――もう、何も聞こえない。

「なんなんだよ、お前ら!」
…もう幾度もなく戦ってきた相手に、クロトは叫んだ。桁外れの強さの赤いMS。
しかも何やら妙なものを装着していて、それを使って核を落としていく。
あのオッサン、悔しがってんだろうな、とそんなことすら考えていたとき、こっちに向かってきた。その様子が何だかとても必死に見えて。
「何そんなに必死になってんだよ!」
自分には理解出来なかった。何かに必死になることなんて、今までなかったから。だが、返ってきた言葉は、クロトを困惑させる。
『お前たちこそ、何のために戦っているんだ!?』

――何のため?自分が戦う理由?…そんなの、もう、思い出せない。

 かつては、あったのかも知れない。
でも、訓練を重ねていくたび、体を蝕まれていくたび、何もかもがどうでも良くなっていって。
忘れてしまった、無くしてしまった想いは、もう、取り戻せなくなっていた。
「やらなきゃやられる、そんだけだろ!」
今はもう、それだけだった。戦わなければ、どのみち処分されてしまう身なのだから。戦うからにはやらなければやられてしまう。死ぬのだけはゴメンだ、そう思っていた。

『うああっ!』
突如、聞こえてきたシャニの叫びとともに、閃光が見えた。モニターからは、フォビドゥンの識別信号が消える。
「…シャニ?」
まさか、そんな。一瞬言葉を失ったクロトの耳に、オルガの叫び声が聞こえてきた。
『シャニ――!くそっ!』
落とされた?シャニが?信じられない思いで、それでも敵機を落としながらクロトは光の方へとレイダーを飛ばした。
戦場はもう両軍入り乱れていて、誰がシャニを落としたかなんてわからなかったけれど。
その時ふと、クロトは自分の行動に疑問を感じ首を傾げる。
(僕は一体何してるんだ?シャニを落としたやつ探してるなんて…。)
仇でも討とうとしているような自分の行動に、クロトはまたも首を傾げる。
うざい奴、そう思っていたはずだった。死んだって別に、悲しむような仲でもなかった、それなのに。

 一人憮然としたその時、またもスピーカーが悲鳴を上げた。
『うわあぁ!』
オルガの叫び、そして…白い閃光がモニターを支配する。先程と同様にカラミティの識別信号が消えた。残された信号は、ドミニオンとそして、自分のみ。
「オルガまで…?」
閃光が消え、再び闇の戻ったコクピットで、言い知れぬ思いが込み上げてくるのを感じてクロトは思わず叫んでいた。
「…お前ら、二人して何やってんだよ、バーカ!」
明るい調子の声とは裏腹に、その瞳からは、涙がこぼれていた。

――うるさいくらいに聞こえていた、ケンカみたいなやりとりもアイツらの声も、今はもう、聞こえては来ない。
自らの叫びが虚しく響くだけ。そんな自分の声すらももう、小さくなっていく…。

 薬の副作用に苦しみながら、遠のく意識の中で、敵機から放たれた光が視界に広がる。

――お前こそ何やってんだって、またアイツらにバカにされるかなぁ?

迫りくる光を前に、クロトはぼんやりとそんなことを考えていた。その時ふと、

 『何やってんだよ、この馬鹿。』
 『…同感。』


そんな声が、聞こえた、気がした。



――END





コンテンツ

PAGE TOP