PHASE-18 ノベライズ

「ではこれより、レジスタンス拠点に対する攻撃を行う。」
…レジスタンスと共に、辛くもザフト軍を撃退したアークエンジェル。だがその結果、『砂漠の虎』アンディ・バルトフェルドの牙がレジスタンスの拠点、タッシルへと向けられることとなる――
鳴り響く警告の笛の音。通信機を取ったサイーブに、驚愕の事実が告げられた。
「どうした!?」
「空が燃えてる…タッシルの方向だ!」




PHASE−18「ペイ・バック」




 朱く染まった夜の空に、MSの暗い影が浮かぶ。生身の人間がMSにかなうはずも無く、人々はただ逃げ惑うしかなかった。町外れの岩山に集まった人々が、燃える町を唖然として見つめている。離れた場所からその光景を見ていたバルトフェルドは、部下に指示を出した。
「岩山の洞窟には、食料や、武器・燃料が保管してあるはずだ。それも焼き払え!」
彼の言葉に反応したかのように、バクゥが岩山の方を振り向き、目を光らせる。町の人々もそれに気付き、恐怖に目を見開いた。
「今から洞窟内を焼く。死にたくないものは離れろ!」
バクゥから響いたその警告に、人々は悲鳴を上げながらその場から逃げていく。それを確認して、攻撃は開始された。次々とミサイルが撃ち込まれ、炎が上がる。その光景を、バルトフェルドは静かに見つめていた。

「くそぉ、だめだ、通じん!」
タッシルへの通信を試みていた男が悔しげに通信機を叩く。その背後では、タッシルへ向かうべく装備を整える人々が行き交っていた。
「急げ、弾薬を早く!」
「おふくろが病気で寝てんだよ!」
「町がやられた!?」
「早く乗れ!」
急に慌ただしくなった雰囲気に、事情を飲み込めないキラたちは首を傾げる。と、その横をカガリがすり抜け走っていった。
「サイーブ!」
サイーブはレジスタンスのメンバーたちに向かって指示を出している。
「半分はここに残れと言っているんだ。…落ち着け。別働隊がいるかもしれん。」
「…どう思います?」
そんな彼らを見ながら、ラミアスは隣にいるフラガに問い掛けた。
「う〜ん、『砂漠の虎は残虐非道』、なんて話は聞かないけどなぁ。でも、俺も彼とは知り合いじゃないしね。」
至極軽い調子でそういったフラガに、ラミアスは困ったような表情を浮かべている。が、少し真剣な表情にかえってフラガは言った。
「どうする?俺たちも行くか?」
「アークエンジェルは動かない方がいいでしょう。確かに、別働隊の心配もあります。少佐、行っていただけます?」
「ああ?俺?」
不満げな調子の声でそう言ったフラガに、ラミアスは少しいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「スカイグラスパーが、一番速いでしょう?」
「…だわねぇ。んじゃ、行ってくるわ。」
そう言って走り出したフラガに、ラミアスは声を掛けた。
「出来るのはあくまで救援です。バギーでも、医師と誰かを行かせますから!」
フラガはその言葉にひらひらと手を振って、アークエンジェルへと足を速めた。

「あとは頼んだぞ!」
サイーブの言葉に続いて、次々とレジスタンスたちが出発していく。武器を手に洞窟から出てきたカガリは、出遅れた、といったように走り出したが、その目の前にバギーが止まる。
「乗れ、カガリ!」
「アフメド!」
仲間の少年の姿を認め、カガリはすばやく乗り込む。その後ろに武器を抱えたキサカも飛び乗り、出発していった。なす術も無く立ちすくんでいたアークエンジェルのクルーたちも顔を見合わせる。と、そこへラミアスの声が聞こえてきた。
「総員、ただちに帰投!警戒態勢を取る!」
その言葉に、クルーたちは一斉に走り出す。キラも、フレイの肩をポン、と叩き走り出していった。
「キラ!」
「フレイ!」
キラを追って走り出したフレイをサイは引きとめたが、フレイはキッとサイを睨み、手を振りほどいて走り去ってしまった。フレイのその様子にサイは拳を握り締めつぶやいた。
「…ばかやろう…!」
 タッシルを目指してバギーを走らせていたレジスタンスたちは、目前に見えてきた町の様子に息を飲んだ。カガリも悔しそうに歯噛みする。
「…くっ!」
その頃、アークエンジェルでは、スカイグラスパーの発進準備が進んでいた。機体がカタパルトへと運ばれていく。
「ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!」
進路クリアの合図と共に、フラガは出撃していった。
「では、艦長。」
「お願い。状況報告は密に。おとりかもしれないから、気をつけて。」
「はっ。…よし、行くぞ!」
救援のため、バジルールの指揮の下、数名の人員がバギーに乗り出発していった。キラも、ストライクの中で静かにその時を待っていた。

