絶頂



こうして身体を繋げる度に、静雄は同じことを考える。
なんでこんな奴を組み敷いているのだろう?
世界で一番嫌いな奴を。
目が合った途端頭の奥の血管がブチ切れて、なにがなんでも殴らずにはいられない、
何もかもが気に入らない男。実際、彼らが蜂合わせれば、
誰もが目を覆うほどの凄惨なバトルが繰り広げられた。
血を見なかったこともない。
公共物が破壊されなかったこともない。
だが。
そうやって命懸けの殺し合いをした後にはいつも、こうなるのだ。
セックス。いや、もはやそれは、唯の暴力≠ニ言えるだろう。
お互いが好き合って繋がったわけでもなんでもない。
愛情なんてない。
あるとすれば、明確な死≠意識した殺し合いの果ての、生理的な性欲と、
死よりも屈辱的な目に合わせてやりたいという被虐心だけだ。
そんなくだらない理由で、自分は最低最悪の男の身体を繋げている。
考えるだけでイライラしてきて、静雄は
ムカつく男の頭を掴み、崩れかけた壁に更に強く押し付けた。

「・・・っい・・・痛い、シズ、ちゃ・・・」
「うるせぇ」

声を聞くだけで、頭に血が上りそうになる。
コンクリートの壁がべこりとヘコむ。頭蓋が割れてしまいそうな程の締め付けに、
ひどい苦痛を覚えながらも、臨也の雄はひくひくと痙攣し、腹につきそうな程。
反抗的な言葉を紡ぎ続ける臨也の声が耳障りで、
静雄は片手を回し、臨也の唇に指を差し入れた。
こじ開けて、まともに言葉を紡げないように塞ぐ。するとくぐもった呻き声と共に、
ぬるりと舌先が静雄の指を舐め上げる。
その顔は、ひどく恍惚としていて。
ぐっと下肢に熱を感じた。クソ、反吐が出る。
こんな男の乱れた姿に、背筋がぞくりと震えるほど感じるなんて、
俺の身体もどうかしていると思う。
だが、残念ながら、過去、自分が童貞を卒業したのは目の前にいるこのクソノミ蟲で、
それから幾度となく、前後不覚な状況に追いやられていたから、
もう、きっと慣れ切っているのだ。
身体が、簡単に心を裏切るという事を知ったあの夜。
最低な記憶。
悔しげに顔を歪める静雄に、
冷たい壁に頬を押し付けたまま、朦朧とした頭でその表情を認めた臨也は、
ハ、ハハ、と声にならない声で笑った。
この、平和島静雄という怪物が、
自分の身体で快楽を覚え、そうして付き離せない程溺れている。
その事実は、臨也の心をひどく愉しませてくれる。
大嫌い。そう、一番大嫌いな男。

「っね、ぇ、シズちゃん」
「なんだ、よっ」
「っ、う、」

ぐん、と奥を突き上げられ、漏れる悲鳴。
内部は、裂けた故の真っ赤な鮮血と、内部で既に2度吐き出された精液でどろどろだ。
だがそれ故に、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が周囲に響き、
2人の空気が熱を増す。
それを、2人は互いに屈辱的だと自虐的に笑ったが、もう既に、
途中下車などできるはずもない。
臨也は必死に顔を向けて、静雄に笑みを傾けて見せた。

「シズ、ちゃん・・・だい、っき、らい」
「・・・・・・」
「大、嫌いだよ・・・シズ、ちゃ、・・・・・・っ、」

ハァハァと喘ぎ声をもらしながら、必死に紡ぐ声音。
それは、まるで、コイビトが熱に浮かされたまま「大好きだ」とうわ言のように呟くのに似ていて、
ムカついた。熱の集まる下肢を、更に激しく揺さぶり、最奥を貫いた。
それこそ、彼が言葉など紡げなくなるまで、強く、激しく、壊れる程に。

「っア、ああっ、シズ・・・ちゃん・・・」
「ウゼェ」
「っ・・・ハハ、さっき、より、デカいよ、君・・・ドM、だよねぇっ・・・」

壁について身体を支えていた指先に、更に力を込めて。
ざり、とコンクリートを噛む音がして、そうして必死に臨也は痛みに耐えていた。
脂汗が滲み出るほどの、全身を貫く苦痛と、
それ以上に体内を暴れまわる快楽という名の熱。
先程から何度も抽挿を繰り返し、緩み切ったはずの内部が、
熱を失わない静雄の肉棒に、もの欲しそうに絡みつく。
臨也自身もまた、これほど大嫌いな男相手に、
己の身体がこれ以上に無いほど興奮することを知っていた。
ただ、身体の相性がいい、それだけ。
そう割り切ってからは、臨也は静雄とこうして繋がることに、後悔を覚えたことはあまりない。
だから、静雄だって、ただの性欲処理だと割り切ればいいのだ。
だが、そういう経験の少ない、
元々が純情な彼に、そんな爛れた生き方が出来るなどは思わなかった。
ふふ、と臨也は笑った。
だからシズちゃんは、からかいたくなるんだよ。

