Love will Grow
昨晩は、あまり眠れなかった。
というのは、クルーゼが仕事で深夜12時を過ぎてもまだ帰って来なかったからだ。
別に何も連絡がなかったわけではない。
遅くなるから先に寝ていろ、と言われたから素直に床にはついたのだが、
こういう時に限って目は冴えているわ、クルーゼのことは気にかかるわで、
フラガがやっと寝付けたのはそれから1時間も経ってからだった。
なかなか寝付けない時というものは、眠りも浅い。
フラガが目を覚ましたのは、日が昇るか昇らないかという早朝だった。
ぼーっと周囲を見渡せば、目の前に眠るクルーゼの姿を見つけて少し安堵する。
覗き込むと、軽く口を開けて無防備に晒しているクルーゼの表情が見えた。
「・・・・・・へぇ〜・・・。」
―――初めて見た。
クルーゼの寝顔を見たことがなかったフラガは、珍しそうにそれを眺めた。
2人で過ごしてきたこの2年、一度も彼の寝ている姿なんて見たことがなかった。
それもそのはず。ほとんど毎日といっていいほどヤっている夜に、先にクルーゼが寝るはずもなく、
朝はといえば低血圧ではないものの起きるのが苦手でよくクルーゼに起こされている自分。
これでは確かにクルーゼの寝顔を拝めないのも無理はない。
(・・・綺麗・・・だよなー・・・)
先ほどまでの眠気はどこへやら。クルーゼの顔を見つめて、ほうっとため息をつく。
クルーゼが眠っているのをいいことに、
彼の顔にかかっている前髪をはらってやり、そのまま頬に指先を滑らせると、
フラガの中で何かがうずく気がした。
唇に指で触れる。この薄い唇が自分の肌に触れてくるだけで、
何故かどうしようもなく感じてしまうことを思うと、
羞恥と共にもう一度感じたい気がしてきて、ヤキが回ってきたかな、とフラガは軽く苦笑した。
ゆっくりと、唇を重ねる。半開きのそれを舌でなぞり、それからしっかりと塞いでやる。
目の前でキレイなラインを描く眉が軽く歪んだが、
まぁ自分はいつもいつもそれで起こされている。
半分仕返しのつもりで、フラガはクルーゼのそれを貪った。
(・・・ラウ・・・)
少しだけ冷たい唇。それを自分の熱を伝えるようにしっとりと重ねていく。
始めは触れるだけだったが、次第に自分のほうが焦れてきて、フラガはクルーゼの口内に舌を挿し入れた。
「・・・っは・・・」
洩れる吐息。
苦しげなそれが妙に嬉しくて、フラガの悪戯心がむくむくと頭をもたげてくる。
フラガはクルーゼの夜着の中に手を忍ばせると、クルーゼの顔色を伺った。
「・・・まだ・・・起きねぇの・・・?」
起きねぇと襲っちまうぞ、とかなんとか言いながら、
フラガは手の中のそれを弄び始める。
始めは萎えたまま『平常』状態だったそれは、フラガの手の中でたちまち大きくなり先走り液が糸を引く。
夜着を脱がせてそれを解放してやると、一段と大きさが増した気がした。
「全く・・・こんな淫乱なカラダにした責任は取ってもらわないとなっ!」
フラガはクルーゼのそれを根元を手で掴むと、欲の顕われて来たそれをぱっくりと口に含んだ。
全長を呑み込む勇気はないから、先端だけ口に含んで、茎の部分は両手で扱く様に。
溢れ出す体液を舌で掬うようにしてそこを刺激してやれば、
これ以上ないほど膨張したそれを見て、フラガは満足そうに口を離した。
「こんなもんでいいか・・・っと!」
天を仰ぐそれをつかの間眺めて、フラガは下のズボンを脱ぎ去る。
それからクルーゼのカラダを跨ぐと、彼自身を手で支えて自分の後孔に宛がった。
軽く目を閉じて、一息。
「ん―――――・・・!」
いくら砲身を唾液で濡らしていても、内部はキツいままフラガに痛みを伝える。
けれど、できるだけ息を吐いて、ゆっくりと腰を落としていく。
クルーゼを呑み込んでいく感覚がフラガを恍惚とさせ、フラガは喉を仰け反らせた。
「っは・・・っ・・・、・・・っああ!?」
いきなり、楔を深くまでくわえ込ませられて、フラガは強烈な快感と驚きに声を上げた。
腰には、掴まれる両手のひらの感覚。
顔を下ろすと、さっきまで寝ていたはずのクルーゼがにやにやと笑っている。
フラガの顔が一気に真っ赤に染まった。
「お、お前っ・・・いつから・・・っ!」
突き上げられる感覚に、言葉にならない。
がしりと掴まれた腕で腰を動かされて、抵抗もできないまま熱に翻弄されていく。
それでも涙目ではあるが気丈にクルーゼを睨みつけると、クルーゼは耐え切れなくなったのか声を上げて笑った。
「て、てめぇ・・・!」
「・・・ま、お前が私のモノを嬉しそうに舐めていたのは・・・知っているぞ」
「っ・・・!!」
今考えて、なんというバカなことをしていたのかと思う。
羞恥にクルーゼの顔が見られなくなって、フラガはクルーゼの胸へと倒れ込んだ。
その背を、クルーゼは抱き締める。
「しかし・・・まさかお前に寝込みを襲われるとは思わなかったぞ・・・大胆な奴だ」
「っ、し、仕方ないだろ?!」
―――あんたが、昨夜抱いてくれなかったから・・・!!
