PHASE-01 ノベライズ
PHASE-01 偽りの平和 →PHASE-02へ
静かな宇宙。それが引き裂かれたのは、いくつものモビルスーツ輸送機が現れてからだった。
大きなキノコのような形のそれは、頭から大気圏に突っ込もうとしていた。
『大気圏突入、減速4マッハ、角度4-5、強制冷却停止まで28秒、風力制御開始・・・・・・』
輸送機の中で、無感情な機械音がそう告げる。
モビルスーツのコクピットに座する男は、壁に貼った妻の写真を見、上向いた。
「アルバーワンより、火器、薬室消電を確認」
「フラーロッズ」
「チャーリースリー」
「ルードフォー」
通信機に告げると、同じようにコクピットに収まる3人のパイロットが応答した。
それにうなづき、視線をコンソールパネルに移す。
彼の口元には、不敵な笑みが刻まれていた。(←勝手)
「第2外装、剥離。・・・地べたにへばりついてる奴らに、思いっ切りキツイのかましてやれ・・・・・・」
「大流層突破!減速、ゼロコンマ9マッハ、冷却停止、姿勢良好!」
「我らに天の加護を・・・」
「降下点、座標追尾、固定!」
「さぁ、いくぞ!」
4人は、トップについた、軍のマークを握るようにして操縦桿を握ると、一気に前に押し倒し、機体を作動させた。
目の前には、青い空。そして、地球軍が広がっている。
「ザフトの為に!」
「ザフトのために」
「ザフトのために!」
男達は、今こそ命がけで戦いへと赴くのだった。
C.E(コズミック・イラ)70、血のバレンタインの悲劇によって、地球・プラント間の緊張は、一気に、本格的武力衡突へと発展した。
誰もが疑わなかった、数で勝る地球軍の勝利。が、当初の予測は大きく裏切られ、戦局は疲弊したまま、既に11ヶ月が過ぎようとしていた。
PHASE−01 偽りの平和
『南アフリカの難民キャンプでは、慢性的に食料、支援物資が不足し、120万の人々が生命の危機に直面しています・・・』
資源衛星、へリオポリス。
そこは、今の世の中では数少ない、平和を甘んじている場所だった。
人工物ではあるが、地球上とさほど変わらない緑豊かなそこで、多くの人々が暮らしている。
子供達は無邪気に笑い、ニュースで伝えられる激戦にも何の関係もないようだ。
そんな中、工業カレッジのキャンパスで語リ合う学生の姿を眺めながら、1人の少年がべンチに座り、端末を開いていた。
こちらも学生であろう彼は、画面に映るニュースキャスターの声を聞きながらも、端末へと打ち込みを続けている。
機械で出来た鳥が舞い降りて、端末の画面の上から少年の顔を覗き込んだ。
『では次に、激戦の伝えられます、カオシュンの先週の模様・・・』
「キラー!!」
名前を呼ぶ声に顔を上げると、カレッジのクラスメイト、トオルとミリアリアが来ていた。
2人とはこの工業カレッジ入学以来の友人だ。
「こんな所にいたのかよ。加藤教授が、お前のこと探してたぜ」
その言葉に、キラは目を見開き、次の燐間がっくりと肩を落とした。
「またぁ?」
「見かけたら、すぐ引っ張ってこいって。・・・なあに?また何か手伝されてるの?」
ミリアリアが顔を覗き込む。
キラは一つ溜め息をつくと、膝に載せていた端末を机に置いて、お休みとばかりに背もたれに寄りかかった。
「ったくー。昨日渡されたのだって、まだ終わってないのに・・・・・・」
『はやくはやく!はやく逃げて!』
「おっ、なんか新しいニュースか?」
トオルが端末を覗き込めば、画面のかたすみでリポーターが戦火の土地の状況を伝えている。
彼らが今いるこの場所とは、あまりにかけ離れた映像。
「ああ、カオシュンだって」
キーを押して、画面一杯に映像を結ばせる。大きな爆音と逃げまどう人々は、とても現実とは思えない。
