PHASE-02 ノベライズ

PHASE-02 その名はガンダム →PHASE-03





 「・・・アスラン?」
 「っ!・・・キラ・・・・・・!」
 2人にとって、長い時が流れたようだった。
 けれど、一瞬アスランの気が逸れたすきに、ラミアスは手にした銃を向け、引き金を引いた。
 間一髪、それから逃れる。
 「くっ!」
 「うわっ」
 そのまま、ラミアスは自分を支えていた少年ごと近くの機体のコクピットに乗り込んだ。
 「シートの、後ろに!」
 1人乗りのコクピットの後部にキラを乗せ、自分は椅子に座した。
 そして、ずらりと並んだ操作キーを見やる。
 「この機体だけでも、私にだって、動かすくらい・・・・・・」
 起動ボタンを押すと、表示パネルに次々と画像が浮かび上がった。
 左パネルに映る外の状況を見ながら、キラは先ほどの光景を思い出していた。
 襲ってきたザフト軍の少年、そして、・・・見間違うべくもない懐かしい顔。
 「・・・アスラン?・・・いや、そんな、まさか・・・・・・」
 キラがもの思いにふける間に、次々と機体の各所が目を覚ましていく。
 正面下のコンソールパネルに、覚えのない言葉が浮かび上がった。

 General、
 Unilateral、
 Neuro-Link、
 Dispersive、
 Autonomic、
 Maneuver。

 「ガン・・・・・・ダム?」
 ガンダム。それが、この地球軍新型機動兵器の名前だった。
 動き出す灰色の機体。
 目に光を宿したそれは、ラミアスの操作に合わせ身を起こしていく。
 先ほどの襲撃により燃え上がる炎の中で、ガンダムは悠然と立ち上がったのだった。




