Pray in your cage.



ブラックデールでのイリーナ嬢奪還の失敗は、
ラッシュにとってあまりにショックなことだっただろう。
島を出て、ただ、光る飛行レムナントだけを頼りに妹を探していたラッシュ。
アスラムで幾つか得た情報も、
ほとんどが外ればかりで焦っていたはずだ。
そんな時、舞い込んだ有力な情報。
“ブラックデールにて、飛行レムナントと少女の姿が目撃された”
アスラム領に不審人物が目撃され、
軍が出動しないはずもない。さらに、今回は特に親都市セラパレスからの要請。
ダヴィッド自ら指揮を取り、今回の作戦を立てた。
前半はうまくいっていた。入口に立ちはだかる武装集団を倒し、
そして内部でイリーナを見つけたのだから。
だが、あれほど彼女を目の前にして、彼女を取り戻せなかったという事実は、
ラッシュには辛かったろう。
それ以来、彼はいつもとは違って、ひどく無口になった。
勿論、誰も、何も言わなかった。
城に帰ってからも、部屋に閉じ籠り、誰にも会うことはなくなった。
馬鹿げた話だ。
おそらく誰も、イリーナ嬢だとて彼を責めなどしないだろう。
あの男・・・ワグラムという魔道士の力は、あまりに強大で未知のものだった。
今の我々が、立ち向かえるはずもなかったのだから。

・・・作戦を、立てねばならない。





もう、
既に皆も寝静まったはずの時間。

ダヴィッドは、ラッシュの部屋を訪れるべく、一人回廊を歩いていた。
あの、ワグラムという男は、レムナントではない、何か不思議な力を操っていた。
今現在、自分たちが持つレムナントの力では立ち向かえない類のもので、
もし、あの時彼女・・・イリーナ嬢がいなければ、
皆、助からなかっただろう。
そもそも、彼女自身にあんな不思議な力があることも、驚きだった。
ラッシュが知っているわけではあるまい。
彼女が持つタリスマン、あの力の発動すら、
ラッシュ自身驚いていたのだから。
そう、―――あの、不思議な碧い光を放つタリスマン。
契約レムナントとはまた違う、未知の力だ。
ダヴィッドの胸の内で、欲望にも似た興味が湧く。
―――未知の力、それを手にできれば、必ずアスラムの力になる―――
勿論、ダヴィッドとて、戦など好むところではない。
力など使わず、平穏に生きられるのならどれほど理想か。
だが、現実には、
どの都市も互いに牽制し合い、
隙あらば領土を広げようと睨み合っている。
そんな中、ただでさえ小国であるアスラムが、力は特に重要なことだった。
そう、すべてはアスラムの為。
あんな、世間も知らぬ無謀で無知な少年を手助けするのも、
全てアスラムの繁栄のためなのだ。
だからこそ、今、
重要な戦力である彼を失うわけにはいかなかった。

「ラッシュ、起きているか?」

一応、ドアを叩き、彼の存在を確かめた。
案の定、夜も遅いからか、ラッシュの返答はなかった。内部も静かなものだ、
本当に眠っているのかもしれない。
それなら仕方ないか、と踵を返しかけて、

―――・・・ちくしょう・・・!

「・・・ラッシュ・・・?」

ドア越しに聞こえる声音に、ダヴィッドは耳を澄ました。
しばらくすると、叫び声と共に、聞こえてくるのは、ダン、という乱暴な音。
こんな時間に、別の人間と話しているわけではあるまい。
現に、聞こえてくるのはラッシュの悲痛な声音だけで、
ダヴィッドは躊躇わずにドアを開けた。
鍵は、開いていた。
無防備にもほどがある。自分のように、下心のある人間が深夜に侵入したら、どうするのだろう?
まぁ、そこがラッシュらしい、とも思えるのだが。
口の端だけで笑い、ダヴィッドは扉を開ける。
ギィ、とわざと音を鳴らして、ラッシュに聞こえるように。
案の定、ラッシュはハッと顔をあげて、視線の先にダヴィッドを捉えた。

