PHASE-04 ノベライズ

PHASE-04 サイレント・ラン →PHASE-05





「X−105ストライク、応答せよ!X−105ストライク、応答せよ!」
…崩壊したヘリオポリスの宙域を漂うストライクの中で、バジルール少尉の通信が幾度となく続く。だが、惨状を目の当たりにしたキラに、その声は届いていなかった。
(ヘリオポリス…壊れた…どうして…)
震える手で操縦桿を握り締めたまま、キラは呆然と目の前の光景を眺めていた…。




PHASE−04 サイレント・ラン




 アークエンジェルの艦内でも、乗員たちはみな動揺を隠せないでいた。
「ここまで簡単に…脆いとは…。」
CICから上がってきたフラガ大尉のつぶやきに、ラミアス大尉は顔をしかめ、拳を握り締めた。
「X−105ストライク!…」
バジルールの声にCICを見やると、未だ通信は続いていた。
「X−105ストライク、キラ・ヤマト!聞こえているなら、無事なら応答しろ!」
その声に、キラははっとして顔をあげ、アークエンジェルに通信を入れた。
「こちらX−105ストライク…キラです!」
ようやく帰ってきた通信に、バジルールはほっと安堵の溜め息をついた。
「無事か?」
「はい!」
ブリッジのクルーたちも、心配そうにそのやり取りを見守っていた。
「こちらの位置は分かるか?」
「…はい。」
「ならば帰投しろ。戻れるな?」
「…はい。」
そう返事を返し、キラは通信を切った。あらためてヘリオポリスを見やると、ふと両親のことが頭をよぎった。
(父さん、母さん、無事だよな…。)
「くっ…。」
とそのとき、鳴り響いた警告音。何事かと発信源を探すと…。
「あれは…ヘリオポリスの救命ポット!」
キラは武器を収めると、ポットの方へ向かった。



 一方、アークエンジェルの艦内。
「で、これからどうするのかな?」
「本艦はまだ戦闘中です。…ザフト艦の動き、つかめる?」
フラガにそう問われ、ラミアスはいまだ動揺の隠せない声で振り返り尋ねた。
「無理です。残骸の中には熱を持つものも多く、これではレーダーも熱探知も…。」
その答えに、ラミアスは溜め息をついたが、フラガの声にそちらを振り向いた。
「向こうも同じと思うがね。…追撃が、あると?」
「あると想定して動くべきです。もっとも、今攻撃を受けたらこちらに勝ち目はありませんが。」
ラミアスの言葉に、フラガは苦笑し、だな、と答えた。
「こっちにはあのストライクと、俺のボロボロのゼロのみだ。艦もこの陣容じゃ、戦闘はな。」
確かに、現状ではそれが一番の問題だった。うつむいたラミアスも、痛いほどそれを感じていた。
「全速で振り切るかい?かなりの高速艦なんだろう、こいつは?」
「あちらにも高速艦のナスカ級がいます。振り切れるかの保証はありません。」
「…なら、素直に投降するか。」
「えっ!?」
驚いたラミアスを見て、フラガはふっと笑い言った。
「それも、一つの手ではあるぜ。」
そのとき、CICからバジルールの声が響き、二人はそちらを振り向いた。
「なんだと?ちょっと待て、誰がそんな事許可した!?」
「どうしたの、バジルール少尉?」
「ストライク、帰投しました。ですが、ヘリオポリスの救命ポットを一隻、保持してきています。」
その言葉にラミアスとフラガは驚き、顔を見合わせた。


「認められない!?認められないってどういうことです!」
アークエンジェルからの返答に、キラは怒りをあらわにして言った。
「推進部が壊れて漂流してたんですよ。それをまた、このまま放り出せとでも言うんですか?避難した人達が乗ってるんですよ!」
「すぐに救援艦が来る。アークエンジェルは戦闘中だ。避難民の受け入れなど出来るわけが…。」
「いいわ、許可します。」
バジルールの言葉を遮るように、少し苛立った声でラミアスがそう言った。
「艦長!」
「今、こんなことでもめて時間を取りたくないの。収容、急いで。」
バジルールは納得していないようだったが、諦めたらしく敬礼して答えた。
「分かりました、艦長。」


