る。
既に汗だくになってしっとりと吸い付く肌に口付け、クルーゼはフラガの背に手を回した。
ぐっと力強い腕で腰を支えられ、片方の手はなおも激しくそれを扱いている。
強い刺激で先端から溢れた涙が、フラガの下着を濡らしていった。
「・・・や、バカッ・・・も、イく・・・!!」
クルーゼの親指が先端を軽く引っ掻いただけで、あっけなくフラガは折れた。
着たまま達してしまったため、服が・・・気持ち悪い。
達した衝撃でしゃがみ込んでしまったフラガを、クルーゼは覗き込んだ。
「相変わらずハヤいな」
「―――っ、し、仕方ないだろっ!!」
羞恥に染まった顔を覗き込まれ、ますます顔が熱くなる。
そんな彼にくすりと笑うと、クルーゼはフラガに口付けた。
情事の時の絡みつくようなキスではない、さらりとした、それでいて甘いキス。
それからフラガの金の頭をポンポンと叩くと、クルーゼは立ち上がった。
「・・・どうする?ベッドに行くか?」
目の前の広いベッドを示され、おさまったはずの鼓動が跳ね上がる。
一度解放したそれが、再び熱を持つのを感じて、フラガはあわてて開かされた前を掻き合わせた。
「・・・・・・その前に、シャワー浴びてくる」
あくまでシャワーにこだわる彼に苦笑して、フラガの手を取って立ち上がらせてやる。
逃げ出すようにシャワー室に駆け込む彼に、クルーゼはくすりと笑った。
行為の前に身を清めたいと思うのは、より愛されたいという気持ちの表れだ。
そのままでいても輝かしい存在が、より輝くための儀式―。
そんな彼の気持ちも、本当に可愛らしいと思う。
クルーゼはベッドに腰掛けると、自分もまた服を脱ぎ始めた。
そして、仮面。
自分の本当の心も、感情も、顔だけじゃなく全てを隠してしまう仮面。
ここでは、必要のないものだ。
クルーゼはそれを外すと、ベッドサイドのテーブルに置いた。
またこれをつける時は、夢の終わり。
けれど、今はまだ、夢を見ていられるはずだ。
例えひとときでしかない夢であっても、今の自分に出来ることといえばそれしかないのだから。
ふと窓を見やれば、人工の眩しかった光は、もう眠りにつこうとしていた。
けれど、人の心の輝きは永遠に消えはしないのだろう。
それこそが、本当に価値のあるものではないだろうか。
クルーゼは、ベッドから立ち上がると、フラガの背が透けるシャワールームへと歩んだ。
自分が見出した輝き―彼を愛する為に。
クリスマス・イブの夜―。
窓の外では、小さな白い天使たちが彼らを祝福するように静かに舞い降りていたのだった。