「・・・ダ、ヴィッド・・・!?」

ベッドに腰を下ろし、泣き腫らした瞳で、驚いたように自分を見つめる彼。
まさか来るとは思わなかった人物の来訪に、ラッシュはただただ目を見開くばかり。
けれど、こんな、自身の後悔に苛まされている状況で、
まさか彼を歓迎できるはずもなく、
ラッシュは俯く。ダヴィッドは少しだけ口の端を持ち上げて後ろ手に鍵をかける。
せっかくの二人きり、他の誰にも邪魔されたくなかった。
そう、これはチャンスだ。
彼を集中に収めるために、ここは彼の望む手を差し伸べてやらねば。

「な、なんの用だよ・・・」
「お前の様子が気になってな。・・・やはり、眠れないのか?」
「・・・っ」

ダヴィッドの言葉に、ラッシュは必死に手の平で瞳を擦った。
さすがに、泣き腫らしたままの瞳を見せたくなかったのだろう、先ほどから、一度も目を合わせてくれない。

「気にすることはない。お前が自分を責めて、苦しんでいることくらい、知っている」
「っダヴィッド・・・」

毛足の長い絨毯を踏みしめて、ダヴィッドはラッシュに近づく。
少しだけ、ラッシュは逃げるようなそぶりを見せるが、
その前に、男はラッシュが腰かけているベッドに、同じように腰をおろした。
視線の高さを合わせ、
ダヴィッドもまた、ラッシュと同じ方向を見つめながら。

「まだ機会はいくらでもある。そう、思い詰めるな」
「っ・・・でも!イリーナの目の前まで来ていながら、助けられなかった・・・!守る、って、誓ったのに・・・」
「ラッシュ」
「眠れない?当たり前だ、寝れるわけがない!俺が、こんな、のうのうと休んでいる間にも、イリーナは、
 あんな得体の知れないヤツらに囲まれて、ひとりぼっちで、怖い思いをして、きっと、酷いことも一杯させられて・・・俺っ・・・」
「お前のせいじゃない」
「俺のせいだ!あいつ等を倒せなかった・・・それどころか、イリーナに助けられるなんてっ・・・」
「・・・・・・」

ダヴィッドが現れたことで一度は収めたはずの涙が、
再びぼろぼろと溢れだしてくる。
あの未知の力を前にして、太刀打ちできなかったのは仕方のないことで、
ましてやラッシュがこれほど自責の念に駆られる必要などないのだ。
だが、そう言葉で慰めても伝わらないだろう。
こんな場所で、独り、何もできない自分を責め続けて。
食事も満足に取らず、まともに眠ることもできず、青褪め、幾分やつれたような頬を涙で汚して、
こんな状態で、彼の身体がいつまでも持つはずがない。
爪が食いこむ程に強く握りしめられるラッシュの拳に、ダヴィッドはそっと手を置いた。
そうして、片方の腕を彼の肩に回し、抱き寄せる。

「っ・・・ダヴィッド・・・」

何も言わず、彼を抱き締めると、ラッシュは気が緩んだのか、
男の胸元に顔を埋める。そのまま再び声をあげて泣き出すラッシュに、
ダヴィッドは衣服が汚れるのも構わずそのまま泣きたいままにさせてやった。
彼が自分を責める心は止められない。
けれど、せめて、一時でも忘れさせてやれるのなら。
ダヴィッドはラッシュの身を起こし、顎を取る。困惑した表情のラッシュに少しだけ笑みを向けてやり、
そのまま唇を重ねる。無論、ラッシュの瞳が大きく見開かれ、すぐに彼の腕から逃れようと腕をつっぱねた。
まさか、ダヴィッドが自分に対しこんなことをしてくるとは思わなかったし、
それ以前にこんな気持ちのまま彼を受け入れるわけにもいかない。
遊んでいる場合などないのだ。
自分がこんなくだらないことをしている間にも、イリーナは・・・!