 艦内では救命ポットの収容作業が進んでいる。その様子を見ながら、ラミアスは言った。
「状況が苦しいのは分かっています。ですが、投降するつもりはありません。」
その声に、副操縦席に座っていたフラガが厳しい顔で振り返る。
「この艦とストライクは、絶対にザフトには渡せません。我々は、何としてもこれを無事に大西洋連邦司令部に持ち帰らねばならないんです。」
その時、ラミアスの横に立つバジルールが一つの提案を持ちかけた。
「艦長、私はアルテミスへの入港を具申いたします。」
「アルテミス?ユーラシアの軍事要塞でしょう?」
「…『傘のアルテミス』か?」
フラガの問いに、バジルールは小さく頷く。
「現在、本艦の位置からもっとも取りやすいコースにある、友軍です。」
「でも、『G』もこの艦も友軍の認識コードすら持っていない状態よ。それをユーラシアは…。」
「アークエンジェルとストライクが、我が大西洋連邦の極秘機密であるということは、無論私とて承知しております。ですが、このまま月に進路をとったとて、途中戦闘もなくすんなり行けるとは、まさかお思いではありますまい?」
「…。」
バジルールの言うことは正に正論だった。ザフト艦もまだ追ってくるかもしれない。そう言ったのはラミアス自身ではなかったか。
「物資の搬入もままならず発進した我々にとっては、早急に補給も必要です。」
「分かってるわ…。」
額に手をあて、考えこむようにラミアスはうつむいた。
「事態はユーラシアにも理解してもらえるものと思います。現状はなるべく戦闘を避け、アルテミスに入って補給を受け、そこで月本部との連絡をはかるのが、今最も現実的な策かと思いますが。」
バジルールの言葉を受け、フラガは前方に向き直りつぶやいた。
「アルテミスねぇ。そうこちらの思惑通りにいくかな?」
「でも、今は確かにそれしか手はなさそうね…。」
ラミアスも決意を固めたらしく、中空を見やりそう言った。


 一方、艦内では救命ポットに乗っている避難民の収容作業が工員たちによって進められている。帰艦したキラも、コクピットから出てきたところだった。その時、ポットから出てきた一人の人物に目がいった。それはまぎれもなく、ヘリオポリスにいたあの少女。
「あっ…。」
それに気付いたとき、キラの懐からトリィが飛び出し、少女の方へ向かっていった。慌ててそれを追いかけたキラに、その少女が気付いて嬉しそうな声をあげた。
「あ、あなた、サイの友達の!」
そう言ってキラに飛びついてきたので、それを受け止めたキラは驚いたように言った。
「フレイ…?本当に、フレイ・アルスター?このポットに乗ってたなんて…。」
キラにすがりついたフレイは、今にも泣きそうな表情をしていた。
「ねぇ、どうしたの、ヘリオポリス。どうしちゃったの?一体何があったの!?」
「!」
「私、私…!フローレンスのお店でジェシカとミーシャにはぐれて一人でシェルターに逃げて、そしたら…!」
「あ…。」
フレイはひどく混乱しているようで、必死にキラに訴えかけていた。が、キラも突然のことに困惑していた。
「これ、ザフトの船なんでしょ?私たちどうなっちゃうの。なんであなたこんな所にいるの!?」
「こ、これは地球軍の船だよ。」
「嘘!だってモビルスーツが…。」
収容されたストライクを指差し、フレイは信じられないといったように言った。
「い、いや、あれも地球軍ので…。」
キラは始終困惑しながらもそう答えた。混乱したフレイを前にして無理もない。だが、彼女を安心させようと必死だった。
「で、でも良かった。ここにはサイもミリアリアもいるんだ。もう大丈夫だから…。」
そう言ってキラはフレイを連れ、皆のいる所へ向かった。


「このような事態になろうとは…。いかがされます。中立国のコロニーを破壊したとなれば、評議会も…。」
「地球軍の新型兵器を製造していたコロニーの、どこが中立だ?」
ザフト軍、ヴェザリウスの艦長アデスも、ヘリオポリスの崩壊に少ながらず動揺しているようであった。が、ラウ・ル・クルーゼは多少苛立ちを含んだ言葉でそれを一蹴した。
「しかし。」
「住民のほとんどは脱出している。さして問題はないさ。」
そういいながらクルーゼはアデスの方を振り向きつぶやいた。
「…血のバレンタインの悲劇に比べれば。」
「!」
と、クルーゼはオペレーターに敵の新造戦艦の位置を掴めるかと問うた。答えは、この状況では無理だと言うことだった。
「まだ追うつもりですか?しかし、こちらにはすでにモビルスーツは…。」
「あるじゃないか。地球軍から奪ったのが4機も。」
アデスの言葉を遮るように、クルーゼはにやりと笑った。
「あれを投入されると?しかし…。」
「データをとればもうかまわんさ。使わせてもらう。宙域図を出してくれ。ガモフにも、索敵範囲を広げるよう打電だ。」