『こちら、カオシュンから7kmの地点では、依然、激しい戦闘の音が続いています!』
「ひええ。先週でこれじゃあ、今ごろはもう落ちちゃってるんじゃねぇの?カオシュン。」
「んー。」
キラは考え込むように顔をしかめると、教授の元へと向かうべく、端末を消した。
先ほどの機械の鳥―トリィ―が、一瞬足場を失い、すぐにまたキラの肩へと飛び移る。
「カオシュンなんて、結構近いじゃない。大大夫かな、本土・・・・・・」
本土、とはこの資源衛星を所有する地球の中立国家、オーブのことだ。
オーブの国民は、中立であるが故に戦火を免れているが、それにしてもカオシュンは近い。
ミリアリアが心配するのも、当然のことであった。
キラの肩のトリィが一声鳴いて、真っ青な空へと飛び立つ。
「ああ、そりゃ心配ないでしょ。近いったって、うちは中立だぜ。オーブが戦場になるなんてことは、まずないって。」
「そう?ならいいけど。」
友2人の会話をそれとなく聞きながらも、キラの視線は中空を飛び回るトリィに向けられていた。
以前の自分も、同じようなことを言っていた気がする。
そう、それは1年前の春のことだ。
「本当に戦争になるなんてことはないよ、プラントと地球で。避難なんて、意味ないと思うけど・・・・・・」
プラントへと旅立つ親友に別れを告げる際、自分は確かにそう言った。
けれど、現実は・・・・・・。
あの時友から贈られたトリィだけが、今も変わらず鳴き、そして自由に飛んでいるのだった。
「・・・キラも、そのうちプラントに来るんだろ?亅
その友の言葉も、結局果たされないまま。
キラはひとときの間、別れたままの友人に想いを馳せていた。
「・・・キラ?」
突然現実に引き戻され、キラは文字通り飛び上がった。
あわててトオルの方を見る。
「んああっ!」
「何やってんだ?お前。ほら、いくぞ」
「・・・あ、ああ。」
友人たちにうながされて、キラは工場区へと向かった。
加藤教授の研究室は、その一角にあるのだ。
けれど、その場所が実はプラント―ザフト軍に狙われていたことを、今の彼らは知るよしもなかったのである。
一見平和そうに見えた、中立国家オーブの所有するヘリオポリス。けれど、その裏側では着実に種火が巻かれていた。
地球連合軍の機動特装艦、通称『G』では、ある計画が為されていたのだ。
『軸線修正、右、6コンマ、51ポイント、進入リフトの良好、シールド噴射、停止。臨時バケットに、制御を移管する』
「減速率、2コンマ56、訂正する、待機せよ」
走行が安定し、クルー全員が安堵の笑みを浮かベる。
もう少しすれば、ヘリオポリスから通信が入り、そちらの誘導に任せられる区域だ。
『G』は、今役目を終え、帰還する最中であった。
「・・・これでこの船の最後の任務も無事終了だ。貴様も護衛の任、ご苦労だったな。フラガ大尉」
ブリッジの中央に座する艦長が、壁に寄りかかる青年に声をかけた。
フラガ大尉と呼ばれた彼は、目だけで礼をすると柔らかく笑みを浮かべている。
「ええ。航路何もなく、幸いでありました。周辺に、ザフト艦の動きは?」
「2隻トレースしておるが、なあに、港に入ってしまえばザフトも手は出せんよ」
艦長が言った言葉には毒がある。
それに容易に気付いたフラガは、彼のほうを見やり、苦笑した。
「はは。中立国・・・でありますか。聞いてあきれますが」
「っはっはっは。だがそのおかげで計画もここまで来れたのだ。オーブとて地球の一国ということさ」
中立国、といっておいて、裏ではザフト軍を陥落させるベくオーブも策を練っていることを、彼らの会話は示していた。
中立を保つことで平和が保たれると考えるオーブの住民たちの誰一人、この事実を知る者はいまい。