「隊長―!」
戦況をじっと見守っていたバルトフェルドのところへ、彼の部下が戻ってきた。じっと前を見据えたまま、彼は部下に問い掛けた。
「終わったか?双方の人的被害は?」
「はぁ?あるわけないですよ。戦闘したわけじゃないですから。」
「双方だぞ?」
「…そりゃまぁ、町の連中の中には、転んだの、火傷したのってのはあるでしょうが…。」
その言葉を聞き、バルトフェルドは車の助手席に腰を下ろした。
「じゃ引き上げる。ぐずぐずしてると、旦那がたが帰ってくるぞ。」
「それを待って討つんじゃないんですか?」
部下のその言葉に、バルトフェルドは驚いたような表情を見せた。
「おいおい、それは卑怯だろう。おびき出そうと思って町を焼いたわけじゃないぞ。」
「はぁ、しかし…。」
「ここでの戦闘目的は達した。帰投する。」
バルトフェルドはそう言って、部下の方を向き、にっと笑った。

 燃える町を眼前にして、カガリたちは驚きを隠せないでいた。
「町が…!」
「みんなは!?」
とその時、彼らの頭上を戦闘機が通り過ぎていった。フラガのスカイグラスパーである。上空から町の様子を見渡した彼は、その光景に息を飲んだ。
「うわぁ、ひでぇ…。全滅かな、これは…。」
最悪の結果が頭に浮かんだその時、フラガはふと何かを見つけた。
「…ん?」
それは、逃げ延びた町の人々の姿。その上空を旋回しつつ、アークエンジェルに通信を入れる。
「こちらフラガ。町には、生存者がいる。」
「えっ!?」
絶望的かと思われていただけに、ラミアスやクルーたちも驚く。
「というか、かなりの数の皆さんがご無事のようだぜ。こりゃあ一体どういう事かな?」
「敵は?」
「もう姿はない。」
一体何がどうなっているのか。訳が分からずラミアスは考え込んでしまった。一方町では、到着したレジスタンスたちと町の人々が無事の再会を喜んでいた。
「父さん、母さん、無事か!?」
「あんた、町が…!」
少し離れた場所でその光景を静かに見守っていたフラガは、背後で止まったバギーの音にそちらを振り向いた。
「少佐!これは…。」
走り寄ってきたバジルールは、目前に広がる光景に信じられないようにつぶやいた。