PHASE−02 その名はガンダム




 「・・・ヘリオポリス全土に、LV8の避難命令が発令されました。住民は、すみやかに、最寄の退避センターに避難してください」
 ヘリオポリスは、ひどい有り様だった。
 特に工場区周辺の地区―モルゲンレートでは、今だザフト軍の襲撃により、逃げ惑う人々の悲鳴で溢れている。
 工場区地下にある退避センターに向かおうとしたサイたちは、しかしその場所が爆発するのを目の前で目撃した。
 「ああっ・・・」
 「まだいたのか・・・!」
 周りの住民達が呟く。煙の中から現れたのは2体のMS(モビルスーツ)だった。
 ザフト軍MS「ジン」の傍に着地したそれの一機に、ジンの搭乗者ミゲルはすぐに通信を入れた。
 「アスラン!」
 「ラスティは失敗だ」
 「なに?!」
 「向こうの機体には、地球軍の仕官が乗っている」
 その言葉にもう一機の方を見やると、操作もおぼつかない様子でその場から逃れようとしている。
 足元にいた住民たちは、その動きに脅えながらもそのMSに釘付けになっていた。
 必死の思いで格納庫からガンダムを脱出させたラミアスは、次にレーダーで敵機の位置確認をすると共に、各部に設置されているカメラで地上の様子を映し出した。
 その中で、キラは研究室から地下へ避難しようとしていたはずのカレッジの同級生たちを見つける。
 「ああっ・・・サイ!トール!カズイ!!」
 その声にラミアスが一瞬意識を向ける。
 途端、敵MSから銃弾が浴びせられ、衝撃に2人は苦悶の声を上げた。
 「ちっ・・・ならあの機体は俺が捕獲する。お前はそいつを持って、先に離脱しろ」
 ミゲルの言葉に、アスランは躊躇する。
 視線は、あの自分らが奪取し損ねたガンダムの方に向けられていた。
 「っ・・・キラ・・・あれは違う、あいつがあんな所にいるはずが・・・・・・」
 そう思ってはいたが、自分の中のどこかがキラ本人だと告げていた。
 アスランは、回線を開き、ヘリオポリスの住民の中から彼のデータを探そうとしていた。
 その間も、ミゲルによるガンダムへの爆撃は続けられていた。
 度重なる衝撃に、コクピットは大きく揺れる。
 後にいたはずのキラは、激しい揺れにバランスを失い、座るラミアスへと倒れ込んでしまった。
 「うぐっ・・・」
 「下がっていなさい!死にたいの?!」
 「す、すみません!」
 あわてて身を起こそうと体を捩る。
 その時、正面パネルに、ジンが自分の方に突っ込んでくる像が映った。
 「うわああっ!」
 「くっ・・・・・」
 ラミアスが必死でボタンに手を伸ばす。
 迫り来るジンのサーべルが振り降ろされる直前に、ガンダムは灰色だった機体を一変させた。
 すなわち、白と青と赤に彩どられた機体に。
 そして、ジンのサーベルは、ガンダムのその装甲によって受け取められてしまった。
 「何ィー?!!」
 ミゲルが叫ぶ。しかし、驚いたのは彼だけではなかった。
 火花を散らして受け止めるその様を、キラもまたモニタで見ていた。
 「・・・このモビルスーツ・・・・・・」
 「こいつっ!どうなってる!こいつの装甲は!!」
 ジンのサーベルが効かなかったことで動揺したミゲルは、いまだ残っていたアスランに通信を入れた。
 すぐに冷静な彼の声が降ってくる。
 「・・・そいつらは『フェイズ・シフト』の装甲を持つんだ。展開されたら、ジンのサーべルなど通用しない」
 そしてアスランもまた、自機のフェイズ・シフトを作動させる。
 灰色だった機体は、こちらは全体がえんじ色に染まっていた。
 地球軍の戦車に頭部のバルカンを放つ。 ガンダム以外に敵がいないことを確認すると、ミゲルはアスランに告げた。
 「お前は早く離脱しろ。いつまでもうろうろするな!」
 その言葉に、アスランは一瞬キラの乗っているはずのガンダムを見やる。
 脳裏に浮かんだ友人の姿を打ち消して、戦線から離脱するべく中空へと舞い上がった。
 すかさず、ミゲルは地球軍のガンダムに攻撃を仕掛けた。
 「なっ!」
 驚く間もなく響く銃声。
 ガンダムは、満足に動けないままその銃弾を逃れた。
 「ああっ・・・これって、まだ・・・・・・」
 完全に起動されていないのでは、と思うキラは、けれど今はジンの攻撃に翻弄されていた。
 「フンッ!いくら装甲が良かろうが!!」
 ミゲルはサーべルを構えると、ガンダムに急接近してきた。
 バーニアを噴射させ、真正面に迫り来る。
 「はっ、・・・うわああああっ!!」
 突然の攻撃に為すすべもなく、ガンダムはよろめいた。