艦長は、口元だけでにやりと笑った。
「では、艦長」
「うむ。」
Gに上船している、年若い5人の少年たちが、自分らの仕事をするべくブリッジを出ていく。
ヘリオポリスに降り、管制と連絡を取る予定であった。
「・・・上陸は、本当に彼らだけでよろしいので?」
5人の少年が消えていったドアを見やりながら、フラガは心配そうな声を上げた。
彼の脳裏に、ちらりとザフトの指揮官の顔が横切る。
優秀な彼ならば、いち早くこの計画に気付き、港を襲撃させてもおかしくなかった。
けれど、そんな心配など必要ない、とばかりに首を振ると、艦長は皮肉げに笑った。
「ひよっこでもこのGのパイロットに選ばれたトップガンたちだ。問題ない。貴様などがちょろちょろとしてる方がかえって目立つぞ」
「・・・はぁ。亅
そう言い切った艦長の言葉に一抹の不安を感じながらも、フラガはうなづいた。
それにしても、艦長の貴様呼ばわりはどうしたものか。
フラガは艦長に気付かれないよう肩をすくめると、ため息をついたのだった。
フラガの考えた通り、ザフト軍の艦内では、ヘリオポリスに攻め込む準備がなされていた。
けれど、あくまでヘリオポリスは中立であり、ザフト軍が攻撃する理由は何もない。
上からの命が出されたわけではない攻撃に、この船―ヴェサリウスの艦長はためらいを覚えていた。
「・・・そう難しい顔をするな、アデス」
そんな彼に、今回の作戦の指揮官が声をかけた。
くせのある金の髪が、彼の動きと共に微かに揺れる。
無重力のブリッジを滑ベるように移動すると、彼はデータパネルにあった資料を手に取った。
「あ、ええ・・・いやしかし、評議会からの返答を待ってからでも、遅くはないのでは・・・」
「遅いな。私の勘がそう告げている」
手にした写真をアデスの方に投げ渡す。
マスクに隠された整った顔立ちに、小さく笑みが刻まれた。
「ここで見過ごさばその代価、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ」
外部に面した窓を見やると、ヘリオポリス、そして港に入ろうとする輸送艦の姿が映っている。
そして、その奥に巧妙に隠された、地球連合軍の戦闘兵器。
彼の目は、それを正確に捉えていた。
「地球軍の新型機動兵器、あそこから運び出される前に、奪取する」
裏で暗躍する者たちに気付くことなく、ヘリオポリスの居住区では、今も明るい笑い声が聞こえていた。
年若い少女達。年頃の彼女たちは、今日も学校帰り、たわいのない話に花を咲かせていた。
「だからぁ、そういうのじゃないんだってばぁ」
あわてて否定するが、友人達は許してくれないようだ。
やりこめられて照れたように赤くなる彼女―フレイの姿に、友人2人はますますからかい出す。
「え〜?!うっそぉ。ねぇ?」
「もー、迫状しちゃいなさいよぉ」
「だからぁ・・・・・・」
もう一度反論しようとしたフレイは、キャンパスからやってくる3人の学生を見かけた。
キラ達もまた、工場区近くの研究施設に行くべく、共用エレカの乗車スペースにやって来たのだ。
「あっ」
「あれ、ミリアリア」
「ハーイ」
出会った友人に、ミリアリアは手を振る。
フレイ以外の2人は駆け寄ると、自分たちより背の高いミリアリアを見上げた。
「あっ、ねぇ、ミリアリアなら知ってるんじゃない?」
「なあに?」
「やめてよってばもう!」
自分の秘密を広められるのを止めようとするが、友人たちはそんな彼女になんかおかまいなしだ。
平気で他人の聞いている前で、彼女の淡い恋話を伝えた。
「この子ったら、サイ・アーガイルに手紙もらったの!なのに、なんでもないって話してくれないのよ?」
「えー?!」
