大切な、大切な、君に捧ぐ。



「なぁ、まだ進むの?」

少しふて腐れた声音。
普段の旅路からすれば別にたいした距離でもないだろうに、
気乗りのしない発言は他に理由があるからだ。
そんなラッシュの心を想像して、ダヴィットはくすりと笑ったが、
笑われた当人は気づかない。

聖平原へ向かうまでのつかの間の休息時間、
パブでアスラム侯ダヴィッド・ナッサウの使いの兵士に呼び出しを喰らったラッシュは、
いささか不機嫌だった。
ダヴィットが自分を呼び出したのは、
他でもない、ただ単に私用に付き合えといった話で、
何事かと思い急いで城に走ったなど馬鹿みたいだ。
それになにより、ラッシュにはもうひとつ、彼に付き合いたくない理由があった。

「今のうちに、会っておきたい人がいてね」

今はトルガルもいないし、丁度いい、などと耳打ちするダヴィッドの瞳は、
いつになく輝いていて、
不安になった。/
誰に、会いたいって?
女性だろうか。いや、間違いないだろう。
女性に決まっている。
でなければ、わざわざ婉曲的な言葉など彼が使うはずもない。
きっと、特別な女性なのだ。
そう思った瞬間、心の中でひどく嫌な音が鳴った。
そういえば、ここ半年、彼と過ごしてきたが、
彼自身の色恋沙汰の話を聞いたことがない。
一般市民や城のメイドたちからあれほど黄色い声を上げさせるダヴィッドだ、ひとつやふたつ、噂がたってもいいはずなのに。

「場所はフォーン海岸。今の時期のあそこは少し危険なヤツがいてね。気をつけていこう。
 ・・・どうした?」
「い、いや、別に・・・」

つまりは、そういうことなのだ。
自分の知らないところで、やはり彼は人並に好きな女性がいて、
いずれ妻として迎えることになるのだろう。
もしかしなくても、婚約者すらいるのかもしれない。

「彼女は、この奥で待っているはずだ。」

ダヴィッドはそう言うが、ラッシュは完全に上の空。
彼と共に過ごしてきた半年間。
知り合いが親友に、親友から更に深い関係になるのにそう時間がかからなかっただけに、
彼の、自分には見せない顔が気になる。
だからこそ、結局彼の誘いを断らずについてきてしまったが、
ここまできてラッシュは後悔していた。

(・・・そんなに大切な奴なら、俺なんか誘わなけりゃいいのに)

新手の嫌がらせだろうか。
それとも、アスラムの独立と合わせて妻を迎えるため、
自分との関係を切るつもりなのか。

(・・・別に、)

自分は、いい。
つい忘れそうになるが、ダヴィッドは領主で、自分は一介の庶民。
元々、関われるはずもない相手で、
更に言えば、自分は男なのだ。
世襲制が当然の国々、レムナントと契約する以上代々の領主は短命。
そんな中、早いうちに世継ぎが望まれるのは当たり前で。
たとえダヴィッドが自分をどんなに大切に想ってくれても、
きっと、別離がくる。
もちろん、自分さえよければ、友人としてなら彼の傍にいられるのだろうけど。

(でも)

ふと、ラッシュは自分の命よりも大切な妹を思う。
イリーナはどうなるだろう?
誰が見ても、イリーナがダヴィッドを好いていることは明白で、
ダヴィッドもまた満更でもない笑顔をみせる。
城の者が「お似合いね」と囁くのを、ラッシュ自身耳にしていただけに、
複雑な気持ちになる。
ダヴィッドには、彼女の想いは届かなかったのか?

