シャワールーム。



「おや。どうしました、月くん」

前触れもなくプライベートルームに入ってきた月に、
竜崎は驚いたように目を見開いた。
確か今日は、朝から晩まで大学での予定があるから、と
本部に来る予定はなかったはずだ。

「松井さんに呼ばれてね。・・・それより竜崎、ここ3日、全然寝てないんだって?」
「え・・・?・・・ええ、まぁ。そういえば寝てませんね」

目の前には、多数のビデオデッキ。第二のキラがキラを"見つけた"というのが22日の青山であるならば、
もしかしたら監視カメラに映っているかもしれない。
膨大な量の映像を虱潰しに確認していたら、気付けば一睡もせずに3日が経っていた。

「松井さんが竜崎のことを心配しててさ。自分らが言ってもきかないから、って僕が呼ばれたんだよ。」
「・・・・・・お節介な人ですね・・・」

竜崎はうんざりと手を顔に当てた。
こちらだって、睡眠が必要な時はさすがに休息を取るのだ。
子供でもあるまいし、そんなつまらないことで気にかけられるのはむしろ迷惑だった。
ましてや、自分達が言ってもきかないから夜神月?
意味がわからない。

「・・・でも、松井さんじゃなくても、誰だって心配するよ。3日も寝てないんじゃ、竜崎が倒れてしまう」
「余計なお世話です。それに以前、7日間寝ないで生活したこともありますよ」
「それでも、推理力減なのは当然だろ?2、3時間でも眠らないと」
「・・・っ・・・、だから、平気だと―――・・・っ・・・」

いきなり頭を掴まれ、竜崎は嫌そうに顔を顰めた。
塞がれる唇。 ここ最近感じていなかった感覚に、一瞬理性を奪われそうになる。
座っていた竜崎に圧し掛かるようにして口内を貪る月の胸を、必死で叩くと、
激しい抵抗に眉を潜めた月が少しだけ唇を解放する。
荒い息をついて月を睨み上げる竜崎に月は、はぁ、とため息をついた。

「つれない奴。」
「強引な貴方のほうが最っ低です」
「・・・ふぅん。じゃあ、どうすれば合意してくれるのかな?」

意地悪く歪む月の口元。抵抗されて引くような男ではない。
再び己を押し倒し始める青年に、竜崎はひどく危機感を感じていた。

(・・・っ・・・!)

再度、重ねられるキス。今度は逃がさない、とばかりに歯列を割り絡め取られる舌は、
絶対に譲らない、といった強い意志を竜崎に伝えてくる。
それは、ここ最近のごたごたであまり互いに触れられなかった彼にとってひどく誘惑されるものだったが、
まさか、この状態で彼に流されるわけにはいかない。
それに、理由がもう一つ―――。

「・・・っ・・・やめ・・・夜神く・・・!!」

竜崎は、渾身の力で月を突き飛ばした。腕を突っ張り、足で蹴り飛ばそうとする。
なかなか抵抗をやめない竜崎に普段とは違うものを感じ、
さすがの月も儘ならずに、一度間を取ってやった。
目元を赤く染め、泣きそうになっている彼に、月は不審に思った。

「・・・、どうした?」
「・・・―――今日は、やめてください」
「・・・何故」

普段、意地もあってかあまり抵抗も逃げ出そうともしないことが多いだけに、
月はその言葉に不思議そうに首を傾げた。
竜崎はというと、唇を引き結び、意志を込めて見上げてくる。

「・・・竜崎?」
「・・・・・・今は、まだ、しなければならないことがあります。それに・・・」
「それに?」

問い返す月に、竜崎は沈黙した。
漸く解放された身体を、再び足を抱えるようにして折り曲げる。
小さく丸まる竜崎に、月は更に彼への欲を自覚したが、敢えて何も言わず、
彼の言葉を待っている。
長い沈黙の後、仕方なく竜崎はぽつりと言った。

「・・・3日間、風呂に入ってませんし」
「え?」
「汚いですよ」

ぎゅ、と衣服を掴んで。
再びビデオに視線を戻す、黒髪の青年。
確かに、ここ3日間、テレビに齧りついてばかりだったのなら、
睡眠はおろか風呂など入っていなくて当然だろう。
だが、竜崎がそんなことを気にするなんて考えもしなかった月は、
半分呆れ、そして笑ってしまった。
竜崎は月を睨み付けた。
そのきつい視線も、今の月には何の意も介さない。
月は竜崎を背後から抱き締めた。
竜崎は息を詰めたが、それ以上逃げるような仕草をすることはなかった。
耳元に、口付ける。