「動けるものは手を貸せ!怪我をした者をこっちへ運ぶんだ!」
メンバーたちに指示を出しながら見回っていたサイーブは、自分を呼ぶ声に振り向いた。
「サイーブ!」
「…!」
と、サイーブの背後からカガリが顔を出し嬉しそうな声を上げた。
「ヤルー、長老!」
「父ちゃん!カガリ…。」
老人に付き添っていた少年がその声に答えた。
「無事だったか、ヤルー。母さんとメネは?」
「シャムセリンのじいさまが逃げるとき転んだんで、そっちについてる。」
「そうか…。」
そう言うとサイーブは笑顔を見せ、息子の頭をくしゃくしゃとなでた。少年も嬉しそうに笑う。そして、長老の方に向き直り、サイーブは問い掛けた。
「…どのくらいやられた?」
「…死んだものはおらん。」
静かにそう言った長老の言葉に、サイーブとカガリは驚く。フラガやバジルールも驚いた表情を見せた。
「最初に警告があったわ。今から町を焼く、逃げろ、とな。」
「何だと?」
「そして焼かれた。食料、弾薬、燃料…すべてな。確かに死んだものはおらん。じゃがこれではもう…生きては行けん。」
長老のその言葉に、サイーブは拳を握り締め、怒りをあらわにして言った。
「ふざけた真似を!どういうつもりだ、『虎』め!」
「だが手立てはあるだろう。生きてればさ。」
「なに?」
ふと背後から聞こえてきたフラガの声に、サイーブは振り返った。カガリもキッと振り返る。
「どうやら『虎』は、あんたらと本気で戦おうって気は無いらしいな。」
「どういうことだ!?」
「こいつはゆうべの一件への、単なるおしおきだろう。こんなことぐらいで済ませてくれるなんて、ずいぶんと優しいじゃないの、『虎』は。」
フラガのその言葉に、カガリが怒りをあらわにして食って掛かった。
「こんなこと?町を焼かれたのがこんなことか!?こんなことするやつのどこが優しい!」
拳を振り上げながら詰め寄ってくるカガリに、押されつつもフラガは答える。
「失礼。気に障ったんなら、謝るけどね。けど、あっちは正規軍だぜ。本気だったらこんなもんじゃ済まないってことぐらいは、分かるだろ?」
「あいつは卑怯な臆病者だ!我々が留守の町を焼いて、それで勝ったつもりか!?我々は、いつだって勇敢に戦ってきた。この間だって、バクゥを倒したんだ。だから、臆病で卑怯なあいつはこんなことしか出来ないんだ。なにが『砂漠の虎』だ!」
必死になってそう叫んだカガリを、しばらく見つめていたサイーブだったが、仲間に呼ばれその場を立ち去った。
それを見送ったフラガは、視線を戻すとぎょっとした表情を見せた。強烈な非難の目を向けているカガリに、フラガは苦しげに取り繕う。
「え〜っと、まあ…やなやつだな、『虎』って…。」
「あんたもな!」
大声で叫んで去っていったカガリに、やれやれ、といった表情のフラガだったが、振り返ったとたんにひきつった笑顔を浮かべた。町の人々も、カガリと同様の視線をフラガに向けており、バジルールさえも呆れたような表情を浮かべていた。
「…あら…。」

「なんだ、どうした?」
「やつら、町を出てから、そうたってない。今なら追いつける!」
仲間に呼ばれていったサイーブは、その言葉に驚いた。
「なに?」
「町を襲った後の今なら、連中の弾薬も底をついてるはずだ。」
「俺たちは追うぞ。こんな目に遭わされて、だまっていられるか!」
後から追ってきたカガリに、サイーブの声が聞こえてくる。
「バカなことを言うな!そんな暇があったら怪我人の手当てをしろ。女房や子供についててやれ。そっちが先だ!」
「それでどうなるっていうんだ!?見ろ!」
仲間の一人がそう言って燃える町を指差し、サイーブに詰め寄る。
「タッシルはもう終わりさ。家も食料も全て焼かれて、女房や子供と一緒に泣いてろとでも言うのか!」
「まさか…俺たちに『虎』の飼い犬になれって言うんじゃないだろうな?サイーブ!」
仲間の思いもかけない言葉に、サイーブは言葉を失い立ち尽くした。そうしている間に、ザフト軍を追うため次々と出発していく。
「行くぞ!」
それを見たフラガとバジルールも、信じられないと言った風に彼らの去った方向を見つめていた。しばらく立ち尽くしていたサイーブだったが、仲間を呼びバギーに乗り込む。
「行くのか、サイーブ?」
「…放ってはおけん。」
「サイーブ、わたしも…!」
「ダメだ、お前は残れ!」
一緒に乗り込もうとしたカガリだったが、サイーブに突き放されてしまった。そのまま土煙を上げて去っていく。
土煙にむせるカガリのそばに、一台のバギーが止まった。見上げると、仲間の少年アフメドとキサカの姿があった。
「乗れ!」
その言葉に大きく頷き、カガリはすぐに飛び乗りサイーブを追った。それを見たサイーブは驚いたように叫ぶ。
「カガリ、アフメド、だめだ、残れ!」
「この間バクゥを倒したのは俺たちだぜ?」
「こっちに地下の仕掛けは無い。戻るんだ、アフメド!」
だが、カガリも手にした武器をかざし叫ぶ。
「戦い方はいくらでもある!」
「そういうこと!」
二人はそう言うと、スピードをあげた。不安そうな顔を見せるサイーブに、後ろに乗るキサカはまかせろというように頷いた。
「なんとまぁ…。風も人も熱いお土地柄なのね。」
彼らが去っていった方を見やりつぶやいたフラガに、バジルールは訴えかける。
「全滅しますよ!あんな装備でバクゥに立ち向かえる訳が無い!」
「だよねぇ、どうする?」
「わ、私に言われても…。」
逆に問い掛けられて、バジルールは困ったように軍帽を深くかぶりつぶやいた。

