夢の終わり

―― 叶わない、夢を見ていた ――

 いつだったかももう忘れてしまったけれど、突然、そんな思いが脳裏をよぎった。所詮は叶わぬ夢なのだと。
そう…もう、還れはしないだろう。かつて夢見た、光の中の世界。諦めてしまった今では、夢見たことさえ忘れてしまったのに――


「…オルガ?なにぼーっとしてんの?」
目の前に写るモニターから、相変わらずのおっとりした口調の声が聞こえ、オルガは我に帰った。
「シャニか…何でもねぇよ。」
「ふぅん、ま、別にどうでもいいけど。」
「ぼーっとしたまま出撃して、こっちに迷惑かけないでよね。」
もう一方のモニターに、からかう調子で赤い髪の少年が割り込んでくる。
「うっせえな、クロト。その言葉、そっくりそのままお前に返すぜ。」
「なんだと…」
反論しかけたクロトの言葉を遮って、オルガは通信を切った。そして再び考え込む。

――何故、今さらこんな事思い出したんだ?

もう、とっくに忘れてしまっていたはずだった。いつかはまた元いた世界に還れるだろうと信じていたこと。それは無理だと思い知って、諦めたこと。そう夢見たことすら、忘れようとしたこと。
「クソッ…。」
唐突に浮かんだ考えを振り払うかのように、頭を振り、宙を見上げた。そろそろ出撃の指示が入る頃だろう。オルガはただひたすら、その指示を待った。そしてその時が来る。
『出撃用意。X−131、カタパルトへ前進せよ。』

 戦場は、相変わらず入り乱れていた。地球連合とザフト、そして第三の勢力であるAA、エターナル、クサナギと、それぞれのMS。オルガたちとドミニオンは、AAを相手に戦闘に入る。
初めて対峙したときから、フリーダムとジャスティスにはてこずってばかりだった。
「今日こそは落としてやる…!」
その言葉とともに、オルガは第一撃を二機に向けて放つ。今までどおりの始まりだった。だが、その瞬間は唐突に訪れる。

「…!」
シャニの駆るフォビドゥンが、敵機に貫かれ、光の塊と化した。オルガは一瞬、その眩しさに目を細める。その光が薄れていくにつれて、だんだんと、心の中に渦巻いていく『何か』を感じ、オルガはこらえきれずコクピットの中で叫んだ。
「シャニ――!」
その碧い瞳に、枯れたはずの涙を浮かべて。
「お前ら…許さねぇ!」
怒りに震え、オルガはカラミティを駆り敵機に向かっていく。特に仲の良かった訳でもなかった。どちらかと言うと悪口ばかり言い合っていた。それなのに、失ったと自覚するにつれ、怒りと…悲しみが湧いてくるのが分かった。感情なんて、とうの昔に無くしてしまったと思っていたのに。一緒にいた時間は、確かに彼の中にその存在を残していた…。

そして、死神は、彼の前にも舞い降りる。

――『予感』なんて、信じていなかった。だが、それが確かに存在するのだということを、身を持って思い知ることになるなんて、思っても見なかったな。

 オルガはそんなことを考えながら、視界に広がっていく白い光を、ただ静かに見守った ――


――END




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