PHASE-11 ノベライズ

PHASE-11 目覚める刃 →PHASE-12





※かなり前話と重複しておりますので、OP前の部分は割愛させていただきます。悪しからず。



PHASE−11「目覚める刃」




 アークエンジェル艦内の一室。暗闇の中、キラはうつむいたまま立ち尽くしていた。
「被告は自分の行動が艦の安全をどれほど脅かしたか、まったく理解していません。」
どこからか厳しいバジルールの言葉が響く。
「今の発言は類推に過ぎません。議事録からの削除を求めます。」
こちらは落ち着いた様子で、キラを弁護するフラガの声。キラにはどこか遠くから聞こえる声のように思えたが、意識を戻し、前方に座るラミアスを見る。
「削除を許可します。」
…キラは、ラクス・クラインを勝手に引き渡した事について、擬似法廷にかけられていた。軍法会議にのっとって、正式な形で行われている。仕官三名とも、きちんと軍帽をかぶっていた。
「えーっと、そもそも民間人を人質に取るというのは、コルシカ条約四条に抵触すると思いますが。」
幾分か不慣れな様子で、本を片手にフラガはキラを弁護しようとしている。が、あっさりとバジルールに反論されてしまった。
「今回の行動は、同条特例項目C、戦時下における措置に相当します。」 「え?特例項目C?…知らねぇよ、そんなの…。」
不満そうな声でつぶやきつつ、パラパラと本をめくっているフラガであったが、諦めたのか本を閉じて言った。
「あー…しかし、人質を解放したからこそナスカ級は撤退し、我々は窮地を脱したという事で…。」
「それは結果論に過ぎません。」
ぴしゃりとバジルールに言われてしまい、フラガも言葉に詰まる。ラミアスは幾分が穏やかな声で、キラに語りかけた。
「キラ・ヤマトには、何か申し開きしたいことがありますか?…何故あのような勝手なことを?」
その言葉に、キラは感情を押し殺したような声で言った。
「…人質にするために助けたわけじゃありませんから。」
「そーだよなぁ、するなら彼女だよなぁ。」
一転して明るい声でそういったフラガに、皆が驚いたような表情を見せる。場違いなその言葉に、バジルールは怒りをあらわにして叫んだ。
「異議あり!」
「…弁護人は言葉を慎んでください。」
苦笑いを浮かべてそう言ったラミアスに、フラガはやれやれ、といった表情で肩をすくめた。それを見てふう、と息をつき、真剣な表情に戻ってラミアスは言葉を継ぐ。
「キラ・ヤマトの行動は、軍法第三条B項に違反、第十条F項に違反、第十三条三項に抵触するものであり、当法廷は同人を…銃殺刑とします。」
「…っ!」
極刑を言い渡され、キラは動揺を隠せないでいた。だが、ラミアスは幾分か表情を和らげ、穏やかな声で言った。
「しかし、これはあくまで軍事法廷でのことであり、同法廷は民間人を裁く権限を持ち得ません。キラ・ヤマトには今後、熟慮した行動を求めるものとし、これにて本法廷を閉廷します。」
ラミアスの言葉を聞き、キラは呆気に取られたような表情を見せていた。
「あ…あの…?」
「ようするに、もう勝手な事はするなってことさ。」
やっと終わったと言わんばかりに、そう言って本を宙へと手放したフラガに、キラはやっとその意味を理解したようだった。