「・・・じゃ、一緒に風呂に入ろう」
「なっ!?」

思いもよらない月の言葉に、竜崎は文字通り飛び上がった。
一気に、頬が朱に染まるのが自分でもわかる。幸いだったのは、月が自分の後ろにいて己の顔を見られなかったこと。
固まる竜崎に、月はなおも言葉を続けた。
その顔は当然、ニヤけている。

「別に、僕はこのままでも構わないけど、竜崎は嫌なんだろう?だったら、これしか選択肢はないな」
「・・・・・・私は、今日はやめてください、と言ったんですが」
「心と裏腹な事は言わないほうがいいよ、竜崎。それでなくとも、身体が疼いてるんだろう?」
「・・・っ・・・」

手を伸ばされ、服の上から中心を嬲られる。
どれほど理性で押さえつけてみても、身体はひどく正直だ。彼に慣らされたものだから、尚更。

「・・・、あっ・・・」
「ほら、ね」
「・・・っ・・・!」

涙目で睨みつける竜崎に構わず、月は彼の背に己の腕を差し入れ、
もう片方の手を彼の立てたままの膝裏に差し込んだ。そのまま、彼の身体を持ち上げる。
初めじたばたと暴れていた竜崎は、
けれど場所がソファでなく月の腕に完全に抱え上げられると、
今度は落とされるのが怖いのか両腕を月の首に回してしがみつき、肩口に顔を埋めてしまう。

「可愛いよ、竜崎」

はは、と笑う月に、唇を噛み締める。
身を寄せた月の身体からは、男らしいフゼア・ウッディの香り。

「・・・まったく・・・」

そう呟いた竜崎は、
結局、諦めたようにため息をついたのだった。





ザァザァと、止まることのない水音が耳に響いていた。
背後から抱き締められ、そのままの体勢で耳朶を甘噛みされ、
立たされた足が小さく震える。
シャワールームに充満した湯気のせいで、目の前の鏡は曇り、そうして己の視界をも遮っている。
うっすらと瞳を開けた竜崎は、それを確認して安堵したように息を吐いた。
―――熱い。

「・・・っ・・・」
「気持ちいい?」

耳元で囁かれ、下肢がどくりと脈を打つ。
月の、ボディソープに塗れた手が、竜崎の胸元を嬲ったのだ。
ぬめったそれで、わざとらしく胸の赤みを帯びた箇所に触れ、指先の腹で押しつぶすように愛撫する。
そうして、勃ち上がった蕾を、指先で弾くように。
電流が貸しに流れていくかのような、痺れる様な感覚に、竜崎が仰け反れば、
重ねられる唇。男の腕が更に力を増し、
肌を洗っていたはずの手のひらが下肢へと降りてくる。
下腹のあたりを思わせぶりに撫でてやり、そうしてひくつく彼自身へとぬめりを広げていく。
ソープに助けられて滑るそれは、
いとも簡単に竜崎の理性さえも虜にし、彼の心を捕えずにはいられないようだった。

「・・・っ、あ・・・!そ、そこはっ・・・自分でっ・・・」
「恥ずかしがることはないよ。それに、疲れてるだろう?全部僕がやってあげるから安心してよ」
「っ・・・」

澄ました顔でそう告げる月が、竜崎は恨めしい。
きっと、内心ではこの状況に笑っているに違いなかったから。
だが、一度でも彼に溺れてしまった身体は、もうどうすることもできない、といったように、
彼に与えられる愛撫じみた刺激にひどく感じてしまう。
これはきっと、確信犯だ。
根元から丁寧に擦り上げられる己自身に、
竜崎は息を詰めた。