 すかさず攻撃を仕掛けてくるジン。
 「そんな動きで!!」
 まともに動けない機動兵器を罵倒して、サーベルを肩に叩き込む。
 倒れたガンダムの巨体は、まだ被害のなかった民家を破壊してしまっていた。
 「くああああっ!」
 その衝撃で、コクピットの中も荒れていた。
 痛む体を起こすキラは、モニターに映る逃げ惑う住民たちを目にした。
 その中で、自分の友人達が脅えながらも逃げていく様子を目の当たりにする。
 「・・・生意気なんだよ、ナチュラルがモビルスーツなど!!」
 ミゲルがサーべルをガンダムに向け、コクピットめがけて突き出す。
 その瞬間、死の恐怖と共に自分の乗る機体の背後にいる友人達がキラの頭に浮かんだ。
 やられてばかりでは、いられるはずもなかった。
 「くっ・・・!!」
 キラはラミアスの後ろから手を伸ばすと、サイドボタンを操作した。
 そして、スロットルレバーを引き倒す。
 ミゲルのサーべルはガンダムの肩すれすれをかすり、そのままタックルをかけられて、ジンは後方に倒れ込んだ。
 「ぐああああっ!」
 その様子に、ラミアスは驚いてキラを見た。
 「君・・・・・・!」
 「ここには、まだ人がいるんです!こんなものに乗ってるんだったら、なんとかして下さいよ!!」
 キラはそういいながら、横から初めて扱うはずのモビルスーツの操作をし始めていた。
 「く・・・・・・っ!」
 突然の反撃をくらったミゲルは、ぎりぎりと唇を噛み締めた。
 渾身の力で、自機の身を起こす。
 その間に、キラは操作特性を知るためにガンダムのデータを引き出していた。
 あまりに古く単純な型のOSに、思わず顔をしかめる。
 「・・・ムチャクチャだ、こんなOSで、これだけの機体を動かそうなんて・・・!」
 「・・・まだ終ってないのよ、仕方ないでしょ!?」
 ラミアスは叫んだが、地球軍の単純な型のOSを指摘されたことで、動揺していた。
 何が終わっていないのか、終わっていないはずがない。
 今日この日、まさに地球軍のパイロットの手によって戦闘に投入されるはずだったのだから。
 「・・・どいて下さい。早く!!」
 「え、ええ」
 キラの気迫に気圧され、ラミアスは操縦席を彼に譲った。
 途端、キーボードを出して恐ろしいスピードで操作をし始める。
 (・・・この子・・・!)
 ラミアスがそう思った瞬間、目の前でジンが立ち上がって迫って来た。
 それをバルカンで威嚇する。
 「何?!」
 先ほどまでされるがままだったはずのガンダムが攻撃してきたことに戸惑いを覚えたミゲルは、それでもサーべルを振り上げた。
 ちょうど空いたMSの胸元に、ガンダムの拳が叩き込まれる。
 「な・・・・・・っ!!」
 弾き飛ばされたミゲルは、そのまま背後のビルに叩きつけられた。
 (・・・・・・ゼロモーメントコンテナ、CPC再設定、・・・・・・)
 その間にも、キラはガンダムの単純化されたOSをものすごい勢いで書き替えていた。
 「なんなんだ、あいつ・・・・・・急に動きが・・・」
 ミゲルは驚きながらも、持っていたサーべルをしまい、代わりにライフルを構えた。
 ガンダムを狙い、連射する。
 攻撃をくらいながらも、確実に起動されたそれは、キラの操作によってバーニアを噴射させ、中空へと飛び立った。
 それを追いかけ、ジンも空中へと舞い上がる。
 キラは、反撃しようと武器データを呼び出した。
 「武器・・・、あとは、アーマーシュナイダー・・・・・・、これだけかっ!」
 気合を入れるように叫ぶと、胴の両側に装備していたナイフを取り出した。
 両腕に握らせ、そのまま地上へと降りる。
 「・・・・・くっそぉ、ちょろちょろと!!」
 つられて地に足をついたジンめがけて、ガンダムは突進していった。
 「・・・こんな所で!」
 キラは叫ぶと、なお銃を放つジンに向かう。
 「・・・やめろぉっ!!!」
 2本のナイフは見事に敵モビルスーツの急所を貫き、ジンは動きを止めてしまった。
 「ハイドロ応答なし、左舷浮動システム停止!ええい!!」
 ミゲルは口惜しそうに唇を噛むと、横にある緊急用ハンドルを引き、モビルスーツの後部から離脱した。
 それを見たラミアスが、はっと息を飲む。
 「まずいわ!ジンから離れて!!」
 「えっ?」
 キラが問い返したその時、ガンダムの前でジンが爆発した。
 閃光を放ったそれは、側にある機体までも吹き飛ばした。
 「うわあああっ!!」
 ミゲルの最後の攻撃によって、ガンダムは激しいダメージを受けたのだった。