これには、3人そろって声を上げた。サイ・アーガイルはキラ達の同級生だが、真面目で顔立ちもよく、カレッジの女子学生に人気が高い。
けれど、そんな彼が女性に手紙を送ったという事実に、驚く反面、キラ達はまた別の意味でも驚いていた。
「あなたたち、もういい加減に・・・!!」
「すまぬが・・・乗らないのなら、先によろしい?」
手紙の一件で騒いでいた少女達は、背後からの声にはっとした。
彼らは、ついつい共用エレカの乗り場であることを失念していたのだ。あわてて次の乗客に場所を譲った。
「あ、すいません・・・。どうぞ」
「んもう!知らないから!行くわよ!」
親友にだけ言ったつもりが、多くの人達にまで広められたことに怒った彼女は、すたすたと次に来たエレカに乗り込む。
「あはは、待ってよぉ!」
あわてて追いかけていく、2人の友人達。
残された3人は、先ほどの手紙の話に、3人3様のことを考えていた。
「・・・手紙だって。サイが。はっ、意外だなぁ、フレイ・アルスターとは。」
トオルは、フレイの名前を強調してしゃべった。
彼は、キラがさりげなく彼女に惹かれているのを知っている。
「けど、強敵だよ、これは。キラ・ヤマト君。」
からかうようにキラの肩を叩くと、トオルはさっさと行ってしまった。
「ふふっ。」
ミリアリアも笑う。彼女も同じ気持ちのようだ。
「ぼ、僕は別に・・・・・・」
2人にやりこまれた形になったキラは、こちらも必死に関係ないと否定する。
明るい声は、いつまでも青い空に響いていた。
「・・・なんとも、平和なことだ、全く。」
そんな子供たちのやりとりに、ナタルは小さく嘆息した。
先ほどエレカに乗った黒髪の女性である。
自分も軍人であるだけに、ヘリオポリスの能天気な子供達の笑いは、それこそが非現実的だった。
ここから一歩外に出れば、誰もが生命の危機に脅えながら生きているのだから。
「・・・ええ」
「あのぐらいの年で、もう前線に出る者もいるというのに・・・・・・」
ナタルは、かけていたサングラスを外すと、平和はそのものの体を見せる空を見やった。
風が、彼女の髪を凪ぐ。
彼女の言葉は、へリオポリスの虚空へと消えていったのだった。
工場区に着いた3人は、加藤教授の研究室へと向かっていた。
中には、話に出ていたサイ・アーガイルがいるはずだ。
トオルは、キラに手紙のことを聞けと、先ほどからずっと煽っていた。
「いいじゃんか、別に。お前が聞けないってんなら、俺が聞いてやるよ!」
「・・・しつこいぞ、トオル」
けれど、キラも引かない。
半ば無視して、彼は研究室入口のカードキーに手をかける。
その様子を、ザフト軍の斥候が見ていた。
「・・・下等ゼミの学生3名、確認」
「追尾に切り替え」
3人のいる工場区内で、戦いが始まろうとしていた。
けれど、未だ気付くことなく、昨日と変わらぬ日々と信じて、3人は研究室へと赴く。
サイを見つけると、トオルは手をあげた。
「うーっす」
「・・・あ!キラ、やっと来たか!」
サイが振り向く。キラは、肩をすくめるとうなづいた。
「ん・・・ん?」
ふと見ると、壁に1人の少年がよりかかっていた。
目深に帽子を被った金髪の彼は少女のようにも見えるが、きつい視線がまともにキラとぶつかる。
トオルも彼に気付くと、研究室にいた級友の1人に小さく耳打ちした。
「・・・誰?」
「ああ、教授のお客さん。ここで待ってろって言われたんだと。」
その言葉に、もう一度2人は少年の方を見る。彼は、見られたくないかのように顔を横に逸らした。
「ふーん。で、教授は?」
小さくビルが揺れた。
少年は目ざとく気付き顔を上げたが、キラ達は気付かなかったようだ。先ほどの斥候は、確実にザフト軍を侵入させていた。
「これ、預ってる。追加とかって。」
「うへぇ。」
「何なんだ?