…その頃、艦内の通路を行くアスランは、外を眺め、思わぬ再会をした親友を想っていた。
(キラ…。)


 アークエンジェルの艦内。キラはフレイを連れ、民間人が避難している場所へと案内していた。フレイは友人たちのなかにサイの姿を認め、嬉しそうに抱きついていった。それを見たキラは、複雑な笑みを浮かべていた。

「デコイ用意。発射と同時にアルテミスへの航路修正のためメインエンジンの噴射を行う。後は艦が発見されるのを防ぐため慣性航行へと移行。第2戦闘配備。艦の制御は最短時間内に留めよ。」
ラミアスの指示が各員にとぶ。熱探知を防ぐため、おとりのミサイルを発射しその間に航路修正しようという作戦だった。
「アルテミスまでのサイレント・ランニング、およそ2時間ってとこか。」
相変わらず副操縦席に座っているフラガは、意味深な笑みを浮かべ、ぽつりとつぶやいた。
「…あとは運だな。」


 ヴェザリウスの艦内では、アークエンジェルの行き先を探っている最中だった。
「奴らはヘリオポリスの崩壊に紛れて、すでにこの宙域を…。」
「いや、それはないな。どこかでじっと息を殺しているのだろう。」
そう言って、しばらく宙域図を眺めていたクルーゼは、何が思いついたようにつぶやいた。
「網を張るかな。」
「網、でありますか。」
その言葉に、アデスは話が見えないといった様子で聞き返した。

「三番、デコイ発射。」
戦闘指揮官であるバジルールの声が飛ぶ。それに答え、ミサイルが発射された。

「ヴェザリウスは先行してここで敵艦を待つ。ガモフは索敵を密にしながら追尾させろ。」
「アルテミスへ、でありますか。しかし、それでは月方向に離脱された場合…。」
アデスの言葉に、オペレーターの言葉が重なった。
「大型の熱量感知。解析予想コース、地球スウィングバイにて月面、地球軍大西洋連邦本部!」
「…!」
その報告に、アデスは顔をしかめた。

「メインエンジン噴射!アルテミスへの進路へ航路修正!」
ラミアスの命令と同時にアークエンジェルはエンジンを噴射し、航路修正を行った。その振動をキラたちも感じ、何事かという表情を浮かべていた。


 一方、ヴェザリウスでは。
「隊長!」
「あれはおとりだな。」
「しかし、念のためガモフに確認を…。」
アデスの言葉を再度遮り、クルーゼは命令を飛ばす。
「いや、奴らはアルテミスに向かうようだ。今ので私はいっそう確信した。ヴェザリウス発進だ。ゼルマを呼び出せ。」
 …ヴェザリウスの発進の振動で、ベッドに横になっていたアスランの体が少し宙に浮いた。アスランはふと横を見る。荷物がまとめられた無人のベッド。それは、ヘリオポリスで戦死した仲間のものであろうか。
(ラスティ、ミゲル…っ!)
失ったものを想い、アスランは一人、苦しんでいた。