 モルゲンレートの地下深く。
 そこには、ザフトによって仕掛けられた爆弾のために大ダメージを受けた艦が眠っていた。
 アークエンジェルである。
 爆撃で、艦内のみならず、アークエンジェルのいる地下基地にいた仕官たちは、ほんとどがむなしくも戦死してしまっていた。
 その中で爆発が起こった時アークエンジェルにいたナタル・バジルール少尉は、無重力の中、気を失って漂っていた。
 死んだ仕官の体が、空気の流れに運ばれてナタルにぶつかる。
 それによって、ナタルは目を覚ました。
 「うっ・・・・・・」
 衝撃で今だフラつく頭に顔をしかめながら、側の仕官を見る。
 それが死んでいるとわかると、一気に今までの状況が蘇ってきた。
 「はっ・・・船・・・・・・アークエンジェルは?!」
 周りを見渡すと、死んだ仕官たち、そして破片が飛び交っている。
 その様子に唇を噛むと、ナタルは生き残った者を探すべく奥へと進んだのだった。







 一方、フラガ達のいる宇宙空間では。
 ザフトのMS「ジン」2機によって、輸送艦が攻撃されていた。
 輸送艦には、G・・・つまりガンダムのパイロットになるはずの少年達が乗っている。
 その護衛、という任を果たすため、フラガはメビウス<ゼロ>で2機に対抗していた。
 けれど、いかなフラガといえども、2対1は分が悪い。
 ついに輸送艦の中枢が破壊され、艦の操縦者は叫び声を上げた。
 「操舵不能ー!!!」
 「うわあああ!!」
 眼前に、恐怖が迫ってくる。
 コロニーの外壁に正面衝突した輸送艦は、あっけなく爆発していった。
 「ちっ・・・この戦力差では・・・、どうにもならんか・・・!」
 輸送艦の爆発を見ていたフラガは、唇を噛んでそう言った。
 次に自機を狙ってくるMSを、やっとのことでガンバレルで破壊していく。
 その様を、ザフトが察していた。
 「オロール機、大破!緊急帰搭、消火斑、Bデッキへ!」
 管制の声に、アデスは目を見開いた。
 「オロールが大破だと?こんな戦闘で・・・」
 「どうやらいささかうるさい蝿が1匹、飛んでいるようだぞ」
 「はっ?」
 クルーゼの言った意味がわかったのかわからなかったのか、アデスが彼の方を見やった。
 すぐに、管制が告げる。
 「ミゲル・アイマンよりのレーザービーコンを受信、・・・エマージェンシーです!」
 「・・・ミゲルが機体を失うほどに動いているとなれば・・・、最後の一機、そのままにはしておけん」
 クルーゼは、指揮官席を立つと、ブリッジを出る。
 そして、自ら出撃するべく、格納庫へと向かったのだった。







 コロニーの地下基地。
 ナタルは、アークエンジェルの中で、なおも人を探していた。
 「誰か、誰かいないのか?!」
 見れば見るほど、死体と爆風で飛ばされた破片が宙に舞っている。
 ナタルは唇を噛み、ザフトへの憎しみを露わにしていた。
 「くそおっ!!・・・生き残ったものは?!!」
 より大きな声を、艦の中に響かせる。
 すると、爆発のせいで塞がれていたドアを叩く音が聞こえ、ナタルははっとそちらのほうを向いた。
 ドアを爆破して入ってきた彼は、自分の部下の一人だった。
 「・・・バジルール少尉!!ご無事で!!」