 その頃フレイは、部屋を出て通路を歩いていた。
 サイとミリアリアが、擬似法廷の行われている部屋の前で、不安そうな表情を浮かべていた。その時キラの声が聞こえ、二人はそちらを振り返る。
「失礼します。」
そう言って部屋を出たキラは、二人の姿を見て、少し驚いた様子を見せた。
「キラ!…大丈夫か?」
「何て言われたの?」
サイとミリアリアが心配そうに声を掛ける。キラは苦笑いを浮かべていた。
「お前も、トイレ掃除一週間とか…。」
「おぉ、それいいねぇ。やってもらおうかなぁ?」
サイが言いかけたとき、明るい声と共に、二人の間を割ってフラガが部屋から出てきた。が、そのまま二人を押しのけて行ってしまった。続いて出てきたバジルールは、キラを一瞥しそのまま何も言わずに去っていった。それを見届けたキラは二人に笑顔を見せる。
「…大丈夫だよ。」
「そっか。ってことは…俺たちだけか。」
そう言ってサイとミリアリアは肩をすくめた。
「えっ?」
「わたしたち、マードック軍曹にすごく怒られたの。『お前たちは、危険って言葉すら知っちゃいねぇのか!』…って。」
マードック軍曹の口ぶりを真似して、明るく言ったミリアリアに、キラは慌てて言う。
「あ、ごめん。手伝うよ。」
「いいよ。もうすぐ第八艦隊と合流だし、たいした事無い。」
通路を進んでいたフレイは、聞こえてきたサイの声に足を止めた。だんだん声は近づいてくる。
「カズイがさ、お前とあの女の子の話、聞いたって。」
「えっ?」
「あのイージスに乗ってるの、友達なんだってな。」
「…!」
サイの言葉に、キラとフレイは驚く。特にフレイはショックを受けているようだった。
「正直言うと、少し心配だったんだ。」
「サイ…。」
「でもよかった。お前、ちゃんと帰ってきたもんな。」
キラはその言葉に笑顔を見せた。信じてくれた友人の言葉に、救われた思いがした。
「じゃ、俺交代だから。」
そう言って二人は先に行ってしまった。フレイはとっさに物陰に隠れる。そんなフレイには気付かず、キラはエレベーターに乗り込んだ。脳裏にサイの言葉がよみがえる。

<きっとだぞ、キラ!俺はお前を信じてる!>



…一方フレイは、放心したような表情で、キラの去っていった方を静かに見つめていた…
「確かに、合流前に追いつく事はできますが、これではこちらが月艦隊の射程に入るまで十分ほどしかありませんよ。」
ローラシア級、ガモフの中では、ガンダムのパイロット三人が航路図を眺めている。月艦隊との合流前にアークエンジェルを攻撃しようということらしいが…。
「十分あるってことだろ?」
「臆病者は黙っているんだな。」
ニコルの言葉に、ディアッカとイザークが嘲るように言った。ニコルはむっとした表情を見せる。
「十分しかないのか、十分はあるのか。それは考え方ってことさ。俺は十分もあるのにそのまま合流するあいつを見送るなんて、御免だけどね。」
「同感だな。奇襲の成否は、その実働時間で決まるもんじゃない。」
イザークに続いて、ディアッカも賛同の意を示す。だがニコルは慎重だった。
「それは分かってますけど…。」
「ヴェザリウスは、ラコーニ隊長の艦にラクス嬢を引き渡したらすぐに戻るということだ。それまでに、『足つき』は俺たちで沈める。いいな?」
そう言ったイザークに、ディアッカはOK、と答え、ニコルも少し考えた後に言った。
「…分かりました。」