「ああ!?」
「大っ嫌い、だって、囁かれて・・・っ、コーフンする、なんてっ、馬鹿、みた、いっ」
「それを言うなら!テメェのほうが、よっぽど、マゾだよなぁ?!臨也くんよぉ?」
「んんっ・・・!!!はげしッ・・・!」

先程よりも、倍にペースを速めた静雄の腰使い。
壁に押し付けられたままの頬が擦り傷を作った。頬骨も打撲のような青痣になった。と、
下肢に激痛が走った。

「イっ・・・」
「おーおー、痛めつけてやったらナカの締まりがよくなったぜぇ?テメーはホント、淫乱だなぁ?このクソビッチが!」
「っあ・・・ああ、離しっ・・・!」

静雄の大きな掌が、乱暴に臨也のそれを握り込んだのだ。
それこそ、千切るつもりであるかのように上向かされて、根元をぐいと押さえ込まれる。
この苦痛は、さすがの臨也でも身体が委縮した。
その勢いで内部も収縮を激しくしたのだが、それを静雄は快感のためだと受け取ったようだ。
臨也の身体が、耐えがたい苦痛にぶるぶると震えた。
だがそれは、静雄の目には、快楽に見悶える姿にしか映らない。
痛い。
痛い、痛いよ、シズちゃん。
必死に彼のほうを向き、懇願するような目を向けると、
こちらもハァハァと荒い息をつきながら、額から汗の粒を落とし、上気した男の姿があった。
下肢の愉悦に興奮した笑みを浮かべる静雄の顔をみた途端、
臨也もまた、うっとりと蕩けた表情になる。

「いっ、いい・・・シズちゃ、もっと・・・!」
「っハ!ハハハ!!上等だ。イイぜ、もっとヨくしてやるよ!」
「っぐぁ・・・!」

静雄の指が臨也の濡れた黒髪を掴み、ぐい、と手前に引く。
そうして、片腕は臨也の片膝に差し入れ、胸元まで持ち上げる。軽々と持ち上げられて、
臨也は引き裂かれるような苦痛に呻いた。
身体が浮き上がるような感覚。右足の靴の爪先が、辛うじて地面に付く程度。
そうして、臨也の身体に重力がのしかかった。
どんな人間でも太刀打ちできない重みが、臨也の身体に静雄の楔を深く深くまで貫かせる。

「い、あ、あああっ!!!」

静雄の雄は、小柄な臨也の身体には十分すぎるほど長く、
前立腺を強く擦り上げ、それ以上の深さにまで収まった。もはや、圧迫感とかいうレベルではない。
内臓を抉られるような、ぐちゃぐちゃにされるような、
そんな抽挿。
眩暈を覚えるほどに感じながら、臨也は終わってから当分襲われるだろう腹痛を思い、
少しだけ憂鬱になった。
静雄の精液を呑みこんだ後は、事後処理すら出来ない程に奥まで穢されていて、
それこそ腸洗浄でもしない限りは彼の痕跡を洗い流すことはできないだろう。
常に、体内に静雄の残滓が残っているという感覚は、
ひどく忌々しいと同時に、
平和島静雄の全てを受け入れた証だという悦びがふつふつと湧きあがった。
初めての時の、静雄のあの怒りに混じる、快楽に蕩け切った余裕のないカオといったら。
思いだすだけで笑いがこみ上げてくる。
は、ハハ。
写メ、取っとけばよかった。
そしたら、少しは脅迫とかして彼を利用できたかもしれないのに。

「なに、笑ってンだ、テメー!」
「いッ・・・!」

爪先で性器の先端を強く引っかかれて、激痛ともいえる痛烈な刺激。
痛い、痛い痛い。無意識に、静雄の腕にしがみついた。
だがそんな懇願も無視して、暴力という名の快楽を、乱暴に叩きつける。