 「・・・引き上げる!!」
 レーダーに映る敵影がなくなったことで、フラガは一旦は引き上げようと自機を方向転換させた。
 しかし、背後から、何やら気配を感じる。
 「だが、まだなにか・・・・・・これはっ?!」
 索敵範囲を広げたレーダーに、一直線に向かってくる機影が映った。
 そのスピードは、明らかに今まで戦っていたジンの比ではない。
 フラガはメビウスの出力を最大に上げると、迫る敵機に対抗すべくそちらへと向かった。
 迫る敵機・・・それは、ザフトの指揮官専用MS、「シグー」。
 先ほど出撃したクルーゼが、搭乗していた。
 フラガの乗るメビウス、そしてその背後のヘリオポリスへと走らせる。
 メビウスをレーダーで見つけた時、クルーゼは口の端を持ち上げた。
 「・・・私がお前を感じるように、お前も私を感じるのか。不幸な宿縁だな。ムウ・ラ・フラガ」
 クルーゼの駆るシグーは、恐ろしい速さでヘリオポリスへと進んでいた。







 「う・・・っああ・・・」
 一旦は戦いの終わったヘリオポリスで、ベンチに横たえられていたラミアスが目を覚ましていた。
 「・・・気が付きました?キラ!!」
 少女の声が、キラを呼ぶ。
 状況がわからず身を起こしたラミアスは、肩に受けた銃弾の痛みに顔をしかめた。
 「うっ・・・っ!」
 「あぁ、まだ動かない方がいいですよ。」
 キラに言われて、ラミアスはほっと息をつく。自分とキラが、そして機体が無事だったことに、彼女は安堵していた。
 「・・・すいませんでした」
 キラの言葉に、ラミアスがえっと顔を向ける。
 「・・・なんか僕、むちゃくちゃやっちゃって」
 「お水、入ります?」
 先ほどの少女が横から水を差し出してくる。ラミアスはそれを受け取り、ため息をついた。
 「・・・ありがとう」
 飲もうとして痛みに強張る体を支えてやる。
 ひとときの休息に身を委ねていた彼女は、とある少年の声にはっとした。
 「・・・すげぇなぁ、ガンダム、っての!」
 「動く?動かないのかぁ?」
 トールとカズイだ。ガンダムの開け放たれたコクピットを覗き込み、珍しそうに見ている。
 サイは2人のその様子に、声を荒げた。
 「おいお前ら!あんまりいじるなって!!」
 しかし、2人は全く聞いてないそぶりで、ガンダムを観察している。
 「なんでまた、灰色になったんだ?」
 「メインバッテリーが、切れたんだとさ」
 「・・・その機体から、離れなさい!!」
 ラミアスは叫ぶと、それだけで足りないと思ったのか銃口を空に向けて撃った。
 「うわっ?!」
 その音に驚いて、2人があわてて機体から飛びおりる。
 ラミアスは痛む肩を押して立ち上がると、2人に向かって歩き出した。
 「・・・なにをするんです、やめてください!・・彼らなんですよ、気絶していた貴方を降ろしてくれたのは!!」
 キラがあわてて止めに入るが、ラミアスはその彼にまで銃口を向ける。