「何の冗談っ・・・んう―――!」

必死に抵抗を始めたラッシュの身体は、
思いがけない強い力に抑え込まれ、再び乱暴な唇が彼を襲った。
言葉を紡ごうとしていたために、歯列が緩んでいて簡単にダヴィッドの侵入を許してしまう。
歯を立てようにも、顎を捕えられていて上手く力が入らない。
彼の衣服の肩に、ラッシュは爪を立てた。
だが、どれほど力を入れようにも、ダヴィッドが怯むことはなく。
更には、下肢に違和感を感じて、ラッシュは顔を歪めた。

「んんっ・・・!!」

ダヴィッドの掌が、ラッシュ自身を衣服の上から確かめるように辿り始める。
勿論ラッシュは手を伸ばし、悪戯な男の手を諌めようとそれに重ねたが、
ラッシュの力がダヴィッドに叶うはずもない。
それどころか、強く握り込まれて背筋が震えてしまった。
唇が重ねられたままの行為に、頬が真っ赤に染まる。
ダヴィッドはくすりと笑い、そのままラッシュのベルトを片手で器用に抜き去った。

「はっ・・・やめっ・・・ぁんっ・・・!」

息をつくために一瞬だけ解放され、また再び舌を絡め取られる。
その間にも、身勝手なダヴィッドの掌は緩んだボトムの淵からするりと内部に入り込み、
ついにはラッシュ自身に直接触れてしまっていた。

「んっ・・・!なんで・・・こんなっ・・・」
「大人しくしていろ・・・」

キスの合間、囁かれる声音。
下肢に与えられる直接的な刺激とはまた違う、
腰の奥が疼くような、力が入らなくなるような感覚に囚われ、
ラッシュは抗う力すら失う。

「もう、何も考えられないようにしてやる・・・」
「・・・っ」

再び唇を重ねられ、優しく抱きしめられれば、もう限界だった。
抵抗していた腕が、緩む。ラッシュの力が抜けたのをいいことに、
ダヴィッドの彼を弄る手が激しくなる。
興奮の色を見せながらも、緊張からか素直に欲望を表せないラッシュのそれを、
掌ですっぽりと包み込み、上下にスライドさせては、親指で優しく先端を撫でていく。
次第に荒くなる吐息に、ダヴィッドもまた興奮の色を隠せず、
ラッシュの襟元を解いていく。露わになる白い肌に、
ダヴィッドは唇を這わせていく。顎を通り、喉元に吸い付いては、浮き出た鎖骨に歯を立てる。
肌蹴られた胸元に、下から掌を這わせていけば、
ぞくりとラッシュの身体に震えが走った。

―――情けない。
快楽の合間、ふと戻った理性で、ダヴィッドの腕の中で喘ぐ自分を嘲笑った。
結局、一人では何も守れやしなかった。
兄として、妹1人、助けてやれない。こうして、誰かに頼って、
ダヴィッドに頼って、情報を貰って、力を貸してもらって、
そうして漸くイリーナの元に辿り着いたというのに、
そこまでしてもらっていながら、彼女一人助けることができなくて、何が兄だというのだ。
それどころか、逆に守られた挙句、
彼女が敵に囚われどれほど危険な目に遭わされているかも知れないのに、
男の掌に踊らされて、快楽の声まで漏らしてしまっているのだ!
情けなくて仕方がない。
自分は、どうしてこれほど不甲斐ない存在なのだろう。
何故、あの時彼女の手を引いて逃げられなかったのだろう!
―――イリーナ。

「ぁっ・・・、イリー・・・ナ・・・っ・・・!」

ラッシュの言葉に、ダヴィッドはすぅ、と目を細めた。
これほど快楽の声音をあげながら、自分の愛撫に溺れ、涙をこぼしていながら、
今だ彼の頭を支配しているのは妹の存在ばかりで。
嫉妬しているわけではない、それも仕方のないことだ。
だが、助けられなかった妹の影ばかり追い掛け、自らの体調管理もままならない、など、
あまりに愚かなことではないのか。
ダヴィッドは強くラッシュの手首を掴み、そして捻りあげた。

「っ・・・痛・・・!」
「言っただろう・・・何も考えられないようにしてやる、と」

幾分低まった声が、恐怖を覚える少年の耳をなぜる。
次の瞬間、掴まれた両手首をシーツに強く縫い止められ、ラッシュは息を詰めた。
乗り上げてくる男の表情は、普段のような優しさなど微塵もなく、
ただ冷酷で、残酷に見える。
背筋が震えた。上半身は中途半端に衣服を乱したまま、
下肢が取り去られ、全てを曝け出す羽目になる。
ラッシュは羞恥に身を捩ったが、どれほど抵抗したところで、男の腕の力が緩むことはなく。