「なんですって!?」
驚いた声を上げたラミアスに、アークエンジェルのクルーたちはびっくりして振り返った。
「追っていったなんて、なんてバカなことを…。何で止めなかったんです、少佐!」
通信スクリーンに映るフラガにラミアスは詰め寄る。が、フラガは冷静に答えた。
「止めたら、こっちと戦争になりそうな勢いでね。それより、こっちは怪我人も多いし、飯や、なにより水の問題もある。どうする…?」
スカイグラスパーから眼下の光景を見下ろすと、救援活動にあたっているバジルールの姿が目に入った。怪我の痛みに泣く子供にそっと話し掛けている。
「痛いのか?ほら、もう泣くな。」
そう言いながら、自分の軍帽を子供にかぶせてやり、慰めていたが、ふと思いつきポケットから何やらお菓子を取り出した。
「そうだ、いいものをやろう。おいしいよ。」
最初はおずおずとそれを口にした子供だったが、おいしかったのか、がっつくように食べ始めた。と、背後に気配を感じ振り向くと、他の子供たちが集まってきて、うらやましそうに見ていた。
「そ、そんなにはないんだ。困ったな…。」
たくさんの子供に囲まれて、バジルールは困ったようにそう言っていた。一方のラミアスは、しばし考え込んだ後、フラガに向かって言った。
「ヤマト少尉に行ってもらいます。…見殺しにはできませんわ。残っている車両で、そちらにも水や医薬品を送らせます。」
「了解。」
そう言って通信を切ると、ラミアスは振り返っていった。
「ハウ二等兵、ストライク発進を。」
「はい。」
その言葉を受けたミリアリアは、モニターに向き直る。
「キラ、ストライク発進ねがいます。」
「…了解。」
静かにキラがそう答え、ストライクがカタパルトに運ばれていく。
「APU起動。カタパルト接続。ストライカーパックはエールを装備します。エールストライカー、スタンバイ。」
着々と出撃の準備が整い、装備が完了する。
「システム、オールグリーン。進路クリア。ストライク、どうぞ!」
その声と共に、ストライクは砂の海へと出撃していった。