 一方、ヴェザリウスの艦内。沈んだ表情でアスランは通路を進んでいた。が、ドアの開く音に気付き前方を見やると、見覚えのあるピンク色の物体が跳ねてくる。
「ハロ、ハロ、アスラ〜ン!」
機械の音声で彼の名を呼びながら跳ねてきた丸い物体、ハロを受け止めて、アスランはやれやれ、といったようにため息をつき、近づいてきた少女に手渡した。
「ラクス…。」
「ハロがはしゃいでいますわ。久しぶりにあなたに会えて嬉しいみたい。」
ハロを受け取りながら明るくそう言ったラクスに、苦笑しながらもアスランは答えた。
「ハロには、そんな感情のようなものはありませんよ。…あなたは客人ですが、ヴェザリウスは戦艦です。あまり部屋の外をうろうろなさらないでください。」
そういいながら、ラクスを部屋の中へと連れて行く。と、ラクスがつぶやいた。
「どこに行ってもそう言われるので、つまりませんの。」
「仕方ありません。そういう立場なんですから。」
アスランの言葉に、ラクスは寂しげに笑うと、アスランのほうを振り返り、笑い掛けた。
「…何か?アスラン。」
「えっ?ああ、いや…。ご気分はいかがかと思いまして…。」
ラクスにそう言われ、アスランは少し戸惑った様子でそう言った。そんな彼の様子を見て、ラクスは不思議そうな表情を浮かべる。
「その、人質にされたりと、いろいろありましたから…。」
不器用な彼らしい言葉に、ラクスはくすりと笑い、アスランに言った。
「わたくしは元気ですわ。あちらの艦でも、あなたのお友達が良くして下さいましたし。」
「…そう、ですか。」
アスランは、その言葉に一気に表情を曇らせた。
「キラ様はとても優しい方ですのね。そして、とても強い方。」
「…あいつはバカです。軍人じゃないって言ってたのに、まだあんなものに…。」
少し怒ったような声でそう言うアスランを、ラクスが心配そうに見つめる。
「あいつは利用されてるだけなんだ。友達とか何とか…。あいつの両親はナチュラルだから、だから…。」
苦しげな表情を浮かべるアスランの顔に、ラクスはそっと手を伸ばしたが、彼はそれを避けた。
「あなたと戦いたくない、とおっしゃってましたわ。」
「僕だってそうです!誰があいつと…。」
ラクスの言葉に、アスランは声を荒げた。が、悲しげな表情を浮かべたラクスに気付き、感情を落ち着かせて言った。
「失礼しました。では、私はこれで…。」
部屋を出る彼の背中に、ラクスは寂しげに問い掛けた。
「辛そうなお顔ばかりですのね、この頃のあなたは。」
「…にこにこ笑って戦争は出来ませんよ。」
静かにそう言った声を残して閉じたドアの前で、ラクスはしばらく佇んでいた。


「あと三十分程度で合流ポイント、どうにかここまでこぎつけたわね。」
安堵したような顔で、ラミアスはそう言った。第八艦隊との合流を目指して航行を続けているアークエンジェルは、合流ポイントまであと一歩のところまで来ていた。が、バジルールはクルーたちに注意を促す。
「索敵、警戒を厳に。艦隊は目立つ。あちらを目標に来る敵はあるぞ。」
そう言ったバジルールを、ラミアスは厳しい表情で見つめた。一方、食堂では、サイとカズイが食事をしながら話していた。
「いろいろあったけど、あと少しだね。」
「ああ。」
「…僕たちも降ろしてもらえるんだよね、地球に。」
心配そうに言ったカズイに、サイが不思議そうな顔を向ける。
「えっ?」
「だってほら、あの時、ラミアス大尉が…。」

――事情はどうあれ、軍の重要機密を見てしまったあなたがたは、然るべきところと連絡がとれ、処置が決定するまで、私と行動をともにしていただかざるを得ません――

ヘリオポリスで出会ったときに、ラミアスは彼らにそう言ったはずだった。
「ああ…。だから艦隊が、その然るべきところ、とかじゃないの。」
サイの言葉にカズイもうなずく。
「だよね。でも…。」
「でも?」
「キラはどうなるんだろう。降りられるのかな?あれだけ色んな事やっちゃってさ…。」
確かにそれは心配だった。サイもその言葉にうつむく。とその時、入ってきたキラに気付いてはっと顔を上げた。
キラもそれに気付いたが、何も言わずトレイを取りに向かった。重い空気が流れる。だが、入り口に立った人物に気付いたサイが驚いた声を上げた。
「フレイ!?」
「…!」
サイの声に振り向いたキラも驚いた表情を浮かべた。一方のフレイは、感情の読めないような表情でじっとキラの方を見つめていた…。
「フレイ、大丈夫なのか?まだ休んでた方が…。」
「大丈夫よ。」
心配して声を掛けたサイに上の空の返事を返したフレイは、まっすぐキラのほうへと歩いていく。そんな彼女を、不思議そうにサイとカズイは見ていた。
「キラ…、あの時は、ごめんなさいね。」
「えっ?」
突然の言葉に、キラは驚きを隠せなかった。
「あの時は私、パニックになっちゃって…。すごい酷いこといっちゃった。本当にごめんなさい。」
「フレイ…。」
「あなたは一生懸命戦って、私たちを守ってくれたのに…。私…。」
今にも泣き出しそうな表情でそう言うフレイに、慌てたようにキラは言った。
「フレイ、そんな、いいんだよ、そんなことは。あの時は…。」
「私にもちゃんとわかってるの。あなたはがんばってくれてるって。なのに…。」
必死にそう言った彼女に、キラは笑顔を向けた。
「ありがとう、フレイ。僕の方こそ、お父さん守れなくて…。」
「戦争っていやよね。…早く終わればいいのに…。」
沈んだ声でフレイは言ったが、いつもと違う雰囲気にサイははっと顔を上げた。だが、そんなことには気付かずキラは、そうだね、と言った。