どうせ、モルゲンレートの仕事の方なんだろうけど。」
「興味ないよ。フレーム設置モジュールの改良。・・・とにかく、プログラムの解析さ」
ザフト軍が工場区内の各地に爆薬を仕掛けていく。爆破させ、パニック状態にさせるのが彼らの目的だった。
時限式のそれは、確実にカウントを刻んでいた。
「・・・そんなことよりー、手紙のこと、聞け!」
「・・・手紙?」
「なんでもねぇわけ、ねーだろう、が!!」
爆弾を仕掛け終わり、ザフト軍が退避する。
計画は、順調に進んでいた。
混乱に乗じて、地球軍の新型機動兵器を奪取する。
それが、彼らの狙いだった。
「なんだよ」
「だからー、」
「な、なんでもないったら、何でもないって!!」
「なにトオル!?俺にだけ、俺にだけ!」
「やめなさいってばー」
いい加減かわいそうになり、ミリアリアが中裁に入る。
けれど、トオルはますますキラをきつく押さえ付けた。
口元はにやにやと笑っている。
「・・・は、離せよ!苦しっ・・・!」
「そうはいくか!言うまでこうしてやる!!」
楽しそうな研究室の裏で、爆薬のカウントダウンは迫っていた。
「・・・時間だな」
ザフトの指揮官、ラウ・ル・クルーゼは、計画実行のサインを出した。
工場区の爆破と同時に、ザフトはMS部隊を出撃させる予定であった。
「よし!ザフト艦、発進する!!」
「・・・こちら、へリオポリス。接近中のザフト艦、応答願います!ザフト艦!応答願います!」
近づくザフト艦に、ヘリオポリスの管制は緊急に通信を行った。
ヘリオポリスは中立であり、本来ならザフト軍の船が港へ来ることなどありえない。
しかし、現実にザフト艦が目の前に迫り、管制官は脅えていた。
部屋中に響く、あり得ぬ侵入者を告げる警告のアラートが、皆の恐怖を煽り立てている。
「管制長!」
「落ち着け。ええい!アラートを止めんか!」
何度通信を求めても応答しないザフト艦に痺れを切らした管制長は、汎用回線に自分の言葉を乗せ、通告を行った。
汎用回線は、宇宙の海を航く者なら、必ず開いていなければならない安全確保のためでもある回線だ。
どんな機動兵器や戦艦とも伝達が出来るかわりに、他艦に傍受されたり干渉される可能性も大きい。
けれど、今のヘリオポリスには、そんなことを考える余裕はなかった。
「・・・接近中のザフト艦に通告する!」
ザフト艦全体に、ヘリオポリスからの通信が響く。
けれど、ブリッジにいたクルーゼは、無駄だとはかりに口の端で笑みを浮かベた。
『・・・こ・・・は、我が国・・・に大き・・・するも・・・である!ただち・・・停・・・されたし!ザフト艦!ただちに停船され・・・し!!』
「強力な電波干渉!!ザフト艦より発信されています!これは、明らかに戦闘行為です!!」
この時、ヘリオポリスは、もはや中立などと言っていられないことを、身を持って知ったのだった。
「敵は?!」
フラガは、いささか冷静さを失った声で聞いた。
自分の予測通りのことが起こってしまったのだから無理もない。
「2隻だ。ナスカおよびローラシア級、電波妨害直前にモビルスーツの発進を確認した!」
「ちっ・・・・・・」
悔しそうに唇を噛む。ナスカ級の高速戦闘艦と、ローラシア級MS搭載戦艦でヘリオポリスを急襲されたら、被害は免れない。
フラガは通信機を掴むと、連合の主力MA(モビルアーマー)、「メビウス」に乗る少年2人へと声をかけた。
「ルーフとゲイルは、メビウスにて待機!まだ出すなよ!」
「・・・艦長!」
クルーが悲鳴を上げた。ヘリオポリスが攻撃されているのである。
けれど、オーブがたとえ建て前であれ中立の立場を取っている今の状況では、許可なしに攻撃など出来ない。
艦長は、椅子に深く座ると、大きくため息をついた。
「あわてるな。うかつに騒げば、向こうの思うつぼだ。対応はヘリオポリスに任せるんだ」
ヘリオポリスの工場区では、今回の計画のため待機中の強襲機動特装艦、アークエンジェルがいた。
けれど、今はザフトの攻撃に晒されている。
計画のためにここにいなくてはならないことはわかっていたが、このままではやられるのも時間の問題だった。
「わかっている!いざとなれば、艦は発進させる!ラミアス大尉を呼び出せ!全員搬送開始させい!」
「はっ!」
艦長はそう告げると、物資搬入を手伝っているはずのラミアス大尉を呼び出した。
この状況を打破するために、彼女の冷静な頭を必要としていたのだった。
一方、ザフト軍は、着実に工場区にあるはずの新型機動兵器の奪取計画を進めていた。
「・・・後残部を叩いたら、一気に抑えるぞ」
「はっ!」
ヘリオポリスの混乱の中、クルーゼは的確に命を下す。
指揮官の言葉にならって、ザフト軍は内部へと侵入していた。
その頃、アークエンジェルへと物資の搬入をしていたクルー達もまた、爆音に身を竦ませていた。
「アークエンジェルへ、急いで!」
「うわあっ!!」
上官の声に、爆音が重なる。
「わあっ!!」
「くっ・・・!」
揺れる地面と降って来るつぶてに、皆が頭を押さえる。
工場区全体に、銃弾の雨が降っているようだ。
その衝撃で、工場区内の加藤教授の研究室もまた、激しく揺れていた。
「きゃあっ!!」
「なっ・・・何だ?!」
「フラガ大尉!