「ん・・・っく、・・・っあ・・・」
「綺麗だよ・・・竜崎」
「・・・っ、やめ、見る・・・なっ・・・!!」

そう、咄嗟に口にしては見るものの、己自身は既に男の手の中。
括れの部分を指で挟むようにして擦られ、そうして亀頭を包み込むように何度も手のひらで擦られれば、
もはや限界はすぐそこだ。
訴えるように胸に回された腕に己のそれを重ね、
もう片方を己に絡みつく指先を牽制するようにそこに伸ばすと、
月はくすりと笑って下肢を弄ぶ手を離してやった。
もう少しでイきそうだったそれの愛撫を突然止められ、戸惑ったように宙を彷徨う彼の手を自身の雄に絡めてやる。

「自分でイっていいよ」
「・・・っ・・・!」

どうしてこの男は、こうやっていつも己の羞恥を煽るのか。
頬を真っ赤に染めた竜崎は、それでも欲した快楽は止められずに、
自らの手で己自身を慰め始める。
月は笑った。彼の、普段絶対に見せることのない、淫らな欲望に溺れた姿に。
手の空いた月は、そのまま竜崎の内股へと滑らせていく。

「んっ・・・、あ、・・・」
「続けて。」

ガクガクと揺れる膝は、自分が支えてやらなければもう崩れ落ちていたかもしれない。
月はもう一度、しっかりと彼の身体を抱え直すと、
腿を伝うようにして、彼の尻を手のひらで包み込んだ。竦む身体。無意識のうちに、力が篭る。
構わず手のひらに感じる感触を楽しみながら、奥に隠された部分に触れてやれば、

「アッ・・・、は、・・・っ」

洩れる、甘やかな吐息。震える唇に、キスを落として。
つぷ、と音を立てて内部に侵入してくる月の指先に、竜崎は瞳を閉じた。
己が手で高められる前への刺激と、深く、身体の奥を直接狂わされ、熱を与えられるような
重い快感。抜け出せるようなものではなかった。
辛うじて残っていた理性が、吹き飛ぶ。
快楽を求めていた身体が、それを与えてくれる存在を求めている。

「・・・っく・・・、あ、ああっ」

片膝を持ち上げられ、その部分を外気に晒す体勢にされる。
ますます奥に埋め込まれる指先が不意に内部の壁を擦った。思わず息を詰めた途端、
ぐっと入り込んでくる2本目の指。解すように両の指を動かされると、
淫らな音がバスルームに響いた。
朦朧とした頭の中、快楽だけが己を支配していく。

「ラ・・・月く・・・っ」
「イきたい?」

こくこく、と頷く素直な青年に、満足げな笑みを浮かべて。
そうして、今だ遠慮がちに己を慰めている竜崎の手に、月は手のひらを重ねてやった。
乱暴ともいえる程の激しい衝撃が、次の瞬間竜崎の脳天を貫いた気がした。

「あっ・・・あああ―――っ・・・!!!」

ぐったりと力を失う竜崎の身体を、支えてやる。
溜まっていたものを急に吐き出した青年は、そのまま瞳を閉じ、はぁはぁと浅い息を吐いた。
月の腕が心地よいのか、うっとりと頬を染めたまま彼の胸に凭れる竜崎に、
月は己の欲望を強く意識する。
竜崎には悪いが、自分はまだ達していないのだ。
キスを絡めて、そのまま月は竜崎の身体を反転させ、背後の壁に押さえつけた。
冷たいタイルが心地よくで喉を反らせる彼の正面に立ち、
再び彼の下肢を緩く愛し始める。
そうして、腰を抱えるように彼の入り口を開かせれば、竜崎の身体に侵入するのはひどく簡単だった。

「っ・・・月、くん・・・っ?」
「・・・竜崎。好きだよ」
「んっ・・・」

その言葉は、いつも囁かれているもので、
軽々しくそんな台詞を紡ぐ月を、竜崎はいつも胡散臭く思っているのだが、
こんな状況で告げられれば、そんな意識も吹っ飛んでしまう。
押し付けられる熱の質量に、鼓動が高まるのを止められない。

「あ―――・・・、んっく・・・!!」

ずるり、と普段より滑らかに内部に滑り込んでくるそれに、
竜崎は仰け反った。
それは、抵抗が少ないのをいいことに、容赦なく奥深くを責めて来る。
一番刺激を欲している部分を何度も貫かれて、目の奥が弾けたように白く染まった。
耐えられず、瞳を閉じる。
助けを求めるように、月の首にしがみつくと、
それに応じるかのように腰に回されていた腕に力が篭る。
月が腰を揺らすたびに、二人の間で己の雄が熱を増してくることに、
竜崎は羞恥を感じずにはいられなかった。
あれほど嫌だといっておきながら、
気付けば、こうして彼に流されてしまっている。
だから尚更、嫌なのだ―――。
己のペースを崩すことなど誰に対してもなかったはずの自分が、
いとも簡単に彼のペースに巻き込まれている。
呑み込まれてしまう―――。
彼に与えられる、快楽という深い闇に。