 一方のザフト軍は、バルトフェルドの乗ったジープを先頭に、至極ゆっくりとした歩調で帰還の途についていた。その様子に部下が上司に具申する。
「もう少し急ぎませんか?」
「早く帰りたいのかね?」
目を閉じくつろいだ様子のままそう言ったバルトフェルドに、部下は反論の声を上げる。
「追撃されますよ!これじゃ。」
「…運命の分かれ道だな。」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すのかと、首を傾げる部下に構わず話し続ける。
「自走砲とバクゥじゃケンカにもならん。死んだ方がまし、という台詞は結構よく聞くが、本当にそうなのかねぇ?」
とその時、バクゥのパイロットが、レーダーに映るものに気付き通信を入れてきた。
「隊長。後方から接近する車両があります。六…いや、八!レジスタンスの戦闘車両のようです。」
「…やはり死んだ方がましなのかねぇ。」
バルトフェルドのつぶやきとほぼ同時に、レジスタンスの車両が戦闘を仕掛けてきた。カガリの放ったミサイルがジープをかすめていく。
「隊長!」
「仕方ない、応戦する!」
その言葉に呼応してバクゥの目がレジスタンスを捉える。
「ジープを追え。『虎』を倒すんだ!」
だがジープを狙った砲弾はバクゥによって阻まれ、逆に反撃を開始した。
 カガリたちは、まずコクピットを狙って視界を奪い、その隙に足に集中攻撃をかけて動けなくする作戦をみごとに成功させ、喜びの声を上げた。
「やった!」
「ちょこまかと…うるさいアリが!」
バクゥのパイロットは歯噛みしたが、それも一局地の勝利に過ぎなかった。三機のバクゥのうち、他の二機は健在で、自走砲の攻撃にもびくともしない。なす術もなく、レジスタンスの車両は次々と破壊されていった。
「ジャーフル、アヒド!」
サイーブの叫びも空しく、仲間たちは次々となぎ倒されていく。
「くっそお!」
アフメドは車をバクゥの下に潜り込ませ、下から攻撃を加えた。が、一向に効いた様子もなく、バクゥは足を振り上げた。それに気付いたキサカは、カガリを抱え飛び降りる。
「飛び降りろ!」
「えっ?」
一瞬反応の遅れたアフメドは、逃げ切れずバクゥの攻撃に吹き飛ばされてしまった。
「…!アフメド!」
叫んだカガリに、バクゥの目が光った。が、横からの攻撃にそちらを向く。サイーブだった。
「うおおお!」
武器を肩に担ぎ、攻撃を仕掛けていく。バクゥは標的をサイーブに定め、追撃を開始した。
その時、サイーブの脳裏に仲間の言葉が浮かぶ。
――まさか…俺たちに『虎』の飼い犬になれって言うんじゃないだろうな――
「サイーブ!」
部下の声にはっと気付くと、すぐ後ろにバクゥが接近してきていた。
「ちくしょぉ!」
そう叫んで攻撃をかけようとしたその時だった。バルトフェルドの横に座っていた部下がレーダーの反応に驚いた声を上げた。
「接近する熱源1…隊長、これは!」
すると、どこからかビームライフルの攻撃がバクゥをかすめた。続いて現れた機影に、そこにいた全員が驚きの表情を浮かべる。カガリも驚き、つぶやいた。
「ストライク…?」
だが、キラはそんなことはつゆ知らず、攻撃を仕掛ける。が、ことごとくそれてしまう。
「それる?そうか、砂漠の熱対流で…。」
ストライクが着地して、再び飛び上がるその間に、キラはOSを調節していった。バクゥのミサイルをかわすと、再び攻撃を仕掛ける。今度は、バクゥのミサイルポッドを直撃した。
「なにぃ?」
さっきまでと明らかに違う様子に、パイロットは驚く。バルトフェルドは、その様子を楽しげに見つめていた。
「ほぉ…?」
「救援に来たのか?地球軍が?」
部下はその事に驚いていたが、バルトフェルドは違うところを見ていた。
「先日とは装備が違うな。」
「は?」
「それにビームの照準。即座に熱対流をパラメータに入れたか。フッ…。」
その頃、キラは冷静に状況を確認していた。
「敵は三機、だが一機は動けない。」
ちらりと横目にモニターを見ると、アフメドのそばに寄り添うカガリの姿があった。
「…ちっ!」
彼らを巻き込まないよう、キラはバクゥを誘導してその場から離れた。
「アフメド、しっかりしろ、アフメド!」
もう虫の息のアフメドは、それでも必死に言葉を紡ぎだそうとしていた。
「カガリ…俺…おまえ…が…!」
…そこまで言って、アフメドは息を引き取った。力を失った体を、カガリは抱きしめて叫んだ。
「…アフメドぉ!」