そう言い掛けて、唇を噛んだ。
ああ、もう。恥ずかしすぎて、情けなくなるほど。
一晩ぐらい、なんだというのだろう。
フラガは貪欲な自分の身体を恨んでしまった。
「ま・・・嬉しかったけどな」
にやついた笑いを浮かべて、フラガの身体を煽っていく。
自分の腹にあたるフラガのそれを手で扱いて、もう極限まで張り詰めたそれの解放を促した。
「ああ、バカっ・・・もっ・・・!」
反抗的な唇を塞ぐ。フラガがクルーゼに与えたものとは比較にならないくらい深い深い口付け。
思考がおかしくなるほど深いところまでを蹂躙されて、フラガの身体が一瞬ぶるりと震えた。
そして、次の瞬間、目の前が真っ白に染まる。
「もっ・・・イく・・・っ!」
クルーゼの胸までを白く汚して、フラガが頂点へと達すると、
クルーゼもまた軽く眉を寄せてフラガに高められた熱を内部に放ったのだった。
「・・・フッ・・・面白いものが見れたな」
クルーゼはそう言ってフラガの髪を撫でた。
フラガは無言。まだ解放の余韻に浸っているのか、それとも羞恥にうずくまっているのか。
まぁ、どちらにせよ、クルーゼはフラガの背を抱き締めた。
落ち着いてきた鼓動が心地いい。
「・・・眠れなかったか?」
「・・・。」
軽く視線を彷徨わせて。
素直に頷けないフラガはぷいと横を向いた。
クルーゼがいないと眠れないなどと、恥ずかしくて認めたくもない。
「別に・・・眠れたさ」
「そうか?抱かれたかったのだろう?」
「っ・・・!」
当然のようにそう言われるのが、癪に障る。
フラガは呆れたような顔をクルーゼに向けた。
「あんたね・・・・・・なんでそんなに自意識過剰なわけ?」
「ほう。それじゃあなんだ?」
逆に問い返され、言葉に詰まる。
別に抱かれたいと強く意識していたわけでは全くないのだが、
眠るクルーゼを誘ってしまったのは事実で・・・。
フラガは深くため息をついた。
「もう・・・いい、疲れた・・・。」
脱力し、クルーゼに身体を預けたまま、瞳を閉じる。
クルーゼの言葉を認めたくはないが、眠りが浅かったのは事実。
「・・・っ・・・早く抜けって・・・」
今だ身体の内に収まっているクルーゼに顔をしかめて、フラガはクルーゼを促そうと軽く胸を叩いた。
せめて起きる時間まではゆっくりと睡眠をとろう・・・、とフラガが思った矢先―――。
クルーゼはくすりと笑うと、フラガの身体を持ち上げ、体勢を入れ替えた。
「あ・・・へ?!」
クルーゼに組み敷かれ、戸惑いを隠せない。
見上げると、いつになく欲望に塗れたクルーゼの顔があって。
まさか―――。
フラガは多少青褪めた。
「ま、待てよ・・・。もう一戦やろうってんじゃ・・・」
「何言ってるんだ。誘ったのはお前のほうだろうが」
私は全然満足してないんだからな、とかなんとか。
そんな低音の囁きに息を呑めば、内部でまた熱をもって硬さを増してくるクルーゼのそれ。
フラガは今更ながら、自分から誘うような行為をしてしまったことをひどく後悔した。
「っや、だよ・・・!やめっ・・・っ・・・!」
必死に逃れようとしても、クルーゼに組み敷かれたこの状態では後の祭りで。
自分の中に深く収まっていたそれが一気に出口まで引き抜かれ、フラガははっ、と吐息を洩らした。
それからまた貫かれ、内部で先ほどクルーゼが放ったものが卑猥な音を立てる。
痛みはなかったが先ほどまで脱力していた身体は強烈な快楽を受け入れる準備が出来ていなかったのか、
フラガは全身を強張らせた。
クルーゼの素肌の肩に爪を立ててみるものの、けれど一向にクルーゼの動きは止まらない。
いつの間にかフラガは激しい喘ぎ声を洩らすことしかできなくなっていた。
「っく・・・ああっ・・・はっ・・・!」
「ふ・・・可愛い奴だ」
こちらも多少上擦る声を抑えて、自分の行為に喘ぐフラガを見下ろす。
両足を抱えて胸につくほどまで膝を折り曲げさせると、
真っ赤に染まった入り口まで全てクルーゼの目の前に晒され、フラガは羞恥に顔を覆ってしまった。