「あっ・・・あ、ライ、っ・・・っは・・・」
「いいよ・・・竜崎・・・」

ぐちゅぐちゅと何度も貫かれる度に、高まってしまう熱。
それは、大きな波のようだ。奥へ奥へと進めば進むほど、己を流してしまいそうな力をつけて迫り来る荒波。
抵抗など無駄なことくらい、わかっている。流されたほうが楽なことも、また。
けれど、すべてを手放してしまうことは恐怖でもある。
己の思考、理性、感情、精神。もう既にほとんど頭でなど考えられない竜崎は、
たったひとつだけ残った意識を辿り、月に縋りついた。
爪を立て、絶対に離すまいとでも言うように。
だが、それももう、限界。
二人して流されてしまうその瞬間は、もう目の前だ。

「ライっ・・・あ、ああっ・・・」
「一緒に、いこう?」
「っあ―――!」

いきなり、腰を両腕で乱暴に揺らされ、竜崎は苦痛にも思える衝撃を味わった。
更に大きさを増し、内部を圧迫する男の楔が、
己の全てを貫いてしまいそうだった。けれど、どこかそれを悦んでいる自分がいるのだ。
考えられなかった。いつの間に、自分はこれほどまでに変わってしまったのだろう。
それも、相手は男。
抱かれて、愛されて、それが至上の幸福だと思える瞬間が来るなんて。
どうして、こうなった。

「ラ、月くんっ・・・、も、っ・・・!!」
「ああ・・・僕もだ―――」

荒い息の中、囁かれる言葉。
汗とも水滴ともつかない水分でベタついた肌が触れ合い、強く擦り合う。
目の前にある月の唇に、竜崎は無意識に唇を寄せていた。
絡む舌の激しさが、下肢の熱を伴って二人の意識を絶頂に向かわせる。

「っ・・・んう―――っん・・・!!」
「竜崎・・・っ・・・!!」

どくどくと注ぎ込まれるそれにすら感じてしまう己の身体に、
竜崎は放心したまま壁をずり落ちた。
竜崎の雄もまた、同時に精を吐き出している。洗い流しそびれたソープの泡とは別に、
べっとりと胸元に広がる白濁。
それを感じて、竜崎は咄嗟に目を背けてしまった。
抱きすくめるようにして竜崎を侵していた男は、
内部の甘い締め付けに満足げな表情を浮かべ、そうしてゆっくりと張り付いた肌を離す。
青年の胸元を汚すそれを目にした月は、
楽しげに笑い、そうして彼の胸に唇を寄せ、舌でそれを舐め上げた。
ますます羞恥に顔があげられなくなった。
それどころか、余韻に浸る身体はひどく敏感で、たったそれだけでまた熱がぶり返してしまいそう。

「・・・ここを出たら、また捜査に戻る?」
「・・・・・・・・・」

できるわけないでしょう、と口の中で呟いた。
ただでさえ徹夜の日々が続いた身体に、そもそもこんな行為はキツいのだ。
わかってるくせに問い掛ける月の意地の悪さに、
竜崎は彼を睨み上げる。
目元を赤く染め、明らかな情事の空気を纏ったままの彼に、
月はうっとりと見惚れた。このままこうしてずっと見ていられたなら、
どれほど幸せだろう。
再び絡め取られる舌。濡れた感触が、蕩け切った互いの心を更に溶かしていく。
まだ、離したくない―――。
そんな身勝手な思いが、互いの心に湧き起こる瞬間。

「・・・捜査は、また明日から、かな」
「・・・仕方ありませんね・・・」

まったく、と呆れたように溜息をつく竜崎を、再び抱き寄せて。
なおも文句をつける彼を抱え、
月はそのまま、リビングの隣の寝室へと向かったのだった。





end.






Update:2006/08/31/THU by BLUE

PAGE TOP