 アークエンジェルでは、救命ポットに乗っていた避難民の身分証のチェックを行っていた。ラミアスが肩に負傷しているので、医師にあとで診てもらうよう頼んでいる。
居住区の部屋に、キラたちは集まっていた。皆、不安げな表情をしている。
「どこに行くのかな、この船。」
カズイの声に、サイも頷く。
「一度進路変えたよね。まだザフト、いるのかな。」
「この艦と、あのモビルスーツ追ってるんだろ。じゃ、まだ追われてんのかも。」
トールの言葉に、フレイが驚いたような声をあげた。
「えぇ、じゃあ何?これに乗ってる方が危ないって事じゃないの!やだ、ちょっと…。」
その台詞を聞いて、連れてきた本人であるキラは辛そうな表情を見せた。それを見たミリアリアが、フレイをたしなめる。
「壊された救命ポットのほうがましだった?」
「そういうんじゃないけど…。」
とフレイはサイにしがみつきながら言った。キラは一言も発せず考え込んでいる。
「親父たちも無事だよな?」
「避難命令、全土に出てたし、大丈夫だよ。」
カズイの問いに、サイがそう答えたとき、
「キラ・ヤマト!」
そう呼ぶ声が聞こえ、皆はっとして顔を上げた。そこに姿を見せたのはフラガだった。
「マードック軍曹が怒ってるぞ?人手が足りないんだ。自分の機体ぐらい自分で整備しろ、と。」
フラガのその言葉に、キラは慌てて反論した。
「僕の機体!?ちょっと、僕の機体って…。」
「今はそういうことになってるって事だよ。実際、あれにはキミしか乗れないんだから。」
キラの友人たちは、厳しい顔でその会話を聞いていた。一人フレイだけは、状況が飲み込めないといった顔をしていたが。
「そりゃあ、しょうがないと思って二度目も乗りましたよ。でも、僕は軍人でもなんでもないんですから!」
やれやれ、というようにフラガは頭を左右に振り、そしてはっきりと言った。
「いずれまた戦闘が始まった時、今度は乗らずに、そう言いながら死んでくか?」
「…!」
「今、この艦を守れるのは、俺とお前だけなんだぜ。」
その事はキラにも分かっていた。しかし、戦いたくなど無かった。
「でも、僕は…。」
うつむいたキラに、フラガは幾分か諭すような口調で話しかけた。
「キミは出来るだけの力を持っているだろう?なら、出来ることをやれよ。そう時間は無いぞ。悩んでる時間もな。」
そう言うとフラガは部屋を立ち去ろうとした。その背中にサイが質問を投げかける。
「あの、この船はどこに向かってるんですか?」
「ユーラシアの軍事要塞だ。ま、すんなり入れればいいがな、ってとこさ。」
含みのある言い方をして、フラガは去っていった。キラは、その姿を見送りながら苦悩していた。
「僕は…くっ!」
と、突然走り出ていってしまった。トールが呼び止める声にも振り返ることはなかった。
「えっ、何、今のどういう事?あのキラって子、あの…。」
話が見えず困惑するフレイに、サイが静かに言った。
「キミの乗ってきた救命ポット、モビルスーツに運ばれてきた、って言ってたろ。あれを操縦してたの、キラなんだ。」
「え、あの子!?でも、あの、あの子、なんでモビルスーツなんて…。」
事情を知っているトールやミリアリアは、悲しげな表情を浮かべていた。その時、カズイがポツリと言った。
「キラはコーディネイターだからね。」
「えぇ!?」
「カズイ!」
驚くフレイは、一瞬、嫌悪感をあらわにした。トールはなぜ言うのかというようにカズイをたしなめる。だが、サイが落ち着いた表情でフレイの方を向き言った。
「…キラはコーディネイターだ。でも、ザフトじゃない。」
「…うん、私たちの仲間。大事な友達よ。」
ミリアリアも、静かにそう告げた。二人のその言葉に、フレイも、そう…、といって沈黙した。
その頃、キラはストライクの前に一人立ち尽くしていた。さっきのフラガの言葉が頭をよぎる。
(キミは出来るだけの力を持っているだろう?なら、出来ることをやれよ。)
だが、キラはうつむき、ぽつりとつぶやいた。
「モビルスーツを動かせたって、戦争が出来る訳じゃない…。」


「アスラン・ザラ、出頭いたしました。」
「ああ、入りたまえ。」
ヴェザリウス艦内の隊長室。アスランはクルーゼに呼び出され、そこを訪れていた。クルーゼはキーボードを打つ手を休め、アスランのほうへ向き直った。
「ヘリオポリスの崩壊でバタバタしてしまってね。君と話すのが遅れてしまった。」
「はっ。先の戦闘では、申し訳ありませんでした。」
「懲罰を課すつもりはないが、話だけは聞いておきたい。あまりにも君らしからぬ行動だからな。アスラン。」
「…。」 「あの機体が起動したときも君はそばにいたな。」
しばしうつむいていたアスランだったが、意を決したように話し出した。
「申し訳ありません。思いもかけぬことに動揺し、報告が出来ませんでした。あの最後の機体、あれに乗っているのはキラ・ヤマト、月の幼年学校で友人だった、コーディネイターです。」
「ほう…。」
なるほど、といった表情でクルーゼはつぶやいた。
「まさか、あのような場所で再会するとは思わず、どうしても確かめたくて…。」
「そうか…。戦争とは皮肉なものだ。君の動揺も仕方あるまい。仲の良い友人だったのだろう?」
「…はい。」
それを聞いたクルーゼは立ち上がり、アスランの前に立って言った。
「分かった。そういう事なら次の出撃、君は外そう。」
「え!?」
思いもかけぬ言葉に、アスランは動揺したように言った。
「そんな相手に銃は向けられまい。私も君にそんな事はさせたくない。」
「いえ、隊長、それは…。」
「かつての君の友人でも、今敵なら我らは討たねばならない。それは分かってもらえると思うが。」
クルーゼの言葉が胸に刺さる。だが、アスランは諦められなかった。
「キラは、あいつは、ナチュラルにいいように使われているんです。優秀だけどぼーっとして、お人好しだから、その事にも気付いていなくて…。だから私は、説得したいんです!」
必死にキラをかばうアスランを、クルーゼは冷静に眺めていた。
「あいつだってコーディネイターなんだ。こちらの言うことが分からないはずありません!」
「…君の気持ちは分かる。だが、聞き入れないときは?」
そう問われ、アスランははっと顔を上げた。
「その時は…。」
少しの間考えた後、はっきりとアスランは言った。
「その時は、私が討ちます。」