輸送艦内では、フラガがMAメビウス<ゼロ>に乗り込んでいた。
ぜロはメビウスの変形型で、彼にしか扱えない4機の有線式ガンバレルがついている。
それは、まさに彼専用の「愛機」であった。
「船を出して下さい、港を制圧されます!」
表示パネルに浮かび上がったヘリオポリスの映像に、焦点をあてる。
フラガは、操縦桿を握ると、一気に前へ押し倒した。
「・・・こちらも、出る!」
「・・・あれだ」
ヘリオポリス中空で、まだ少年と言える男がつぶやいた。
胸には、ザフト軍の紋が付いている。
視界には、目的の「地球軍の新型機動兵器」が横たわっていた。
「クルーゼ隊長の言った通りだな」
「つつけばあわてて巣穴から出てくるって。やっぱりマヌケなもんだ。ナチュラルなんて」
ナチュラルとは、地球圏の住民の総称だ。プラントの者は、多くが「コーディネイター」と呼ばれる新しい人間で、今は互いに睨み合いを続けている。
その結果がこの戦争であり、コーディネイター達は概してナチュラルを否定していたのだった。
「お宝を見つけたようだぜ。ジュピター・エース!第37工場区!」
少年は通信回線を開くと、MS2機のうちその1機に乗る男に連絡を入れた。
「了解。さすがイザークだな。速かったじゃないか」
ザフトの汎用モビルスーツ―「ジン」に乗る男はにやりと笑うと、視界に映る工場区を見下ろす。
早くも勝利を確信し、彼―ミゲルは1人笑みを浮かべていた。
その頃、工場区では―。
「ゲイル!・・・うわあああっ!」
部下の一人が打たれ、ラミアス大尉は声を上げた。
けれど、駆け寄る暇もなく、次の爆撃に地面に伏せる。
「・・・ラミアス大尉!艦との通信、とだえました・・・状況不明!」
「っはあっ!」
「くっ・・・!」
立て続けに降る爆弾は、通信機器はで壊してしまったようだ。
ぎりぎりと唇を噛み、ラミアスは身を起こすと部下に告げた。
「ザフト・・・、・・・X-105と103を起動させて!とにかく、港区から出すわ!」
「わかりました!」
部下達を去らせて、自分もまたやるべきことを為すために、立ち上がる。
爆撃は減らないが、このままやられるわけにはいかない。
ラミアスは堅い決意を顔に浮かべ、工場区へと走ったのだった。
「うわっ!!」
「なんなの?!」
揺れる工場区。
近くの研究室にいた彼らもまた、驚きの声を上げていた。
「・・・どうしたんです?!」
「・・・知らんよ」
けれど、すぐに責任者が来て、状況を伝えてくる。
「ザフトに、攻撃されてる!コロニーにモビルスーツが入って来てるんだよ!君達もはやく!」
その言葉に目を見開き、皆はあわてて外へ逃げ出しはじめた。
同じように非常口に向かおうとしたキラは、けれど反対の方向へ行こうとする先ほどの少年を目撃し、驚いた。
おもわず追いかけ、彼の腕を掴む。
「あ・・・!」
しかし、それを振り払って奥へ向かう少年に、キラは放っておけずに追いかけた。
後ろから、友の声が聞こえる。
「キラ!」
「・・・すぐに戻る!!」
爆音はより激しくなり、もはや逃げ出す場所もないようであった。
「・・・運べない部品と工場施設は全て破壊だ。・・・報告では5機あるはずだが・・・?あとの2機はまだ中か?」
アストロスーツに身を包んだ5人が、中空から降りてきた。
地球軍の5機の新型兵器の奪取を任された少年達は、自分達に与えられた情報から、残り2機のありかを探していた。
「俺とラスティの班でいく。イザーク達はそっちの3機を」
ライバルと言える少年の言葉に、にやりと笑う。
「OK、任せよう。各自搭乗したら、すぐに自爆装置を解除」
2班に分かれると、目下の3体を眺めながらイザークはそう言ったのだった。