「やっ・・・ぁあ―――!!」

なんの前触れもなく、
外気に晒されたはずの下肢が生暖かい感触に包まれた。
ダヴィッドの頭が、ラッシュを押さえつけたまま、彼の下肢に埋まる。
生暖かい感触は、彼の口内だった。
中心部を深く呑み込んで、そうして、舌で筋を何度も辿っていく。
下肢を見下ろして、ようやくそれを理解して、一気に全身が沸騰した。こんな事、誰にもされたことがなかった。
それ以前に、セックスなどしたことなどなかったから、
いきなりのダヴィッドのその行為に、困惑する。今すぐにでも、逃げ出したかった。
けれど、ダヴィッドの動きは止まらない。
まるで、何かの生き物のように蠢く舌は、
慣れていないはずのラッシュのそれさえも快感を引き出していく。
自分自身で慰めていたそれとはまるで比べものにもならない感覚だった。
嫌が応にも、引き結んでいたはずの口元から甘い声音が漏れてくる。
ラッシュは口元に手を当てようとして、
自由にならない腕に困惑し、そうして強く唇を噛み、嫌がるように首を何度も振った。

「やだっ・・・っめろっ、や・・・!」
「五月蠅い・・・」
「ん・・・!!」

片手で更に大きく腿を開かせ、嫌がる少年に更に行為を強いる。
あまりの羞恥とそれを凌駕する強い快感に、ラッシュはもはや、息も絶え絶えだった。
思考すら、上手くまとまらない。
脳を支配するのは、欲望。知ってしまった快楽を、今度はもっともっと貪ろうとする、
貪欲な本能。――ー嫌だ!
情けない。こんなものに溺れている場合ではない、
自分がしなければならないのは、

「あっ・・・・駄目だっ・・・!」
「もっと、感じろ・・・」

ダヴィッドは、両腕でラッシュの脚を捕らえ、限界まで拓かせた。
涙を零し続ける少年のそれは、とっくに熱を溜め込み、もはや後戻りができない状況だ。
何度もラッシュは首を振り、与えられる狂暴な快楽から逃れようと必死だったが、
ただでさえ体力の落ちていた身体は、
彼の心を裏切っては、ラッシュを絶望の底へと突き落とす。
この、未知の快楽に対して、堪えるのも、苦しむのも、もう無理だ。
流される。
この自身を責めつづける内心の叫びに耳を塞いでしまったら、どんなに楽だろうか!

「・・・っあ、ダヴィっ・・・!」
「耐える必要などない。・・・そう、自分を責める必要などないのだから」
「んんっ・・・!」

ラッシュの掌が、おそるおそるダヴィッドの髪に触れ、握り締める。
縋り付くようなそれに煽られ、更にボルテージをあげていくダヴィッドは、
思わず耳を塞ぎたくなる位の卑猥な水音をたててラッシュのそれを追い詰め、また指先で下のほうに鎮座する袋をやわやわと刺激する。
それは、男であるならば、到底我慢できない、
強烈な快感だった。

「あっ・・・!や、もっ、だめっ・・・!」
「ほら・・・、達け・・・」
「んーーーっ!!!」

ラッシュの身体がびくびくっと震えた瞬間、
ダヴィッドの口内にどくどくと大量の精が吐き出されていた。
他人の行為で達くことなどラッシュには初めてのことで、
恥ずかしくて仕方がない。
顔を上げたダヴィッドと、顔を合わせることもできず、ラッシュは横を向く。
それに対して、ダヴィッドは冷静な表情の下で、
少年の思いの外魅惑的だった惑乱ぶりに気を取られていた。
元々、あまりにストイックに兄としての使命を意識し、
己自身の大切さにも気付かないでいるラッシュを慰めてやるだけのつもりだった。
快楽を与え、甘い言葉を与え、時には忘れることも必要だと教えてやりたかっただけだ。
だが、今目の前の少年は、強い快楽に口許をだらしなく開き、
頬をピンクに染め潤んだ瞳に今にも零れそうな涙を溜めながら、
自分を見つめているのだ!
嫌が応にも、身体の奥が熱くなっていく。
いやらしい少年のそれに、収まりのつかない己の欲望を自覚して、
ダヴィッドは笑いが込み上げてきた。
口の端をゆっくりと持ち上げる。
そうだ。
これほど誘うような表情を向けられて、理性を崩さぬ男などいない。
更に言えば、彼は今のアスラムにとって最重要人物。
彼の心も身体も、すべてを自分が手中に収める方法として、
これは悪くない手段だ。