「大型の熱量を感知。戦艦のエンジンと思われます。距離二〇〇、イエロー三三、十七、マーク〇二、シャーリー、進路ゼロシフトゼロ。」
アークエンジェルの艦橋に報告の声が響いた。敵戦艦を察知したとの報告だった。
「横か!?同方向に向かっている!」
フラガの言葉に、ラミアスとバジルールにも緊張が走る。
「気付かれたの!?」
「だが、大分遠い。」
「目標、本艦を追い抜きます。艦特定、ナスカ級です。」
報告と共に宙域図を見たフラガは、ちっ、と舌打ちをした。
「先回りしてこっちの頭を抑えるつもりだぞ。」
「ローラシア級は?」
バジルールの問いにパルが答える。
「待ってください…本艦後方三〇〇に進行する熱源あり。いつの間に…。」
その報告を聞いたラミアスとバジルールは驚き顔を見合わせた。
「このままでは、いずれローラシア級に追いつかれるか、逃げようとエンジンを使えば、あっという間にナスカ級が転進してくるぞ。」
フラガはそう言い、オペレーターに叫んだ。
「おい、二艦のデータと宙域図、こっちに出してくれ。」
「何か策が?」
バジルールに問われたフラガはゆっくりと振り返りこう言った。
「それは、これから考えるんだよ。」


 アークエンジェルの艦内にも、警報が鳴り響いた。
「敵影捕捉、敵影捕捉、第一戦闘配備、軍籍にある者はただちに全員持ち場に着け。軍籍にある者は…。」
「くそぅ、ベッドに入ったばっかだってのに!」
チャンドラ伍長たちも、あわててブリッジへと走っていく。キラの友人たちは民間人と一緒に避難していた。
「ママぁ…。」
「大丈夫よ…。」
「戦闘になるのか、この船。」
「俺たちだって乗ってるってのに…。」
そんな会話の聞こえる中、聞こえてきたアナウンスにミリアリアははっと顔を上げた。
「キラ・ヤマトはブリッジへ。キラ・ヤマトはブリッジへ!」
「…キラ、どうするのかな。」
「あいつが戦ってくれないと、かなり困ったことになるんだろうな。」
ミリアリアの言葉に、サイもそうつぶやき、考え込んだ。その時、ミリアリアが口を開いた。
「ねえ、トール、私たちだけこんな所で、いつもキラに頼って、守ってもらって…。」
「出来るだけの力を持っているなら、出来ることをやれ、か…。」
トールはそう言うと、意を決したようにサイとカズイの方を見た。そして二人も小さく頷き、四人はブリッジへと向かった。


「艦長、民間人が艦長と話したいと言ってきているのですが。」
「今は取り込み中だ。文句なら後で聞いてやる、おとなしくしてろと言ってやれ!」
バジルールが怒ったようにそう言ったが、意外な答えが返ってきた。
「いえ、その、ヘリオポリスから一緒だった学生たちが、自分たちも艦の仕事を手伝いたいと言ってきているのですが…。」
「え?」
それを聞いたラミアスは、意外そうに目を見張った。


沈んだ顔で通路を進んでいたキラは、友人たちの姿を認め、軽い驚きの声を上げた。
「みんな…。」
「よっ、キラ。」
「何、どうしたの?その格好。」
そう、彼らは軍服を着ていた。キラが驚くのも無理はないだろう。
「俺たちも艦の仕事を手伝おうと思って。人手不足なんだろ?」
「ブリッジに入るんなら軍服着ろってさ。」
サイとカズイがそれぞれにそう答えた。
「軍服はザフトの方がかっこいいよな。階級章もないから、なんかマヌケ。」
「なまいき言うなよ、お前ら。」
そう言ったトールに、チャンドラがたしなめるように言った。それを聞いたキラは、自分の中に心境の変化を感じていた。
「お前にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな。」
「こういう状況なんだもの。私たちだって、出来ることをしたい。」
トールとミリアリアにそう言われ、キラもかすかに微笑んだ。
「あ、そうそう、お前もまた出撃するんなら今度はちゃんとパイロットスーツを着ろよ。」
チャンドラにそう言われ、キラは場所を聞き部屋へと向かった。