 そこにいた少年たち5人は、不安げな顔でラミアスを見ていた。
 「助けてもらったことは、感謝します。でもあれは、軍の重要機密よ。民間人がむやみに触れていいものではないわ」
 「・・・・・・なんだよ、さっき操縦してたのはキラじゃんか」
 ぼそりと言った声を聞きとがめ、少年に銃口を向ける。
 それに怯えて、トールは黙った。
 「みんな、こっちへ」
 ラミアスの前に、5人を整列させる。
 あらためて銃口を向けると、一人一人をゆっくりと見やった。
 「一人つづ名前を」
 「・・・サイ・アーガイル」
 「カズイ・バスカーク」
 「トール・ケーニッヒ」
 「・・・ミリアリア・ハウ」
 「っ・・・、・・・キラ・ヤマト」
 5人がいい終えると、ラミアスは5人を見据えて告げた。
 「私は、マリュー・ラミアス。地球連合軍の将校です。申し訳ないけど、あなた達をこのまま解散させるわけには行かなくなりました」
 「ええっ?!」
 ラミアスの言葉に、4人が驚きの声を上げる。
 「事情はどうあれ、軍の重要機密を見てしまったあなた方は、しかるべきところと連絡が取れ、処置が決定するまで、私と行動を共にしていただかざるを得ません。」
 「・・・そんな!」
 「冗談じゃねぇよ!なんだよそりゃあ!!」
 「したがってもらいます!」
 不平を漏らす少年達に強い調子で告げる。
 なおも向けられる銃口に、満足な抵抗もできずに彼らは押し黙った。
 「・・・僕達は、ヘリオポリスの民間人ですよ?!中立です!!軍とか何とかそんなの、なんの関係もないんです!!」
 「・・・そうだよ!だいたい、なんで地球軍がヘリオポリスにいるわけさ!!そっからしておかしいじゃねぇかよ・・・!」
 少年達は無論のことだが、ヘリオポリスのほとんどの住民は、自分達の住む場所が地球軍の秘密基地になっていることなど知らない。
 だからこそ、必死に中立であることを訴えていた。
 「そうだよ、だからこんなことになったんだろ?!」
 その言葉に、ラミアスは銃を空に放った。
 銃弾の音に、5人は身を竦ませる。
 もう一度5人に銃を向けると、ラミアスは睨んだ。
 「・・・黙りなさい!・・・何も知らない子供が、中立だと、関係ないといってさえいれば、いつまでもまだ無関係でいられる、・・・まさか本当にそう思っているわけじゃないでしょう?」
 一人一人を見据えて言う。黙りこくった彼らは、それでも不満げな顔をしていた。
 「ここに、地球軍の重要機密があり・・・、あなた達はそれを見た、・・・それが今のあなた達の現実です」
 「・・・・・・そんな乱暴な」
 「・・・乱暴でもなんでも、戦争をしているんです。プラントと地球、コーディネーターとナチュラル。・・・あなた方の外の世界はね・・・・・・」
 そういってうつむくラミアスは、いささか疲れているようで、少年達は何も返せなかった。
 中立国ヘリオポリス。彼らの考える唯一の平和な場所は、この一言で崩れ去ったのだった。