「もう、気が済んだかよ・・・・・・」
「お前こそ、どうなんだ?」
「っえ・・・」

強い視線で顔を覗き込むダヴィッドに、ラッシュは戸惑いを隠せなかった。
こんな行為を強いられた自分が、なんだって?

「少しは、気が紛らわせたかと、聞いている」
「紛らわせた、って・・・なんだよ、それ・・・っ!俺は、忘れてなんていられないんだ!俺は、こんなことっ!」
「だからお前は馬鹿だというんだ」
「っ・・・!」

どさり、とひっくり返され、ベッドに俯せの体制にさせられた。
ラッシュは抵抗したが、男の腕はびくともしない。
普段なら、ほとんど互角の力を持つはずの力比べは、
今は簡単にダヴィッドに軍配があがった。

「忘れることを強いているわけではない!だが、思い詰めすぎて、己自身すら見えていないお前の愚かさを教えてやる」

ダヴィッドの指先が、するりと下股の奥へと滑り込んだ。
背後から押さえ付けられた格好で、身動き一つとれないまま、
双丘を撫でるようにされてラッシュは身震いする。
こんな、考えたこともない、
男の手で、本来排泄器官えしかない箇所を拓かれ、弄ばれるなど。
狂気の沙汰だ。一体、ダヴィッドはどうしてしまったのか。
ただ、わかることといえば、
ダヴィッドは今、確実に自分を手放す気はなくて、
彼の指先は深々と内部を犯し始め、苦痛と共に未知の感覚を引き連れてくるということだけで。

「っい、痛・・・ぃ・・・!」
「力を抜け」
「無理・・・っ・・!」

こんなただでさえ無理な格好を強いられて、力を抜けとはどういうことだ。
どうやれば力が抜けるのか教えてほしいくらいだ。

ラッシュはあまりに自分勝手なダヴィッドの発言に、
首を捻ってありったけの力で睨み付けたが、
涙を溜め、顔を真っ赤にしてそんな態度をとられても、むしろ逆効果にしかならなかった。
ダヴィッドは声をあげて笑った。


「まったく・・・、仕方のない奴だ。」
「っあ・・・!」

するり、と下肢に絡み付いてきたダヴィッドの指先に、
ラッシュは身をすくませた。
一瞬力が抜けたのを感じ、奥を犯していた指を深々と根本まで食い込ませる。痛みと快感は、すり替わることもなく、同じ強さでラッシュを襲った。
だが、これほど苦しくて、辛いのに、
この未知の感覚を、自分の中のどこかが欲しいとざわめいている。

「・・・っあ、やっ・・!そこ・・・!」
「ここか?ここだな・・・」

ダヴィッドの指先がラッシュの内部のとある部分に触れた瞬間、ラッシュの口許から悲鳴のような嬌声が漏れていた。
思わぬ己の反応に、ラッシュは再び顔が真っ赤に染まる。
これでは、ダヴィッドを付け上がらせてしまうだけではないか!
案の定、ラッシュの弱い部分を開発していくように、
内部の淫らな指先は何度もラッシュのそこの部分を擦り上げた。
何度も擦られれば擦られるほどに、
引き結んでいたはずの口元は緩んでしまう。
今まで感じたことのない、内部を他人に拓かされる感覚は、
恐怖と共に、ラッシュの奥底で燻っていた欲望を明確に引き出していく。

「や・・・っ、ダヴィ・・・やめ・・・」
「嘘をつくな・・・。」

どんなに口で抗いの言葉を吐いていても、
耳元で囁くダヴィッドの掌の中では、ラッシュ自身が興奮を隠せずに、
先端から先走りの蜜を零しているのだ。
こんな状態で、嫌がっていると思えるはずもない。
それどころか、先ほどまで、どれほど快楽に翻弄されていても固くこわばっていたはずの表情が、
今では頬を涙で汚し、潤んだ瞳は懇願するように男を映している。
ダヴィッドは、頬に筋をつくる涙に口づけ、舌を這わせた。