「ん?…レーダー波に干渉。Nジャマー反応増大!」
突然のその報告に、ラミアスとバジルールは同時に振り向いた。三機の『G』がアークエンジェルに接近しつつあった。
「総員、第一戦闘配備!」
ラミアスの声がブリッジに響く。
「一〇三、オレンジアルファにローラシア級です!」
「モビルスーツ、熱紋確認。ブリッツ、バスター、デュエルです!」
立て続けに入る報告に、バジルールは舌打ちした。
「あいつら…!ちっ、合流を目前にして!」
艦内に響き渡る警報に、キラたちも驚く。休憩中だったのだろうか、何やら本を片手にくつろいでいたフラガも、厳しい表情で宙を見上げた。
「戦争よぉ、また戦争よぉ!」
そう叫びながら走ってきた女の子が、食堂から走り出たキラにぶつかり転んでしまった。
「大丈夫かい?さあ…。」
そう言って手を差し伸べたキラだったが、フレイがそれを押しのけて女の子を抱き上げた。
「ごめんね。お兄ちゃん、急いでたから。」
そう言うとフレイは、その女の子に笑い掛けた。
「また戦争だけど、大丈夫。このお兄ちゃんが戦って守ってくれるからね。」
「ほんと?」
「うん。悪い奴はみぃんなやっつけてくれるから。」
その光景をキラは不思議そうに見ていたが、サイたちに呼ばれ、気にしつつも走っていった。女の子の手を握り立ち上がったフレイは、怖いくらいの笑みを浮かべつぶやいた。
「…そうよ、みぃんなやっつけてもらわなくちゃ…。」
そう言って女の子の手を強く握り締めたので、「いったぁい!」と叫んで手を振りほどき走り去ってしまった。
が、フレイはしばらくそこに立ち尽くしていた。
「くっそお、こんなタイミングでよくやる!」
メビウス<ゼロ>のコクピットに乗り込みながら、フラガは舌打ちした。合流まであと一歩だというのに、仕掛けてくるとは。だが、やるしかない。
「ムウ・ラ・フラガ、出る!」
その掛け声とともに<ゼロ>は出撃していった。キラもストライクに乗り込む。そこにミリアリアからの通信が入った。
「キラ。ザフトは、ローラシア級いち、デュエル、バスター、ブリッツ!」
「…あの三機!」
それを聞いたキラはつぶやいた。そして、ミリアリアの声とともに出撃準備が整っていく。ストライクにはエールストライカーが装備された。
「進路クリア。ストライク、発進です!」
「キラ・ヤマト、行きます!」
カタパルトが射出され、ストライクは戦場へと出撃していった。