 レーダーに映る機影。
 その銃口が自分の方に向くのを寸でのところで察して、フラガはそれをかわした。
 自機のガンバレルの攻撃をすり抜け、眼前に迫る白い機体の搭乗者は、自分のよく知るあの男に他ならない。
 「貴様・・・、ラウ・ル・クルーゼか!!」
 歯を食いしばって、操縦桿を操作させる。
 立て続けに放たれる攻撃をかわし、その合間にシグーを狙う彼は、地球軍の中でも最高の腕の持ち主だった。
 「・・・お前はいつでも邪魔だなムウ・ラ・フラガ!・・最も、お前にも私がご同様かな!」
 正面パネルに映るメビウスに、クルーゼは叫ぶ。
 いつでも自分の前に立ちはだかる彼を叩き伏せるべく、クルーゼもまたMSを操縦させた。
 フラガの攻撃を縫って、ヘリオポリスへと侵入する。
 奪取しそこねた一機を沈める為に、クルーゼは早々と中に消えていった。
 「っ・・・、ヘリオポリスの中に・・・!!」
 フラガは彼の意図を直観的に察すると、自分もまた彼を追いかけてヘリオポリスへと向かったのだった。







 「・・・無事だったのは、爆発のとき、艦にいましたほんの数名だけです・・・。ほとんどが、工員ですが」
 ノイマン曹長の言葉に、ナタルもため息をついた。
 「・・・状況は?ザフト艦はどうなってる?」
 「・・・わかりません、私どももまだ・・・、周辺の確認をするのが精一杯で・・・」
 ナタルはアークエンジェルのブリッジに入ると、起動ボタンを操作した。
 数秒後、コンピュータの起動する音と共にパネルが光を放つ。
 「さすがはアークエンジェルだな・・・これしきのことで、沈みはしないか・・・・・・」
 安堵するように呟く。
 「・・・しかし、港口側は、瓦礫が密集してしまっています。完全に、・・・閉じ込められました」
 ノイマン曹長の言葉を聞きながら、アークエンジェルの管制部を操作する。
 モルゲンレートと連絡を取ろうとして通信回線を開いたナタルは、いまだザフトによって妨害電波が出されていることに気付いた。もしアークエンジェルを破壊するための目的ならば、もう妨害電波は出さなくともいいはずだ。
 「っ・・・まだ通信妨害されている・・・・・・?では、こちらは陽動?・・・ザフトの狙いは、モルゲンレートということか!!」
 それに気付いたナタルは、自分がボヤボヤしていたことを悔いた。
 「くそおっ!!モルゲンレートは?!Gは・・・どうなったのだ!これでは、何もわからん・・・っ!!」
 その時、激しい妨害電波の中、微弱な電波が通信を入れていることに気付いた。
 『・・・こち・・、・・・105、スト・・・・・・、地球軍、応答ね・・・い・・す!』
 「こちら、X−105、ストライク、地球軍、応答願います!地球軍、応答願います!!」
 キラは、ストライク―最後のガンダムの通信機で、埋もれているはずのアークエンジェルの通信を入れていた。
 しかし、激しい妨害電波のために、まともに通信はできない。
 何度も呼びかけていた彼は、疲れたようにため息をついた。
 地表では、ラミアスの指示に合わせてストライクの装備を始めている。
 トラックが目の前で止まり、ストライクの部品や物資を運んできていた。
 「・・・ナンバー5のトレーラー、あれでいいんですよね?」
 いささか不満の残る声で、サイはラミアスに確認を取った。
 それに気付かないようにして、ラミアスは頷く。
 「ええ・・・そう。ありがとう」
 「それで?このあと、僕達は何をすればいいんです」
 「・・・ストライクアパックを。そしたら、キラ君、もう一回通信をやってみて。」
 「はい・・・」
 現状では、アークエンジェルと交信せねばならない。
 ラミアスは体を休めるように背を預けると、地球軍の機密艦が沈んでいないのを祈っていた。









 一方、フラガとクルーゼは、一歩も譲らず、攻撃を仕掛けていた。
 ヘリオポリスへの通路は、いささか戦いをするには狭い。
 けれど、なんとしてもクルーゼをヘリオポリスへと行かせないようにと、フラガは必死に攻撃を続けていた。
 「くっ・・・こんな所で!!」
 匠みに4機のガンバレルを操作しシグーを狙うが、掠めるだけで当たることはない。
 その状況に唇を噛んで、フラガはガンバレルを自機に戻した。
 ゼロに搭載しているレーザー砲の照準をシグーに合わせる。
 「・・・ちっ・・・」
 けれど、すぐに照準から外れるシグーに、フラガは舌打ちした。
 「・・・この辺で消えてくれると嬉しいんだがね」
 呟いて、クルーゼは目障りなガンバレルを蜂の巣にする。
 主船を露わにされたメビウスは、けれど必死でシグーの行く手を阻むべく、攻撃を休めることはなかった。