「・・・はぁ、はぁ、・・・」
工場区ビルの内部では、奥に向かって少年が走っていた。
工場区の奥の奥。そこに、彼の目指す物があるはずだった。
けれど、不意に腕を引かれ、思わず振り向いた。
「・・・何してるんだよ!そっち行ったって・・・!」
「なんでついてくる!そっちこそ早く逃げろ!」
研究室で見た茶髪の少年・・・キラの言葉に、彼は自分を引き取めるキラを睨んだ。
「・・・うわっ!」
突如、2人の来た方向から爆音が起こり、地面に伏せた。
パラパラと振りかかってくる破片。
それがおさまったと思い身を起こしたキラは、少年の方を向いた。
立ち上がる勢いで、少年の帽子が落ちる。
露わになった顔に、キラは目を見開いた。
「・・・おんな・・・のこ・・・」
「・・・なんだと思ってたんだ!今まで!」
きつく見据えてくる瞳に気圧され、キラは身を引く。
すると、立ち上がった少女―ガガリはキラの体の押した。
「・・・いいから行け!私には確かめねばならぬことがある!」
「行けったって・・・、どこに!もう戻れないよ!」
見れば、来た方向は爆発により吹き飛ばされ、通路も何もなくなっている。
「・・・!」
「ええと・・・、ほら、こっちへ!」
キラは、それに絶句する少女の腕を取り、走り出した。
「・・・待て!このバカ!!」
バカ呼ばわりしてくる少女にムッとしながらも、工場区のターミナルへと走る。
度重なる衝撃に揺れる床を踏み締めながら、キラは唯一の避難場所へと向かった。
「・・・っ・・・こんなことになっては、私は・・・!」
「だ、大丈夫だって!助かるから!工場区に行けば、まだ避難シェルターが!!」
今にも泣きそうな少女を励まして、さらに奥へと向かう。
すると、不意に2人の視界が広がった。
工場区の格納庫。広いそこには、見たこともないMS(モビルスーツ)が横たわっていた。
「・・・!」
「これって・・・・・・」
驚くキラの隣りで、ガガリは口元を手で押で押さえ、2、3歩前に出た。
柵の下には、見間違うはずもない戦闘兵器。
「ああ・・・やっぱり・・・!地球軍の新型機動兵器・・・!!・・・お父様の裏切り者・・・っ!」
ガガリはそう叫ぶと、柵にもたれかかり、うつむいて泣き出した。
そのせいで下にいた軍関係者が、敵かと思って銃口を向ける。
「・・・あ!・・・くっ、冗談じゃない・・・!」
それに気付いたキラは、あわてて少女を抱き起こした。
「・・・子供・・・!」
下にいたのは、ラミアス大尉であった。
「泣いてちゃだめだよ!ほら、走って!」
一方、地球軍の新型機動兵器に乗り込んだイザークは、電源を入れるとすぐに起動し始める機体に感嘆していた。
「・・・ほぉ。すごいモンじゃないか。どうだ?ディアッカ」
「OK。アップデート完了、ラーブリック再構築、キャリーブレード完了。・・・動ける!」
データパネルに次々に表示される情報を読み取り、にやりと笑う。
他機に乗り込んだ同僚に声をかければ、こちらも起動し、立ち上がった。
「ニコル。」
「待って下さい、もう少し!」
遅れて、もう一機が立ち上がる。
黒い機体に乗り込んだディアッカは、目下に見える工場区を見、呟いた。
「・・・アスランとラスティは?・・・遅いな」
その言葉に、イザークは鼻で笑ってみせる。
「フン。奴なら大丈夫さ。・・・ともかく、この3機、先に持ち帰る。クルーゼ隊長にお渡しするまで、壊すなよ」
少年3人に奪われた3機の新型モビルスーツは、誰に止められることなく、戦線から離脱し始めていたのだった。
「ほら、ここに避難してる人がいる」
キラが工場区の避難シェルターを叩くと、内部から応答があった。
「まだ、誰かいるのか?!」