 その時、動けなくなっていたバクゥが、何とか態勢を立て直し、動き始めた。
「よっし、まだいける!」
とその時、突如入ってきた通信に、パイロットは驚いた。
「カークウッド、バクゥをわたしと替われ!」
「はぁ!?」
「隊長!?」
横にいた部下も驚きの声を上げた。が、バルトフェルドはにやりと笑っていった。
「撃ちあってみないと分からないことも多いんでね。」
そう言うとバクゥに向かって走り出していった彼を、部下は唖然として見送った。
 二機のバクゥと戦っているキラは、それでも互角にやりあっていた。空中で衝突しあったとき、落下するバクゥに隙ができる。
「しまった!」
キラが撃ち落とそうとしたその時、横からの攻撃が入り攻撃が妨げられてしまった。
「三機目?まだ動けたのか!」
その三機目こそ、バルトフェルドの駆るバクゥだった。
「フォーメーションデルタだ。ポジションを取れ!」
「隊長!」
「いくぞ!」
バルトフェルドの指揮の下、フォーメーションを組んで攻撃を仕掛けてくる敵に、キラは翻弄されつつあった。
体当たりを食らったと思ったらすかさずミサイルの攻撃が入る。それを避けて上空に飛び上がったキラだったが、いつの間にか目の前にバクゥが接近していた。とっさにバルカンで応戦したが、効き目はなく蹴り落とされてしまう。
「うわぁぁ!」
「通常弾頭でも、七六発でフェイズシフトの装甲力を失う!」
ストライクはすんでのところでバーニアをふかして衝突を避けた。
「その時同時にライフルのパワーも尽きる!」
バクゥのミサイル攻撃に、ストライクはなす術もなく翻弄されつづけている。
「さあ、これをどうするかね。奇妙なパイロット君!」
…その時、キラの中で種が芽吹いた。ミサイルの攻撃をしのいだストライクは、バクゥに向かって突進していく。通り過ぎるその時、シールドを放してバクゥに直撃させた。
「なにぃ!」
突如動きの変わったストライクに、バルトフェルドは驚きの声を上げた。ストライクは続けざまにビームライフルを打ち込む。
「各個に当たれ!奴をかく乱しろ!」
バルトフェルドの指示でそれぞれに攻撃をしかけるが、ミサイルをかわしたストライクは、ビームサーベルを抜き、すれ違いざまにバクゥの翼を切り落としていった。向かってきたストライクに、バルトフェルドは攻撃を仕掛ける。
「いけぇ!」
だがそのミサイルの攻撃も、地を蹴って砂を立て、それによって防いでしまった。その爆発を避けるように飛んできたもう一機のバクゥは、煙の下から現れたストライクの格好の標的となってしまった。
「うわぁぁ!」
腹部を撃ち抜かれ、バクゥは爆発した。
「このぉ!」
部下を落とされたバルトフェルドはストライクに向かっていったが、またもすれ違いざまに足を一本落とされてしまった。
「後退する。ザコスタ!」
「は、はい!」
これ以上の交戦は無意味と悟ったか、後退を命じバルトフェルドは引き上げていった。
「フッ、とんでもないやつだな。久々に面白い…。」
撤退していく敵を見ながら、キラは荒く息を継いでいた。

 戦闘が終わり、ストライクから降りてくるキラを、レジスタンスの面々が静かに見守っていた。降りてきたキラはヘルメットを脱ぎ、静かに言った。
「…死にたいんですか?こんな所で、何の意味も無いじゃないですか。」
キラのその言葉に、カガリが掴みかかった。
「何だと、貴様…!見ろ!」
カガリが指し示した場所には、息絶えたアフメドの姿があった。キラも視線を向ける。
「みんな必死で戦った、戦ってるんだ!大事な人や、大事なものを守るために、必死でな!」
掴みかかったまま必死に叫ぶカガリに、キラは怒りの表情を見せ、彼女の頬をはたいた。
「…!」
周りにいたメンバーたちもその行動に驚いた表情を見せた。キラは怒ったような、しかし悲しげな表情でカガリに向かって叫んだ。
「気持ちだけで、一体何が守れるっていうんだ!」





――PHASE18 End.







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