「・・・ひでぇ奴」
「なんだ?」

顔を向けるダヴィッドに、つんと顔を背ける。
またダヴィッドはくすりと笑った。なんて可愛い奴だ、と心の中で付け足す。

「ここには、よく来ていたんだ」

ダヴィッドは昔を思い出すように目を細めて語った。
5年前、まだ先代のアスラム侯が健在だった頃。
幼くして母を失い、四将軍に見守られながら父の背を追っていたダヴィッドは、
領主の息子という自分の立場をひどく重荷に感じていた。
領主など何をするにも責任が付きまとい、不自由なだけだと、そう考えていたのだ。
そんな折、彼はここで一人の少女と出会った。

「彼女は、町外れに住む一家の娘で、歳は俺と同じくらいだった。俺たちはすぐに親しくなったよ」

その頃の俺の周りには、歳の離れた大人しかいなかったからな。
そう話すダヴィッドに、けれどラッシュは何の反応も返せないまま佇んでいる。
できることなら、今すぐ帰りたいし、耳だって塞ぎたい。
別に、聞きたくなんてなかった。
ダヴィッドの過去は気になるけれど、詳しく知りたいわけでもない。
ましてや、かつて親しかったという少女が、今でも忘れられない程に特別な存在だ、なんて、
聞かなければよかったとすら思う。
胸の苦しさに、唇を噛んだ。

「『ダヴィッドがアスラムを守ってくれるのなら私たちは安心して暮らしてゆけるね』
 ある日、彼女が俺にそんなことを言ったんだ。
 その時俺は、彼女にうなずいてみせたが・・・たぶん、苦笑いを浮かべていただろうな」

セラパレスから独立しない限りアスラムは、常に戦争の脅威にさらされる。
そして、アスラムがセラパレスから独立する日はこの先もあり得ない・・・それが、小国の運命。
その頃のダヴィッドは、そう考えていた。

「ただ、彼女が俺にそう言ってくれたことは、素直に嬉しかった。
 その日もいつもと同じようにまた同じ場所で会う約束をして、彼女と別れたよ。
 だが・・・それっきり、彼女には会えなくなった。・・・」
「・・・なんで?」

気乗りしないまま、足元の砂利をいじっていたラッシュは、
けれど先ほどまでの生き生きとしたダヴィットの声音が少し翳りを帯びたことに気づいた。
会えなくなった。その後の沈黙が、ひどく重たい気がしたからだ。
ダヴィッドは、ラッシュの問いには答えず、
小さく笑みを浮かべて岩場を指差した。

「だから、今日はずいぶん久しぶりの再会になる。
 さぁ、行こう。この先だ」

歩き出すダヴィッドに、ラッシュは何も言わずついていく。
彼の話から、ただの逢瀬などではないとわかる。本当は、ここは自分の出る幕などない。
不思議でならなかった。なぜ、自分を誘ったのか。
けれど、つまらない嫉妬よりも、少しだけ彼の過去に興味が湧いたから。
黙って後ろ姿を追った。
かつて、少女が見ていたそれよりも、数段頼もしくなっただろうその背を。

やがて、岩場を抜けた先に、淡い色の光が差し込む場所を見つけた。
フォーン海岸は、光を放つレムナントにより日中は琥珀色の光に包まれているが、
その場所は特に太陽の光も相まって更に美しさを増していた。
そして、その光が射す先には―――。

「これ・・・」
「彼女と最後に別れたあの日の夜、突如、獣人の大軍がアスラムを襲撃してきた。
 俺は、すぐさま軍を率いて掃討に乗り出したが・・・
 遅かった。獣人たちは街中まで侵入し、領民にも犠牲者が出てしまった。・・・彼女が、その一人だった」
「ダヴィッド・・・」

あくまで淡々と語るダヴィッドに、今度はラッシュが絶句する。
ダヴィッドの足元には、一見してもわからないような小ぢんまりとした墓があった。
小岩には、今はもう読めない、名が彫られた跡。

「あの時、ゲイ・ボルグを使っていれば、奴らが侵入する前に撃退できたかもしれない。
 だが、それができなかった。領民の安全よりも、セラパレスとの盟約が優先されてしまった。
 あのときほど自分の、そして小国というものの無力さを感じたことはない」

ダヴィッドはそう言うと、彼女の墓の前に跪いた。
次に放たれた言葉は、自分に向けてではなく、彼女に向けてのモノで、
ラッシュはただ佇むしかできない。
漸く、わかった。
ダヴィッドが、あれほどまでにアスラムの独立を切望していた理由。
誰も責める者などいないというのに、ダヴィッドはずっと彼女の死を想っては悔やみ、
その度に本当の意味でアスラムを守るという決意を胸に抱いてきたのだ。
そして、アスラムが独立を果たした今、
漸く報告に来れたのだろう。