「あ、ああっ、あはっ、シズちゃん、気持ち、いッ・・・」
「ったく・・・このド変態が・・・」
「もっと・・・痛くしてよ、シズちゃん・・・」

その言葉通り、次の瞬間、引きちぎられるかと思うほどの強い刺激が腰を砕いた。
砲身だけでなく、その下に鎮座する、玉袋まで。
鷲掴みにされ、そうしてガクガクと後ろを貫かれる勢いで揺さぶられる。
脳髄が、真っ白に灼けたような、それほどの強い衝撃だった。
今にも失神してしまいそうな責め苦。
けれど、静雄の暴力はそれを許さない。
優しさなんて微塵もない、当たり前だ。相手が、優しさなんて望んでいないのだから。

「あ、あ、あ、シズ、ちゃ・・・」
「クソ・・・反吐が出る。汚ねぇ・・・穢れ切ったゴミ蟲だぜ、てめぇ」
「ゴミ、でも、なんでも、」

もはや、掠れ切った声音に、いつもの不敵な響きはない。
ただただ、恍惚とした表情で、涙や唾液、血液、汗に塗れたぐじゃぐじゃの顔で、
臨也は言った。
震える口許で、囁いた。

「シズ、ちゃんが、抱いて、くれるなら、それでいい、よ」
「・・・ち、」

クソ。マジで反吐が出そうだ。
そう心の底がら思っているくせに、下肢の反応は収まらない。
ちくしょう、と再び口の中で呟いて、
静雄は、ラストスパートのために臨也の腰を持ち上げ、そうして最奥を突き上げた。
悲鳴のような声音と共に、あっけなくだらりと力を失う臨也の身体。
壁に両手首を縫い止めたまま、静雄もまた、体内に蟠る熱のすべてを吐き出す。
ごぽっと、内部で液体の弾ける音。
隙間から溢れる体液がひどく卑猥で、
静雄は長い指先で体液を掬い取り、そのまま収縮するナカへと指を押しこんだ。
びくり、と震えるのは臨也のほう。
ただでさえデカい静雄のそれを、自分の後ろは口一杯に広げて呑みこんでいるというのに、
更に広げられるなんて。
最低、最悪だ。

「・・・っハ、ハハ。さすが淫売だな。こんなに広がってやがる」
「シズ、ちゃんの、せいだろ・・・ってかマジデカ過ぎ・・・」

ともすれば意識を失いそうになる身体を必死に支えて、
臨也は行為の余韻に浸っていた。
どうせ、静雄は、終わってしまえばすぐに立ち去ってしまう。
気遣いの言葉も掛けず、無言で。それはいつもの事だったから、
臨也はそのまま、内部をずるりと抜け、力の抜けた身体を置き去りにする
静雄の気配を追った。
目を閉じる。
ああ、気持ちよかった。最高。これだけ最低の奴に犯されて、最高だとか、
馬鹿みたいだ。

「・・・・・・で・・・なんで抜かないの」

しかし、一向に臨也から離れようとしない静雄に、臨也は首をかしげた。
と、耳のすぐそばで、シュボッとライターのつく音。
静雄が、下肢を繋げたまま、煙草に火をつけたのだ。
吐き出す紫煙が、臨也の顔にぶつかる。
静雄の煙草の、メントールの香りは、嫌いじゃなかった。
ヤクザのベッドに出入りしていた時には、あのキナ臭い煙草の匂いが死ぬほど嫌いだったのに。

「・・・ああ?うるせーよ。煙草押し付けられてぇのか」
「勘弁してよ・・・ヤってる時ならまだしも」
「っフ・・・ハハハ!上等だぜ。テメーのおっ立ててるソレをじっくり苛めてやるよ」
「シズちゃんがしたいなら、いいよ?ただ、4ラウンドは目シズちゃんの部屋で、ね?」

ここで失神したら、いろいろとメンドイでしょ?と
猫撫で声を漏らす臨也に、ちっ、と舌打ち。
ずるりと下肢を抜いて、ボトムの前を整え、そうしてコートを適当に羽織らせた臨也の身体を抱え上げ、
忌々しげに唾を吐く。
シズちゃん、と彼の名を呼び、両腕を首に回す臨也は、
再び彼の耳元で囁いた。

「大っ嫌いだよ、シズちゃん」





end.










舌足らずなまま必死に言葉を紡ごうとする臨也が書きたかった。
ただそれだけ。
ドエロというか・・・鬼畜ですよね・・・
やってることはまぁどこにでもあるネタなんですが。
まぁでもやっぱ興奮します。何度見ても。





Update:2010/04/25/WED by BLUE

PAGE TOP