 更衣室で、パイロットスーツを着ていると、フラガがそこにやってきた。彼もすでにパイロットスーツを着込んでいる。
「ほう?やっとやる気になったって事か、その格好は。」
「大尉が言ったんでしょ。今この艦を守れるのは僕とあなただけだって。戦いたいわけじゃないけど、僕はこの船だけは守りたい。みんな乗ってるんですから。」
「俺たちだってそうさ。意味も無く戦いたがるやつなんざ、そうはいない。…戦わなきゃ、守れねぇから、戦うんだ。」
真剣な顔でそういったフラガに、キラもこっくりと頷いた。それに満足したのか、にっこりと笑ってフラガはキラの肩をたたいた。
「ようし、それじゃ作戦を説明するぞ。」


…格納庫のメビウス<ゼロ>の前、フラガはキラに声を掛けた。
「とにかく、艦と自分を守ることだけを考えるんだぞ。」
そう言うとフラガはゼロに乗り込んでいった。
「はい、大尉もお気をつけて。」
キラもそう言い、ストライクへと向かっていった。しかし、やはり気になることがあった。
(アスラン…。やっぱりキミも来るのか、この船を沈めに…。)


「メビウス零式、フラガ機、リニアカタパルトへ!」
バジルールの声が響く。ゼロはカタパルトへと運ばれ、発進準備が進んでいった。そして…。
「ムウ・ラ・フラガ出る!…戻ってくるまで沈むなよ!」
その言葉とともに、フラガは出撃していった。そしてストライクも、カタパルトに接続を始めている。
(大尉が隠密潜航して前の敵を討つ。その間、僕は後方の敵から艦を守る。うまくいくのかな…?)
と、そこに、聞きなれた声が聞こえてきた。
「キラ!」
「ミリアリア!」
「以後、私がモビルスーツおよびモビルアーマーの戦闘管制となります。よろしくね♪」
明るい声でそう言ったミリアリアと、よろしくお願いします、だよ、と後ろで言う声が、今のキラには嬉しかった。
 そして、接続が終わり、装備の換装が始まった。そこにバジルールの通信が入る。
「装備はエールストライカーだ。アークエンジェルがふかしたら、あっという間に敵がくるぞ、いいな。」
「はい!」


 …そして、その時はきた。ラミアスの声が響く。
「エンジン噴射。同時に特装砲発射。目標、前方ナスカ級!」
「ローエングリン、撃て!」
前方のナスカ級、ヴェザリウスも、それを感知していた。
「前方より熱源接近、その後方に大型の熱量感知、戦艦です!」
それを受けアデスは指示を飛ばした。
「回避行動を!」
「こちらに気付いて慌てて撃ってきた、か。」
クルーゼは冷ややかにそうつぶやいた。その一方、フラガはローエングリンの光を横目に見ながら、ヴェザリウスへ進みつつあった。


「熱源感知、敵戦艦と推測!」
後方ローラシア級、ガモフもそれを感知し、モビルスーツ隊が出撃していった。ヴェザリウスからも、アスランが出撃しようとしている。
「先の言葉、信じるぞ、アスラン・ザラ。」
クルーゼの言葉に、はい、と返事を返しアスランは出撃していった。


「前方、ナスカ級よりモビルスーツ発進、機影1です。」
「艦長!」
「お願い。」
バジルールの声にラミアスが答え、CICにも緊張が走った。
「キラ・ヤマト、ストライク発進だ。」
その声に、ミリアリアが答える。
「キラ!」
「…了解!」
ストライクの中で、キラは答えた。緊張が一気に高まる。そんな中、フラガの台詞が脳裏をよぎる。
(今この艦を守れるのは、俺とお前だけなんだぜ。)
そして、守るべき友人たちの姿が思い浮かぶ。キラが顔を上げたその時、カタパルトが発進の合図を告げた。決意を胸にキラは叫んだ。
「キラ・ヤマト、ガンダム、行きます!」
ストライクはカタパルトを走り、宇宙へと飛び出していった…。






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