「・・・時間を取らせて悪かったな。・・・さ、戻ろうか」

しばしの沈黙の後、立ち上がりラッシュを振り返ったダヴィッドは、
ひどくすがすがしい顔をしていた。
だから、つい、聞きたくなってしまった。いや、口が滑ったというのが正しいのか。

「好き・・・だったのか?・・・彼女のこと」
「そうだな。今思えば・・・忘れられない、大切な人だったな」

くすりとダヴィッドは笑う。
すっと手が伸びてきて、次の瞬間、ぐい、と腕を引かれた。
完全に不意打ちだった。ラッシュはダヴィッドから目を逸らしていたから。

「・・・っ!」
「だが、それも今日までかな。俺はこれから、目の前の大切なモノを守っていくつもりだ」

背に回される強い腕、耳元で吹き込まれる言葉。
予想もしていなかった。抱かれる背中が熱い。

「っえ、ちょ、やめ・・・」
「ラッシュ、お前を連れてきたのはな。・・・私の、新たな目標になって欲しいからだよ。」
「ぁ―――っ・・・」

ぞくり、と背筋が震えた。
囁いた唇が、耳の後ろの、柔らかな部分に吸いついてくる。
一瞬、息を詰めたラッシュの腕が、ダヴィッドにしがみ付いた。力が抜けそうになったのだ。

「ばか・・・んなとこで・・・」
「綺麗だろう?この海岸は。・・・そして、お前もね」

腰を抱えられ、近くの岩場に背を押しつけられれば、もはや抵抗のしようがない。
改めて頬を捕えられ、唇が重ねられた。
お遊びなどではなく、本気だと嫌でも伝わってくる、情熱的なキス。
息つぎすらままならないまま、ラッシュはダヴィッドに翻弄されるがままになっていた。
―――けれど。
ここは、たった2人きりの部屋などではなく、
ましてや一般人が立入禁止の場所でもなんでもない。
むしろ、星海の祭りが開催される時期では多くの者が集まるほどの
有名な海岸なのだ。
少し奥まった場所の岩陰ではあっても、目撃されない保証はない。
アスラム候ともあろう者が、これほど無防備であっていいのだろうか。

「ッア・・・、ちょ、待てって。誰かに見つかる・・・!」
「構わんさ。むしろ、手間が省けるというものだ」

領民たちにわざわざ公表しなくて済む、とからかうように告げるダヴィッドの声音に、
ラッシュはますます顔を赤らめる。
再び唇を重ねられ、そのままダヴィッドの手が襟元を探った。
モンスターとの戦闘に備えるため、禁欲的に留められた首を緩め、そうしてTシャツの下の素肌を弄る。
刺激に反応して、すぐに固くなるそれは、
今となっては目の前の男の愛撫に慣れ過ぎてしまった証。
嫌がるほどに、ダヴィッドの笑みが深まった。
有り余る程に元気で、我侭で、照れ屋で、素直でない、ラッシュ・サイクス。
そんな彼が、自らの腕の中で最後には耐えがたい快楽に溺れ懇願する姿を、
ダヴィッドは知っている。

「いや、だ・・・」
「・・・大丈夫。誰も、そんな野暮なことはしないよ」

空気の肌寒さか緊張か、はたまた過剰の羞恥からか。
必死に身を固くするラッシュに、ダヴィッドは苦笑する。
実を言えば、この時期は危険なモンスターが徘徊していることが多く、
一般の領民には立ち入り禁止を命じていた。
実際、かつては無断で入った者が襲われる事件も発生しており、
ここ数年は誰も近づいていない。
そのため、万一見つかるとしても、自分を案じる四将軍くらいしか思い当らなかった。