「ラッシュ・・・」
「・・・ぁ、ダヴィッド・・・、俺・・・っ・・・」

愛撫の手を緩め、ゆったりと抱きしめてやると、
再びラッシュの目の端から溢れる雫。
強い快楽に、今にも流されそうで怖いのだろう。わかっている。
本当は今だって、己を責める心で一杯なのだ。
だから、最後まで理性を手放せず、あと一歩のところで男の行為に抵抗しようとしてしまう。
ダヴィッドは、何も言わず、ただ、抱きしめてやった。
鼓動が重なる。ラッシュは背中の温もりに、
いよいよ涙が止まらなかった。

「・・・・・・ダヴィッド・・・っ」
「・・・大丈夫だ」

罪の意識に囚われ続けるラッシュを宥めるように耳元で囁いて、
ゆっくりと彼の身体を仰向けに返す。

「彼女は、必ず取り戻す。だからもう・・・自分を責めるのはやめろ」

濡れた唇をなぞり、そのまま熱いそれを重ねる。
もはや、抵抗はなかった。
舌で誘うように歯列を割り、そのままラッシュのそれを捕えた。
熱くて、甘い。
ザラついた感触や、裏側のツルツルとした感触を何度も愉しむように味わっていると、
そろそろと伸ばされる腕。
首にしがみ付かれて、ダヴィッドもまた胸の奥が熱くなる。
―――欲しい。
今すぐにでも、彼の下肢を拓いて、
その奥の隠された場所を貫き、深くまで繋がって、そして。

「んっ・・・」
「ラッシュ・・・今は、俺のことだけ考えろ・・・」

ダヴィッドはラッシュの先走りに濡れた手で、ラッシュの奥まった場所へ触れた。
そのまま、拡げるように指を添え、こちらも極限まで昂った雄を宛がう。
ラッシュは、息を呑んだ。
けれど、ダヴィッドの首にしがみ付いたまま、逃げることはせず、
それどころか、再びキスを強請るようにダヴィッドの頭を寄せる。
今夜、幾度重ねたかわからない唇を再度合わせて、
そのままダヴィッドはラッシュの内部に侵入した。

「ん―――っ!!!!!」
「ラッシュ・・・」

おそらく初めてであろう少年のそこは、
思いのほかキツく、ダヴィッドは眉を顰めた。
けれど、自分が感じる痛みより何倍も、何十倍も、
ラッシュは苦痛を感じているのだろうと思う。
唇を重ねていたから、言葉で表せない代わりに、
ラッシュの首にしがみ付く力が一層強くなった。身体も、痛みと恐怖に固くこわばっている。

「んんっ・・・っふ・・・」
「・・・深呼吸をするんだ。ゆっくり・・・そう、息を吐いて」

彼の強張りを少しでも和らげてやろうと、
ダヴィッドは痛みに萎えかけたラッシュ自身に触れた。
苦痛と共に、確実にラッシュの身体を走り抜ける強い快感。それが、ダヴィッドの掌によって
更に深く、重いものとすり替わっていく。
腰の奥は、まだまだ内部に男を受け入れた痛みにわだかまっていたが、
それでも確実に、ラッシュの頭の中は得られた快楽を追うのに必死だった。
もっと、欲しい。
ダヴィッドが自分の中に入っているなど、
到底自覚できるものではないが―ー―。
それでも、思考を塗りつぶして、ただ目の前の快楽だけを追うことができるのなら。
ラッシュの身体は、もうとっくに己を責め続けることに疲れていて、
彼の抵抗は既に意味をなさないものだった。
忘れてはならない、という使命を強く感じる一方で、
忘れてラクになりたい、という弱い自分。愚かだと思う。自分は、なんのためにここへ来たのだ?
ダヴィッドに抱かれ、愛されて幸せになるため?
違う、自分がしなければならないのは・・・

「俺を、見ろ」
「・・・ダヴィッド・・・」

まっすぐに目を見据えられて、その強さにラッシュは目を細める。
もう、すべて投げ出して、彼に頼ってしまいたかった。
広い背中に、腕を伸ばして。
身体を寄せる。
どうせ、自分1人じゃなにもできなかったのだ。
ダヴィッドに助けられて、情報を集めてもらって初めて、
イリーナの動向が掴めたのだ。
そんな相手に、どうして拒むことができるだろう?