 「艦を発信させるなど・・・、この人員では無理です!!」
 ノイマン曹長の言葉も聞かず、ナタルは艦を操作していた。
 「そんなことを言っている間に、やるにはどうしたらいいかを考えろ」
 ナタルは強い調子で言い放つ。
 「・・・モルゲンレートはまだ、戦闘中なのかもしれんのだぞ?!それを、このままここに篭もって、見過ごせとでも言うのか?!」
 「連れてまいりました!」
 艦の中で生き残った者達がブリッジにやってきた。
 皆、本来ならばブリッジにいられる身分ではない。
 けれど、状況が状況だけに、ナタルは少しでも人手が欲しかった。
 「シートにつけ!コンピューターの指示通りにやればいい」
 「はいっ!」
 3人は、すぐさま席につくと、自分のすべきことをし始めた。
 「・・・・・・外には、まだザフト艦がいます・・・・・・戦闘など、出来ませんよ」
 ノイマンの言葉に、ナタルもまたため息をつく。
 「・・・わかっている。艦起動と同時に、特装砲発射準備、できるな、曹長」
 上官の指示に従い、5人は管制の操作に取り掛かった。
 「発進シークェンス、スタート。非常事態のため、プロセスCー30から、Lー21まで省略。主動力、オンライン」
 それに合わせて、アークエンジェルは起動し始める。
 管制の一人が、艦の状況を告げた。
 「出力上昇、異常なし。定格まで、あと450秒!」
 「長すぎる、ヘリオポリスとのコンジットの状況!」
 「・・・はっ、生きてます!!」
 「そこからパワーをもらえ。コンジット、オンライン!パワーをアキュブレーターに接続!」
 「接続を確認、フロー正常、定格まで20秒!」
 「生命維持装置、異常なし!」
 「CICオンライン」
 「FCS、コンタクト」
 「ジバチェンバー、および、ペレットディスペンサー、アイドリング、正常」
 「外装衝撃ダンパー、最大出力でホールド!」
 「主動力、コンタクト」
 「エンジン、異常無し」
 「アークエンジェル全システム、オンライン」
 「発進準備、完了!」
 飛び交う声にうなづくと、ナタルは全員に告げた。
 「機密隔壁閉鎖、総員、衝撃および突発的な艦体の破壊にそなえよ。前進微速、アークエンジェル、発進!」
 ナタルの声と共に、5人を乗せたアークエンジェルは発進したのだった。






ヘリオポリスの地上では、ストライクの装備を続けていた。
こうしていても、いつザフトがやってくるかわからない。早々に準備しておく必要があった。
「どれですか?パワーパックって!!」
キラの叫びに、ラミアスは言った。
「武器とパワーパックは一体になってるの!そのまま、装備して!」
「・・・まだ解除にならないのね、避難命令」
ミリアリアの言葉に、少年たちはうなづく。
LV7の避難命令はまだ解除にならず、ヘリオポリス全土に警報が鳴っていた。
「・・・親父たちも避難してんのかな」
「あーあ、早くうち帰りてぇー」
カズイの言葉もむなしく、その時上空で激しい爆音が起こった。
煙の中から現れたのは、ザフトのMS一機、そしてそれを追う地球軍のMAである。
「ほう・・・あれか」
クルーゼは上空からガンダムを見つけると、サイドパネルにズームさせた。
まだ起動していない証拠に灰色をしている。
「最後の一機か!」
そして、フラガもまたつぶやいた。
宇宙空間で、他の4機がザフトへと飛び去ったのを確認している。
クルーゼの乗るシグーは急降下し、ガンダムに銃弾の雨を浴びせた。
「うわああああっ!」
激しい風と爆音に、少年たちは頭を抱えていた。
「装備をつけて!早く!!」
クルーゼはそのままそれを追うフラガの背後へと回り込む。
ガンダムをあのまま沈めさせる為には、まずちょろちょろとうるさい蝿―フラガを叩く必要があった。
装備していたサベールを抜き放ち、振り降ろす。
「はっ・・・・・・何っ?!」
「・・・ふ」
フラガが気付いた時にはもう遅く、
メビウスの後翼は両断されてしまっていた。
「・・・今のうちに沈んでもらう!」
 クルーゼは、フラガをしとめた勢いでキラの乗るそれへと襲いかかった。
 「・・・あああああっ!」
 掛け声と共に、キラはガンダムを起動させる。
 上空からMSの銃撃を感じて、キラはガンダムの持つフェイズ・シフトを展開させた。
 クルーゼの放った弾丸が、全て弾き返される。
 その時、コロニーの内部から、激しい爆発が起こった。
 「何?」
 ふと意識が向けられたクルーゼは、その爆煙の中から一機の巨大戦艦が出てくるのを目撃した。
 ナタル達の乗る機動特装艦―アークエンジェルの登場に、誰もが皆息を飲んだのだった。









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