「だから、素直になるといい。お前のすべてを、私に見せてくれ」
「・・・・・・んっ・・・」

舌で首筋から鎖骨をなぞり、左手では突起を挟むようにして指で刺激を与え、
そうして右手はゆっくりと下肢を辿る。
3つの性感帯を同時に刺激され、ラッシュは眉根を寄せ、目を細めた。必死に意識を逸らそうと、
暁の色に映える水平線を見つめる。
けれど、ダヴィッドの熱い吐息と、捲られた素肌の背に当たる冷たさが、
ラッシュを現実に引き戻す。
ラッシュは唇を噛み、瞳を閉じた。この、自分以上に身勝手な領主様が、
ここまで来て引くような男ではないことを知っている。
それに、本当は。

「・・・・・・ったく・・・」

呆れたように呟くラッシュの態度を肯定と受け取ったダヴィッドは、
喜々として少年のボトムの前を緩めた。
心の底で男に愛されることを望んでいた彼のそれは、
既に待ち望むように頭を擡げている。
だが、敢えてダヴィッドはそれには触れず、両手で滑らかな肌を辿っていく。
思わせぶりに双丘を撫でる手のひらに、ラッシュは身を捩った。
そもそも、ムードだとかシチュエーションなど、ダヴィッドが好んで用意する演出色々は大の苦手で、
どちらかといえば単刀直入、即物的な行為のほうが照れくさくなくていいのだが、
ダヴィッドからすれば、そんなラッシュの全力で照れる姿こそが可愛いのだ。
だからついつい、ギリギリまで嫌がらせに近いことをしてしまう。
そんなではいつか本当に嫌われてしまうな、とダヴィッドは内心で、
自分の子供じみた部分を反省はしているのだが、
どうしてもラッシュを目の前にすると駄目なのだ。
冷静に振る舞うことができない。
今だって、頬を染め、切ない表情を見せる彼に、理性がどこかへ行ってしまったようで。
頭に血がのぼる。この存在の、霰もない姿を今すぐ見たいと思う。

「・・・・・・、」
「っ、ァ、ダヴィ・・・?」

触れてほしいのに触れてくれないもどかしさに、
ラッシュは男の名を呼ぶ。
けれど、ダヴィッドはそれには応えず、再び紅色に染まった唇に触れる。
そうして、尻の中心部に隠された箇所を指先でなぜた。

「・・・っ!」

途端、緊張する体。きゅ、と口を閉じる下肢の奥。
胸元にしがみつく力が、更に強くなる。
相変わらず、その瞬間は恐怖以外の何物でもないのだろう。もう幾度となく、こんな行為を続けてきたというのに。

「・・・や、だよっ・・・フツー、先に前だろ・・・」
「触って欲しいのか?」
「・・・・・・」

羞恥を誘う言葉を返され、ラッシュは口篭った。
今しがた口にした言葉だけでも、相当に恥ずかしいというのに、
どこまで言わせる気なのだと性格の悪さを疑いたくもなる。
恨めしげに視線を送ると、ハハ、と笑われた。
岩に爪を立てているラッシュの手を取り、ダヴィッドはその甲に口づけた。
そうして、下肢に持っていく。
ラッシュの頬が、更に温度を増していく。

「っぁ・・・!」
「自分で、」

できるだろう?と。
囁かれる声音は、確実に笑っている。
悔しかったが、熱いそれを握らされると、手放すわけにはいかなくなった。
ひどく恥かしい行為だとわかっていながら、ダヴィッドの目の前で快楽を貪る羽目になる。
ダヴィッドはというと、そんなラッシュの顔を見つめながら、
再び背後に回した指先でラッシュの下肢の奥を侵し始めた。
先走りの体液が後ろまで流れてきて、侵入には困らなかった。とはいえ、本人にしてみれば苦痛でしかないのだろうが。

「っん・・・ぁ、・・・」

けれど、ラッシュはというと、もはや苦痛など感じていないばかりか、
あれほど恥ずかしがっていたのが嘘のように、自らの手で快感を引き出している。
自分で促したというのに、少しだけ嫉妬心が湧いたダヴィッドは、
少々乱暴に指を奥まで突きいれた。