「っオレ・・・オレはっ・・・!」

ラッシュが言葉を紡ごうとした瞬間、
ダヴィッドの両手がラッシュの腰を掴み、内部を深く満たした。
そうして、そのままぐちゅりと卑猥な音を立てて、ラッシュの肉襞を擦るように抜き挿しを繰り返す。
焼けるような痛みがラッシュを襲ったが、
今の彼には、内部の一番感じる部分を的確に擦り上げていくダヴィッドのそれが欲しくてたまらなかった。
表面的な痛みよりも、中で感じる深く、重い快楽が欲しい。
それに、胸元のたくましい鼓動も、また。

「・・・綺麗だ」
「あっ・・・ダヴィ・・・!」

汗で額に張り付いた黒髪を、ダヴィッドは掌で払ってやる。
そうして、もう、自制が利かない、とばかりに乱暴に何度もラッシュの腰を引き寄せていく。
もはや、ラッシュの頭は、苦痛などすっかり忘れて、
ダヴィッドに与えられる快楽の波に溺れては喘ぎ声をもらしていて。
そんな乱れた姿のラッシュに、ダヴィッドは興奮した面持ちで渇いた唇を舐める。
さすがに、そろそろ限界だ。
あれほど抵抗していたはずの少年が、これほどまでに乱れ、縋りつく姿を見せられれば、
誰だって自制も利かなくなるに決まっている。

「今夜は、何度だって達かせてやるさ・・・お前の気が済むまでね」

熱い吐息を漏らしては潤んだ瞳でまっすぐに見上げてくるラッシュに、
ダヴィッドは再び口づけたのだった。










・・・眠れない、日々が続いていた。

寝なければいけない、とはわかっていた。
本当は、もう、過去など振り返っても仕方がないことだとわかっている。
だから、次の機会にこそ、必ず取り戻せるように、
鍛練を続け、力と体力をつけていかなければならないこともわかっていた。
けれど、眠れなかった。
夢を、見るのだ。何度も、繰り返し。
イリーナを、取り戻せない夢。
何度手を伸ばしても、何度立ち向かっても、勝てなかった。
その度に後悔した。自分の弱さと、愚かさを。
苦しいと思った。必死に叫び、彼女に向けて伸ばされたはずの手は、
必ず宙を切り、そして目覚めた。
身体は、ひどく嫌な汗にベトついていて。
そんな日々が続けば、眠りたくもなくなる。
だから、夜は一人がひどく辛くて。
己を責めることしか、できなかった。

けれど。

「・・・・・・・・・・・・眩し・・・」

カーテンの隙間から漏れる光に、ラッシュは目を覚ました。
あまりの眩しさに、すぐに手を翳し、光を遮ったけれど、
なぜか、今日は気分がいい。
いつも、あんなに夢見が悪く、寝起きは最低の気分だっただけに、
ラッシュは珍しく口元を緩ませた。

今は、何時だろう?

もしかしたら、かなり寝坊しているかもしれない。
最近、全然寝ていなかったから、疲れがどっと出たのだろうか?
ベッドサイドの時計を、なんとなく見やって・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・2時??!!!」