そんな仕草がおかしくて、クルーゼはフラガの顔を覗き込んだ。
「邪魔だな・・・。」
片手でフラガの両手を外してしまう。
「は、恥ずかしいんだよっ!」
「今更・・・か?」
くすりと笑って、腹につくほどまで勃ち上がったそれをゆっくりと手のひらで辿る。
ひくりと震える身体を感じながらその下の結合部まで指を下ろしていく。
自分を必死に飲み込むそこは、楔が出入りするたびに許容量を越えた精を零していて、
クルーゼはそのぬめりを指先に絡めて充血した周囲を辿ってやった。
「・・・っ・・・」
「ほら・・・お前をこんなに淫らにさせたのは誰だ?」
眉を寄せる。
本当に、ここまで自分が乱れるなんて思っても見なかった。
恥ずかしくて、クルーゼと交わるたびに慣らされていく自分が怖くて。
けれど、それがどうしてか嬉しいと思ってしまう事実。
どんなに口では抵抗していても、身体が悦びの声を上げているのだからどうしようもない。
フラガはちっ、と舌打ちすると、横を向いて顔を顰めた。
「・・・お前」
「そう。・・・この私、さ」
一層強く突き上げて。
悲鳴のような高い嬌声をあげるフラガを、クルーゼは抱き締めた。
そう、自分だって。
寝台に滑り込む時、幾度フラガを起こしてしまおうかと思ったことか。
確かに深夜を越える仕事で疲れているものの、
フラガを抱かなくては一日が終わらないのだ。
そんなことを考えて、クルーゼは我ながらバカだな、と小さく笑った。
寝つきが悪かったのは自分も同じ。
フラガが自分を覗き込んできた時すら、ぼんやりと覚えている。
ただ、あまりに自分にとって嬉しいものだっただけに、夢かと思っていたのだが。
クルーゼは途切れ途切れに息を吐き続けるフラガの髪に手をやった。
「・・・嬉しかったぞ。お前からなんて・・・珍しいからな」
「・・・っ・・・もう、ぜってーやらねぇ・・・。」
「私は大歓迎だがな」
「っこの・・・!」
くすりと笑う。反抗の言葉を紡ぐ唇を、クルーゼは自分の唇で塞いでやった。
背中に腕が回される。こんな時ばかりは、とても素直だと思う。
言葉より、全身が告げていた。
―――好きだ、と。
「私も・・・好きだよ」
―――お前が。
一日でも飢えたくない。そんな想い。
昨晩の渇きを潤すように、2人は互いを求め合う。
窓の外は、すでに高く上った太陽が明るい日差しを送っている。
けれど、彼らの夜はまだまだ終わらないようであった。
「・・・結局、あんたのペースなんだよなぁ・・・。」
遅い朝食の後、ぼそりとフラガは洩らした。
それを聞きつけて、クルーゼは笑う。
「お前が私から主導権を奪おうなど、100年早いぞ。あきらめるんだな」
その言葉に何も返せず、はぁ、とため息をつく。
それから、ふと、あれ?とフラガは首を傾げた。
「あんた・・・仕事は?」
今日は平日だ。仕事が休みだとは思えないのだが。
クルーゼはくすりと笑うと、座るフラガの首に腕を回した。
触れる素肌に、フラガは少しだけ朝の余韻に浸ってしまう。
クルーゼが耳元で低く囁いた。
「今日は、私達の同棲記念日だろう」
「あ・・・そういや」
で、休み取ってきたわけ。
フラガの問いにクルーゼは意味深に笑った。
「連れて行きたいところがあってな」
「え・・・じゃ、出かけるのか?」
「早く支度しないと、置いてくぞ?」
「は・・・。ひっでー奴!」
悪態をついて、それからばたばたと身支度をし始める。
そんなフラガに、クルーゼはこちらもまた出かける用意をし始めた。
連れて行きたい所。
それは、昔果たしたくて、果たせなかった約束の場所。
フラガが覚えているだろうか?
その反応を見るのが、今は一番楽しみだ。
ふと、フラガと目が合う。
なんだかんだいって浮かれ気分のフラガは照れたように笑った。
「なんか、久しぶりだよな、あんたと小旅行なんてさ」
ああ、本当に。
懐かしい感覚だと思った。
2人で過ごす穏やかな休日というものが、・・・本当に。
フラガのばたばたとした着替えを眺めながら、
クルーゼは幸せを噛み締めていたのだった。
END