「いっ・・・」

さすがのラッシュも、ダヴィッドの凶行に抵抗し、
ダヴィッドの胸元を強く叩いた。
涙目で咎めるように男を睨むと、すまない、とは口にするものの、
明らかに目は笑っていて怒りすら湧いてくる。
けれど、すぐさま続けられる愛撫に、結局ラッシュは泣き寝入りする羽目になった。
ラッシュの心がどうあれ、体はもう、後戻りできないところまで来ているのだ。

「・・・ひでぇ・・・、な・・・」
「お前の身体は嫌がってはいないようだが?」
「うるさっ・・・ん・・・っ」

片足を持ち上げられ、不安定な体勢のまま、
ダヴィッドの指が更に増やされる。
力が抜けそうになり、必死に片手で身体を支えようとするが、
それ以上に内部から与えられる刺激が辛い。
もう、そろそろ限界だった。
身体を巡る熱を吐き出そうと上を向いた瞬間、敏感になった首筋に吸いつかれる。

「っやめ・・・!」

白い首筋が、簡単に色づいて花びらのような痕を残す。
毎回、ラッシュは散々嫌がっているが、ダヴィッドにしてみれば自分のモノの証のようで
これだけはやめられない、と内心笑みを浮かべる。
いつもはだらしなく開け放しだった襟元を、最近きっちりと締めるようになったのは、
まさにそんな恥ずかしい理由からで、
しかし目ざとい者にはどうしても気付かれてしまうのが
ラッシュには嫌だった。

「さすがに、こんな所で衣服をすべて脱がすわけにもいけないしな・・・」
「・・・それ以前に、こんなトコでヤるあんたって・・・」

ありえねぇよ、とぼそりと呟くが、
それももう、今更。
力を抜きなさい、と囁かれ、仕方なく抵抗をやめた。
本当は、早く欲しくて、どうしようもなくて。
それでも、大して緊張が解けていないのは、やはりここが室内ではなくて、
空気は肌寒くて、目の前には果てしない海が広がっていて、
やはり、誰かの視線が不安なのだ。

「私だけを、見ていなさい」
「・・・無理」

無理だけど、あんただけを感じることはできる・・・かな?
両腕をダヴィッドの首に回して、瞳を閉じる。
密着したその部分に、意識を集中した。
熱い。
唇を噛んで耐えなければ、期待に震えてしまいそうな身体を必死に抑え込む。
肩口に顔を埋めてしまえば、とりあえず気になるものはなくなった。
指を抜かれる。
一瞬感じる喪失感。
それが更に両手で拡げられ、次の瞬間突き立てられる雄。
立ったままの結合は、重力にも手助けされすぐに奥まで入り込み、ラッシュは息を詰めた。

「っ・・・つ、つ・・・」
「声を、出したほうがラクだぞ?」
「ば、ばかっ・・・!」

乱暴に貫かれるのと違い、自分の内部がひどく悦んでいるのを感じる。
痛みというより、熱と、疼きが止まらなかった。
漸く、待っていたものが与えられた充足感。
どれほど抵抗していても、自分のこんな姿を見れば、ダヴィッドだって気づくはずだ。

「熱いな・・・。」
「ん・・・」

吹き込まれる吐息と、耳朶を甘噛みされる感覚が、
更なる快感を引き出していく。
すべてが満たされた、と思う間もなく、ダヴィッドはラッシュの腰を抱え、
最奥を貫いた。
何度も揺さぶられて、肌に張り付いた前髪から汗が飛び散る。

「っぁ、あっ、・・・んんっ・・・」
「愛している・・・ラッシュ。これからも、ずっと。・・・だから、」

傍にいてくれ―――。
言葉と共に、一層強く抱き締められ、下肢もまた繋がる部分からの熱が溢れだす。
ダヴィッドの情熱に翻弄されながら、ラッシュは少しだけ瞳を揺らした。
それが、本当に叶うのならどれほどよかったことか。
胸の内に広がる不安を直視したくなくて、ラッシュは目を瞑る。
今は、何も考えていたくはなかった。
たとえ未来がどうなろうと、今はこうしてダヴィッドが愛してくれている。
それで充分だった。