「第八艦隊もこちらへ向かっているわ。持ちこたえて!」
「イーゲルシュテルン作動。アンチビーム爆雷用意!艦尾ミサイル全門セット!」
ラミアスの言葉にバジルールの指示が続く。次々と砲門が開かれていった。
その時、三機が固まって進んできた。と、突如散開し、その背後からガモフの艦砲がアークエンジェルを狙った。
避けきれず被弾する。
「こちらの回避アルゴリズムが解析されてる…?」
衝撃に耐えラミアスはつぶやいた。一方フレイは、部屋で一人、感情の無い瞳を宙に向けている。
「機体で射線を隠すとは…。味なことやってくれるじゃないか!」
先に出撃したフラガはコクピットの中でつぶやきながら、ガンバレルを切り離し攻撃を仕掛けていった。三機は散開したが、ガンバレルはバスターを狙い、一撃を加える。
「フン、そんなもの!」
だが効いていないらしく、ディアッカはライフルを向け反撃を開始した。フラガもかろうじてそれを避ける。 「フラガ大尉!」
ようやく戦場に加わったキラだったが、デュエルの攻撃にあいシールドでそれを防いだ。イザークはブリッツに乗るニコルに通信を入れる。
「モビルスーツを引き離す。ニコル、足つきはまかせたぞ!」
「了解!」
そう言うと二機は散開し、それぞれの標的のもとへ向かっていった。ディアッカもガンバレルの攻撃をかわしアークエンジェルへと向かっていく。放たれたビーム砲に、フラガはちぃ、と舌打ちすると、ガンバレルを戻し、ふたたびバスターへと向かっていった。
 一方のキラは、デュエルと一騎打ちの形になっていた。デュエルがビームサーベルを抜きストライクに迫っていく。
「ストライクっていったなぁ!」
「…!」
その声とともにビームサーベルを振り下ろしたが、ストライクはシールドでそれを防ぎ、二機の交戦は続いていく。
「バリアント、撃て!」
バジルールの指示で、アークエンジェルを狙うブリッツに砲火が向けられる。が、それをかわしたブリッツの姿が宇宙空間に溶けていった。
「ブリッツをロスト!」
突如レーダーから消えたブリッツに、ラミアスは唸る。
「ミラージュ・コロイドを展開したんだわ。アンチビーム爆雷、対空硫酸弾頭を!」
「アンチビーム爆雷発射。艦尾ミサイルを対空硫酸弾頭に換装!」
ラミアスの命令に従って、バジルールの指示が飛ぶ。アンチビーム爆雷が発射された直後、いずこからかビームの攻撃があった。ニコルはちっ、と舌打ちする。
「ビーム角からブリッツの位置を推測!」
先程放たれたビームから、だいたいの位置をシミュレーションし割り出す。位置が絞り込まれると、バジルールは叫んだ。
「硫酸弾頭、撃て!」
艦尾から発射されたミサイルは、途中で幾重にも分かれ、ブリッツを狙う。すんでのところでニコルはミラージュ・コロイドを解除し、攻撃に耐えた。
「もともとそちらのものでしたっけね。弱点もよくご存知だ!」
ミラージュ・コロイドの展開中はフェイズ・シフトが使えないことを知っていたのだ。その事に皮肉をもらしつつも、再度ニコルは展開させる。
「イーゲルシュテルン、自動追尾解除。弾幕を張れ!」
全方位に向けてイーゲルシュテルンが発射される。
「くっ!」
ニコルはなかなか近づけない歯がゆさに苛立ちを隠せないでいた。


一方、ストライクとデュエルの戦闘は熾烈を極めていた。双方一歩も引かずに交戦が続いている。
「今日は逃がさん!」
ビームサーベルを構え突進してくるデュエルに、ストライクもライフルを捨てサーベルを抜く。
「ここでやられてたまるかぁ!」
キラの叫びとともに、二機のサーベルがぶつかり合う。お互いを弾きあってもなお突進していく。
「うわぁぁ!」
「!」
二人の戦いに、いまだ終わりは見えなかった。<ゼロ>とバスターの交戦も続いている。
「ええぃ、うるさいんだよ!」
なかなか落とせない相手にディアッカは苛立っていた。両肩のミサイルを一気に発射する。
「…くっ!」
ガンバレルを落とされながらも、フラガは<ゼロ>を反転させバスターを狙う。その二機の間を、ガモフの艦砲が通り過ぎていった。アークエンジェルはそれを回避する。
「ランダム回避運動!」
「ゴットフリート照準。撃て!」
アークエンジェルの艦砲が、今度はストライクとデュエルをかすめていく。ガモフもすかさず反撃を加えた。その放火がアークエンジェルをかすめる。
「第六センサーアレー、被弾。ラミネート装甲内、温度上昇!」
…被弾の衝撃にも反応もなく、放心状態のままフレイは宙を見つめたままだった…。
さらに一撃が加えられ、艦が衝撃で揺れる。
「これでは装甲、排熱追いつきません。装甲内温度、さらに上昇!」
その言葉にラミアスは厳しい表情で指示を出す。
「あと二発も受けたら持たないわ。回頭、面舵二十!」
「ブリッツ、接近!」
砲撃の合間を縫って、ブリッツが接近しつつあった。苛立ったようにバジルールは叫ぶ。
「ストライクと<ゼロ>は?何をしている!」
「デュエル、バスターと交戦中です!」
サイが答えたとおり、二組の戦闘は終わる気配を見せなかった。ストライクとデュエルの間に激しい火花が散る。 「てこずらせる!」
「…っ!」
一方の<ゼロ>とバスターも双方引くことなく続いていた。追ってくるバスターと鳴り響く警報に、フラガは舌打ちする。
「ちぃっ!」
「モビルアーマーごときが、邪魔なんだよ。落ちろ!」
ディアッカも苛立ちを隠せず、そう叫びながらライフルを撃っていた。そしてとうとう、ブリッツがアークエンジェルに取り付き、至近距離から攻撃を加え始めた。その衝撃にブリッジでも悲鳴が上がる。
「艦砲が使えん。ストライクは!?」
…デュエルと交戦中のキラの耳に、ミリアリアの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「キラ、キラ!」
「…!?」
「ブリッツに取り付かれたわ。戻って!」
「えっ!?」
驚いて振り返ると、アークエンジェルに爆発の閃光が見えた。
「アークエンジェルが…!」
その時キラの脳裏に、爆発した先遣隊の映像が浮かび上がった。先程フレイが言っていたことも。
――また戦争だけど、大丈夫。このお兄ちゃんが戦って守ってくれるからね。