どんだけ寝てんだよ、オレ!?
がばっと起き上がり、ベッドから急いで降りようとしたラッシュは、
まず起き上がるところで身体の異常な重さに気づいた。

「ちょ・・・な、んだ、これ・・・」

腰が、どうにも上手く動かせないのだ。
というよりも、感覚がない。
ぼんやりとわだかまる痛みが、意識するたびに強くなっている気がする。

「起きたのか?」
「っ!ダヴィッド!?」

投げかけられた台詞に、声のするほうを見やると、
自室のソファに、ダヴィッドが座っていた。
手には、書類。よくよく見れば、テーブルの上には山ほど紙が積まれている。

「なんで、あんた・・・ていうか、オレ?」
「何わけのわからないことを言っているんだ。別に、まだ眠っていても構わないよ」

ダヴィッドにそう言われて、
まだ身体が全然ダルいことに気づいた。大人しく、布団に収まる。
ダヴィッドはくすりと笑うと、ソファを立ち、ラッシュの傍に腰を下ろした。

「よく、眠れたか?」
「ん・・・・・・多分。夢も見なかったし」
「そうか。それはよかった」

ダヴィッドの手が、ラッシュの頭を撫でる。ラッシュはなぜか、
ひどく恥かしくなって、布団に隠れるようにすっぽりと埋まってしまった。
そうだ、そもそもなんで、こんな遅くまで寝ていたのだろう、自分は?
昨晩は・・・・・・そう、昨晩も、
いつもと同じような夜で、
眠れなくて、脳裏にはイリーナの悲しげな表情ばかりが浮かんで、
手を伸ばしても届かない自分に嘆き、
己のふがいなさを責めて立てていたはずだ。
なのに・・・

「・・・なんで、オレ、寝てたんだ?」
「・・・・・・ラッシュ?まさか覚えていないのか?」

ダヴィッドの言葉に、ラッシュはうーんと唸った。
今、わだかまっている腰の痛みと同じように、頭の中がまだもやもやとしていてはっきりしない。
昨晩・・・昨晩は・・・そう、いつものように叫んで、己の情けなさに涙して、そして・・・

「そうだ!それで、あんたがやってきて・・・」

言うなり、ラッシュは昨晩のことがどんどん思い出されてきて、
みるみるうちに顔が沸騰した。
そうだ、完全に忘れてしまっていた。
昨夜、ダヴィッドが部屋に来て、話を聞いてくれてたと思ったら、
なぜか唇を重ねてきて、更には肌まで重ねてきて・・・

「っ!!!!!」
「・・・一応は、自制していたつもりだったのだが」
「どこがだよ、どこが!!」

叫んだ途端、腰の痛みが明確に思い出されてきて、
ラッシュは呻いた。
すっきりした目覚めの朝?冗談じゃない!!犯されて、意識を失うまで攻め立てられて、
これでは2時まで目が覚めないのも当たり前だ。
いや、そんな問題ではない、一番大切なことをすっかり失念していた!

「ていうか、おれ、初めて・・・っ!」
「そうか、それはよかった。本当は、お前が慣れていたらどうしようかと思っていたんだ。
 きっと、お前の“初めて”の人間に激しく嫉妬してしまうだろうからな」
「し、し、嫉妬って、お前・・・!」

ラッシュはわけのわからない怒りと羞恥がこみあげてきて、
ついに布団を頭まで被ってしまった。
恥ずかしい。
かなり、恥ずかしい。
昨夜のことを思い出すだけでも、恥ずかしい。
出来ることなら、もう、とりあえずダヴィッドには出て行ってもらいたかった。
そうして、もう1度、ゆっくり眠る!
ダヴィッドに邪魔されない、静かな眠りを・・・あれ?

「・・・・・・・・・オレ、今まで、全然眠れなかった」
「だから、俺が一肌脱いでやったんだ。素晴らしい効果じゃないか?もう2時だ」
「そういう問題かよ!」

勢いで叫んだラッシュは、すぐにイテテ・・・と腰を押さえた。
そうだ、思い出せば思い出すほどに、腰が痛む。
こんな状態で、まさか皆と顔を合わせられるはずもない。
まったく、情けない話だ。

「・・・もう少し、眠っているといい。俺が、傍にいるから」
「・・・・・・・・・」

本当は、部屋から出て行ってほしいのだけれど。
けれど、ダヴィッドが傍にいるだけで、なぜかすぐに眠れそうな気がした。
一人じゃないから?
それとも、ダヴィッドだから?
答えは、とりあえず眠ってからにしようと思う。
今だに、心の底では、こんなことをしていられるわけがない、とは理解しているのだけれど。
ダヴィッドは、大丈夫だと言ってくれた。
次の機会には、かならず彼女を取り戻すと言ってくれたから。
それだけで、今はもう、充分だった。

「・・・おやすみ、ラッシュ」

目を瞑る。
布団の上から抱きしめられた温もりが、
ひどく熱かった。





end.



Update:2009/04 by BLUE

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