「ダヴィッド・・・オレ、もっ・・・」
「ああ・・・、」

もはや、ラッシュの片足は支えの意味を持たず、
ダヴィッドと岩に挟まれて辛うじて姿勢を保っている状態だ。
それでも、今となってはもう、ラッシュの頭では快楽を求める以外のことは考えられず。
自ら、目の前の男の唇を貪ろうとする。
そんな、熱に浮かされた彼に、ダヴィッドは目を細めて舌を絡めてやった。
彼が限界であるのと同じように、自分もまた。
彼のすべてから感じる刺激に、
少しでも気を抜けば浚われそうになる。

「っぁ、触る・・・なっ・・・!」
「一緒に達こう。」

ただでさえもう少しで達してしまいそうなのに、
ダヴィッドの指にひくひくと開閉を繰り返す鈴口をなぞられて、
ラッシュは体を震わせた。

「あ、ああっ・・・!」
「っく・・・」

達する瞬間は、まるで時が止まったかのよう。
ダヴィッドの手の中に放った瞬間、内部もまた熱い感触に濡れる。
けれど、それすら快感に思えるラッシュは、
瞳を閉じたまま、ダヴィッドの熱を追う。
余韻に浸るラッシュを気遣うように、頬に唇が寄せられた。
耳に聞こえてくるのは、吐息と、そして寄せては返すさざ波の音だけ。
下肢を繋げたままの時間は、永遠に思えた。





・・・すっかり日が暮れ、レムナントも光を失う頃。
漸く動く気力を取り戻したラッシュは、しかしそれでもまだダヴィッドの肩に頭を寄せたまま、
水平線を眺めていた。
別に、今は急ぐ旅路でもない。
いや、正確にいえば、覇王軍が迫る今、
一刻も早く戦場に赴かなければならない時ではあるが―――。

「・・・眠い」
「さすがにここで眠るのは危険だぞ。そろそろモンスター達も黙って見ていてはくれまい」

くすりと笑われた。
そういえば、今更ながらなんて危険な場所で行為に及んでいたのかと思う。

「それに、もうすぐ夕食時だしな」

そういえば、確かに腹も減った。
ダヴィッドとフォーン海岸に来たのは、確か昼過ぎで、
ということは、かなり長い時間ここにとどまっていたことになる。
さすがに、四将軍も心配しているだろう。
けれど、まだ・・・戻りたくない・・・気がした。
というより、できることなら、永遠に。

「・・・・・・帰りたくないな。」
「は?」

一瞬、ドキリとした。自分の考えを読まれていたのかと顔をあげれば、
冗談だよ、と誤魔化される。
けれど、満更でもないのか、ダヴィッドは一向に動く気配がなく、
自分を腕に抱いたままだ。
沈黙。
けれど、それは居心地の悪い空気ではなく、
何も口にする必要のない甘いそれ。

「・・・・・・・・・だな。」
「え?」
「いや・・・」
「なんだよ」

言い掛けてやめるダヴィッドなどあまりないから。
ラッシュは見上げた。男は苦笑して、ラッシュの頭を愛おしげに撫でる。

「お前を前にすると、自分を取り繕えなくなるな。不思議なものだが・・・」
「・・・ふぅん」

それは、俺が・・・だからだろ。
ラッシュは内心、そうぼやいたが、もちろん口にするつもりはない。
たとえいつか別離がくるとしても。
時が来るその瞬間までは、今のままでいたいから。

「・・・さ、帰ろうか」
「待てよ。」

今度こそ、ダヴィッドの腕を引き、唇を奪う。
彼が自分を求める以上に、自分もまた彼が欲しいのだと言わない代わりに、
キスをする。
ダヴィッドは一瞬驚いた顔をして、そうしてすぐに笑みを浮かべた。
好きだよ、と囁かれる。
ああ、オレもだ。ダヴィッド。

「・・・今夜は、オレにあんたをくれよな。」





end.





Update:2009/04 by BLUE

PAGE TOP