――その時、キラの中で何かが弾けた。それは小さな小さな…"SEED(たね)"――


「…アークエンジェルは、沈めさせやしない…!」
それをきっかけに、ストライクの動きが一変した。突進してきたデュエルをすさまじいスピードでかわし、逆にビームサーベルをデュエルの脇腹に命中させた。
「…このぉ!」
離脱したストライクに、イザークはライフルで狙い打ったが、ことごとくそれをかわしアークエンジェルへと向かっていく。あまりの豹変振りにイザークは驚きの声を上げた。
「かわしたぁ!?」
そしてアークエンジェルに取り付き攻撃を続けているブリッツに突進していく。
「やめろぉー!」
突っ込んできたストライクをかわしたニコルだったが、アークエンジェルを足場に飛び上がったストライクに、すかさず蹴りをくらって吹き飛ばされた。
「わぁぁ!」
「もらった!」
その時、ストライクの背後からデュエルが突進してきた。が、キラはアーマーシュナイダーを出して振り返り、デュエルの胴体に命中させた。火花が散り、デュエルのコクピットに爆発が起こった。
「うわぁぁ!」
離れたデュエルを、ブリッツが受け止める。ニコルが慌ててイザークに呼びかけた。
「イザーク、イザーク。大丈夫ですか!?」
いまだ<ゼロ>と交戦中だったディアッカに、ニコルの通信が入る。
「ディアッカ!」
「ニコル!?どうした!」
「イザークが…。」
その時デュエルのコクピット内で、イザークが血のにじむ顔を押さえ唸っていた。
「痛い、痛い…痛いっ!」
「イザーク…?」
つぶやいたディアッカの声に、ニコルの声が重なる。
「ディアッカ、引き上げです。敵艦隊が来る!」
「くそっ!」
ディアッカは悔しがったが、やむなく彼らは引き上げていった。それを見届けたキラはアークエンジェルに着艦したが、その様子を、ラミアスは困惑の表情で見つめていた。キラはコクピットのなかで荒い息を継いでいたが、フラガの声に顔を上げた。
「やつら引き上げていったぜ。よくやったな、坊主!」
「大尉…。」
キラのその様子に、フラガはふと、いつもと違う何かを感じつぶやいた。
「ん…?お前…。」
「え?」
不思議そうな顔をしたキラに気付き、フラガは少し穏やかな声で言った。
「…いや、すごいやつだよ、お前は。」
「…いえ。」
目を閉じ、気持ちを落ち着かせながら、キラはそうつぶやいた。その目に、遠く光が見える。
「第八艦隊だ!」
アークエンジェルのブリッジに、歓喜の声が上がった。第八艦隊は、目視できるところまで近づいてきていた。







「…そうよ、みんなやっつけてもらわなくっちゃ。」
居住区の一室で、フレイが放心したようにつぶやく。と、口元に笑みを浮かべて、静かに言った。
「…でないと、戦争は終わらないもの…。」





PHASE11−END.




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