おそらく、工場区で働いていたメカニックか民間人たちだろう。
やっと避難場所が見つかったと、キラは安堵の麦情を浮かベた。
「はい!僕と、友達もお願いします!開けて下さい!!」
その言葉に、内部の男が息を飲んだ。
「・・・2人?!」
「は、はい」
一瞬の沈黙。それから、中から返答があった。
「もう、ここは一杯なんだ!左ブロックに37シューターがあるから、そこまでは行けんか?」
「・・・なら、一人だけでも!お願いします!女の子なんです!」
キラは必死になって頼み込んだ。
何故そんなに必死になっているのか、自分でも不思議に思いながら。
「・・・わかった!すまん!」
その言葉と共に、地下シューターの一つが開き、キラは少女を押し込んだ。
「・・・入って」
「えっ・・・」
先ほどのショックで呆然としていたガガリが、驚いて暴れ出す。
「なにを・・・!私は・・・!」
「いいから入れ!僕は向こうへ行く!大丈夫だから早く!!」
出ようとする体を無理矢理押さえつけ、シューターのドアを閉める。
「待て!お前・・・!!」
まだ何か言っていた少女の声は、下にいくにつれ聞こえなくなった。
それを、キラは少しの間それを見つめると、今度は左プロックに行くべく走り出したのだった。
今だ、格納庫―残りの新型モビルスーツ2機のあるそこでは、ザフト軍とそれを守る地球連合軍との戦いが続いていた。
先ほどイザーク達から分かれたアスランとラスティの2人が、奪取すべく中へと侵入する。
ラスティの放った弾丸は、見事に地球軍の兵士の胸を貫いた。
「うわあっ!」
「ハマダ!ブライアン!早く起動させるんだ!」
ラミアス大尉が叫ぶ。
そのすきに、アスランは彼女に照準を合わせた。
「危ない!後ろ!!」
それを見たキラが、思わず叫ぶ。
「!」
少年の声にとっさに逃れたラミアスは、上にいる彼の姿を捉えた。
「さっきの・・・何故?!」
わからない。わからないが、今は考えている時ではない。
「うあっ!」
仲間の呻き声に唇を噛むと、ラミアスは上の少年に叫んだ。
「来い!」
「左ブロックのシェルターに行きます!お構いなく!!」
「・・・あそこはもうドアしかない!」
「えっ・・・!」
その言葉に、絶句する。
避難場所が絶たれ、キラは言葉を失った。
「・・・こっちへ!」
行く所も見つからず、ラミアスの所へと急ぐ。
ザフト軍の2人は、そちらに注意を向けた。
その瞬間、ハマダが敵兵に銃撃を浴びせた。
「うっ・・・!!」
「!ラスティ!!」
アスランが戦友の名を呼ぶ。
答えが返らないことに唇を噛み締め、彼は掛け声と共に撃った男を狙った。
「あああああっ!!」
「ハマダっ!」
その中の流れ弾の一つがラミアスの腕に当たった。
「うあっ!」
「ああっ・・・!!」
思わず、キラはラミアスを抱き起こす。
その間に彼らに近づき銃口を向けたアスランは、次の瞬間驚くべきものを見た。
過去の記憶が走馬灯のように蘇る。
見覚えのある顔、親友だった若い少年達、忘れられない思い出・・・。
そして、そう思ったのはアスランだけではなかった。
「・・・・・・アスラン?」
「・・・・・・キラ・・・!」
2人にとって、長い時が流れたようだった。
驚いたように目を見開き、互いを見つめる。
けれど、一瞬アスランの気が逸れたすきに、ラミアスは手にした銃を向け、引き金を引いた。
間一髪、それから逃れる。
「くっ!」
「うわっ」
そのまま、ラミアスは自分を支えていた少年ごと近くの機体のコクピットに乗り込んだ。
動き出す灰色の機体。
そして、アスランもまた、それから逃れるようにして格納庫に納められていたもう一機に乗り込むと、本来の使命を果たすベく機体を発信させたのだった。